serial experiments S. A. C
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
イドの昇華 -Sablimatin of Id- Collective unconscious
可能性
「先日の死人が出てからはぱったり事件が止んじまったなー」
「まあ事件が止んでも俺達のやることには代わりはないさ。なにせ俺達に与えられた命令は"事件を解決しろ"だ」
「……そうね。この事件を解決するのが私達9課の役目」
「…………少佐?」
どことなく考えに耽っていた草薙の、朴訥とした反応に違和感を感じる課員達。
いつものキレがないという点に妙な気配を感じていた。
「笑い男の事件を覚えているかしら」
笑い男事件。
セラノゲノミクス社社長誘拐と、その後のウイルスプログラムをばら撒くという手口を使ったマイクロマシンメーカー6社に対する脅迫事件。正式名称は広域重要081号事件。犯人の1人は同時に複数の電脳に侵入し、人々の視界の自らの顔の部分に、名前の由来ともなった笑い男マークをリアルタイムで上書きし続ける事も可能な超特A級ハッカーであった。
「忘れるなんてあるわけねーだろ」
「笑い男事件は人生の中で10本の指に入る出来事だしな」
「後一歩のところで壊滅する所だったし」
「未だに笑えるぜ。もとこ「やめろ!!」」
「そうね、かなりギリギリの事件だったわ。ところで覚えてる?」
「タチコマの進化を」
タチコマ。
9課の主力となる多脚戦車で9体が配備されていた。人工ニューロチップを用いた人工知能をもち、とある事件以降は各自個性的な性格を持つようになったが、笑い男事件を経て破損したことにより台数は減少した。
「そりゃあ覚えてる」
「今回の事件についてlainとあの後も会って話し合っていたの。大部分の情報はあまり関係の無いことだったけど、今回の事件に関係のありそうな重要な情報を手に入れたわ」
「少佐。今回の事件とタチコマとなんの関係があるんですか?」
「人工知能」
「え?」
「lainは人工知能を組み上げたのよ。多分、今回の事件の犯人はその人工知能。全く、凄まじいとしか言いようがないわ」
「ちょっと待って下さい少佐!人工知能を、しかもこんな事件を起こすような高度な技術を持つ人工知能を作り上げた!?」
「更に言うとlainは自分の作った人工知能が事件を起こしている事に気付いていない筈よ」
「はー、またそれはえらいもんだな……」
「しかし一体どうやって作ったんだ?技術さえあれば人工知能を作り上げたのはまだわかる。だが、人工知能を作れるような技術は民間軍事会社みたいなセキュリティの高い……」
「「「「あ」」」」
lain。
それは電脳空間で"神"とすら称されるハッカー。
lainに並大抵のセキュリティは適わず、足跡すら残さない高度な技術を持つ。
「それでもだ。何処で作ったんだ?それが判らなきゃ対処のしようがないぜ」
「……いや。何処でとか、どうやって、とかいう問題を全てクリア出来る方法がある。」
「答えはそう……」
「「電脳空間」」
電脳化を行った人物なら誰でもアクセス可能である仮想空間。電脳化していない社会人は少なく、勿論その少ない人間のうちに全ての民間軍事会社などの社員が収まっている訳でも、ない。ワイヤードという一種の芸術的なプログラムを作り上げた超特A級ハッカーと推定されるlainの技術なら、人工知能を電脳空間のみで作り上げるのも可能だろう。
「ただ1つ。lainの想定外だったのは、lainが組み上げた人工知能がlainの思考や技術を吸収して進化したこと。lainは自分の作り上げたワイヤードで、不愉快な行動をするプレイヤーに不快感を感じていたわ。つまり、lainの人工知能もlainの思考をトレースし、障害物を排除した可能性が高い」
「lainは一体何を思って人工知能を……」
「何でも話せる友達が欲しかった。そうlainは言っていたわ」
それは些細な、しかしとても重大な問題。
何でも話せる友達が欲しいという願望は、人工知能が故、初期の頃にはその願望を果たす役割は到底背負うことが出来ないものだったのだ。
「これでやる事は決まったな」
「そうだな」
「少佐。頼むぜ」
ふう、と人間味を表すように義体には不必要である息を吐き出す行為を行う。
これからの作戦は厳しいものになるのは確定している。
凄まじいスピードで進化し続ける人工知能に公安9課は応じれるか。
いや、応じなければならない。
「犯人はlainが作り上げた人工知能!そいつをどうにかするのが今回の事件の解決に繋がる。いいかお前ら。全力であたれ!例えゴーストをもつ人工知能だったとしても、犯罪行為は御法度だという事を教えてやれ!」
ページ上へ戻る