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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第46話 必勝作戦


 今回の1件。事の発端を、何故 リーザス大国が陥落したのか、その原因を皆が知った。

 そして、動揺を隠す事は誰にも出来なかった。ヘルマンの背後に、人外が……魔人がヘルマン側にいるというのだから。

「魔人が……」

 ランは驚愕の表情をし、そして 同時に顔を暗めていた。
 ただでさえ、ヘルマン軍とこちら側では、兵士の数が違う上に、人間では抗う術がないと言われている圧倒的な力を持っている魔人がいるのだから。

「あの洗脳をしている人数、……そして 異常なまでの魔物の多さ。その異質な軍勢だったが、魔人が背後にいるのなら、納得がいくってもんだ。……まいったね、こりゃ」

 流石のミリもそこまでは予想していなかった様でそう言っていた。如何に男勝りな所がある彼女でも今回ばかりは嫌な汗が流れているようだ。

「……敵を早い段階で知れたと良い方向に行こう。闇雲に言っても、鉢合わせになるのが一番危ない。アイツ等は強いからな」

 ユーリは、意気消沈気味なカスタムの面々にそう伝えた。その言葉を聞いて真知子がやや驚きながらユーリに聞いた。

「ユーリさん……、もしかして、魔人と対峙した事が……?」
「まぁ、以前にちょっとな」

 ユーリは、少し言葉を濁す様に答えた。

 あのリスのウーによる、誘拐事件で 確かに魔人と対峙をしているのは間違いない。……厳密に言えば、少し違う所があるが、それは今は良いだろう。

「流石ユーリさんですかねーー!! ユーリさんがいれば魔人なんかちょちょいのちょ~~い!! ですかねーー!!」

 不安を一気に消すかのようにトマトが歓声を上げた。いつも明るい彼女と言えど、背後に迫る人外の存在を訊いて、青ざめていたから。御伽噺に出てくる伝説の魔物。それが 魔人なのだから。
 少しでも、安心がしたかった事もあるが、何よりもウエイトを占めているのが、ユーリ達、ユーリと再会出来た事が一番だろう。

「はぁ……、アンタって結構規格外な所あるって思ったけど、今回ばかりは私も驚くわ」
「いやいや、引くなって志津香」

 トマトとは正反対に、志津香は、ため息を吐いていた。

 ユーリは慌ててそう言っていたけど、志津香の反応が、1番正しいだろうと思える。

 人間が魔人とやり合うなんて、歴史上でもあまり見られる事ではなく……。基本的には、少数の魔人が人間達を蹂躙するのが一般だ。人間側からすれば、とんでもない事だが……そこまで圧倒的な差があるから。

「バカを言うな! ユーリのやつは格好つけて行って、あっさりと返り討ちになっただけではないか! がははは、どーせ死んだふりをして助かったのだろ? 情けない奴だなぁ!」

 ランスはランスでいつも通りの物言いだった。これ見よがしに、笑っているが今回ばかりはユーリも否定はしない。

「魔人相手だったんだ。無茶言うなよ……。それに トマトも過剰に期待してくれるな。アイツ等はたった20数人で、人類を潰せる連中なんだからな」

 志津香の次に今度はユーリはため息をはいた。

 こんな感じで場が笑いに包まれる。絶望とも言える戦力差があるのに、何故こんな会話が出来るのだろうか? と。

 マリアと真知子、そしてミリも見ていてそう思ったのだ。そして、何よりも感じる事がある。それは安心感が出ると言う事だ。

「はぁ……でも何でかな? 安心出来るな」
「そうね、あの2人なら本当になんでもしちゃいそうで……、殺伐とした空気だったのに、一気に和んじゃって」
「だろ? 今回はトマトも1枚噛んだしな。アイツの性格は良い。まっ、トマトの場合、ユーリ限定だとは思うがな。あ~、今回を期に、想いを成就させてやりたいな~~、なぁ、志津香はどう思う?」
「っっ!? はぁ?? 何言ってんのよ!」

 突然のミリの物言いに動揺を隠せない志津香。ユーリ達は、チサ達と話をしていたから 聞いていないようだ。……勿論、その部分も狙って言ったのがミリなのである。

「……兎に角、まだ見えない驚異より、今は眼前の敵に集中だ。マリア、現在のカスタムの軍勢は……って、何してるんだ?」

 ユーリが話を戻そうと、マリアとミリ、志津香の方へと顔を向けた。
 そこでは、ミリが笑っていて、マリアが志津香に抓られてて……、マリアの頬が思いっきり伸びていると言うシーン。志津香の打撃が凶悪な威力があると言う事をよく知っているユーリは……、あの抓りも非常に痛そうだと思えていたが……。

「な、何でもないわよ!!」
いふぁふぁっ(いたたっ)!! し、しじゅかぁっ(志津香っ)! ち、ちかりゃ(ちからっ)!! ちゅよすぎだひょっ(強すぎだよっ)! ち、ちぎゅれちゃうよふっ(ちぎれちゃうよっ)!!」

 ユーリが来たことで、更に妙な力が入った志津香。マリアの頬が悲鳴を上げた事は言うまでもないだろう。

「何をじゃれているのだ馬鹿者共。この大変な時に」
「アンタにだけは言われたくないわよ!!」

 ランスがため息を吐きながら突っ込みを入れていたが……、当然ながらこの男にだけは言われたくないと、志津香は真っ向から反論をしていた。
 それを見ていたミリは……。

「あー、志津香? いつでも良いぜ? ご利用をお待ちしてますってな? なんなら、トマト達を含めた3Pでもって、うおっ!?」

 最後まで言わせずに飛んでくるのは炎の矢。

 それは、ミリの足元に着弾し、燃え上がっていた。

「あ、あぶねえよ馬鹿!」
「う、うっさい!!」

 志津香とミリは まだじゃれている……。

 話が進まないので、とりあえずユーリは、まだ頬が痛そうなマリアに状況を聞くことにした。どうやら、ランスも同じようだ。何やら、ランスも面白くなさそうな顔をしている。話を聞いていた訳ではないのだが……。何となく話題が判ったのだろうか、自分の話題じゃないという事に。

