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炎髪灼眼の討ち手と錬鉄の魔術師

作者:BLADE
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”狩人”フリアグネ編
  断章 「激動の朝」

 窓から射し込む朝陽と怒り狂ったシャナが飛ばす怒声と剣閃の中、俺は非情な現実に嘆くしかなかった。
 前の世界でもそうだったが、どうも聖杯戦争後から俺のLUCKはかなり低くなっているらしい。
 思えば、昨晩の時点からこんな運命にあったのかもしれない。
 雷のような剣閃を防ぎながら、俺は昨晩から続く不幸を嘆く。



 ~~~~~~



「……なんでこうなってんのよ」
「俺に訊くな」
「我にも分からん」
 千草さんに発見されたシャナと俺は、なす事もなしに食卓についていた。
 彼女の表情とは裏腹に異様な押しの強さに、シャナは怯み、流れで食卓に座らされて今に至る。
 悪いけど、俺だって千草さんと出会って二日しか経ってないんだ。まともに会話もしてないしな。
 因みに敬語を使うのに違和感を感じたので、敬語は使っていない。この辺りは、坂井悠二の情報が残っているためだろう。
「士郎君が、家にガールフレンドをつれてくるなんて初めてだわ」
 シャナを連行した後、そう告げた彼女は今、台所で料理を作っている。何か手伝う、と言ったが笑顔で追い返されてしまった。
 俺としてはこっちにいる方が気まずいのだが、ああ言われては仕方がないので、食卓で暇をもて余してる。
 そんなとき、俺の対面に座るシャナは、伏目がちに睨んできた。
「お前の保護者って一体どうなってるの? なんで庭の茂みで座り込んでいた、面識もないクラスメートを夕食に招待するのかしら」
 シャナは必死に抗議しているようだが、いまいち調子がでないようだ。日が暮れたら帰るつもりだったところを呼び止められた形だからな。さっさと帰りたいんだろう。
 だが、夕飯をご馳走される位なら良いんじゃないだろうか? それとも、そんなに俺といるのが嫌か?
 まぁ、不可抗力とはいえ着替えを覗いてしまっているし、嫌われてしまうのも道理だが。少々、悲しいよな。やっぱり。
 とまぁ、そんなことは例によって言えないから、当たり障りなく返事をする。
「……俺だって分からない。悪い人じゃないとは思うけど、なんであんな解釈になってるんだろうな」
 千草に聴こえないよう、声を潜めてシャナに言う。
「昨夜の事といい―――、貴様、実はそういう趣味を持っているのではなかろうな?」
「なっ―――、んな訳あるかバカ!」
 まさかアラストールにも、遠坂の幻聴が聞こえてたのか? 認めたといっても、ほんの少しだけだ!
 どちらかと言うと、そんな趣味が無いつもりなんだからな!
 真剣に懸念してくるアラストールに、内心でヒヤヒヤしながら返す。
 すると千草さんからお呼びがかかった。
「士郎君、ちょっとこれを運んでくれない?」
「あぁ、すぐに行くよ」
 ナイスタイミング!! まさしく、救いの手だよ。
 アラストールに妙な疑いをこれ以上掛けられたくないので、逃げるように立ち上る。
「これ、三人分の量にしては多い気がするんだけど」
 明らかに作り過ぎだ。既に大量に用意されている夕飯だが、千草はさらにオムライスを作っている。
「良いじゃない、秘密の隠し味が入ってて美味しいわよ。それに、平井さんにはウチに良い印象を持ってもらわないと、士郎君も困るでしょ?」
 む、隠し味には興味があるな。基本、和食担当の俺としては洋食の極意なんてもんは分からない。桜が和食も出来るようになってしまってからは、無理にレパートリーを増やさず、出来るものをより美味しくがモットーだったしな。
 まぁ、実を言うと衛宮家料理担当のプライドもあって、桜から指南は受けれなかっただけだが。
 ついでに言うなら、一度、プライドを捨てて、遠坂に中華を教えて貰おうとしたことがある。そのときは、何故か桜が、先輩に料理を教えるのは私です、ってな感じで猛反対。
 士郎と一番付き合いの長いお姉ちゃんが教えるぞー、っという具合に藤ねえはどんぶり鉢を突き出してくるし。因みに、どんぶり鉢の中は世にも恐ろしいお好み焼き丼である。こいつは桜と一緒に、俺も反対。
 最後は、なんとしても俺に中華を教えようと何故か躍起になった遠坂も交えて、ちょっとしたバトルが繰り広げられた。
 結局、俺の料理教室はうやむやになって流れてしまった。角が立ちまくるから、休戦協定が結ばれたとか、結ばれてないとか。
 という訳で、アレ以来なかなかレパートリーは増えていない。食事中の会話の種として、隠し味について聞いてみるのもいいだろう。
 ということで、運ばない訳にもいかず、それ以上は料理の量について触れないことにした。
「困るって何にだよ」
 なんだか、あらぬ疑いをかけられていることに溜め息をつきつつ、千草さんの側に行く。
「またまた~。ふふ、貫太郎さんとの事を思い出すわねぇ」
 そう言って、これまた、やけにでかいオムライスの大皿を千草さんは渡してくる。
 ふと、坂井悠二に、あきらめろ、と言われた気がした。
「……なんでさ」
 虚しい抗議をしながら、俺は皿を食卓に運搬する作業に従事した。



  ◇



 夕食の後、俺のガールフレンド………ということになっているらしい、シャナに迫る千草さんを引き剥がすのに苦労させられた。
 千草さんにシャナを送るよう指示されたが、彼女は何故か一人で先に行ってしまい、仕方がないので、とりあえず送った素振りで家に帰る事にした。
 ―――なんで先に行ったんだろな?
 その後、部屋の窓の鍵を開けてシャナを待っていたが、なかなか屋根の上から現れないので、俺は魔術の鍛練を始めていた。
 今日は来ないんじゃないか、と考えたからだ。
 やはり、昨日の出来事が原因だろう。いくら協力関係であるとはいえ、会って二日しか経っていない相手……、しかも男に裸身を晒したんだ。
 よく殺されずに済んだと思うよ。
 それでも、徒の朝の襲撃に備えて深夜にシャナが来る可能性はあるだろうから、窓は開けたままにしておいてある。
 ベッドでも寝ないことにした。というより、ベッドより床で寝る方が落ち着くしな。
 やっぱり日本人は布団だろ布団。
「まぁ、布団じゃないんだけどな……」
 来るとすれば、深夜だろうから、シャナはベッドで仮眠を取るだろう。となると、ベッドから布団は外せない。
 昨日も使用したタオルケットを引っ張り出して、俺はベッドの隣に寝転んだ。
「そう言えばシャナって、今まで寝泊まりはどうしてたんだろうな?」
 決まった場所に定住はしてなさそうだけど、今までどんな生活してきたんだろう。
 俺としては食生活が気になる所だ。
 確か、昨日も今日も昼は菓子類ばかりだったよな。
 あの調子だと朝は多分食べてない、夜も駄菓子で済ましているだろう。
 今日はまともな夕飯だったが、それは千草さんの招待があったからだ。
 夜食とか言ってスーパーで買ったのも駄菓子だけだったし。
 いや、メロンパンもだな。
 彼女のメロンパンへの情熱は並々ならぬ物がある。
 噂に聞くカレー好きの代行者の、カレーへの執着とやらに匹敵してるんじゃないだろうか?

 ―――会ったことないけどさ。

 とにかくだ、あの感じだと絶対に自炊なんてしてないだろう。
 と言うか想像出来ない。
 料理と言うものの存在を知っているかも怪しいな。
 きっと彼女を育て上げてくれた人は、料理なんてしなかったんじゃないか?
 実務的なシャナの言動は、きっと家族が影響してるんだろうし。
「シャナの家族か………」
 シャナにだって家族は居る筈だ。生まれた時から一人なんて事はないだろう。
 だけど、シャナに名前すら付けてないような家族だ。
 もしかすると番号で呼称し合っていたりしてな………。
 フレイムヘイズ第〇号、みたいな感じで。
 そんな家族だったら、食事はエネルギーの補給と認識してそうだ。

 俺の中でシャナの家族の想像が膨らむ。

 だがそれは世間一般で言う『平和な両親』ではなく、俗に言う『鬼教官』とか『鬼軍曹』とかそんな類いのものだった。
 食事も軍用レーションとか、良くてもレトルト製品だったりして………。
 いや、きっとそうだ。間違いない。
 彼女の劣悪な食生活は、きっと過酷な訓練生活の性だったんだろう。糖分が不足してるんだ。精神的な意味で。

「決めた。今度、飯でも作ってやろう」
 後、アラストールに俺の推理が正しいか聞かないとな。


 ………それから俺は、どんな料理を作ろうか考えながら眠りに着いた。


 さて、シャナが来たときに備えていたのになんでベッドの『隣』で寝たんだ、あの時の俺は。
 ベッドの向かいの壁側に寝ていれば、こんな事にはならなかった筈だったんだから………。



