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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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【ソードアート・オンライン】編
  102 はじめてのボス戦 その1


SIDE 《Teach》

〝ドアホウ〟──もといキバオウの乱入でグラつきかけた空気を有耶無耶(うやむや)にして、はじめての攻略会議は一応の収まりを見せた。……それが約4時間前のことである。

「最終確認だ。良いか? 俺達がするのは、あくまでも〝威力偵察〟だ。まずはディアベルの指揮で4本あると云われているHPバーの1本を消し飛ばす。……ディアベルもそれで良いな?」

「判ってるよ。2本目のHPバーはティーチ君の指揮で無くし、それで撤退──で良いんだよね?」

ウェーブ掛かった水色の髪の青年──ディアベルが頷くのを確認する。……そう、俺達は今からボスの威力偵察をしようとしていた。……主に確認するのはボス部屋の〝雰囲気〟〝取り巻き(センチネル)のβとの差異〟〝フロアボスの顔〟だった。

俺が発案した威力偵察に乗ってくれたのは、12──2パーティー分の人々だった。……2パーティーの内1パーティーはディアベルの居るパーティーで──もう1パーティーは俺達のパーティーである。

……俺達のパーティー──俺、キリト、リーファのトリオに、ユーノとアスナ…そして、エギルと云う禿頭(とくとう)に褐色バリトンボイスのナイスガイが参入した。

―アスナです、宜しくね。ティーチ君と──キリト君とリーファちゃんで良かったかな?―

―本当の〝はじめまして〟はリーファちゃん──だけだよね。キリトはβテスト時代に、ティーチ君にはこの前会ってるからね―

―ようBoy、あの場であれを言えるGut’sには痺れたぜ。……〝さん〟付けは必要無い。気軽エギルとでも呼んでくれ―

上から順に、普通な挨拶のアスナ。やけにリーファの存在を気にしながらユーノ。やたら発音の良い英語を混ぜながらエギル。……これらが参入の際の挨拶だった。

閑話休題。

ディアベルと、やけに冷たく感じるボス部屋の扉に手を掛ける。……ディアベルとアイコンタクトを取り合い、2人で扉を開け放った。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「……あれなら、48人も居なくてもどうにかなりそうだったな」

「……そうだね」

ボス部屋から撤退して、【トールバーナ】に引き返した俺達は先ほどの威力偵察の意見交換をしていた。……それから決めなければならい事も有ったので、そんな真似──意見交換なんて事をしていた。

「じゃあ皆、実際のフロアボス戦では多大なる人数に関係する事だ。忌憚(きたん)贔屓(ひいき)無しで、〝どちらの指揮が戦い易かった〟かを言ってくれ」

……〝決めなければならい事〟…。それは〝実際のフロアボス戦で俺かディアベル、どちらが指揮を執るか〟──割りと切実な問題だった。故に先だって〝複数パーティー〟で威力偵察を行い、〝どちらの指揮が戦い易かった〟かをパーティーの全員に聞く必要が有った。

「ティーチの指揮の方が戦い易かった」

「おいっ!」

(んん? ……ディアベルの指揮も悪くなかったと思ったんだけどな)

豈図(あにはか)らんや──意外にも、一番最初に俺を推したのはディアベルのパーティーの人間だった。……もう1人の──俺が指揮する事を(こころよ)く思ってないらしい人間が声を荒げる。

「ディアベルさんには悪いが! ……ティーチの指揮の方が戦い易かったと言わざるを得ないんだ! ……それこそ、幾つか自分のレベルが上がったと錯覚したくらいになっ…」

(……昔取った杵柄と云うか──ハルケギニアでアルビオンの軍を率いていた経験がこんなところで活きてくるとはな…)

「……判った。……指揮はティーチ君に任せよう。頼んだよ、ティーチ君」

「任されたよ」

差し出されたディアベルの手を取る。……これが──俺が〝第1層フロアボス攻略総指揮官〟に就いた経緯だった。……フロアボスの攻略の決行日を2日後に取り決め、この日は解散となった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

威力偵察から2日──フロアボス攻略決行日当日までの2日は(もっぱ)らパーティーの連携訓練と、レベリングに費やされた。……そして今は8パーティー分の人数──48人もの人間を率いてボス部屋の扉の前に居て、ボス部屋を背にして皆に顔を向ける。

「いいかっ! ……先日行われた威力偵察ではフロアボス──《イルファング・ザ・コボルド・ロード》のHPバーを2本も減らせた。……それもたった12人──2パーティー分の人数でだ。……それが今ならどうだ…4倍もの人数がここには居る!」

今、俺がやっているのはボス戦直前で浮き足だっているレイドのガス抜きである。

「確かにフロアボスは、畏怖が有った! 強壮だった! ……しかし先にも言った通り、たった12人でHPバーを2本も消し飛ばす事に成功した! ……ある人は言った〝闘いは数だ〟と…」

溜める様に一旦句切る。

「……未だボスと対面していない者はフロアボスの顔を確認したら、さぞや恐怖するだろう…。だがしかし、そんな時は思い出して欲しい。……〝自分は独りで闘っているわけでは無いのだ〟と!」

背に負っていた槍を掲げ宣言する。

「〝俺達はお前の作ったゲームになんか負けてやるか〟──と、茅場 晶彦の鼻を空かしにいこうか! ……その為にもまずは第1層のフロアボスなんかでは立ち止まって居られない。……皆の者──武器を掲げよ!」

――『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』

途端、迷宮区内に怒声が轟いた。

「さぁっ! この〝鋼鉄の(くびき)〟からの解放を、今も切に願っている同士達の〝希望〟への架け橋となろう! ……今日がゲームマスター──茅場 晶彦への叛逆の始まりだ!」

