ランス ~another story~
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第2章 反逆の少女たち
第27話 元凶
そして、暫く飲んだ後。
「さて……と。向こうの方にも顔を出しに行くか。もう一度」
ユーリは、ジョッキの中のテキーラを、くっと飲みほすと立ち上がった。
向こうには四魔女の皆もいるし、酌み交わしたい者だっている。
……そう、15年以上前に再開した彼女とも話をしたいと思っているのだ。深い意味はきっと無いだろうけれど……。
「むにゃむにゃ~……、トマトは冒険にでるですかね~……そのとなりには~……むにゃ」
「ほらほら、トマトさん。こんな所で寝たら風邪をひきますよ」
カウンターに突っ伏して眠っているのはトマト。
突然起き上がったかと思えば、ユーリ達共々に再び飲酒を開始した彼女だったが、元々そこまで飲める口では無かったのだが、ユーリの御酌となれば断るどころか嬉しい限りだった為、飲みに飲んで今に至る。
「そう言えば真知子さん」
「はい?」
「ここに 優希はいないのか?」
ユーリは思い出しつつそう言っていた。
確かリーザスの3人と会った後、優希にも会ったのだ。真知子の情報屋でだ。だが、この場にい無いようだからそう聞いていた。
「ああ、彼女もリーザスでの情報屋業がありますし……、長くは滞在できないみたいで、呼び出しが入って帰ってしまいました。『また、会いに来てね? 私からも行く』とだけ、言付かってます」
「そうか。判った」
ユーリは頷き、理解した。
彼女は天真爛漫で、人気もあり且つ情報屋としても一流だ。その彼女が空けていたら情報屋としてはたまったものじゃないのだろう。
「ふぅ…… こっちも大体の連中が潰れてるなぁ……、ま ペース配分を考えなかった奴等だけだとは思うが。ん?」
ミリは辺りを見渡しつつそう言っていた。
この場は、潰れたものも多いが、まだ 飲んでいる者もいる。かなりの酒豪が他にもいたのか!?って思われるかもしれないが、こっちが異常なペースで飲んでいたからこうなったんだった。……ロゼはまだ飲んでいるので、そこは流石だと言えるだろう。
ロゼだけでは無く……、真知子、ミリもまだまだ余裕をかもし出している所をみると、トップと言っていた事も嘘ではなさそうだ。
「それで、ミリは ミルの所には行かないのか? 宴の初めにも思ったが」
「ん? ああ、ここの連中にもちっと手助けしてやらなきゃいけねえ 奴等がいるし、それに今日くらいは、あのコら4人水入らずにしてやりたいって思ってるからな」
ミリはそう言って笑っていた。
4人とは、カスタムの四魔女と呼ばれていた少女。今回の事件の首謀者とも呼ばれていた者達。
だが、それは事実とは違っていた。
彼女達も被害者であり、真の意味では囚われていたんだ。それが自由になって、今は喜びを分かち合っている。
「……妹の幸せな顔を見れるだけでオレは十分ってな」
「そうだな、家族、なんだから当然だ」
「なぁ、ユーリ」
ミリは、ユーリの傍に更に寄った。
「ちょっと、外で話さないか?」
「ああ、わかった」
ミリはユーリを連れて外へと抜けていった。彼女達に気づいた者は誰もいなかったのだった。
「なんだ? ミリ」
「いや、所々のアンタの言葉で気になったんだが ユーリ、お前にも何かあったのか?その、《家族》についてさ」
「………」
「ユーリはオレ達を助けてくれたんだ。オレでよければ話を聞く。勿論、言いたくなかったらそれでも良いがな」
「すまないな、気を使わせたようだ」
「何、お前さんから貰ったものの方が遥かにでかいんだ」
ミリは はっきりとそう答えた。
妹を救ってもらい、他の皆も救ってくれた。そして 町に光も戻してくれた。これ以上無い程にしてくれたんだから。
「家族か……、オレにも、いたんだ」
「《いた》か。……すまないね。嫌な事を聞いちまって」
「いや、別に死んだと言うわけじゃない。血は繋がっていないが 兄と慕ってくれた妹、娘とそして、オレを育ててくれた母親。……今は行方が判っていないと言うだけだ。オレが冒険者をやっている理由の1つが皆との再会だな」
「そうか……オレも祈ってるよ、アンタならきっと大丈夫だ。何て言ったって英雄だからね。……家族もきっと大丈夫だ」
「ああ、ありがとな ミリ。それに、オレが英雄か? ……なんか笑えるな」
「はは、だからお前は町1つ救ってるんだ、当然そうなるだろ? オレ達にとったら間違いなく英雄だよ」
ミリはそう言って再び笑った。この町の笑顔の数が、救った数なんだ。
「ふふ。有り難く受け取っておく。……じゃあ、オレは行くよ。あっちの方がどうなってるか気になるしな」
「お、そうか。わかった。妹や他の皆にも宜しくな」
「ああ」
ユーリはそう答えると、第一会場である町長の屋敷の方へと歩いていった。