「おい、マリア。馬鹿共は、ほっといて教えろ。今カスタムの勢力はどのくらいなのだ?」
「いつつ~……、ふぇっ? あ、ああ、ミリとランが戦士を中心とした構成の100名を其々指揮してて、志津香の魔法部隊が30って所ね。それで私の直轄部隊として、チューリップ砲火部隊が20。だからカスタムの防衛軍は総勢250名ね」

 マリアは、涙目で頬を抑えているが……、それ以上にこの差の方が痛いだろう。

「250名……それで、敵が6,000か。まったくもって話にならんな」
「だな……敵は兵力は約24倍。それでよくぞこれまで持ちこたえた。それだけで十分驚異的だ」

 ランスもユーリも同じ感想だった。
 
 普通なら、何度も言うように数の暴力で圧倒されるのだが。町の防衛軍にしておくには惜しすぎるスペックだ。以前にマリスにも、ハンティにも言われていた言葉だが……、少しだけ彼女達の気持ちがわかった気がするユーリだった。

「でもね……、過去4回の戦いで守備隊は、殆ど壊滅状態なの。もう250の内、100名も動けるかどうか……こんな状態で次に攻撃をされたら……」

 そこから先に出てくる言葉、それは『絶体絶命』だろう。だが、マリアは決して口にはしなかったけれど、それは伝わってきた。

「ふん。まだまだ、奴らになんか、この町を渡さない。侵略するには高い血の代償がいることを教えてやるさ」
「こらぁ! ミリっ!! さっきの撤回しなさいっ!!」
「へへ~~ん」

 ふざけているのか、勇ましいのか、頼りになるのか……。全く判らないが、絶望するよりはよっぽど良いと思える。戦争中だと言うのに、いい意味で 楽しそうだから。

「はぁ……能天気な馬鹿共だ、しかしえらい所に来てしまったようだ、正面衝突しても、無駄だな」
「ランスにしては、至極まともな意見だな? てっきり、猪突猛進に突っ込むかと思っていたが」
「馬鹿言うな。6000もの女なら兎も角、男などを相手にしてられるか!」

 数じゃなく、男か女かで判断している。
 堂々とそう言ってのける所だけを見ると……、ある意味ではやはり この男は本当に大物だと思えてしまうのは無理ないことだろう。

「でも、他に戦う方法は……、過去4回も撃退できたのも 真知子さん達 情報の専門家による綿密な防衛計画、それに皆のコンディションが最高だったから出来た最善策だったの。もう、他にどうしたら良いのか私にも教えて欲しいわ」

 マリアは下を向いた。気持ちは判らなくもないが、今はよくない。

「マリア 顔を上げるんだ。トップの者が下を向いていたら、皆の士気に関わる。……酷だとは思うが、ピンチの時程ふてぶてしく笑え。笑う門には福来ると言うヤツだ」
「ユーリさん……」

 ユーリの言葉に、心を立て直したのか、涙目に俯かせていたマリアだったが、顔を上げた。

「……ありがとね」

 そんなマリアを見た志津香がユーリに耳打ちをした。さっきまで騒いでいた彼女だったのだが……。

「はぁ、もう終わったのか? ミリとのお楽しみは。あの粋だって事をマリアに教えてやればこうは「ふんっ!!」っっ!!」

 最後まで言い切る前に、……ユーリの足に正確な蹴りが飛んできていたのだった。



「がははは!!」
 
 突然ランスが笑い声を上げていた。何事かと、皆の視線がランスに集まる。

「流石はオレ様だ! 確実に勝てる作戦を立てたぞ? 喜べ、がはは!!」
「突然何を言い出すかと思えば……、いい加減なことを言わないで! マリア! こんな奴の話なんか聞く事自体無駄よ!」
「……なぁ、志津香。ランスに暴言を言うのは構わないが、言いながら オレの足を踏むのはやめてくれ。言葉の強みに合わせて痛くなってる」

 志津香は、言葉の強弱に合わせて、故意か偶然か……ユーリのつ目先を踏む力を上げていたのだ。ミシミシミシ……、と悲鳴をあげているのは言うまでもないだろう。

「う、うるさいっ!!」
「って、それは 横暴だろ!!」

 何も悪くないユーリ側からしたらたまったものじゃないのだった。そして、どこからどう見ても、楽しそうな志津香とユーリを見て若干落ち込んでいるのはかなみ。

「うう……ユーリさん。……ううんっ! えっと、ランス? 本当にそんな事ができるの? はっきり言って絶望といってもいい状況なのよ?」
「何を言う、これだからへっぽこ忍者は……、この程度軽くクリア出来なければリーザスを救うなど到底無理じゃないか!」
「そ、それは……」

 かなみは、その言葉を聞いて思わず息を呑む。
 確かに、この小規模人数でリーザスを解放しようとしていたのだ。しかも、ヘルマン第3軍。敵勢力総本山がいて、その上に魔人がいる。そんな状況でも、取り返そうとしているのだから。こんな所で絶望なんか言ってられない。

「かなみ……。よし、ランスの話を聞いてみようじゃないか皆。志津香もそれでいいだろ? 一先ず 文句は聞いた後で、って事にしよう。他の皆も良いか?」
「っ……仕方ないわね」
「うん。どうせ勝目がない戦いを無理にするくらいなら、ランスに賭けてみる」
「任せておけ! 勿論成功した暁にはマリア、志津香、そしてミリ! そうだな、ついでにかなみ! 4人とも腰が抜けるまでヤr『さっさと話をしろ、馬鹿』むがっ! オレ様に割って入るとはいい度胸だな!? このガキが!」

