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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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GGO編
  第178話 第3回BoB予選開幕



 それから、リュウキは彼女に彼の事を説明する事にした。それより、色々とききた事があったけれど、約束は約束だ。幸いな事に、まだ予選開始までは時間があったから。

 そう、あの初老の人物の正体は、自分と近しい人物だと言う事を。

「……あんたの身内、だったって事」
「ああ、そうだよ。……直接勝負した事は無いから、コテンパンに、の件は嘘だった。……でも、本当に頭が上がらないのは事実だよ。とても、大切な人だから。……オレを救ってくれた人の1人だ」

 リュウキが、穏やかな表情をするのを見て、彼女も自然と微笑むことが出来た。

 心の闇を救ってくれた人。そう認識出来た。
 ……自分には恵まれなかった人だ。守るべき母はいても、救ってくれる、守ってくれる家族は、いなかったから。クールな表情、外見はさておき、そんな様子だったのに、今はそれが綻んでいる。こっちも安心できる程に。

「そう……。でも、何だか納得したわ。私もアンタの実力の程もサブゲームでとは言え、見てるし、それが同じ身内なんだったら、ってね」

 彼女は苦笑いをしつつ、腰掛けた椅子に座り直し、足を組み直した。そして、別の話を始める。……本題はまだあるから。

「その男に借りを返さなきゃいけないから。……今回の大会が終わったら、声を掛けといてくれる? 後、『勝ち逃げは許さない』 っとだけ言っておいて」
「まぁ、そのくらいなら。構わない。……だが」

 リュウキは、軽く考えた後。ニヤリと笑った。

「強いぞ?」
「判ってる」

 リュウキの言葉に、彼女は頷いた。

「……強い奴を全員殺してやる。それが私のこの世界での目的だから」

 その瞬間、彼女の顔は猫……ではなく、獰猛な肉食獣、豹のそれに変貌した。その目を見て、氷の様な戦慄が駆け上がった。キリトもリュウキも例外ではない。この場にいる男達も、素人だと思える軽率な行動をしているが、威圧感の類は少なからず持っている。それが豪傑な漢の姿をしているから、それも比例している。だが、彼女は、彼女が放つプレッシャーは、そんな彼らよりも圧倒的に強い。決して外に撒き散らす様な真似はせず、内に秘め、内包している。
 来るべき時に全てを解放させるために。その技量、そして彼女を支えるメンタルもだ。

「え、えっと……リュウキ。そっちの話が終わったら本題も……」
「……」

 キリトが口を開いたその瞬間、彼女はまるでゴミを見る様な目を彼に向けていた。さっき、皆殺してやる、と氷の様な瞳のまま……ゴミを見るような目を向けられたから、流石のキリトも。

「ぅぅ……、扱いも少しでも、変えていただけたら……」

 その視線に耐え切れない様子だった。
 彼女の持つプレッシャーの全てがキリトに向かっているのだから、仕方がないだろう。彼女の言葉は、色々と考えさせられる言葉だったから、それも同時に気になっていたのは別の話だ。

「悪いが頼む。最低限の事だけでいい。色々と確認したい事もあるしな。経験者に聞くのが一番だ」

 彼女は軽く一瞥した後、再度深い深いため息をした。

「……ま、約束を反故にされるのは嫌だし、最低限度だけなら」
「するか。二言はない、と言っただろ。……それとも何か? まだ、外見の話をの伸ばすのか?」
「良いわ。兎も角、アンタは信じられる部類だから」
「お、おれは……?」
「本当に聞きたい?」
「……いぇ」
 