あの男も大分飲んでいる筈なのに、足取りもしっかりしており、酔っているような姿は微塵も見せてはいないようだ。
「……こりゃ、酔わせてから一気に押し倒す……、てのは無理そうだな オレも負けるつもりは無いが、なんだか、アイツには勝てる気もしない」
ミリは頭を掻きつつそう呟いていた。
そして、思い浮かべるのは宴の数時間前にここを去って行った3人組の1人。
「う~む……、他人になら、いざ知らず、オレ自身がほれ薬に頼るのは、確かに主義に反するっちゃ反する。まぁ、他の奴らなら問題無いな。思い出を作ってやりたいとも思うんだよねぇ、ああ言う可愛い女の子をみたら」
女、男両方イける両刀のミリならではのセリフだろう。
確かに正攻法で行く事に越した事は無いが、世界屈指のガード職をものともしない様な鉄壁具合のユーリを見てしまったら、分が悪すぎる。
「童貞じゃないって言ってたが……、一体どういうヤツなんだ? アイツが抱いたヤツって」
ミリは最後までそこだけは判らなかった。
自分で言うのも何だが、カスタムの町の女達は皆美人に分類されるから。そして、あのリーザスから来たと言う3人組もそうだろう。
「ま、いつかは判るってね。オレは気楽に行くか。さて、次はどう せめるかねぇ」
背伸びを一つした後。ミリは再び酒場へと戻っていった。
~カスタムの町 第一宴会場≪町長の屋敷≫~
町長の屋敷で行われている宴。
こちらも、第二会場の酒場に負けずと劣らずの騒がしさだった。家の外にもその声は聞こえてくるのだから。
「さて……」
ユーリは、扉を開け中へと入っていく。ランス辺りに文句を言われるかな、と思ったがとりあえず いい気にさせれば大丈夫だろうとそのまま入っていった。
「が~~っはっはっは~~~!! あくぇrちゅいおp」
「あ、いやっ! ら、ランス様ぁ……」
「ちょっと! や、やめてよランス!! って、大丈夫なの??」
シィルとマリアの2人を相手に悪戯をしているランスがいた。
どうやら……、相当ハイになっているようだ。ハイどころの騒ぎじゃない。一言で言えば……異常だ
「……? シィルちゃんがいるから大丈夫だとは思っていたが……」
ユーリは首を傾げた。
酒の量から計算して、かなり薄めて長い間飲ませる。泥酔にならない程度に世話をしていた筈なのだが……と。
「あ、あぅぅ……、それが ランス様が別のお酒を飲んでしまって……」
シィルの視線先にあるボトルを目にするユーリ。
「………」
そのラベルに書かれている文字は、≪ヘルマド・スピリタス≫
……かなり有名な超濃度の濃い酒だ。極寒の地、ヘルマンで良く飲まれている≪ウォッカ≫よりも遥かに上回る度数の酒である。と言うか、ここまで来ると飲料水じゃなく危険物の分類になってしまうと思われる。……勿論火気厳禁である。
「いくらなんでも、オレでもこれを飲むのは勇気がいるぞ……、なんでまた、こんなキツいヤツを?」
「それが、チサさんがお酒を運んでいた所をランス様が呼び止めて、貰おうとして。……チサさんランス様にこのお酒はよした方がいい、と言ってしまって……」
「成程な、意地になって飲んでしまったと。……あんま強く無いヤツが飲んだら下手したら中毒になりかねんな」
「あ、は、はい! 私のせいなので、横になる為のベッドもご用意は出来てます。ヘパリゼーも用意してますので!」
「うむ~~……わ、ワシも何とかしてもらいたいのだが」
チサは慌ててそう答えつつ、水も用意していた。チサの父親、ガイゼルも飲みすぎのようで目を回しているようだったが……対した事はなさそうだ。チサが戻ってきてからずっと、べったりだったようだ。
「お父様ったら……、大丈夫ですよ」
チサはそう何度も言っていたのだった。そして、ランスはと言うと。
「◎△$♪×¥●&%#?!」
さっきも思ったのだが……、もう何を言っているのかさっぱり判らない。明らかにガイゼルよりも重症だったようだ。そのままシィルとチサの肩で支えられながら退場していった。
S●X!S△X!と連呼しているバチが当たったんだろうか?
「恐るべし……≪ヘルマド・スピリタス≫って所か」
ユーリは、ランスを見ながらそう言っていた。チサが持ってきたと言う酒の量はほんの僅かな量だ。一気に飲んでしまえば、有害だからだろう。そもそも、アレはストレートで飲むものじゃないから 何かで割るなりをする筈だが。
「そもそも、だ。……アレを頼んだのは、一体誰d「あはははっ!!」おぅっ!??」
突然、ユーリの背中に衝撃が走った。誰かが背中に抱きついてきたようだ。
「あははは、ゆーだっ! ゆーがいるっ!! あはははっ!!」
「し、志津香っ!?」
「ゆー、つ~かまえた~~っ! あははははっ!!」
背中に伝わるのは温かい感触。
ランスの様な感性とは少し違う。確かに、志津香の胸の感触は背中を通して伝わるが、それ以上に何処か暖かかった。
≪家族≫と思えた人との再会だから……だろうか?
