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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第39話 襲撃の魔人サテラ



~リスの洞窟前~


 一行は、アイスの町から、リスの洞窟にまで到着をした。
 距離的にはそこまで遠くは無いのだが、思った以上に時間がかかったのはハニー軍団に足止めされてたのと、ランスの妄想のせいだろうと思える。
 だからこそ、かなみはやや不機嫌気味だった。

「そんな顔するなって。時間は少し掛かったが、もう直ぐ終わる。……それに、ラーク達なら話せば判ってくれるとも思えるからな」
「あ、い、いやっ……その、あのっ、そう言うわけじゃ……」
 
 かなみは両手をぶんぶんと振ってそう言っていた。

 ……実を言うと、彼女が不機嫌?気味なのは別の理由である。
 何処からともなく聞こえてきた不審な声?と 何処からともなく感じた不幸属性と言う言葉?

 その2つのせいで、やや情緒不安定になりつつあったのだ。……だが、今は状況が状況だから 頬を二度程両手で叩いて気をしっかりともつかなみ。ユーリの目にも、気合を入れたのだと見れた為、それ以上は何も言わなかった。

「ランス様、ここが目的地みたいですよ。ほら、《LIS》と扉に書いてます」

 シィルが先頭にいた為、いち早く扉を見つける事が出来ていた。
 確かにその扉にはLISと書かれていたが、大きさはとても小さく人間なら這って行かなければならない程の大きさ。とても、モンスターが うようよ いそうな感じはしない。あくまで入口だけの印象だが。

「……む、まさかじゃないが、今度も間違いじゃないだろうな?」
「入口に《LIS》と書かれてますし、ここだと思いますが」
「そうだな。そのLIS以外にも、 左に≪り≫右に≪す≫とも書かれている。ご丁寧に読み方まで記してくれてるんだ。……まぁ安直な気もするが間違いは無いだろう」

 ユーリのそう言っていた。
 アイスの町を拠点にしてはいるが、この洞窟にくるのは初めてだからはっきりとは言えなかったようだ。

「ま、そうだな。キースの馬鹿から聞いた位置情報も一応合っているみたいだし。違ってたらシィル、お仕置きだからな」
「ひんひん……」
「そんな理不尽な事言っていないで、早く入るわよ?」

 かなみがそう言うと、ランスはニヤリと笑う。そして、鼻の下を伸ばしていた。何考えているか良く判ると言うものだ。

「よし、洞窟に入るぞ? 先頭は……」
「かなみが、入ったほうが良いな。身軽なかなみなら、もし敵がいても迅速に行動ができそうだ、危機回避能力も高いだろう」
「あ、はいっ! 頑張ります!」
「おいコラ!何勝手に決めている!」

 勝手に決めてしまったユーリに文句を言おうとするランス。とりあえず、てきとーに抑えると、何やらシィルに耳打ちをしていた。

「(よしっ……ユーリさんが信頼してくれてるんだ! 頑張らないとっ!)」

 かなみはと言うと、ぐっと拳に力を入れ、気合を入れなおした。かなみの能力は勿論ユーリは信頼している。でも、この時に彼女を先頭にしたのはランスの思惑を察したから。

「悪い……な。シィルちゃん」
「い、いえ……、とても恥かしいですけど、私としても、それは賛成ですから」

 何やら言っているシィルとユーリ。ランスは益々面白くないようだ

「おいコラ! さっさと入らないか! 次はユーリとシィルの順番で入るのだ!」
「はいはい。了解」

 ユーリはそう言うと、先に素早く小さな入口を這って行った。

 そしてそのユーリの後をシィルが入る。そして一番後ろにランス。
 必然的にランスの目の前にシィルのおしりがある。狭い洞窟の入口の為、1人ずつしか入れないのだ。

「がははは! 目の前におしりとは良い光景だな。つんつんっ!」
「あんっ、ら、ランス様ぁ……」
「ほら やっぱりな……」

 ユーリは、直ぐ後ろのシィルの喘ぎ声を聞いてため息を吐いていた。

 ランスの性格的に、洞窟に入るのは≪ユーリ←かなみ←シィル←ランス≫の順番だろうと察していた。

 かなみとシィルなら恐らくはシィルを取ると思えるが 念には念を入れて、かなみを先に行かせたのだ。そして、ランスは自分よりユーリ先に行かせたくない(シィルのおしりを見せたくない)と思っているはずだから、

「ユーリさん、洞窟の中は広いですよ。とりあえず 入口付近は大丈夫です」

 先に入口の奥へと進んだかなみの声が響いてくる。そして、かなみが差し出す手も見えた。

「ああ、ありがとう」

 ユーリはかなみの手を掴み 引っ張ってもらった。

「本当に広いな。入口だけか……妙に狭かったのは」
「はい。そうみたいですね。一応奥の方には気配も感じますから、モンスターはいると思います」

 かなみは奥を指差してそう言う。確かに、モンスター独特の気配や、壁を反射して響いてくる唸り声のようなものも聞こえてくる。

「帰り木も持ってきてるし、大丈夫だろう」
「はい。……ユーリさんと一緒ですし(ぼそっ)」

 かなみは、後ろの方の台詞は限りなく静かに言っていた。そして、入口から聞こえてくるランスのいやらしい声とシィルの声も聞こえてきて。

「ユーリさん……、ひょっとして私の事、守ってくれたんですか?」
「ん? ま、かなみの実力を信じてたから先に行かせたと言うのも勿論在るぞ? ……後はこの順番が順当だろう。シィルちゃんはランスの事が好きだし、ランスの前にオレが入ったら暴れてへそを曲げかねないだろう?」

