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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第43話 奪われたリーザスの要と窮地のカスタム


~アイスの町~


一行は、何処か腑に落ちない者も多数いるが、とりあえず依頼を完遂した為、リスの洞窟からアイスの町へと戻ってきていた。その帰り道中は特に問題はない、一番警戒していた魔人サテラとの接触が無かったからこそだろう。

いや……、あれはイレギュラー中のイレギュラー。普段ではありえない事だとも改めて思える。
その日は、夜遅かったこともあり、各人の家で休む事にして、明朝に皆、ランスの家に集まったのだ。

……勿論、かなみは上手くランスの家に泊まる事なく、ユーリの家でヒトミと一緒に眠ったのである。

「昨日は皆が無事で良かったですね。ランス様」
「馬鹿者、オレ様がいるのだぞ? それが当然というものだ!」

ランスは、リスを撃破した為か かなり有頂天になっているようだ。
最近ではユーリが大体の戦闘を片付けてしまうから、と言うのも何処かであるのだろうか?楽だ楽だ、と言っているものの、目立ちたがり屋な為、それも当然あるのである。

「まあ、兎も角 依頼は……正直複雑だが、とりあえずキースに報告に行くぞ、どうなってるのかは判らないが」

ユーリはそう言った。
今もまだ、袋の中で大暴れをしているローラ。シィルが持っているそのずた袋は、未だに暴れている様で、蠢いている。止む気配が今の所はない。 もし、逃げられでもしたら、どういう行動を取るかわかったものじゃない。 またまた、暴れ狂う(暴言)だろうか、或いは あのリスを追いかけて飛び出していくか。

 そうなってしまえば、追いかけるのは困難だろうだから、ユーリも気にかけていた。

 その状態で、『助け出した』といっても信じてもらえる筈もないのだ。今の袋詰め状態でも微妙だけれど。

「……私も複雑ですが、リーザスの為にも……後、リスさんの事も信じるしか無いと思います」

 かなみはそう答えた。
 彼女も他種族との禁断とも言える純愛に心を打たれたようなので、そう想うのも仕方がないだろう。

「がははは、おい。さっさとキースから依頼料を頂いて、聖剣、聖鎧を取り戻すぞ! オレ様に泣いて感謝するがいい、がははは!」
「誰のせいでこんな事になってるのよっ!!」

 ランスの物言いに、相変わらずムキになって返すのはかなみだった。ランスの言う事は、軽くスルーすると言うのを覚える、そうなるのは 当分先の事なのかもしれない……。






~アイスの町・キースギルド~



「おい、キース。ローラ救出の仕事は終了した。報酬をいただこうか」
「……おいおい、まだローラが帰ったと言う報告、聞いてないだろうが……」
「そら、依頼のブツだ。キース」

 ランスは、シィルから ずた袋を受け取った後、キースの前に放った。

「うきゃあっ!!」

 思いっきり放られてしまったので、いい具合に身体を打ってしまったのだろう。叫び声が訊こえてきた。……袋詰めにされているから、かなり篭って訊こえる。 ランスは、放る前に 袋の結びを解いていた様で。

「ぷはぁっ!!」

 途端に、ローラが飛び出てきた。見た感じでは 怪我らしい怪我は無かった様だ。……ここへと帰る道中も、それなりに戦いはあったから、心配はしていたんだが。

「ずっと、暴れていたし、よくよく考えたら、大丈夫だろう」
「……ある意味凄いです。人って、長く狭い場所に閉じ込められてしまったら、声なんか あまり出せない事が覆いんですが……最初だけなら兎も角」

 かなみは、かつての経験からだろう、そう呟いていた。望んではいなかったとは言え、加担していた彼女だから。

「もう、してないよな? かなみ」
「ふぇっ!! も、勿論です!! リア様も、そんな事はしなくなりました! ……あの時は、ユーリさんにもご迷惑を……」

 つい、つぶやいてしまった事が裏目に出てしまったかなみは、慌ててそう言っている。
 勿論、ユーリは判っていた。リーザスで黒い噂がめっきりなくなった事もそうだから。

「冗談、だ」

 そう言って、笑っていた。かなみは、そんなユーリを見て、また 顔を赤らめるのだった。


 そして、そうこうしている内に、再び絶叫が聞こえてくる。

「ってここ、アイス……!? なんて事すんのよ! この人攫い! 鬼畜!! ウー君を返してよ! レイプ魔!!」

 その絶叫は、キースは勿論 直ぐ傍で控えているハイニにも勿論聞こえている。と言うより、これだけの絶叫であれば、外まで聞こえているだろう。

「確かに、インダス会長の御息女……ですね。その、とても活発的なお嬢さんだとは訊いてましたが……」
「何をしたのやら……。あんまり、想像したくねぇな」

 キースとハイニは、2人してため息を吐いていた。ランスの性質を知っている2人だ。大体の事は察した様だ。……直ぐ傍で、ユーリも苦笑いをしているのも気づいていた様だ。

「言っとくが、初めっからこんなだったぞ? 躾は依頼の内に入ってないな?」
「何言ってんのよ!! あんたが、あんた達がウー君と私を引き離したのが悪いんじゃない! 下衆! 口でか猿!! さっさと返しなさいよ! ええ!> ウー君を返せって言ってんでしょ!! このクソ緑! ファッ○ンググリーン!!!」

 ランスの性質を考えれば……何されたのかは判る。だが、しこたまされた後も、ここまで喰ってかかれるのは、凄い。

「……しれっと、一括りにされるのは嫌だな」
「うっ…… 私も同感です……」

 ローラの言葉の中には、『あんた達』とあったのだ。……つまり、この場にいる全員の事を言っているのだろう。……嫌だと思うのは誰だって同じだと思える。

「はは。気苦労は絶えないな? ユーリよ」
「まったくだ……」

 キースは、そう言いつつ、ハイニに指示を出していた。

「それに、元気だなぁ おい。……ハイニ。準備、出来たか?」
「はい、勿論です」
「よし。ランス。それ持ってさっさと帰れ。このお嬢さんは、お前がいる限り止まらんだろう」

キースはGOLD袋を差し出すと、ランスは受け取った。

「オレ様も望む所だ。よし、シィル!」
「はいっ 数えます!」
「ちょっと!! まだ話は終わってないわよ!!」

 暴れる、と言うか、まさに騒音機となってしまっているローラを、ハイニが何とか嗜めつつ この場から、少し遠ざけた。それだけでも声のボリュームはかなりさがる。

 その間に、シィルは中身を改めた。

 信用していない、と思われる為 もらった直後のこういった金数えは失礼に値するモノだが……、ランスだという事、キースだと言う事で何も言わないユーリ達だった。

「ランス様、丁度2,300GOLD入っています」
「うむ。もう少しくらいサービスしろよ、強欲じじい」
「悪いが、今は苦しいんだ。サービスは無しだ」
「ラーク達が離脱したからな。……仕方ないと言えばそうだな」
「ああ……全くもって悩まされる所だ」

