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少女の黒歴史を乱すは人外(ブルーチェ)

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プロローグ
  第一話:少年は次の世を見やる。

 
前書き
あるいは現在進行形の黒歴史、その二次創作です。

この作品の主人公は、原作主人公の英二とは違い、中々に黒い部分があります。
またラブコメ主人公とは少々考え方が違い、思考も結構暗い部分がありますので、ご承知の程を。

では、本編をどうぞ。
 
 

 
 
 ハッキリ言ってしまおう。


 俺の居は自分の身に起きている事が……否、何が起きているのかも、全く分からずに居た。



 ただ真っ白く時折虹にも似た光の軌跡が横切る様を、前に引っ張られている感覚を受けながら、横目で見続けているだけだ。


 先程まで俺はベランダの上に立ち夜風を浴びていた筈なのに、青暗い場所から何時の間にこんな嫌になるぐらい明るい場所へ、意識する間もなく移動してしまったのだろうか。


 やがて手足の自由も聞かなくなり、脳が本格的に麻痺したか自分の体が存在しているかもあやふやで、かっ飛んで流れて行く代わり映えのしない景色を横目で見るのみになった。


 やがて眼だけを動かすのも億劫になるぐらい、運動後にも似た気だるさが襲いかかり、視線が前で固定される。




 そして向こうに何やらぼやけた気色が、コロナの様に光り輝く輪の中に見え、一段階スピードを上げてそこに勢いよく突っ込み―――――






 刹那、気色が唐突に鮮明な物へ、体の感覚がハッキリとしたものへ、全てが丸ごと切り替わった。



「おおお、おぎゃあああっ! おぎゃあああっ!」


 驚いて声を上げるが、赤子の産声にも似た……いや、正しく赤子の産声そのものである声しか、俺の口から出て来ない。

 何時の間にローションにでも突っ込んだか体はヌルヌルで、いっそクセになる程にキツイ血の臭いが、敏感になっている鼻を刺激する。


 手足も上手く動かず、喋る事も出来ない。首も動かせず目を動かすが、瞼が開き切らない。……何が起きているのか等、全く分からない。


 焦燥ばかりが募り困惑がただただ広がっていく中、いきなり俺の体に温かい何かが振れたかと思うと、ゆっくりとした速さで徐々に俺の体を持ち上げて行った。


「お、ぎゃああっ!」


 やはり口からは奇妙な産声しか出て来ない。オマケに息が苦しいクセに、呼吸するには声を出さなくてはならない。
 今一度言う―――何が起こっているのか。




「おめでとうございます! 生まれた子は元気な男の子ですよ!」
「おお……おおおぉぉ! 生まれたっ!! 生まれたぞ優子さん!」
「ええ、分かるわ……私の子の声が、聞こえたのだから……」


 ……だが俺の思考は、耳に聞こえたこれらの単語で、一旦完全に停止した。


「あなた……その子を顔を見せて貰っても、いい?」
「ああ、勿論だ」


 鈍く響く正に漢と言える力強い声に、細く吐かなくしかし芯のある声が俺の両耳を叩いてくるが、未だ思考が回復しきらない。

 そんな俺の目の前に額の広い女性の顔が現れ、此方へ向けてニッコリと優しげに微笑んだ。


 此処で漸く思考が戻り、考えたくない方へと思考が傾いて行く。



 テレビなどで見た事のある機材に今聞いた言葉、目の前に広がる自分よりも明らかに大きい顔、そして産声や上手く動かない体。


 ……俺は、もしかして…………赤ん坊となっているのか?


「なあ、名前は決めてあっただろうか、優子さん」
「今決めちゃいましょう……ふっと浮かんできた名前があるの」



 そして即ち、こんな状況に陥っている、と言う事は―――――





麟斗(りんど)……この子の名前は、麟斗よ」
「良い名前だ」



 俺は……あの時に、既に死んていた……のか?


