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転生特典をもらっても全て得になるとは限らない

作者:フリーK
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機動戦士ガンダムSEED編
  番外編 第3話 

 
前書き
今回は主人公視点は全くありません。ご了承ください。


※できれば感想・批評をください。お待ちしております。 

 
「ほら、次行くぞ次」
「あぁ、うん」

 ザフトに占拠されている町の一つであるパナディーヤ。町は様々な人達が行き交い、とても占領されている土地とは思えないほどに賑わっていた。ここにキラとカガリの二人は備品の調達の為にやって来ていた。とはいっても本来の目的は明けの砂漠のリーダーのサイーブ・アシュマンの昔の伝手を頼っての武器、食糧などの調達が主な目的で、そちらはサイーブ他明けの砂漠のメンバー数人とアークエンジェルからはナタルを初め数人の乗組員が向かっている。二人はその間アークエンジェルと明けの砂漠へのお土産の品を購入している。ちなみに支払いはカガリで、買った物は全てキラが運んでいる状況だ。

「…お前ってMSに乗ってる時はあんなに凄い割には、こういう時はどこか頼りないな」
「って、いきなり酷い事言うね君は…」
「一応護衛だってのに、こうも頼りなさげじゃ不安にもなってくるだろ」

 キラはカガリのその物言いに怒る事はできず苦笑いを浮かべるしかなかった。
 それは、カガリの護衛役に選ばれこうして付いてきたものの専門的な訓練など一切受けた事がない為、実際に問題が起こった時ちゃんと対処できるのかという一抹の不安がキラにあったせいである。本来の歴史の流れならばこの時の彼にはこんな事を思う余裕はなかったのだが、この世界では悠凪・グライフを名乗る一人の青年の介入により彼を精神を追い詰めていく出来事は踏みにじられていった為こうした事を思える程にキラの精神状態は良好になっているのである。
 そんなキラの様子を見てカガリは歩くを止め溜め息をつきながらキラの方へ方向転換して一気に捲くし立て始めた。

「…お前なぁ、こんな時は自信を持って護衛役を果たしてみせる位の事は言えよな! ここは敵のド真ん中だっていうのにそんなだからこっちが不安になってくるんだよ」
「そう言われても僕は生身での訓練なんて受けてないから、多分危なくなった時は君の方が頼りになると思うよ…?」
「…アークエンジェルの奴ら、なんだって護衛にこいつを寄越したんだ?」

 これには本当にキラは何も言う事はできない。彼自身も自分が選ばれた理由に検討がつかないからだ。キラが選ばれた理由が実は期間的には短かったものの彼が出撃できない程精神的に追い込まれた状況に陥った事件があったので、また同じ事が起こらぬよう艦長達が息抜きをさせる為だとは本人は思いもしないだろう。
 このようにキラはこの事を全く知らない。そのせいで彼はまたカガリの機嫌が悪くなる地雷を押す発言をしてしまった。

「護衛役ならムウさんや悠凪さん達の方が向いてるとは思うんだけどね」
「! ………」

 カガリはキラのその発言を聞いた途端に表情を曇らせ、黙り込んでしまった。
 キラはいきなり機嫌を悪くしたカガリに何か余計な事を言ってしまったのだろうかと思いはしたものの、どう対応すればいいか解らず頭を悩ませているとカガリは進んでいた方向に向き直りその場から去ろうとする。

「ちょ、ちょっと待って!」

 歩き出したカガリを呼び止め急いで彼女の後ろに付いていく。とりあえずキラは原因はわからないが、自分の言動のせいならばまず謝っておくべきではないかと感じた。
 カガリは歩くのは止めなかったが後ろに付いてくるキラの方へ顔を微かに向けながら話を聞いてみる事にした。

「…なんだ?」
「えっと、何か気に障る事言ったのならごめん」
「…別に。怒ってなんかいないぞ」
「そうは言われても……」

 キラの目には今のカガリはどう見ても機嫌が悪いようにしか見えなかった。

「(さっき言った事のせいかな…。えっと確か………)」

 先程カガリに対して言った言葉を思い返すとこれだというものが思い当たった。確かにこれは今の彼女に言ってはいけなかったと自分のデリカシーの無さを悔いながら、だがこのままの状態でいる訳にもいかない為あえてカガリにもう一度問いただしてみる事にした。