 キースはため息を吐いていた。
 あの2人の仕事は大体安定してこなしている為だ。

「お前らもラーク達くれぇ 仕事をやってれりゃあな……。俺としては安泰なんだがな」
「がははは、馬鹿言え 真の英雄は仕事を選ぶのだ。それに、適度な金が入っても仕事をするヤツは馬鹿だ馬鹿」
「……馬鹿はお前だ。まぁ……善処するとしか言えないな。ギルドの仕事が全てではないし、それに今は……」

 ユーリはかなみを見た。
 かなみは、なんだろう?と一瞬思ったが、ユーリの言葉ではっきりした。

「今は、大事な仕事中だ。ギルドの依頼よりもな」
「ユーリさん……」
「ああ、一応情報は入ってるぜ。ヘルマンに陥落()とされたらしいな」
「えっっ!? ほ、他には何か入ってませんか!? まだ、他にも白の軍や、国境警備隊にも屈強な兵士達がいたはずです!」

 かなみは、キースが言う『情報が入ってる』と言う言葉に強く反応した。今はリーザスを離れている身だ。皆がどうなっているのか、無事なのかを知りたいのだろう。

「……悪いな、忍者のお嬢さん。それ以上の事はわからねえんだ。いつも贔屓にしてる情報屋からの連絡も無いし、まぁ アイツはリーザスの城下町を根城にしてるから無理もねえが。……これ以上は俺らには専門外。……実際に目で見て確認するくらいしか最新情報は得られねぇ」
「……うぅ」
「大丈夫だ」

 意気消沈するかなみの肩に手を触れるユーリ。

「きっと大丈夫だ。今はそう信じて行動しよう。……絶対に助ける、とな」
「……は、はい。ユーリさん」

 気休め程度にしかならないだろうが、そう言うしかない。……実際に、大丈夫だと言う保証は何処にもないのだから。ただ……、ヘルマンには彼女だっている。

「(確か……ハンティは評議員だって言ってたな……、これだけの大掛かりな作戦だ。耳に入っていてもおかしくないし、彼女も一枚噛んでる可能性も否めない。……そこまで非道な真似はしないと思うしかない)」

 ユーリはそう考えていたのだ。一部の膿なら兎も角、敗者を虐げる国じゃないと思いたかった。

 ……そんな希望的観測は、露と破られる事になる事をこの時は知る由もない。

 ユーリが信頼している彼女は、今作戦、魔人と手を組むと言う無茶な作戦を知ったのは事後なのだから。

「おい、何をグズグズしておるのだ。さっさと、あの腐れオヤジがいる武器屋に 聖剣と聖鎧を取りに行くぞ!」
「はいはい。判ったよ」

 さっきまでは、シィルとじゃれていた癖に……っと一瞬思ったユーリだが(勿論、かなみも同意見) 言ってしまえば長くなってしまうから早々に付いていく事にした。

「戦争の事で何か合ったら また教えてくれ。っと言っても、聖剣と聖鎧を買い戻したら 暫くはここに帰ってこないかもしれないがな」
「はいよ。ったく、ラーク達がいないのに、お前まで あけるのかよ」
「仕方ないだろう、かなみの事もあるし、それにリーザスには顔見知りだっているんだ。……放って置けるか。後、ハイニさん」
「はい。判ってますよ。ヒトミちゃんの事、ですね?」
「ああ、宜しく頼む」

 ユーリはそう言うと頭を下げ、そしてギルドを後にした。

「……どう見る? ハイニ」
「ん~……かなみさんは 明らかにユーリさんの事を見てますね。間違いなく惚れてます。でも、」
「アイツだしな……ったく、結婚する気はねぇとか言っといて罪な男だな。周りの女を惹きつけてるんじゃねぇ?」

 キースは、葉巻をふかしながらそう言っていた。ハイニは、その言葉にニコリと笑う。

「ひょっとしたら、ランスさんもそう想ってるのかもしれませんね?」
「……かもな。いや、ぜってー認めたくないから、監視してるつもりかもしれねえぜ? 女ごとになったら、アイツは見境がないからな」
「ふふふ、そうですね」

 一頻り、2人は笑う。……因みに、動く騒音機であるローラは、一心不乱にギルド内のお菓子を頬張っていた。ハイニが出してくれた大量のお菓子だ。……子供を鎮めるのはこれが一番だと思えるけど、ヤケ喰いだと思える

「さて 今日は仕事終わったら少し出てきますね? もう、ローラさんは、大丈夫だと思います」
「おう。ヒトミは、オレの事、怖がってるみたいだしな。頼むわ」
「ええ。うふふ、ヒトミちゃんにイタズラをしたからですよ?」
「仕方ないだろ? あんだけ可愛いんだ。ま、あんまし虐めたら、ユーリに何されるかわかったもんじゃないから、あれ以上はもうしないがな」

 キースはそう言いながら ハゲの頭頂部をボリボリと掻いていた。
 一体どんなイタズラをしたのだろうか……。気になる所だが、ヒトミは話すつもりは無いような為(ハイニの事は大好きだから)、ユーリが知る事も無かったのだった。



 ハイニが大丈夫だと言っていたローラだったが、お菓子をめいいっぱい頬張りながらも、ランス達の話を訊いていた。



「もぐ……もぐ……聖剣、鎧。……もぐ、もぐ……武器屋……」



 ブツブツ、もぐもぐ、と 食べるのか、呟くのかどっちかにしろ、と言いたいが、今の彼女には何言っても無駄だろう。 その後は直ぐにローラは このギルドを後にする。


 そして、これが後に波紋を呼ぶことになるのだった。




~アイスの町・キースギルド前~


「おい!遅いぞ、ユーリ!」
「遅いって……、ほんの数秒じゃないか。まぁ良い。やる気になってるのなら、願ったり叶ったりだ」

 ユーリはそう言うと、少し早足になりながら 進んでいく。そして、ふと路地裏を見た時だ。

「……ん?」

 視界の端に捉えた為、その路地裏を見たのだが……、捉えたのは一瞬だ。何かが横切ったのだ。

「どうかしましたか? ユーリさん」
「いや……、何でもない」

 町の誰かがいたのだろうと、そう深くは考えていなかった。


 だが、それは間違いだったのである。

「絶対に許さない……っ」

 動く騒音機は、息を潜め 宛ら忍者の如く静かに、町を駆け抜ける様に消えていったのだった。






~アイスの街・武器屋~



 一行は、ギルドの報酬を片手に武器屋へと到着する。

 ランスは意気揚々と戸を開いて中へと入っていった。おそらくは、店番にひょっとしたら、レンチと言う少女がいるかもしれないと思ったのかもしれない。……期待は露と消えてしまったようだ。

