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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第47話 モチベーションup



闇夜に紛れて暗殺者の類が来ないとも限らない。

ユーリは、かなみに 戻る旨は伝えたが、とりあえず まだ この場で留まる事に決めていた。そして、自身は全く問題ない。カスタムの気候は アイスに比べてもまだ暖かい。何より今の季節と言う理由もあるだろう。

「……だが カスタムの皆が心配だな。今日はちゃんと眠れているだろうか」

 ユーリはそう呟く。
 士気は増した様だが、十分な休息を取られるかどうかはまた別の話だ。精神が昂ぶり、緊張をしていたら……安易に眠れないのが人間だ。

 過去4度も襲ってきたというのなら、そんなに簡単に安心できるとも限らない。

 その上、時間指定の情報も入ってきているとは言え、総攻撃と言う最悪の情報も入っているのだから。そして睡眠不足は 戦いにおいては天敵だと言っていいから。

「……誰が、心配って?」
「えっ?」

 突然だ。
 ユーリの後ろから声がしてきた。夜だった事、そして 前方に集中していた事もあって、気配を察する事ができなかったのだろうか? 或いは、相手が相当の手練だったのだろうか?

 正確な理由は 絞れなかったが、接近をここまで許したのは紛れもなく事実である。不覚をとったと、反省するユーリ。だけど、その人物は 町中からやってきているし、何よりこの声の主は知っているから、心配はしていなかった。

「志津香か。こんな時間に、起きてて身体は、大丈夫……な、の……か?」

 振り返って彼女を見た瞬間、ユーリの表情が引き攣っていた。

 志津香の纏っている物、その姿。これは一体 どう言えば良いのだろうか……? 志津香は、不穏なオーラを纏っている様に見える。 そして、自然と悪鬼羅刹の文字が頭の中を過ぎった。

 以前、冒険・仕事の過程で、共に組んで戦っていた時に、よく言われた事だが、煉獄を使っている時の自分の事も同じような形容をされた事が多い。

 つまり……今の志津香の雰囲気が、煉獄を使っている時の自分?

「(……こんなに怖く感じてるのかな?)」

 ユーリは、心の中では敵に同情をしているのだった。と言うかそれよりも、そんな事よりも 志津香が何故、こんな雰囲気で佇んでいるのかが判らない。

「え、と……どうしたんだ? 志津香」
「……いいえ、ただ、久しぶりに会ったんだし、近況報告をしたいな。って思ってただけよ? まぁ、アンタは、今まで随分と楽しんでいるようだけど」
「……? 楽しむ? いったい何の話だ?」

 ユーリは志津香が何を言ってるのか理解出来なかった様だ。そして、志津香の雰囲気。何かを纏っているかの様な姿になっている理由は、判った。
 言葉の中に怒気が込められているのが判ったから。……だが、何を怒っているのかは、判らないが。

「……説明が必要なのかしら? 私のお父様とお母様の事を アンタは 恩人だって言ってたくせに、それなのに、女にかまけるなんてね。あのランスと 全く変わらないじゃない。ああ、あの男の仲間ならではって事……ね。……んじゃあ 早速 1回謝ってくる? お父様達に」

 志津香のニッコリとした笑みは、凶悪な殺気を孕んでいる。
 邪悪を具現化したその手に宿る炎は、ただただ破壊を欲しているようだった。『アスマーゼと惣造に謝ってくる?』と言う事はつまり……?

 考えるまでもない。怒りの表情の志津香を見れば想像するのは難しくない。
 
 ユーリにとっても、2人に会えるのなら願ったり叶ったりだが、会える場所は1つしかなく、その方法も1つしかない。

「まっ、あんたが、お父様達と同じ場所に行けるとは思わないけどね。……でも、万が一って事もあるし。逝けるかもね」

 志津香は、送る気満々の様子だった。それを見たユーリは、すかさず調子を取り戻す。

「ちょっとまった!! なんでそんなに殺気立ってるんだよ! 大切なのは明日だ、明日! それに、つーか 『逝ける』って何だ! 人を殺すな。 いきなり来て 幾ら何でも無茶苦茶だ!!」
「う、うっさいわね!! さっき色々聞いたのよ! 私達がこんなに大変なのに、アンタが あ、遊び呆けてたら 怒りも沸くってものよ!」
「……はぁ? 聞いた?? 遊び呆ける?? 誰に何を聞いたか知らんが、きっと誤解だ誤解!! そもそも なんでオレが遊び呆けてるんだよっ! 一体何を根拠にだ!」
「問答無用ぉぉっ!! 天誅っっ!!」
「うおぁっ!?!?」

 志津香の掌から、迸るのは火の魔法 火爆破。
 その魔法は、結構広範囲だから、幾ら魔法に慣れている、ハンティの魔法をも回避してのけたユーリであっても、避ける事も難しいし 何より 普通の火爆破よりも、威力が2倍程増していると思える。炎の規模や発生の速度も同じく2倍程強く感じる。

 ……それよりも、『深夜にこんなに暴れるな!』 と、ユーリは躱しながら、言いたかった。それに、『戦いに備えて温存をしておけよ!』とも言いたい。

 躱しながら……、言いたかったのだが、志津香は 火爆破の後に、ファイヤーレーザー、時折炎の矢を放ってきて、様々な魔法を折り混ぜられてしまってそれなりに大変だったから 言うに言えなかったのだ。更に爆風と爆音も起こっているから 多分訊こえないだろう。


 だから、暫く、仲間との模擬戦(強制参加)を行ったのだった。


 そして、発散をし切ったのだろうか、志津香の熱も冷めてきた様で。話を聞いてくれる位には調子を戻していた。ユーリは、志津香の魔法を避けきる事が出来ず、所々火傷を負ったが、それは ギャグっぽい傷だから とりあえず大丈夫だろう。


「……成る程な。かなみからか。ある事無い事聞いた相手ってのは。しかも 訊いたのが ついさっきって……」
「う、うるさいわね! アンタが悪いんじゃない。ラガールの情報を得ようとずっと苦労してて、その上この状況になって……、皆も大変だったのにっ!」
「はぁ……それでも 志津香も鵜呑みにしないでくれよ。あんなの」
「どーだか。……それに、こんなトコで油売ってないで、その恋人さんのアニスってコの所に戻ったら? ……アンタのこと、心配してんじゃないの?」

 最後の方、志津香は、やや頬を膨らませていた。
 ユーリが思う志津香の表情は、怒りと若干の悲しみが9:1の割合で入り混じっている様だ。つまり殆ど怒ってるって事。志津香が頬を膨らませているのは、ユーリには見えなかったようだが。

 見えなかったのには理由がある。かなみだけじゃなく、志津香も知ってしまったから。あのアニスの事を。……説明もあまりしたくないと言うものだったから、落胆を隠せられなかった様子だ。

「はぁぁぁぁ……、もう、頼むから嫌な事を思い出ささないでくれ。アニス(アイツ)との事は悪夢なんだ、悪夢」
「……はぁ? 悪夢?」

 恋人とのそれが悪夢?