「あ、あ~~、こら、志津香っ!」
「無茶苦茶に飲むからだよ……」
「わ、しづかが抱きついてる姿初めてみたっ!!」
志津香がここまで潰れるのも、誰かに抱きつくのも見た事無い面々。それは古い付き合いなのにも関わらずだから、驚いている様だ。
「成程……あの酒を頼んだのは志津香か」
ランやランスから解放されたマリア、そして興味津々に見ているミルが傍に寄ってきた。
酒を頼んだのは誰か?と思っていたユーリだったが、明らかに酔い方が他とは違う彼女と、さっき退場していったランスを見たらもう一目瞭然だ。
「あはははは、だめだも~ん! ゆーは、わたしのなのっ! わたしから、とっちゃだめなのー! あはははっ!!」
「……ユーリさん、短い時間で随分と親しくなったのですね?」
ランは何処か悲しそうな瞳で見ていたが……、背中から抱きつかれているユーリには見えないし、判らない。だからどうか? と言う訳でもないが、普通に返していた。
「酔っ払いなんて、どの町でも、どの国でも絡んでくる者はいるさ。それ、殆ど共通だろう? ほら、志津香、落ち着けって。マリア 水をあげてくれないか? 出来ればヘパリゼーとかもあれば明日に響かな……いか、どうか わからんか、コレほど強いやつだったら」
「う、うんっ!」
ユーリがそう言って落ち着かせようとするが、志津香が抱きしめる腕の力を緩めたりはしなかった。背中に頬刷りをしたり 緩急を付けて抱きしめたりと……。
「あはははっ!」
「志津香、お水だよ! ほら」
「ゆーが、ゆーがのませて~!! おみず、のませて~!」
マリアが水を持ってきたのだが、志津香の両手はユーリを抱きしめて離さない。……離したくないのだろうか、飲ませる様に要求していた。
「背中に抱きつかれてるんだぞ? どうやって、オレが飲ませるんだよ」
「ゆーは、はい! っていえばい~の!」
「んな無茶な……」
志津香の無茶な要求はとりあえず、スルーするが……、こうなってしまえば落ち着くまで解放されないだろう。
「と、とりあえず、座敷の間に移動しますか? 立っているの志津香だってユーリさんだって大変だと思いますから」
「そうだな。体力的には、オレは大丈夫だが……、そろそろ 周りの目が痛くなってきた」
志津香の酒乱振りはあまり見ないらしく、皆目を丸くしている。そして、誰かに抱きつくなんてこともこれまでには無かった事だ。……あの酒を飲んでしまったから、と言えば不思議じゃないと大多数は判断したようだが、背後から感じる3つの視線は違った。
「あは、らぶらぶなの~? 私とランスみたいにっ?」
「……ユーリさんと志津香が」
「本当に幸せそうな顔。こうなる前は、ラガール殺す!! とか、色々物騒な事言ってたのに」
「あははははは!! ラガールはわたしとゆーでころーすっ! ぶっころーーすっ!!」
笑いながら言う所ではないと思うような物騒なセリフを言う志津香。どうやら、マリアが言った言葉に反応したようだ。だが、ユーリもその思いは勿論自分も強く持っている。
だから、志津香のこの現状になってしまった訳が理解できた。
「自棄酒、と言うわけか。あの結果だったから仕方ないな。……だとしても、んな無茶なの飲ませるなって」
「わ、私は止めたんだけど、全く聞かなくって……、それに、プチ粘着地面も使われたりしたし」
「魔法使って足止めか。そこまでして飲みたかったのなら、志津香の自業自得だな」
笑いながら場所を移動した。
志津香が背中に張り付いたままだったが、とりあえず移動する事は出来ていた。ユーリを含めた5人は、座りこんだ。
志津香もユーリが座ったからか、首筋にぎゅっとしがみ付く。
「いくら酔っているから、って言ってもこれは流石に異常じゃない? 私にも ここまで絡んだりしなかったのに。 ユーリさんと志津香って知り合いだったりするの? それにユーリさんの事を《ゆー》って呼んでいる所を見てもそう思えるよ?」
マリアが疑問を口にしていた。
彼女の事は昔から良く知っているのだ。酒もここまで飲むことは無かったが 嗜む程度に少しなら飲んだ事はあるのだ。赤くさせて、明らかに酔っている雰囲気をかもし出していても……、ここまではありえなかった。
「ん。まぁな 昔 ちょっと色々あって」
「ええっ! って事はユーリさんと志津香って……生き別れてた恋人……?」
「おお~~」
ミルもそれを聞いて大興奮だ。
まだまだ子供とは言えそう言う色恋沙汰には興味があるのだろう。マリアは研究熱心で皆無のようだが……。
「いやいや、会ったのは一桁の歳の頃だぞ。となれば恋人とかは早すぎるだろう? 所謂、幼馴染みたいな感じだ。……その時に色々とあってな」
ユーリはそう言うと、それ以上は何も言わなかった。
志津香を知っている皆も、複雑な事情があるのだろうと、それ以上つっこんだ話はしなかった。だから、話を変えた。今判る事を言う。
「でも 志津香……なんだか幸せそうだよ? 色々と辛い事もあったのに」
「う、うん……そうね」
「夢見心地~! あれ? ほんとに寝てるかな?」
「……あはは、……zzz」
志津香は遂にダウン寸前のようだ。だが、まだ力を緩めてくれないが
「幸せそう……か、そうだな」
殆ど自分の頬に摺り寄せてくる志津香の頬。空いている右手で志津香の頭をゆっくりと撫でた。気持ち良いのか、ねこの様に口元を歪ませて喜んでいる。
……苦しみは自分よりある筈なのに、これだけの笑顔を見せてくれている事だけでユーリは嬉しかったのだ。
「……ゆーっ。zzz、もう……、おいて、いっちゃヤダから……zzz」
「あはは……志津香ったら、あまり色々言い過ぎると明日が大変よ? 明日になったら覚えてなさそうだけど」
「そうよね……、かなりの数の人が見てるんだから」
「ロゼや真知子さんがいないのが、せめてものs「きゃー、爆弾発言よー!! ユーリにまさかの恋人発覚!? しかも、それが志津香っ!? こりゃ酒が止まんないわね!」……」
「……いつの間にお前がここにいるんだ? ロゼ」
いつの間にか自然に輪に溶け込むように入って来ていたのが、自称シスターのロゼだった。唖然としていた面々。勿論、いるのはロゼだけではなくその後ろには真知子もおり、且つミリも着ている。