 キリトは彼女の言葉を聞いて、早々に諦めた。射抜く様なセリフを頂きそうだったから。

「……でも、このあとは2人とも本当に敵同士だから。で、何が知りたいの?」
「あ、ありがとう……」
「はぁ……」

 リュウキもため息を吐き、そしてキリトも安堵していた。

「正直、女の子の振りをしまくったアンタは許してないけど。――……あのカウントダウンがゼロになったら、ここにいるエントリー者は全員、どこかにいる予選1回戦の相手と2人だけの戦場に自動転送される」
「ふ、ふむふむ」
「フィールドは、1km四方の正方形、地形タイプや天候、時間はランダム。2人は、最低500m離れた場所からスタートして、決着したら、勝者はこの待機エリアに、敗者は1Fホールに転送される。別に負けても通常の様に武装や道具のランダムドロップはなし。買ったとして、その時点で、次の対戦者の試合が終わってれば直ぐに2回戦がスタート。終わってなければ、それまで待機。Fブロックは64人だから、5回勝てば決勝進出で、本大会の出場権が得られる。――これ以上の説明はしないし、質問もなし。受け付けない」

 大分ぶっきらぼうに、渋々了承してくれたと思えば、結構……と言うか、かなり丁寧に解説してくれた。一応、大体の概要は理解していたつもりだったが、やはり、経験者に聞く方が頭に入るというものだった。

「大体判ったよ。ありがとう」
「礼を言う。ありがとう」

 2人が其々礼を言うと、ごくごくかすかな声が流れる。

「――どっちが来るのか判らないけど、どっちか絶対に決勝までくるのよ」
「あ、ああ」
「……因みに、どっちと戦いたいんだ? 予選で」

 リュウキは、ニヤリと笑いながら自分とキリトを交互に指さした。キリトは、苦笑いを続けている。

「正直両方。……両方とも頭すっ飛ばしてあげたい。……敗北を告げる弾丸の味を教えておきたいから」
「なら、本大会にオレ達が出ないといけないな? キリト」

 リュウキの言葉にキリトは思わず微笑していた。これまでの様な揶揄や苦笑等ではない。本心からの笑み。確かに、その動機に関して、自分に非がありすぎるだろう。
 だけど、それを差し引いたとしても……嫌いじゃないのだ。まったくをもって。

「ああ。楽しみだ」
「だな。……が、今回の予選Fブロックで彼女と戦うのは《オレ》になるな」

 リュウキの不敵な笑みはキリトに向けられた。その笑みを見て、キリトは今度は苦笑いをしてしまう。優劣のつく勝負の場において、ここまで面を向かって言われた事はないからだ。だから、キリトはリュウキがまだ怒っているのだろうと思っていた。

「おいおい、まだ怒ってるのか? ……リュウキもそろそろ「冗談じゃないさ」……」

 リュウキに、答えを遮られた。これは、別にキリトの事を怒っていってる訳ではなく、絶対の自信の現れの様だった。……そして、それは 過信ではなく確信もある。
 キリトは、リュウキの目を見てそれが判った。

銃の世界(GGO)剣の世界(SAO―ALO)。剣の世界では、負けるつもりは無いものの、オレはここまではっきりと自信は持てない。……戦う相手が、お前だったら、こんな事 口にも出さないさ。慢心と過信は敗北に直結するからな」

 リュウキは、手で銃の形を作って、キリトの額に向けた。

「銃と剣は違う。 ……キリトにはまだ、銃の世界での経験が、……絶対的に実戦経験が足りない。 だから、オレにはまだ届かない」
「うぐっ……」

 キリトは苦虫を噛み潰した表情をした。
 リュウキがこの類の冗談を言わないことは知っているし、勝つにしてもいままでは言わなかった筈だ。だけど、ここで合えて口にするのには、多分訳があるんだろうことも判った。……多分、今回の真の敵と合間みえるその時の為の、糧として。

 そして、何より剣の世界に置いても、リュウキは前を歩いていた。必死に追いすがり、走って走って……漸く背中が見えてきたと思っている。だが、新たな世界にやって来て、最初から 勝てる等思える筈もない。