 志津香は、ユーリの言っている意味が判らず、首をかしげていた。いろんな意味で複雑であり、考えたくもない(志津香の脳裏では)。

 だけど、今のユーリの年齢を考えたら、別に恋人がいたって不思議ではないだろう。その恋人との一時が、悪夢と言う意味は 幾ら頭脳明晰である彼女の頭でも、理解出来ない様だ。
 いや、そもそも、志津香に男と女関係で、判るとも思えない様だった。
 

 そして、ユーリはこんな事なら、かなみにもちゃんと説明をしておくべきだったと、ユーリは後悔をしてしまっていた。

 兎も角、志津香にアニスとの事を説明する。
 
 アニスとは 仕事先のゼスで知り合ったという事や……ゼスにある例の迷宮でとんでもない事を味わったという事。そして、何より彼女の正体についてだ。

「……アニスって、まさかとは思ったけど、魔法技能Lv3。あの魔法大国ゼスの魔女だったとはね……」
「流石は、カスタムの四魔女。知っていたか……実物はそんな大層なものじゃないって思うがな……。 オレ、アイツから、その……件を聞いた時は、なんか女の子になった気分だったよ」

 ユーリは苦笑いをしつつ、ため息を盛大に吐いていた。

 この世界に置いて、逆レイプをされた! と言う事実は、あまり聞かない。だからこそ……ユーリはそう思ってしまったのだろう。ミリと言う豪傑がいるから、知られてないだけで、実際には判らないけれど。


 そして、どうやらかなみは、志津香に根掘り葉掘り聞かれたらしい。かなみが、まさかアニスに色々とヤられた事(ヒトミから訊いた事) そこまで、志津香に言っていたとは思わなかった様だ。……おそらく、かなみは志津香の剣幕に負けたのだとは思う。

 そして、志津香自身は、アニスの事を勿論知っていた。

 当然だろう、歴史上でも数人しかいない伝説級の力を持つ魔法使いなのだから。
 噂は色々と聞いているが、そう言うのはひとり歩きするものだからと、どれもこれも信じてなかったが……。

「……それ、本当でしょうね?」
「こんな事で嘘言ってどうすんだ。つーか、例え嘘でも言いたくなかったって。……んな事」

 ユーリは、更にため息を吐いていた。
 止まらない様子だった。その表情を見れば嘘を言ってる様には見えないと言う事がよく判る。

「はぁ……っ」

 志津香も、つられる様に、ため息を吐くと同時に言いようのない羞恥を感じていた。

 ユーリとその彼女のことを知って……凄く怒ってしまったのだ。自分でも判る。これは明らかに嫉妬をしてしまったと言う事。もう、言い訳など出来ないだろう。……この場にいるのが2人だけで良かったと思える。

 だが、志津香にとっては、それでも複雑なのは事実だった。

 つまり ユーリが……、他の女と経験をしていると言う事実を知った事がだ。彼は童顔童顔と言われているから、絶対に《まだ》だと思っていたのに。

「(……絶対に思っていたのに)」

 表情があからさまに出ているのだが、ユーリには判らない様子だ、と言うより 過去の事実を暴露してしまった事による自己嫌悪もあってから、気づけなかったようだ。

「それで?」
「なっ!! な、なによっ!?」
「なによ! じゃないだろ? もう、何もないのか? なら、明日も早いんだ。今は、もう深夜だし。……少しでも長く寝ておけ。お前達が一番疲労しているだから」

 ユーリは志津香がそんな風に考えているとは知らないのは勿論。。

 だけど、それでも 彼女の身を案じているだけだった。

 それを訊いて、志津香は表情を緩ませる。……恐らく、この男はきっと何言っても変わらないんだから。

 いつも変わらず……そして守ってくれる。だから、複雑だけれど、とりあえず許す事にしたようだった。

「……まあ、それでも 私は 大分休ませてもらったわ。それにアンタ1人で入口任せるのだって不安だし?」
「はぁ、それはそれは、随分とオレに信用のある事で」
「ふふ……」

 ユーリと志津香は一頻り笑うと、ユーリは再び視線を街の外へ。

 志津香は、ユーリを信用していない訳はない。そして、確かに疲れているのも事実だ。だけど、こうでもしなければ、2人でゆっくりと話す機会なんて殆ど無いのだから。

 志津香は、ゆっくりとユーリに近づいて その隣に座った。

「……ゆー」
「ん?」

 志津香はつい、昔の呼び方になっていたが……、戻そうとはせずに続けた。

「ねぇ。ここは、……カスタムは、私にとっても大切な場所。大変な事、前にしてしまったけど……、それでも 色々な思い出が詰まってる大切な故郷……」
「……ん。そうだな」

 志津香の言葉にユーリは頷いた。そして 志津香はユーリの顔を見て、そして 俯かせて訊いた。

 これは、訊きたかった言葉だ。だけど、カスタムの誰にも訊く事が出来なかった。心配をかける訳にはいかないし、言葉にもしたくなかった。……自分の弱い部分を見せて心配をかけたくなかったんだ。
 だけど、この男になら、ユーリになら、自然と志津香は訊けていたんだ。

「……私達勝てる……よね?」

 勝つとしか、考えていなかったんだ。いや それ以外を考えない様にしていた、と言う方が正しいかった。

「……」

 それを訊いたユーリは、俯きがちな志津香の頭を軽くこついだ。軽い衝撃が志津香の頭に起こる。

「んっ! な、なにをっ」
「心配するな」
「え……?」

 この時、志津香は、ユーリの顔を見た。

 その顔は笑っていた……。その顔は、そう、志津香は何度も見た事がある。あの幼い頃の記憶を思い出しているのはユーリだけじゃない。……いつも、そうやって自分を見てくれていた目。そうやって自分に笑いかけてくれた顔だった。安心できる顔だった……。

