普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ソードアート・オンライン】編
094 クローズド・ベータテスト
SIDE 升田 真人
茅場さんと出会ってからの話である。
河原で茅場さんと出会って──なぜかその後意気投合して、茅場さんを家に連れ帰って仰天している和人に向かって〝ねぇ、どんな気持ち? 憧れの人に会えるってどんな気持ち?〟……と、無意味に煽りまくっていたら和人に殴り掛かられた。
もちろん、鍛練の[た]の字すら積んでない和人の拳なんて当たってやる訳は無かったが。
閑話休題。
茅場さんは〝とあるゲーム〟のゲームデザイナーを任されているらしい。……だがしかし、どうにもそのゲームの進捗状況が芳しく無いとの事。……そんな折に、河原で鍛練──〝シャドー〟をしている俺を見つけたらしい。
茅場さんはこう言った。「とあるゲームの製作を手伝ってくれ」──と。……素直に面白いと思った俺は茅場さんの話に聞き入る事にした。……報酬もあり──お金の類いでは無かったが、和人の為になりそうだったので快諾した。
一口に〝製作の手伝い〟とは云ってもプログラミング凝った事──とかでは無くナーブギアを被っての、ゲーム内で実装されるらしい技のモーションの入力である。
……≪天才量子物理学者≫のつくるゲームのスキル──専ら〝体術〟や〝槍術〟、そして〝剣術〟のスキルのデータと──範囲は少なくともデータ収集に貢献出来たのは、ちょっとした誇りである。
閑話休題。
データ収集の報酬はβテストへの参加権だったので──その権利は和人に、〝条件〟付きでやった。……俺も興味が無かったと云ったら嘘になるが、そこまで──和人ほど興味を惹かれたわけでも無かったから〝それなら〟と、和人にβテストの権利をやった。
ちなみにどうでもいい話ではあるが、和人にβテストの権利をやったの和人の嬉しそうな様子を見た時、隠しているブラコン魂が浮き出そうになったのは内緒であり、蛇足である。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE ???
(もうすぐβテストも終わりか…。……ってことは、〝原作〟も近いと云う事にもなるのか…)
俺──神埼 竜也は転生者である。よく判らない神の不注意によって殺され、この【ソードアート・オンライン】に〝特典〟を使って転生した。……これから転生する世界すら特典を使わないと決められないなんて、そこら辺の不自由をゴネたが〝転生させぬ〟と脅されたので不承不承だが、納得してやった。
〝特典〟の数を決めるのは、賽子と──何とも運頼みだったが、幸いにも俺は5つの特典を持って転生する事となった。それらの〝特典〟とは…
1.転生先を【ソードアート・オンライン】にする事。
正直、最初は【魔法少女リリカルなのは】や【インフィニット・ストラトス】とかも候補であったが、最終的に、好きなキャラクターが多かった【ソードアート・オンライン】の世界を選んだ。……〝管理局〟や〝女尊男卑〟がある世界は辞退させてもらった。
同じく好きなキャラクターが多い【ゼロの使い魔】とも迷ったが、死亡フラグの数が圧倒的に少ないので【ソードアート・オンライン】の世界にした。
2.原作に於ける〝桐ヶ谷 和人〟の抹消。
これは、もやし(キリト)と美少女を結ばせない為の措置である。……この特典を頼んだ時、神は猛反発したが〝不注意で勝手に殺されたんだけどなー〟と言って封殺した。
……実を云うと、最初は〝主人公の抹消〟だったが、いつの間にやらこうなっていた。……それだけではなく〝いざ転生〟の間際に、〝原作で起こり得ない事が起こり得る可能がある〟みたいな事を云われたが、その時にはやり直し(クーリングオフ)は利かなくなっていたそうだ。
3.βテストに当選出来る様にする事。
元より、最初からデスゲームに無策で挑むつもりはない。そもそもな話、初期ロットたった10000本を普通に購入出来るとも限らないのである。……そう考えるなら、βテスターの〝ゲーム優先購入権〟を捨てるのは勿体無い。……ワンチャンプリーズと云ったところ。
4.〝原作キリト〟並みの反応速度。
“二刀流”のユニークスキルは〝ゲーム内最速の反応速度を持つ者〟に与えられるので、〝原作キリト〟並みの反応速度があれば、間違いなく取得出来るはず。
……ちなみに〝並み〟ではなく、〝以上〟にしておいた方が良かったと後悔しているのは内緒である。
閑話休題。
5.紺野 木綿季と、その家族の救済。
【マザーズ・ロザリオ】を見て号泣してしまったのは俺だけではないはず。……他にも〝他の転生者を来ない様に〟とか、〝ナーヴギアの改造〟だったり〝いつでもログアウト可能〟──だったりと、色々と考えたがユウキには生きていて欲しかった。
「……さて、始めるか」
5歳の時に自分が転生者である事を自覚して10年。βテストのサービス初日である今日は、一端のゲーマーと自負している俺には待ち遠しかった。フルダイブ型のVRMMOはやはり、垂涎モノだった。
