迷子の果てに何を見る
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第五十九話
前書き
お帰りなさいませお嬢様。
......くっ、やはり似合わんな。
by佐久間
麻帆良祭開幕
side アリス
う~ん、カオス。何なんですかここは。右を見ても人の波、左を見ても人の波、上を見るとプロペラ機が空に模様を描いています。もう一度言わせてもらいます。カオスですねぇ~。たった一月ちょっとでここまで変わるなんてやっぱり異常な都市ですね。
「今年は更に参加者が多いみたいですね」
「そういえば零樹はずっと参加しているんでしたね」
「ええ、ここで暮らしている以上は必ず参加しますね」
住んでいる場所でお祭りですから当然ですよね。
「さて、とりあえずここで別れましょうか。時間的にはぎりぎりですし」
「そうですね。とりあえず私の方が先に終わりそうですので迎えに行きますね」
「ええ、お待ちしていますよ。では」
零樹と分かれ久しぶりの校舎を歩き教室に向かいます。
「お久しぶりです」
「「「「あ~~~~、アリスちゃんだ」」」」
教室に入ると同時に準備をしていたクラスメイトの大声で迎えられる。
「本当にギリギリまで帰ってこなかったわね」
「すみません、色々と有意義な旅行だったもので」
「それは良かったわね。さて、それはさておき手伝ってもらうわよ」
「手品でしょう。一応幾つか用意しているので問題ないです」
「それで十分よ。この時間は私とあなたと茶々丸とチウちゃんが担当する事になっているから」
「じゃあ、ちょっとだけ準備しておきますね」
教室に来る前に倉庫に使っている魔道具から取り出した今回の手品に使う道具が入ったトランクを開けて中身を一つずつ確認する。
「ねえねえ、アリスちゃん。この一月程何してたの?」
朝倉さんが興味深そうに尋ねてくるのでその質問に答える。
「そうですねえ、簡単に言うと神話学者みたいな事をやっていましたね。色々な神話に出て来たと思われる場所を調査や発掘をしたり、後は観光として世界遺産を見て回りましたね。最初はそっちの方がメインだったんですけどね」
「へぇ~、それより気になる事があるんだけど」
「なんですか?」
「その左手薬指に嵌めてる指輪って」
「ご想像の通りですよ」
何気なく答えたが、先程まであった音が無くなり、いえ、リーネさん達以外の人の動きが止まる。
「つまり……」
「婚約指輪です。この麻帆良祭に両親が来るのでその時に認めてもらえばそのまま結婚指輪ですね」
「「「「ええええええええええ~~~~~~~~~~」」」」
「ふ~ん」
「いや、リーネちゃん。なんでそんな冷静なの」
「別にそれぐらいで驚いたりする必要がないからよ。連絡は貰ってたし、お父様もお母様も反対する理由が無いって言ってるし、あとは零樹がアリスの両親に認められるだけで良い訳だし、たぶん認められるでしょうしね」
「今回の旅行も婚前旅行と聞いております」
「まあ、夏休みまではまた此所に居ますよ。卒業したら零樹と二人で世界中を飛び回ると思いますけど」
道具の確認が終わったのでそれを再び元に戻す。次に服の方の仕掛けを確認する。ざっと確認して問題ない事を確認する。今の私の格好はバーテンの様な服だ。最もそれは見た目だけで手品の種も仕掛けてあるし、魔術処理もされているので防御力も十分ある。どうでもいいけど。
閑話休題
「今日は私達のマジックショーを見に来ていただきありがとうございます。私達のマジックショーは3チームに分かれて行なっています。つまり同じマジックは行なわれる事はありません。そして私達のチームと次のチームは一度行なったマジックは行ないません。一期一会の出会いをお楽しみください」
開幕の時間となりリーネさんの宣誓からマジックショーが始まります。
まずは私から。
「では一番手は私、アリス・アーデルハイトが努めさせてもらいます。これから私が行なうのはただのボールを使ったジャグリングにちょっとしたものが追加されただけの単純なものです。言わば前座にちょうど良いものですね」
そう言いながらボールを6個空中に投げジャグリングを開始する。ある程度安定した所にボールが追加されます。どこからともなく(・・・・・・・・)。
観客の皆さんも最初は気付いていませんでしたが2個、3個と増えていくと驚愕が場を支配していきます。そして、20個まで増やした後、それを全て用意しておいたシルクハットの中に回収して、それを被り一礼をする。
途端、教室に拍手の嵐が巻き起こる。前座としてはこんな物でしょう。
種はもの凄く簡単です。ただ単に物を収納している魔道具からボールを転移させて後はジャグリングをするだけの子供騙しです。シルクハットの中は倉庫へと繋がる術式を仕込んであり、それに触れる事で倉庫へと転送されます。役者である私達が待機する為に仕切られた場所に戻りシルクハットを放り投げます。