「勝てる。カスタムは守れる。……守ってみせるさ。必ず」
「………」

 志津香は、その顔を、暫く。いや 少しだけ 魅入ってしまっていた。

 あの時と何ら変わらない安心できる笑顔を。……変わらない、変わってないと言ったら ユーリに怒られるかもしれないけど、そう思わずにはいられなかったのだ。

「相変わらず……、ね」
「うん?」
「いいえ。……ありがとね。ゆー」

 志津香は帽子の鍔を持ち 表情を見られない様に軽くかぶると、そう呟いていた。
 作った拳を、ユーリの胸の部分に軽く拳を当てて。

「良いのか? 呼び名……昔に戻ってるぞ?」
「……そうね」

 ユーリはそう言うけれど、志津香は何も介さなかった。普段ならパンチか脛蹴り、踏み抜きが来そうな気がしたが。何も来ない。だからユーリは笑っていた。

 そして、後少しで、ユーリの肩と志津香の肩が触れ合いそうな距離。

 彼の肩に、自らの肩を預けようと無意識にそうしようとしたその時だった。

 “ごとっ!” っと、町の方で何やら物音が聞こえてきたのだ。

「ん?」
「……」

 志津香は、何かに気づいた様で、さっと ユーリから距離を取ると、ゆっくりとした動作で立ち上がる。

 そして 素早く町へと向かった。

 町を囲う壁の裏。そこにはある人物がいたのだ。そう、聞き耳を立てていたのは……。

「一体、こんな所で、こんな時間に、何をしてるのかしら?」
「あ、あはは……その、差し入れを……とか? いやぁ~陰ながら見守ってたつもりだったんだけd「ふんっ!!」い、いふぁぁぁぃ!!」

 どうやら、そこにいたのはマリア。
 差し入れとか言ってるが、何か持っている様子は無い。そして、勿論いるのはマリアだけじゃない。 こんな深夜だと言うのに 更に出てくるのはカスタムの住人達。

「やれやれ、志津香は。あのまま押し倒せば良いモノを……」
「まぁ、これはこれで微笑ましいじゃないですか? まぁ 少し妬けちゃいますけどね」
「そうだな。途中のケンカって言うか一方的なアレ、見てて面白かったし、でもま トマトを連れてこなかったのは正解だな。いたら、きっともっと早くバレてるから、見れなかった」
「ええ、トマトさんは じっと聞いてくれるとは思えませんから」

 ミリと真知子。
 一体いつから見られていたのだろうか、と志津香は慌てていた。

「あ、アンタたちぃぃっ!!」
「し、しぢゅかぁ(志津香)っ! いふぁいよ(痛いよ)っ!!」

 頬を抓りながら勢い良くミリ達の方へと向かった。

 本当に楽しそうにしていたんだ。志津香は怒っているんだけど、本当に楽しそうな光景だ。

「……奪われる訳にはいかないな。……この暖かい場所を。絶対に」

 ユーリはそう呟き笑っていた。
 休息と言う意味を考えれば、早く帰して、無理にでも眠ってもらうべきだが……、

『こう言う休み方だってある』と、そう ユーリはそう判断したようだ。



「ま、待ちなさいっ!!」
「それにしても、真知子は良いのか? お前さんだって、ユーリの事好きなんだろ?」
「私は、ポジションには拘りませんから。でもベスト5内には入りたいですね? そして、愛していただけたらそれだけでも嬉しいです」
「ははっ そうか、真知子らしいな」
「待ちなさいぁぁい!!」
いふぁい(痛い)っ、いふぁいってふぁ(痛いってばっ)!!」

 志津香は決してマリアの頬を離さず、そのまま引きずる様に2人を追いかけていった。
 その追いかけっこは暫く続いていたのだった。


――……ロゼがこの場にいなくて良かったと、志津香は思わずには……。



「むっふふ~! 『ゆーは、私のもの~~』って言わないの?? 志津香??」
「ろ、ロゼぇぇ!!!! あんた一体いつの間にっっ!!」
「あ~ら、つれないわね~。せぇ~っかく、志津香の王子様を連れてきたのにぃ~」
「っっ~!! このぉぉっ!」
「ひゃー、ゆー 助けてー(棒)」


 一体いつからいたのか……、彼女も《悪魔回廊》から戻ってきていたようだ。流石に、あの洞窟で一夜を明かすのも嫌だったようだ。

「……全く昼間よりも騒がしいな。お前らもそろそろ寝ろっての……」

 この騒がしさを聞いてしまえば流石にそう思わずにはいられないユーリだった。


 それにマリアは明日、どれだけ大変なのか……判っているのか?とも思ってしまった。













~翌日~


 作戦会議室に皆が集まっていた。そして、そこでは縛られているマリアの姿があった。

「はぁぁ……やっぱりこうなるのね」
「がははは、これが作戦なのだ! オレ様とシィルがヘルマンの兵隊の役、そしてマリアはオレ様たちに捕まったカスタム司令官と言う訳だ」
「ううぅ! なんでこんなに縛るのよ~~!!」
「がはは! 捕まえたと言う設定なのだ! 縛ってなければ不自然だろう?」

 ランスはいやらしい目つきでそう言っていた。
 それは俗に言う亀縛り。……ランスが好んで見るラレラレ石から学んだのだろうか?

「がはは! それじゃ、大手を振ってラジールに侵入するぞ? そして、中から司令官と洗脳をしてるって言う魔法使いとやらを、内側から叩いてやろう」

 ランスは意気揚々をそう言っていた。ユーリも軽く手をあげた。

「成功させろよ? でも、例え成功しても、お前が死んでたら罰ゲームだ。大量のバイセクシャルの連中達を葬儀に出してやるぞ」
「オレ様の台詞をパクるんじゃない!! それにオレ様の葬儀は女の子1000人で行ってもらうと決まっているのだ! んな貴様の同類を連れてくるんじゃあない!」
「ん。気合入るだろ? オレもそんな気分だ。シィルちゃんも気をつけてな」
「はいっ! 頑張ります」

 ユーリはニヤリと笑った。そして、マリアを見て。

「気をつけろよ? ランスは、抜けてるトコも多いからな」
「うん……私も、頑張ってみるわ。この状態で出来る事、少ないけど 私もアイツの傍に行くのは嫌だし……」
「おいコラ!」
「あぁん! もうっ! 何するのよっ!」

 ランスは、怒ってマリアの胸を揉みしだいていた。

「兎も角、ユーリ達は、オレ達がラジールに入った後、直ぐに敵の猛攻が始まると思うが、半日だけねばれ。後はなんとかなるだろ」
「……あんまり期待はしてないけど、頑張ってね」
「うぅ……志津香、なんだか冷たいわよぉ……」
「そう? 私はいつも通りだけど?」
「あはは……昨日のこと……まだ?」
「………」