「お、おぎゃああああああっ! おぎゃあああああっ!!」

「うおぉ……や、やはり顔が怖いのだろうか……?」
「フフフ……大丈夫よあなた。これから頑張っていきましょう」



 目の前に羆の様な顔がある事も、医者達が駆けずり回る様子も、女性の温かみのある声も、俺の耳には入らない。
 信じられない事実に、受け入れられない結果に、産声にしか変わらない絶叫を上げるのみだ。


 その声にこもった感情を……抗いや恐怖など、赤子が泣いているようにしか見えないこの状況で、他に誰が理解してくれようか。




 俺は涙を流し、声を上げ続けた。
 例え無駄だとしても、何の意味も持たないと分かっていても……声を上げずには居られなかった。



 両親と仲が良かった訳では無く、兄や姉に弟や妹も居なかったが、冷えて居れどもそれなりに不自由ない生活をしていたのだ。
 
 世界に何の不満も持っていなかったと言えば嘘だ。もう少し楽しい学校生活を送りたいと思った事も、もう少しストレスのない生活が欲しいと思った事も、温かい生活を望んだ事もある

 だが、俺にとっての当たり前が 冷たい世界(ソレ)であり―――そんな俺が何故、行き成り死ぬ事になってしまったのか。
 世の中の理不尽を、不平等を、俺はこの時人生で……前世も含めれば本当に初めて、心の底から呪った。



 それと同時に、目の前に居る新たな両親であろう彼らには、複雑な感情をいだかずには居られないのだった。

















 それから途轍もない速さで月日がめぐり、漸くゆっくりと時間が流れて行くよう感じた頃には俺は五歳となり、そこから徐々に日は過ぎて今現在は八歳となっていた。


「……クソっ」


 思い出したくもない思い出が脳裏に浮かび、麟斗と新たに名付けられた俺は、不快感を隠しきれずに小さく毒吐いてしまう。

 突き刺さった心の中の棘は、今でも尚しつこくとれる事は無い。


「はい京平さん、あ~ん♡」
「うおっほん! ……優子さん、子供たちの前でそう言うのは……」


 目の前に居る額の広い幼げな女性・優子と、羆の如き体格と迫力を持つ益荒男・京平を、未だに俺は両親だと中々思いきれていなかった。



 前の家族が、生活が忘れきれないのもある。だが、思いきれない本質はそこでは無い……もっと別にある。


 新たな父親である京平は、躾が厳しく前の生活では考えられない事でも殴ってくる―――そう、『殴って』くる。
 俺自身に非がある事も確かに少なからずあるが、放っておいても良かろう事や、単純に彼の個人的嗜好に合わせることが出来なくても、お叱りと称した暴力が飛んでくるのだ。


 朝早く起きないのは悪いことだ。だがそれを殴ってまで強制するのが親なのだろうか? 話す事も何も無いと言うのに、朝一番家族そろって食事 “させる” 為に拳を叩きつけるのが、父親なのだろうか?


 そして新たな母親である優子。彼女は嫌になるぐらいのラブコメ好きで、同時にとんでもない貧弱体質でもあった。
 俺の幼馴染が女であると分かれば、事あるごとにラブコメディー的展開を演出しようとし、酷い時には力付くで押し付けようとまでしてくる。


 だが……ぐいぐい来るのを払いのけると、例え邪魔だからと軽く払いのける様押した『ただそれだけ』でもひっくり返ってしまう。
 有り得ないぐらいの、そして余りにも露骨であり、態とらしいとすら感じる虚弱体質だ。
 そして父である京平が駆け付け、此方の言い分も聞かずに拳骨と言う名の右ストレートを飛ばしてくるのだ。


 更に言うなら、それはあろう事か、彼女に対して多少きついかもしれない一言を吐いただけでも駆け付け、お決まりとばかりに力技を炸裂させてくる。
 母親にそんな口を利くんじゃないと言うのが向こうの言い分だが……知らないだろうがこちらは親と思いきれていない上に、純粋に煩わしくてイラついてそんな言葉が出てしまうのだ。


 それに強制したいなら言葉で諭せばいい。暴力を初っ端から使って軌道修正など、考え方がねじくれ曲がっているとしか思えない。



 結果強引に払いのけられず、調子に乗った新たな母親が飽きるまで耐え、発散すべく格闘技の模倣技を境内そとの林で行うのだ。

 だが此処にも注意が必要だった……四つ歳の離れた自分の兄が、性格の悪いサディスト名暴君だからだ。


 日常的な菓子の取り合いならまだ可愛い方だが、彼の行動はそんな生易しいモノでは無く、親父にバレないよう慎重に狡猾に場所を選びつつ、暴力もこみで俺をイビって来る。
 年齢差や体格差もあり、足掻こうとも全く敵いはしない。しかも先に言ったがサディストな為、此方が沈んでいる時に限って執拗に虐めてくる。