 そう言ってユーリは笑っていた。かなみは、直接的に言ってはいないけれど、守ってくれた事は明白だと感じていた。

「(やっぱり、優しいです……ユーリさん……)」

 かなみは、俯かせつつ まだ握っているユーリの手の暖かさを感じていた。
 きっと、『あんな変な声?』や『変な単語?』はきっと無い!! っと思いながらかなみは、好きになった人の温もりを感じていた。


 そして、皆無事に入口の扉を通れたところで ランスが先頭に立った。

「別れ道だな。よし、オレ様に付いて来い!」
「はいっ!」
「まぁ、任せた」
「……大丈夫かなぁ」

 自信満々にぐんぐん進んでいくランス。
 かなみは不安感が合ったが、ユーリに 『ランスには天運のスキルがあるから大丈夫』だと言われた。だからこそ、信じたようだ。ランスは信じられないけど、ユーリは信じられる。だからこそユーリが信じているランスの嗅覚を信じたようだ。

 そして、その後もモンスター達に何度か遭遇はした。

≪こんにちわ・ハニー・グリーンハニー・ぬぼぼ……etc≫

 数的には沢山いたが、実力自体は大した事無かった為 問題なく先へと進んだ。だが、先には行く手を遮る鉄格子があり、先に進む事が出来ない。

「む? 何だ? この鉄格子は」
「駄目ですね、ランス様 とても頑丈な鉄格子です。壊せません」
「ならば隙間からは……無理か、おいかなみ、忍者ならすり抜けろ」
「無茶言わないで。どこかに開閉スイッチがある筈よ」

 かなみがそう言うと殆ど同時に、後方より声が聞こえてきた。

「ん、あったぞ。開閉スイッチだ」
「ほんとですか??」
「ああ。こっちの壁に如何にもスイッチらしき突起物がある」
「よし! よくやったオレ様の下僕1号! さっさと開けるのだ」
「誰がランスの下僕よっ!!」
「……。俺のセリフ……」

 かなみが代弁してくれたおかげでセリフが減ったようだ。嬉しいような複雑なような……、それがユーリの気持ちだった。

 とりあえず、壁にある飛び出した状態のボタンをユーリが押した。

 ポチッとな……と押したスイッチは引っ込んだ状態になり、鈍く何かが動く音が洞窟内に響き渡った。

「コレでよしっと」
「ユーリさぁんっ! 鉄格子、外れました!」
「ん。了解」

 かなみの声に返事をして、ユーリは鉄格子があった場所にまで言った。その鉄格子は右側にスライドし、開いている状態になっていた。そこにランスとシィルの姿は無い。どうやら もう先に行った様だ。

「ったく……ユーリさんが開けてくれたのに」
「はは、かなみも早く慣れた方が良い。ランスはこんな感じだ。気にするときりがないぞ?」
「む~……ですが……」
「ありがとな。そう思ってくれてる事自体は嬉しいさ。ほら、先に行こう」

 ユーリは軽く肩を叩くと先へと進んでいった。

「っ…はいっ!」

 かなみも後に続く。


 状況は普通じゃないけれど、こんな感じで普通の恋に憧れていた彼女だ。必至にその背中を追いかけていった。追いつけるように、見失わないようにと。

 そんな時、ランス達の声が聞こえてくる。

「ランス様っ! 宝箱が開きました!」
「よし、おおっ? 中にはラレラレ石か、なになに~タイトルは≪うはうは女子高生≫。ぐふふ~」

「はぁ……」
「まぁ、慣れだ慣れ。大丈夫、直ぐに慣れる」
「私としては あまり慣れたくないって思うんですが……」
「まぁ、女の子だし 気持ちは判る。……が、不思議とアイツの行動が結構良い方向に向かうんだよ。それは、リーザスの時とカスタムの仕事の時で実証済みだ」
「あ、はい」

 かなみの感想はとりあえず判るが、それをふまえた上でも、ランスの事は軽く流す程度でも慣れておいた方が良いと伝えていた。納得はし辛いかなみだったけど、ユーリの言葉だからと、信頼をしていた。

 ランスへの評価はユーリがいたからこそなのである。






~リスの洞窟 地下2F~


 一行は、モンスターを蹴散らしながら更に奥へと進んでいった。時折ある宝箱はシィルが全部開けてくれていた。

 ……正直 ユーリは嬉しかったようだ。

 ヒトミと一緒に開けた時に克服?出来たのかと思っていたけれど、実はまだだったようだ。ランスはランスで、いつも通りだ。女の子モンスターとかも襲ったりして、ダンジョン攻略を楽しんでいる節が見える。

「(……あの姿を見たら ヒトミには合わせられんな)」

 ユーリはそう思っていた。
 きゃんきゃんにイタズラをしているランスを見てそう思ってしまったようだ。……それは仕方ないだろう。

「心中察しますよ……ユーリさん」
「ああ、いずれはバレるとは思うが……内緒にしててくれ」
「勿論です」

 かなみは、気づいたようでそう言ってきた。
 そもそも、彼女はヒトミに救われているから、頼まれなくても言うつもりは毛頭ないのだから。……かなみも、ヒトミの事が好きになりそうだったのだから。








~リスの洞窟 地下3F~



「ふぅ……」
「お疲れ様、ノア」

 そこには複数のモンスターの残骸の中に立つ2人の影があった。この2人こそ、キースギルドのエースであるラークとノアだ。一流の冒険者である2人組だ、普通のモンスターくらいではまるで問題にならない。

「今回は随分と早く仕事が終わりそうね。これで、ローラさんが無事だったら言う事無いんだけど」
「そうだな。リスの行動範囲は知れているし、この洞窟自体もそんなに深くない筈だ」

