この腐敗した都市の中で
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それはある日突然に
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やって来たと言うべきか。
『街』の喧騒が聞こえる中、ハサミを持った少女はジャキジャキと音を鳴らしながら目の前のそれを切り取り始める。
「ジョッキジョッキジョッキジョキ~♪」
ただリズムに乗りながら、目の前のそれを解体する。
「楽しそうだね」
ハサミの少女は突如聞こえた『女』の声に耳を傾けた。彼女は人間に興味は無い。けれど今回は『楽しそうだね』と言った女の声が酷く魅力的に感じたから耳を傾けた。
「うん、楽しいさ。人はそれぞれ趣味を持っているだろう?私の趣味は解体して繊維の一本逃さずにそれを見る事。ただそれだけだよ」
「へぇ、それは変わった趣味をお持ちで。で……その解体しているのはなんだい?」
少女はニッコリと笑って解体しているそれから肌色の皮を引きはがした。
「人間に決まってるじゃん」
「……何を目的に?」
「死人を生き返らせる実験。でもねー、生き返らせちゃダメって他の人たちは言うんだよねー。なんでだろうね。なんでこんなに楽しくて面白い実験やめさせようとするんだろうね。あなたは知ってる?生き返らせちゃいけない理由」
女はしばらく口を閉ざした。やがて女は口を開いた。母親が子に質問に答えるように。少女に答えを教えるために。
「そうなると神様の諸行だからね。人間はその枠を出てはならない。そういうことだよ」
答えを聞いた少女は深い笑みを作り、女にこう返した。
「じゃあさー、人間でやるのがダメならその神様になっちゃえばいいんじゃないの?」
―――――――――――――――静寂が満ちた。時も満ちた。
一人、女は少女を唖然とした顔で見ると思い切り笑った。その笑いは、街の喧騒の中に呑まれていった―――――――。
「ふはは!はははははははははははは!!!その発想はなかった!でもね、あんな馬鹿げたアンドロイドでも!君が神になったとしても!!君は敗北するよ!何せこの町には――――――」
「『正義の味方』がいるからね!!」
この時、再び少女は。王である女しか名を知らなかったが、ネクロは。
女の顔がひどく美しく見えた。女が正義の味方と言った時の哀しいような形容できぬ、その表情。
もう一回見たい。そう思ったネクロは解体を辞めて鋏をくるくるとまわしながら立ち上った。
突然だが私は『街』の出身ではない。昔は『外』の住人だった。
これは私が歪になる原因となった日だ。
あの日は皆普通に生活していた。ただ平凡に時間が過ぎて行った。いつもと同じように夕飯を食べ、家族と談笑、母はいなかったが父と談笑して普通に眠りについた。
そう、未曾有の大地震が起きるまでは。
起きた時には父が私を庇って押しつぶされていた。父の手の爪は全て剥がれていた。痛そうな顔はせず、こちらを見て笑っていた。気付いた。父は私が抜け出せるスペースを作っておいてくれたのだ。
「出なさい」
父はそう言って優しく微笑んで私を送り出した。私は自然と涙が出ていた。痛々しい姿。生まれてからずっと育ててくれた家族のそんな姿を見るのは当時の私には辛かった。
助けようとした。いくら痛くても構わなかった。けれど父は言った。
「私はいい。みんなを連れて助けなさい」
父は笑顔でそう言い、それきり動かなくなった。私は父の言う通りに行動した。
そして私は――――――――
正義の味方になった。金属が突き刺さる音。否、無数の武器が突き刺さる音。血染めの拳、血濡れの剣。血染めの銃弾、血染めの穂先―――――――――――――。
泣くことも許されない。休むことなど断じて。走る。走る――――――
人を救う。誰かを救う。何もいらない、誰かが幸せになった結果が欲しかった。なのになんだ。なぜこうなった!死ぬのが怖くて犠牲者を増やした。それが正しいと思えなくても生きていたかったから傲慢にも走り続けた!!