 志津香は、ただ無言の圧力を受けてしまっていた。それは 大した激励だろう。

「ま、頑張ってな? マリア」
「ちょっと! ミリまでぇ……ミリだって、覗いてたし! 私と同罪なのに。私の立場はどうなるのよっ」
「えーい! いつまでも うだうだ言ってるんじゃな~い! キリキリ歩けぇぇい!」
「あーんっ!」

 哀れ……マリアは、仔うしのよーに にゃーにゃーにゃー?と連れ去られていった。

「……ランス、マリアを傷つけたら承知しないわよ」

 志津香は、3人の方を見ながらそうつぶやいていた。
 昨夜の事で怒っていたとは言え……それでも親友なのだ。心配なのは当たり前だろう。

「そう言えば、さっきのは一体何の話ですかね~? マリアさんが言ってたのは?」
「何でもないわよ!」

 トマトは気になっていたようだ。さっきの会話の流れを把握しきれなかったからだ。ただ……何とな~く、自分にとっても必要な内容じゃないか?と感じていた。恐らくは正解なのである。

「むふふ、ユーリと志津香のメイクラブの事なんじゃないの~?」
「なぬっ!? ……むむむ! それは聞き捨てならないですかねー! やっぱり、志津香さんっ 抜けがけですかねー!!」
「そんなんじゃないわよ!!!」

 まだ、きゃいきゃいとはしゃぐ面々だ。
 それらを見てるとこれから、戦争が起こるとはどうしても思えない光景である。

「ったく……これから戦争が始まるってのに、呑気なもんだな?」
「お前が言うな。馬鹿」

 そうボヤいているミリに軽くチョップを食らわすユーリ。
 騒動の発端の内の一人のくせに……と思ってしまうのも無理はないだろう。ミリはただ笑っていて……。

「んで? あの後、進展はねーの?」
「何を馬鹿な事を……。それに お前らだって、朝まであの場で騒いでた癖に……、今日が大変だって言ったろうに。ランスが言うように、今日マリアが捕まったと言う時点で総攻撃がくるんだぞ? 明後日とも言われていたが間違いなく今日だ」
「ははっ! まあ違いないがなぁ。ああ言うのだって大切だろ? こんな時でこそ」

 ミリはそう言って笑っていた。

 殺伐とした空気を和ませる。力の入る過ぎた身体、それを抜かせる事。確かに大切な事だろう。

「まぁ……否定はしないが、どんな事でも程々にだろう……」

 ユーリはそう言いながら志津香達の方を見た。

 十分に体の力も抜けているだろう。……だが、少しは緊張も持つべきだ。

「ふふ。判ってるよ。町の連中の事は、オレもよく知ってる。全員 もれなく大丈夫だ。気合だって入ってる」
「はぁ……期待しておくよ。……っと、そうだ」

 ユーリは、ミリの話を訊いた後、真知子の方を向いた。

「真知子さん。今日の戦闘の際の配置だが、確認をさせてくれないか?」
「はい。過去4度の戦いでですが、敵が襲ってくるのは東側入口が殆どでした。以前の奇襲の際も勿論そちらから。基本的に他の入口は大回りになってしまうからだと思われます。それに、今回はマリアさんが捕まったと言う状況なので、敵側も烏合の衆と称して襲ってくると推察されますね」
「……だな。了解だ」

 ユーリは、腕を組んで頷いた。

「少数体多数の場合は、四方八方を囲まれると厄介だからな。これまで通り、壁を背にし戦う陣が一番だろう。だから、配置的にはこの陣形が理想だな」

 ユーリは真知子がシミュレートした陣形のままを伝えた。
 基本的には近接戦闘が可能なメンバーが前に出て、チューリップ、魔法部隊が後衛。前衛部隊は散り散りにならず固まって戦うのが基本。

「シィルちゃんがランス、マリア達と行った以上、治癒術士(ヒーラー)であるロゼがが加わった要因はデカイ。頼りにしてるんだから、頼むぞ? ロゼ」
「はいはいな。ご利用は計画的にお願いします。料金は前払いが理想的かと」
「……終わったら リーザスに口利きしてやるから。後払いで頼むわ」
「そりゃあ、良いね~。前にも言ってたみたいだけど、ウハウハになりそうだわ。以前のリーザスコロシアムで儲けた金が霞むくらいっ!」

 ロゼはゲラゲラ笑っていた。それを訊いてユーリも思い出す。

「そーいや、そんな事もあったっけな……。あれってオレのおかげで稼げたって事だろ? 色々と真知子さんに聞いたぞ」
「そ、そ! あの時はごっつぁんでした!」
「なら、その代金でいいじゃないか」
「あー、ダメダメ、確かにあんたに稼がせてもらったけど、それはそれ、これはこれっ! それにそ~んな小さい事を言う男じゃないわよね~? 大人なユーリさんは?」
「むぐっ……真知子さんと同じよーな事を……」

 ロゼの言葉に黙るユーリ。
 口利きは出来るから問題ないし、問題にしていないのだが……ロゼに稼がせたと言うのが何処か納得出来てなかったのだった。

「あはは! よーし、しょーがないわね、ユーリ。あの時の礼として、この私! AL教団の優秀、秀才、最強シスターロゼさんには、 皆の士気を上げる最適な方法があるのよ~! それするって事で、チャラにしない?」
「んん? 士気を上げる方法?」

 胡散臭そうに見るユーリだったが、それは願ったり叶ったりだろう。
 どれだけ、はしゃいでリラックスしようと、4度の防衛戦で皆の疲弊は溜まっているのは間違いないのだから。

「もっちろんっ! なんたって、カスタムNo.1! 清楚である シスターロゼのお言葉よっ!? 皆がばっちり反応するのは間違いなしっ!」
「誰が清楚だ誰が……。ま、いいや、何するのかわからないけど」

 ユーリは、半ば呆れていた。
 兎も角、治癒以外に何かを無償でしてくれると言うのだ。乗ってみるのも悪くはないとユーリは頷いた。これ以上悪い方向にはいかないだろうから。

「はぁ……」
「む~、トマト 志津香さんには負けないですよー!」
「あ……私も負けないからね……志津香」

 2人ともに宣戦布告を受ける志津香。
 口では何もないと何度も豪語してる筈なのに、まるで聞いてくれない面々だった。そもそも、それが虚偽なのは見て取れるからだろう……。