「だからこそ しっかり、銃の世界を視ておけよ。……キリト」
「……ああ。だけど、予選でもお前に一泡吹かせてやるさ。リュウキ」
「馬鹿言うな。確かに オレには届かない、とはいったが、そこまで圧倒的じゃないし、圧倒なんて出来やしない。キリトは、武器に剣を選んだんだからな。銃同士なら、話は別だけど」
「ま、まぁ 銃は短期間で無理なのはわかってたからさ」

 キリトは苦笑いをしていた。

 銃と剣の差は、通常では歴然だ。

 それは歴史が物語っている。剣や槍で戦をしていた国は、鉄砲をいち早く手に入れた国に、瞬く間に滅ぼされた。遠距離攻撃である銃。そして、彼女が言っていた様に、超近接攻撃である剣。それなりには出来るとは思えるが、あの銃捌きを見せたリュウキの弾丸を躱すとなると……、正直頭が痛くなるのだ。

「なら、接近戦に持ち込んでみせるさ! そうなったら、剣にも分はあるだろ?」
「……さぁ、どうかな」

 2人のやり取りを見ていた彼女は、割り込む様に顔を前に出した。

「……どっちがきたとしても同じ。それに、こうして話すのは今日が最後だろうから、ここで名乗っておくわ。――それが、いつかあなた達を倒す者の名前」

 彼女がそう言うと、2人の前に文字が表示された。

――《Sinon》。

 勿論性別は《F》。

「「シノン」」

 リュウキとキリトが呟くと、彼女、シノンは頷いた。そして、改めて名乗る。

「キリトだ。宜しく」
「……リュウキ」

 無意識の動作で、キリトは卓上に右手を差し出したが、シノンと言う名の少女は、当然の様に無視し、ぷいとそっぽ向いた。リュウキは、眼を瞑っていたが、ゆっくりと開け。

「今日が最後なら、合わせる事ができないな? 初老の彼に」
「っっ!! こ、言葉の綾よ! ちゃんと約束は守んなさいよ!」
「……はいはい」
「はは……」

 キリトは、苦笑いを続ける。


――この手の者を相手にするのに、適してるな?この男は。


 と思った様だ。
 何処か、あの世界のシルフの大魔法使いに似ている気がするとも思った。


 暫くじゃれていたと思いきやシノンは、もう黙ってしまった。口をしっかりと閉じる。……何処か、楽しんでいる様な気配がしたから、と言うのが一番だった。

 ドーム天頂のモニタを見上げると、残り時間はまだ5分も残っている。
 椅子の上でおとなしくしているのが吉だと思ったキリトは、そのままじっとしていた。リュウキと今回の敵、死銃の話をしても良かったけれど、それは、部外者である彼女の前でするのはどうしても、好ましくないだろうから。

 そしてそんな時だ、顔をあげると、テーブルに一直線に歩み寄ってくる者がいた。額に銀灰色の長髪を垂らした背の高い男プレイヤー。リュウキの銀髪よりはやや暗く、そして髪の長さは同じくらい。でも……、顔が全然違う。その姿をチラリと見たリュウキだったが……、明らかに羨ましそうな眼差しも向けていた。

 その男は、暗がりにひっそりと座るリュウキやキリトの2人には眼もくれず、シノンをまっすぐに見て、口許に笑みを刻んだ。

「やぁ、遅かったね、シノン。遅刻するんじゃないかって思って心配したよ」

 その馴れ馴れしい声を聞いたキリトは、また言葉の弾丸をぶっぱなすぞ、と思ったが、それは無かった。彼女が醸し出している雰囲気に何の躊躇いもなく話しかけれると言う事は、顔見知りだと言う事は容易に想像がつくから。

「こんにちは、シュピーゲル。ちょっと色々あってね。……ってあれ? でも、あなたは出場しないんじゃなかったの?」

 すると、シュピーゲルと呼ばれた男は、照れくさそうに笑いながら右手を頭に触れた。

「いやぁ、迷惑かも、と思ったんだけど、シノンの応援に来たんだ。ここなら試合も大画面で中継されるしさ」

 この会話からでもよく判ると言うものだ。2人は、フレンド、あるいは所属しているスコードロンが一緒、なのだろう事がよく判る。シュピーゲルがシノンの隣に座り、そしてシノンがそれを許している所をみても。