最後に──怒声に負けない声でそう告げて、ボス部屋の扉を力一杯に開いた。

SIDE END

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

SIDE OTHER

「ディアベル隊、フィール隊とスイッチ! ボスは確かに硬い! たが、HPバーは減らせる! まずは攻撃を当てる事からだ! 〝センチネル〟は3人で当たれば、大した脅威じゃない!」

フロアボス──《イルファング・ザ・コボルド・ロード》のヘイトを稼ぎ、ボスの攻撃をキリトやエギルと交代で〝弾き(パリング)〟の作業の補佐をしているティーチの指示と鼓舞の言葉がボス部屋の中で響き渡る。

「やぁっ!」

「てぇぃっ!」

「せぇいっ!」

ユーノの〝片手剣〟、アスナ〝細剣(レイピア)〟、リーファの〝曲刀〟による連続のソードスキルが《イルファング・ザ・コボルトロード》のHPバーを数センチ削る。……その時、天がプレイヤー側に微笑んだ。

……今の連続攻撃で──リーファの2連撃ソードスキル“バイト・リーパー”がボスの脚にクリティカルを与えた。……自重(じじゅう)を支えきれなくなった《イルファング・ザ・コボルド・ロード》はプレイヤー達に醜態を曝す。……有り体に言えば、転倒したのだ。

「転倒だぁぁぁあっ! 皆っ、ボスにソードスキルを打ち込めぇっ!」

左足側に崩れゆくボス。……当然そんな隙を〝司令塔(ティーチ)〟が見逃すはずも無く、プレイヤー達は〝茅場憎し〟の怨念を籠めたとでも錯覚しそうになるほどの気勢でソードスキルをボスに浴びせる。

「っ!! 総員、ボスから離れろっ!」

40人近くがボスにソードスキルを〝これでもか!〟と浴びせいる最中、ティーチはぞくり、と冷や水を浴びせられた感覚になったので、その直感に従ってレイドの人達を前線から──転倒しているボスの周囲から離れさせる。

……その直感が正しかったのだと判ったのは、最後に1人が〝その範囲技の範囲外〟に出た瞬間だった。ギリギリだった。……《イルファング・ザ・コボルド・ロード》のHPバーは最後の1本まで減っているのをティーチは見た。

「……ディアベル、〝あれ〟は何のカテゴリーか判るか?」

「……〝アレ〟は野太刀──カテゴリーは〝カタナ〟だよティーチ君。……もしあのまま攻撃に専念していたら…。助かったのはティーチ君のお陰だ」

ディアベルは〝もしも〟…〝原作〟では起こり得た事を──ティーチやディアベルは知らない事だが、それを回避出来たのでディアベルはティーチに礼を言う。

《イルファング・ザ・コボルド・ロード》はHPバーを最後の1本まで減らされると、持っていた(バックラー)と武器を捨て、曲刀(タルワール)に持ち換えると云うのが前情報だった。……しかし、今のボスが持っているのは〝カタナ〟である。

「〝カタナ〟、ね」

「ティーチ君、悪いことは言わない。〝カタナ〟のスキルに対応出来るβテスターに替わるんだ」

「……そうも言ってられないみたいだぜ──っと!」

ティーチはディアベルの諫言(かんげん)を聞きながら、文字通り[猪突猛進]な勢いで突っ込んできた《イルファング・ザ・コボルド・ロード》の──野太刀での一撃を〝パリィ〟する。

「危ない、ティーチく──」

ボスの刀から放たれる燐光──〝カタナ〟のソードスキルにディアベルが叫ぼうとするが、すぐに荒げていた声を潜める。……ティーチが〝カタナ〟のソードスキルを──〝知らないはずのソードスキル〟を華麗にソードスキルで相殺していたからだった。

「ディアベル、タゲ取りはティーチに任せよう。俺達は、今俺達にしか出来ない事をしよう」

「そうですよ、〝センチネル〟だってまだまだ〝再湧出(リポップ)〟しますし」

「キリト君、リーファちゃん…」

「アスナ、ボク達はティーチ君がタゲ取りしてるうちにダメージを稼ごう」

「うん、お姉ちゃん」

物言いたげなディアベルをよそに、ユーノとアスナはボスへ駆け出し、ユーノとアスナの鋭さのある剣撃がボスへと殺到する。1つ2つと続く剣撃は着実にボスのHPバーを削り──やがてレッドゾーンまで追い遣る。

「スキ…有りぃっ!」

間隙を衝き、ソードスキルと筋力値──ティーチは無意識だが〝STRENGTH(ストレングス)〟にモノを云わせて《イルファング・ザ・コボルド・ロード》の〝フロアボス〟の名に恥じぬ巨体を、上空へとかち上げる。

「転落地点でソードスキルをぶちかませぇぇっ!」

ティーチはかち上げた──空中で迎撃のためにソードスキルを発動させようとしている《イルファング・ザ・コボルド・ロード》の攻撃をソードスキルを相殺し、そのままその巨体を地上へ打ち落とす。

ティーチからして仰向けに落ちてゆく《イルファング・ザ・コボルド・ロード》。……もちろんティーチも落下している。ボスのHPは残り数ドットで、ティーチは落下エネルギーを槍に籠めながら、落下している体制のまま、ボスの心の臓を貫いた。

ティーチがボスの胸を貫いたと同時に、《イルファング・ザ・コボルド・ロード》はそのHPバーを散らしたのだった。

SIDE END 
 

 
後書き
明日もう一話投稿します。 
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