「もしかして………数日前の事、気にしてるの?」
「…!!」

 カガリはその言葉で足を止めた。どうやら図星だったらしく、そのまま後ろに振り向き鬼のような形相でキラを睨みつける。

「ああ、そうだよ!…あの時、あいつの言ってる事に何も言い返す事ができなかった自分に今でも腹が立つんだ……」























「無駄死にだと!!?」
「ああ、そうだ」

 カガリは目の前にいるアークエンジェルに雇われているという傭兵“悠凪・グライフ”という男の言動に激怒し、胸ぐらに掴み掛かった。
 悠凪はタッシルの町を焼き払った砂漠の虎の部隊を追撃に向かった明けの砂漠の仲間の一人であるアフメドの戦死をただの無駄死にと断じた。よりにもよってアフメドの亡骸の前で。それには後ろにいる他の仲間達のほとんども悠凪に対して厳しい視線を送っていた。

「ふざけるな!! 皆必死に戦ったんだ!大事なものや大切な人達を守る為に必死に!!なのにお前はそれを無駄だと、意味がないっていうのか!!!」
「…そこまで言うなら一つ聞きだい事がある」
「何だよ!?」
「ここで死んだ者達を含め、お前らは一体どれだけの損害を奴らに与える事ができた?」
「! 何ィ!?」

 その言葉でカガリはますますその表情を険しくする。それはこれ以上何か言おうものなら殴りかかろうとする程に。が、悠凪はそんなカガリの怒気を受けても態度を変える事はなく、先程の言葉の続きを述べていく。

「戦争なんだよ、この戦いは。自軍の損害を最小限に抑え、敵軍の損害をより最大限に増やしていく。その点で言えば今回お前らが追撃を仕掛けたのは下策中の下策でしかない」
「! お前はァ!!!」

 悠凪の物言いに怒りが頂点に達したカガリは悠凪を殴りつけようとするがそれは最後まで実行されなかった。
 悠凪はその突き出してきた拳を難なく掴んで後ろ向きに腕を捻る事で動きを封じた。

「くっ…!」
「お前達は今回の件で敵に何の被害も与えられていない。それどころか自分達の方が被害を被っている。オレからしてみれば、お前達は本気で勝つ気があるのか疑わしい位なんだが」
「……ふざけるなよテメェ!黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって!!」

 悠凪はカガリの暴行を何事もなかったかのようにスルーし、話を続けていくが、明けの砂漠のメンバーの一人が今の一言で我慢できなくなり口を開いた。それに呼応し、他の明けの砂漠の面々も次々と悠凪に罵声を浴びせていく。

「俺達は本気でやってんだ。なのになんだテメェは!俺達の事、少しも知らないくせして横から色々ぬかしやがって!!」
「大体なぁ。俺達は虎の下につく位なら戦って死んだ方が良いんだよ!」
「オイ、お前達やめないか!」

 明けの砂漠のリーダーであるサイーブが止めに入るが罵声は止むどころかエスカレートしていき今にも悠凪に襲いかかりそうな程になってしまっていた。カガリはその光景を見てやはりこいつの言っている事は正しくなんてない。現にこいつは何も言えずに固まっていると思っていた。だがその彼に対しての認識は間違いだった。
 確かにそんな彼等を悠凪は黙って見つめていたが、彼は何も言えないのではなく言わなかっただけだった。少しした後悠凪は

「プッ。…………ふっ、ハハハハハ!!」

堪えきれなくなったのかカガリを拘束していた手も離して腹を抱えながら笑い出した。
 放り出されたカガリはバランスを崩し転倒しそうになるが、なんとか体勢を立て直し悠凪へと振り返って突然の行動の意味を問いただす。

「な、何がおかしいんだ!」

 その問いかけに一通り笑い終わった後で悠凪は答えだした。しかしその目は異様に冷めたものに変わっていた。殆どの者は気付かなかったがそれは対象に失望した時に向ける類のものであった。