「〝リンク・スタート〟」
今日も今日とて、ゲームの中にのめり込むのだった。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE 結城 乃愛
「困ったな…」
いきなりではあるが──ボクには迷っている事がある。……それは〝明日奈をデスゲームに落とし込むかどうか〟である。……普通に考えたら、デスゲームになると知っているのだから明日奈の代わりにボクがナーヴギアを被るべきなのだろう。
(……でも、ねぇ…)
ちなみに、一応だがボクはβテスターである。遊び半分でβテスターの公募に応募したら、何と当選してしまった。……ボクは今でこそ女ではあるが、〝前世〟までは男だったので、多少ではあるが心が踊ってしまった。
閑話休題。
明日奈をデスゲームに参加させたくないなら、本サービス当日に睡眠薬入りの紅茶でも淹れてやれば良い。……もしそれを実行する時、明日奈に怪しまれないようにするために「ボク今、紅茶を勉強してるんだ。明日奈も飲んでみて」──と嘯いて、暇を見付けては明日奈に紅茶を淹れている。
……それで、実際に紅茶を淹れるのが趣味になってしまったのは蛇足である。
また閑話休題。
それでも、今の明日奈は見ていて辛い。反抗期がすでに前世で終了しているボクはまだしも、〝親に敷かれたレールの上を走っている〟──と、反抗期よろしくな思考回路の明日奈の今の状態は見ていて色々と辛い。お母さんの気持ちが判ってしまうのもまたもどかしかった。
……もう認めよう。ここ数年の家族関係で──〝神サマ〟から刷り込まれていたのかは判らないが、すっかり情も移ってしまった。……明日奈には視野を拡げて〝本物〟を見付けて欲しい。でも、デスゲームには巻き込みたくない。……そんな二律背反にも勝手に懊悩としていた。
「……取り敢えずはインしよう。〝リンク・スタート〟」
こうして〝問題の先送り(げんじつとうひ)〟をするしか無かった。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE 升田 和人
「……ふぅ、そろそろ夕飯だな」
ベッドから起き上がり、被っていたナーヴギアを脱ぐ。窓からはナーヴギアを被る前には見えていた陽光が消えていた。……時計の文字盤を見れば、短針が[7]と[8]の中間辺りを指していて、長針[5]を示していた。19時25分──夕飯の5分前である。
夕食を摂る為にリビングに行く。
―家族全員──はまず難しいから、朝食と夕飯は絶対兄弟3人で食べること―
それは真人兄ぃが俺に【ソードアート・オンライン】のβテストへの参加権をくれる時に約束した内容である。正直、この約束が無かったら飯を食わずにぶっ続けに──とはいかずとも幾らか疎かにしていた可能性が高い。
(……そこのところは真人兄ぃに感謝だな)
「どうしたの和兄ぃ?」
内心で真人兄ぃに感謝していたら勝手に顔に出ていたらしく、それに気付いた直葉──スグが俺に胡乱気に目を遣ってくる。テーブルに夕食は既に並べられていた。今夜は真人兄ぃ特製のシチューらしい。
矛盾しているが、真人兄ぃの料理は母さんとは違った〝お袋の味〟がして、俺は好きだったりする。俺は刺激の強い料理も好きなのだが、奇をてらっていない──〝見た目通り〟の味も、安心して食べられるから好きである。
閑話休題。
「直葉、中学の剣道部は馴れたか?」
「うーん…。……ぼちぼちだけど、どうにも、ねぇ…?」
「さすがの〝全国準優勝者サマ〟のお眼鏡には敵わなかったか?」
「真人兄ぃの高校はどうなのよ? ……それにしても、真人兄ぃモテるから、いい加減彼女の1人や2人──ううん、いっその事3人とか作っちゃえばいいのに…」
「おーおー、この妹サマは俺にハーレムを作れと云うのか? ……それに、直葉も俺がやってるのは〝剣術〟って事は知ってるだろ? 俺はルール有りきの〝剣道〟じゃあ、そこまでだよ」
「真人兄ぃが云う、その〝全国準優勝者サマ〟を〝そこまで〟の剣道で叩き潰しておいてよく言うよ。……あーあ、私もそろそろ〝剣術〟の方に移行しようかなぁ」
(さて、切り出すタイミングを逃したぞ…)
〝それ〟から逃げてしまった俺は剣道や武術の話になると、少々居づらくなってしまう。……しかし、ある意味では〝とある提案〟を企んでいる俺には〝この流れ〟は助かったとも云える。
「……おとなしく〝剣道〟で我慢してけ──っと、どうした? 和人」
「なぁ、スグに真人兄ぃ。二人に提案があるんだ」
「「???」」
「【SAO】のβテスターには〝製品版〟の優先購入権があるんだ。俺は〝製品版〟のソフトを3つ買おうと思ってる。……電脳の世界なら俺も剣を振れる──だから3人でやらないか?」
紆余曲折──もとい、〝【SAO】の良さの説明会〟は有ったが、2人は最終的に笑顔で頷いてくれた。
SIDE END
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