ランス ~another story~
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第2章 反逆の少女たち
第25話 魔想志津香
~GI1001 ???? ~
これは、昔の話。
『ゆーっ! まって、まってたら~!』
『あはは、はいはい。ほら』
『ぶ~……まって、っていったのに! それに はい、はいっかい!』
そこでは、楽しそうに遊ぶ子供達がいた。
前をいく男の子、その子に必至についていこうとする女の子。まるで兄妹のように仲が良い2人だった。
『ふふ……、本当に仲が良いわね? 兄妹みたいよ』
『親としては、ややショックだよ……、私達のコトより、彼の名前を先に呼んだんだからさ……』
『あぅ……、そ、それはごめんなさいとしか……』
『あはは、気にしないでいいわ、リ●ーナさん。単なる親バカだし? 娘を持つ親って言うのは共通だから』
そして、その子供を温かい目で見ている3人の大人達。
口では、ショックだと言っているのだが、その目は優しく穏やかだ。あんなに早くに懐くとは思ってもいなかった。誰に似たのか、気が強い性格になってしまっているようで、赤子なのに涙すら殆ど流さず、今に関しては言葉も、カタコトだが発している。1,2歳ほどの子供がだ。
『う~む……、私達の娘は天才じゃないのか? 確かに●ー●君も幼子だ、凄い賢い子だと会った当初から思っていた。でも 娘の方が…… 歳を考えたら……』
『それが親バカだ、って言うんですよ? あなた?』
『うっ……』
『ふふふ……』
グサっと図星をさされてしまう。
楽しそうなのは、子供達だけじゃなさそうだ。だが、その内の1人は神妙な顔つきをしていた。
『……本当に、ありがとうございます。得体の知れない私達を助けていただいて』
すっと頭を下げていた。この事も何度も何度も合った事なのだ。だから、いつも笑顔になって。
『も~、何度目かしら? 大丈夫だって言ってるでしょ? 困ったときはお互い様ですから』
『そうだよ。それに、私はその人の目をみたらどんな人か良くわかるんだ』
『め~??』
『おお、●ー●君。そうだよ』
いつの間にか、傍に寄ってきていた《●ー●》を抱え上げた。目線を自身に合わせて、覗き込むように見つめる。
『目が澄んでいるかどうか、それがその人の本質を示していると私は思ってるんだ。いくら、酷いコトをする人でも、たとえ良いコトをする人でも、……その目の光の奥底に真実を持ってるんだ。行動が酷くても、目が澄んでいる人は そうせざるを得ない、自分自身も悲しいと、心の奥では考えているって思う、 逆に幾ら口の良い事を言ってても、目が濁っているのなら、何かいけない事を考えているって思うんだ』
『ん~~???』
『あなた……難しいコトを言うものじゃないでしょ? まだ、3歳なんですから』
『はは、そうだったな。だが、コレだけは覚えた方が良いぞ』
『おぼえたほうが~~?』
すっと、表情が一段階変わった。
幼い彼でもわかる。本当に優しい人がする目だって。
『……話をするときは 目を見て、話そう。自分の思いを伝えよう。そうしたら、きっと、きっと伝わるから』
『うんっ! め、みておはなしするよっ!』
『わーん、ゆーを、とっちゃダメなのーー!』
『はは、はいはい』
●ー●をゆっくりと降ろすと、その手を むんず!! っと掴む幼い少女。笑顔になって、少年は少女の目を見た。
『ぶーー!』
『あはっ』
なんだか、からかわれているのか?と思った少女。ふてくされている様な表情をするが、目は変わらない。あの抱かかえてくれたひとと、なんら変わらない澄んだ瞳なんだ。
『ゆーは、わたしのなのーっ!』
『え~ ぼくは、ものじゃないもーん!』
『わー、まってよ~~!!』
逃げる様に走っていく男の子、そして その背中を見失わない様に、とて、とて、と走っていく2人。
『早い段階でお婿さんが、出来ちゃったわね?』
『なな、なにっ! そ、それはいくらなんでも早すぎる!』
『あはは、冗談冗談、でも な~んか子供にしてはとてもませてるじゃない? ……大きくなるのが今からでも楽しみ』
『ええ……、そうですね』
楽しそうに言っている夫婦。そして、もう1人の女性は、目を細めた。
面影は……かつて自分が愛したあの人に似ている。そして優しさもきっと似ている男の子。
『……あの人が命を賭けて守ってくれた大切な命。……幸せになって欲しい。いや、幸せにしないと。運命に抗ってでも』
消え入りそうな言葉を呟く。その言葉は誰も聞いていない彼女だけのものだった。
~????~
装置を発動させた。
その時、まるでこの世界に生まれてくるかのような錯覚に見舞われていた。闇から光へと生まれてくる感覚だ。あれが、時を超える時に生じるものなのだろうか……?