「(……うぅ 皆、皆、ユーリさん、ユーリさんと……。ヒトミちゃ~ん……)」

 かなみは、何故かヒトミの事を思い浮かべながら涙目になってしまっていた。

「(……全く、何でアイツの事 皆こんなに想ってるわけ? マリアはマリアで、あのランスだし。皆頭おかしくなっちゃってるんじゃないの??)」

 そして、明らかに自分のことを棚に上げている志津香。


 様々な思いが交錯し合っていた時。ロゼの声がこの場に響き渡った。


『皆~~!! 聞きなさいっ! このロゼさんのお言葉をっ!!』


 その声が響き渡り……そして、皆が注目した。
 比較的に傍にいたかなみ、ミリ、志津香、ラン、真知子は驚いている様だ。突然の声だったから。


「え~、この度の防衛戦っ! 見事にヘルマンを退けて、更に戦いに貢献した人にはもれなくボーナスが有ります!!」


 ロゼは、ニヤリと笑うと、高らかに宣言をする。ユーリは、何やら嫌な予感が走っていた。ボーナスと言う所を考えると、まだ集るつもりだろうか? と思ってしまったのだ。

 だが、それは甘々だった。ピンクウニューンよりも甘かった事を痛感する事になる。

 ロゼは何処からともなく取り出した魔法拡声器を使った。



「もれなく! このユーリ君と《一日デートの券》を贈呈したいと思います! いや、《一日恋人券》というべき代物を! 尚~、勿論 男にとったら、『んなもん!いらねーよ!!』ですから、金券との引換も出来ますよ~! うっふっふ~ 女の子達にあげてもイイかもねん♪ それに、リーザスでも色んな意味で顔のひろ~いユーリ君。今回の戦いがリーザス解放を左右する戦いらしいので、全部終わったら……それなりに報酬は得られると思いますですよ~。 はい、と言う訳で……」


 ロゼは、ひと呼吸を置くと 拡声器があると言うのに、最大級の声量で締めの一言


「さぁ皆っ!! しっかり働くのよ!!」


 こうして、ロゼの大演説が終了したのだった。

 そして、ロゼの台詞を聞いた2秒後に、ユーリは反応する事が出来た!

「って、うぉぃ!!」

 ユーリは、ハリセンを片手に思いっきりロゼの頭をひっぱたいた。

「あぁんっ も~ 何するのよ~。パカパカ叩くなんて~。私の完全無欠な頭がアホになるじゃない」
「も、お前、一回クラッシュしろっ!! その方が良いわ!! 寧ろ、記憶喪失になってしまえ! それにんな アホな報酬で何でやる気なんか出るんだよ! 馬鹿も休み休み言え!」

 ユーリとロゼが漫才している間に……場の空気は固まっていた。その空気を感じ取ったユーリは、これみよがしに、ロゼに言う。

「ほら見ろ、皆 呆れてモノも言えn『おおおおっ!?!?』……はぁ??」

 感じ取った空気。
 ユーリは完全に間違えていた様だ。まず始めに 突如騒ぎ出すのは、前方の女性陣。そして、遅れて後方にいるメンバーの皆も騒いでいる。

「うぉぉぉ!! ついに、ついにこの時が! 合法的ですかねーーー! トマトの時代が来たですかねーー!! 正ヒロイン昇格試験ですかね~!! これは、3に3乗どころじゃないですかねー! √もつけないですし、5も引かないですかねー!! つまりはトマト! 変身してしまうですよ~! レンゴク・トマトですかねー!」
「ふふふ、そりゃ 気合入るってもんだな? 切磋琢磨し合うって意味でも相乗効果が見込めそうだ。それに……ふふ。色んな意味で楽しみだ。誰になったとしても、オレには」
「戦闘には参加出来ませんが、情報戦においては私は十分に貢献してますから 貰ったも同然ですね?」
「真知子さん……余裕過ぎますね……。でも! これは是が非でも負けられません! カスタムの底力を見せてやりますともっ!」

 盛大に騒ぎに騒ぐのは カスタムの乙女達。

「う~ん。あたしは、ランスが良いからなぁ~」

 ミルだけは、テンションはそこまで上がっていない。でも、いつもテンションが高いミルだから、まるで問題ない。そして、やや驚いているのは、町長代行を勤めているチサ。そして、顔を真っ赤にさせているのが、かなみだ。

「あ……皆さん! その粋です。よろしくお願いしますね」
「……ユーリさんと、ユーリさんとの……/// ぁぅ……/// で、でも、まだリーザスの解放と言う大仕事が残ってるし……/// でも、適度な休息って必要だし……///」

 その後も、女性陣が大いに大はしゃぎまくる
 
 そしてほんの少し離れた志津香がため息を吐いていた。

「……はぁ、皆本当にアタマ、大丈夫なの?」

 やれやれとしているが、本人はと言うと、髪の毛先を弄ったり、帽子を弄ったり、服の裾を弄ったり……、そわそわしているのが目に見て取れる。

「(……志津香さん)」
「(バレバレですよ?)」

 同じ魔法部隊にもそう思われてしまっているのである。戦いでもきっといつもの倍増しの威力の魔法を放ってくれるだろうと。負けてしまえば、ライバル達に先を越されてしまう可能性があるのだから。

「うぉぉ!! リーザス解放の暁にゃあ、無料酒がたんまり飲める~~!!」
「ぎゃははは!! 寧ろ、豪邸を立ててもらいてーぜ!」
「あほ言え! 金券でそこまでのは無理だろ。でも、期待はしちゃうぜ!!」
「今日という日の為にオレたちは頑張ってきたんだぜぇぇ!!」

 そして伝染した様に、男性陣からも、歓声が湧いていた。皆 滅茶苦茶気合が入っているようだ。

「………」
「ほ~らね? これ見てもまだ判んない?? 皆すご~く気合入ったみたいよ~?? 流石私、って感じでしょー?」

 ロゼはニヤニヤと笑いながらユーリの肩を叩いた。

 だが、これで、ひょっとしたらユーリの鈍感も治ってしまう可能性が出てしまうかもしれない……とロゼは実は危惧してしまっていた。面白さが半減してしまうかもしれないからだ。だけど、そこはロゼ。

「(う~む、男は兎も角、これだけの女の子に好意の目を向けられちゃったら、私が鍛えたユーリでもねぇ……。でもま、それはそれで面白い展開が見込めそうだし、正妻決定戦から、戦争までプロデュースするのも悪くないかな??)」