「ちっ……、またオヤジが店番してんのか! レンチさんが懐かしいなぁ」
「かぁぁぁっ ぺぇっ!! お前が近づいたら、鬼畜の匂いがするから、レンチは奥へと避難させてるんだよ」

 いつも通りの毒舌からランスは入って、オヤジはオヤジでそれを眉一つ動かすことなく受け止めて真っ向から返していた。 だが、何処となく 妙な雰囲気が出ているのが判る。
 ランスの事が嫌いだと言うのに 何処か『待ってました!』と言わんばかりの雰囲気が出ているのだ。

「……」

 ユーリは、何故だか判らないが一瞬、嫌な予感が走っていた。

「……それで、なんのようだ?」
「聖剣と聖鎧を渡して貰おう」
「……ああ、聖剣、聖鎧、ね」

 ランスの目を見て大体判ったようだ。
 今回はいつも以上に自信に満ちているのだから。(いつも自信満々だが、今日は更に際立ってる)だからこそ……。

「実はさっき、売れちまってなぁ。品切れだ」
「…………………ぇ? 売れて、って………」

 まさかの発言。
 それを訊いてかなみは、絶句していた。いや、言っている意味が判らない様子だった。

「こ、この野郎! 売りやがったのか!!」
「………」

 ランスは、怒り心頭、そしてユーリは、一歩離れて静かに、だが 不穏な気配を纏いつつあった。

「いやー、こりゃ不可抗力だぜ。お前を困らせてやるとかなんとか言って、そりゃーもう、強引になぁ!」
「ぐ……、なんて真似しやがる!! どこのどいつがそんな真似を!!」

 ランスだったら、幾らでもいそうな気がするが、それは一先ずおいておこう。そうしている内に、オヤジの表情が、謝罪をしている様には見えなくなっていく。

「おおっと、顧客情報は漏らせねぇなぁ。信用商売だからなぁ……、くっくっく」
「人の物を勝手に売った分際で……!!」
「おいおい。こりゃ盗まれた様なモンだぜ。金は置いていったけどよ。オレも被害者みてぇなもんだぜ?」

 オヤジのその笑みは、ユーリもよく知っている笑み。……確かにランスには色々あって、憎い部分も当然だがあるだろう。自身の娘を汚された、となれば親であれば赦せないのも判る。だが、今回の武器に関しては、少なくともランス以外の人達にも、必要だと言う事は事前に判っていた筈だ。
 勿論、かなみの事も。

「そんな…… リーザスが、リア様が……」

 かなみは、絶望のあまり、膝をついてしまっていた。相手が誰か判らないから、もう武器が何処にあるのかも検討がつかない。……魔人に対抗出来る唯一の武器を手に入れる機会が無くなってしまう。
 つまり、もう未来が閉ざされてしまったと、思ってしまったのだ。

「かなみ。少し、落ち着け……」

 崩れ落ちるかなみを支えたのはユーリだ。そんな中でも、あのオヤジの声は続く。

「まー、仕方ねぇなぁ。諦めてくれや。っへへ!」

 確かに、売った以上は店の物であって、売り手の物じゃない。……だが、この直前に売ると言うとこを見ても、悪質だと言う事は、判る。……何よりも、今のかなみを見て 《そんな顔》で笑えるのか?

 そう、ユーリがよく知っているのは、当然だった。……これまでに、何度も相手にしているから。何度、斬って捨てたか判らないから。

 下衆の笑みだ。


 当然だが、ランスの怒りも収まらない。静かなる怒りが、ユーリであれば、怒りを隠そうなどせず、フルオープンにさせているのが、ランスだ。

「はいそうですか。と納得できるか!! こんな無駄足踏ませやがって!!」

 そのランスの顔を見たオヤジは、吹き出していた。

 そこからの言葉が、オヤジの運命を決定付けるモノになる。

「カハハハハハ!! まぁ、初めっから、てめぇに売る気はなかったけどなぁ! ちょうどいい引き取り手が来て良かったぜぇ!」
「……なんだと?」
「それはどういう意味だ」

 ここで、初めて、ランスだけじゃなく、ユーリも言葉を発した。

「っへへ! お前さんらは、運が悪かったと、諦めてくれや。ランスとつるんでいるだけで、オレにとっては、憎悪の対象になるんでなぁ! 見たかったのは、その顔だ! てめぇが必死に貯めた金が、無駄になる瞬間を見たかったんだよ!」

 盛大に響くオヤジの台詞。訊くに耐えないとはこの事だろう。

「どんな気分だ? 悔しいか。へっへっへへ! ま、人の恨みはおっかねぇって、事だぜぇ? 今後は気をつけた方が身の為じゃねぇか?」
「人の身を心配するより、自分の心配をしておけ」
「は?」

 ユーリが忠告をするが、最早手遅れ。もう、既に剣を引き抜いているランスは、そのまま、オヤジに斬りかかっていっていたのだ。

「きさまが、今その恨みを受けろ! このクズが!!」

 飛び上がって、そのまま 唐竹に斬りつけるランス。そのまま、身体をまっぷたつ、とまではいかなかった。ユーリの一言が、少しは訊いたのだろう、身体の中心線に正確に赤いラインが完成した。

「ぎゃあああああああ!!」

 当然だが、剣による切創だ。顔ともなれば、血の量は多くなる。そして、それなりに深い切創だ。


「この、外道……っ!! ゆ、赦せないっっ!!」

 かなみは、絶望を怒りに変え、オヤジに斬りかかろうとしたが。

「かなみ。よせ」

 ユーリが止めた。

「ゆ、ユーリさん」

 かなみは、ユーリに止められて、なんとか踏みとどまる事が出来た。……それでも、憎い事は変わらない。

「た、た、助けてくれぇぇ!! お、お前は常識、あるだろ? い、いきなり斬るなんざ、非常識もいいところじゃねぇか! な、なんとかしてくれ!!」
「……どっちが、非常識だ」