 どうにも耐えられなくなった俺は、酷い報復に会う事承知で彼が大事にしていたフィギュアを山に捨て、冷静さや狡猾さを失うよう誘導した。

 結果は大当たりで、木に吊るされボコボコニ殴られはしたが、目立つ場所での犯行だから途中で親父が割り込んできて、逆に彼が一晩+αの時間ずっと吊るされる羽目となった。


 父親である京平は俺の頭を撫でながら、大丈夫だったかと声を掛けてきた。

 だが、何時も何時も理不尽に暴力を浴びせ、兄が行っている事を俺が言っても取り合おうとせず、こんな目立つ事態になるまで放置して置いた癖に今更何なのか……そんな感情しか、俺の中には生まれなかった。



 幼馴染も幼馴染で問題だった。

 理子と言う名の彼女は隠し事が大嫌いで、特に俺にだけは隠し事をされたくないらしく、曰くされるとむかつくらしい。


 ……だからなんなのか?
 隠し事を自分はして置いて、此方は全部さらけ出せと理不尽を言い、駄目で有れば父親の如き暴力も厭わないのが、彼女をムカつかせた代償なのか?


 ラブコメディーではよくヒロインに暴力を受け、それでも平然としてその子と話が出来る奴が大勢いる…………が、現実でそんな事をされれば、ただ単に腹が立つだけだ。
 オマケに向こうの言い分は、俺の思考に自由は無いとでも言いたげ―――否、そう言っているに等しく、苛立たない奴がいたらその人は真の本物の聖人君子であるといえよう。


 そして先にも言ったが、母親はそんな奴とも関係を作らせようとしてくる。ちょっとの隠し事も、更にそれが疚しくなくとも許さない女など、死んでも嫁に貰うのは御免だ。



 論点や主題が途中からずれてしまったが……以上の様に今の母親と父親は俺にとっては受け入れ難く、前世はいなかった兄も幼馴染も全く嬉しくは無く、寧ろただ単にウザイだけの対象となっている。


 ……ただ、新たな両親が俺を愛していない訳ではなく、兄が何時も虐めばかりしている訳では無く、幼馴染が理不尽ばかりまき散らす訳ではないのも、また疑いようのない事実。
 彼等から貰った物も、確かに存在するのだから。

 それに二歳年下の妹も居る。無邪気な彼女の存在は、意外な程俺の安らぎとなっていた。



 もし虐げられるだけで有れば、俺はとっくの昔に家出をしていることだろう。愛のある物理的な躾だと、分かるだけでもマシになるというものだ。

 ……だからといってその愛が理不尽を消せるかと言えば、±ゼロどころかマイナス方面に傾いており、彼等に対し心を開けるかはまた別なのだが。
 前世の方がマシだったと思うぐらいだと、そう言えばどれだけ打ち消されているかも分かるだろう。



「……何時も思うのだがな、優子さんは何故こんな事を……」
「麟斗のラブコメ展開の為よ。アタシ達が実演しないと!」
「いや……し、しかしだな」
「躊躇っては駄目なの。もうあの子しか望みが無いじゃない?」


 此方からすればその幼馴染を、見限るか止めるかの瀬戸際で毎回せめぎ合っていると言うのに、よくも好き勝手言ってくれるものだ。

 兄はもう既に飯を食べ終えこの場に居ない。……まあ、居たら居たで何か変わる訳でもない。


「あ、そうだ麟斗。もう三年生だけど、新しいクラスは楽しい?」
「……普通だよ、いつもと変わらない」


 余談になるが、学校でクラスメイトと遊ぶ時間こそ、俺の唯一の癒しと言っても過言ではない。

 幼馴染もその時は文句を言わず、サッカーだの野球だのを楽しむだけ。嬉しいことこの上ないとは、こう言った感情に付けるのだろう。



 ……このまま何事もなく、ただ社会人になって自立して彼等から離れるまで、別段特別な事などなければよいと、俺はただ願っていた。


 
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