「……此処は」
ユーリが降り立った場所、そこは荒れた荒野だった。周囲に街らしい街も無く、建物も無い。
なぜ、こんな場所にいるのだろうか。
「あの装置は、時間移動だけじゃなく空間移動も出来ると言う事なのか」
ユーリはそう納得していた。この場所がカスタムであるとは思えない。時間移動だけならば、空間座標はそのままに過去に飛ぶと思われるからだ。そして、思考を凝らしていたその時だ。
「……誰、貴方」
突如、声が聞こえてきた。何処か懐かしい声だった。なぜだろう、ユーリは身体が中々動かなかったんだ
「………」
ゆっくり、ゆっくりと声がした方に視線を移すユーリ。
視界に飛び込んできたのは、緑色の美しい長い髪の少女。そう、何度も何度もあの光景の中で出てきた人。
「………」
その少女も、同様に困惑していた。
何故だろう、と。
誰?と呼んだ筈なのに、その少女も言葉を失ってしまったように 黙って目を見ていた。驚いている自分に気がつくのにすら時間がかかってしまっていた。言葉を失ってしまっていたのは男の方も同じだった。
「………っ」
「あなたは、あなたは……」
2人はやっと、声を搾り出す事ができたようだ。
少女の名は四魔女の最後の一角であり、リーダーの《魔想志津香》
過去に戻り、ある人を 助け出す為にこの場所へ降りたった少女。
今日はずっと胸騒ぎがしていた。
何故だかわからない。今朝から感じていた胸騒ぎ。その正体が目の前の男だと、直感していた。自分はこの男の事を知っている。話しかけたその時から何処かわかっていたのかもしれない。
そう、幼き日にあっている人。
「……ゆー?」
「……しづか」
互いに呼び名を呼び合う。間違いなかった。幼い頃に出会い、そして少しの期間だけど共に暮らしていた少年。もう、色褪せてしまってもおかしくない過去の幼い頃の記憶だけど、その姿には面影があったのだ。
志津香は、困惑をしながらも続けた。
「ゆー……なの? なんで、なんで、ここに?そんな、ありえない。だって、この場所は」
志津香は慌ててしまっていた。
目の前の男があの頃の人なのは理解した。幼い頃、母と父の愛情を貰い、何一つ不満の無かったあの唯一の幸せだった頃に出会った男の子が今前に立っているのはわかった。
だけど、今その姿でいるのはありえない。
「す、すまない。混乱させてしまったようだな」
ユーリも頭を軽く振り、両手を挙げた。混乱しているのは自分自身も同じだから、改めて事情を説明しようとした時だ。
「っ! 炎の矢っ!!」
「なっ!?」
突然、志津香は魔法を撃ち放ってきた。
慌てて、ユーリは攻撃を受け止めた。初級の魔法だった為、威力はさほど無い様だ。確かに混乱しているのはわかる。だが、それでもいきなり攻撃をしてくるのか?と思えた。
志津香の手を離れた炎の矢は、ユーリに当たる事無く、横の壁に直撃し 消え去った。そして、炎が消え去ると同時に、志津香は口を開いた。
「……アンタが、あの時の《ゆー》なのは 間違いないみたい、ね。……正直 信じられないけど。でも、ここにその姿でいるのだけは、ありえないわ。つまり、アンタも私と同じ。……時を超えたって事」
「……その通りだ」
「そして、アンタは冒険者風の身形。今回、マリア達がやられた。……それもアンタがしたって事」
「オレだけではないが、確かに、間違いない。……が、表現が随分と野蛮だ。彼女達は元気だぞ」
志津香は震えていた。
自分がなぜ、攻撃したのか、その根源はあの幼い頃、父と母が行方知れずになり、そんな時に自分を放って消えてしまったあの少年に対して怒っている気持ちもウエイトを締めているのだろう。
志津香はその思いを無意識に一蹴して、認めずに 先ほどの攻撃を撃ちはなっていたのだ。
「そう、……つまりは、アンタは私の敵って事ね」
志津香は表情を強張らせ、そして視線を鋭くさせた。
その目をユーリははっきりと見た。……その瞳の奥は澄んでいる。あの時、惣造が言った通りだ。志津香はそんな事を考えたくないと、攻撃をしたいと思っていないとわかったのだ。
目があれだけ澄んでいるのだ。……悪い魔女にはどうしても見えない。 幾ら思い出と言う補正が掛かっていたとしても、だ。
「……依頼の内容的にはそうだ。だが、真実は違う。オレは志津香、……君を助けに来た」
「助け? 私がここで何をしようとしているのか、知っているって言うの?」
志津香は声を強めながらそう言う。
ユーリはそんな彼女にゆっくりと近づいていった。
「来ないで!」
志津香は、ユーリが近づいた瞬間に、両手に魔力を集めた。
威嚇をしようとする彼女だったが、それでもユーリは歩きを止めなかった。志津香も、もう一度撃とうとするのだが、今度はどうしても出来なかった。
溜まった魔力が、自分の手から離れないのだ。
「この世界で何をしようとしているのか、それは憶測に過ぎないが、判る。……オレ自身、認めたくは無いけれど、な。 ……ただ、それでも、オレは志津香を止めに来た」
「なんですって……? 私を止める?」
志津香の表情が鋭くなっていく。助ける=止める は有り得ないからだ。今、本懐を遂げ様としているのに、それを止められてしまっては全てが水の泡だ。
その表情を読んだのか、ユーリは続けた。
「……オレは、その先で、……ここから先で、志津香が悲しむのが判っているからだ。だから」
「何を言うのよ! 今日この日に私の悲願が達成する事が出来るのよ! アイツを殺してお父様を、お母様を救う為の!」
「っ……!」
ユーリは、何処か自分の中でも答えが出ていた筈の事を志津香に言葉にされた事で言葉を失ってしまっていた。
過去を変えたいと言う想いを持つ者は、大小必ずいるだろう。
そして、その中でも最も可能性があるのが、≪死≫の回避だと思っていた。
町を犠牲にしてでも、町の女の子達を攫ってでも、達したい思いの根源が。