 ラークはそう言うと、ノアに手を差し伸べた。

「行こう。もう一息だ」
「ええ」

 ノアはその手を?んだ。その顔は信頼に満ちているようだった。

「もっと強くなって、ユーリに負けないようにしないとな」
「ふふ、ラークってば そればっかりね? ひょっとして、ユーリさんに惚れちゃったの?」

 ラークは自分の手を見てぎゅっと握り締めていた。
 その顔を見たノアは意味真に笑いながらそう言っていた。すると、ラークは、頭を掻きながら苦笑いをする。

「馬鹿言うなよノア。……でも、あの強さを見たら男でも惚れるかもしれないな。変な意味じゃないぞ?」
「判ってるわ。私だって同じ気持ちよ? ……でも、本当に残念よね。ユーリさんって自身の事気にしすぎなのよ。そんな事ないって思うのに」
「あー……その辺は、キースの旦那のせいだろうさ。それに、最初 ノアだって驚いていただろう? 初見でそう思うんだったら、仕方ない。……酷だとは思うけど、長く付き合ってないと判らないって事だ。人間外見じゃなく内面だってこと」
「ええ。そうね。……この会話はあまり聞かれたくないわね?良い事言ってるつもりでもユーリさんにはそう聞こえないから」
「はは、違いない」

 陽気な声が洞窟内に響く。

 緊張感が無いやり取りだ、とも思えるが2人の実力は確かに強力であり、この洞窟のモンスターはまるで問題ないのだ。そう、普通(・・)なら……。

 2人に迫る魔の手。

 凶悪な力を持つ化物が、2人の直ぐ後にまで、迫っていたのを知る由もなかった。










~リスの洞窟 地下3F~


「世色癌か……」
「ゆ、ユーリさん、大丈夫ですか??」
「……ああ」

 ユーリはやや脂汗を掻きながら宝箱を開けていた。
 ここまで来る時に、宝箱についてをかなみに話していたのだ。




☆回想☆


 それは、意気揚々と宝箱を開けるランスとシィルを後ろで見ていた時の事。

『え? ユーリさんって宝箱が苦手なんですか?』
『あー……ま、そこまでって程でもないが、確かに苦手と言えば苦手だ。色々とあったから』

 かなみにそう説明するユーリ。宝箱を見つけた時、開けようとせずにランス達を呼んだ。それがかなみは気になったのだ。ランス自体は、良くやっただの下僕だの言って喜んでいたけれど……。

『どっかの馬鹿が無茶をしたんだぞ? 『出来ますよ~!』って言ってた癖に、その後 悪夢の宝箱連続15連爆発だ。……それでトラウマに思わない方がありえなくないか? 中身は全部すっ飛んでしまうし。散々だったんだよ』
『じゅっ、ご……、そ、それは確かに きついですよね……ん? ≪どっかの馬鹿≫?』

 かなみはその言葉を聞いてギルドでの話を思い出していた。
 確か、好意を持たれた初めての相手(多分ユーリが気づいていないだけだが)も『どっかの規格外の馬鹿』だった筈。

『……ユーリさん、そのひt『がーっはっはっは!!』ッ!!』

 突然、大笑いをしながら、ランスが割り込んでくるように入ってきた。どうやら、話を訊いていた様だ。

『そーか、そーか。なら、次からはユーリに開けさせてやろう! おい、シィル! ユーリが代わってくれるぞ?』
『ゔ……』
『まーさか、ガキじゃあるまいし、怖いとかは言わないよなぁ??』
『ぐ……む!! な~にマジになっちゃってんだよ! あんなの冗談に決まってるだろう? ランスより先に取ったら色々と五月蝿そうだって思っただけだ!』

 ランスが明らかにからかいに来たのがわかったユーリは、負けじとランスに向かってそう言う。
 安い挑発にも乗る事は確認済みだから。……ユーリ自体もある身体的特徴を言われたら 同じ位だって思うが。

『何をぉ!!』
『ふんっ!!』

 とりあえず、ランスものってくれたので、睨みあっている二人。そんな感じで、ユーリに宝箱開錠の権利を与えられたのだった(ムリヤリ)。



☆回想終了☆




「ふん……つまらんな。おいシィル。次からはお前が開けろ」
「あ、はい」

 ランスからは、ユーリの表情が変わった様には見えないし、あの後かれこれ3,4回開錠に成功しているから面白くない結果だったのだろう。もう、飽きてしまって シィルに変えるように指示をしていた。

「ふぅ……」
「お、お疲れ様です……」

 かなみはユーリの背中をひっそりと摩っていた。ランスにバレ無いように……。でも、何処か可愛くも感じていた。頼りになるユーリなのに、こう言うところも合って良いじゃないかと。かなみは感じていたようだ。

「……大丈夫だ。いつまでも抱えてるわけにもいかないしな。……はは」
「そうですね。あはは……」

 何とか、調子を戻したユーリ。必死にランスには見せまいとしていた様だ。そんなユーリを見て、かなみも笑っていた。

 その時だった。


『きゃああああっっ!!!』



「「「「!!!」」」」

 洞窟内で、叫び声が聞こえてきたのだ。ユーリは知っている。この声の主を。この叫び声は前にも聞いたことがあるのだから。

「……ノアだ! この声は」
「何!? ノアだと??」

 ランスは、ユーリが叫んだその名前に反応した。

「がはは! 悲鳴を上げていると言う事は、今正に、ピンチなのだな!? やはり、ラークなんぞには無理ってことだ! これはお持ち帰りのチャンス~!!」
「ら、ランス様ぁ……それよりも急がないと、さっきのは只事ではないです!」
「ユーリさん? あれ? ユーリさん??」