 ~~~~~~



 さて、話を戻そうか。
 結論だけ言おう、シャナは来た。
 俺が寝てから部屋に入ってきて、誰も寝ていないベッドに潜り込んだようだ。
 どうやら、ベッドは空けておいて正解だったらしい。
 ただ、その姿に問題がある。


 ―――下着姿です。


 「寝ぼけてんのかな、俺は」
 眼を擦ってもう一度見る。
 うん、誰がどう見ても下着姿だ。
 あっれー、おかしいなー。寝間着にはジャージを使え、って言ったよな、俺?
 もしかしてアレか? 昨日のアレはフェイクで、本当は見せたかったと。
「なに考えてんだ、俺は」
 とりあえず、シャナを起こそう。
 なに、俺はシャナに遠慮してベッドでは寝てないんだぜ。それにわざわざ注意をしてやるために起こすんだ。感謝はされても、怒られる事はあるまいよ。
 俺は左手に『タオルケット』を掴みながら、シャナの肩を右手で揺する。
「シャナ、朝だぞ。裸を見られたら半殺しにするくせに、下着姿は平気なのか?」
 冗談も交えてシャナを起こす。なんだ、意外と余裕じゃん、俺。
 うんうん、この後の展開は読めるぞ。

 ※この妄想はフィクションです。実在の人物とは多少なりとも誤差が出てると思うぞ。

「ん~、おはよ~」
 シャナは眠たげに目を擦りながら目を覚ます。その姿はさながら小動物のようであり、見ていてとても癒されるものだった。
「おはよ。とりあえず何か着たらどうだ?」
 とりあえず、目下のところ問題ありありの服装を指摘する。そう俺が言うとシャナは自身の体に視線を落とす。今、彼女の目には下着しか身に付けていない自分が写っているのだろう。だが、人間の寝起きというものは案外と思考力が低下しているものだ。その点はシャナも例外でなく、しばらく呆然と自分の姿を見ていた。
 するとシャナは頬を紅く染める。
 羞恥のあまり紅くなると予想はしていたが、少し様子が違うようだ。
 その、なんと言うか……。見ていてドキドキしてくるな。
「お前………、昨日は役に立ったし。私の…裸が見たかったんでしょ?」
 なんか色々と誤解が混ざっているが、俺は何をすれば良いのか分からず、ただ立っているしか出来なかった。
 そんな俺を他所に、シャナは下着の肩紐を下ろす。
「特別に……、今日だけなんだからね」
 そう言って、ベッドの上でシャナは俺を招き入れてきた。
 据え膳食わぬはなんとやら。女の子にあそこまでさせて、傍観は失礼にあたる。
 シャナの外見上、背徳感がない訳はない。だが、そんな事はくそ食らえだ。
「シャナァァァァ!!」
 俺は彼女に名付けた名を叫びながら、ベッドに飛び込む。
 そして、俺達は…………。