そして、自分自身の記憶。あの記憶の世界での彼女は笑顔だった。……家族に囲まれていたからだ。だから……。
「……本当は聞きたくなかった。やっぱり、惣造さんとアスマーゼさんは……」
「……そうよ。確か、アンタも世話になってたよね? もう、あまり覚えてないけれど、私は父と母を救う為にこの場所に来た。何に変えても、守ってみせる。 ……だから、邪魔をしないで貰える?」
志津香もゆっくりと両手を下ろし、攻撃態勢を解いた。ユーリの表情が悲しみで彩られていたのが判ったからだ。自分と同じ様に。
だけど、ユーリは首を横に振る。
「……この先に待っているのが何か、志津香は、本当に判っているのか?」
「……何を? ……ッ!! 隠れて!!」
気配を察し、姿を見た志津香は素早くユーリの手を引いて、岩陰へと向かった。
志津香は、思うまい、考えまいとおもっていたが、この時の手の感触は覚えていた。
幼い頃のあの時のままだと。……あの頃と変わらない温かい感触だと。
荒野の先に見えたのは2つの影。
ゆっくりとこちらへ向かって歩いてきていた。どうやら、話ながら歩いてきている為、自分達には気がつかなかったようだ。それが幸いした。
「……アス、マーゼさん、惣造さん」
ユーリも、2人の姿を見た瞬間に、言葉を失ってしまっていた。この先に何があるのか、何が待っているのかを、判っているのに、全ては《虚無》だと言うのに、それを志津香に伝えることも忘れてしまった。
「お父様……お母様……」
志津香自身も、さっきユーリに言われた言葉を忘れ、両親を魅入っていた。
幼い頃に亡くなってしまった為 その姿は記憶の底、深淵におき去られてしまいそうになっていたが、この時鮮明に思い出したのだ。涙が絶えず流れ続けてしまう。そのせいで両親の顔が見れない。
それでも、流れでる涙をとめる事が出来ないでいた。
「……サーナさんが胸騒ぎがすると言っていたが、何かあるのかな? でも、彼女の勘は良く当たるから」
「そう、よね。……確かに今更彼と会うのには少し怖い思いもあるわ。でも、もう随分昔の事、あの方の、ミステリア様の魔導塾以来ですから、今回誠意を持って打ち解けあえれば蟠りもなくなると」
魔想夫妻はゆっくりとこちらへ歩いてきていた。
ユーリはその言葉を聞いて少し驚いていた。
「……ミステリア・トー。稀代の大魔女の元で魔法を学んでいたのか」
「彼女の元で私も学んでいたわ。……そこで今回の真相を知ったの」
志津香はそう答える。
彼女もミステリアの弟子だったようだ。
「……そう、か」
「……? 何見てるのよ?」
ユーリは、志津香が話をした後、彼女の横顔をじっと見てしまっていた。その視線に気づいた志津香も、両親から一時目を離しユーリを見た。
「……あの頃と、変わってないって思ってな。志津香は……」
「……っ!!」
その瞬間、ユーリの表情が綻んだ。澄んだ瞳、そして 柔らかい笑み。……何より さっき感じた温もり。志津香は一瞬だけ、パニックになりかけたが。
「ふんっ!!」
反射的に足の爪先を踏み抜いた。
「いっ!!」
「見てんじゃないわよ!」
志津香は、踏み抜いた後視線をそらせる。そして、思いを、口にした。
「……私をずっと、ずっと、ほっといた癖に……今、更……」
最後に呟いたその言葉、痛みに堪えるユーリには伝わっていなかった。両親に会えた事も勿論嬉しかった。涙なんか、もうずっと枯れていた筈なのに、それを忘れて流していた。
でも……ユーリと再開出来たこともそれに負けないくらい。
彼女は心の奥底では嬉しかったのだ。
あの日の少年が、こんな形で再び出会えた。……出会った切欠は、複雑なものだったけれど、それでも。
志津香は、暫くユーリの方を見ることが出来なくなってしまっていた。
~LP0001 志津香の屋敷~
ランス達は、見事?ラルガとの勝負に勝ち、志津香の屋敷の鍵を取り戻すことが出来ていた。
「がはは、所詮サッキュバスとは言ってもオレ様の敵では無かった様だな!」
「でも、よかったですね? ラルガのねこが媚薬を持っていてくれて」
「む? あんなモン無くたってオレ様は勝っていたぞ! 最初に負けたのはわざとだわざと、ふふふ、わざと勝ちを譲って花を持たせてやり、そして次に完膚なきまでに叩き潰すのがオレ様っ!」
「え、そうでしたか?」
「てい!」
「ひんひん……痛いです、ランス様……」
そう、ランスは何故か勝ち誇っているようだが、実際は初戦はあっという間にやられてしまった。
だが、次戦で赤の媚薬と言う薬をラルガに使用する事でH対決は勝つ事が出来たのだ。
勿論、その薬の情報はあのシィルフィードである。
彼も、それを使っていれば或いは……だったのだが、彼は、ラルガのねこに勝てなかった為 媚薬を手に入れる事が出来なかったのはまた別の話である。
「がはは! だが、ラルガのヤツは女の喜び久々に知ったと言っておったぞ? いやぁ、良いことをするのは気持ちが良いものだな? これだから正義の味方は辞められん」
「あのひとは、特別だったのでは? 普段は滅多に……」
「うるさい!」
「ひんひん……」
そう、ランスが言うように、今回はちょっと特別なのである。
元々Hと言う行為が好きな女の子は別として、ランスにヤられた女は最初こそは嫌悪感をだすのだが、ラルガは男とのH達する事が出来た為ある意味では悦んでいたのだった。
「それよりも、志津香だ! ええぃ、ユーリの奴め、志津香の処女に手を出してないだろうな!!」
「……ユーリさんに限ってそんな」
ランスはずかずかと、志津香の屋敷を突き進んで行く。
その後ろでシィルが付いていくが、ランスが言うような状況になるとはとてもじゃないが思えないのだ。そして、ユーリのいない布陣だったが、屋敷内の敵、風の戦士やメイド達を倒しながら、仕掛けを解いていったのだった。
~????????~
場面は過去の世界。