 地を這って、助けを請うオヤジを見て、ユーリは、心底侮蔑をする様な視線を向けた。ゴミを見る視線だ。

「……それに、色々と訊いた。お前は、自分の娘だと言う理由で、レンチって娘にセクハラ紛いな事を何度も何度もし続けたそうだな? 店先でも、店内でも」
「なんだと!! このオヤジ!! オレ様のレンチちゃんに!!」
 
 怒り心頭のランス。……ランスが怒る理由は、いまいち判らないけれど、それはおいておこう。とりあえず、ランスは、斬り易い脚部分を中心に、ざくざくっ! と刺していく。

「ぎええぇぇぇぇ!! お、オレの娘にオレが何したって……っ!!」
「真性の下衆、か。……同情の余地はない」

 ユーリは、思い切り、拳を握りこむ。その拳には、まるでいつも、ユーリが戦う時に放つオーラ。《煉獄》を纏っている様にも見えた。

 そのまま、倒れているオヤジ、今だに自分が悪く無い様な事を呻いている男の頭部を砕かん勢いで殴りつけた。

 どごん! と言う音と共に、床が抜け、頭が挟まってしまう。ぴくぴく、と痙攣させていた。

「死ね!! とどめだ、ランスあたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっく!!!!!」

 もう、殆ど死にかけの身体だったのだが、ランスの怒りは収まらず、動けない身体に、極上のランスアタックをプレゼント。まるで、身体が爆発したかの様に、吹き飛んでいき、完全に息絶えた。

「この、下衆オヤジが! ったく、それに誰だ! このオレ様に、嫌がらせなんてする奴は!」
「心当たりが多すぎるだろ?」
「何を言うか! このナイスガイであるオレ様に嫉妬する、逆恨みをする野郎に決まってるだろ!!」
「はぁ……、どの口が……」

 かなみは、ため息を吐いていた。そして、ランスは、まだまだ鬱憤を晴らせれていない様で、それをシィルを使って晴らせていた。

「……その、ユーリさん。さっきはどうして……?」

 その間に、かなみは さっきの事を訊いていた。『どうして、止めたのか?』と。 それを訊いたユーリは。

「かなみの手を汚す必要も無い。リーザスを助ける為に振るう刀だろ。……あんな奴に、使う必要がないと思っただけだ。……納得は出来ないかも知れないか。オレも怒っていた、と言う事が大きいから」
「っ……」

 かなみは、少しだけ、表情を変える。絶望と怒りが多かった。殆どがそれでウエイトを締めていた。 けれどユーリの言葉を訊いて変わっていく。

「大丈夫だ。……それに、大体想像はつく。聖武具は見つかるよ」
「……ありがとうございます。ユーリさん」

 かなみは、少し目に涙を貯めながら、感謝の言葉を言っていた。

 そして、ランスが詰め寄ってくる。何やら、ユーリの『想像がつく』と言う言葉に反応した様だ。

「何だと!! ひょっとして、下僕、お前か!」
「なんでそうなるんだよ。ずっと一緒にいただろ? ……十中八九、と言うか このタイミングで、オレ達に必要な武具が先に買われたんだ。……2000を超える金額を簡単に払える財力を考慮しても、多分、《彼女》だろう」
「あ……、ユーリさんもそう思いましたか。……私も、同じです」
「あ、あぅ…… ランス様。……その、ローラさんではないでしょうか」

 かなみも、同じ結論だったのだろう、ユーリの言葉に頷いていた。シィルも今回ばかりは、同意だった

「何を言う、オレ様は怪物とじゃなく、人間との恋の素晴らしさを教えただけだぞ? 感謝されこそすれ、恨まれる筋合いなどないわ!」
「無茶苦茶な理屈を言ってるんじゃない。……兎も角、ランスの家に戻ってみよう。もし、彼女がやったんなら、絶対に何かを残すだろ。あれだけ恨んでいたんだ。何も言わずに去るとは思えないし、復讐を誇示したいとも思える。……後、不本意だが、オレとかなみも恨まれている。……が、名前を知ってるのはランスだけだ。お前の家なら 場所を突き止めている可能性も高いだろ?」
「むむむ……、あのローラめ、せっかく気持ちよくしてやったと言うのに、恩を仇で返すとはこの事だな」
「ランス様……」
「あんたのせいじゃない!! このケダモノ!」

 かなみがそう言うが……ランスは唯我独尊だし、勿論通じない。だから、これ以上の問答は時間の無駄だろう。

「わかったわかった。だから、さっさと行くぞ。可能性が高いのはお前の家だ」
「ふん……、絶対またひんひん言わせてやる!」
「あぁ……また、恨みを買いますよぉランス様」

 シィルは、あわあわ、と慌てていた。ランスが言ったくらいで止まる筈もない事はよく知っているけれど、仕方が無い。

 そして、かなみはまだ怒っていたが、ユーリの言うようにランスの家が現時点で一番可能性が高いだろう。

 だから、これ以上は本当に時間の無駄だと判断し 口をこれ以上は開けなかった。


 そして、一行は 武器のない武器屋、主のいない武器屋から後にした。







~アイスの町・ランスの家~



 一行は、ユーリの言うとおりに、ランスの家へと戻ってきた。

 そこでは、確かにユーリの読み通り、手紙が一通置かれていた。これみよがしに、テーブルの上に。……家に侵入したのだろう。見事な手際だとも思えた。

「ランス様、この手紙は……今朝は無かった筈です」
「普通は、家のポストに入れるモノだ……間違いないだろう」
「いや、オレ様のファンがオレ様に抱かれる為に侵入したのかもしれないぞ? がはは」
「馬鹿言ってないで! さっさと確認してっ!!」
「ふん、シィル。読め」

 シィルに読むように命令を出すランス。そして、シィルは 手紙の封を切って中を見ると、読み上げる。

「えっと……『軽蔑すべきランスへ』」
「なんだと! おい、シィル! 貴様、主人に向かってなんてことを言うんだ。お仕置きだ!」

 ランスはそう言うと、シィルの頭にゲンコツを3発程見舞った。シィルはただ読んだだけなので、全く非は無いのだが……。

「ひんひん……痛いですぅ ランス様」
「……って、シィルちゃんは手紙を読んでるだけだろ? その怒りは差出人の為に取っておけ。……十中八九、と言うか間違いなくローラだとは思うが」
「ふんっ!! なら、許してやろう。いいから続きを読め」