 ―――ッ!
 危ない所だった……。あのままじゃ、妄想に呑まれてたぞ……。
 何はともあれ、手強い朝になりそうじゃないか。
 誓って言うが、俺はロリコンじゃない………と信じたい。

 まぁ、そんなイベントが起きる事はないだろう。
 と言うか起きたら逆に怖い。そんなキャラじゃないだろ、アイツ。
 モゾモゾと動き出すシャナを見ながら俺は思った。
「ん~、おはよ~」
 シャナは眠たげに目を擦りながら目を覚ます。その姿はさながら小動物のようであり、見ていてとても癒されるものだった。まさに、俺の妄想の如く……。

 ありゃ? いやいや、まさかな………。
「おはよ、とりあえず何か着たらどうだ?」
 とりあえず、目下のところ問題ありありの服装を指摘する。そう俺が言うとシャナは自身の体に視線を落とす。今、彼女の目には下着しか身に付けていない自分が写っているのだろう。だが、人間の寝起きというものは案外と思考力が低下しているものだ。その点はシャナも例外でなく、しばらく呆然と自分の姿を見ていた。
 ―――この展開は!?
 まさしく、俺の妄想通りじゃないか。本当に朝からこんなイベントがあるなんて!
 自分をも騙しうるイメージ力、それが投影魔術に必要なものだ。俺も伊達に、投影使いなんてやってないってことか。

 クソッ! 心の準備が出来てないじゃないぜ!!
 するとシャナは顔を染めた。………怒り一色で。
「お前は一体……、何を持っているのかしら?」
「待ってくれよシャナ。俺にも心の準備が……って、え? 何って、見れば分かるだろ?」
 タオルケットだよ、タオルケット。と言わんばかりに俺は左手に持っているものをシャナに見せる。
「どう見てもタオルケット……って、ナンデスカコレハ?」
 それはタオルケットよりも小さな布で、筒状の形をしていた。
 ついでに言うと、御崎高校女子指定制服であり、目の前で怒りのあまりプルプルと震えているシャナが身に付けていたものである。
 つまりは………スカートです、ハイ。
 ナルホド~、脱いでそのまま寝たのか~。道理で下着姿な訳ですよ。
 俺はゆっくりと丁寧にそれを畳んで床に置いた。たまにセイバーやイリヤ、ある時は遠坂の洗濯物を畳まさせられた俺に死角などない。
 誓って言うが、女性陣の下着を畳みたかった訳じゃないからな。というか、普通は畳ませないだろ。
「ふぅ……。今日も一日、良い日になれば良いなシャナ」
 そして、俺に出来る最大級の爽やかな顔でシャナに笑いかけた。

「「…………………」」
 二人の間に数瞬の沈黙が流れた。
 なんとも言えない空気だよ、全く。
 先に動いたのはシャナだった。シャナはいつの間にか出したコートより贄殿遮那を取りだし、構える。
「―――コロスッ!!」
 上段より降り下ろされる刃はまさに『死』その物を連想させる。

 ――――死ぬ。

 このままでは殺される。

 だが、長年の戦闘により培われた俺の戦闘技能は、脳で考えるよりも先に脊髄反射で体を後ろにステップさせた。
 シャナの足場はベッドの上という不安定な場だったため、速度を鈍らせた剣閃を俺は鼻先を掠めかけたが回避に成功する。
「待て、落ち着けシャナ! 俺にも状況が分からないんだ!」
 ステップの勢いでそのまま後退し、横薙ぎに振るわれる太刀を回避。成る程、あの長い刀身が体格に恵まれないシャナのリーチをカバーしてるのか。
 彼女の戦闘は何度か見ているが、実際に自分に刃を向けられないと分からないこともある。
 だが密室内で、よくもこう思いきった太刀捌きが出来るもんだよ。
 普通なら障害物に接触してしまいかねない状況だと、大太刀は振るい辛い。
 現に、今も贄殿遮那の剣閃は部屋の至るところに接触している。
 普通は躊躇するもんなんだけどな。

 ――――我に触れる物は全て断ち斬る。

 俺は大太刀にそう言われた気がした。無論、気のせいだろうけどな。
「白々しいわね、お前は黙って死ねば良いのよ!」
 横薙ぎの勢いでベッドから降りたシャナは、再び大太刀を上段に構え、物騒なことを口走る。
「俺だって何がなんなのか分からないんだ。まだ死ぬ訳にはいかない」
 そう言いながら一歩ずつ退くが、後退した先は壁だった。当たり前だろう。部屋の中なんだから、壁があって当然だ。
 つまり、逃げ場はもう無いという事である。
「言い訳なんて聞きたくないわ。お前はここで死ぬの……」
 眼からハイライト消えてるよ! お前そんなキャラじゃないだろ!?
 こうなったら徹底抗戦だ。なんせ、なんの考えもなくここまで退いた訳じゃないからな。
「死なない。シャナに殺される訳にはいかないし、俺を殺させるつもりもないからな」
 相手が丸腰なら、初撃を避けたときに、窓を破って脱出している。
 だが、贄殿遮那で武装している状況なら話は別だ。
 一見すると、俺は追い詰められた状況に見えるだろうが、実は一目散に窓から逃げるより安全な状況だったりする。
「そう………、なら殺してあげる」
 そう告げると、シャナはそのまま刀を降り下ろした。足場も万全。まさしく、神速の剣閃だ。当然、回避は難しい。
 だが、ここまで後退した理由は背後からの奇襲はないから。逃げるとなると必然的に敵に背中を晒してしまうからだからだ。
 そして、それだけじゃない。
「もう一度言うぞ。俺の話を聞―――」
 ―――ここには戦うための武器が用意されている。