なんで?第二会場の方にいるはずなのメンバーが多数こっちに来ていたのだ。
ミリに関しては、つい数十分前に分かれた筈なのだが。
「いやー、私の中にある面白センサーがびんびんに働いてね? 最近では不発が続いていたけど、精度戻ってきたようで!」
「ロゼがそう言うらしくてな、オレも付き添いで来たんだ」
「私も同じです。ロゼさんのセンサーは頼りになるんですよ。色んな情報を仕入れる私としてもね?」
笑顔でそう言っているが……、『センサーってなんだ?』とつっこみたくなるユーリだった。
「それでそれで? びんびんになった、その股間を使うの? 志津香に? きゃー、志津香、処女なのに、寝ている間とか鬼畜よー(棒)」
「せ、セクハラですよぉ……ロゼさん」
ロゼはニヤニヤと笑いながら志津香とユーリを見ていた。そんな発言を聞いたランは顔を赤らめていた。
ランは、一番の変貌であり、洗脳される前と後のビフォアーアフターはまさに『なんと言うことでしょう!』と言うべき程のものだろう。妖艶な笑みも完全に消えており、初心な表情を見せているのだから。
「するか! それにんな、鬼畜な真似はランスだけで十分だろうに」
「え~? でも 志津香は待ってるんじゃないの~?」
「だから、そのノリ、ヤメロっての」
ユーリはそう答えつつ苦笑いをしていた。
その返答に一番嬉しそうだったのがランである。真知子とミリは全く動じずただただ笑っていた。
そして、次の日……と、時間移動(作者仕様)をしようとしたその時だ。
「う……ん…… ゆー……」
志津香が寝ぼけながらユーリの名前を再び呼んでいた。
「ん?」
その声にユーリが反応し志津香の顔を覗き込もうと見た瞬間だった。
志津香も顔をぐいっとユーリに近づけてた為……。
必然なのか、偶然なのか……2人は交わる事になった。その光景に絶叫するなり面白がるなり呆然とするなっていた。
~カスタムの町 第一宴会場≪町長の屋敷2F≫~
完全にイっちゃっていたランスだったのだが……。
ところがどっこい!チサが介抱してくれている最中に、匂いで目を覚ましたようだ。……冷静に考えれば、ランスは一口、舐めた程度くらいでしか飲んでいなく、チサが持ってきたヘパリゼーと水のおかげかもしれない。そして、美少女と言う匂いでランスは、大体復活したのだ。
「がははは! 目を覚ましたらそこには美女がいた! というわけでヤルぞ? チサちゃん!」
「あ……// はい。私も……そのつもりでしたので……出来る限りのお礼、私にさせてください」
「がはは! それじゃあ遠慮なくっ!」
何処にそんな元気があったのだろうか?
ランスは、解き放たれた野獣の様にチサをベッドに押倒して行為に及んだ。この姿を父親のガイゼルが見たら……冗談抜きでショック死をしそうだ。
「がはは! チサちゃんは名器だなぁ!」
「ああん……、ランス様っ……い、良いですっ……んっ!」
チサは、普段の彼女から考えたらまるで、別人の様に積極的だった。ランスは、そのまま合計で5回も発射したのだった。
そして、激しい行為の後……、まだベッドの上で火照った身体をランスに預けていた。
「がはは、中々グッドだったぞ?」
「は……はぃ。ランス様も凄かったです……」
「そーか、そーか。むむ、思い出してきたが志津香だけヤれてないな。むむむ……ま、今のオレ様は気分が良い。いずれ志津香の方が格好良いオレ様に惚れるに決まっているからな」
ランスは、根拠は無いが自信満々気味にそう言っていた。何回もチサとヤった為余裕があったのだろう。チサはそんなランスを見て微笑むと。
「……ねぇランス様、そのフィールの指輪をつけてみてもいいですか? その、とても綺麗ですので」
チサはランスにそう頼んでいた。
魔力を吸い上げ、4色の光が灯っている指輪を見て綺麗だと思ったのだろう。女の子であれば尚更だ。
ランスはそう思い。
「ん、まぁいいだろう。処女の魔法使いがつけると危険な代物だが、チサちゃんはどっちでもないからな。がはは」
「うふふ、ありがとう」
この時、一瞬だけチサの表情が変わっていた。ランスは見ていなかった為、気づかなかった。
……それが致命的な油断となる。
「やっぱり、綺麗だわ……こんな宝石欲しい。ふふっ」
初めて着ける筈なのに、チサはまるで指輪を使い慣れたかのような手つきで4つの指輪を指に填めていた。すると……
「ふ、ふふ……ランス、よくぞやってくれた。褒めてやるぞ」
声自体はチサのものだ。だが、雰囲気と口調が明らかに変わった。冷徹なものに。
「な、何!? うっ……! これは!」
突然一変したチサに驚き、立ち上がろうとしたランスだったが、出来なかった。身体が金縛りにあって動けないのだ。
「ふっふっふ……ついに完璧なフィールの指輪が私の元に揃った!」
チサの身体から青白い何かがまるで抜け出るように出てきたのだ。その姿を見てランスは悟った。
今話しているのが≪誰≫なのか。
「ラギシス!! お前か!」
「ふふ、すべて私の思惑通りだ。マリア、ミル、ラン、そして志津香……4人の魔力を吸収したフィールの指輪を無事に私のところに届けてくれるとはな……ははははは!!」
そう、それはこの事件の全ての元凶であるラギシスだった。ランスはその正体を知ると動けない身体の変わりに声を上げていた。
「てめぇ!! さてはチサちゃんが行方不明になった時に乗り移っていたんだな!?」
「そう、その通りだ。この娘の身体の中でこの時を待っていたのだ。ランス、お前には感謝しているぞ! ふはははは!」
チサから完全に離れたその幽体は、間違いなくその指に指輪を填めている。狂喜の表情と笑い声を上げると、指輪ごとラギシスの幽体は消え去っていった。
「くそっ! コケにしやがって!!」
ランスは、ラギシスが仕掛けた金縛りで動けず、ただただ叫びを上げるしかなかったのだった……。
~カスタムの町 町長の屋敷~
「ん……ん~……」
志津香はゆっくりと目を開けた。目に入ってくる光景に戸惑う。
なぜ、自分はここにいるのか?ここはどこなのか?