 今後の展開を面白センサーと共に画策していく為に考えを張り巡らせていたその時。

「……トに……て……」
「うん? どーしたの? ユーリ。このおねーさんに話してみてみなさい? 何でも聞いてあげますよ~?」

 ユーリが何やら呟いているのを聞いたロゼは、ユーリの方を向いた。ユーリは決してロゼに聞いてもらおうとした訳じゃなく、ただただ独り言を言っていたのだ。ロゼが訊いている事にも気づかずに。

「……アイツら。オレはマスコットか……? ったくもう、絶対に楽しんでるだろ……。毎度毎度、人をからかって……。あん時の宴だってだ。……ブスっ」

 この独り言を聞かれる事自体がかなりの不覚なのだが……ユーリはこの時は何も考えてなかった様だ。顔をしきりにペチペチと叩いているし。

 まさかのロゼのアホな発言からこんなに盛り上がってしまったのだ。混乱してしまうのも間違いないだろう。

 ここまで来たら、絶対に多少なりとは自身が人気がある、想いを寄せられていると言う事が判ると思ったロゼだったが……、ユーリが感じたのはあくまで《可愛い》から来るモノのようだ。


――つまりは……まだ判ってない、変わってない。彼は超鈍感(すーぱーどんかん)


「あーーっはっはっはっは!! さーすがユーリだわ!! さーすが!!」

 ロゼは大声で笑いながらユーリの背中をバシバシと叩く。
 ここまで鍛え上げてきた冥利に尽きる?と言ったものだろう。byロゼ

「っっ!! 痛っ! 痛っ! コラっ! なにすんだよ!」
「あーっはっはっは! でもま、頑張んなさいよ? マリアだって、文字通り身体を張ってんだからさ?」
「……ああ。もう此処まで来たら自棄だ。あー、なんでこんな事になったのやら……」

 ユーリはため息を吐きながらも、剣を抜き 状態を確認した。戦う気が削がれた……等は無さそうだ。

「さぁさぁ! トマトは頑張りますですよー! ヘルマンだろうが テオマンだろうが、何でも来いですかねー!」

 トマトも、スーパーソードを掲げながらブンブンと振り回す。やはり、まだ自分の力量にあってないスペックの武器だからか、危なっかしい。それでもヘルマン軍達を何気に倒しているから、驚きだ。

「うぉい! 危ないって!」
「ふふ、ミリさん。ミルのことも、お願いしますね。……やっぱりちょっと心配ですから」
「ん……。当然だ。妹を戦線に出すのにずっと躊躇しちまってるが、アイツも立派に戦えるんだ。……勿論、オレもフォローをするがな?」

 ミルは確かに優秀な魔法使いだ。ミリにとっては可愛い妹である事は間違いないのだから、面倒を見るのは当然だった。

「そうですよね」
「ああ、真知子も今日子がいるからな」
「……確かに妹だけど、あの子とは私と同い年ですから ミルの様に幼くありませんし、全て自分の判断を任せてます」

 双子である真知子と今日子姉妹だが間違いなく精神年齢は真知子の方が上なのだ。

 常にペースは彼女が握ってるといっていい。……が、誤解しないでもらおう。2人は仲良し姉妹。好きな人、タイプは全然違うようだけど。因みに、今日子は まだ情報を集めてもらっている。時間のギリギリまでだ。

「今回も、絶対に勝つ。ミルともずっと一緒に戦い続けてきたんだ。最後は一緒に笑いたい」
「そうですね。私も今回は、いつも以上に燃えてますよ。今日子と一緒に何億と言わず兆、京までシミュレートしてやりますとも」
「ふふ……、勿論、その気合入る要因は?」
「言うまでもないでしょう?」

 2人は笑いながらそう言っていた。

 何を目的にしているのかは、わかりきっているが……、爽やかに言い合うような内容じゃない気もするけれど。

「……ブツブツ」

 ユーリはまだまだ、何やらブツブツ言ってるようだ。そんな時、ユーリの背中に再び痛みが走る。

「シャンとしなさい!」
「いたっ!!」

 叩いたのは志津香である。

「……ユーリが、最前線での前衛のアンタが、この戦線の要なんだからね。しっかりしなさいよ」
「判ってるよ……。勿論。だけど、心中も察してくれって。……なんで皆して、こ~んな場面でもふざけられるのか……」
「………」

 『ふざけてる訳じゃない!』っと言ってやろうかと思ったが、とりあえず志津香は、口にチャック。
口は災いの元だから。今、周りには沢山……いるからだ。

「ユーリさんっ! わ、私も頑張りますから!」
「あー……そうだな。かなみも宜しく頼むよ」
「私もですよ! ……町の為にも頑張ります」
「あー……そうだな。ランは接近戦も得意だったし。一緒に前衛を頼む。出来る限りのフォローはするよ」

 どう話しても、今のユーリは生返事だった。

 今はとりあえずこれで良い。
 勝ちさえすれば……待っているその後の時間を精一杯楽しむことが出来るのだから。

「だから、しっかりしなさいって、言ってるでしょ!」
「判ってるよ志津香!! ……でも、ちょっとくらい良いだろ! 本番には力ちゃんと出すから!」

 志津香の言葉に直ぐにユーリも反応していた。
 間違いなく大丈夫だろう。皆の士気も上がり、そしてユーリもいつも通りに戦ってくれれば、半日位絶対に持ちこたえられる。

 
 この場の全員がそう思っていたのだった。












~ラジールの町~


 ランス達は、ヘルマン軍が駐屯する街へと足を踏み入れていた。
 当然のことながら、街の入口にもヘルマンの軍が見張りとして立っており、至る所にも巡回している。普段であれば、侵入するだけでも骨が折れそうなものだが……。

「む? キサマら何者だ? 新人か?」
「がはは、オレ様を知らんのか? まぁ 男に覚えてもらえんでも良いが、おい。聞け カスタムの要、総司令官のマリア・カスタードだ! ひっ捕らえてきてやったぞ? がはは!」

 ランスは大口開けて笑いながらそう言う。
 兵達も、初めこそは武器を構えて警戒をしていたが、縛っている相手がマリアである事を確認すると武器を収めた。

「おお、手柄じゃないか。見ない顔だが新入りだな? よし。ヘンダーソン大隊長の元へと連れてゆけ、きっとお喜びになる」
「さぁ、さっさと歩けい、極悪非道、マリア・カスタード!」
「あんっ! な、何するのよっ!」