「それにしても、色々って? 何だか珍しいね」
「ああ……、ちょっとあってね、そこのヒト達と色々話したりして……」

 シュピーゲルの問いに、シノンが打って変わって、視線を一気に-20°程下げた様な冷たい視線をこちら側に向けた。

「その視線、オレに向けるのはお門違い、だ」

 リュウキもやれやれとため息を吐いてそう言っていた。冷たい視線をものともせず、華麗にスルーしたのだ。

「うっさい!」

 スルーされてしまったシノンだが、負けずに言い返していた。……それも 理不尽な気がするが、一先ず置いておこう。

「え、えっと。どーも、そこのヒトです」

 シュピーゲルは、シノンとリュウキのやり取りを見て、目を白黒させていたけれど、そこでキリトが返事をした。

「あ、ど、どーも。初めまして。ええっと、シノンのお友達さん達、ですか?」

 ゲーム世界のアバターとは言え、それなりには雰囲気のある男ではあるが、鋭い外見に似合わず礼儀正しい。少なくとも、また妙な演技をしようとしているキリトよりは。

〝ぼかっ!〟

 キリトの頭を叩くのはリュウキ。

「いたっ、な、何をっ!」
「成る程な。シノンに対して、出会った時もこういう感じだったのか? なら初見じゃ無理だろ。騙したと言われても無理ない」

 ため息を吐きながらそう言うのはリュウキだ。シュピーゲルはなんのこと?? と混乱していたから、シノンがその意味を告げた。

「そうよ。騙されないで。……そいつ、男よ。因みに、そっちも」
「……ええ!!」

 シュピーゲルは白黒させていた目を今度丸くさせた。外見ではどう見ても……♀の姿をしているから。喋り方も……片方は別だとしても。

 リュウキは、やや不機嫌にそっぽ向いていた。

 慌てようを見たらよく判る。向こうも男だとは思ってなかった様だから。

「あー、キリトといいます。で、男です。 こっちも男で……」

 キリトが、へそ曲げているリュウキの変わりに紹介をする。そして、その名前を聞いた途端に、彼は驚くのだった。

「リュウキです」
「……名前くらい自分で名乗れる」

 変わりに、名乗ったキリトを見て苦言を言うが、もう後の祭りだ。でも、シュピーゲルの表情は若干だが変わった。男だ、とわかった時よりも驚きがある。

「……え? りゅ、リュウキ? それって、RYUKIって綴り?」
「ん? まぁ そうだ。ローマ字そのまま。別に捻ったりしてない」

 そう返事を返した。困惑している彼を見て、シノンは不思議に思った様だ。

「……何をそんなに驚いてるの。そんなに珍しいプレイヤー名かしら?」

 シュピーゲルの顔を見ながらシノンはそう言う。

「え、えっと……シノンは《Mスト》とか見ないんだよね?」
「まぁ、……あまり興味無いし」

 シュピーゲルの話にシノンはそう返した。確かに多少はMスト、即ち《MMOストリーム》には興味がある。だが、それは強い相手を倒す、殺す事においてだ。後、興味があるのは銃関係の情報。GGOで手に入るアイテム等だけだった。

 今週の勝ち組をただ紹介するだけの番組を見る習慣は無かったのだ。
 GGOの紹介の際は見ても良かったと思うが……、この世界の勝ち組については自分もよく知っているから、《Mスト》を見てまで確認する必要がないのだ。