「いたっ……っぅ……」
その次に襲ってくるのは激しい頭痛だった。
昨日の出来事を知っている者なら当然だと言うだろう。それは二日酔い特有のモノ。それ以上に強烈な濃度の酒を飲んでいるから 普通の倍増しで痛いだろう。
「いったい何が……ん?」
志津香は昨日までの記憶を必至に揺り起こそうとしていたが、痛みのせいでそうはいかない。それよりも、違和感があったのだ。何やらふさふさしているモノが顎に感じる。まるで、草原にうつ伏せで眠っているように。
なんだろう……と、目をはっきりと開けてみると。
「………っ!?!?!?!?」
志津香の目の前にあったのは頭だった。誰のもの……と考えるまでも無く正体に気づく。
「ななな、なんで!?」
「ん……起きたのか」
在ったのはユーリの頭だった。両腕で頭を抱えるようにしていたようだ。
「何してるのよっ……痛っ!!」
「……理不尽だな。まあ、別に良いか。……起きたなら水を飲んでくればいい。大分マシになるだろう」
「っ~~~!!」
志津香は思わず飛び起きると、気分最悪痛み最悪な身体なのに、素早く部屋を後にしていた。ここは町長の屋敷なのだと言う事は、部屋を出た所で気が付いたようだ。座敷の間の外では簡易的な宿泊施設の様になっており、テーブルを並べて朝食をとっているメンバーも多々いた。
その中にはマリアもいる。
「あ、おはよう、志津香」
「おは、おはよう。いつっ……」
完全に動揺しきっている頭だったが、マリアの前だ。なるべく平静を保とうとするが、途端に痛みを思い出したかのように頭に響いてくる。
「大丈夫? 志津香。はい、お水」
「ありがと……、朝から変な状況になってるし、昨日の記憶全くないし、なんでアイツがいるのよ。そんなに飲んじゃったのかしら? まだ 酔ってる感じもする……」
「あはは……二日酔いは直ぐには治らないからねぇ……」
顔が赤くなっているのは酒のせいだ!と遠まわしに言っている志津香。
マリアはその仕草も当然判っているようで、苦笑いをしながら答えていた。志津香は聞かなければならない事がある。
「マリア、昨日の事教えてもらえるかしら?」
「ふぇっ!? と、突然どうしたの?」
「……なんで私の傍にアイツがいたのかが気になるの。アイツ、私に変な事しなかった?」
志津香は完全に昨日の記憶が頭からすっぽりと抜け落ちてしまっている為、勝手に決め付けるようにそう言っていたのだ。正直な所、『変な事をしたのは志津香だ!』と言いたかったマリアだが、後々が怖い為、口に出してはない。
「あ……ははは……、」
「なによ、その笑いは。本当に何があったの?」
「あ、志津香さん、大丈夫でしたか? 昨晩は随分とはしゃいで飲んでるみたいでしたが……あまり気にしない方が良いわよ」
「気にしない?」
「あ、あっちゃぁ……」
突然、まるでタイミングを計っていたかのように現れたのはエレナ。酒場と兼任で、こちらにも食料を運んできていたのだ。
「……説明してもらえる?」
「え、し、志津香?」
「……説明してもらえる!」
「お、落ち着いて!」
「説明して!!」
段々迫力を増していっている志津香のプレッシャーに負けてしまったマリア。エレナに耳打ちを軽くすると意に決したように自身の頬を両手で叩いた。エレナはと言うと、マリアに言われたからと言う事もあったが、その迫力にマリア同様に負けてしまったと言うのもあるだろう。
そそくさと立ち退き、座敷の間へと入っていった。
「えっとね。初めは皆と楽しく飲んでたの」
「それで?」
「やっぱり、お酒は楽しく飲まなきゃ損じゃない? いろいろあったし、皆無事だったし」
「それで?」
「あぅ~~……」
この威圧感はハンパじゃない。あの地獄の口のモンスターなんか、比じゃない程に。
ちゃんと昨日あった事を説明しないとここから帰してもらえないのは火を見るよりも明らかだった。
「いやーきのーは刺激的なもの見れたわねーミリ?(棒)」
「まぁそうだな。普段見れるもんじゃないぜ」
そんな時だった。
これまたタイミングを計ったかのように現れたのはミリとロゼ。ロゼに至っては殆ど棒読み。明らかに確信犯だろう。志津香に聞こえるように言っているのだから。
「……丁度良いわ。その≪刺激的なもの≫。説明してもらえるかしら?」
志津香は、ロゼが言っている時点で、嫌な予感はメチャクチャしているようだが、聞かずにはいられないようだった。その予感よりも……何も知らない自分の方が嫌なのだ。
「えー? 良いのかしら?」
「……良いわ」
ロゼの言葉には邪気がかなり孕んでいる。
まるで、パンドラの箱を開けてしまいそうな錯覚に見舞われていたが、志津香は頷いた。
「それじゃあ、話してあげますかね! 《実録! 志津香とユーリの淫乱一夜【あなたは私の物】》」
「~~~っ/// う、嘘つけぇ!!」