 俺はここに、先日投影しておいた五対の夫婦剣を隠しておいた。
「―――けッ!」
 武器を持たずに武装した相手と戦闘するなんて愚の骨頂。ましてや、相手は相当の戦闘技能を有している。
 丸腰で戦えるほど、俺は強くないんだ。
 五対の内で『最も投影工程を省略していない』夫婦剣を掴み取り、上段からの攻撃を受け止める。
 鋭く、そしてとても重い一撃だが脚のバネも含めて、全身を使えば受け止めれないことはない。
 ―――思った通り、サーヴァントと同等の破壊力がある。
 味方としてとても頼もしい、そして現状況で最悪の戦闘力だよ、シャナ。
「え………、嘘でしょ………?」
 シャナの口から驚愕の声が漏れる。
 足場も完全で、全く鈍りのない剣閃を防がれたからだろうか? それとも干将・莫耶に対する驚愕か?
 いや、今はどうでも良い。
 とにかく、これで形勢は逆転した。
 大太刀による一刀流のシャナと夫婦剣による二刀流の俺。その戦闘方法はほとんど対極に位置していると言って良い。
 敵よりも遠くの間合いから相手を一刀の下に切り捨てる戦い方のシャナ。
 敵の攻撃を防ぎながら接近し、手数で勝負する俺。
 これが周りに何もない平地だと、射程に乏しい俺がジリ貧だが、狭い室内だと立場が逆になる。
 その大きさ故に思うように振るう事が出来ない太刀と比べ、コンパクトな夫婦剣は平地と変わらない戦いが出来る。相手の射程の内側―――、即ち懐に飛び込む事が容易な分、この状況は俺に有利と言えよう。
「シャナ。落ち着いて、まずは状況の確認をしないか?」
 改めてシャナに問う。シャナにだってこの状況は分かる筈だ。
 だが、シャナは無言で双剣に受け止められた太刀を引いて後ろに下がり、踏み込みながら横に薙いでくる。
 ――――やり合いたくはなかったんだけどな。
 左から迫る太刀を干将で防ぎ、右の莫耶をシャナの首筋に叩き込む……、気はないので、ちゃんと寸止めをする。
 一度俺の顔を見た後、舌打ちをしたシャナは後ろにステップして、刺突を放つ。
 今度は左の莫耶で贄殿遮那の刀身を滑らせるように受け流し、干将で再び首筋に寸止め。
 あ~あ、贄殿遮那が壁に刺さっちゃったじゃないか。
 だけど、これでシャナは次の攻撃動作の前に、刀を引き抜くという予備動作が必要になった。
 二度も寸止めをしていて言う事じゃないが、これが実戦なら、俺はシャナが刀を引き抜く前に息の根を止められる。
「それで勝ったつもり?」
「勝ったも負けたもない。俺は話し合いたいだけだ」
 不幸な誤解が招いた悲劇だからな、これは。話し合えばきっと解決出来る。
 するとシャナは不敵に笑った。
「さっきも言ったわよね。言い訳は聞きたくないって。それに贄殿遮那が使えなくても戦い方はあるのよ!」
 そう言い終えた途端、シャナが視界から消えた。
「何をするつも―――、ガッ!?」
 いや、消えた訳じゃない。
 シャナは贄殿遮那を壁から引き抜くことなく手を離し、体勢を低くして、俺のみぞおちを目掛け拳を打ってきた。
 ―――ヤバッ、なんて威力だよ!?
 フレイムヘイズ故のパワーか、その拳は俺の呼吸を一瞬止める程の威力だった。
 思わず夫婦剣を取り落としそうになるが、奥歯を噛み締め耐える。だが、衝撃でくの字に曲がった俺は、胸ぐらを掴まれそのまま背負い投げられた。
「―――ッ!」
 受け身も取れず背中から叩き付けられ、再び息を止められる。手元から力が抜けるが、綺麗に投げられた為、夫婦剣は依然手元にある。
 成る程………、やるなシャナ。
 今の背負い投げは攻撃じゃなくて、位置の入れ替えが目的か。
 これで俺は贄殿遮那から離され、シャナは大太刀を回収できる。しかも、俺は体勢を崩され起き上がるまで完全に無防備。
 寝そべる俺に大太刀を降り下ろすだけで、シャナは俺を殺せる。あの劣勢を一瞬で覆してきたか。
 無論、油断をしていなかった訳じゃない。俺はシャナと話し合いたかっただけで、戦闘力を奪おうとしなかったからな。とはいえ、こうまで簡単にやられるとは。
 ―――だが、まだ死ぬわけにはいかないな。
「―――シネ」
 もう、お前誰だよと聞きたくなる位、キャラの崩壊したシャナ。壁から引き抜いた贄殿遮那を上段に構え、真っ直ぐに俺を見据えてきている。
 ―――この際多少の損害はやむを得ないか。
 夫婦剣の残り四対が隠された場所に、一緒に入れておいた投影品のナイフを爆破する。
 『壊れた幻想』――、ようは投影品の爆破なんだが、夫婦剣を爆破すれば壁が吹き飛ぶかもしれないからな。宝具でない日用品、それも工程を大幅に省略した粗悪品なら壁は大丈夫だろう。夫婦剣を爆破できない事態に備えて、こいつも仕込んどいて正解だったな。
「なっ、なんなの!?」
 突然の爆発に狼狽えるシャナ。当然だろう、小規模とはいえ、爆発は爆発だからな。
 この機に乗じて、脚力を強化する。
「同調開始」
 強化はタイムラグなしで行使可能なのが助かった。魔力消費量が増えてるとはいえな。
 寝そべった姿勢から起き上がると同時に、強化された脚力を使って前方に跳ぶ。シャナと交替した位置関係上、俺の正面には窓があるからな。
 窓に飛び付くと同時に、窓ガラスを開け放つ。シャナのために鍵を開けておいた上に、シャナも鍵まではかけなかったみたいだから、手間取らずに済んで良かったよ。
 そのまま屋根の上までジャンプ。強化された脚力なら造作もないことだ。