 ランスの間に割って入るユーリ。

 ランスの要求は判りきっている。ミリやマリアは別に抱かれる事に抵抗が無いようだが、2人は違うだろう。でも、状況が状況だから……と言う理由で首を縦に振ってしまいそうだ。望んでいない行為をさせる事程、不幸な物はないと思えるのだから。はぐらかせれるのなら、はぐらかす方が良い。

「……ユーリさん」
「兎も角、さっさと話して! 失敗したらただじゃおかないからね!」

 かなみは、ユーリを見て目をうるわせ、志津香はランスの方を見ていた。今の顔を……ユーリに見られる訳にはいかないから。ユーリがランスに割って入ってくれた事が、どうやら嬉しかったようだ。

「オレも良いぜ? この男の作戦って大体無茶だと思うんだが、別の作戦の殆どだって、無茶苦茶も良いところなんだ。このままじゃ、どの道、殺られるだけなんだからな」
「はい。私も同感です。ラギシスを倒せたのもランスさん達のおかげなんですから」

 ミリ、真知子も頷いた。ラギシスの時もそうだった。……最後にランスが来てくれたおかげで勝てたと言ってもいい。勿論 ユーリの事の方が大きい、と殆どの人が想っているけれど、助かったのも事実だった。

「そうですね……、町の皆は本当に限界です。これ以上苦しむ所を見たくない。まだ町に償いをしきれていないのに」
「ランさん。私たちは皆そんな風に思ってませんよ。……でも、町長代行の私からもお願いしますランスさん」

 ランも頷き、そして町長の代行であるチサも頭を下げた。町の主力とも言える面々全員が賛成をしたのだ。それ以外の者達に異議があるはずもない。

「ランス様……本当にヘルマン軍を倒す方法なんてあるんですか?」
「何? シィル。お前オレを信じられない、そう言うのか?」
「いえ! そんな事はありません。やっぱり、人数の差を聞いちゃって……。その、私も怖いですから……」

 シィルは、肩を少し震わせている。そう、シィルも怖いのだ。自分自身が傷つく事もそうだが、それよりも親しい人達が殺られてしまう事だってそれ以上に怖い事なんだから。

「……馬鹿者、全部オレ様に任せておけ」

 ランスは、軽くシィルの頭をコツぐと皆の方を向いた。

「よ~し、愚民ども英雄ランス様の言葉をきけぇ~い! がははは!!」
「誰が愚民よ!!」
「志津香、抑えて抑えて……」

 ランスの発言は、勿論志津香を怒らせるモノだったが……隣にユーリがいたおかげでとりあえず、抑えられた。そして、ランスから出た作戦を皆が聞いた瞬間。これまた勿論、志津香が騒ぎ出す!そして、すぐ横にいたかなみも同様だ。

「やっぱり!! 聞くだけ無駄だったのよ!! そんな作戦!」
「それは、あんまりよランス!! マリアさんに何か合ったらどうするのよ!!」

 志津香、そしてかなみは、ランスに掴みかかる勢いだった。内容が内容だったから。

「何を言う? これ以上の策は無いだろ。敵に取り囲まれているんだぞ? がはは! 正面衝突する事に比べれば安いもんだろ、がはは!!」
「何度も何度も笑うな!! その笑いムカつく!!」

 志津香は、蹴りを放つが……ランスには、特に効ていないようだった。対ユーリ専用の魔力キック。本人じゃないから効力半減と言った所だろうか?

「う……、そ、それは流石の私も……、アイツの所に行くなんて……」
「ん? アイツ? マリアは面識があるのか? 敵側と」
「あう……それは……」
 
 マリアの一言を聞いて今まで考えていたユーリがそう聞いた。マリアの口ぶりから察するに、どうやら捕まったら何処に連れて行かれるのか判るようだ。

「うぅ……」
「それは、私から説明させてもらいます」

 真知子が横から説明をする。
 マリアは終始嫌そうな表情のままだった。

「カスタム侵攻の部隊のヘンダーソン大隊長は、私を通してマリアさん宛に1000通をも超える程のラブレターを短期間で送ってきてました。……マリアさんを女性として意識しているようです。皆マリアの姿を見て、人生試練のオートリバースって言葉が似合うと言ってました」
「……一体何に力を入れてるんだ? その大隊長とやらは」

 呆れてものも言えないと言うのはこの事だろう。
 1000をも超える手紙を出す労力は決して並じゃ計り知れない。ラブレターと言うからには、部下に書かせたりはしないだろう。大隊長がかまけていたおかげもあって、侵攻が遅れているとしたら……、こちら側にしては願ったり叶ったりだろうが。まず判る事はある。つまりは、相手側の大隊長は頭のネジが何本か破損していると言う事。

「……マリア。ランスの作戦、……酷だが頼めないか?」
「うぇっ!? や、やっぱりぃぃ!?」

 ユーリが考え込んでいた所を見て嫌な予感が走っていたマリアだったが……。その予感通りの言葉が来たのだ。嫌な予感は的中するのが世の常。

「がははは! オレ様の作戦の素晴らしさが判ったようだな? ユーリ!」
「ちょっと! コラ! ユーリ! マリアに何か合ったらどーするのよ!」
「大丈夫だ」
「何を根拠に……っっ!」

 ユーリは、志津香の口元に人差し指を当てた。
 軽く赤面をする志津香と、何処か悲しそうに見ているかなみ、そして ニヤけている面々。そんな事は知らずにユーリは続ける。

