普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ソードアート・オンライン】編
098 主に転生者達の事情
SIDE ???
『……以上で【ソードアート・オンライン】の、正式サービスのチュートリアルを終了する。……プレイヤー諸君の、健闘を祈る』
巨大なローブ男は血の色に染まっていた空を持っていくかの様に消えていった。そらは黄昏時を表すような黄金色である。……こう云っては語弊はあるかも知れないが、恙無くデスゲームが始まった。
「お姉ちゃん、これって…」
隣でへたり込むのはボクと瓜二つの少女──アスナである。……結局ボクはアスナ──明日奈をデスゲームへと引き摺り込んだ。
……チュートリアル前、ログインしたのが同じ家だったからか──〝神〟のイタズラなのかは判らないが、ログインしてきた明日奈が近くに居て──同性と云う事もあり、アスナとボクは直ぐに仲良くなれた。
数年間、明日奈と姉妹をやっていたので、明日奈──らしき雰囲気を醸し出している少女を見つけるのはワケは無かった。ボクはパーティーを申し込んだ際《Asuna》と云う名前を見た時に…
―アスナってボクの双子の妹と一緒なんだよね。偶然ってあるもんだねぇ―
……なんて三文芝居をぶち込んだら、身元がバレた──もとい、〝バラした〟と云う方が近いか。……ともかく、アスナにこのゲームのレクチャーをしつつMobを狩っている際に茅場 晶彦から召集が掛かった。
その時にデスゲーム──そして、〝原作〟が始まったのを自覚したのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「アスナ、良く聞いて? ……まず大前提として茅場 晶彦が言っていた様に、外からの救援は望めない。そしてHPがゼロになったら死ぬのも本当だと思う。……そして、〝これから〟の話をしようと思う」
アスナを人通りの少ない場所まで連れ立ち、〝これから〟の事について語る。
「VRMMO──もとい、MMORPGで〝強くなる〟って事は、すべからく〝限界値が決まっている供給の奪い合い〟になるんだ。……〝このゲーム〟では殊更にその特色が強くなると思う」
〝強くならなきゃ死んじゃうからね〟──と、言外にこのデスゲームの本質を語っておく。
「そして〝それ〟に思い至って、強くなろうとする人も沢山居ると思うんだ。……そしたら、この【はじまりの街】周辺はどうなると思う…?」
「モンスターが狩り尽くされる…?」
「正解。更に云えば〝旨味〟のあるクエストなんかもだね」
〝このゲーム〟の本質を掴みはじめているアスナの答えに、註釈を入れながらそう頷く。
「だから──ボクは、〝先に〟行こうと思う。……出来ればアスナには着いてきて欲しいんだ。……βテスト上がりじゃない──所謂〝初心者〟を見捨てちゃう事になるんだ。……でも妹には──アスナには来て欲しい」
「……判った」
アスナはボクの仮想体である、《Yuhno(ユーノ)》の手を取ってくれた。……それは正しく、〝ボク達のデスゲームのはじまり〟だった。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE ???
『……以上で【ソードアート・オンライン】の、正式サービスのチュートリアルを終了する。……プレイヤー諸君の、健闘を祈る』
〝原作通り〟、宙に浮く巨大なローブの男──茅場 晶彦からのデスゲーム宣言。……俺こと《Ryu(リュウ)》──神埼 竜也は、〝歓喜〟〝焦燥〟やらが綯い交ぜになった感情で立ち尽くしていた。
(……ついに、始まった…)
アニメやライトノベル、はたまた漫画の1シーンに入り込めるのは中々のカタルシス(?)があった。……しかしこれはデスゲーム。そう感慨に耽り込むわけにもいかず、〝これからどう動くべき〟かを考えなければならない。
(〝あいつ〟にメッセージ送って合流するか…?)