 屋根の中央に立って窓側の屋根の端を見据える。
 シャナは当然、追撃してくるはずだ。こっちは夫婦剣で、あっちは大太刀だから、リーチで完全に負けている。接近戦は、とどのつまり得物のリーチが長い方が勝つんだから、圧倒的に俺が不利だ。
 こうなったら、ひたすらに耐えるしかない。
 屋根の下から爆発音。俺はあのナイフ以降、なにも投影品を爆破してないから、必然的にあの爆発はシャナのものということになる。俺の耳がそれを知覚したのとほぼ同時に、空中にさながらロケットの如く飛び上がるシャナの姿が目に入った。
 強化せずとも、他人よりは視力が良いと俺は思ってはいるが、それでも空中にいるシャナを捉えるのに若干の時間を要した。
「上からか―――!」
 シャナよりも高い位置を陣取っているという油断からか、一瞬、反応が遅れる。先の俺のように屋根に飛び乗って来るだろうと予想していたのだが、まさか俺より高い位置から奇襲をしてくるとは思っていなかったからな。
 今さら避けようとしても無駄だ。こうなっては真っ向から受けて立つしかない。
 何より、シャナの攻撃を回避することによって、坂井家に与える被害は想像もつかないしな。
「くたばれぇぇ!」
 依然としてキャラ崩壊しているシャナが、これ以上ないくらい恐ろしい形相で贄殿遮那を振り落としてくる。
 神速の剣閃が、落下の慣性を加えて殆ど知覚不能な速度と化していた。
 ―――防げるのか、俺に。
 いや、防げるかじゃない。防ぐんだ。じゃなけりゃ、俺が死ぬ。
 夫婦剣を交差して構える。と同時に贄殿遮那が振り落とされた。
 相変わらず鋭く、そしてとんでもなく重い一撃が、腕から俺の全身に伝わる。
 ―――っ、魔力放出で筋力の不足を補ったセイバー並みの破壊力だな。
 腕だけでなく、脚も含めた全身でその一撃を受け止める。足下が屋根
に、ミシミシとめり込んでいくが、今は構ってられない。後で補強しておくから勘弁して欲しい。
 衝撃を緩和しながら、ゆっくりと膝を落とす。端から見れば、圧されている様に見えるだろうが、そんなことはない。
 そのまま一気に立ち上がるのと同時に、交差していた夫婦剣を振り抜く。
 脚の筋力は、腕の比じゃないからな。こうしてやれば、腕力の不足を補える。
 俺に弾き飛ばされたシャナは、そのまま空中で1回転して、屋根に着地した。
 弾き飛ばしたとはいえ、油断は出来ない。なにせ相手はあのシャナだからな。
 着地と同時に突撃してくると警戒して、夫婦剣を構えていたが、取り越し苦労で助かった。
 とにかく、状況は俺にとって最悪といえる。とは言え、こっちに移動してからの初動は奪われたが、ペースまで握られる訳にはいかないんだ。
 こうなりゃ、強引にでも肉薄して近接戦を仕掛けるしかない。なに、相手は大太刀一本しかないんだ。懐に飛び込んでしまえば、小回りの利く俺が手数で圧倒できる。
「―――今度はこっちの番だ」
 一息でシャナに接近。干将を右下から逆袈裟に斬り上げる。
 当然、防がれる。が、そんなこと構うものか。
今度は莫耶を上から打ち下ろそうとして――。
「良い気になってるんじゃないわよっ!」
 シャナに贄殿遮那でつばぜり合っている干将ごと俺を押し飛ばされる。
 押し飛ばされ、たたらを踏む俺を目掛けて突進してくるシャナ。上段から振り降ろされる太刀を、タイミングを合わせて打ち返す。
 今度は横薙ぎ。大丈夫だ、防げる。
 剣術の師が優秀だったんだ。セイバーの為にも、ここで負けられないよな―――。