「お疲れさま」
「前座としてはこんな物でしょう」
「長瀬達のハードルが上がった気がするけどな」
「そこら辺は忍法でも使ってもらいましょう」
「まあいいや、次は私だな」
そう言って千雨さんは人形を二つ取り出す。ただし背中に穴があいていて中に手を入れれるようになっている、つまり腹話術用の人形だ。それを持って観客の前に立つ。
「続きましては私、長谷川千雨の手品をお見せします。私の手品も先程のアリスと同様に腹話術に少し追加要素があるだけの物です。まず、私の相棒の二人を紹介します。まずは彼、棗恭助」
『よろしく頼むぜ』
「もう一人の彼女、クドリャフカ=アナトリエヴナ=ストルガツカヤ、通称はクド」
『わふ~、よろしくなのです』
『それで今日はどんな事をするんだ』
「そうだな、とりあえず最初は恒例のバトルだな」
『バトルか、いいな。だが見ている人たちには分からないと思うんだが』
「だから今回はちょっとだけルールを変更するぞ。と言っても最初の武器選びが変化するだけだ。今回は観客の皆さんにくじを引いてもらってそれを武器に戦ってもらう。それと罰ゲームも変更する」
『変更ですか~?』
「ああ、ちなみに」
『こういうことになる』
千雨ちゃんの口からクドの声が出てくる。
「わふ~、なんだか混乱するのですよ~」
『ついでにもう一つずつずらすか』
「ちょっと待て、って遅かったか」
『わふ~、恭助さんが千雨さんの声で喋ってます』
『そういうクドも恭助の声で喋ってるんだぞ。じゃあ、一回元に戻すぞ」
『ふぅ~、自分の声が一番落ち着くな』
『そうですか?そうだ、今度は鈴さん達とも入れ替えて下さい』
「暇ならな。さて、くじの方も準備ができたみたいだな」
茶々丸がくじの入った箱を持って観客の方に向かう。
「恭助、クド、誰に引いてもらうんだ」
『そうだな、そこの眼鏡をかけた少年。君に任せるぞ』
『私は一番後ろに居るお姉さんに任せるです~』
指名されて人の元に茶々丸が向かいくじを引いてもらい中身を読み上げる。結果は恭助が新聞紙、クドが水糊だ。
「バトルスタートだ」
人形サイズに合わせた新聞紙と水糊が渡されると同時にバトルが開始する。
『ちょっと、待て』
『隙有りなのです』
『うおっ!!冷たいし、べたべたして気持ち悪い』
恭助が千雨ちゃんに文句を言っている隙にクドが先制して糊を背中に流し込む。
『くそ、急いで。よし、できた新聞紙ブレード』
糊を流し込まれたり塗られたりしながらも素早く新聞紙を丸めて握る。
『喰らえ、竜牙斬(longer than)』
『打ち取られたり~』
恭助の新聞紙ブレードがクドの頭に見事に炸裂しクドが降参する。それに対して観客からブーイングが起こる。
『くっ、糊まみれになった上にこの仕打ちはさすがに堪える』
「同情はしてやるけど諦めろ。罰ゲームだけど、時間の都合上無しだな」
『しかも罰ゲームすら無いのか』
『ごめんなさいです』
「ほれ、最後に歌を歌って終わるぞ」
『何を歌うんだ』
「もちろんLittle Busters!だ」
そしてアカペラで 三人・・が歌い出す。今まではただの腹話術だったが今度は一人で三つの声を同時に出すという離れ業をやってのける。これは魔法の同時詠唱を元にした技術だ。練習すれば意外と簡単にできる。歌い終わった後、私同様に恭助とクドと一緒に一礼して離れます。
「お疲れさま」
「あ~、疲れる」
「三つの声を同時に出しつつ、その内の二つを変声させれば疲れるのは当たり前ですよ」
「あんまりネタが少ないんだから仕方ないだろう。それよりリーネは何をするんだ」
「見ていれば分かるわ。茶々丸、あれを」
「はい、マスター」
リーネさんの指示で茶々丸さんが大きなトランクを4つ運んできます。
「さて、次は私、リーネ・M・テンリュウのちょっとした魔法をお見せしましょう。その準備の為にそこのカップルの方、手伝ってもらえますか」
指名されたカップルがトランクを開けるとそこにはバラバラになった等身大の人形が入っていた。それを一つずつしっかりと組み上げて茶々丸さんが服と帽子を被せてステッキを持たせ椅子に座らせます。
「まず始めに、私はある業界において二つ名を持っています。その名は『二代目 人形使いドールマスター』その名が示す通りの魔法をご覧に入れましょう。It's Show Time」
その言葉と同時に人形が椅子から立ち上がり伸びをする。それから観客が目の前にいるのに気付いたのか帽子を取り優雅に一礼をする。その間リーネさんは指を軽く動かしているだけ。ちゃんと人形を操っているように。
「茶々丸」
「はい」
茶々丸さんが縄跳びを人形に渡し、椅子を退ける。
「最近、太っているみたいだからそれでダイエットでもしなさい」
そう言われて落ち込みながらも素直に縄跳びを始める。始めはゆっくりと普通に、やがて片足で跳んだり、二重跳びを始め、最終的には頭で跳んでいる。何故頭で?