 マリアの胸を鷲掴みにしつつ、縄を引っ張る。当然ながら、縛り方もランス流の縛り方。引っ張れば引っ張るほど食い込んでしまうのだ。

「やぁぁん……!!」
「ら、ランス様ぁ……早く行かないと怪しまれます」
「ふん、判っている。おい、その司令官、いや大隊長とやらは、どこにいるのだ?」

 ランスは、堂々とそう聞いていた。
 少しは潜入をしていると言う事を理解して欲しいものだが……、兵は多少は訝しんでいるようだが、マリアを捕らえてきた事を考え目を瞑った様だった。

「よし、案内してやろう。オレについてこい」
「うむ」

 ランス達の案内役をしてくれているのは、甲冑に身を包んでいるのに、はっきりと太っている事が判る男だった。まるで豚そのもののようだ。






~ラジールの町長の屋敷~



その場所は、占拠されてから 町で一番デカイ屋敷と言う事でカスタム侵攻部隊司令本部として扱われている屋敷。
その奥の部屋にヘンダーソンはいた。

「ヘンダーソン大隊長。急用があります」
「何よ?」

話声から察するに、どうやら不機嫌のようだ。

「マリア・カスタードを捕らえてまいりました。これで、カスタムも終わりかと」
「きゃーーーんっ!! それは吉報ね?さぁ、早く彼女を私の下へ」
「はっ! おい、入ってこい」

 ランス達は、部屋の中へと入る。
 ランスは、ヘンダーソンを見ると あからさまに表情が変わった。馬鹿にしていると言うか、汚物を見ていると言うか、そんな感じの表情だ。

「(ほうほう、この変態そうな奴が侵攻軍の大隊長、ヘンダーソンか、オレ様のような美形英雄とは、根本的に違う生き物だ、うむ、どう見て馬鹿だ。いや、オカマだ。つまり、馬鹿オカマ)」

 ランスの第一感想がそれである。
 ヘンダーソンはと言うと、マリアを見たと同時に、鼻の下を伸ばして高笑いをしていた。

「おほほほ!! よくやったわ、お前たち! うふふ」
「ちょっ!な、何をっ!!ら……っっ」

 マリアは、ランスの名前を呼ぼうとするが……、咄嗟に口を噤む事が出来た。ここで、バレてしまったら全てが終わってしまうのだから。

「(あーあ、マリアの奴、相当嫌がってるな? まぁ……誰でもそうか)」

 ランスは、ただただマリアの状態を見て舌を出していた。視姦……と思ってるのだろう。ランスは、ユーリに言われた事、すっかりと忘れているのである。

「ほほほ、本当にでかしたわよ! 確かにマリア・カスタードちゃんね。この艶々とした肌。むちむち~っとして、キュッっとして、ぱつんぱつ~~んっ!! 間違いないわねー。それに、今まで何枚も何枚もラブレターをだして、心待ちにしたことか……、ま 全部無視されていたのだけど」
「あ、当たり前でしょ! あんな、気持ち悪いラブレター……来る日も来る日も、似たようなのが、何枚も……って、何枚、ってレベルじゃないわよ! 1000枚、超えてるじゃない!」

 マリアは大絶叫をしていた。確かに、その様子はカスタムでもあったが、だした本人がいるこの状況では、更に大ダメージなのだろう。

「ちなみに、どんな内容だったのだ?」
「お、思い出しても鳥肌立つから、言いたくない!!」

 相当嫌われている、と言う事が判る台詞である。だが、ランスは当然だろ、と納得していた。

「あぁ、ラブレターを書き続け、返事が来ないことに心痛める日々はもうお終い! だって、こうして手に入ったのだから! マリア・カスタードちゃんが! いやぁ~~ん 名前まで美味しそう! もう、食べちゃいたい!!」
「ひぃぃぃ!! いやー、こっち来ないでーーー!!」

 本気の本気で嫌がっているマリア。ランスが縛った拘束状態でも、必死に逃げようとする。

「(うむ、ここは耐えろ。マリア)」

 ランスが若干嫌がってるマリアを楽しんでいる様な雰囲気を出しつつも、そう一応念じていると。

「ヘンダーソン様。失礼します」

 黒鎧の大男、まさにヘルマン軍の象徴とも言える大きな男がやってきた。

「あら、スプルアンス、どうしたのン?」
「はっ、サファイア様の洗脳リーザス兵の本格的な操作準備が完了したとのことです」

 どうやら、この豚兵士はスプルアンスと言うなであり、カスタム侵攻軍のまとめ役の様だ

「ふぅ~ん。試運転は終わりって訳ね。洗脳兵達の。さて、副官スプルアンス。カスタム侵攻は全て貴方に一任するわ。もう、楽勝よね?」
「はっ! 敵はもう 100人足らずの素人集団! かたや こちらは9000を超える兵。懸念材料はありません。ヘンダーソン様は、如何なされますか?」
「……決まってるでしょ? 今からマリアちゃんを美味しく食べちゃうのよ~ン! お~~~っほほほほほ!」
「………」

 ヘンダーソンは、高笑いをしながらそう言っていた。スプルアンスも流石に やや呆れ気味? なのだろうか、言葉を挟んだりはしない。

「さ、行きなさい、スプルアンス。残党狩りの時間よン」
「ははっ!!」

 2人の会話に黙っていなかったのは、ランスではなくマリアだった。

「何言ってるのよ! あんた達の軍なんかいくら集まっても弱いからへっちゃらよ! カスタムの皆は強いんだから、征服する事なんか、出来ないんだから!」
「ほほほほほほ! 本当に可愛いわね~、マリアちゃん。……でもね~、貴女程の知将なら、もうわかってるでしょ? もう、勝てない事くらい」
「……負けないわよ」
「あらあら、そんなに悲しまないでよ。マリアが悲しむと私も悲しくなっちゃうわ。そうそう、言い忘れてたわ。スプルアンス」
「はっ」
「可愛い女の子は大事に扱うのよ? そして、男は殺してしまいなさい」
「心得ております。大隊長。それではこれにて……」

 一礼をすると、スプルアンスはその大きな身体を揺らせながらこの部屋から出て行った。そして、ヘンダーソンはあの豚が出て行ったと同時に、変態丸出しの顔でマリアに迫っていく。

「離せ~~っ! この変態ジジイ!!」
「あなたは、これから私とメイクラブすんのよ。さぁ、ふかふかした羽毛ぶとんが待っているわ。おほほほほ!」

 ヘンダーソンはそう高笑いを浮かべてマリアを抱え、その場を離れていった。
 マリアが恨めしそうにランスを睨んでいたが……ランスはさして気にしない様な表情をした。舌をだして……。