 暴風の如く、振り回される贄殿遮那を確実に1つ1つ確実に防ぐ。もう、何合斬り結んでいるのか分からない。
 結局、偉そうに『こっちの番だ』なんて言っておきながら、俺から仕掛けたのは最初の一撃のみ。
 情けない事この上無いが、ただ防戦一方だった訳でもない。こうして剣を交わすことで分かることもあるからな。
 師が優秀だったのか、シャナの剣術は非の打ち所のない程、完成された物だった。その全てが実戦的で、それこそ油断すればこっちが殺される程の物だ。
 シャナらしいと言えばシャナらしいのだが、真正面から叩き潰すスタイルの太刀筋は、まさしく強者のそれだ。大胆かつ繊細で一部の隙もない。
 剣術なんてものは、突き詰めれば如何に敵を殺すか。この一点に集約している。あの堂々たる剣筋は、セイバーのそれと同じ類いの物だ。
 そんな剣術を相手に俺が敵う筈がない。なにせ俺には剣の才がないからな。正面からぶつかって勝てる筈はなかろうよ。
 つまり、この攻防の果てに俺の勝利はない。残念だが、三手後に俺が生きているかどうかすら、俺には分からないからな。この一手を防ぎきり、二手目に備え、三手目は……死に物狂いだ。運にも左右されるが、ただ耐え凌ぐしかない。
 三手目を防げば、また振り出しだ。じり貧どころか、やられるのは時間の問題。タイトロープにすらなってない。
 とは言え、大人しく斬られる訳にもいかないし、今は打ち合いながら、反撃の機を伺う。それしかない。
「―――ッ!?」
 そんな事を考えながら、横薙ぎに干将を合わせる。が、これはマズイ。
 それなりの時間打ち合っているのに、全く剣撃の衰えない、化け物じみたシャナ。
 その何度目かも分からない横薙ぎだが、俺は遂にバランスを崩してしまった。
 内から外へと開いて行く身体。踏ん張ろうにも足場が悪い。左のガードが抉じ開けられるだけでなく、俺の身体は左に半歩程度押し飛ばされる。
 自分の意思とは関係なしに、あらぬ方向に跳ね跳ばされる左腕が、やけにスローに見えた。
 屋根の上という不安定な場所での交戦が故だが、俺はとうとう隙を作ってしまった。そう、致命的な隙が。
 俺が強引に肉薄してでも攻勢を得たかった理由は、この事態を避けたかったからだ。
 攻撃は最大の防御とも言うが、攻勢に出ている内は、少々の隙を作っても大事にはなりにくい。
 姿勢が崩れながらの攻撃であっても、相手の姿勢も崩してしまえば膠着状態になる上、先の攻勢の余勢により、また先手を打てる。
 つまり、ずっと俺のターン状態、ってことだ。
 筋力でも劣る。状況は劣勢。なかなかどうして、上手くいかないもんだよな。
 姿勢が崩れた俺に、追い撃ちを掛けてくるシャナ。全く、ツメの甘さなんて全然ない奴だ。
「―――これで終わりよっ!」
 最初から無理な話だったんだ。得物のリーチですら負けてる相手に勝てる筈がないものな。
 だが、それはあくまでも正面から打ち合った時の話。
 わざわざ負けると分かっている相手の土俵で、ハイそうですか、とやられるのは、俺の趣味じゃない。
 端からは劣勢に次ぐ劣勢。俺の負けに見えるだろうが、そうじゃない。

 ―――何せ、俺はこの瞬間を待ってたんだ。

 左に流される身体の勢いを、無理に殺そうとせずに、そのまま踏み込む。
 「―――っ!」
 踏み込みと同時に、莫耶を文字通り叩き込む。勿論、この間の俺の視線は跳ね跳ばされた左腕に向いている。
 人間の視線ってのは怖いもんだ。相手が向いている方向をついつい追っちまうからな。
 例え、フレイムヘイズだろうと、死徒もどきのゾンビだろうと、それは例外じゃない。
 まさに一瞬、シャナの意識がコンマ数秒間、俺の左腕に向く。そう、この瞬間が欲しかったんだ。
「―――そっちかッ!!」
 その数瞬の後、即座に莫耶を睨むシャナ。
 なるほど、流石はフレイムヘイズだ。ゾンビとは違う。
 尋常ならざる反応速度をもって、莫耶を迎撃される。
 打ち込むどころか、逆に弾かれる右腕。衝撃を受け止めきれず、莫耶はそのまま俺の手を離れて跳ばされてしまった。
 これで終わりだ、とこちらを睨むシャナ。しかし、即座にその視線は凍り付く。
 莫耶を迎撃された勢いのまま、干将を叩き込む。そう、今度はさっきの逆回しだ。
 良い反応だったよ――、シャナ。だけどな、右も囮だったんだ。

 一手目は、姿勢を崩したフリをして攻撃の誘い込み。だが、実はそれは囮で、意識の外側からの二手目。つまりは、莫耶による奇襲。
 見事に莫耶を迎撃されたが、この右も囮。本命は三手目の左だ。
 そう、この剣撃において俺が初めて見せる、予定調和の三手目。運でもなければ、死に物狂いの迎撃でもない。正真正銘の詰め手だ。
「これで――、終わりだ」
 しかし、干将を叩き込もうとして、重大なことに気付いた。
 ―――これは、殺し合いじゃない。
 何が『これで終わりだ』だ。バカか俺は! シャナを殺しにかかってどうする!
 とにかく、このまま干将を振り切る訳にはいかない。なんとかしないと!
 必死に止めようとするが、腕は止まろうとしない。
 当たり前だろう。本気で殺しにかかった攻撃だったんだ。慣性も諸々と働いているのに、腕一本で止められる訳もない。
 だが、右腕は弾き跳ばされていて、それどころじゃない。つまり、両腕はアテに出来ないということだ。
 なら、腕でダメだったら、脚だろうが――!
 右足に力を込める。そのまま左に倒れ込む勢いで。
 すると鈍い音と共に、シャナが急に大きくなった。いや、シャナはその手の幻術を使う素振りは見せていない。と言うことは、俺の視点が低くなったのか。
 それに、俺の足が沈み込んだって感覚だった。ってことは確認するまでもないな。足が屋根を踏み抜いたんだろう。何せ、さっきから結構危ない感じだったからな。
 だがこれが幸いして、姿勢を崩したことで攻撃は止まった。シャナを殺さずに済んだんだ。
 ―――同時に俺の動きも完全に封じられたが。
「これで――、終わりよ」
 どっかで聞いたセリフだなそれ。