「……伝説扱いされてるアバター名なんだよ、《RYUKI》って名前。結構タイムリーだったから、驚いちゃっただけで」
「「「……は?」」」

 この発言に、皆がスットンキョーな声を発してしまっていた。そして、シノンにしては珍しい反応った。

「知らないかな? Mストって番組が出来て、それでVRMMOの上位プレイヤーを紹介しだした頃から、だったかな? 旧MMO時代の、様々なジャンルで、トッププレイヤーだったプレイヤーの名前がRYUKIだったって事で、何時かはVRMMOにも殴り込んでくるかも、って。この世界の上位プレイヤー達も色々と思うところがあるみたいだよ。このGGOでの前身でもあるFPGゲームでは圧倒的だった、って話だし。ゼクシードもああは言っていたけど、警戒はしてるみたいだったしね」

 シュピーゲルが思い出しながらそう答えた。その言葉にキリトは、リュウキをチラリと見た。そう言えば、以前までのネットゲームでは高スコアをたたき出してた、と言う話をよく耳にしていた覚えがあるから。が、当のリュウキは、関係ないばかりに無表情だった。

「……名前がかぶったのは、あまり嬉しい事じゃないな。その同じ名の奴と、比べられるのも」

 そうと言っていた。全く無関係、と言わんばかりに。

「まぁ、でも 珍しい名前、って訳じゃないし」
「そうだけどね。……ちょっとタイムリーだったから、驚いちゃっただけ」

 シュピーゲルは頭を掻いた。
 これまでの上位プレイヤー達の中でその名前を持つプレイヤーはいなかったから、と言う事もあるだろう。


「……と言うより、名前と同じ位、その容姿も驚いたけどね……それに……」

 シュピーゲルは、改めて、キリトやリュウキの顔をまじまじと見つめた。どう見ても、女の子にしか見えないからだ。そして、男性、というなら更に驚くことがある。キリトとリュウキを見た後、今度はシノンも交互に見た。シノンが男性プレイヤーと同行しているという状況が飲み込めない、と言う事をキリトは察した。

『へぇ、ほう、ふーん』

 と頭の中で彼の顔を見ながら言ったらしい。その後キリトは、悪戯心をふつふつと湧き起こした様だ。だから、彼の混乱メーターを更に上げてやろうと言う事で、更に燃料を投下する事にした。

「いやぁ、 オレ達共々、シノンにはすっかりお世話になっちゃって。色々と」

 そういった途端、シノンが青いレーザーの様な視線でキリトを睨んだ。

「ちょっと……やめて。私は別にあんた達の世話なんてしてないでしょ! だいたいアンタに、シノンなんて呼ばれる覚えなんか」
「まーた、そんなつれないことを」
「つれないもなにも、赤の他人よ!」
「えー、武装のコーデまで面倒見てくれたし、銃談議では、この子とも楽しそうにしてたじゃん」
「っ……そ、それは、あんたが。あんた達が……!!」

 シノンの攻撃的目線が、キリトだけじゃなく、リュウキにまで迫ろうとした時だ。

〝ごちんっ!〟と言う音が響いた。

 結構強めのゲンコツをこの女顔の男(他人の事、言えない)に喰らわせた様だ。目の前に『☆!』が見えた様な気がする……。

「ぶっっ!!」
「だから 勝手にオレを巻き込むな……。それに誰が『この子』、だ! ツッコミ要員じゃないんだぞ、オレは!」

 キリトは、後頭部から叩かれた為、机にもしこたま、額を打ち付けていた。幾らか、清々したんだろうか。シノンの視線、目付きが僅かに柔らかくなった気がした。キリトは、慌てて頭をあげて、抗議をしようとした時だった。

 ドーム場にこれまでのBGMとは全然違う、荒々しいエレキギターによるファンファーレが轟いた。続けて、甘い響きの合成音声が数100人の頭上に大音量で響き渡った。

『大変長らくお待たせしました。ただいまより、第3回バレット・オブバレッツ予選トーナメントを開始します。エントリーされたプレイヤーの皆様は、カウントダウン終了後に予選第1回戦のフィールドマップに自動転送されます。幸運をお祈りします』

 ドーム内に盛大な拍手と歓声が沸き起こった。ダダダダッ!と言う自動銃の空砲音、甲高いレーザー銃の発射音が続き、天井には演出であろう、様々な色のラインが引かれ、宛ら花火の様にこの天井を彩っていた。