 ランスがそう言うと、シィルは意を決する様に頷いた。そして、改めてランスに。

「……怒らないでくださいね」

 そう言っていた。
 ランスは、表情は怖いがとりあえず了承した様だ。

「『軽蔑するランスへ。 聖剣と聖鎧は、私が盗んでやったわ! 困っただろう、ばーか。後、名前が判らない女と男! ウー君を殺した償いは絶対にしてもらうんだから!』」
「おいコラ!! シィル! 貴様、ご主人様に向かって、ばーかとはなんだ!! お仕置きをしてやる!」
「ひんひん、あーん。だから、私は手紙に書いてある通りに読んだだけなんですよ……」
「はぁ……、とりあえず名前が知られてなくて良かったな。知られてたらヒトミにも危害があったかもしれないしな」
「む? おいユーリ、ヒトミとは誰のことだ??」

 ランスはユーリの言葉に反応した。
 ヒトミと言う名前から、女の子をイメージしたのだろう。その想像は間違いないが、こんな時でさえそう言う所にはまっ先に反応するのは、呆れるを通り越して流石だ。

「さてはお前、誰かを誘拐して家で非道鬼畜な真似をしているな?」
「お前じゃないんだ。馬鹿言うな」
「なら、なんだと言うのだ」
「はぁ……今はそれどころじゃないだろうに」

 ユーリはため息を吐き説明に入る。言わないと五月蝿いのが判りきっているからだ。……勿論虚実を混ぜて。

「ヒトミと言うのは、オレの《妹》だ。……歳は10歳のな。今度、カスタムのミルにでも紹介しようかと思ってる。友達になれたら良いと思ってな? なんなら、ランスも遊んでやってくれるか?」
「バカ言え、オレ様の許容範囲は、15からだ! それに、お前、ロリコンだったのか? いや、シスコンか」
「……言っておくが、襲うのは、許容しない。それに、お前に何言っても明後日方向に帰ってくるのはわかってるから、さっさと続きだ。続き。シィルちゃん。差出人はやっぱり?」

 ユーリはそうシィルに聞くと……シィルはゆっくりと頷いた。どうやら、想像の通りで間違いないということが明らかになったのだ。

「あ、はい……、間違いなく、差出人はローラ・インダスさんです」
「やはり、オレ様の推測通りか! 恩を仇で返しやがって! 後100回は犯してやる!!」
「だから、なんで恩なのよ! ローラからしてみれば、恋人が奪われた上にランスに犯されたのよ? 怒って当然! やりすぎだわ!」
「ふん! オレ様のする事に口出しをするな! それに、お前はリーザスがどうなっても良いと言うのか?」
「うっ……」

 ランスの言い方に言葉に詰まるかなみ。
 確かに彼女のせいで、リーザスが危ないのも事実だ。だが、強姦をされた上に愛していた恋人を奪われた彼女。……確かに口が悪い所はあるが、悪党はどう見てもランスだから、仕方が無い。

「兎も角、ローラを探そう。彼女は、犯されたのは事実だが、リスが、そのウーが死んだと思ってる所は事実じゃない。訳を話して返してもらうしかないだろう」
「え、ええ。そうですよ。聖剣と聖鎧は今のリーザスには無くてはならないものなの! 早く、リア様達を助けに行かないと……」
「ふん! 舐めた真似をした小娘め、このオレ様を虚仮にするとは、どういうお仕置きを受けても構わないつもりだな、よし! 早くローラを追うぞ! シィル! ローラの居場所はどこだ!」
「え、えっと…… 流石に 場所までは書かれてません……」
「この役立たず!!」
「ひんひん……」

 理不尽なことを言っているランス。そして、本気で嫌がっているとは思えないシィル。いつも通りだが、とりあえず話を進めよう。

「聖鎧に剣だ。あの装備は女の子が運ぶには骨が折れるだろう。なら、ここからそうは離れてないカンラが有力じゃないか?」
「カンラと言えば、隣町だ! よし、直ちにカンラの町に向かうぞ! 絶対に犯してやる!」

 ランスは、怒りのままに立ち上がった。
 間違いなく一番の悪はここにいるのだが……、余計なことを言ったら、更に遅くなってしまうので、一行は口に出さず ランスの家を後にした。









~カンラの町~


 道中に場所がまるで違うティティ湖に寄ったりして、ハニワ大神殿とやらを見たり、道草を食ってしまったが……、とりあえず、カンラの町へは直ぐに到着した。

 モンスターとも、あまり 遭遇しなかった為、比較的早く移動できたのだ。

「よーし! ここにローラのヤツがいるはずだ。捕まえて犯してくれるわ!」
「また、恨みを買うぞ? それに、オレにも何故か被害が被るんだ。少しは自重しろ」
「がはは、それは人徳と言うやつじゃないか、日頃の行いが悪いからこそ、恨まれるのだ!」
「そんな事、お前なんかに言われたくないわ! 元凶の癖に!」

 ランスは相変わらずだったけれど……もう、ユーリの方の突っ込みも殆ど恒例のものになりつつあるようで……。

「なりたくないわ! 鬱陶しいんだぞ!!」
「わっ!? ど、どうしました??」
「……何でもない」

 ユーリの聞き耳のスキルも相変わらずなのである。









~カンラの町・酒場~


 一行は、情報を集めるために、情報の出処でもある酒場へと向かった。
 この場所は町の住人は勿論、冒険者も多様する為情報が集まりやすいのだ。今でこそ、コンピューターが主流となりつつあるが(真知子と優希だけかもしれないが)、一昔前はこう言った生の声と情報魔法が主流。魔法に関しては、高位の使い手じゃないと、精度が上がらない為、主に口コミが一般だったのだ。

 そして、酒場の中では、繁盛しているようで、沢山の客で賑わっている。これは良い情報もあるだろうと思えたが……、繁盛している理由が直ぐに判ることになる。

「あ、ランス様、私、レモンティーがいいです」
「私はどちらかと言うとほうじ茶が……」
「おいおい……まぁ、簡単な息抜きと言うか休息は必要だがな」

 ユーリは止める事はせずに苦笑いをしたが、ランスはそうはいかなかった。

「馬鹿者! くつろぎに来たんじゃないぞ! 情報を集めるんだ!」

 なんともまぁ、珍しい光景だが それは、好ましい事でもある。だが、その次の瞬間だった。店員が案内に来てくれたんだろうけれど。

 だが、問題はその姿だった。

「いらっしゃいませ~、お客様3名ですね?」

 ランスはその姿にデレデレに鼻の下を伸ばしていた。

「でへへへへ……すばらしい店ではないか!」
「………ここは、そう言う系列の酒場だったのか?」
「ちょ、ちょっと! あなた、なんて、淫らな格好をしてるのよ! ゆ、ユーリさんも見ないでください!」
「むげっ!? もがっ!!」

 かなみは、思わずユーリの目と口を塞いだ。
 ……と言うか何故口も?と思ったが、口を塞がれてしまったユーリには聞くことができない。シィルは、慌てて店員さんに教える。
 現在どういう姿でいるのかを。