「ランス。お前の言う作戦だが、敵側の大隊長とやらは、マリアに相当執着しているみたいだ。渡したら最後、どうなるかは火を見るより明らからしいな」
「何だと!? マリアはオレ様の女だぞ!? 渡す筈がないだろう! 潜入したら、洗脳してると言う魔法使いもずばーっと殺して、その変態も殺して万々歳だ」

 ランスは余計に燃え上がった。
 ヘンダーソンのことは伝えておいて吉だと思える。自分の女だと自負する以上は、マリアが襲われる可能性がある所では無茶はしないだろう。

「……そうだ、その事だけ忘れるな。相手の大隊長、ヘンダーソンとやらは、何やら異常なまでにマリアに執着心がある様だ。殺す様な 手荒な真似はしないだろうから ある意味ではマリアは安全だ。後はこちら側は 問題がある。ここまで防衛を続けてきたんだ。叩き潰す事に躊躇などしないだろう。……だから」

 ユーリは、そう言いながら 目を瞑り、そして開いて。

「お前たちが行っている間に、オレが連中を止めといてやる」

 ユーリは軽く笑うとそう答えた。
 そして、その答えと笑みを見て訊いて、当然だが場は絶句する。こんな状況だというのに、そこには絶対的な自信が見えた気がした。

「ユーリさん……」
「すげえな……。さっき、ヘルマン連中の総攻撃が入るって情報を聞いたばかりなのに、何でそんなに自信満々に言えるんだ?」

 ミリとランは唖然としていた。

 その思いは、他の皆も同じだ。だが、不思議だ。絶対的不利な状況下でも、信頼出来る。信じられる何かを持っているのが判るのだから。それは、何故か判らないが、ランスも同じなのだ。

 この2人は、人を惹きつける何かを…持っている。……勿論 一部の人間は 片方の男の事は全否定をすると思えるが。

「うぉぉ!! ユーリさんと一緒に戦えるというのなら、トマトのパワーも更に増すですかね~!! 3を3乗して、更に√して! あ、でも程々に、5を引かないとですかねー! さぁーはパワーアップするですかね~!」
「……+1もパワーアップしてないって事? 馬鹿言ってないの」

 志津香は正確に瞬時に計算をして、突っ込みながら軽くトマトの頭を叩いた。ユーリに視線を向ける志津香のその目も最大限に信頼をしている目だった。

「ふん。男がそう口にした以上は、ミスるんじゃないぞ? 死んだふりなんぞしても もう無理だからな」
「馬鹿言うなよ ランス。そっちこそ、マリアとシィルちゃんを傷つけるんじゃないぞ」
「愚問だ。オレ様の女だ。ま、シィルは奴隷だから ビシビシと使うだけだがな? がはは!!」

 ランスは、ひとしきり笑うと、神妙な顔つきになった。ランスにしては珍しい顔だった。その真剣な表情のままで言う。

「……判ってるな? ユーリ。 オレ様の女たちを死なせたら許さんぞ。例え成功したとしても、お前が死んでたら罰ゲームだ。その罰の内容は言わんでも判るだろう!」
「……まあな。大丈夫だ。だからお前こそ、とっとと言って奴らの頭と洗脳してる奴を倒してこい」

 ランスはそう言うと、くるりと背を向けた。その後ろ姿を見てユーリは、何かをランスに投げる。

「……む?」
「そのままの姿で行った所で、敵側が信じないかも知れないだろ? 着ていけ、アイツ等が着ていた軍服だ。ゴツイのは合わないと思うが、それは弓兵の比較的軽量装備。問題ないだろ」
「げーーぇ、男をひん剥いたと言うのか? 貴様は、やっぱり、ホモなのだな? がはは!」
「……そうかそうか、嫌なら返せ、そのままで行ってこい」
「馬鹿言うな、使えるモノは何でも使うのがオレ様だ!」

 ランスは乱暴にそれを受け取ると、シィルにも渡した。ユーリが持っていたの2着。女物の軍服があった訳ではないから、シィルには男装をしてもらうか、自分で服を加工してもらうしかないだろう。

「シィルちゃんもランスとマリアを頼む。……絶対に無事帰ってこいよ」
「はい。ユーリさんもどうかご武運を……」
「おいコラ! 貴様、オレ様の奴隷にまで色目を使うな!!」

 ランスは相変わらず、ユーリとシィルが話をしていたら、反応するようだ。それは、他の女達と比べて格段に鋭い。が、今回ばかりは真面目な話だ。どちらも危険が付き纏う。ヘルマンより、何よりも魔人が何処から現れても不思議じゃないからだ。現にあの洞窟に何の前触れもなく現れた。

 だから、ラジールにも、そしてここカスタムにも。 それは可能性は0じゃない。

「ランス、死ぬんじゃないぞ」
「……馬鹿者が、オレ様が死ぬわけないだろうが、馬鹿なこと言う暇があったら、キリキリ働け、オレ様の女達の為にな」

 ユーリのその言葉に軽く憎まれ口を付きつつも、ランスは返事を返していた。シィルは2人を見て 軽く微笑む。確かに大変であり、危険でもある。
 相手の勢力だってそうだし、何より魔人の存在も大きい。だけど……。

「大丈夫です。ランス様とユーリさんがいますから、マリアさんも、カスタムの皆さんも。大丈夫っ!」

 シィルは、握りこぶしを作って、そう言い切っていた。

「がははは! 何を当然のことを、よしっ! シィル、今日は盛大にヤってやろう! 8時間耐久S○Xだ!」
「は、はぅぅ……」
「おいおい、無茶するな。明日には決行するんだろ? 総攻撃の猶予を考えたら、まごまごしてられる時間もないんだからな」
「がはは、オレ様の無尽蔵の体力を侮るな! らくしょーだ! がはは!」
「ひんひん……」

