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カルタゴ人と海の妖精

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3部分:第三章


第三章

「話をしよう」
「話を?」
「そうだよ。とりあえず君はこの財宝を守ってるんだね」
「そうだ」
 むべもない口調で商人に対して答えてきました。
「その通り」
「それはわかったよ。それじゃあね」
「それじゃあ。今度は何だ?」
「僕は今面白いものを持ってるんだ」
 こう妖精に対して切り出しました。
「とても面白いものをね」
「面白いもの?」
「そうさ。それをあげようか?」
 妖精の顔を見て思わせぶりに笑いながらの言葉です。
「欲しいかい?」
「一体どんなものだ、それは」
「それは海の上に置いてきたんだ」
 商人は妖精にこう応えながら頭の中で考えていました。これからどう言うかです。
「実はね」
「それなら今はないのか」
「けれどすぐに持って来られるよ」
「すぐにか」
「そう、すぐに」
 こう話すのでした。
「それをあげようか」
「わかった。それならだ」
 妖精は商人のその申し出を受けてです。あらためてこう言ってきました。
「それが俺の気に入ればだ」
「うん、それで?」
「その時はこの財宝と交換だ」
 そうするというのです。
「それでいいな」
「ああ、いいよ」
 商人は笑顔で妖精の言葉に応えました。
「それでね」
「よし、それなら持って来い」
 妖精はむべもない口調で商人に告げました。
「すぐにだ」
「わかったよ。じゃあすぐにね」
「よし、それなら」
 こうしてです。商人は一旦小舟に戻りました。そうしてそのうえで一旦スパルタの街に戻りました。その間ずっと何をあげようか考えていました。
「さて、言ってはみたものの」
 全部思いつきです。口八丁手八丁とはこのことです。
「何をあげようかな」
 考えてもこれだというものが思いつきません。何しろ妖精が守っている財宝はかなりのものだからです。それと釣り合うものというとどうしてもです。
 思いつかずに街の中を歩き回ります。スパルタの街はとても賑やかです。市場には人とものが溢れ商いが行われていました。その中で、です。
「へえ、チュニスのかい」
「そうなんですよ。チュニスのガラス細工の品です」
 こんなやり取りを聞いたのでした。
「それなんですよ」
「これは珍しいな。実はね」
 一方の声の主が言うのでした。
「スパルタにはこんなものないからね」
「あっ、そうなんですか」
「ないよ。ガラスなんてとても」
 こう話すのでした。
「ないからねえ。価値があるよ」
「いい商いをしてるなあ」
 商人はそのやり取りを聞いて思いました。
「チュニスのガラスなんてスパルタじゃ高く売れるからな」
「それじゃあね」
「はい」
「高く買わせてもらうよ」
 一方の声の主がまた言いました。
「そちらの希望通りの値段でね」
「おや、太っ腹ですねえ」
「だからスパルタにはないんだよ」
 そのガラスがだというのです。
 
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