 かなみは、ユーリの姿がない事に気づいて声を上げていた。さっきまでこの場所にいた筈なのに、いつの間にかいなくなってしまっているのだ。忍者であるかなみが気づくまもなく、煙の様に消え去っていた。

「ユーリさんがいない!?」
「なにぃぃ!! ユーリのヤツ!! また抜け駆けするつもりかぁ!! 許さん、行くぞ!! シィル!かなみ!!」
「は、はいっ!」
「了解!」

 駆け出すランスの後にシィルとかなみが続く。

 ユーリが勝手に単独行動を取るとは思えない。でも、あの悲鳴も只事ではないと感じる。そして、ラークとノアと言う2人の実力を知っている彼だからこそ……何かを感じたんだろう。











~リスの洞窟 地下3F~



 それは、悪夢だった。
 突如、自分達の目の前に現れた3つの影。1つは赤毛の少女。そして2つは異形の姿。石でできたガーディアンだった。この洞窟でこんな連中がいる事など知らなかったし、まるで情報に無かった。

「ぐぁ……」
「ラークっ! ラークっ!! いやぁぁぁ!!」

 ノアは、既にガーディアンの攻撃になす術も無く倒れ伏しており、身動きが取れない状態だった。出来るのはラークの無事を祈る事だけだった。……もう、立っているのはラークだけ。

 戦況はこの上なく悪い。

 だけど、いつも……ピンチを何度も切り抜けてこられたんだ。だから、ノアはラークが勝つと信じていた。信じていた……んだけれど。地に伏しかけているのはラークの方で、敵は全くの無傷と言う悪夢だった。

「きゃはははは! 思ったより弱いのね~。やっぱり人間って弱すぎ! もっと楽しませてくれるのかなと思ってたのに、サテラ残念だわ」

 ラークもなす術も無く肩膝をついた。剣を杖にしたおかげで倒れる事は無かったが、もう戦闘不能だと言う事は目に見えていたのだ。

「さ、サテラが勝ったんだからご褒美を貰おうか、さっさと聖剣と聖鎧、聖盾を頂戴。持ってるんでしょ?」
「ぐっ……、な、何のことだ。そんな武具……」
「サテラに嘘ついたら酷いわよ? 本当に弱っちい。……ま、所詮人間なんて、この程度か。さぁ、そろそろ吐いたらどうだ? ラークさん?」
「こ、殺すなら……殺せ……」
「嫌。そんなの、楽しくないし、ラークさんが嘘をつかないようにもっと楽しい事したげる。イシス」

 サテラという人物が後ろに控えているイシスと言うガーディアンに声を掛けた。ゆっくりとその巨体が動く。

「きゃはっ! イシス、その女の子を虐めてあげて。ほら、女の子を虐めるのに最も最適なのはそれを入れてあげる事でしょ?」

 サテラは、イシスの股間の辺りを指差した。
 イシスは何も話さず頷くいたと同時に、その巨大な一物が姿を現れた。

「い、いやぁぁぁ! ラークぅぅっっ!!」

 サテラが命じた瞬間、ノアがそれを見てしまった瞬間甲高い悲鳴が洞窟に響き渡った。何をされるのかが判ったからだ。

「きゃああああああっ!!」

 傷だらけの身体を無理矢理持ち上げると衣服を破いてノアの身体を、ノアの秘部を外気に晒した。

「いやっ……やめてぇぇっ」

 必至に抵抗するノアだが、そのガーディアンの力は凄まじく抵抗もまるで意味を成さなかった。そして、ゆっくりとノアの身体を沈めていく。

 その巨大な物で貫こうとする為に。

「の、ノアっ……!!」

 ラークの脳裏でフラッシュバックが起こった。


 この光景……嘗て以前に見た事があるのだ。あのカースAと対峙した時。

 ノアが倒れてしまって、自身も傷を負ってしまって絶望した時に。その時 あの男(・・・)が助けてくれた。

 その後に言ってくれた言葉。
 何も出来なかった自分の不甲斐なさを謝罪しながら言った時に言ってくれた言葉。

『守るべき者があったら、守りたい人の為なら人間っていくらでも強くなれるんじゃないか。それをラーク、お前を見て改めて良くわかった気がしたよ。……アイツは、オレ1人で倒したんじゃない。 ノアさんだって、傷ついた身体で オレや、お前を助けてくれたし。それにラーク、あの瞬間の、ノアさんを助けようとした時のお前は、凄かったんだぞ? まぁ、無我夢中みたいだったから、気づいていないかもしれないけどな』

 そう言って笑っていた。自分は救う事が出来なかったから、説得力が無いが、とも言って苦笑いもしていた。いや、違う。まだ諦めていないとも言っていた筈だ。


――……あの男は言っていた筈だ。


 ラークは思い出していた。あの男の強さを知って、どうすればそんなに強くなれるのかと、訊いた時のことを。

『最後の最後まで、諦めないこと。かな。……自分に守るべきものがいるのなら尚更だ』

 そう、苦笑いをしながら言っていた。
 ……最後の最後まで諦めるない。力の残りの1滴まで、全ての力を出し尽くせと。



「ノアから……」

 ラークの中に何かが芽生えた。
 異形な姿をしている化物2体と異常な力を持つ女が1人。その絶望的な戦力差を前にして、心が折れかかっていたのに、彼の中で強く芽生えたのだ。