「あ、あのぅ……パンティ、履き忘れてますよ」

 だが、その事にも、意に介さない様子だ。と言うか、それが狙いだとか。

「くすくす……、良いの良いの。当店ではお客様サービスの一環としまして、チラリサービスを実施してますので。いつも好評を頂いております」
「チラリサービスって……」
「ぐふふ……いや、実にすばらしい。この店の店長はじつにいいやつだな」
「チラリどころじゃないじゃない!」

 かなみは、その姿に思わず突っ込みを入れてしまっていた。
 脚を高く上げているのだが、見せつけていると言うのが正しいだろう。だが、かなみさんは忘れてしまっているようだ。

「もが……もが……(息っ!息が……)」
「……あ」

 かなみは、漸く思い出すことができていた。
 ユーリの口を覆ってしまった時、口だけではなく鼻も塞いでしまった為、呼吸が出来ないのだ。

 酸欠(チアノーゼ)の症状が出だしてしまってるユーリ。唇が紫色に変色をし始めている。

「すすす、すみませんっ!!!」
「ぷはぁっ!!」

 かなみは慌てて手を離した。

「はぁ……はぁ……、勘弁してくれよ……、マジで。死ぬかと思った……」

 肩で息をし、肺に空気を取り込むユーリ。
 単純な力ではユーリの方が圧倒的に上であるのだが……、なぜだろうか?

 あのカスタムの事件が解決した後、町の皆にからかわれて帰ろうとした時の志津香の力を彷彿させるかのような力だった為、振り解けなかったようだ。

「ご……ごめんなさいっっゆーりさんっ! つ、つい……」

 かなみは慌てて頭を下げた。
 顔を赤らめるかなみ。これは嫉妬をしてしまったんだと、本人も解っている。ただ、見ただけで、そう思ってしまったんだ。

 ……だからこそ、ひょっとしたら、知られてしまった?と恥ずかしくもあり、そして淡い期待もしたのだが……。

 もう、終わった事だと、笑って許しているユーリに、かなみは少なからず落胆をしてしまった……。

「(……本当にレベルが上がったようだな、あの力だ。……確かに忍者である事を踏まえたら、成長速度としては驚異値だと言えるだろうな)」

 ユーリは、変に理解してしまっていて、残念だがかなみの好意から来たものだとは、思わなかったようだった。

「あ、見るだけですよ。触っちゃダメですからね?」

 ランスは、食い下がろうとしたが、やんわりと断って躱す店員だった。その後。


《カレーマカロロ》と《焼き肉そうめん》を注文し、腹ごしらえをした。

 
 依頼料金が余っている為その辺りは問題なく払えたようだ。……色々とランスはクレームを出しているが、ノーパンの彼女に免じて許しているようだった。

「あれ? 割箸があるって何か変ね」
「割箸は、東南アジアの森林の破壊に……む? それはどこだ?シィル!」
「ええっと……、分かりません」
「役立たず!」
「ひんひん……」
「何言ってんだか」
「まぁ、割箸は木を伐採して、作ってるから、色んな所で批判されてるみたいだが、その実は違うんだがな」
「え? どういう事ですか??」

 かなみは、ユーリの話を聞いて気になったようだ。

「以前だが、仕事先で聞いた話でな。廃材を使って割箸を作るんだそうだ。割箸の為だけに木を切ったりはしてない。寧ろ余すこと無く、無駄なく使ってると言う事だそうだ。筋違いらしい。まぁ、別に今は関係ないから覚えなくてもいいぞ?」
「いえ……、勉強になりましたよユーリさん」
 
 かなみは関心をしたように、頭を下げた。
 ちょっとした、マメ知識をかなみが勉強している間にランスはと言うと……。コップに蠅が止まっていたからと言う理由で、ハニーのバーテン《加藤清森》にクレームを出していた。そして、20GOLDを巻き上げたとか。

「がはは、正義は勝つのだ!」
「何やってんだか……それより情報だろ、情報」
「む? そうだったな。おい、ハニー。戦争はどうなってるんだ? この辺りでは何もないのか?」

 ランスは、まず戦争についてを聞いたようだ。
 ハニーの加藤は怯えつつも礼儀正しく答えてくれる。

「あ、はい……ここのところは、お客様の間でもその噂で持切りです」
「リーザスは、どうなったの?もしかしたら、奪回する事が出来たとかは、情報にない?」

 かなみは、希望的観測だが それを僅かに期待していたのだ。
 確かに、リーザス最強のリック将軍が敗れ、そしてレイラ隊長も敗れてしまった状況。だが、それでもまだ遠征に出ている部隊は他にもいるのだから。でも、返って来た言葉は非情なる現実だった。

「奪回も何も、リーザス軍は、城を落とされた後、各地で撃破されてしまって、もう降伏しましたよ。ヘルマン軍が高らかとそう宣言をしてましたから」
「こ……降伏なんて……で、でもっ! まだ白の軍だって、それに国境警備隊もいるはずなのに!」
「その辺のことは、私はよく分かりませんが、既にリーザス全土は降伏されてヘルマン軍は今は我等が自由都市地帯にまで進軍しているのです」
「……魔人が相手だ。そして、不意をつかれたと言う時点で最悪の状況だったんだろう」

 ユーリは、その言葉が嘘だとは到底思えなかった。
 少しだけ手を合わせたあのサテラと言う魔人でさえ、名のとおり、人外の力を保有しているのだ。ラークたちをあっさりと打ち負かしたその実力。その魔人がまだ他にもいる。……かなみには酷な話かもしれないが如何にリーザス軍でも不思議ではないと判断したのだ。

「それは、困ったな。リーザスの国が無くなったら、仕事の報酬が貰えないじゃないか。金が入らない上危険だし、シィル。やはりアイスに帰るか」
「ら、ランス様……」
「リア様たちを救い出すことができたら、リーザスの国も復活します! 報酬のことは絶対に大丈夫ですからそんな事を言わないで下さい!」
「とは言っても、全土を制圧されてるんだろ? その時点でもう、終わりではないか」

 ランスは、他人事の様に……まぁ 間違えてはいないんだが そう言っていた。これは、下手をすると面倒くさいと言って帰ってしまうパターンもありえる。

「ん。だが 制圧しただけで、まだ助けを待っている街人、村人はいる筈だぞ?」
「む……」

 ユーリの言葉にランスは反応を見せた。
 と言うか、『ユーリにはやらん!』と言っていた彼はどこに行ったのだろうか……。まぁ、最近では恒例行事になりかねないが、ユーリは続けた。