 ランスは、シィルをひょいと抱えると、意気揚々と町の宿へと去っていった。

「……うう、アイツと接触するなんて」
「ん? マリアは 直接 会った事もあるのか? そのヘンダーソンって奴と」
「……はぁ」

 マリアからは、ため息だけが返って来た。それを見た志津香が代わりに説明する。

「ああ……、さっき真知子に聞いたと思うけど、ラブレターの中に相手の写真も入ってたのよ。ナマズ髭、なよなよしたような立ち振る舞い、その上キザっぽい。写真を見る限りは、そんな感じの中年オカマだったわ」
「……写真だけで、大分情報を読み取ってるな? と言うか、幾らヘルマン側からだったとしても、他人のラブレターを勝手に見るなよ」

 ユーリは、若干苦笑いをしていた。
 志津香のキャラ的に、そんな行動はしないと思えたのだが、とも疑問にも思っていたが、志津香から直ぐに答えは返ってくる。

「馬鹿言わないで、マリアなのよ? 途中から私に燃やしてって言ってきたのは。……まぁ、同じような文面のラブレターが1000通も届いたら……誰でも嫌になるって思うけど。私だって、億劫になって来たくらいだからね」

 志津香もやれやれとため息を吐いていた。

 魔法を使うのだって、勿論 簡単じゃない。
 初級の炎の矢で、燃やしたとは言え、1000もの、矢を撃とうとしたら、相当な魔力の消費だからだ。

「……それは何ともまぁ、お疲れ様だ」
「…本当にね。マリアは、大丈夫なの? 明日」

 志津香は、マリアにそう聞く。
 ランスの作戦の事を前面に賛成したとはまだ言い難いが、ユーリが信頼した以上、それに もう手が無い以上は仕方ないと思えてきているのだ。

「うん……、まぁ ランスが守ってくれるって一応は、言ってくれてるし……、でも今日は休ませてもらうわ。明日……すっごく大変そうだから」

 マリアの背中には哀愁が漂っている様に感じる。

「ああ……、こんな感じでしたね。ラブレターが届く度に見せるマリアさんの背中です」
「……成る程、人生試練のオートリバースとは、よく言ったものだな。的確な表現だ」

 ユーリもマリアの背中を見てそう呟いていた。そして、ミリが前にやってくる。

「とりあえず、もう解散で良いか? マリア、この場を締めずに行っちまったし、防衛軍の皆もやっぱ疲弊しているみたいだしな」
「そうだな。今日の所は、ヘルマン側は攻めてこないだろう。真知子さんが得た情報では、明日から明後日だ。今はしっかり身体を休めておいてくれ。チューリップを使う皆は、一応整備は怠らない方が良いな」
『はいっ!』

 ユーリの言葉に、相当数いるメンバーが息を揃えて返事をした。……文面的に、そんなにいたの?って思いたいが、この場は作戦司令部。 カスタム防衛軍の皆がいる訳ではないが、それなりにはいるのである。

「……来たばかりなのに、もう統率できてるな? ユーリ。お前さんも十分過ぎる程、リーダーの資質ありってか?」
「馬鹿言うな。オレは誰かの上に立つ器なんかないし……、……大勢の皆の前で立つのは基本嫌だ。……あ」

 ユーリはそう言うと、フードの先を指で摘んで、深くかぶった。
 もう、カスタムの皆には顔バレ?してるから、そこまで深くはかぶっていなかったのだ。だが、……致命的にも、以前の事を思い出してしまったようだ。

「……あ、成る程な。まあ納得だ」

 ミリは、ユーリの仕草を見て頷いた。
 あまりに頼りになる存在だから、ちょっと忘れてた様なのだ。ユーリはユーリで、忘れかけてた以前の事を思い出しているようだ。

 あの公衆の面前で、散々からかわれたあの時を……。

「ふっふふ~! さぁ、ランスさんはシィルさんとメイクラブなら、トマトはやっぱり、ユーリさんですかねー!」

 トマトが何やらユーリの方へとやってきた。

「ユーリさん! この後暇なんで、一緒にお食事でもどうですかねー? アイテム屋の実力を見せますです!」
「……アイテム屋に料理なんてあるのか?」
「コラっ! さっさと休みなさい! アンタだって、十分疲れてるでしょ!? それに怪我だってしてるんだから」
「ダメですかね~! 志津香さんはそう言って、ユーリさんを独占しようとしてますねー? トマトは騙せないですよー!!」
「んなっ! 何 馬鹿なこと言ってるのよ!!」
「ふふふ、人数が減ったのに、賑やかさはあまり変わりませんね? これも……ユーリさん達のおかげですよ」

 賑やかなのだが、ユーリの耳には入ってきていないようだ。

「……あら? ユーリさん? どうか、しましたか?」
「ん……? いや別に……」

 フードを深くかぶりつつ、ユーリはゆっくりと離れていく。

「あ……、アイツ、ひょっとして、あの時の事思い出した? 今更って気がするけど」

 志津香はぴんと来たようだ。
 
 それは、以前 ラギシスに勝った後の宴の席。いや、正確にはラギシスを倒した後、カスタムの町に戻ってきた時だ。

 あの時の最後には吹っ切れた形をとっていたユーリだったが、どう見ても空元気だった。

「え、ええっ? ユーリさん?? どーしたんですか?」

 カスタム防衛戦について、色々と情報を仕入れていたかなみは、突然ユーリの様子が変わった事に今気づいたようだ。何やら、何処となくどんよりしてる。

「いや、別に……、オレは皆と違ってそこまで疲れてないし。とりあえず、一応町の入口で見張ってるよ。夜襲でもされたら、大変だろう?」
「そ、そこまでしていただくわけには……」
「良いって、良いって。皆疲れてるだろうし。 今は 明日に備えて疲れを癒しといてくれ。チサだって、父親、ガイゼルの介護もあるだろ? 病を推して防衛戦でも指揮をしてくれていたそうじゃないか。……と言うか、それは建前で、今はちょっと一人にして欲しいのが本音」