ユーリが足の激痛に必至に耐えていた後の事。
「それにしても遅いな。時間は間違っていない筈だが……」
「そうよね?あまり遅くなったら彼女にも心配かけちゃう」
惣造は懐中時計を手に時間を確認していたその時だ。突然、地面に亀裂が生まれたのだ
「な、なんだ!?」
その突然の天災にも似た現象に驚いていたその瞬間。
「っっ!! アスマーゼっ!!」
「あなたっ!!」
反射的に、惣造はアスマーゼを突き飛ばしていた。足元の亀裂より現れたのは雷撃のトラップ。一瞬にして身体の自由を奪い、雷で身体を貫かれたのだ。
「ぐああああっっ!?」
頭から爪先にまで迸る電撃。身動きが全くとれず、そして雷撃も止まない。そのまま地獄の苦しみが続いた。
「はははは!! 無様だな? 惣造よ!」
「っっ!! ああっ!!」
アスマーゼは目を見開いた。
突然、目の前に現れた男こそが今回自分達をここへ呼びだした本人だったのだから。そして、その瞬間 志津香は弾かれたように動いた。
「っ!! そこまでよ! ラガール!! お父様は殺させない!!」
息を潜めていた間、もう魔法の詠唱は終わっていた。手を翳すと、見る見る内に炎が生まれ、小さく凝縮される。
それは、全てを貫く炎の一撃。
「ファイヤーレーザー!!」
志津香がそう唱え、炎が迫っていったその時だ。
「惣造さん、アスマーゼさん!! 光の槍!!」
逆方向から、別の魔法が迸ってきたのだ。その一撃は、ラガールの背中に直撃する。
「ぐおっ! なにぃ!? 誰だ、貴様は!!」
ラガールと呼ばれた男に直撃する魔法は光の一撃。
闇を払う一撃。……だが、男も魔法使いである為、魔抵が高く致命傷にまで与える事は出来なかった。そして、惣造を襲っている雷撃トラップもまだ健在だった。
「な……、私の魔法が」
志津香はこの状況に驚きを隠せなかった。
自分の代わりに誰かがラガールに攻撃を当ててくれたことはよかった、それで一先ずは父が助かったのだから。だが、驚いたのはそこではなく、自身の魔法が ラガールをすり抜けた事実である。自分自身が止めなければ、歴史は変わらない。
先ほどの攻撃も、過去に放たれたものなのだから。変える為には、過去を知っている者じゃないと不可能なのだ。
「ど、どういうこと、ゆ……あんた、何か知って……ッッ!!」
志津香はつい先ほど、ユーリが言っていた言葉を思い出し、聞こうとしたが、ユーリの目が、表情が尋常じゃないくらい強張っているのがわかった為、それ以上なにも聞けなかった。
「かあ……さん」
ただ、ユーリの口から出た言葉がその単語だった。
「かあ……? ゆーの母親……?」
ユーリの言葉を聞いて志津香は、再び魔法を放った女性の方を見なおしていた。
「魔想夫妻は、私達家族の大恩人。手出しはさせない!!」
ユーリが母、と言っていた女性。美しく風に靡く黒髪。立っているだけでも、辛そうに表情を歪めている。だけど、それでも決して億さずに、ラガールを見据えていた。
「ふんっ! 貴様がどこの誰かは知らんが、オレの邪魔だてをすると言うのなら、惣造共々あの世へ送ってくれるわ!」
「リサーナさん!」
「アスマーゼさん、貴女は暫くそこで見ていて頂きたい」
「きゃあっ!!」
「ッアスマーゼさん!!」
魔法でアスマーゼの自由を奪い、再びラガールはリサーナの方を向いていた。その表情は薄ら笑みすら浮かべていた。
「くっくっく、惣造には絶望と恐怖をたっぷりと味わってもらいながら殺す予定だったからな、貴様の登場は或いは嬉しい誤算だったようだ」
「っ! 舐めないで!!」
「無駄だ、もう判っているだろう、無防備なこの私の背中に攻撃を当てたのにダメージが通っていない事実が何を意味しているのかを」
「くッ……!!」
「惣造も行動不能、そしてお前も取るに足らない実力……。これは、楽しめそうだな」
舌なめずりをしながら迫るラガール。その背後に人影があった。
「や……めろ」
「くっくっく、さぁ どう痛めつけてやろうか? 惣造の前で嬲るのもよし、犯すのもよし」
「やめろ……」
「おお、よくよく見てみるとアスマーゼ程ではないが美しいお嬢さんじゃないか」
「やめろ」
「たっぷりと時間をかけて楽しんでやろう」
「やめろぉぉぉ!!!!」
地平線の果てにまで届きそうな怒号。
ユーリは、剣を引き抜いて素早くラガールの隙だらけの胴を薙いだ。本来であれば、胴体が真っ二つになり、絶命することは必至。だが……、それは無かった。
「さぁ……良い悲鳴を上げてくれよ?」
ラガールは健在であり、リサーナへと迫っていたのだ。
「うわぁぁぁぁ!!!!」
何度も何度も剣を振るうがまるで効果が無い。自分では手が出せない。助けれない。まるで、地獄の映像を見せられているようだった。
「そ、そんな……、なんで? いったいなにが……」
志津香も、訳が判らず、立ち尽くしていた。魔法を、攻撃魔法を使う事も忘れて。
だが、今は行動をしなければならない。いつまでも此処で黙って立ってるだけにはいかない。
ラガールは一先ずユーリに任せ、父親の方へと駆け寄ったが、気づく様子もなく、魔法も解除できない。アスマーゼにかけられた魔法も同様だった。
「なんで、どうしてよっ!!」
志津香は 叫びながら魔法を唱える、がまるで意味を成さなかったのだ。そして、そんな時。
「おかあ……さん?それに、おとーさん達も、なにをしてるの? どういうあそび……?」
小さな男の子がこの修羅場へと足を踏み入れていたのだ。丁度、志津香の前に。
「っ……! ゆ、ゆー……っ」
その姿は、おぼえがある。今なら、はっきりと、思い出す事が出来る。あの時の少年だったから。
「っっ!! きちゃダメ!!」
咄嗟に構えながら叫ぶリサーナ。
リサーナも視界捉える事が出来た。自分の愛する息子の姿を。
「ほう!! くっくっく、これは丁度良い。ガキに手をかける趣味は無いのだが、最大限に利用できそうだ。恐怖と絶望の、な」