 そう諦めない心。……そして 強大な敵に挑む勇気を。


「む?」
「ノアから離れろぉぉぉ!!!!」


 もう戦闘不能で倒れ伏している筈の男から迸る気合。
 驚いたサテラは、視線をラークに戻したのだが、既にそこにはラークは居らず。

「!!」
「うおおおおっっ!!!」

 ラークはイシスの所にいた。その一撃はイシスの腕に命中する。
 強靭な石のガーディアンの為、斬る事は出来なかったが いきなりの襲撃に動揺したのか ノアの身体を落としていた。

「ノアっ……!」

 ラークは、素早くノアの身体を抱きとめるとそのまま自分の背後にやる。

「に、逃げろ! ここから早く!」
「そ、そんな! 私達は2人で……」
「いいから行けェェッ!!」

 ラークは、ノアの背中を思い切り突き飛ばすと、しんがりに立ち、構えた。

 敵は、まだ全力を明らかに出していない。……手を抜いているとさえ思うほどの未知数の力。まさに凶悪極まりないとはこの事だ。

 そして、あの口ぶりから考えたら、あの少女も恐らくは人間ではない。
 ラークに勝てる相手じゃないが……、あの時の様に倒れてばかりはいられないのだ。今いるのは自分だけなのだから。ノアを助けられるのは自分だけなんだから。

「きゃはは、ふーん 楽しませてくれるんだ。イシス、シーザー。虐めちゃえ!」
「ハイ。サテラサマ」
「………」

「コ……コい……!」

 さっきの一撃が恐らくは最後の一撃だったようだ。
 もう、目の焦点が合っておらず、持っている剣も震えていた。軽く押せば倒れる様な男だった。

 イシスとシーザーは飛び掛る。

 その巨体が倒れこむだけでラークの身体は潰れてしまい絶命するだろう。もう、ラークに受け止めるだけの力は……。

「だめぇぇ!!」

 ノアは、咄嗟にラークを庇うように前に入った

「な……ば、ばかや……ろ……にげ、逃げろ……!!」
「1人で逃げない、1人で……死なせたりしないわ!だって、だって私達はラーク&ノアなんだからっ! いつだって一緒……でしょう?」

 そう言うと、ノアはラークに抱きつきつつ目を閉じた。
 もう、彼女は死を覚悟した。ラークが死んでしまうのも判った。ならば最後まで共にいようと……1人で逃げるのは嫌だから。

「きゃははは! その言葉がいつまでもつかしら? 女が一番恐怖するのは、奪われる事、だろう? 男もそう。そして、その純潔も」

 サテラは、笑いながらノアの秘部を指さした。

「そうそう、イシスはな、交尾も出来るんだぞ。魔獣や男の子モンスターの性器をいくつか合成して作った。ハリボテなんかじゃなくな。だから、それらしく出来ている、だろ?」
「ッ……」

 イシスの身体の一部が更に巨大になる。それを見てしまいノアは思わず震えた。

「アハハハハハ! そんな簡単に殺す訳ないだろ。お前には実験台になってもらおう。イシスと交尾して、受精させてやろう。さて、なにが生まれてくるかな……?」

 ノアは、絶望した。 命を奪われるのではなく人間としての尊厳そのものを奪いに来ているのだから。
 ラークは、立っているのもやっとであり、ノアをこれ以上守れる筈も無い。

「の、あ…… タノム。にげ……」

 逃げろ、と言い続けるラークだったが、それでもノアはラークの身体を離さなかった。

 恐怖したのは間違いないし、絶望もした。……それでも、ノアは選んだ。選択をしたのだ。
 ラークを見捨てるくらいなら……と。

「キャハハハハ! ……む?」

 サテラは、面白いものを見たように笑っていた。

 弱い人間同士が慰めあう姿は滑稽に映るのだ。だが、その2人の場所の空間が歪んで見えたのだ。あれはいったいなんだ?とサテラは目を凝らしたその時だ。

『二刀煉獄』

 何かが、訊えてきた。幾らもう戦闘は終わりに等しい状態とはいえ、シーザーやイシス、2体の巨体ガーディアンが動く音が反響しそれなりに、五月蝿い。小さな声、なのに……何故か、重く、訊こえてくる。まるで、地の底からから響いてくるかの様に。

 シーザーとイシスの2人も気づいていた。いったい何だ? と左右を見ていたその時だった。

「剛斬!」

「グアアッ!!」
「ッッッ!!」

 突如、何かが現れた。……そして、強大な何かを纏っており、2体のガーディアンを 吹き飛ばしたのだ。凄まじい金属音が洞窟内を反響し、響き渡る。

「……まさか、お前達がやられているなんて、思いもしなかったぞ。 ラーク、ノア」
「あ、ああっ……」
「ゆ、ユぅ……リ……」

 ラークは、意識ももう定かでは無い状態だったのだが、目の前に来てくれたのがあの男だと判った。ノアも同様だった。死の恐怖から気を失いかけていたのだが 優しく力強い彼の声を聞いて、まるで意識の底から手を差し伸べられた様に、見る事が出来ていた。

「……なんだ? お前。と言うかどうやって、2人を弾き飛ばした? ただの人間が」

 サテラは、その異様な光景に驚きを隠せなかった。

 シーザーとイシスの事は誰よりも知ってる。その2人を一気に弾き飛ばしたのだ。2人は大丈夫の様だが、その力が異質であり、人間のものとは思えなかったようだ。そしてその時。

「こぉぉらぁぁ!! ゆーーりぃぃ!! オレ様に許可無くまた抜け駆けをぉぉぉするかぁぁ!!」
「ら、ランス様、無防備は危ないですっ!」
「ユーリさんっ! 大丈夫ですかっ!!」