「なに、お前らがオレが思っていたよりもどうしようもない奴らだと解ってそれがあまりにもおかしくてな。つい笑ってしまったよ」
「何だと!!」
「じゃあ問おうか。お前達は今回の行動に何も恥じるところはないと堂々と宣言できるか?」
「ふざけるな!そもそも発端はヤツらが卑怯にもタッシルを焼き払った事だ。私達に何も恥じるものなんてない!」

 カガリは悠凪の問いへ堂々と答える。本心で言っているのと同時に自分達に対して失望の目を向けてくる悠凪に腹が立ったというのもこの時彼女をこうした行動に駆り立てた要因でもあった。
 他の面々も数人を除き次々とそれに賛同していくが、悠凪はやはりそれに何も態度を変える事はなかった。

「恥じるものがないねぇ………。
 ならばお前らは、今回死んだ奴らの家族や友人に「彼等は必死に戦ったが敵に何の損失も与える事なく死んでいきました」と言えるか?」
「!そ、それは…」

 その言葉を聞いて何も言い返さなかったカガリや明けの砂漠を見て悠凪は、先程よりもさらに落胆した様子で続きを述べていく。

「ああ言える訳がない。待っている家族や友人にとってこいつらは掛け替えのない存在だっただろう。それが死んだ挙げ句こんな何の意味もない死を迎えたなんて聞いたらどう思うだろうな?」
「……だからって、町が焼かれたのにそのまま奴らを放っておくなんてできるわけないだろうが!」
「で、追撃した結果がこれだろう。そもそもオレ達が来なければ今頃お前ら死んだ奴らの仲間入りするところだったんだが」
「! ………」

 カガリはそれに対して何も反論を思いつく事ができず悔しさの余り爪が食い込む程に拳を握り締めていた。カガリに賛同していた面々も皆何も言えずにいた。実際にこの男とストライクのパイロットが来ていなければ自分達も殺られていたという事を自覚せざるをえなかったからである。

「…死んでいった奴らは二度と家族や友人に会えなくなった。一時の感情に身を任せたばかりにな。その家族や友人の方だってそうだ。それと合わせて何より重要なのは町の連中は誰一人として死んでおらず、こんな事をしなければ死別なんて悲しい結果にはならなかった事だ」
「………」

 …誰もそれに異を唱えられる者など居はしなかった。理解してしまったからだ。今回の戦いに必要性などなかった事が。そして何より今回の件で死んでいった仲間達を殺したのはザフトであるが、それは死んでいった仲間達自身にも、そして自分達にも当てはまるという事を。

 
「さて、それでも尚お前らは自分達の行動に恥じるところなどないと言えるのか?」





















「ろくに話した事もなく、私達の事をろくに知らない筈なのに、そいつの話が怖い位に的確なものばかりで反論が思いつかなかったなんて腹が立つに決まってるだろ」
「そういうものかな…」
「お前、あいつと結構仲がいいようだけど何でだ?性格合わなそうに思えるんだが」
「そう、だね。やっぱり何度も助けられたからかな。戦ってる時もそうだけど他にも色々とお世話になったし、とても悪い人には思えないから」

 カガリはそう言われじと目でキラを見る。あの時の一件でカガリを含め明けの砂漠の殆どから悠凪は苦手意識を持っているというのもあるが、カガリはそれとは別に悠凪という男に得体のしれない何かを感じていた。
 あの時の一件でのあの男の目に、まるで事前に聞いていたものよりも酷いものを見たという風な印象を彼女は感じていた。それが原因で、カガリはキラの悠凪に対する印象があまり信じられなかった。

「悪い人には見えないねぇ…。私にはとてもそうは思えないが………それじゃあ次の店が終わったら休憩にするか。そろそろ腹が減ってきたしな」
「うん…」

 あまりにもあからさまだった為、これ以上この話は無しだというサインだとキラはすぐに解った。彼も恐らく何を言っても彼女の悠凪への印象は変わらないだろうなとは思い、ここは素直にそのサインに乗る事にした。 
 

 
後書き
次回はこの時の主人公視点になる予定 
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