「ああ、そう言えば、志津香はユーリの事を≪ゆー≫って呼ぶんだな? その辺の経緯も後で教えてもらいたいな」
「!!!」
「ああ~……志津香、南無南無~~」
マリアは志津香の姿を見ながら両手を合わせていた。
この2人には誰も勝てないし、止められないだろう。カスタムの町で一番やばい2人に目を付けられてしまった時点で、勝てないのは決定事項だ。
志津香に至っては かつてユーリの事を≪ゆー≫と呼んでいた事実も知られているから、何処からが嘘で何処からが本当かわからなかった。
だから……、この後も真偽を確認する意味で色んな人に話を聞くハメになるのは別の話。
「もう、飲まない……絶対に!!」
「し、志津香……、あれは≪ヘルマド・スピリタス≫のせいだって」
「それでも飲まないわ!! 昨日の私は私じゃなかった!! そうよ! そうなのよ!!」
「って、そんなもん、酔っ払いなら周知だろう。態々言わなくたって」
「そーよ? 志津香ちゃん? そんな強く否定したら、疑っちゃうわよ~?」
「っ!!! こ、このっ! ほ、炎の!!」
「きゃあ! こんな所で止めて!!」
思わず魔法を撃ち放とうとする志津香をマリアが必至に止めていた。その騒動を遠目で見ていたのはユーリ。
「……助かったよ、エレナさん。あの場に出ていってたら酷い目に合ってた所だ」
「いえいえ、あ、私も気になった事があるんですが?」
「ん?」
エレナはニコニコと笑い、そして近づいてきて。
「昨日私は見てないんですが……ここで志津香さんと≪ちゅ~☆≫したのって本当ですか?」
「………さぁな? 昨日は、オレも酔っていたからなんとも」
ユーリは明後日の方向を見つつそう言っていた。
そもそも、志津香が目を覚ますほんの数分前に自身も目を覚ましているからまだ寝起き。若干だが、顔が赤くなっているのも判る。行為のせいで恥かしいのか、出来た事が嬉しいのか……そのどっちなのかは判らないが。
「ふふふ」
エレナは笑ってユーリを見ていた。
今の志津香とユーリは殆ど対照的な姿だった。慌てふたむく志津香と冷静に躱すユーリ。
それがやっぱり面白くてエレナは笑っていた。
~カスタムの町 中央広場~
ユーリは、志津香がいなくなったのを見計らって外へと出ていた。自身も飲んでいる為、外の空気を吸いたかったのだ。
「ん……。あれくらいで初心な姿を見せられるかっての」
ユーリは人差し指と中指で上唇、下唇にそっと触れていた。
確かに酔っていたが 志津香の感触はまだ残っているような気がする。強烈な酒の匂いのせいでムードは最悪だろうが、それでよかったと思えるのだ。
「さて……、一通りの挨拶をした後 そろそろ帰り支度でも」
「………」
ユーリの背後から異様な殺気に似た気配を感じた。
ここは町中なのに、まるでジャングルの中。獰猛な獣に狙われてるような……気配が。
「お、おはよう。と言っても2度目だがな」
「……」
いたのは志津香。
志津香は、メチャクチャ震えている。恥ずかしさから来ているのだろうか。
「おい、大丈夫か? 志津…ッ!!」
突然まるで瞬間移動したかのように志津香は接近をしてきた。その赤面させた顔をめいいっぱい近づけると、胸倉を掴む。
「昨日の事! 絶対に忘れる事、いや封印! 生涯封印する事! 判った!?」
「……散々な目に合ったみたいだな?」
「うるさいわよ!!」
志津香はユーリの脛にけりを入れていた。
まだ若干眠たい朝からこの一撃は益々目が覚めるというものだ。
「あ~ら、いちゃいちゃしちゃって。羨ましいわ~」
「ふふ」
「ん? 真知子は構わないの? 取られちゃうわよ?」
「ええ、私は、どのポジションでも構わないので」
「あ~成程。それもありってね?でも、志津香が相手だったら紛争が起きそうね」
「ん~。内緒に秘密裏、手はいくらでもありますから」
「AL教のシスターとして、その行為を認めます! 生涯を尽くして、彼に迫ること。また、私に面白い光景を見せる事!」
遠目で見ていたロゼと真知子は楽しそうにユーリ達を見ているのだった。その光景は、平和そのもの。町が地面に沈んでしまったあの時には考えられなかった光景だ。
だが、その平和な町の姿も直ぐに陰ることになるのだった。
「あ、み、みなさん! ここにいらしたのですか!?」
慌てて真知子やロゼ、そしてユーリ達の方にも入っていったのはシィルだった。普通なら、雰囲気から察するものだが、それどころでは無い様子なのだ。
つまり、それだけの事態が起きたと言うこと。
「し、シィルちゃんか、丁度良かった……」
「何が丁度良いって言うのよ!」
「あ、あのっ! き、きてください。た、大変な事になってしまって……」
シィルは早口でそういった。肩で息をし、汗も流している。志津香もそのシィルの姿を見たら、冷静にならなきゃならないと思ったようだ。