 その時、また人間が入ってきた事に戸惑ってしまったサテラ。

「今度は何だ?」
「む、むむ!! おおっ 中々の可愛いコちゃんではないか! がははは。さぁ、オレ様と楽しい楽しいSE○をしようではないか! オレ様のハイパー兵器で君を昇天をさせてやろう!」

 突然入ってくるなり、変なポーズをとりながら 変な事を言ってくる男を見たサテラは さっきの男の異質さなどすっかりと頭から忘れさっていて、その代わりに頭の中に浮かんだのは1つの単語。

「……馬鹿?」
「バ……バカだとぅ!!!!」
「ふーん、サテラはお前みたいな馬鹿は嫌いなんだ。だって馬鹿がうつるから。それに、ラークさんもそこの女も本当に持ってないみたいだし、そこそこは楽しんだからまぁ良いわ」

 サテラはそう言うと、ガーディアン2人に指示を出す。

「さ、シーザー、イシス、帰るわよ。見てるだけで馬鹿になっちゃいそうだし」
「馬鹿だ馬鹿だ何度も言うか!! もう許さん! オレ様のハイパー兵器であへあへにしてやる!!」
「そ、そうです! ランス様は馬鹿じゃないですっ!」

 この場からもう立ち去ろうとする女にランスとシィルは追い縋ろうとしていた。

「さて、次の人の所にいくわよ。馬鹿はほっといて。次は強くてカッコいい……」

 この時に、サテラは忘れかけていたあの男の事を思い出していた。

 このイシスとシーザーを吹き飛ばしたあの男を。間違いなくさっきの2人組やこの馬鹿よりも遥かに強そうな男の事を。

「そうだったそうだった。シーザーやイシスのお礼は一応しとかないとね。イシス」
「……」

 イシスは、ゆっくりと頷くとユーリの方へと向かってきた。

「ユーリさんっ!」
「大丈夫だ。2人を頼む」

 ユーリはそう言うと、ゆっくりとイシスの方へと向かっていった。

「きゃはっ! イシス相手に臆しないなんて 大したモンじゃん! こ~んな狭苦しい所なんかより、外でやろうか、イシス、シーザー」
「……」

 そう言うと同時に、イシスの身体が光り輝く。その輝きは傍にいたユーリにも移った。

 どうやら、転移魔法の類だろうと理解出来た。

「ユーリさんっ!!」
「大丈夫だ。……ランス」
「む?」
「ノアさんを、そしてラークも情けをかけてやってくれ。そうだ、あと報酬独り占めとかにするなよ。……ちゃんと武器屋で使え」
「何を当たり前の事を言っておるのだ! 貴様、何処にいくつもりだ!」
 
 ランスがそう言い、かなみが手を伸ばした瞬間。

 ユーリの姿は何処にも無かった。

 それは、あの少女や二体のガーディアンも同じだった。まるで、この場にいなかった様に姿を消していた。




「ユーリさん……」

 かなみの伸ばした手は何も掴む事は出来なかった。今回は(・・・)、掴む事が出来なかったから。……光の向こう側は誰もいなかったのだから。

「チッ……シィル。ノアさんを助けてやれ」
「あ、はい! ランス様」

 シィルは ノアに駆け寄り、直ぐにヒーリングを施した。

「ぐっ……ゆー……り……」
「しっかり! 大丈夫だから!」

 かなみは、倒れているラークに肩をかした。世色癌も彼に使用したから きっと助かる筈だ。

「ゆぅ、り、ゆぅり……は?」
「大丈夫よ。ユーリさんなら」
「あ、あいつらは、ふつう、じゃないっ……せい…けんを、よろい、を、たてを、だせと……いっていた  ばけもの、だ いくら、ゆぅり、でも ひとり、じゃ……」
「えっ……??」

 かなみの表情が一気に青くなった。
 それが本当なら……あの赤毛の少女の正体は。


「ランス、ユーリさんと消えた女……魔人かもしれないっ!」
「なんだと? あの生意気な小娘が?」

 あの武具を狙うのは魔人以外にありえない。
 カオスを狙っているのだと、マリスもリアも言っていたのだから。だからこそ、かなみは戦慄した。

 その魔人と……今ユーリは一緒にいるのだから。




「ゆ、ユーリさんっ!!」















~リスの洞窟・周辺~



 光が消えたかと思えば、洞窟の外へといつの間にか来ていたようだ。

「成る程。つまりは、帰り木みたいなものか。てっきり、何処か遠くに飛ばされるのかと思ってたぞ?」
「きゃはは。広い所だったら何処でも良いってサテラは思ってただけだ。別に魔物界でも良いかなと思ったけど、ケイブリスの連中に見つかるわけにはいかないからな」

 サテラは、直ぐ前で2体のガーディアンを従えながら不敵な笑みをしてたっていた。

「お前、名前はなんていうんだ?」
「……ラーク達の仇に名乗る名は無いが?」
「きゃはは! 馬鹿じゃないか? あいつ等別に死んでないじゃないか。それに、このサテラが人間如きの名前を訊いてやってるんだぞ? ……それにお前、あんな貧弱連中の為に戦うって言うのか、お前は。少しは強そうだって思ったからこそ名前を覚えてやろうと思ったのに」

 サテラは何かおかしかった様で、大声で笑っていた。

「ま、言い方が悪かったな。確かに」

 ユーリはそう言って剣を構えた。

 相手が誰なのか……もうこの時はっきりとしていた。その正体も。

「魔人サテラ……か。成程……騙されやすそうな娘だ」

 確信が言った様に、ユーリはそう言い出した。勿論、サテラは黙っていない。ただ、名前を呼ばれただけでなく、侮辱をされたのだから。

「何っ!? お前、誰に向かってそんな口を聞いてるんだ! 人間の癖に!」
「オレはお前達の事は知ってる。……お前は、ホーネットの魔人の中では、穏健派に位置する筈だ。なのに何故、彼女が定めている不可侵を。……今も貫いている彼女の派閥の魔人のお前がこの人間界に来ている? 何故、ヘルマンに、それも貧弱と言う人間に手を貸す? ……十中八九、今回の行動、それはお前の意思じゃないだろう」
「なっ……!?」