 そう思ったところで、強烈な衝撃と共に俺の意識は刈り取られた。



  ◇



「酷い目にあった……。一瞬、タイガー道場の門が見えたぞ……」
 意識を取り戻した俺の目の前には、相変わらず激昂したままのシャナがいる。
 何があったのか、まだ俺は生きている。どうやら殺されることだけはなかったらしい。
 ボコボコにされていないことを考えても、シャナとはいえ情けの心はあったようだ。
 それにシャナの腕が相当のものだった為か、頭に鈍痛が残っているだけだし、ダメージは残らなさそうだし、不幸中の幸いも良いとこだな。
「タイガー道場って何よ? それに、ほんとは首を飛ばしてやろうと思ったのよ。けど、アラストールに止められたから……。だから命だけは助けてあげることにするわ」

 グッジョブ! アラストール!

 あんたマジでサイコーだよ!
「だから、俺にも状況が分からないんだって。斬りかかってくる前に、話くらいは聞いてくれたって良いだろ」
「うるさいわね、さっきも言った通り聞く気はないわ」
 くそ……、完全に聞く耳を持っていないな。
 俺からK.O.とっておいて、まだすっきりしないのかよ。そもそも、話って言っても俺はなにも知らないんだが………。
 第三者の意見が欲しいよな。このままじゃラチがあかない。
「まぁ、待て。そやつの言っていることは本当だ」
 すると、願ってもないタイミングでアラストールが口を開いた。
「アラストール、あんたは何か知っているのか?」
 居るじゃないか、第三者が。何で最初に気付かなかったんだ、俺は。
「無論だ。屋根の上より降りるよう我が言ったのだ。この子も寝ぼけていたため、服を脱ぎ散らかすや布団に潜り込んで寝てしまった。不本意ではあったが、わざわざ起こすのも憚れた、それだけだ」
「それで、私が脱ぎ散らかした服を『コレ』は密かに隠匿しようとしたのね」
 なにやらシャナは歪んだ解釈をしている。
 確かにヒドイことをしたとは思ってる。けどさ、もうちょっと相手の言い分も聞いてくれても良いと思うぜ? 聞くだけならタダなんだしさ。
「成る程な。その脱ぎ散らかした服が、ベッドの隣で寝ていた俺の上に乗ってしまってた訳だ。けど、俺は確かタオルケットを被って寝ていた筈だ。タオルケットが無いのは何でだ?」
 後、シャナ……俺は『コレ』じゃないぞ、とツッコミを入れておく。
 全く、人をモノ扱いするなってんだ。例え、トーチだろうがミステスだろうがな。
「我が見たときはその様な物は無かったが? おそらくは貴様がベッドの下に蹴り飛ばしたのではないか。だが、その話で貴様がこの子の衣服に抱き付いていた理由がハッキリしたな」
 いつの間にか、スカートとタオルケットがすり替わってたってことだ。
 謎が解けて良かったよ、全く。間接的にシャナも関係してるじゃないか。
「お前は人なんかじゃないわ、ただの物よ。今、ここで壊してやってもいいんだけどね」
 そう言って、例のコートを出すシャナ。
 とりあえず、落ち着こうか。
 また物騒な殺陣をしたいか? 俺はしたくない。
「ベッドの下……か。あぁ、あったあった。タオルケットと勘違いしてそんな事してたのかよ、俺。それとだ……、物騒な事を言うなよシャナ」
 ベッドの下からタオルケットを救出。蹴っ飛ばしてすまなかったよタオルケットくん。
 それにしても、スカートを抱えながら寝ている決定的な現場を、シャナに見られなかった事は正に僥倖と言えるな。
 なんだよ、俺のLUCKもまだ捨てたものじゃないじゃんか。

「―――教えてあげる。これがモノを殺すということよ」

 そう言って、シャナはコートから贄殿遮那を中頃まで引き出す。
 いつ見ても本当に美しい刀だな。何度見ても飽きないぜ、けどな。

 いい加減、そろそろ許してほしいぜ。じゃないと俺が死ぬ。
「勘弁してくれよシャナ。アラストールの話を聞いた所、俺だけが悪いって事でもないじゃないか」

 ―――まぁ、7:3位で俺が悪いとは思うけどさ。

「そう言われれば、そう……なのかしら………?」
 う~ん、と考え込むシャナ。
 成る程、少なからず自分の非を認める気は有るらしい。
 アラストールの名前を出したのも正解だったな。心苦しいが、もうひと押ししてチャラにしてもらおう。
「さっき、俺をボコったろ? そるでチャラって事にしてくれないか?」
「まぁ、私が悪いのも確かだし……。仕方がないわね。アラストールに免じて、ここは引いてあげる。けど、勘違いしないでよね! 別にお前を許した訳じゃないんだがら!」
 マジでCOOLだぜ、アラストールのダンナ! そのうち、一杯奢るからな!