舌なめずりをするラガール。
この男が何を考えているのか、手に取るように判る。悪魔の様な考えが。
リサーナは、必至に走り、ラガールを通り過ぎ、ユーリを抱きしめた。
「そうだ……そのまま、その表情だ。惣造に見せてやれ、より苦しんで死ねそうだ!! まずは足ッ!」
「ぁぐッ!!」
炎の矢が、リサーナの足に直撃する。……恐らくは手加減をしたのだろう。その炎は燃え上がる事なく、その足に大きな痣と火傷を作るだけに留まっていた。
「や、やめてぇぇぇぇ!!」
アスマーゼは必至に叫ぶが、まるで意味を成さなかった。その手は止まらないのだから。ラガールの魔法は、更にリサーナの足を直撃する。
「っっ!! 殺してやるっ!! ラガール!! ファイヤーレーザー!! 火爆破!!」
志津香は、魔法を連発するがその魔法は全てすり抜けてしまう。ラガールの歩みをとめる事は出来なかった。
「全てを……無に! 煉獄・滅!!」
ユーリの剣も何度もラガールの首を、足を、胴を捕らえるが全く止める事が出来ない。だが、彼の動きを止めるものがいた。
「ラガぁぁぁぁルぅぅぅぁぁぁぁ!!!」
「ぐああっ!!!」
惣造の魔法の一撃である。
雷撃で身体の隋まで内部から燃やされた筈なのに、動けない結界式の攻撃のはずなのに、彼は立ち上がり、そして魔法を撃ち、ラガールの前に立ちふさがっていたのだ。
「ぐ! く、そ、っ 惣造!!」
「ぐ、が……、か、かのじょたちは……あすまーぜ、とおなじ、おれのかぞくだ……!! てだしは……てだしはさせん!」
もう、目の焦点すら合っていない。
いや、意識すら定かではないのかもしれなかった。
「そ、惣造さんっ!!」
痛む足を引きずりながら、息子を抱え必至に近づくリサーナ。リサーナが受けた魔法の反動のせいか、幼い子供は気を失ってしまっていた。これが、どういう状況なのかを、理解した後で。
「りさーな、さん。にげ……るんだ!」
「あ、あなた達をおいてなんて……でき、できないっ! わたしも、さいごまで……」
「それ……では、だれが、ゆーりを、まもるんだ!?」
「ッ!!」
惣造は、震える手で懐から何かを取り出す。
「何を考えてるか知らんが、させんぞ! 惣造!!」
ラガールが、攻撃をしようと構える。雷撃の魔法を撃ち放つが。
「いのちを、オレのいのちを……くらえ!! らいとにんぐ……れーざーーー!!」
「ぐあああっ!!!」
ラガールの撃ち放った雷撃は、瞬く間に撃ち払われ、惣造の放ったレーザーがラガールの肩を貫いた。
「ぐっ……、貴様のどこにそんな力が……!!」
自身が使う魔法よりも遥かに強力な力で返された事実、そしてもう満身創痍の身体で攻撃してきた事実、それらが まだ余力を残している筈のラガールの行動を、思考時間を削いでいた。
「にげ……るんだ……」
ラガールは懐から、丸い何かを取り出し、リサーナに投げた。リサーナは反射的にそれをとると、突然身体の自由を奪われた。身体が縛られたと言う方が正しいだろうか。
「こ、これは転移装置……テレポートウェーブ!?」
リサーナがそれを悟った時はもう遅かった。自身と息子を包み込み 空間転移からは逃げられないのだから。
「い、いや! 惣造さんっ!! アスマーゼさんっっ!!」
リサーナは空間を何度も叩くが、破れることは無く、遂に視界には何も移らなくなった。あの場所から……飛ばされた証拠なのだ。
最後に見たのは……惣造のやり遂げた事の少しの安堵の表情。自分達のせいで他者を巻き込む事を拒んだ男の決死の行動。
ただ……自身の妻を救えなかった、そして最愛の娘を残して逝く事が唯一の悔だった。
「簡易転移だと!!貴様、そんなものを!?……ぬ?」
ラガールはこの時、惣造の異変に気がついた。目の前の男の目には何も映らない。もう、言葉を発することも出来なくなってしまっていたのだ。
「そ、そんな……、お父……様」
志津香も立ち尽くしていた。そう……、惣造はもう事切れていたのだ。
立ったまま仁王立ちをしたまま、もう息を引き取ってしまっていた。
「れ、れん……ご……く……」
ユーリも、手から剣が零れ落ちた。行き場を失った闘気、煉獄だけが、周囲に無参していく。
そして、この時に全てを悟った。
なぜ、記憶がこうも曖昧なのかを。
ここまでの事態があったのに、簡単に忘れるとはどうしても思えない。この光景を見たとき、記憶にかかっていた靄が晴れたのだ。
『記憶は母親の手によって封印されていた』
そう理解出来たのだ。
そして、母を責めたりは出来まい。……幼い子供にとってそれは、酷な記憶だったから。だが、ユーリの目からは涙が留まること無く流れ続けていた
そして、目の前の元凶の男、ラガールは逃がした事こそ、悔やんでいたようだが、惣造が死んだことで笑みを取り戻し再び動けないアスマーゼに近づいていったのだ。アスマーゼは、あまりの事に精神をやられて気を失ってしまっていた。
「ッ!!」
ユーリは、反射的に志津香の方へと走っていた。蹲っている彼女の先にいるのがラガールとアスマーゼ。これから何が行われるのか……考えられるのは最悪の結末。
「志津香……!!」
「ぅ……ぅぅ……」
ユーリは、志津香を抱かかえ、この場所から離れた。触る事も話す事も出来ない。何一つ変えられない最悪の時の逆行。呪いとも言える空間から遠ざかる為に。抱かかえられていた彼女だったが、抵抗する事はしなかった。
そして、環状列石装置の前へとやってきた。
彼女の足取りはもうしっかりしていた為、ユーリは志津香をゆっくりと下ろした。
「どう言う事……、時空転移魔法は確かに成功した筈なのに……なんで、なんでなの!」
行き場のない怒りを、そのままユーリにめがけた。拳を握り ユーリの胸を叩く。
それを見たユーリは、ゆっくりと志津香の両方の手を握った。
「あれは、あれを書いたヤツは悪魔だ」
ユーリはそう言うと、同時に、1枚の紙を志津香に渡した。