 その言葉を聞いたサテラはこれまでに無い程、驚愕しているようだった。

「何故人間が、それを知って……」

 そう、魔人の中での諸事情、とも言うべきか。内部争いが勃発をしているのだ。その事実を知っている事に、驚きを隠せられない様だった。だが、シーザーがサテラに伝える。

「サテラサマ、魔人界ガ二分サレテイル事ハ、人間ノ間デモ 周知ノジジツデス」
「そ、そうか、いや! そうだった!! お前っ、知ったかぶりでサテラを惑わせようとしたんだな!?」

 シーザーの言葉で、直ぐに調子を取り戻すサテラ。それを見て、ユーリは苦笑いをしていた。

「いや、知ったかぶりって……。ただ、事実を言っただけだろ? ……それに、どうなんだ?」
「人間なんかに答えてやるもんか!」

 ユーリはサテラの抗議に思わず笑ってしまう。

 サテラはラーク達に非道な真似をした張本人だ。……が、やはり何処か螺子が緩んでいる様な娘でもあるようだと認識を改めてしまった。確かに強大な力を持ってしまったら、弱者に対して取る行動も変わってくるだろう。

 それは、力を持っている者にありがちな行動だ。

「もういい! ちょっと遊んでやろうと思ったけど、直ぐに殺してやる! イシス! シーザー!!」
「ハイ」
「……」

 2人を引き連れながらゆっくりと歩を進めてくるサテラ。

「(さて……困ったな。ラーク達を助ける為に咄嗟に攻撃をしたが、リーザスならまだしも、正直まさかこんな所に魔人がいるとは思ってなかったからな)」

 ユーリは、ゆっくりと二刀を構えた。
 彼の戦闘スタイル、抜刀状態や納刀状態そしてこの二刀流とあるが、それらの中で超攻撃型に分類されるのがこの二刀流の戦闘スタイルだ。

 2つの武器に同時に闘気、煉獄を纏わせる為 単純に考えて攻撃力が殆ど二倍になるのだ。

 一体多数ではこれがユーリの最強のスタイル。……が、今回の相手は魔人。分が悪すぎるのも事実だ。

「きゃはは! サテラを驚かせたんだ! さっきの連中みたいに許してもらえると思うなよ!」
「……驚かせただけで許してもらえないのか、そりゃ酷いな」
「……いつまで余裕ぶってんだ! やれっ!! シーザー!」
「ハイ」

 シーザーは、サテラの命令に頷くと、その巨体からは、考えられない様な速度で、巨拳を放ってきた。

「ぐッ!!」

 シーザーの重い一撃がユーリの交差した剣に衝撃として伝わってきた。まるで、地面にめり込んでしまったのかと錯覚する程だ。

「……コノワタシノ一撃ヲフセイダ?」
「何だ……? 防がれた事さえ無いのか? 人を上から見下ろしやがって」

 ユーリは後方に跳躍すると、着地と同時に剣に闘気を集中させる。

「む、さっきの変なヤツか!」

 サテラは何をしてくるのか、理解出来たようだ。
 変なヤツと形容しているのは、あの空間が歪んだかのような現象が男の周りで起こったから。そして、その後にガーディアンである2人を吹き飛ばすと言うありえない威力を起こした者達と言う事。

「二刀煉獄……」
「させるか!!」

 凄まじい速度の鞭が撓りながらユーリに迫る。だが、十分な距離を取っていた為、回避する事は出来た。

 これも、ハンティとの戦いが合ったからこそ出来たのだろう。
 距離がまだ離れているし、それにあの雷に比べたらまだぬるいのだ。

「斬光閃!」

 二刀の剣から繰り出される飛ぶ斬撃。
 飛ぶ二本の斬撃が交差するその場所が最も高い攻撃力を誇る。シーザーとイシスを狙った一撃は、石の身体に少しだけだが切れ込みを入れる事が出来ていた。切れ込み自体は浅いが、吹き飛ばす事は出来たようだ。そして、倒れた所から砂埃が舞い上がる。

「はっ……、幾ら直接攻撃より幾分か威力が劣るとは言っても、全力の煉獄が あの程度のダメージか……」

 ユーリは直撃したときのガーディアンを見てそう呟く。いつか、志津香の屋敷で戦ったあのガーディアンとは比べ物にならない程の強度だ。それが、人間が作ったものと魔人が作ったものの違いなのだろう。

「お前っ!! またイシスとシーザーを! よくもッ!!」

 サテラの目には吹き飛ばされた2人を見て激昂していた。高速の動きに加えて鞭がユーリに襲い掛かる!