 取り敢えずはシャナも許してくれたってことにしとこう。何はともあれこれで一件落着か。
 ありがたいことに敵の襲撃もなかったし、願わくば平和な一日であって欲しいよ、全く。



  ◇



「取り敢えず、現段階ではまだ都喰らいを発動させるだけのトーチは用意されていないわ」
 先程まで荒れようとは打って変わって、真剣な表情でシャナ。
 ちなみにもう制服は着ている。
 あれだけの激昂を見せた彼女も、今はベランダの手すりに腰掛けて、真面目に作戦会議中だ。
 オン・オフの切り替えが早いのは、お兄さんも嬉しいね。
「だが、早急に手を打つ必要がある事は変わらん。しかし、彼奴らも我らに察知される事を恐れてか。一昨日以来、封絶と乱獲は行っておらん」
 いつもと変わらない重苦しい声でアラストール。
「つまり、どちらも手詰まりって事か」
 シャナから離れた位置に座って俺。
 変に刺激でもしたら怖いだろ? だから距離を取ってるのさ。
「取り敢えず、俺っていう餌が有るんだ。なら、そこらをウロウロしとけば良いんじゃないか? 睨み合いを続てる内にもトーチは消えていくんだから、連中から焦れて動き出すだろ」
 基本的にトーチは意図的に増やさない限り、必ず減っていく。つまり、俺と同様、存在が消えていくってことだな。
「まぁ、そうなるわね。いつも通りの事よ」
 話を聞く限り、フレイムヘイズは基本的に後手に回ってしまうのが常の様だし、作戦会議というよりは状況整理に近いが……。
「企んでいること自体は断定出来ないけど、奴等が何を準備しているかは分かっているんだ。何か奴等を妨害出来る手は無いか?」
 そう俺が言うとシャナはため息をつく。

「そう都合の良い手があれば苦労なんかしてないわよ」
 ですよねー。簡単に妨害されるような間抜けな訳もないか、あのフリアグネは。
 どう見てもくせ者だろ、アイツ、。
「いえ、ちょっと待って。奴等はトーチを大量に用意する必要があるわけだから………」
「何か手があるのか?」
 そもそも俺に紅世の徒との交戦経験は無い。この手の話ではシャナだけが頼りだ。
 ………情けない話だが。

「多分……有効だと思う。連中が都喰らいを企んでいようと、いなかろうと、噛みついてくる筈」
「つまり―――」
 ―――どういうことだ?
 と質問をしようとしたところで、
「どういう事だ?」
 俺よりも先にアラストールが質問をした。
 その声に、いつもの重苦しさはない。
 今のところ、俺たちにはシャナの策とやら以外に策らしい策がない。従って、アラストールも一抹の期待しているのだろう。
 現状を打開できる決め手であれば良いのだが。いや、他に策はないんだし、俺には作戦の立案すら出来ないんだ。
 とにかく、どういった物か聞いてみよう。内容を詰めていくのはそれからだ。
「連中の企んでいる事は分かって――」
「あら、平井さん?」
 シャナが内容を言い始めた所で、思わぬ場所からよ声に会話を中断される。
「い゙っ!?」
 ベランダの下からかけられた呑気な声は千草さんのものだった。
 ――俺とした事が、遠坂のうっかりが伝染ったか?
 この部屋のベランダは玄関の真上に有るんだから、新聞を取りに外に出た千草に気付かれない訳がない。
 時間の確認もしないといけなかったのに、朝から一戦やらかしたので完全に頭から飛んでしまっていた。
 ――――マズい、かなりマズい。
 シャナは今、部屋のベランダに腰掛けている。
 こんな光景を端から見たら、あらぬ誤解を受けることは間違いない。
 まるで朝からシャナを部屋に連れ込んでるみたいじゃないか。
 俺は急いでベランダから顔を出す。弁明は早い方がいい。大丈夫、相手は千草さんだ。シャナとは違って話が通じない訳がない。
「ち、違うんだ千草さん! これは………」
「おはよう。どうしたの、こんなに朝早くからそんな場所で?」

 ――――ハイ?
 そこを質問されるとは思ってなかったよ!
 普通、今はそこは気にしないだろ?
ここは「なんで平井さんがいるの」とか「士郎くん……なんてことを」とか「責任は取りなさいよ」とかだろ?
 なんと言うか、どこかズレてないか?
 天然にも程があるぜ、千草さん。
「え~と、ちょっと一跳び」
 訂正、この人だけじゃない。
 お前もだシャナ。なんだか根本的にズレてるだろ、その返事も。
「あらあら、お転婆さんね」
 会話が……成立してるよ。
 俺は思わず脱力して、部屋に戻った。
 なんでさ? おかしいと思うのは俺だけなのか?
 いや、逆に俺がおかしいのか?
 アラストールに聞いてみたいところだが、今、それが叶う筈もない。
 とにかく、俺にはこの不思議時空には着いていけないよ………。


 結局、その後シャナは昨晩に続いて朝食もご馳走になった。
 今さらシャナを追い返す訳にもいかないし、あまりに自然な流れで有無も言えなかったのは、言うまでもない。
 
 

 
後書き
はい、皆さま大変お久しぶりです。
今回のコンセプトは怒り狂ったシャナを相手に、士郎くんはどう立ち回るか、です。
原作でも有った、朝のハプニングですが、拙作ではこんな具合になりました。
うーん、戦闘シーンは難しいですね。まだまだ、練習不足感は否めないです。
今回はこいつに手間取って更新が遅くなってしまいました。
大変お待たせしてすみません。

描写不足による内容の不備や、誤字・脱字が確認はしているのですが
、今回は特に多いと思います。
特に戦闘シーンの前後は、やっつけで書いている感がプンプンするぜぇッ!! 状態なので、見付けられた際にはご一報よろしくお願いいたします。

ではでは、また次回でお会いしましょう。 
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