 ユーリはひらひらと手を振って離れていく。

「ちょっとユーリ。やる気削ぐ様な事思い出したみたいだけど、今更抜けるなんて言わないよね?」
「馬鹿言うな。乗りかかった船どころか、もう乗ってしまってるんだ。それにオレは後退のネジだって外してるさ。ただ……ちょっとくらい良いだろ? ……以前だって帰らずに付き合ったんだから」

 志津香の言葉を訊いて、はぁ、っとため息を吐いてるユーリ。とことんまで気にしてるようだ。
 志津香は、苦笑いをしていた。切実なユーリを見たら仕方ないだろう。

「トマト、ユーリさんのお顔、全然気にならないのですがねー……。寧ろ格好イイって思ってますですのにぃ」
「あ、そう言ってもダメですよ? トマトさん。そう言った言葉は逆効果なんですから。私何度も言ってますし……」
「あぁ……真知子さんが先手を打っていたですかー。それで駄目とは……相当ですかねー? もーー!! 一体ユーリさんを誰が傷つけたんですかねーー!!」

 トマトは、ユーリを誰が傷つけたのか! と メラっと闘志を燃やしていたが、そこでミリとランが間髪入れずに、ツッコミを入れる。

「おいおい、トマトだって盛大に間違ってたらしいじゃねえか、しかも最初にだろ?」
「……そうですよ? 確かユーリさん、言ってましたが ユーリさんのお顔だけで 歳を判断して、子供扱いまでしたらしいじゃないですか。『お姉さんとお話しませんかね~?』とかなんとかって」

 ミリとランのダブルツッコミの炸裂。それを聞いた途端にトマトは一気に噴火!

「ぎにゃああっ!! そ、それは、悪い歴史の1ページとして、保存……じゃなく、削除しておいて欲しいですかねーー!!」
「ひひひ、無理無理、ユーリはそう言った類は絶対に忘れねえって。なんたって、あのロゼの奴が鍛えてるんだぜ? そりゃ無理ゲーってヤツさ」
「うむむむ……、それはロゼさん恨むですかね……、でもロゼさんのおかげでセンサーの技術を得たんです……ああ、何だかとっても複雑ですかね~……」

 こうして、トマトとユーリのメイクラブは、お預けになってしまった。

 どう転んでも、誰かが阻止しようとする筈だから、きっと成就はされないだろうと思われる。











~カスタムの町入口~





 ユーリは、町の防壁を背にして座っていた。ここからなら、攻めて来ても直ぐに判る。

 そこから先は、数kmにわたって荒野なのだから。一応頭も冷えて来た所で、集中して見ていた様だ。

「ふふふ……何だか、とても良い町ですよね? ユーリさん」
「……かなみも 休んでて良いんだぞ? 悪魔回廊は疲れただろう?」
「いえ、私もユーリさんと同じですよ。この町を守りたいって思ってます。とても良い町だって判りましたから。……ヘルマンに明け渡したりなんてゴメンです」
「そうか……」

 ユーリは町を囲う壁の上にいたかなみに向かってそう言う。以前にも、確か木の上にいたかなみを気配で察する事が出来た筈だが、今回は判らなかった。

「……やっぱり腕を上げたな。かなみは」
「い、いえ……そんな事は……」

 かなみは慌てる。
 そもそも、ユーリは今の今まで正直心ここにあらず状態だったから、仕方がないのだと言いたかったが……言えない。それに、レベルが増しましたから! とも恥ずかしくて言えるものではないのだ。
 だから、かなみは苦笑いをするしか出来なかった。

「その……、やっぱり特別、ですか?」
「ん?」

 かなみには、もう1つ訊きたい事があった。だから、この場所に来たと言っても良いだろう。

「えと……、志津香、さんの事……です」

 かなみが 訊きたかったのは、志津香の事だ。
 ユーリの事を慕っている1人としたら、やっぱり気になるのだろう。志津香のあからさまな態度も、傍から見れば一目瞭然だ。誰がどう見てもわかる事だろう。……ランスは別として。

 ユーリは それを訊いた後。

「……まぁな。オレの。オレ達を救ってくれた人達の忘れ形見なんだ。……志津香は。 あの当時のオレも幼かったから、志津香とは幼馴染と言ったところ、かな」

 ユーリはそう言って笑っていた。

「あの時は、オレは何も出来なかったから。……今は」

 そう言って、笑うユーリ。その顔はやっぱり優しい。……それ以外の言葉が見つからない。初めて見惚れた男性だったから。

「そう……ですか。私にとってはリア様の様な人ですね。……ユーリさん達からの印象は違うかもしれませんが」

 かなみは、そう口にしたと同時に、少し表情を落とした。リアがしてきた所業、自身の使える主がしてきた所業の事を思い出しているのだろう。それを見たユーリは軽く笑った。

「……言っただろう? 環境は良くも悪くも人を変えるんだ。……だからこそ、これからだ。リアも。マリスも。……リーザスも。そうだろう? かなみ」
「……はい」
「ここを、カスタムを救う事が出来たら、リーザスの兵士達の洗脳も解くことが出来る。……解放の同士が増えるんだ。必ず、リーザスも救えるよ」
「……ユーリさんは」

 かなみは、口を開く。訊いてみたい事はまだあったんだ。それは、この戦いが始まってから、ずっと、疑問に思っていた事でもある。

「ユーリさんは、どうしてそんなにも優しいんですか? ……今回の事だって、ユーリさんには」
「関係ない。か?」
「……はい。ユーリさんが助けてくれた、くれると言ってくれた事はとても嬉しかったです。本当に……。でも 今回の内容は極めて大きいです。国と国の戦争、そして解放なんですから。……なのに、どうしてユーリさんは変わらないままでいられるんですか?」
「……」