「これは……?」
「気づかなかったようだ、な。……いや、ひょっとしたら最初に読んだ者には見えないのか? ……それは判らないが、あの魔道書の最後のページ。この時空転移の魔法を記されている魔道書の封印されていたページだ」
ユーリがそう言うと、志津香は震える手でその紙切れを広げた。文字は大きく長くは無い。だから、直ぐに判った。
ユーリがあの時言っていた≪この先≫と言う意味も、これを書いた者は、悪魔だと言った意味も。
「そ、そんな……」
志津香は、呆然とし立ち尽くした。
その時、一陣の風が舞う。
風は志津香から紙切れを奪い去り、そして岩場に当たって止まった。こちらに文字を見せる形で。
『魔法を発動させた時点で死んでいる者は生き返らない』
『過去に向かった者の手で、過去を変えることは出来ない』
過去に来た事。
その全てがこれらの文で全て意味の無い行動にしてしまう内容。
焦る人間を笑い飛ばすような。本気の人間を奈落の底に突き落とすような
――そんな内容だった
「私が……私がしてきたことって……、私は、町や皆を……それなのに……」
志津香は唖然としたまま現実を受け入れられなかった。
だが、現実では この世界では自分達の存在も伝わらず、何も出来なかった。認めざるを得ないんだ。何も得られなかった。ただ、町を苦しめ、そして自らも苦しんだ。それだけの事だった。
その時だ。自分の肩を掴まれたのは。
ユーリが、志津香の肩を力強く、掴んでいた。
「……得たものはあっただろう」
ユーリは、もう涙は流れていない。辿ってきた道が、経験が、彼を志津香よりも早く立ち直らせていたのだ。今は、彼らを思い悔やむよりも目の前の少女を助けなければならないだろう。
それが、きっと……2人の両親の願いでもあるから。
「……え?」
志津香はユーリを見た。涙を必至に拭いながら。
「……あの男の。……ラガールの顔だ。オレは、あの顔を忘れない。この手で仕留めるまで、決して忘れない」
「ッ……」
涙をぬぐいながら、志津香も頷く。
ユーリと同じく背後に映るのは憎悪。復讐心。それは決して良いとは思えないし、亡き両親も子供がそんなのを抱いて生きていくなんて望まないだろうと頭では理解できる。だが、これから先、進んでいく為に必要なものなのだ。
立ち止まってはいられないから。歩き出す為に、そして 本懐を遂げる為に。
「殺してやる……、どこにいるのか判らないけど、絶対にこの手で、私が絶対に見つけ出して……お母様とお父様の仇を」
「オレの手もだ」
拳を握り締めている志津香の手をユーリの手で重ねた。温かい感触、忘れかけていた温もりが触覚を通して伝わってくる。
「……オレは冒険者をしている。顔の広さなら 情報屋にも負けない自信もある。……手がかりを掴みやすい」
憎悪に燃え上がるのは何も志津香だけじゃなかった。
それは良くない感情だと頭ではわかっていても生きるためにと、表面上は思っていても、復讐心を強く抱いたのはユーリも同じなのだ。
「あの男だけは殺す。滅殺だ。……魂すら砕いてやる」
「……足手まといにはならないでよね」
殺意が結ぶ絆と書けば言葉は悪い。
だが、志津香は幼いあの頃の絆とは程遠いがそれでも。
悲しみと憎しみ、で彩られていた心に、確かに一筋の光を見た。
何も得られなかったと言う事はない。確かにユーリが言う様に、憎い、何度殺しても殺したりない男の顔が判っただけでも、得られたものはあっただろう。
だが、それと正反対のものも、得られた。
もう、死んでしまったんだとまで思っていた、記憶の奥底において来たあの≪ゆー≫にもう一度会う事が出来て良かったと思っていたんだ。
~志津香の屋敷 環状列石装置前~
2人は無事に現代へと戻ることは出来ていた。絶望を味合わせる装置だったようだが、戻れなくなる仕様にはなってなかったようだ。今思えば危なかったのかもしれない。
「……もう、この迷宮にいる意味は無いだろう? 皆心配してるから 戻ろう」
「……そうね」
まだ立ち直ったとは言い難い。
だが、前に進まなければならない。自分がしてしまった事への償いもあるんだから。
「そうだ。志津香、誘拐したカスタムの娘達は? 無事……だよな?」
「当たり前でしょ。……攫った事は悪かったって思ってるけど。それでも 傷つけてはないわ。奥の部屋にいる。一緒に連れて帰りましょう。ゆ、……あ、そうよ」
志津香は、何かを思い出したようでユーリの方を見ていた。
「そういえば……私はアンタの事≪ゆー≫って呼んでたよね?」
「ああ……、オレも今回の事で大体思い出したよ」
志津香から、自分の名前、《ゆー》と言う言葉を訊いて、ユーリは上を向いて呟いていた。懐かしき日の思い出を、漸く思い出す事が出来たんだ。
「その……今更なんだけど……」
「ん、なんだ? 口ごもって。らしくないんじゃないか?」
「あ、アンタが私の何を知ってるって言うの!! 子供の頃だけでしょ!!」
ユーリの言葉を訊いて、志津香がまるで火山噴火の如く勢いで、ユーリにそう言っていた。
そして、それを聞いてユーリは 再び笑った。
「そう、それだ。……そんな感じが志津香だろう? はっきり言わないなんて らしくないんじゃないか? って事だ。間違ってないと思うよ」
「むぅ……、ああもう! 判ったわよ!」
志津香は一睨みするとため息をする。調子が、本当に狂ってしまう。いつもの自分じゃない様に。
そして、意を決して志津香は口を開いた。
「その、アンタの本名……知らないのよ」
「………」
その告白を訊いて、ユーリは目を丸くしていた。
そう言えば、アスマーゼや惣造ならまだしも、幼かった彼女が覚えているとは思えないし、そもそも覚えたとも思えない。カタコトくらいしか話せない程、幼い少女だったんだから。
「はははは!」
「ッ! 笑ってるんじゃないわよ!!!」