「ぐぁっ!」

 その速度を目で追う事は出来たが身体までは反応する事が出来ずにまともに受けてしまい吹き飛ばされた。

「きゃはは!! この程度で死ぬなよな! お仕置きはこれからだ!」
「なんつー早さだ……クソッ!!」

 ユーリは、変則に迫ってくる鞭を何とか弾きながら応戦していくが、まるで接近が出来ない。

 鞭は撓り軌道を変えながら迫ってくる為 防ぐのが難しい。その上その得物を扱っている相手が魔人なのだから尚更だ。

「ほらほらぁぁ!! どうした? さっきまでの余裕は? きゃははは!! イシス、シーザー! やっぱり、手は出すな、サテラが始末する」
「ハイ、サテラサマ」
「……」

 サテラは既に起き上がっていたイシスとシーザーにそう指示を出した。

 その後、鞭を縦横無尽に繰り出す。
 その軌道上には残像を残すほどの物であり、まさに鞭の結界とも言えるだろう。迫ってくる結界は、全てを破壊している。抉れた大地や岩を見たら判るだろう。あの鞭に触れでもすれば肉を裂き、骨までに達しかねない威力だと言う事が。

「さて……と」

 ユーリは、サテラがシーザーとイシスに命令をしていたその間に距離を少しとり、二刀を腰に挿している鞘へと素早く納めた。

「馬鹿め! 観念したのか?サテラが許すはずが無いだろう!」

 ユーリの行動を見たサテラは笑みを浮かべながら鞭を振りかぶった。

 縦横無尽に振るっていた鞭を一点に集中させた為、結界が霧散する。その一点をユーリは見逃さなかった。

「二刀煉獄・天照!」
「うぐっっ!!な、なんだっ!?目、目がぁっ!?!?」

 一気に接近し、光源と化した二刀を振るう。
 その瞬間、サテラの目の前に突如生まれた強烈な光と音。サテラは思わず身体を丸めて蹲ってしまった。

「よし……。さて、と 《見せて》貰おうか!」

 そう言うと、ユーリは、剣を構えた。
 魔人には全ての攻撃を無効化する無敵結界が存在する。故に物理攻撃、魔法攻撃の全てが無効化されてしまうのだ。ダメージを与えるとすれば、同じ魔人かもしくは魔人よりも高位の存在により攻撃しかないとされている。話によれば、魔人に攻撃することが出来る武器もあるとの事だが、真偽は定かでは無い。もしかしたら、リーザスにあると言われているカオスが、それに当てはまるかもしれないが、今は無いのだ。

 裂帛の気合と共にユーリの一撃がサテラに直撃する、が。

「きゃはは!! 目隠しした後に攻撃するつもりだったんだな!? よわっちい人間らしい卑怯な手だ、だけど生憎、サテラにお前らの攻撃なんか効かないんだ!」

 まだ目が開けられない状態のサテラだったが、攻撃をされたのは判った。勿論、自分を覆う無敵結界のおかげでかすり傷1つ負ってはいない。

「ちっ……思った以上に厄介な力だ」

 ユーリは距離をとり、サテラから離れた。
 まだ、目は見えていないと想われるが、これだけ接近していたら 見えて無くても攻撃は当たる可能性が高いだろう。あの鞭の威力を知っているからこそ、傍でい続けるのは得策ではないと判断したようだ。

 だが……これが今回の最大の目的でもある。


「……そろそろ目が見えてきたんじゃないか?」
「ふん、この程度サテラは、とっくに回復してる!」


 サテラは、明らかにさっきまでパニックになってたのだが、次第に冷静さを取り戻せたのか、こっちを視認で来ていた。そして、再び笑みを浮かべる。



――……だが、彼女は知る由も無かった。



「……一先ず、目的は終わった。……が、ここからが本番だ。……もう、どうなるか判らないぞ? ……魔人!」

 
 人間界において、完全に舐めきっていた彼女だが


――……認識を改めざるを得ない事態に苛まれる事を、……嘗て無い程の恐怖を味わってしまう事を。





















〜人物紹介〜


□ 魔人・サテラ

Lv100/105
技能 魔法Lv2 ガーディアンLv2

魔人を二分する戦争でホーネットと呼ばれる魔人筆頭に属する人間の魔人。
元々は、ホーネットの遊び相手として 先代魔王に連れてこられて魔人となった経歴である。
性格は多少短気が入っており、ガーディアンの作成が特技でありその能力には長けている。


□ ラーク (3)

Lv22/35
技能 剣戦闘Lv1 冒険の知識Lv1

キースギルド所属の文句無しの一流冒険者。
今回はノアと共に救出依頼を行っていたのだが……普段の彼らならば問題ない依頼だったのだが……運悪く魔人と遭遇してしまい、完膚なきまでに叩きのめされた。
一矢報いる意味で放った一撃も相手を傷つける程度しかダメージを与えられなかった。
間一髪でユーリが割って入った為、何とか助かった。
……が、心に深い傷を残してしまっていた。
その為 今回の事を切欠にある事を決心するのだった。



□ ノア・セーリング(3)

Lv18/33
技能 神魔法Lv1 教育Lv1

キースギルド所属の文句なしの一流冒険者。
ラーク同様に、今回の依頼の最中 運悪く魔人に遭遇した為 身体を犯されかけるが、ユーリに救われた。
……だが、心に深い傷を残している。


〜技能紹介〜


□ 二刀煉獄
使用者 ユーリ・ローランド

煉獄を二本の剣に帯びさせる技。
第二の刃の威力を遺憾なく発揮するユーリの超攻撃型戦闘スタイル。
繰り出す攻撃は全て短銃計算で二倍を誇る為、当然普段の二倍は疲れちゃうことになるスタイル。
故に滅多に使うことは無い。

≪剛斬≫
力任せに剣を振るう。単純な剣技だが、咄嗟に放つことが出来る為扱いやすい技でもある。


□ 無敵結界

この世界の魔王、魔人達の身体に自然と張られている特異な結界の事。
その効果は物理・魔法の種を問わずに防がれる。その技量、破壊力はまるでお構いなし、外部からの攻撃を一切無効化するという意味では、反則的な代物である。
実は当人の意思により解除と展開の切替が可能である。




 
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