「……やれやれ、漸く、か」
「ってこら! オレの頭から手をのけろって!」
「余計な口をとじたまで、だ」
「もう、もう、言わないから!」
「はいはい……」

 後頭部を叩いた後、これ以上何も言わせない様にと、頭を押さえていたのだ。いい加減手をのけてやると、仮想世界だというのに、キリトは必死に空気を吸い込み続けていた。

「もうどっちでもいいわよ! どちらが来たとしても、私と戦いの場に立ったらその頭、すっ飛ばしてやるから!」

 一先ず宣戦布告をされた。
 された以上は、黙っている訳にはいかないだろう。

「デートのお招きとあらば、参上しないわけにはいかないな」
「……あほ。お前は無理だ、って言っただろ? それに格好つけるのも程々にしろ」
「むぐっ! こっの! 見てろよ、銃相手でも、簡単に殺られないぞ!」
「はいはい、ほら、1回戦始まるぞ」

 また、キリトとリュウキのやり取りになった。

 流石のシノンも、キリトだけじゃなく、リュウキにも頭にきたようだ。完全に自分をスルーして遊んでいる事に。

「あ、あんた達、この私を無視するなんて、本当にいい度胸じゃない! 絶対にぶっ殺してやるわ!」

 ……随分と物騒なセリフを言うけど、返事を返す前に、キリトの背を押した。これ以上の戦いの前の揉め事は終わり、と言う事で。カウントも60秒、1分を切っていた、と言う事もある。

 キリトの背をおして、この場から離れようとした時、シュピーゲルの視線が合った。明らかに警戒をしているのが判る。敵意も僅かながら感じた。

「(ちょっとやりすぎたかな……?)」

 と、キリトも思った。燃料投下した本人なのだから。

 だが、リュウキは違った。シュピーゲルの前を通り過ぎたところで、脚を止めた。キリトの肩を叩き。

「キリト、お前がしようとしてる事は、考えている事は、悪手だ(・・・)。……そして死路(・・)それ以上でも(・・・・・・)それ以下でもない(・・・・・・・・)。……お前なら判るだろ(・・・・・・・・)?  あまり変な事を戦いの前に考えるべきじゃない。予選を舐めないようにな。……じゃないと、このBoBがお前の、公開断罪の場(・・・・・・)にされるぞ」
「……はぁ? なんだよ、それ」

 キリトは何を言っているのか、判らない様子だった。だが、リュウキは判ってないキリトをおいて続けた。

「つまりからかう前に、集中しろって事だ。……ぶっつけ本番みたいなもんなんだから。敵は何時現れるか、判らないんだからな」
「……? ああ、それは判ってるさ。スイッチを入れる」

 リュウキはそう言うと、そのままシノン達を見ないまま軽く手を振った。

「なんなのよ あの2人……」

 シノンも2人のやり取りを聞いていたが……、何処か違和感、と言うより、何か噛み合ってない感じがしていた。だが、最後のキリトの表情を見ると、そうでもなさそうだ、と感じる矛盾が沢山あった。

「………ッ」

 この時、とある男の脳裏には憎悪ににた何かが発生していた。黒い、そう闇よりも暗い何かが内から沸き起こっているのだ。ただただ、その射殺す様な視線をある2人に向けていた。




「リュウキ」
「ん……?」

 シノン達から、ある程度離れたところで、キリトがリュウキに声をかけた。

「さっきの何だか思わせぶりなセリフ。……何かあるのか?」
「ああ、それの事か。出会う相手には言うように……っと。いや、今はいい」
「って、そこまで言っといて……。ああ、この1回戦、いや、予選が終わるまで、って事か?」
「……ああ、そうだ。雑念になるだろ? だから後で言うよ」