志津香は足に魔力を集中させ、全身全霊を込めてユーリを足を踏み抜いていた。べきっ! と鈍い音と共に、痛みとして、脳に認識され、その痛みを正確に伝えられてしまう。
正直痛みは酷かったが、一先ず笑顔が戻りつつある志津香に安堵感をユーリは覚えていた。
そして、足を摩りつつ志津香に本題を話した。
会話が成り立っている時点で、指輪の影響は少ないのだろうとは思えるのだが。
「この フィールの指輪の事?」
志津香は指を前に出してそう聞く。
「ああ、その指輪の効果。落とし穴は知っているのか?」
「勿論よ。それにそもそも、アイツから貰ったその時点で呪われてるって判ってたから」
「……そう、なのか」
ユーリは唖然としていた。志津香は平然と答えているが他の3人はそんな気配はまるで無く、志津香から聞いて初めて知ったと言っていた。ラギシスが言っていた彼女の評価は間違いないとこの時確信できていた。いや、ラギシスがたとえ言ってなくても判るだろう。
「流石……、惣造さんとアスマーゼさんの」
ユーリはそう呟いていた。
幼い頃の記憶では、判らない。……だが、聞いた情報だけだが、魔想夫妻の才覚も相当なものだったと聞いた事はあるんだから。
「そうよ、ラギシスが何か企んでいるのはコレで確定したし、探ってみたら案の定。指輪の魔力は私達で全部出来上がってるらしいし、渡すわけにはいかないからラギシスを殺して指輪は頂いたと言うわけ。あの時間移動の為に魔力増強に利用させてもらったの」
「ちょっとまった。指輪の秘密を全て知っていて尚指輪を使った、と言う事か?」
胸を張って話す志津香にそう聞いていた。
指輪には色々のデメリットがある。たとえ過去に飛ぶ為とは言えその全てを抱えてたとしても填めたと言うのだろうか。志津香の実力なら、時間はかかっても出来る可能性は十分にありえると言うのに。
「確かに、魔力は今も吸われている。それは間違いない。でも、指輪の特典、効力がハンパじゃないのよ。このおかげで時間転移にかかる時間を何年も早める事が出来たから。それに、呪いだって、呪いがあると知っていれば、殆ど自分の魔法で防げるからね」
「……志津香と会って、オレとの話が通じている時点で思っていた事だが、つまりガードしてる、出来ると言う事は 指輪の使用者がなる悪影響。志津香は指輪に惑わされてなかったと言う事か?」
「まぁ、そうなるわね」
志津香は指輪を見せるように差し出した。
確かにその指輪はまだ妖しい光を放っている。恐らくその光っている間が魔力ブーストと呪いが発動している時間なんだろう。
だが、志津香の魔法であればそれを防げるらしい。ただ、魔力を吸われている事自体は全ては防げないとの事だ。
ガードする魔法を使うとはいえ、装飾品でガードするわけじゃなく自分自身の魔力で発動しているわけだから、その魔力も吸われる対象に入ってしまっているのだ。
「次に聞くのが一番重要な事だ」
「ん? 何かしら?」
「その指輪、ひょっとして志津香なら外せるのか? いくらかの魔力の喪失は防げないようだが、ガードの魔法、認識阻害の魔法も使えるんだろう?」
「ご明察。確かに問題なく外すことは出来るわ。態々処女を失わなくたってね」
「……まぁ低級呪いでもあったが。低級で助かったと言う所か、呪いと言うのはかけるよりも解く方が難易度が増すからな」
「確かにね、この呪いの魔法が、私の魔力と同等以上だったら無理だったわ」
志津香はそういいながら指に填められている指輪をゆっくりと魔力を集中させながら引き抜いた。どうやら、ガードの魔法も働いているようで、志津香の身体には特別影響があるようにも見えない。
「ん……。これだったら、オレは最初に志津香と会いたかったな」
「はぁ!?」
いきなり、変な事を言い出したユーリ。志津香は思わず声を上げてしまっていた。
「ちょっと! 何を言ってるのよ」
「いや……、マリア達の事を考えたらな、って思ってな」
「あっ…… って、はぁ!! マリア達の魔力が確かに消えたし、皆指輪外してるの?? 処女を失ったの? ……まさかじゃないけど、アンタがやったんじゃないでしょうね」
志津香の足に魔力が集中しているのがわかる。
そして、威力も今までの非じゃないのもわかる。あれを受けたら足がなくなってしまうんじゃないか?と思える程の威力を秘めている。そして、志津香の背後には、恐ろしい闘気の様なモノも見えている。
「ちょっと落ち着け……、確かに、彼女達の処女喪失は事実だ。だが、相手はオレじゃない。今手を組んでいる ランスと言う同じ冒険者が全部やった。指輪の影響をバリバリ受けていた彼女達だったから、当然ながら、同意は得られていない。強姦でだ。……だが、一応、彼女達も悪さをしてたと言う事、緊急事態と言う事もふまえてやってくれ。と言うか、元々はその条件はマリアから聞いたんだぞ?」
「あ……、そう言えば」
志津香も身に覚えがある様だ。そもそも呪いについては自分が突き止めたんだ。
「呪いの影響も出てきてたから、頃合を見てって思ってたのが仇になったわ。ごめん、マリア、ミル、ラン」
彼女達を思い浮かべながら……志津香は謝っていた。
好きでもない相手に奪われるのは女としては最悪だろう。強姦は女を殺すも同義だから。
「ん。大体判った。だが、帰る前に とりあえず説教だ志津香。……そこに座れ」
「……は?」
突然出てきた単語。その意味が判らなかった様だ。聡明な頭脳を持つ志津香でも。それを見たユーリは、ため息混じりに言う。
「『は?』 じゃないだろう? 指輪の影響、悪影響が無いって事は、全部自分の意思で今回の事を起こしたって事だ。……町を沈めたのは、あのラギシスのせいにしても、町の女の子達の誘拐はやりすぎだ。……間違いなく惣造さんやアスマーゼさんが、ここに居たのなら、それが自分たちの為にしていると知っても、絶対に怒ってる。 ……確か、一度だけだが 怒られた事、そういえばあったな。志津香と悪戯をして、食器を割った時だった筈だ。……うん、あれは怖かった」