シィルに連れられて、再び町長の屋敷の方へと戻っていった。
~カスタムの町 町長の屋敷前~
そこで待っていたのはランス。
何事かと説明を受けた時。皆、事の重大性が理解できた。
「ななな、なんですって!! 指輪をラギシスに!?」
「ランスのバカ!! バカバカ!!」
「そんな……」
「どーしてくれるのよーーーっ!!」
ラギシスに指輪を奪われた経緯をランスが説明すると、四魔女全員が唖然、そして怒っていた。ミルや志津香に至ってはランスに噛み付いている。
「やられたな。……チサちゃんの時、もっと考えておくべきだった」
ユーリは、あの時の不自然さを思い返し悔いていた。
チサを攫った手段がこれまで魔女がしていたモノとは違う時点で怪しむべきだったんだ。そして、ラギシス邸にいた事実とロゼが話しかけた時に気絶したという事実。それを考えたら、結論が出そうだった筈なのだが。
「気が緩んでいた。……オレの失態だ」
ユーリはそれを認めていた。
彼女に会えた事実、そして真実を知った事。それらが完全にラギシスの事を頭から消し去っていたのだ。
「いて! コラ噛み付くな! それに、そんな怒るなよ。別に害があったわけじゃなし……」
「ランス! アンタは判ってない、あのフィールの指輪は私達4人の……違う、それ以前から40人の女の子の魔力と悲しみを吸収して成長してるのよ! そんな物をラギシスに渡すなんて!」
「オレ様が渡したんじゃない! チサちゃんに取り憑いていたアイツが悪いのだ!」
「アンタが軽率なのよ! それに、あの指輪を利用する者がいる限り私達は勿論、今までに吸収された女の子達も救われないわ」
「そんな、大層な。……それにお前ら皆ここでピンピンしてるだろうが」
「だから、そう言う問題じゃないのよ! マリア、ラン、ミル! 行くわよ、今度こそ、ラギシスを倒しに!」
志津香は、皆にそう言うがユーリがそれをとめる。
「少しだけ、まて」
「止めないで! ユーリ! アレがある限り私達は……」
「違う。まずは すべき事が他にもあるだろ?」
ユーリがそう言うと、隣でいたミリも頷いた。
「そのとんでもない魔力を持ったジジィがどっかにいるんだろう? そんな危険物の存在を伝えねえで、行ったら町も、住民も危ないだろう。まずは事情の説明、そして避難をしてもらうのが先決だ」
「あ……そうね」
志津香もミリの説明を聞いて頭が冷えてきたようだ。マリアとミルも同様で、ミルはランスの腕から手を離した。
「だが、パニックになっても二次災害が起きかねないな」
「その点は大丈夫です」
ランが横から口を挟んだ。
感情的になっているのは主に志津香、マリア、ミルの三人であり ランはしっかりとまわりの事にも気にかけているのだ。
「チサちゃんの1件で、ガイゼル町長は酷く塞ぎこんでしまいましたが、町への情報についてはなるべくオブラートに包んで発信してもらうようにと指示を出してました。表向きは結界の関係でまだ不安定な可能性が否定できないと言う名目で、一箇所に集まるにと」
「チサちゃんの一件?」
「がははは!」
ユーリはその一件だけが良くわかってなかったが……、ランスの笑い声が聞こえてきた時点ではっきりと理解した。
どうやら、チサがヤられた事実をガイゼル町長が知ってしまったようなのだ。それで、ずしっと精神的に来たのだろう。
「やれやれ……、だが、迅速な対応はしてくれているようだ」
「だな。普段が普段なんだが、こう言う時は頼りになるみたいだ」
親バカな面は町の住人なら皆が知っているようなのだ。
だが、真に評価される所は如何に町長として町の為に出来るか、危機を回避出来るかである。つまりは、この迅速な対応を考えたら間違いなく優秀な町長である事は疑う余地が無いだろう。
「そして、状況を見て避難させる手筈も整えてます。役場の人間にも話し、可能であればリーザスと連絡を取れればと。あの魔力ですから国の脅威になると思われると伝えようかと」
「成程、良い手だ。リーザスならランスの名を出せばフリーパスみたいなものだからな。必要最低限はして貰えるだろう」
「おいコラ! オレ様をダシに使うんじゃない!」
普段ならそう言うことはしたくないユーリだったが今は状況が状況だ。躊躇する時間ですら惜しいのだから。
「これだけ整えてくれているのなら町は大丈夫だな。後は オレ達が勝つだけだ」
「ユーリさんっ!?」
ランが驚くような表情でこちらを見ていた。
「で、でも、ユーリさんは……」
「オレには、関係が無いとでも?」
「い、いえ……」
ランはそう言おうとしていた。
ただでさえ、操られていた自分達を解放し、町を救ってくれたのに、これ以上ない危機にまで付き合わせるのは、抵抗があったのだ。
「逃げる選択肢は無い。……折角救ったんだぞ? なのに、帰った後に全滅しましたじゃ、後味悪すぎるだろう?」
