普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ソードアート・オンライン】編
095 【ソードアート・オンライン】
SIDE 升田 和人
ナーヴギアを被り、ベッドに寝転がる。心臓〝まだか〟〝まだか〟と急かす様に脈動しているのがベッドのスプリングを伝って判る。今日はある意味では歴史的な日である。年にして2022年。月日は11月6日。時刻の頃は12時55分。
ちなみに、真人兄ぃ達のソフトは母さんが用意してくれた。スグはともかく、真人兄ぃの無趣味さ──もとい、無欲さは母さんも心配していた様で、〝今回の件〟──〝【ソードアート・オンライン】に誘った件〟について、母さんは嫌な顔1つもせず賛成してくれた。
……初期ロット10000本、〝確実に〟入手するにはその稀少さから定価の数十──悪ければ百倍はすると云うのに、だ。
ナーヴギア代は真人兄ぃの懐から──スグの分はスグには内緒で出ていたりする。……〝それで良いのか高校生〟──とも思ったが、そこは節約性な真人兄ぃである。ぽん、とスグの分も出てきたのには痺れたし憧れた。
閑話休題。
(……あと1分で…)
どうでも良い事に思考を廻らせていたら、いつの間にやら12時59分──〝その時間〟の1分前となっていた。……どくんどくん、と心臓の音と、秒数まで判るデジタル時計の音だけが俺の鼓膜を支配していく。
(5…4…3…2…1)
「〝リンク・スタート〟」
そのワードを紡ぐと俺の意識は電脳世界へ引きずり込まれていった。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE ???
そこはがやがや、と雑多な喧騒に溢れていた。……そんな喧騒溢れる空間で俺は手を握っては開いては、何とも言えない──〝この肉体が本当に仮想体であるとは思えない〟、そんな数ヶ月振りの感覚に感傷に浸っていた。
「……帰って来た〝この世界〟に…っ!」
今日は11月6日。時刻は先程より幾らか経過しているので、13時05分となっている。βテストの終了から待ちに待った──【ソードアート・オンライン】、正式サービスの当日である。
第1層の転移門を擁している──所謂主街区。……【はじまりの街】で俺は真人兄ぃとスグを待っていた。俺のハンドルネームは〝現実世界〟で、既に2人には伝えて有るので、キャラクターメイキングが終わり次第──簡易メッセージを飛ばしてもらい、俺が2人と合流する手筈となっている。
俺はβテストの時に作ったアバターが残っていたので2人よりは早くキャラクターメイキングが終わった様だ。……βテストからはアバター〝しか〟引き継げなかったのだが。……そこら辺は初心者の事を考慮して、〝公平さ(フェアネス)〟を求めたのだろう。
……キャラクターをもう一度作り直さなければならない事を思うと些か億劫になるが──それは全てのβテスターに当てはまる事。……俺は、〝またキャラクター構成を作り直せるのだ〟と、取り敢えずは納得しておいた。
閑話休題。
――ピコンッ
「あ、来た来た」
右手を振ってメニューを呼び出せば、[《Teach》からのメッセージが1件]とあった。……メッセージを確認したら、真人兄ぃがキャラクターを作り終えて、漸くインしてこれたらしい。直ぐ様返事を送る。
「それにしても〝先生(Teach)〟ってどんなネーミングセンス…。……あ、〝升田〟の[升]──チート(cheat)のアナグラムか。……さすがにゲームで〝ズル(cheat)〟って名前は自重したのか…」
対外的に見れば中々に不審者チックな光景だとは理解しつつ、推測混じりに呟いていると背後からどことなく聞き知った抑揚かつ聞き慣れた声音で声を掛けられた。
――「……もしかして《Kirito(キリト)》、かな?」
《Kirito》──キリトとはハンドルネームである。
最初、MMORPGをやろうとした時、ハンドルネームは奇をてらわず《Masuto》などにしようとは思ったのだが──それがどうにも語感がよろしくなく、捻りに捻った結果、伯母夫婦の苗字である〝桐ヶ谷〟と云う苗字が思い浮かび、そのまま拝借して《Kirito》としたのである。
閑話休題。
「ああ、《Teach(せんせい)》」
真人兄ぃのネーミングセンスについて考察していると、真人兄ぃ──らしきアバターが話し掛けてきたので早速アバター名について弄ってやる
。
「〝先生〟は止してくれ。……それにこれからはロールプレイングで良いんだよな。……よろしくな〝キリト〟」
「ああ、よろしく〝ティーチ〟」
がっちり、と──〝兄弟〟と云う垣根を超えた握手を交わす。
ここは仮想の世界。〝現実世界〟の柵を持ち出すのは、〝野暮〟と云うほか無い。この世界では〝1プレイヤー〟として──〝剣一本〟で〝この城〟の頂上を目指しているプレイヤーとしては、対等なのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――「なぁ、そこの兄ちゃん達、もしかしてβテスターか?」
《Leafa(リーファ)》──スグも合流して、いざ【はじまりの街】内で最も品質の良い武器屋に向かおうとした時、無遠慮な──されど、その〝無遠慮さ〟がどこか憎めない声音で声を掛けられる。