〝あいつ〟とは、奇しくも〝どこぞの淫獣と同じ名前〟のβテスターで、βテスト時代何回か一緒に狩りに出た事がある。βテストに応募するくらいのゲーマーなのだから、製品版のサービス──このデスゲーム参加している公算は高い。
「……さて、ぼちぼち【ホルンカ】へ向かうか」
強化すれば、〝序々盤〟ではそこそこ使える武器──《アニール・ブレード》を入手するためには、そこで受けられるクエストを受注する必要性がある。〝俺の目指すプレイスタイル〟の為に、どうしても《アニール・ブレード》は押さえておきたいので、【ホルンカ】に向かう事にした。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE 《Teach》
「ふんっ!」
目の前の、俺の1メートルは有りそうな植物系Mob──《リトルネペント》を〝武器〟で一閃してやる。弱点を突けていたらしく、忽ち《リトルネペント》は、薄めの硝子が割れた時の音を発てながらポリゴン体となってデジタルの世界へと還って逝った。
(……む…。どうにも調子がなぁ…)
《リトルネペント》を狩りながら、内心そう悪態を吐いてしまった俺はきっと悪くない。……と云うのも、話は変わるが──否、変わらないかもしれないが。俺の〝出来る事〟について、幾つか変化が有ったからだ。
……まず、このデジタルの世界は〝ステータス依存〟で──そして、〝〝このゲーム〟に想定されていない攻撃〟は意味を為さなくなり、俺にとっては動き辛く〝現実〟でのスペックの数十──若しくは数百分の一くらいしかパフォーマンスを発揮出来ない。
今のところ〝使える〟と判っているのは、〝自分内や相手プレイヤー内だけで完結する〟──〝見聞色〟〝武術〟〝幾つかのスキル〟〝幾つかの精神系の魔法〟“答えを出すもの(アンサートーカー)”くらいなもので…。
肉体から発せられるエネルギーである〝氣〟は、仮想体で使えるべくも無い。
仙術にて〝自然〟から取り込み、〝練る〟と云う工程が必要なエネルギーである〝気〟は〝電脳世界〟には〝自然〟が無いのでまずは不可能。
唯一使える──精神エネルギーに依拠する〝魔法力〟は、多少の例外はあるが──〝ほとんどの系列の魔法や魔術〟が意味を為さなくなった。
……その〝使えそうな〟魔法──“マヌーサ”などの精神系の魔法なのだが、それにも欠点がある。……〝意識〟の無い──単なる〝プログラム体〟でしかないMobには効かないらしく、尤ものところ〝対プレイヤー〟にしか使えないのだ。
それはそれである意味強力なアドバンテージなのかもしれないが…。
閑話休題。
もちろん、〝虚無魔法〟を含むハルケギニア式の魔法は総じて使えない。……魔法発動媒体である〝杖〟が〝現実世界〟の〝倉庫〟に入ったままだからだ。
……体内に埋め込んでいたのだが、ミネルヴァさんの厚意なのか再転生の際に分別してくれていたらしく、大して必要でも無かったので、〝升田 真人〟の肉体にも埋め込んでいなかった。
また閑話休題。
俺の魂に引っ付いているドライグは〝電脳世界〟にも来ているが──ドライグの声は俺にしか聞こえないため、大っぴらにドライグと話し合う事は止めておく。
……ドライグが表層に出られる〝現実世界〟ならまだしも──こちらでドライグと話せば〝何も無い場所で〝見えない何か〟と会話するアブないヤツ〟と思われかねないからだ。……思念での会話も、俺がボロを出さない様に控えてもらうようにドライグに念を推してある。
またまた閑話休題。
デスゲームの開始から早数時間。俺とキリト、リーファの3人はただひたすら《リトルネペント》と云うMobを狩ることになっていた。……その理由は、《アニール・ブレード》──キリト曰く〝序々盤ではそこそこ活躍してくれる片手剣〟を入手の手伝いをしているからである。
……低確率で出現する《リトルネペント》の亜種Mob──通称≪花つき≫を狩り、そいつがドロップしたアイテムを納品する。……割りと良くある〝納品系〟のクエストである。……ついでとばかりに──後々、キリトの助けになれるかもしれないので俺達も〝そのドロップアイテム〟を狙っていた。
「でぇぇえい!」
リーファは〝現実世界〟で習っていた剣道を活かしつつ、両の手に握る曲刀にてばっさばっさ、と《リトルネペント》を屠っていく。……その様は、さながら〝戦乙女〟である。
「ティーチ…」
「ん? どうしたキリト」
「妹が怖い」
「キリト兄ぃ、聞こえてるよ。口動かす暇が有るならどんどん狩っていこうか」