後悔した。人を殺して殺して殺しつくして後悔した。違う、これは殺人鬼だ。正義の味方などではない。決して自分の意志ではない。だが……血に染まっているのは私だ。
昔のことを思い出しながら起きた。窓には朝日が差し込んでいる。隣には酔いつぶれたクロウリー。立ち上がってキッチンへ移動し、ベーコンエッグを作ろうと手を洗う。クロウリー用のは既に作って冷蔵庫だ。トーストを焼く。焼いてるうちに作ったベーコンエッグを乗せ、かぶりついてスーツに着替えた。
「行くか」
そして私は玄関を出た。
「おはようございます」
職場に来た僕はまず先に皆さんに挨拶した。皆さんそれぞれ返してくれて、自分に与えられた席に着く。
隣の席は書類や本が錯乱していて、使い物にならなそうに見えた。誰の席かわからなかったので通りかかったシンラさんに聞いた。
「此処って誰の席ですか?」
「ああん、隣の席か?無銘さんの席だよ。まぁ……」
とシンラさんはニィ……と笑い、後ろにいた赤毛の女性―――――――カオルさんを指さしていた。
「あいつが片づけるのめんどくさいから読んだ本とか、全部無銘さんのとこに置いてんだよ」
「五月蝿いぞ、イヌぅ!」
カオルさんの『重い』一撃がシンラさんの脳天に叩き込まれる。
「うごぅ!?テメェやりやがったなクソ女!」
今度はシンラさんが弾倉のない銃を取り出す。
「やめんかアホども」
いがみ合う二人を背の高い男、無銘さんが首に手刀を叩き込んで沈めた。
「おはよう、無銘」
隊長がそう言うと何とも言えぬオーラを放ちながらおはようと無銘さんは言った。
「おはようございます、無銘さん」
「む、少年。朝からこの二人を相手して疲れただろう。コーヒーでも飲むか?」
「あ、いただきます」
「微笑ましいお話の最中失礼するが……任務だ」
突如現れたイーグルさんに驚くが、無銘さんがコーヒーを淹れる手を止め、イーグルさんの方へ黒帯を隔ててもわかる鋭い眼光を向けた。
「ポイントB-2にて殺人事件。殺人犯二人が現場から逃走。兄と妹の関係の様だ。妹の方は異能があるかも不明。だが兄の異能は若干だがわかっている。今回、兄の殺人を目撃した者曰く、攻撃が全て散らばって心臓を一突き―――――――なお、この電話をしている最中に悲鳴が聞こえたため、おそらく殺害されたと思われる」
「了解、行くぞ少年」
「え、でも誰が行くかはまだ……」
隊長の方を見ると手を振っていた。行って来いという事らしい。
「りょ、了解しました……」
そうして僕らは車で移動することになった。
「どうした、少年?落ち着きがないようだが」
無銘はそわそわしている鉄平にそんな疑問を問いかけた。鉄平はひどくまじめな顔になって、こちらを見てくる。
「あの、無銘さん」
「なんだ?」
「貴方は正義の味方に付いてどう思いますか?」
ポイントの変わり目だからか景色が変わった。しかし、景色が変わったと同時に無銘の雰囲気も変わったことが鉄平にはわかった。
「……所詮、理想論だな」
「そう思いますか?」
「ああ、思うね。正義の味方とは悪を斃し、人類を救う者だ。だが全ての人類を悪を殺しながら救えると思うかね?もっとも、君のいう正義の味方が私のいう正義の味方であったならの話だが」
鉄平は少し困った顔をして、昔のことを語り始めた。
「僕はね、無銘さん。実は正義の味方に会ったことがあるんですよ」
「ほう?それはどのような偽善者だったのかね?」
皮肉げな口調だが、鉄平は笑って受け流して話を続けた。
「10年前、暴走したアンドロイドに妹と一緒に襲われまして……死にそうになった時、そこに正義の味方が現れて、僕たちを救ってくれたんです」
「……そうか」
無銘はそう言うと車を止めた。視線の先には槍を持った上半身裸の男と、髪を伸ばした物静かな白髪の少女が立っている。
「無銘さん、あれって……!」
慌てた様子の鉄平を横目に、無銘は笑っていた。
「あちらから来てくれて助かる。人もいないし……遠慮なく戦えそうだ」
微笑した無銘は車内から出、後を追うように鉄平も車から降りた。
男の方は微笑し、静かに槍を無銘へと向ける。
「へぇ、お客さんかい……どうやら捕まえに来たと見える……黒帯の方。テメェ、いきなりガンガン殺気飛ばしてきやがってどういうつもりだ?」
「ハッ、君たちを捕まえに来たということさ。まぁ……『事故』として処理してしまった方が個人的には楽だがね」
「始めから殺る気満々かい。まぁ、こっちもテメェに用があったんだがな、無銘の『正義の味方』さんよ。……下がりな、シロ」
「了解」
淡々と答えた白髪の少女は背中を向けて走り出した。
「行け、少年。彼女を捕獲しろ」
鉄平はその言葉に反応して走り出す。のだが――――――――――――――
「行かせねぇよ」
静かに男が牙をむいた。鉄平の目の前には槍の穂先が向き、こめかみの真ん中丁度に無銘によって止められていた。
「……無銘さん、ここはお任せします!」
鉄平がシロと呼ばれた少女を追いかけるために猛烈な速度で走りだした。
「いきなりか、槍兵」
「いやぁ?テメェの力を試そうと思ってな。じゃ、それ返してもらうぜ」
男が消える。無銘が動く。すでに男は無銘の背後に回り、槍を奪い去っていた。
「さて……はじめようや」
槍が構えられ、一気に前に突き出される。それを無銘は何処からかスぺツナヅナイフを取り出して弾いた。だが、弾くと同時にナイフは粉々に砕け散った。
「……!ほう」
「おい、俺の槍についてきたんだ。その程度じゃねぇだろう?」
「そうか……ではこちらも使おう」
無銘が消える。無銘は一瞬で槍兵の背後へまわり、二刀の剣を叩きつける。
「へぇ、剣か。それがテメェの得物かッ!!」
神速の突き。乱雑に繰り出されているようだが、これらは全て人体急所を狙っている。
対して無銘は剣でそれらをすべて弾く。再び剣が割れる。しかし、槍兵の突きは止まらない。だが無銘はさらに剣を出してみせる。
「なに……?」
違和感を感じた槍兵は無銘の背後に注目した。そこに広がるのは無数の剣達。槍兵はそれを見て無銘の異能を予測した。
異能が分かれば話は早い。対策を練ろうと下がろうとする槍兵だったが、突如下から発生した力によって槍が上に傾くのを感じた。
「なんだ!?」
槍を下げると同時に自身も後ろに下がる。しかし無銘はまた新たに剣を装備し連撃を叩き込む―――――――のだが少々おかしい。
(一撃が重すぎる……ッ!!)