「いや、βテスターはこの優男っぽい風貌のキリトだけだ」
「ぶっ! 優男…っ!」
リーファにはティーチの冗句がお気に召したらしく、未だに〝ぶふっ!〟等と笑いを堪えているが──そんなリーファは置いておくとして、声の方に見ればそこには気の良さそうなバンダナの男が居た。
「ああ、βテスターは俺だ。さっきそこの男から軽く紹介が有ったが、俺はキリト。こっちの男がティーチ。で、笑いを堪えようとして失敗しているのがリーファ」
「ああ、俺はクライン、つぅんだ。よろしくな!」
「ティーチだ」
「リーファです」
「っ…!!?」
俺、ティーチ、そして最後にリーファと握手をしていると、クラインが最後のリーファを見た時──その時リーファの顔を初めてじっくりと確認したのだろう、クラインは目玉を〝くわっ〟──とな擬音が付きそうなほどの勢いで見開いた。……いきなりの事だった。
リーファ──この場合はスグか。スグの仮想体は、やや低めの身長、金髪ポニーテール、〝実際〟の女性であっても目を惹かれ──嫉妬されるそうな容貌である。……つまり、控え目に云っても〝美少女〟なのである。
閑話休題。
いきなりの事だったので、クラインの変貌振りには気付けた──が、クラインの〝その行動〟に反応するには些か遅すぎた。
「ク…クク、クライン22歳! お友達からお願いします!」
「えっ!? ……えっ…? リーファ13歳です。よろしくお願いします…?」
リーファに向かって腰をほぼ直角に曲げ、手を差し出すクライン。いきなりのクラインの奇行に、許容範囲を超えたのかおずおず、と──そんなクラインの手を取るリーファ。そんな状況下で一番最初に反応したのはティーチだった。
「どーどー、こんな場所でリアル情報を出さない」
「「あっ!!」」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「でゃぁぁあっ!」
クラインは《フレンジー・ボア》──別ゲームにするなら〝スライム相当〟に曲刀で斬りかかる。……〝チュートリアル〟を始めて1時間程度が経過していた。
あの後、ティーチの一言で漸く寸劇から舞い戻ってきたリーファとクライン。そこらで最初の疑問──クラインが俺達一行に声を掛けてきた理由について話の内容は移ろった。
―あー、ちょっちβテスターにチュートリアルを頼もうと思ってたんだ―
……との事だったので、どうせ今日はティーチとリーファにもチュートリアルをがてらモンスターを狩り続ける予定なだけだったし──この際2人や3人も関係無かったので、クラインの提案を承諾した。
「ああ、違う違う。……なんて言えば良いのか…」
「要は予備動作で留めて、そのまま〝武器〟にスキル特有の光が現れたら、そのままそのスキルを解放すれば後はシステムが補助してくれる──って事だろう?」
「ああ。クラインはちょっと考えすぎなんだよ。ティーチの言葉はちょっと専門的過ぎるが、要はスキルを立ち上げて──それをずばん、て放つ感じが一番近い」
言葉足らずな俺の言葉をティーチが代弁してくれた。コミュ障気味な自分の気質がもどかしい。
「……こんな感じ…か…?」
クラインの曲刀から燐光が浮き上がってくる。……間違いなくソードスキルの発露である。《フレンジー・ボア》をクラインの方へ向かう様に誘導してやる。
「でゃぁぁあっ!」
クラインは向かってきた《フレンジー・ボア》の突進をさながら闘牛士の様にいなすと、すれ違い様に火の勢いで一閃を《フレンジー・ボア》へと浴びせた。
――パリィィン!
《フレンジー・ボア》はまるで地面に落ちた鏡の様に割れて、ポリゴン体となって、全なる一──この世界を構成している〝一部〟になって還って逝った。
「やったぁぁあっ!!」
「ナイス・ハント。……っも今のはスライム相当だけどな」
「マジか…。……俺には中ボスくらいに思えたぜ…」
「いや、そんなゲーム誰も買いませんよ」
がっくし、と目に見えて肩を落とすクラインにリーファ放った正論が優しくクラインへと引導を渡した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……やっぱすげぇな、この世界…」
クラインの喜びも一段落着き、ひたすらMobを狩っている最中。……交代制で前衛をリーファとティーチの──〝戦闘チートコンビ(誉め言葉)〟に任せて俺とクラインはのんびり休憩していると、クラインが感慨深げに呟いた。
「ああ。魔法は無い──が、〝剣〟1本でどこまでも行ける良い世界だよ」
「……オメェ…大分魅了されちまったんだな、この世界に。……っと、もうこんな時間か。今日は5時半に届く様にしたピザを食うんだ──ん? ログアウトのボタンが消えてるぞ」
時間を見ると17時25分。確かに落ちる頃合いとしては良い頃合いである。クラインは右手を振ると訝し気な表情をすると有り得ない事を宣った。
「そんな──」
クラインの言葉を否定しようとした時──最早懐かしくすらある転移特有の浮遊感に襲われた。……俺の感覚が鈍っていないのなら、それは〝転移〟の感覚だった。
SIDE END
後書き
リーファ、デスゲームに参戦。キリトさんのコミュニケーション能力が原作ほど乏しくないので、こんな展開に…
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