狸饅頭
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4部分:第四章
第四章
ここで、です。秦平は女房に対して言います。
「こっからや」
「こっからなんやね」
「酔い潰れたやろ。人やったら」
まずはその場合から話します。
「何もない」
「大丈夫なんやな」
「けど狸か。まあ狐でもや」
「その場合はなんやね」
「尻尾が出る」
そうなるというのです。
「それがわかるで」
「そやったら。それを見せてもらうか」
「さて、どうやろかな」
こんなことを話しながら見守ります。するとすぐにです。
酔い潰れている男のお尻から出て来ました。黒くて大きくてふさふさしたものがです。それが何かはもう言うまでもありません。
二人もそれを見てです。すぐに言いました。
「やっぱりなあ」
「尻尾やな」
「しかもこれはや」
「狸やな」
「ああ、間違いない」
二人でその尻尾を見ながら言い合います。それはふさふさとしていて動いています。それこそが何よりも証なのでした。まさに、でした。
「あの尻尾は」
「どないする?それで」
ここでおりょうは秦平に対して問いました。
「この狸」
「そやな。まずは縛るか?」
「縛るん」
「このままにしてはおけんやろ」
だからだというのです。
「そやからな」
「そうするん。それはちょっと可哀想ちゃうかな」
ところがおりょうはここでこんなことを言います。縛るのはどうかというのです。
「縛るのは」
「可哀想か?」
「この狸これまで悪いことしてへんやん」
おりょうが話に出すのはこのことでした。
「そやから。ここは」
「それはせえへんねんな」
「話は聞いてな。そうせえへん?」
「わかったわ」
秦平も女房のその言葉に頷きました。
「それやったらそうしようか」
「そうするか。じゃあな」
「まずは起こそう」
おりょうはこう自分の亭主に話します。
「それでええよね」
「ああ、ほなそうするか」
こうして二人はまず狸を起こしました。そのうえで尋ねるのでした。
「おい」
「はっ、はい」
「見たで」
秦平が狸に対してこう言いました。
「あんたのことは」
「えっ、じゃあ」
「そうや。見たで」
また言うのでした。
「ちゃんとな。見たで」
「見たって。そやったら」
「そうや、尻尾な」
今度はかなり具体的でした。また言ったのです。
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