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アヒルの旅

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4部分:第四章


第四章

「さあ、僕はこれでね」
「帰るんですか?」
「うん。家族の皆に何かあるといけないからね」
 だからだというのです。
「だからこれからパトロールをするから」
「パトロールですか」
「家族を守る為にね。それじゃあ」
「はい、頑張って下さい」
 こう別れの挨拶をしてそのうえでおじさんと別れました。そうして畑に近付くと。その畑の中からかん高い声が聞こえてきたのでした。
「おや、クワちゃんじゃないかい?」
「はい。そうですけれど」
「おやおや」
 そのかん高い声はまずは楽しそうに話してきました。
「こんなところまでどうしたんだい?」
「ちょっとお家がどんなのか見て回っていまして」
 クワちゃんはここでも真面目に答えるのでした。
「それでこの畑にも」
「そうだったのかい」
 声はクワちゃんのその言葉を聞いて楽しそうな色を含ませてきました。
「それはいいことだね」
「いいことですか」
「そうだよ。何でも知るのはいいことだよ」
 そしてクワちゃんにこうも言うのでした。
「何でもね」
「はあ」
「さて、と」
 声の調子が少しばかり変わりました。
「挨拶はしないとね。おはようクワちゃん」
「おはようございます」
 挨拶と共に畑から出て来たのは一匹の黒猫でした。猫のおばさんでした。
「また随分と遠くに来たねえ」
「そうですか?」
 クワちゃんは自分ではそれがよくわかっていないようでした。
「何かすぐに着いたように思うんですけれど」
「いや、そうでもないよ」
 けれどおばさんはそうではないというのでした。
「結構以上にね。お池から距離あるから」
「そうなんですか」
「そこから歩いてきたって凄いよ」
 畑から出て来て身体を伸ばしながらクワちゃんに対して言いました。
「そんな小さな身体でねえ」
「はあ」
「それにしてもよくあたしがここにいるってわかったね」
 おばさんは今度はこのことをクワちゃんに尋ねてきました。
「どうしてわかったんだい?」
「鶏のお爺さんと犬のおじさんに教えてもらいました」
 クワちゃんはやっぱり正直でした。
「それでです」
「ふうん、あの爺さんと頑固者にねえ」
「頑固者って?」
 クワちゃんには少しわからないことでした。誰が頑固者なのかわかりかねました。
「それって誰のことですか?」
「あの犬の親父のことだよ」
 身体を伸ばし終えてからまた言うおばさんでした。
「融通が効かないからねえ」
「融通、ですか」
「ああ、そのうちわかるからいいよ」
 クワちゃんにはまだ難しい話だと思ってこれ以上は話さないのでした。
「それよりもね」
「はい」
「ここに来たらいいものが食べられるよ」
 おばさんはにこりと笑ってクワちゃんに言うのでした。
「あたしは虫を食べるのが好きだけれどね」
「虫ですか」
「あんたも食べるといいよ」
 クワちゃんにもその虫を食べることを勧めてきました。
「虫をね。食べてみたらどうだい?」
「虫ですか」
 クワちゃんは虫を食べると聞いてその丸い目をさらに丸くさせました。
「虫って食べられるんですか」
「あれっ、知らないのかい」
 おばさんはクワちゃんが虫は食べられるということを知らないのを聞いて意外といった顔になりました。これは思いも寄らないことだったのです。
「アヒルなのに」
「僕虫食べたことないですよ」
 クワちゃんはこのこともおばさんにお話しました。
「いつも稗とか粟とかで」
「そんなもの食べて美味しいのかい?」
「美味しいですよ」
 クワちゃんはにこりと笑っておばさんに答えました。
「とても」
「そうなのかい」
 おばさんはそういったものが美味しいと聞いて首を傾げさせました。
「稗に粟ねえ」
「それよりも虫って美味しいんですか?」
 クワちゃんは逆におばさんに問い返しました。
 
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