戦国異伝
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第二百二十二話 耳川の戦いその十五
松永を探させた、しかし彼と彼の腹心の者達は見付からず。
彼は九州からだった、玄界灘を渡り。
ここでだ、主な家臣達を集めて言った。
「船で戻るか」
「船で、ですか」
「瀬戸内を通り」
「そして、ですか」
「大坂からですか」
「信貴山に向かいますか」
「道を通るより船で進んだ方が速い」
だからだというのだ。
「それでじゃ」
「海からですか」
「一路戻り」
「そして大坂からですか」
「信貴山に向かいますか」
「そうしよう」
こう言ってだ、そしてだった。
信長はすぐにだった、主な家臣達全てとだ。兵達を連れてだ。そのうえで船から大坂に向かうのだった。その時に。
その船の中でだ、彼は言った。
「船は夜も進める、だからな」
「はい、その分速い」
「速く進めますな」
「近そしてそこからですな」
「大坂へ」
「兵達も連れておる」
無論三十万の兵全てではない、優れた兵だけを連れている。また主力の兵達は信忠に率いさせて戻している。
「一歩速く行ってじゃ」
「対する」
「そうしますか」
「松永めと話をし」
「降らせますか」
「うむ、そうじゃな」
信長は笑いながら話した。
「茶器で許そう」
「それを差し出せば、ですか」
「よいと」
「そう仰いますか」
「そうじゃ、平蜘蛛で許す」
この茶器を差し出せばというのだ。
「それでな」
「茶器で許されるとは」
「それはまた」
「甘過ぎるのでは」
「幾ら何でも」
「平蜘蛛といえど」
ここでこの茶器のことも話された。
「あの茶器は確かに宝です」
「一国に匹敵するだけの価値があります」
「確かに天下の名器」
「松永めも大事にしております」
「それこそ信貴山の城と同じだけ」
「それだけのものですが」
「その平蜘蛛を差し出せばな」
それで、というのだ。
「よしとする」
「では松永めは」
「お許しになられますか」
「そうお考えですか」
「そしてじっくりと話をしたい」
こうも言った。
「何故謀反を起こしたのかな」
「それはやはり」
「自分が天下人になりたいからでしょう」
「だからです」
「あ奴は謀反を起こしたのです」
「それ以外に理由はないかと」
「天下盗り以外に」
「いや、あ奴から野心は感じぬ」
信長はこのことも見抜いていた、松永のそうしたところも。
「それで謀反とはな」
「ないと」
「そうお考えですか」
「そうじゃ、あ奴は天下よりも泰平を望んでおった」
これが信長の松永の見立てだった。
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