アイドレスト!
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ステージ4 前編 後ろでは
我らの暮らす星は!この唯一無二の星は!非常に青かった!
「うわぁーーっ!」
二ノ風 舞菜は、眼前に広がる光景に、目を輝かせた。
「本当に青いんだねー!」
「やっぱり実物見ると違うねぇ」
今、舞菜達は、宇宙船の中にいる。
「……新たなる敵、か」
峰山堂 金剛はボソリと呟いた。
「楽しみだね」
メイチア・エルターナが振り返って応えるが、金剛は何も言わなかった。
舞菜達3人は、宇宙英雄を決める戦いの代表として選ばれたのだ。
舞菜とメイチアは地球最強決定戦での戦いぶりが、金剛は日頃の圧倒的な戦績が、それぞれ評価されてもことだ。ちなみにリワンゾウ・ハットは宗教上の理由で選定されなかった。仏教が苦手な星も少なくないのだ。
次の決戦の舞台は、アイドルの原石アイドリウムが無数に眠ると言われているォム星。そこまでの宇宙船や宇宙食等、諸々の代金は全て運営側から支給される。そんな破格の支給に、大至急舞菜達はォム星への旅路を行くのだった。
「……なーんか、」
どんどん小さくなっていく地球を見ながら、舞菜はポツリと呟いた。
「ん?」
「金剛君、元気無い気がする」
「そういえば、舞菜ちゃんはあの人のこと知ってるんだよね?」
「うん」
舞菜は頷いた。
「1回アイドれば、みんな兄弟だからね!」
「へぇ……どんなタイプなの?」
「タイプ?ライター?」
「そうじゃなくて……うーん、」
メイチアは頭に人差し指をあてた。
「例えば……、四角いとか太いとか鈍いとかつるつるとか説明が簡単とか」
「うーん、なんかこう、凄みがある感じ」
「凄み?」
「うん。なんていうか、凄い、凄いアイドルぅーーーっって感じ」
「成る程ぉ!」
舞菜とメイチアが2人で盛り上がっている間、金剛はぼぉっと宇宙を眺めていた。
(二ノ風 舞菜が言っていた、凄い、凄いアイドルとは何だ……?)
金剛はそれを考えようとするが、答えは出なかった。
(クソッ!俺はまだ、あいつらには届かないのか……っ!)
金剛が意識せずとも支配していた空気を打ち砕き金剛を下してみせた舞菜、更にそれを上回るアイドル能力を持つメイチア。金剛は、2人との間に明確な差を感じていた。
「あ、あれォム星じゃない?」
「そうかも!」
金剛もメイチアが指差す方向を見ると、桃色の球体が浮かんでいた。
(あとどれ位で着くんだ?)
金剛がスピードメーターに目を向けようとした時、
「あと10分で着きそうね」
メイチアがスピードメーターを見ながら言った。
「おー、じゃあカップラーメンが4つ作れるね」
「まぁ。それまだ半分にもなってないじゃない」
「ん?」
「あれ、カップラーメンは基本7分なのってトーキ国だけ?」
「7分!?長っ!」
「水の硬度の違いかなぁ……?」
そんな他愛の無い話をしていると、
(!?)
金剛はふと殺気を感じた。
「どうしたの?」
舞菜は呑気に尋ねてくるが、メイチアも何か察しているようだ。
「気をつけろ」
金剛がそう言うとほぼ同時に、
何かが風を切る音がして、
ボッドガアアァァアァァアアアン!!
