戦国異伝
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第二百二十二話 耳川の戦いその十
「あれの様にな」
「天下を照らされ」
「治めるのじゃ」
「そして都には」
「帝もおられる、ただのう」
「ただ、とは」
「帝のことから言うが」
ここでだ、信長は剣呑な顔にもなった。そのうえで語るのだった。
「御主は気付いておらぬな」
「帝、いえ朝廷に何かありますか」
「朝廷にも感じるといえば感じるのう」
「何をでしょうか」
「天下には日輪があるが」
信長の愛するそれがだ。
「しかしそれと共にじゃ」
「まだ何かありますか」
「闇もあると思うのじゃ」
「闇ですか」
「そうじゃ」
こう己の長子に話すのだった。
「何かのう」
「闇とは」
「何かおる様な気がしてならぬのじゃ」
「闇の中に」
「いや、闇がおってな」
そしてとだ、信長はさらに話した。
「それがよからぬ動きをしている様にな」
「父上は思われますか」
「おるな、世には」
信長はこうも言った。
「鬼や土蜘蛛が」
「あやかしですか」
「それも普通のあやかしでなくじゃ」
「闇の中のあやかしですか」
「そういうのがおるのではないのか」
「まさか、いや」
信忠は父の言葉を幾ら何でもと言おうとした、だが。
ここで彼は自分がこれまで読んだ書のことを思い出した、その中には古事記や日本書紀、それに今昔物語等もあった。
そうした書のことからだ、彼は言った。
「この世にいるのはどうも」
「そうじゃな」
「異形のものもいますな」
「化けものは見たことがないという言葉があるが」
「その化けものが」
「おるのではないのか」
こう言うのだ。
「そうも思う、思えばこれまでな」
「これまでの戦の中で」
「おかしなことが多々あった、勘十郎の傍にもおった」
「あの津々木という者ですな」
「あ奴はまだ見付かっておらぬ、室町幕府にもおった」
幕府にいた者達はというと。
「崇伝、そして天海といったな」
「崇伝は南禅寺の住職でしたな」
「義昭様が兵を起こした時に消えたわ」
すうっとだ、煙の様にだ。
「天海共々な」
「そして浅井家や本願寺にも」
「怪しい者達がおった」
「特に本願寺の時は」
「闇の服に旗の門徒達がおった」
「そう聞いていますが」
「しかし本願寺の色は灰色じゃ」
信長はこのことも言った。
「闇ではない」
「それがしもそれは聞いていますが」
「それでもじゃな」
「おかしいと思います」
灰色と闇では、というのだ。
「全く違います」
「そうじゃな、黒とも違っていた」
上杉家の色ともというのだ。
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