ユーリはそう言って笑っていた。
その言葉に四魔女の皆が笑顔になる。志津香も嬉しそうにするが、頬を軽く膨らませると。
「簡単に負けるなんて思わないでよ」
「思っちゃいないさ。……」
ユーリは軽く志津香に耳打ちをした。
「っっ! ……ええ そうね」
「なになに?? なに言ってもらえたの?? 志津香!?」
マリアが興味津々に聞くが、今はそれ所じゃないだろう。
「くだらないこと言ってないで、早く行くわよ! アイツの魔力なら感知できるんだから! 行くわよ? 皆」
志津香が真剣にそう言うと、流石のマリアも押し黙って頷いた。ミルもランも強く頷いた。もう一度引導をあの男に渡す為に。
「おいおい、オレを置いてくのか? ありえねえよ。妹だけをそんな危ない所に行かすなんてさ? 折角助ける事が出来たんだ。オレも共にいく」
「ミリさんも……ありがとう」
「お姉ちゃん!」
マリアとランは感謝をいい、そして頼りになる姉が着てくれることにミルは喜んでいるようだった。
「あー、この流れでオレ様も行く! って言う感じになると思ってるかも知れんが、オレ様は行かんぞ。オレ様の仕事は四魔女の退治と町の解放だ。後は知らん」
「……で、でも」
「それによく考えても見ろ、殺す殺すと言ってるが、相手は40人分の魔力を持った相手だろう? しかもお前達の分も吸われている。つまり、お前達+40人分の力を持ってるって訳だ。んなヤツにお前達が勝てるわけ無いだろ。多少は強いユーリがいたとしても結果は見るも無残だ」
「アンタも勝手に決めるな!!」
志津香はそう言って憤怒をあらわにした。
だが、ランスの評価は間違ってはいない。正にその通りなのだ。この場で魔力を殆ど吸われていないのは志津香だけなのだ。マリアに至っては魔法を使えなくなるまで吸われている。
状況はちゃんと理解している。だが、それでも。
「逆に付いて行くじゃなく、止めた方がいいんじゃないか? ユーリ」
「いや、確かにランスの言うとおり。最もだ。だが、ラギシスには何処か思うところが在ってな。……野放しには出来ない。それに、厳しい戦いになるとは思うが、今ならまだ完全に使いこなせてないだう。叩くなら今だ」
ユーリは首を振った。
そして決してランスに強制をしたりはしない。
「ランスの判断も間違ってはいない。状況判断と分析は間違いなく冒険者にとっては必須の技能だからな。それにこれは仕事じゃない。命をかけてまでする事じゃないだろう」
ユーリがそう言うと、ランスはふんっとはき捨てると後ろを向いていた。
「皆さん……どうかお気をつけて」
町長の屋敷から出てきていた真知子もそう言う。これは今回最大の戦いになるだろうからだ。
「ああ。町へと情報発信と状況判断は真知子さんに任せれば大丈夫そうだ。こっちは任せたよ」
「判りました。……私は信じてますから」
真知子はそう一言だけを伝えた。
ユーリを、四魔女の皆を信じている。だから、避難はする必要なんかないと。
「ふん。オレ様は忠告したからな。おいシィル、帰り支度だ。アイスの町に戻るぞ」
「……はい」
シィルは、悲しそうな表情をしていた。シィル自身は皆に、ユーリに協力したいと考えているのだ町の皆とは今回の事で仲良くなれた。それにユーリに関しては何度も何度も助けられているという経緯もあるんだ。
だが、それでも……絶対服従魔法がかけられている為、ランスの意見には逆らえないのだ。かけられていなかったとしても、ランスと意見を違えたくない。
だから、従うしかないのだ。
「大丈夫だ。シィルちゃん、また会おう」
「私達もね? 今までありがとう。ランスもシィルちゃんも」
それが最後の一言だった。
それ以上は何も言わずに皆は志津香の後に付いていった。
「ふん。………」
「………」
残されたのはランスとシィルの2人だけ。沈黙だけが辺りを支配していた。
後書き
〜アイテム紹介〜
□ テキーラ (ゲスト)
ヘルマン産の酒の名前であり、リュウゼツランと呼ばれる植物から造られる酒で濃度もそれなりには高い。ユーリが好んで飲む酒の1つでもある。
勿論、名前は現実世界「テキーラ」より
□ ヘルマド・スピリタス(半オリ)
ヘルマン産の酒の名前であり、ルドラサウム大陸最強の濃度を誇る酒。それは口の中に入れた途端に蒸気に変ってしまうほどの濃度であるから、殆ど危険物。飲む際にはタバコは絶対に止めておこう。
名前は現実世界「スピリタス」より
□ ヘパリゼー (半オリ)
飲んだ酒を肝臓にて、分解し且つ滋養強壮作用もある、飲みやすいパイン風味で飲みやすい為、飲酒後には広い地域で飲まれ親しまれている。
名前は 現実世界「ヘパリーゼ」より
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