動きが派手になる分リーネさんの指の動きが激しくなっていく。実はこれ、演技です。実際の所は指一本で操っています。魔力糸を一本の指から伸ばして纏わせ、それを媒介に人形を操っています。もちろん魔力だけなので実体を持たせていないので縄跳びに引っかかる事もありません。縄跳びが終わると次はアコーディオンを持たされ、踊りながら演奏を開始します。正直に言うと、これが本当に人形なのか疑問に思ってしまう程人間臭く動きます。そして、足を滑らせて手足がバラバラになります。
「はぁ~、何やってるの。早く元に戻りなさい」
怒られて慌てて元に戻ろうとして、足と手が逆に付いてしまい変な格好になる。
「おばかさぁん」
そう言いながらも態々自分で付け直したりする所をみるとやっぱり面倒見が良いと思う。そこら辺はエヴァさんそっくりだ。手足が元に戻り心配をかけたお詫びとして人形が帽子から花を取り出し観客の一人ずつに配っていく。無駄に芸が細かいですね。最後に一礼をすると人形はトランクに入っていた時のようにバラバラになってしまう。それの服を脱がせ、パーツを一つずつ丁寧に拾い上げトランクに戻し封をする。まるで母が子を慈しむような姿にこの場に居る全員が見とれる。
「ゆっくり休みなさい。茶々丸」
トランクを茶々丸さんに下げさせる。その後もいくつかちゃんとした手品を、いくつかを魔法を使ってインチキをしながら2時間を過ごします。
「これにて私達のチームのマジックショーは閉幕となります。次のチームの開幕はお昼からとなります。それでは引き続き麻帆良祭をお楽しみください」
優雅に一礼をして、マジックショーの第一部が終了しました。終わると同時に私は窓から外に飛び降ります。零樹にマジックショーが終わると観客の方に詰め寄られたりして時間がかかると聞いていたので1秒でも早く零樹に会いたい私はあらかじめ決めていた集合場所である世界樹前広場に走り出します。
side out
side 零樹
「お帰りなさいませ、お嬢様」
入り口まで新しいお嬢様を迎えに行き笑顔で出迎える。席まで案内し、椅子を引く。
「本日のデザートは苺のミルフィーユにガトーショコラ、それからチェリーパイがございますがどれにいたしましょう」
「え、えっと、その」
「おすすめはチェリーパイとなっております」
「じゃあそれで」
「かしこまりました」
いきなりの事で困惑しているお嬢様をさりげなく誘導しバックヤードに向かいパイと紅茶をキャスターに乗せ、お嬢様の元に戻る。
「お待たせいたしました。本日のデザートとそれに一番合うハーブティーになります」
パイとフォークをテーブルに置き、ティーポットからカップにハーブティーを入れソーサーに乗せてお嬢様に出す。
「では御用があれば、お手元のベルをお鳴らしください」
バックヤードに引き上げ在庫の確認をする。それを確認してから携帯を取り出しレイフォンに連絡を取る。
「ミルフィーユの在庫が切れそうだ。最初と同じ数だけ持って来てくれ。それから思ったよりもミルクの消耗が激しいからそっちも頼む」
それが終わり次第、新しい湯をわかし始める。バックヤードで出来る事は湯を沸かす位しかないので飲み物は此所で、ケーキ等は臨時で借りた倉庫に調理器具を持ち込み作っている。服は何人かの有志が作った。それにしてもこの燕尾服、異常に動きやすい。このまま戦闘も出来そうな位だ。
チリ~ン
おっと、この音は3番テーブルのお嬢様か。すぐにお嬢様の元に向かう。
「どうかなされましたか」
「お茶のお代わりを」
「かしこまりました」
再びバックヤードに戻り沸かしていた湯をティーポットに注ぎ懐中時計を確認する。ふむ、7番テーブルのお嬢様のお時間か。お茶の方の時間を考えると丁度良いな。7番テーブルに向かいお嬢様に声をかける。
「お嬢様、そろそろお出かけの時間になります」
手を差し出すもそれが何なのかが分かっていないようだ。
「お手を拝借」
それで分かったのか僕の手を取ったので椅子から立ち上がらせる。そして、入り口まで誘導して扉を開く。
「いってらっしゃいませ、お嬢様」
お嬢様を送り出した後、すぐに先程の席の後片付けをする。カップや皿をキャスターに乗せクロスを新品に取り替え、椅子を定位置に戻す。バックヤードに戻り時計を確認するとちょうど良い時間になったので3番テーブルに向かう。
「お代わりをお持ちいたしました」