「まぁ、ランスが怖がって、今回のを抜けたいのなら、別に無理は言わない。後はオレが ヤっておくから」
「むっかぁぁぁ!!! 誰が怖がってるだ!! この超英雄を愚弄するんじゃない!」
「なら、なーんで、アイスに帰る? 別に良いぞ? オレも頑張るし」
「だから、言ってるだろうが! 貴様にはやらん!」
「はいはい。一応期待してるんだから、やる気だせ。(なら、帰るって言葉出すなよ……学習してると言うよりは鳥頭だな。すぐ忘れる)」

 ユーリはそう思っていた。
 こと、女の事なら覚えているとも思えていたが……、例外はあると思うがランスの頭の中では 普段は、【面倒事>女の子の危機】の割合が強いのかもしれない。だが、美女(仮)が襲われる事を匂わせると、横取り?をする事を匂わせると……。

【美女、美少女>>面倒事】になるようだった。

 それに、よくこの事を使っているが、正直規模が規模。負ける気はサラサラ無いが、ランスには天運のスキルがあるし、かなり使える。ヒトミをも凌駕するかもしれない天運だ。
 ランスがいれば、奪回の可能性も大いに高くなると見ているのだ。

「はぁ……、リア様がランスを待ってなかったら、ユーリさんだけで良かったのに」
「オレのことを信頼してくれてるのはうれしいが、あまりランスを侮らない方が良いぞ? かなみ」
「はい。……わかってるんですがね……」
「まぁ、オレは慣れてくれとしか言えないからな……」
「はい。頑張ります」

 慣れたくないと当初は言っていたかなみだったが、もうなりふり構ってられないのだ。

「それで、ヘルマン軍たちはどのあたりまで来ているんですか?」

 シィルが戦争の状況の続きを聞いていた。
 ……加藤の話はユーリにとっても決して無視出来ない内容があった。

「2日前には隣町のラジールまで占拠されてしまいました。今はカスタムの街を攻めているハズです。次はこのカンラですが……町長は早々に降伏すると言ってますので、この町で戦争になる事はありませんよ」
「っ……」

 ユーリは、カスタムと言う名を聞いて思わず息を飲んでいた。


 それは考えうる事だと、何故直ぐに頭が回らなかったのかと嘆く。まだ、入った情報が少なすぎていたと言うのもあるだろうが、リーザスの軍を屠った圧倒的な武力を翳しているヘルマン軍であれば、必然的に狙うのは自由都市。そして、道順的にカスタムと当たる事も今考えれば想像するのは容易い。

「げっ、もう直ぐにここに来ると言うのか。ええぃ面倒くさい」
「ら、ランス様……カスタムと言えばマリアさん達が……」
「ん? そうだったか?」

 ランスは、すっかりと忘れてしまっている様だ。あの極めて大きな仕事と言える大事件を。
 封印された町の解放、そして 指輪に魅入られた魔女達の解放。……全ての元凶の討伐を。

 だが、ユーリは忘れる筈も無い。

「志津香……」

 ユーリは彼女の名前を口ずさんでいた。
 ………志津香、魔想志津香。
 彼女は、嘗て大恩のある夫妻の娘でもあり、その死を共に目の当たりにし、復讐を誓い合った間柄でもあるのだ。彼女を大切に想っているのは間違いない事だから。
 ……それが、彼女にとって喜ばしいのか、複雑なのかは判らないが。

「まぁ、凶暴なミリや志津香がいるんだ。大丈夫だろう。多分……」
「え? カスタムの町にお友達でもいらっしゃるのですか? しかし、もうダメかもしれませんよ? 完全に包囲されているって話ですし」

 その話を聞いたユーリは、かなみの方を見た。少し……申し訳ない表情をしていたが、直ぐに表情を引き締め直し。

「かなみ、すまない。寄り道をさせてくれ。……アイツ等を見捨てる選択は出来ない」
「あ、はい。自由都市の町の解放は、ひいてはリーザスの為にもなります。それに、ヘルマン軍が襲っているのなら、私だって止めたい気持ちもあります。反対などしませんよ!」

 かなみはそう答えた。
 ユーリの口ぶりから カスタムには知り合いがいるんだと思えたようだ。……女の子じゃなかったら……と思えたが、それどころではない。危険な状態なのだから。

「ランス様……、マリアさん達、カスタムの皆を助けに行きましょう」
「がはは、オレ様がいなければ何も出来ない奴らだからな。恩を売るのも良いだろう」

 ランスも、どうやら乗ったようだ。思い出したのだろう。カスタムには、以前の事件でも繋がりがあるし。ランスとしても、マリア達を失うのは我慢ならないとも思えるのだ。

「ハニー……加藤。カスタムは包囲されたと言っているが、それは持ちこたえているから、なのか? 情報はあるか?」
「あ、はい。カスタムの町は、かなり強固に防衛をしているらしいです。なんでも相手、ヘルマン軍は数1000にも及ぶ兵力を保有しているというのに、2,300人位で何回にも渡って撃退していると言う噂です」
「がはは、流石はオレ様の女達だ。ちょっとやそっとで、殺られるようなヤワじゃない」
「流石……だな」

 ランスはそう言って笑っていた。ユーリも同様だ。
 彼女達は騙されていたとは言え、元々はカスタムを守護する為の魔道士として、育てられてきた身だ。防衛術に関しても知識があるのだろうし、ミリ達もいる。

 マリアの言う歴史に残る武器、チューリップが更に量産されて、機能をしているとすれば……確かに頷ける。
だが……。

「2,300でか……数の暴力だな」

 そこが重要、最重要項目だった。
 戦の要は、基本的に物量の多さがモノを言う。ゲリラ戦を仕掛けるのならまだしも、篭城戦となれば、この上なく戦況は悪いとも言えるのだ。

「はい。そうなんです。そろそろやばいのではないか、と言う情報もあります。あんなに激しく抵抗したら、征服された場合が、ひどい目に会いますよ。それを考えたら、今の防衛戦はバカバカしいとさえ思ってしまいます。どうせ、負けるのなら早くに降伏したほうが良いと思えるのですけどねぇ」

 その言葉を聞いた途端、ユーリの眼前には、志津香の顔。そしてあの時に見たラガールの顔も浮かんだ。負けるからと言って、降伏するはずがない。
 そして、その『ひどい目に』と加藤が発言した時だった。