 リュウキがそう言うとキリトは、拳を差し出した。それを見たリュウキも、少し遅れて拳を出す。

「勝ち上がるからな。……リュウキも足元すくわれるなよ?」
「ああ、油断はしない。……キリトも負けるなよ」

 互いに拳を当てた所で、時間が来たようだ。
 キリトとリュウキの身体を青い光の柱が包み込み、たちまち視界の全てを覆い尽くした。その視界が見えなくなるまで、2人は拳を当て続けていたのだった。


 転送された先は、暗闇の中に浮かぶ1枚の六角形パネルの上だ。

 目の前に薄赤いホロウウインドウがあり、表示された名前は《RYUKI vs Pain》。

 リュウキは、その名前をジッと見つめた。流石に、公式の場で死銃と堂々と名乗る訳はないだろう、と結論をつけると、右ホルスターに収めている銃に、そして胸元付近の鞘に収められたコンバットナイフの柄に触れた。SAO、そしてALOでの相棒だったのは剣だ。

 異様に長い剣や両サイドに刃が伸びている双斬剣。

 その次の相棒は、これらの武器。剣と違って重みは感じないが、強い意志は伝わってくる。完全に敵を殺す為の武器だから、まるで破壊を欲しているかの様にさえ感じる。

 そう、この先は戦場。

 ファンタジーの世界の様な演出もなければ、鮮やかさも無い。ただ存在するのは2人だけであり、殺すか殺されるかの2つに1つだ。

「(……Time Upって事もあるだろうけどな)」

 リュウキはそう考えつつも、時間制限の事も考え苦笑いをしていた。ある程度の制限時間は設けていると思われる。銃撃戦が長引く様な事は無いと思うけれど、予選の段階。それもトーナメント制であれば ある程度は設けられているだろう、と考えられるのだ。

「(ま、その結末は無い)」

 リュウキはニヤりと笑った。
 そして、対戦相手の名前を見据える。

《Pain》直訳で痛み。

 まるで、そのコードネームは、プレイスタイルを。……痛みを与える側と言わんばかりにしていると思える名前にしてある。

 そして、そのウインドウの下部には《準備時間:残り42秒 フィールド:聖域・兵どもが夢の後》

 かつての英雄か何かが、長らく戦っていたものの、最後は滅んでしまった場所だろう事は想像出来た。そして、屋内戦、野外線の両方が出来るフィールドなのだろうと言う事も想像出来る。戦いの後だから、施設、兵器保管庫、道中に存在する森……etc

 狙撃戦とでもなれば、ハンドガンしか無いから 多少は面倒な戦いになるだろう。だが、想像の通りなのだとしたら、問題はなく、自信も上々だ。まだ見ぬ強者と闘れると言う事を思うと更に力が、気合が入ると言うものだ。

「さて」

 リュウキは、ゆっくりと身体を振った。
 脚を腕を、そして両手を握り、開く。まるで、現実でいう準備運動をしているかの様に。カウントは5秒を切っており……そして、0になった。その瞬間、再度転送エフェクトが身体を包んだ。真の戦場へ連れて行く為に。


 そして、転送された場所は錆びれ、くたびれた廃墟の前だった。時刻も夜の闇であり、夜戦仕様の様だ。相手の装備にもよるが……、暗視スコープを持っていないと、視界は悪いままだ。細かく説明すると、暗闇の場合はシステムで認識がしづらくなってしまう所がある。ある程度見て、認識すると、プレイヤーの頭にアイコンが現れるが、闇の場合は更に注意深く見なければ、認識してくれないから、見つける所からが勝負となるのだ。

「……面白い。こんな戦いも経験しておきたかった所だ」

 決して夜戦は初ではない。

 だが、銃での夜戦は初めてだった。何事でも、初めてと言う言葉がつく戦いには心が躍ると言ったモノだから。

 僅かな星や月の灯りで照らされたリュウキのその影、輪郭。それが揺らり、と揺らめいたかと思えば、次の瞬間には、もうその場所にはリュウキの姿はなかった。



――第3回BoB 予選1回戦が、今始まった。




 
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