 ユーリは黙った。
 確かにかなみの言う事も最もだ。今回の件。冒険者がする仕事の枠を超えているモノだろう。だが、それでも、自身がとる行動は恐らく変わらない。

 否、決して変わることなど無い。

「そうだな。オレはかなみの事は信頼してる。……見捨てるなんて事は、オレには出来ない。……それじゃ理由にならないか?」
「いえ、そんな事は無いです」

 この時、ユーリの脳裏に描いている道の先についてを言おうか迷わなかったか? と言われれば嘘になるだろう。

 ユーリの本当の目的。全ての統一だから。夢物語、いや狂気にすら近い夢想。

 全てが1つになったその先にあるものを目指す。……遠い、とても遠い向こうに見えている《丘》の向こうに行く事。広がっている世界を見る事。


 その先に必ず姿を現す、最後の番人との、……アイツとの邂逅。

 それを迷い、そして、それを話していいものか、と一瞬思ってしまった。
 かなみは、信頼できる仲間である事は事実だ。今まで身の内に秘めてきたモノを、極めて大きなモノだ。信じられるかどうかも判らないレベルのもの。

 国と国の問題がまるで小さなモノ、比べ物にならない程に小さなモノと思える程の大きさだ。それを、共有出来る者がいてくれたら、どれだけ軽くなるか。ユーリは、一瞬だが甘えたくなったのも事実だった。

 だが……、話す訳にはいかない。

 この世の理を覆す事実なのだから。少なくとも今は……。

「不安になるのも判る。……だが、忘れるな。オレは味方だ。見捨てたりはしない」
「……ユーリ……さん」
「泣くな、かなみ。……涙は、リーザスを、皆を救えた時に取っておこう」
「……ほ、本当に、ありがとうございました」

 かなみは頭を下げた。
 涙を見られないように。ユーリに言われたとおり、まだまだしなければならない事は多いんだから。泣いている暇は無いんだから。






 そして、更に数十分後。
 

 かなみは、涙を必死に抑え、そして同時に赤らんだ表情も元に戻そうとしていた。

「ああ、そうだった。ユーリさんに聞いてみたい事があったんだ」
「ん?」
「あ、その……」

 かなみは、少し俯かせて……、聞いた。それは、以前ヒトミから聞いたもの。

「その、アニスさんは、ユーリさんにとってどういうk「ぶっっ!!?」……ふぇっ!??」

 まさかのかなみの口から彼女の名前が出てくるなど、夢にも思ってなかったユーリは、思わず吹き出していた。何も飲み物を飲んでなくてよかったと思える。

「ゆ、ユーリさん??」
「なんで、かなみが アニスを知ってる? オレは言った覚えは無いが?」
「ひ、ヒトミちゃんから聞きまして……それに他にも色々と……」
「………」

 咽せ返していたユーリだったが、その次には、苦虫を噛み潰したような顔になった。

 どうやら、あのマセガキ(ヒトミ)は、ある事無い事を面白おかしく かなみに言った様なのだ。そして、そんな出来事をいちいち説明などしていられないのもあったから、どう返していいものか、と項垂れてしまっていた。


 その後もかなみから色々と聞いた。


『アニスとは恋人なのか?』 どーとかこーとか、『沢山の女の人がいて……』 どーとかこーとか、『いろんな関係を……』 どーとかこーとか。


「……で、本当なんですか? ユーリさん……」
「ノーコメント」
「あぅぅ……それでは、どうして……」
「なんで、かなみが そんな悲しそうな顔すんだ!! オレにだって色々とある! へーん! 皆思ってないかもしれないが、オレも寄る年波だっ! 詐称なんかしてない掛け値なしの19歳! そうになったら人生色々なんだよっ!!」
「は、はうっ! そ、そーですよねー。す、すみませんっ! (こ、これは あまり、聞いちゃ不味かった事かな……)」

 かなみは、慌てて同意をした。
 なんでこのタイミングで聞いちゃったのか、とかなみは一瞬後悔したけれど……、ユーリと二人きりになるタイミングなんてそうあるものじゃないから。その後、若干不機嫌気味になってしまったユーリを必死に宥めていたのだった。

 



 そして、更に数時間後。





 辺りはもう暗く静まり返っている。
 もうカスタムに近づく者はいないだろうと思える。そもそも敵の人数を考えたら小細工をする必要など無いんだ。

 それに、あの大隊長(ヘンダーソン)が、今更頭を使うとは思いにくい。

「かなみ。無理はするなよ」
「だ、大丈夫ですよ?」

 途中でうつらうつらと、頭を揺らせている彼女を見てユーリはそう答えた。
 諜報を主とする彼女は本来は正面からの戦闘を得意とするとは思えない。だから、自分の想像以上に消耗をしているのは目に見えているんだ。

 そして、何とか ユーリの機嫌もなんとか直っていた様だ。 

「明日はもっと長いんだ。……もう眠っておけ。本当に大丈夫そうだ。だからオレも時期に戻るよ。もう大丈夫だと思えるから」

 隣にいるかなみの頭を軽く撫でるユーリ。
 これ以上一緒にいて……寝落ちでもしてしまったら、迷惑をかけてしまうだろう、とかなみは思った。勿論、こんな時だけど、ずっと一緒にいたい気持ちはあるんだけど、確かに今はユーリが言うように、かなみは決行前から限界だった。