まだまだ余裕が有りそうなリーファは、更に「ほら、また〝湧出〟したよ!」と〝再湧出〟した《リトルネペント》へ、一気呵成に向かっていく。
……もちろん、リーファがフィールドに出ているのは理由がある。キリトと俺は妹には安全区に居てもらいたかったし、説得もしたがリーファは…
―お兄ちゃん達が私を心配するのは判るよ。……でもお兄ちゃん達が心配なのは私も一緒だよ。お兄ちゃん達に〝何か〟が有った時、〝何も知れない〟、〝何も出来ない〟──って、なるのが一番恐いの―
……らしい。……どうやら茅場さんは妹の人格形成に、重い齟齬を与えてくれたらしい。
(茅場さん、まじ許すまじ)
「せぃっ!」
心の中で冗句を──心に〝ゆとり〟を持たせようと呟きながら、屠った数を最早数えるのも億劫にもなってきた《リトルネペント》を、槍・単撃スキル──“ラバー・ライヴズ”でポリゴン体にしてやる。
……判るかもしれないが、俺が取った武器は〝槍〟である。これまで〝槍〟を誰かに師事する事は出来なかったが──〝剣〟を教えてくれていた祖父からの紹介で、遂に〝現実世界〟で〝槍〟を人から師事する事が出来たのだ。
〝双月流〟。……それが俺の師事する──〝突き技〟が主体の流派である。俺の師匠は──〝双月流〟の現・師範代であるのだが、師匠の御宅は所謂〝女系家族〟で男児には恵まれなかったらしく──〝息子代わり〝なのか、俺は割りと良くして貰っている。
槍術を教わる際には「筋が良い。……むしろその才能に嫉妬だよ」と、自嘲しながらもよく褒めて(?)くれる良い師匠なのだが、そんな師匠にも含むところは有る。
……酔った際によく12歳の──俺から見て4つも年下の、一人娘である稜ちゃんの婿にと勧めてくるのはどうかと言いたいところである。……また、稜ちゃん自身も満更でもなさそうなのがまた笑えない。
閑話休題。
「いいか、キリト。〝ここぞ!〟って時は、得てして女の方が胆力があるものなんだよ」
「……身に染みたよ…」
そうキリトに説いている内に1つ目の〝そのアイテム〟を落とすMob──〝花つき〟が出たので、すぐさまキリトが斬り裂いた。クエスト完了である。……後に残るのレベリングがてらの虐殺だった。
……その後、紆余曲折──コペルとかいうプレイヤーにこのクエストの納品アイテムを5000コルという割安(?)で売ったりして、リーファのレベルが4に上がったところで、その日は打ち止めとなった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
当初予定していた3本──ではなく、当初の予定の倍数である6本の《アニール・ブレード》が手に入り、〝ほくほく顔〟の俺達は宿を取っていた。
「……どうしたんだ、ティーチ。……誰かからメッセージか?」
「ああ。……まぁな…」
ウィンドウとにらめっこしている俺をキリトが胡乱気な目で見てくる。……茅場さんからのデスゲーム宣言の後、俺に届いたメッセージを忙しくて今まで放置していたのが、漸く確認出来る時間が出来たのだ。
……送信主は[Unknown]──〝正体不明〟とあった。放置しておくのも気を揉むし、いざ開いてみれば…
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升田 真人改めず、升田 真人へ
このメッセージが届いているという事は無事(?)にデスゲームへ参加している事じゃろう。……言いたい事は判る。……しかし、〝主人公〟をデスゲームに入れるのはこうするしか無かったのじゃ。お主なら判ってくれると思う。
もう判っているかもしれないが、〝その世界〟は【ソードアート・オンライン】と云う世界。……お主はその世界に〝主人公の兄〟となって転生している。
妾からお主頼みたいのは他でも無い。手段は問わん、お主の手ずからじゃなくても構わぬ──〝そのゲーム〟を終わらせる事じゃ。……頼んだぞ。
ミネルヴァより
PS.このメッセージはお主がこのメッセージを開いてから10分後には消滅するので悪しからず。
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メッセージが消えたのを確認して、取り敢えず頭を抱えたくなった俺は、〝俺は悪くない〟……とりあえず、そう自己弁護しておいた。
SIDE END
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