ユーリは幼い頃の記憶、全部じゃないが戻った記憶を思い出しながらそう言っていた。
悪い事をしたら、ちゃんと怒ってくれた。ただ、甘やかす事だけが愛情じゃない。駄目なものは駄目だと叱ってくれる優しさも持っている人たちだったんだ。
志津香はそれを訊いて、俯いた。
「……うるさい、って言いたいけど、確かにアンタの言うとおりね。………悪かったわよ」
「………」
今度は、ユーリが黙ってしまう。確かに謝罪を求めていた筈だが。
「……今度は何よ?」
黙ってしまったユーリを訝しみつつ、見た志津香。それを訊いたユーリは、苦笑いを浮かべながら口を開いた。
「いや、自分で、言っといてなんだが…… いやに素直だなと思って」
「ふんっ!!」
今度は足のももの内側インローを狙ってきた。正確な位置、そして速さで。そして痛みも上々だ。冒険者であり、それなりに鍛えているのにも関わらず、かなりHPを削られたのではないか? と錯覚してしまう。
「……魔法だけじゃなく、格闘技能もあるんじゃないのか?」
「あるわけないでしょ! それに、有耶無耶になりそうだからさっさと聞いとくけど、アンタの本名! フルネーム教えて。同じ志を持つ仲間になるんだから!」
「ん? 別に《ゆー》でもかまわn「却下よ!」……はいはい」
少しは恥ずかしい気もするが、昔の事を思いだしたから、別にそこまで抵抗があるわけでもない。だから、ユーリはまっすぐに、彼女の目を見た。
幼き日、彼女の父親である惣造に教わった様に、決して目を逸らさずに彼女の目をまっすぐに。
「ユーリ、ユーリ・ローランドだ。……改めて宜しく」
「………」
志津香は差し出された手をじっと見る。少し、間をおいて……その手を握った。
「私は志津香、魔想、志津香」
「ああ、知ってるよ」
「私も言いたかったのよ、……改めて宜しく。ユーリ」
「こちらこそ。……宜しく、志津香」
改めて感じる手を繋いだ感触。
この温もりは、決して忘れていない。色褪せたりは、もうしない。
そして、手を繋いだこの時……あの日の私達がまるでこの場に現れたかのように声が聞こえてきた。
『ゆー!』
『はいはい』
『むー、はいは、いっかい! なのっ!』
『はーい!』
『……ずっと、いっしょだよ?』
『ん? なにかいった? しづか』
『なんでもないっ!さ、ゆー! いこ、ごはんだって』
『あはっ うんっ!』
それは、あの日の思い出。
思い出すだけで悶えてしまいそうなアルバムの1ページ。だけど、戻れるのなら戻りたいとも思っていた。
確かに、仲間たちはいる。楽しい時だってあった。……だけど、あの温もりだけは何にも変えられなかったから。
後書き
〜人物紹介〜
□ 魔想志津香
Lv22/56
技能 魔法Lv2 格闘??
カスタム四魔女のリーダー格。魔法の才覚は大陸の中でも最強クラス 文句なしのAクラス。
一見するとクールだが、実は激情家であり、ちょっとした事で熱くなりやすく冷静な判断欠く事も多い。故に 過去へ行く術が見つかった時にカスタムの町の女の子達を利用する事に躊躇することは無かったと思われる。
幼い頃、少しの期間だがユーリと共に暮らしていた経験が有り。
その頃どう思っていたのか?今はどう思っているのか?と聞けば……答えは返ってこない。
返答の変わりに踏み抜きか、インローが帰ってくる。
もう少し位置を間違えちゃえば、大切なところに当たっちゃうのだが……、その点は狂わないようだ。
……技能持ってる??
□ 魔想惣造(故人)
Lv38/50
技能 魔法Lv2
志津香の父親であり、ユーリにとってももう1人の父親。
生前は稀代の大魔女ミステリア・トーの元で弟子入りしていた経験がある。
仕掛けられた雷撃トラップのせいで致命傷を負わされるが、リサーナとユーリを助ける事が出き、その後果てる。
□ 魔想アスマーゼ(故人)
Lv24/46
技能 魔法Lv1
志津香の母親であり、ユーリにとってはお姉さん?だった。
夫である惣造とは同じミステリア・トーが開いていた魔導塾で出会い恋に落ちた。
目の前で、リサーナとユーリが殺されたと思い気を失う。
その後夫である惣造も殺された事を知りラガールにも犯されてしまい 精神を病んで早くに衰弱死した。
死ぬ直前に妊娠していたと言う話。それが、惣造の子なのか、ラガールの子なのかは不明である。
□ リサーナ・ローランド(??)
Lv28/55
技能 魔法Lv1 槍戦闘Lv1
ユーリ・ローランドの母親。ゼス出身であり、とある出来事からユーリの父親と出会う。
出会いから恋に落ちるまでには時間はかからなかったが、父親は初めは拒んでいたらしい。
全てを知った後も、それでも共に過ごしたい、一緒にいたいと言う想いが強かった為、結ばれユーリが生まれた。
あの転移の後どうなったのか、生死はどうなのか、それらは全て闇の中である
□ チェネザリ・ド・ラガール
Lv41/50
技能 魔法Lv2
魔想夫妻と同じくミステリア・トーの元にいた。アスマーゼに惚れていたが、惣造と結婚をしてしまった境に彼の精神は歪み倫理感もなくなってしまっていた。
その根源は彼の国の成り立ちに由来するのだが、それはまた今後の話。
〜技能紹介〜
□ 煉獄・滅
使用者 ユーリ・ローランド
殺気を更に込めた闘気を剣に纏わせ名の通り相手を滅ぼす攻撃。遠目からは相手が砕け散る様に見えるが、技の正体は無数の突き。その速度故に、正に突きの壁であり、本来、防げず食らってしまえば形すら残さないらしい。怒っている時に放つ技の1つ。
名前の一部・技のイメージは漫画「ブラックキャット」技より セフィリアの最終奥義「滅界」より一部抜擢
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