 ……それに、ユーリは一体なんでそんなに平気なんだろう? とも思えていた様だ。

「……はい、すみません……ゆーり、さん」
「ん。明日はよろしく頼むよ」

 かなみは、のろっと立ち上がると、深々とユーリに頭を下げ、宿の方へと向かっていった。
 その場所は、チサの計らいで好きに使っていいと言ってくれている宿舎。勿論、ランスとは別部屋どころか、別の建物である。

 ユーリもかなみを見届けた暫く後、宿舎へと向かっていった。











 それは、かなみが睡魔と闘いながら、宿舎へと戻る道中の事。

「あふぅ……っ はぁ……ちょっと、締まらないなぁ。かっこう、わるい……い」

 かなみは、何度も襲ってくる眠気を必死に噛み殺しつつ、……ため息を吐いていた。

 そもそも、一緒に見張りを買って出た筈なのに眠たくなるなんて……。
 忍びとして恥ずかしい……とまで思ってしまったようだ。それが知られたのがユーリだけなのが、かなみにとっては、良くもあり、逆に悪くもある。

 ランスに見られたら、どれだけ言われるか判らない。
 
 ……ユーリに知られたのは、只々恥ずかしさが後から押し寄せてくる。何故だか、さっきまで眠たかった筈なのに、今は何故だか冴えてしまった程だ。
 
 その時だ。

「あの、かなみさん、で良かったかしら?」
「うひゃいっっ!?!?」

 突然、後ろから話しかけられた。
 深夜遅かったし、意識も散漫になってて 話しかけられるまで気がつかなかったのだ。

「御免なさい。驚かせて」
「い、いえ……どうしたんですか? こんな遅くに……、えと……志津香さん」

 後ろにいたのは志津香。

 実を言うと……、志津香は 結構前から様子を伺っていたんだけど、出て行かなかった。(かなみがいたから??)

「お礼を言ってなくて。かなみさんも、ありがとう。私たちの町の為にいろいろとしてくれて」
「いえ……、これもリーザスの為ですから」
「リーザスの?」
「はい……」

 かなみは、自分のことを説明をした。
 リーザスの忍びである自分自身の事を話すのは基本御法度だが、今は状況が違うのだ。それに、信頼を得る為にも仕方ない。

「そうだったの……ヘルマンの連中がどうやって、ここまで勢力を伸ばしてきたのかが気になっていたけど、深夜のいきなりの襲撃が……」
「はい……、それで。謂わば私たちが陥落させられたせいで、他の町やカスタムの町を……」
「それは、かなみさんが気にすることじゃないわ。全部、ヘルマンが悪い。魔人なんかと手を組むなんて、人間としてもどうかしているのよ」

 志津香はそう言ってかなみの肩を叩いた。

「ありがとうございます……志津香さん」

 かなみは、少し目をうるうるとさせていた。でも……なぜだろう?志津香がかなみの肩を握る手の力が強くなってる事に気づいた。そして、少し痛い。

「え、ええ? 志津香さん??」
「あ、御免なさい。それと聞きたい事があったね? ユーリのことなんだけど……」

 志津香は、妙な笑顔でかなみに聞いていた。
 どうやら、志津香は、ヒトミが言っていた事をユーリに聞いた時 それを聞いていた様だ。口では、気にならないとか言いそうだが、今は周りにいるのはかなみだけだから……聞けたのかな?

「は、はうっ……。 え、えと ユーリさんのお家にはヒトミちゃんという女の子が住んでまして……」
「へぇ……」
「あ、あのですね? ヒトミちゃんは 人間じゃなくて女の子モンスターで、で、でも悪いコじゃないんですよ? 私の事も助けてくれましたし、それに ユーリさんに救われて兄と慕ってて……」
「へぇ……。ん? どうして慌てて説明をするのかしら?」
「そ、それは……(志津香さんのプレッシャーが半端ないからですぅ……)」


 この後根掘り葉掘り聞かれた。
 かなみは、完全に眠気は何処かへだ。目に見えないプレッシャーを浴びながら、眠れる程、図太い神経は持ち合わせていないのだから。


 話した事、それはヒトミ曰く、アニスと言う人以外にも沢山の女の人がいるとか何とか、なんとか……。


「ふ ぅ ぅ ん ……」
「こ、(怖すぎです……)」

 話を進めていくにつれて、志津香の背後(バック)には、オーラ? の様なものが沢山見えていたのだった。それもドス黒い何か(・・)も見える。

「……それじゃあ、おやすみ。あ、後私の事は志津香で良いわ。私も貴女の事かなみって呼ぶから。話し方も、普通で、ね?」
「あ、はい!」

 何やら2人は仲良くなれたようだ。

 同じ男を想う女として通じる所があったのだろうか?……圧倒的に押しが強いのは志津香の方らしいが。

 その後、かなみは宿舎に戻っていく時……、志津香は町の入口の方へ向かってるのが判った。

「あ……ゆーりさん、その、ごめんなさい…」

 かなみは、何となく謝罪をしていたのだった。
 これから、始まるであろう渦中に飛び込む勇気も、何よりもHP残も残っていないから、仕方なく休息をとりに戻る。……これ以上、ユーリに迷惑をかけられない、と言う理由も少なからずあった。


 その後、何があったのか……、ユーリは眠れたのだろうか、志津香は一体何をしたのだろうか。


――……それは次回のお楽しみ、と言う事で。














〜人物紹介〜


□ アニス・沢渡(3)

ちゃっかり名前だけだが、登場した魔法大国ゼスが誇る?最強最凶最恐の三拍子のへっぽこ魔法使い。
ユーリの事を運命の人だと吹聴している様だが、その事を信じている者は皆無であり、真実を知っているのは国の一部の人間のみである。

今でもユーリの事を考えながら……魔法を暴発させているとか。
その度に、千鶴子からはユーリの名前を出して止めている。
本人じゃないから、効果は今ひとつの様だが……。


 
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