先ほどの剣は神速の突きを防いだ後に砕けたが、ここまでの重さはなかった。しかし、どうしたことだろう。剣が一撃でくだけている代わり、とてつもなく一撃の重みが上昇しているのである。
「受け取れ」
槍兵が構えた槍を、無銘はバツ印に斬り上げた。強制的に槍が上げられ、腹部ががら空きになる。
(しまっ……!)
剣の一撃が飛んでくるかと思いきや、無銘の手に握られていたのは二丁の拳銃だった。気付いた時には遅く、銃弾が槍兵の腹部に炸裂する。
「がぁ!?が、かぁあああ!!?」
腹部に広がる激痛。見れば弾丸によって穿たれた穴の周りがぶよぶよとした感触の肉の塊になっていた。『冷たい』激痛。まさか、これは―――――――
「液体、窒素だとォ……ッ!!」
油断している暇はない。痛みをこらえ、再び槍を構える。それは戦士としての意地だったが、既に無銘は彼の視界から消えていた。
気配を感じ、右下を見る。身体を低くした無銘が素手でこちらに向かって来る。
「テメェ、飛び道具を使うなど……!剣士の……戦士の誇りは……ッ!!」
「残念だったな槍兵。私は戦士を愛する。私も戦士であろうとしている。だがな、確かに銃器を使う戦士もいるのだよ。そして、私は確かに剣士であろうよ。だがな、それは間違いであるともいえる。私は」
「拳士だ」
怪我を負った腹部へとこの世界でも五本指には入るであろう鉄拳が炸裂する。
「ぐ、があああああ!!!」
吼える槍兵。驚愕する無銘。
(あの傷を負い、さらにそこへ拳を打ちこまれたにもかかわらずまだ立つか!)
激痛が波となって槍兵を襲う。馬鹿げている。その怪物じみた精神力と誇りを、素直に無銘は認めた。
「槍兵、貴君の名前を聞いていなかった。教えてもらえるか」
「……ケンプファー。覚えておきな、無銘」
ケンプファー。ドイツ語で信念の為に活動する闘士や戦士のことを指す。素晴らしい名前だと褒め称えつつ、無銘は拳を構える。同時にケンプファーも槍を構える。
互いに最高の構えを取る。そして、ケンプファーが飛びはね、その槍を空中で構える。
(投擲か!だが……)
ただの投擲ではない。槍とケンプファーから尋常ならざる気が満ちていたのである。
「さぁ、持って行け!全て焼き尽くし灼熱が槍ァ!!」
この瞬間。因果が逆転する。無銘が全てを放つ前―――――――この戦いが始まる時へと槍は因果を超えて行く。
始まりの無銘はその赤い槍を見た。そして無異能体質故、自身の力全てを持ってそれを受け止める。灼熱は収まり、強制的にケンプファーへと帰還させられる。
「防いだか、最高の一撃を」
そして『今』に至る。無銘の掌は火傷ができ、ケンプファーの手には槍が戻っていた。
「ああ、防ぎ切った。だが、今まで見てきた槍の中でも凄まじき威力をするな君のその槍は。大方、最高の威力を持つ槍が、君の異能――――――私の予想では因果を逆転させる能力、そのままだが『因果逆転』によって最強までの威力を得たと言うところか」
「大方正解だ無銘。だが貴様、一体いくつの能力を持っている。最初に見せた剣、銃もだが、武器を造り出す能力か。だがこの槍を防ぐなど、その異能には難しい。複数の能力しか俺には思いつかん」
「大体は正解だが、私の異能は武器を作るだけだ。それ以外には持っていない」
静寂が満ちようとしていたが、ケンプファーによってそれは終わりを告げた。
「……そういう事にしといてやるよ。無銘、貴様とはいつか万全の状態で決着をつける。こっちゃあ、戦士としては屈辱だが、万全な状況で戦うな、しかも生き残れなんていうクソッタレな命令が下されてるんでな」
「命令?君ほどの戦士を従える者がいると言うのか?」
「ほっとけ。じゃあな」
そう言ってケンプファーは去って行った。去りゆく背中を見つめながら、鉄平に電話する。
「すまないが中止だ。帰ってこい」
これだけ言って無銘は車で待つことにした。
後書き
カオルの異能は『人体改造』。体重も透明化も自由自在というどこかのアサシン性能。シンラの能力は『補充』。あらゆるものを補充する。アルの能力は『転移』。意味はそのまま。しかし攻撃転移を繰り返したりできるために強力。イーグルは『銃眼』。あらゆる狙撃、射撃を完遂する。
以上。
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