「ひどい目……? どうせ、負けるなら? ……馬鹿馬鹿しい、だと?」

 突然、空気が裂けたかのような甲高い音が響いたかと思えば、加藤の居た席に忍者刀が突き刺さる。

「ひぃっ!!?」
「……オレの前でその言葉は二度と言うな」

 目つきを鋭くさせて加藤を睨みつけているユーリが居た。
 彼の目に映ったもう1人の存在。恩人である夫妻、惣造を殺し、アスマーゼを犯し……そして、母親を傷つけたあの男が浮かび上がった。

 ユーリは、彼にとっては、ラガールの行為を止め、討ち滅ぼす為に放った一閃だった。

 ……だが、相手が違う。
 一瞬だが、取り乱し 殺気を放ってしまったユーリだったが、驚き何も言えなかった2人、シィルとかなみを見て、完全に怯えきってしまってる加藤を見て、直ぐに正気を取り戻す。
幸いにも、席は奥であり、他の客は 過激接待を受けている為、気づかずに騒ぎにはならなかったようだ。

「……すまない」
「い、いえ……大切なお友達がいるのに、軽率でした……」

 ユーリは忍者刀を仕舞い、詫びを入れた。
 加藤自身もランスの連れと言うだけで、多少は警戒をしていた為 大丈夫だったようだが、謝罪されると思わなかった為 その事も少し驚いているようだった。

「ふん。何をやってるのだ」
「悪い」
「言っておくがな? アイツ等はオレ様の女だぞ? お前にはやらん!」
「それは、互の同意を得てから宣言してくれ。オレから兎や角は言わない」
「直ぐにオレ様に惚れるに決まっているのだ! がははは!」

 ユーリが怒ったのを見たのは久しぶりの様な気がする皆。その怒りが誰かの為だから、誰も責めたりはしなかったのだ。

 そして、かなみも……シィルから事を聞いた。カスタムには、ユーリと深い繋がりをもつ人もいるのだと言う事を。

「そんな事が……あったんですか」
「はい……」
「ユーリさん……」

 かなみはユーリの後ろ姿を見つめた。

 正直、最初こそはまた女の子が……?とも思えてしまった自分が情けなくも感じるのだ。

「私もお手伝いします! カスタムを救いましょう」
「ありがとう。……かなみ」

 ユーリはそう言って笑っていた。

 きっと、平常心ではいられない程だと思えるのに、それでも笑顔を見せていた。

「いえ!」

 かなみは笑っていた。
 あまりよくない考えだが、カスタムの町は、強固な防衛をできているとう言う事だ。つまり、それだけ優秀なのだと言う事。救うことが出来たらあわよくば、リーザスの奪還に助力を願えるかもしれないのだ。それに、確かリーザスはカスタムに資金援助もしているのだ。

「(マリス様……ひょっとして、こう言った事がありえると読んでいたんでしょうか……)」

 その答えを今聞く術は無いが、展開を考えれば、リーザスの為になっているのだ。
 本当の理由はユーリに恩を売るために、カスタムへの無償援助をしたのだが、結果的にはマリスの老獪な処世術とも言えるだろう。



 そしてその後カスタムへどう行くかを相談していた。



「助けに行くのは解ったが、どうやって行くのだ?包囲されている以上は、正面突破は得策ではないぞ?」
「……ランスから、真面目な意見が出た事にやや驚きを隠せないが……間違いないだろう。正面からだったら、数1000人全員を相手にしかねない」

 一番厄介なのは、現在包囲されているという事。
 完全に包囲をしていると言う事は、逃げ出さない様に囲っていると言う事であり、つまりは、外に逃げ出せないだけでなく、侵入する事も出来ないと言う事だ。助太刀をしようにも中に入れなければ話にならない。外から攻めるには圧倒的に兵力が足りていないのだ。

『ふっふっふ~~……どうやら、お困りのようね?』

 そんな時だった。
 
 カウンターで、飲んでいたであろうフードをかぶった者が立ち上がったのだ。

 そして、その声……勿論、ユーリは聞き覚えがあった。何故だか、ユーリの背筋が一瞬だけ、ぞくっ としてた。

「む? 誰だ??」

 ランスは、覚えが無いようで、そう聞いていた。と言うより後ろ姿だったから……、と言う事もあるだろう。

「……まさか」
「そう、そのまさかっ! ある時は悪魔とも戯れる程の度胸を持つシスター! そして、またある時は皆の為に身を粉にして治療をする献身的なシスター……、そして、その正体は! 清楚で可憐、頼りがいのあるカスタムの最高のシスター・ロゼよ!」
「………」

 現れたのは、その真逆だと言っていい印象を強烈に醸し出す、AL教団きっての不良、淫乱シスター。

 そして、ユーリにとってのある意味一番厄介な存在でもありえるシスター。


《ロゼ・カド》

 
 不自然な後光?を出しながら、ここに降臨したのだった。













〜人物紹介〜




□ ロゼ・カド(3)

Lv5/20
技能 神魔法Lv1

AL教団が誇る?淫乱シスター。
カスタムの町の教会のシスターだったはずだが、何故かカンラの町の酒場で飲んでいる所でユーリ達と接触をした。
彼女の誇るセンサーが働いたから、逃げてきたのか……?とも思えるが、まだ本心は不明である。(次話で判明する??)


□ セティナ

カンラの町の酒場にいるノーパンのウェイトレス。(実は見えそうで見えない。見ようとすれば見えない為、見ようとしなかった女性陣にはしっかり見えちゃっていた為、取り乱していた)
いかにもな格好をしているのだが、Hをすると色々と大変だとか……。
実はユーリとも面識があるのだが、この時彼は酸欠状態となっていた+セティナが気を利かした為、説明は無かった。


追記では、目標は、グラフィッカーになる事であり、毎日の仕事が終わってから、必死に練習をしているらしい。


□ 加藤清森(モンスター・ブルーハニー)

カンラの町の酒場のバーテン。
ランスに偉そうだ、と思われたせいで、出した水の中に蠅が入っていたと言いがかりをつけられ、更には証拠を隠滅。完全に故意に金を巻き上げられてしまい、20GOLDを自腹で失ってしまった悲しいブルーハニー。
ユーリにもビビらされてしまうが、直ぐに謝罪をしてくれた為、ランスの仲間とは思えないと驚いていたとか。




〜料理紹介〜


□ カレーマカロロ

フランスパンをくり貫いて中にシチューとギョウザを詰め込んでうどんで巻いているもの。
ランスは、ヘンテコリンなものと評価し、味自体も変らしい。

価格:100GOLD

□ 焼き肉そうめん

氷でキンキンに冷やしたそうめん(麺類)の上に焼いている肉(うし)を乗せた冷たくて温かい料理。
おふくろの味として、昔から好まれている料理でもある。

価格:300GOLD






 
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