気さくな鬼
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1部分:第一章
第一章
気さくな鬼
昔々あるところにです。一匹の鬼がいました。
鬼は山にいます。鬼がいるというだけで、です。国中は大騒ぎになりました。
「あの山には鬼がいるぞ」
「そして山に入った者を食うらしいぞ」
「肝を好んで食って酒に血を入れて飲むらしいぞ」
「まさに鬼じゃ」
「鬼がおるぞ」
こうです。国の誰もが鬼を恐れてその山に入らなくなりました。
そしてです。皆このことも恐れるのでした。
「鬼が山から下りてくれば大変なことになるぞ」
「人を取って食いに来るぞ」
「女子供を狙われるぞ」
「人が取られなくても家畜や金を取られるぞ」
「このまま放っておけん」
「どうにかせねばならんぞ」
こうです。誰もが若しそうなったらと怯えるのでした。そしてこのことは殿様のお耳にも入りました。
殿様は尾張という国でお百姓さんをしていた人です。見ればお猿さんそっくりです。その人がお話を聞いてです。すぐに周りに相談をするのでした。
「鬼がおるとなれば大変じゃ」
「全くです。ではすぐに人を送りましょう」
「そして鬼退治をしましょう」
「そうじゃな。ではじゃ」
殿様も家臣の人達の言葉を受けてでした。早速鬼を退治する人を探しました。そうしてです。
一人の旅の武芸者がそれに応えました。観ればとても大きな逞しい身体をしています。眉毛がとても太くしっかりとした顔をしています。その人がです。
殿様の求めに応じてそのうえで、です。殿様の御前で言うのでした。
「その鬼、この岩見重太郎が必ず倒してみせましょう」
「できるのか、鬼じゃぞ」
「それがしかつては狒々を退治したことがあります」
「だから鬼もか」
「はい」
二言はない、そうした返事でした。重太郎は殿様の前で畏まって答えています。
「必ずや」
「わかった。では御主に任せよう」
殿様もです。重太郎のその自信に満ちた言葉を受けてです。
そのうえで、です。彼に鬼退治を任せることにしました。こうしてでした。
重太郎はその山に入ってです。鬼を退治することになりました.。重太郎は山伏の格好になりそのうえで山に入りました。山伏なら山にいるのが普通で退治に来たと怪しまれないからです。
そうして鬼がいるというその山に入りました。するとです。
すぐにです。こう声が聴こえてきたのでした。
「あれっ、お客さんかな」
「その声は」
人間の声です。それを聴いてです。
重太郎はその声が鬼の声だと確信しました。内心身構えました。
ですが相手は見せません。それで身構えたままでいるとです。
また声が来ました。声が今度言うことは。
「何をしに来たのかな」
「道に迷った」
退治しに来たことを隠してです。こう声に返しました。
「ここは一体何処だ。隣の国に行きたいのだが」
「隣?紀伊にかい?」
「そうだ。紀伊に行きたいのだが」
方便でこう声に答えた十郎でした。
「どうして行けばいい」
「ああ。紀伊ね」
「そうだがどうすればいいのだ」
「嘘でしょ」
「何っ!?」
「おじさん紀伊に行きたくないよね」
声はです。こう重太郎に言ってきたのです。
「それに山伏じゃないよね」
「御主、まさか」
「僕を退治しに来たんだよね。気配でわかるよ」
「なら話は早い。それではだ」
「まあ待ってよ」
声は楽しく笑っている声で重太郎に言ってきます。
「僕は別に悪い奴じゃないよ」
「そんな話が信じられるか。御主は鬼だな」
「うん、そうだよ」
姿は見せません。けれどです。声は重太郎の問いにその通りだと答えてきました。
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