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学校の小さな防人

作者:ナンブー
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ACT.5 「DAY3. 予想外の告白」

「で、どうしてこういう事を?」

二日目の野外活動が終わり、皆、夕食を食べ終わった直後。詰所には藤原達五人とSDFの長門、芽衣、大城が集まっていた。長門と芽衣はハンドガンだけ装備し、大城は木下から借用したMP5を装備している。真田、木下、新城は夕食を食べている筈だ。

五人を椅子に座らせ、向かいの席に長門、芽衣が座る。大城は詰所の入り口で立っている。

藤原達五人は俯いて答えない。

「先生に気付かれないように工夫して活動したんだから、答えてくれ」

今、大城が言った通り、昨日の活動の際には全員の銃器に消音効果のあるサプレッサーを取り付けて活動した。協力してくれた椎名と安達にも口止めをしている。

「2年前の復讐よ…」

「「「 復讐? 」」」

SDF組三人の声が重なった。

「アレよ…イベントの結果」

長門と芽衣の表情が変わったが、事情を知らない大城は空気を読まず、それを言った。

「あぁ、あったな。芽衣が百桁いったやつか」

藤原の顔が一瞬にして変わった。

「黙れっ‼ 私の気持ちも知らない奴が‼」

「なんでキレてるんだ?嫉妬か?」

「大城、空気を読め」

「煩い‼ 私が一位の筈だったんだ‼
それなのに、なんでこいつが…」

藤原の目線は芽衣に移った。

「私は…ノミネートされるなんて思ってもいなかったし…最初は藤原さんが一位になると思っていたよ」

「貴女に私の気持ちが分かるとでも?」

これは強烈だ…と長門は思った。この考えに付いて行ってる取り巻き達は一体何なのか。このままこの話を続けても藤原のテンションが迷走するだけで埒があかないので、強引に話を変える。

「男子二人と女子二人。動機は?」

「藤原ちゃんに指示されて…」の答えが4人から出た。

「染まってるな」と長門。

「染まっていますね」と大城。

「ちょっと失礼」

大城と詰所の端に行き、小さな声で話し合う。

「大城、どうする?やっぱり芽衣に任せた方がいいかな?」

「でしょうね。俺達が話し合うより当事者達に任せた方がいいでしょう。俺達はサポートを」

分かった、と返し、元の位置に戻る。

「えーと、結論は当事者達に任せるという事で。藤原と芽衣以外は退出。4人とも、次こいつにちょっかいをかけたらSDF総出で仕返すぞ。覚悟しとけ」

「長門君は?」

芽衣が心配そうに聞いてくる。

「大丈夫。外で待機してるよ。盗み聞きはしない。辛くなった時は無線で呼んでくれ」

「了解、頑張るよ」

………………………………………

長門:詰所付近

「長門、どうだった?」

夕食の豚汁を食べ終わり、詰所の辺りまで戻ってくると、真田が居た。

「真田、話を盗み聞きしてないだろうな?」

「もちろん。なんかここだけ変な空気が漂ってたから」

良かったと胸を撫で下ろす。

「とりあえず、芽衣と藤原の二人で話し合わせることにした」

「カオスな事になってなければいいがな」

………………………………………

芽衣:詰所内

「貴女、長門さんの事、好きなの?」

藤原が先制。いきなりストレートに来た。

「なんで聞くの?」

簡単に答えてやるものか。

「私のライバルが何人いるか知っときたいし」

「なっ……」

この人も長門君の事が好きなのか。意外だった。

「あら、慌ててるわよ」

「あ、慌ててなんかない‼」

本当はかなり慌てている。まさかのこの人から長門君の話題が出てくるとは思ってもいなかった。

勿論、長門君のことは好きだと思っている。小学生の時は幼馴染として良く遊んだりした記憶がある。中学三年の時に同じクラスになり、そこから気になり始めた。この頃から、真田とも仲良くなり始めた。会話を重ねる内に仲良くなり、いじめられていた時もすぐに駆けつけてくれた。その時に抱きつくという大胆な行動を取ってしまったが。高校は偶然、志望校が一緒だった。前からSDFに入隊したいといっていた長門について行き、一緒に入隊した。SDFでは入隊当時から長門の分隊に所属し、バックアップ/後方警戒を担当している。