「ありがとう」
ちなみに3番テーブルのお嬢様は慣れている。というより生粋のお嬢様だ。一度だけ彼女の父親に影から護衛する依頼を受けた事がある。
それはともかくお気づきだろうか。実はこの教室内、僕一人しか居ないのだ。教室の外には料金を受け取るクラスメイトはいるし、急遽調理室にした倉庫にもレイフォン含め、数人が待機はしているが執事は僕一人なのだ。これが麻帆良祭中の担当をこの時間だけにする条件だったのだ。実際なら三、四人配置し、1人で二~三人を担当するのだが現在は僕一人で八人を相手にしている。正確には席数だが、基本は女性一人だから間違いではないだろう。
この執事喫茶のシステムは一定時間を一定料金を取る事で収入としている。お茶やケーキ等は一定料金内に含まれている。ちなみに30分2000円で廻している。これで利益は殆ど出ない。なぜならお茶やケーキの材料の全てを高級品で揃えているからだ。父さんの知り合いから割安で仕入れているからこそなんとか黒字を維持している。
まあ、そんな感じで朝から一人で執事喫茶を廻している。午前中一杯はここにいることが確定しているが、朝一から満員状態が常に続いている。それでも行列ができるという事はない。時間は決まっているので予約の様な状態だからだ。
それから程なくして交代の人員がやってくる。
「お疲れ様です。では、後は私達が引き継ぎます」
目の前に居るのは誰だ?
いや、誰なのかは分かる。分かるんだが何だその喋り方と笑顔は。
「ええ、では後は任せますよ鋭太郎」
「はい」
「……」
「…………」
「………………」
「……………………」
「ちょっと、こっちに来てくれるかな」
バックヤードに鋭太郎を連れて行き一言
「ないわ~」
「言うな、自分でもそう思ってるから」
「まあいい、それじゃあ後はそこら辺に張ってあるメモを見ながら頑張ってくれ」
開店する前から茶葉の箱等にどういう風にすれば良いのかというメモを書いて張っておいたのでこれでデート中に呼び出される事もないだろう。
「それからこの燕尾服、借りてくぞ」
「それでデートに行くのか?」
「たまには良いだろう」
「そのまま持って帰っても構わんさ。お前の分だけは戦闘でも使えるように魔術処理を施してある」
「つまり、宣伝して来いと言うのか」
本日から明日にかけて行なわれる武道大会という名の戦争の事はある一定以上の戦闘力がある者には父さんから招待状が送られている。もちろん鋭太郎にも招待状は送られているが学園側に目をつけられたくないからでないそうだ。レイフォンは賞金に釣られて参加を表明している。賞金は本戦トーナメントで1勝した時点で100万円、そこからは倍々で増えていき優勝者には5000万円が出る事になっている。
「まあ、そう言うわけだ」
「分かったよ。それじゃあ任せるぞ」
バックヤードにある窓から飛び降りる。それからあらかじめ決めておいた集合場所である世界樹前広場に向かう。
広場には多くの人が集まっており、時折微かな銃声と悲鳴が聞こえるので龍宮さんが銃撃しているのだろう。そんなことよりアリスはどこに、あん?
「だから言っているでしょう。あなた達に興味なんて一切ありません。とっとと消えて下さい」
「ちっ、優しくしててててててて」
アリスをナンパしている屑の腕を捻り上げる。
「お待たせしてすみません」
「できればもう少し早く来て欲しかったですね」
「申し訳ないです。次回からは更に努力させてもらいます」
「くそが、離しやが「そおれっと」へっ、ぐは」
ちょうど龍宮さんが告白しようとしている生徒を狙撃しようとしていたので射線上に投げ飛ばす。見事に命中し失神しているのを確認したら放置する。
「さて、行きましょうか」
「そうですね。ですが、その服装は」
「宣伝するようにも言われているので大会にもこれで参加する事になりました。なんなら執事らしく振る舞いましょうか?」
「止めて下さい。私は零樹の隣に居たいんですから」
そう言ってアリスが腕を絡めてくる。
「分かったよ。それじゃあ、まずは食事から行きましょう」
「はい」
そのまま二人で麻帆良祭を楽しんだ。
そして、夕暮れ。我こそは最強という猛者達が裏の世界も揃って集合する。
さあ、始めようか。
side out
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