「(あ~~ん! ユーリさぁぁんっ! ランス、ダメじゃないっっ!! この変態に抱かれちゃったら、恨むから……。でも、カスタムを救ってくれてるのも事実だし……)」
「あーーん!! それもこれも全部ランスが悪い!!!」
「らんす? なんのことかしら?」

 ヘンダーソンは首を傾げたが、そのまま、奥の部屋へと入っていった。そして残されたのはシィルとランス。

「ランス様……マリアさん助けを求めてましたし、なんで先ほどのヘンダーソンを倒さなかったのですか?」

 シィルが単独で動くわけにもいかないから、手が出せなかった。逆に襲われているマリアを見て行動を起こさなかったランスに驚いていたのだ。

「あほ。冷静に考えろ。あの場であの変態ジジイを殺すのは簡単だ。だがこの後あの豚を筆頭にウジのようにうじゃうじゃと出てくる軍団をどうするつもりだ? 女なら100だろうが、1000だろうが一度に相手にするが、男はゴメンだからな」
「あ……成る程。流石ですっ!」
「それに、あの豚と変態が言っていただろう? 洗脳をしているサファイアとやらの事を」
「あ、はい! 覚えてましたか?」
「馬鹿者! 当たり前だ!」
「ひんひん……ごめんなさい……」

 こうして、2人は洗脳をしている魔法兵、サファイアを探すために行動をした。
 ユーリが焚きつけた作戦は見事に崩れ去ったか?とも思えたが……、当初の目的の一つであるサファイアを仕留めると言う事を覚えていた事は僥倖だろう。ランスは、名前から相手を女だと決め付けると、意気揚々と捜索を開始していった。







~カスタムの町 周辺荒野~




 スプルアンスの指令通り、カスタム侵攻軍の全部隊。洗脳兵も含めた全部隊が迫ってきていた。……が、マリアが捕まった事は、もう全兵に知れ渡っているのだ。マリアが捕まったという事実がどう言う意味を理解しているのだろう。

「くふふ……、アタマを取ってしまえば もうカスタムなど赤子を捻る様なものだろ?」
「はは、そうだな、ティターヌ。ここまで生き残ってこれてよかったな? スプルアンスの話なら、男は皆殺しでOK、そして女は……げへへ」

 舌なめずりをする兵士。
 ここまで抵抗した以上、何をされたとしても文句は言えないだろう。例え言ったところで 許すつもりも止めるつもりも毛頭無いようだが。

「へははは! そういやあよ? あの町の女共は確かに強ぇが、容姿もレベル高ぇよな? あの顔の全てをオレ達の手でグチャグチャにする……、考えただけでも勃っちまうぜ……」
「ホントだな? まるでボーナスが出たみてぇだ。あ~、ヘルマンに所属してて良かったぜ」
「おい。オルジュ、ブロンズ、ティターヌ。話てないでさっさと行け!!」

 後ろから激が飛ぶ。
 その声の主がスプルアンスである。その容姿と、横暴な物言いから決して部下に慕われている事は……と言うより毛嫌いされている上司だったのだが、今は違う。兵士達のモチベーションも良いから、ちゃんと話も聞き隊列を元に戻していた。

「ふふふ……さぁて、まあ そこまで気張らなくても問題なかろう。相手もマリアが捕まった事で絶望しているに違いないのだ。はは、てきとうに葬ってやろうではないか。……ぐふふ、私の狙いはあの緑色の髪の女魔法使いだ。強気そうなあの女の歪む顔が見たくてみたくて堪らない。ぐはははは!!」

 軍隊筆頭の男でさえ、完全にカスタムを舐めきっている状態。
 部下達にもそれは確実に伝染し、まるで、ピクニックに向かっている気分の様だそう、女を犯しにいく狂乱のピクニック。そして、後ろに続くのはただ洗脳されただけの虚ろな兵士達。

 果たして蹂躙されるのはどちらなのか。

 モチベーションが最大限に高ぶっているのはカスタム、ヘルマンの両者とも同じだろう。
 ただ、人数に圧倒的に分があるのはヘルマン。カスタムは戦えるメンバーは少数精鋭とは言え、100を切る。方やヘルマンはその約60倍の勢力。

 単純に考えたら1人あたり60人を倒さなければならない。普通に考えたら無理な話だ。

 だが、カスタムは粘れば勝ちとなる。ランス達が、サファイアを仕留める事が出来たなら形勢は逆転する。

 ただヘルマン軍は知らない。

 マリアが抜けた穴を補う者が……否 補うどころではない程の者達が加わっていると言う事を。














~カスタムの町~



「……来る」

 その男は、見張り台の上に立ち荒野を眺めた。地平線に見えるのは、黒い一筋の影だ。まるで陽炎の様に揺らいでいた。

「さぁて……暴れてやるか。落とさせるかよ。ここを。……ここは、大切な人達が住む町だ。住んでいた町なんだ」

 調子は普段のそれに戻っているようだ。

 男は剣の柄を握り締める。少し鞘から抜いた剣。その刃に日光が反射し、鈍く光を放っていた。























~人物紹介~


□ ヘンダーソン

リーザス王国を侵略した第3軍の大隊長の一人。
……以前に志津香も言っていたが、オカマ言葉でナマズ髭でなよなよしている感じと言うのは大大正解であり、変態中年である。
何故大隊長の地位になれたのかが、不思議な男なのだが……、実は彼の能力は他にもあり、それが要因しているのではないかとの事。

 いずれ、判明する……事は無いだろう。(きっぱり)


□ スプルアンス

ヘンダーソン大隊長の側近であり、今回のカスタム侵攻軍副官。
甲冑を来ているが、はっきりとその体のラインが分かるくらいにブクブクに太っており、まるで豚の様な容姿。こちらも、何故副官にまでなれたのか判らない。恐らくはオベッカだと思われる。故に部下には全然と言っていいほど、慕われていない。



□ ヘルマン兵 オルジュ、ブロンズ、ティターヌ

ヘルマン3軍に所属している兵士。
圧倒的な強さとカリスマ性のある第3軍の将軍に憧れて入る者達が多い3軍だが、彼らはただ自らの欲望を満たす為だけに、3軍に所属し 今回のリーザス侵攻後のカスタム侵攻にも喜々として志願した。
再4度も敗北し、かなりイラついていたが、今回の件ですっかりと調子を取り戻した様だ。

はっきり言って、下衆な兵士である。


名前はバンダイナムコソフト作品「テイルズオブヴェスペリア」より、敵兵名(モブ)から抜擢

 
 
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