「宇宙船が!」
「爆発した!」
(一体誰が……)
「緊急脱出用のパラシュートがあった筈!」
メイチアの案内で緊急脱出用の器具が置いてある場所に行ったが……
「パラシュートが2つしか無い!」
舞菜が叫んだ通り、パラシュートが2つと謎の手紙があるだけだった。
金剛は手紙を手に取る。
そこには、たった1行の言葉が書いてあった。
『峰山堂は舞菜ちゃんにすら相応しくない』
「っ……!?」
金剛は目を見開いた。
「な、何が書いてあ……」
「くそっ!」
金剛はその手紙をビリビリに引き裂いた。
「…………った、の?」
舞菜の問いに答えずに、金剛は呼吸を整えた。
金剛が宇宙英雄の候補に選ばれたことを快く思わない人が、パラシュートを1つ持ちだしたのだ。
「舞菜ちゃんと峰山堂君はパラシュート使って!」
メイチアの鋭い声が飛ぶ。
「そっかぁ!呼び捨ては戦闘機になれるから!」
「戦闘機だからって大気圏突入すれば無事じゃすまない!」
金剛も叫び返す。
「でも、誰かはパラシュート無しで降りなきゃいけないの!」
「おい!」
金剛の静止も聞かず、メイチアは宇宙船を飛び出すと、戦闘機に変形してォム星に飛んでいった。
「くそっ!」
最大の原因は主犯とはいえ、自分の非力さ故に人を傷つけることになってしまったことが金剛は悔しかった。
「私達も早くここから出ないと!」
「……そうだな」
金剛は滾る気持ちを抑えながら、パラシュートで脱出した。
ォム星に着いた金剛と舞菜だが、そこで見えたのは、爆発する怪物の群れと、その最中を飛び回るメイチアだった。
「な、何が起こって……」
「「「……「「「オロロロロロロロロロオオン!」」」……」」」
「アイドレスゾンビか!」
金剛は叫んだ。
「アイドレスゾンビ?」
「……やつらは俺らに襲いかかってくるだろう。クソッ!こんな数、誰かの差し金か!」
「え、なんで?」
「いいから戦うぞ!」
「え!?え!?」
金剛は舞菜を無視して、アイドレスゾンビの群れに突っ込んでいった。
「えええい!よく分かんないけどーセイバーチェンジ!」
金剛と舞菜も戦いに加勢した。
「オロロウ」
「オロアアア」
「オロオオオオ」
舞菜とメイチアは、雑草を引き抜くように次々と敵を粉砕していく。
しかし金剛は、
「であっ!」
「オロウ」
「せいっ!」
「ロウロッ」
アイドレスゾンビを倒していくが、速度では遥かに舞菜やメイチアに劣る。
(俺は……!こんなところでも、あいつらに劣っているというのかっ……!)
「「「オロロロロロロロロアアアアアアアアア!!」」」
ひときわ大きな爆発音と断末魔の後、静寂が訪れた。
「……やっと、」
「終わったぁ」
舞菜とメイチアは少女の姿でへたりこんだ。
「……」
金剛は伸びているアイドレスゾンビの数を計った。
(俺の、5倍も10倍も……!)
金剛は、自分のアイドル能力があの2人の2割程も無いという現実をつきつけられ、全身に稲妻が走った。
そして金剛は、休んでいる2人をよそによろよろと歩き出した。
「金剛君?」
「早く、会場に、っ、」
「その体じゃ無理よ!」
メイチアが止めるが、金剛は聞く耳を持たない。
「……あなたは、絶対零度の冷たさを持つアイドルと言われていたわ」
メイチアが静かに語りかける。
「今のあなたは頭に血が上っている。落ち着いて」
「俺が!間違っているというのか!!」
金剛は喚いた。
メイチアは一瞬怯んだ様子を見せたが、意を決したように口を開いた。
「そうよ!今のあなたからは、アイドルらしさを微塵も……」
ふっと言葉が途切れた為、不審に思った金剛は後ろを振り返った。
ドサッという、何かが倒れる音。
「メ……」
舞菜の顔が途端に青ざめる!
「呼び捨てえぇえぇえぇえぇえぇぇえぇええ!!!!」
舞菜の叫びは、空っぽの星に響き渡った。
後書き
また前後編です。
後編をお楽しみに。
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