今、昔を思い出すと、結構迷惑掛けたなぁ、と思った。助けてもらった事は数えきれないほどある。

昨日の事件でも、私一人のためにSDFが動いてくれたし、帰りも負ぶってもらった記憶がある。途中で眠ってしまったので記憶は薄っすらとだが。

「何赤くなってんの?」

「赤くなってない‼」

なんで私はこの人と普通に喋れているのだろう。ついこの間まではトラウマの人物だった筈なのだが。

「貴女の事が羨ましかった」

想定外の発言だった。

「へ?」

「だから、貴女の事が羨ましかったって。だから嫉妬した」

「はぁ…」

だから取り巻きを使って監禁、暴力をしたの?とはとても言えない。このままのムードで終わらすのが得策だ。

「分かった。前回と今回の事は不問にするよ。でも、次からは容赦しない。SDFを舐めないで」

「やれるもんなら、やってみなさい。長門さんを取るのは私よ」

藤原は立ち上がり、女子のテントがある方向に向かって歩いて行った。

あれ、伝わった事がズレてるような…?そんな感じがしたが、気にせず詰所を後にした。

………………………………………

長門:詰所内

「めでたし…なのか?」

詰所の中には長門と真田しかいない。9時になり、SDFの警備シフトがスタートしたからだ。9時〜10時30分までは、芽衣・大城ペアが見回りをする事となっている。10時30分からは長門・真田ペアがシフトの当番だ。

椅子に座り、砂糖を入れたコーヒーを啜りながら会話をしている。

「めでたしなんじゃない?藤原の宣言は意外だったけど」

話題はもちろん芽衣と藤原の会話についてだ。あの後、芽衣から会話の経緯を聞いたのだが…

「藤原、話分かってるのか?」

「俺が分かった事は、長門の事が好きな人が1人増えたという事」

コーヒーを吹き出しそうになった。真田は昨日のテンションが継続している様だ。

「藤原は聞いたとして、あと一人は?」

真田の目が見開かれる。

「ま、まさか、気付いてないの?」

「は? どういう事だ? ヒントを」

「1つ、背は貴方より低いです」

「俺、178だから大体の女子がその範囲に入るぞ」

「2つ、2年生です」

「…それでも80人以上いるぞ」

「これで最後。貴方とはいつも喋っています」

「…更に分からん。誰だ?」

真田はこめかみを抑えて、唸った。

「ダメだこりゃ…」

「お前は故・いかりや長介氏か?」

時々こいつは古臭いネタを使う。そのお蔭でスマホの検索履歴のほとんどがそのネタに関するサイトで埋め尽くされている。

10分程、他の雑談をし、少し落ち着いた頃。真田の口から衝撃の言葉が出てきた。

「お前、伊吹の事、好きだろ?」

「は⁈ 」

何処から漏れた。いや、誰にも言って無い筈だ。

真田の言った通り、芽衣の事は好きだ。小学生の時は幼馴染として良く遊んだりした記憶はある。中学3年の時に同じクラスになり、そこから気になり始めた。放っておくと、いつも危なっかしい事に巻き込まれるので、いつも一緒に居た覚えがある。高校のSDF入隊式で彼女の名前があったのには驚いた。高校に入ってからも、「守る」ポジションは変わってない。

「何赤くなってんだよ?」

「赤くなってない‼」

「焦ってるなぁ…。言っとくけど、もうすでにバレてるよ」

「どうしてだ…」

真田は小さく笑った。

「日常生活の時点でバレてるよ。心配そうにくっついていればね」

「なっ…」

「図星っ!分かりやすいなぁ。好きなんでしょ?」

「うるさい‼ 何が悪い!」

「白状したね。それは友達として?部下として?恋人として?」

「全部だ」

もう開き直るしか無い。

「中学の頃から思ってたけど、長門って相当面白いねぇ…」

「何処がだ?」

真田は銃器の入ったトランクケースを持ってきた。

「全部。ほら、時間だ」

真田からHK416Dを受け取り、初弾を装填する。

真田もM4を取り出し、マガジンを取り付ける。

「ほら、彼女さんが来たぞ」

外を見ると、芽衣と大城がすぐそこまで来ていた。

「長門君? なんか話してた?」

地獄耳かよ。

「イヤ、ナンデモナイヨ」

顔を不自然に笑わせ、放ったその言葉はかなりインパクトがあったらしい。

「長門君、壊れた?」と芽衣。

「真田、壊した?」と大城。

「壊れそうな話ならした」

真田は相変わらず笑顔だ。

「壊れて無い。早く行くