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欲しいものは

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1部分:第一章


第一章

                  欲しいものは
 弘道はとても欲張りな子供でした。
 何でも欲しがります。欲しいと思ったらいてもたってもいられなくなります。それで駄々をこねていつも皆を困らせる子供なのでした。
「あれ欲しい、あれ欲しいよ」
「買って、買って」
「あれ頂戴」
 言う言葉は大抵こういったものです。その駄々もあまりにも酷いので皆困り果てています。そしてそれと一緒に弘道のこれからがとても心配になるのでした。
「どうしたものかしら」
「困った子だよ」
 お母さんもお父さんも頭を抱えるばかりです。泣く子には勝てないといいまして弘道が泣き叫ぶとそれでどうしようもなくなってしまい買ってしまうのです。どうしても逆らえないのです。そのことにも頭を抱えているお父さんとお母さんなのでした。そして他の人達も。
 皆そのことに本当に困っていてそれと一緒にとても心配でした。このままでは弘道はどんな大人になってしまうのか。そのことも考えて本当に困っていました。
 そんな中で弘道のお爺ちゃんが言いました。考えた末にこう言うのでした。
「こうなったら」
「どうするの?お父さん」
「うん、弘道に作らせてはどうかな」
 こうお母さんに答えました。
「弘道が何か欲しいと言い出すとな」
「ええ」
「その時にじゃあ自分で作れと言うんだよ」
 お爺ちゃんが考えたのはこのことでした。欲しいものは自分で作れということでした。
「それでどうかな」
「そうね」
 まずお母さんがお爺ちゃんの提案に頷きました。
「それ、いいかも」
「そうだね」
 続いて頷いたのはお父さんでした。
「欲しいのなら自分で作れって言えばね」
「そうしたら少なくとも買わなくて済むし」
「お金はかなり助かるね」
「それだけではないかもな」
 お爺ちゃんはまた言いました。
「ひょっとしたらじゃが」
「ひょっとしたらって?」
「まだ何かあるんですか?」
「これはやってみないとわからないな」
 けれどお爺ちゃんは今はそれ以上は言わないのでした。
「実際にな」
「じゃあ少なくとも今はそれをやらないと駄目なのね」
「そういうことじゃ」
 こうお母さんとお父さんに述べるお爺ちゃんでした。
「とにかくじゃ。やってみよう」
「ええ、そうね」
「それでは」
 何はともあれ実際にそれをしてみることになりました。二人は早速弘道を連れて外に出ました。すると彼は早速おもちゃ屋さんの前でプラモデルを見て騒ぎだしました。
「あれ欲しい、あれ」
「あれが欲しいの?」
「うん」
 お母さんの問いに大きく頷くのでした。
「欲しい、欲しいよ」
「そう。それじゃあね」
 お母さんはお爺ちゃんの話を思い出しながら言いました。その言葉を。
「自分で作りなさい」
「自分でって?」
「そう、自分でね」
 こう弘道に対して言うのでした。
「いつもあれはどうしてるかしら」
「お父さんが作ってくれてる」
「弘道ちゃんは自分で作ったことないわよね」
 あえてしゃがみ込んで弘道に視線を合わせて話をします。そうして彼にじっくりと言い聞かせるのでした。
「今まで。そうよね」
「うん」
 確かに欲張りですけれど弘道は嘘をつく子供ではありませんでした。ですからお母さんの問い掛けに素直に頷くのでした。
「僕作ったことない」
「だったら。自分で作ってみなさい」
「自分で?」
「そう、自分でね」 
 また弘道に言うのでした。
「作ってみなさい。いいわね」
「自分で作るの?僕が?」
「そうよ」
 あえて優しい声で彼に言いました。
 
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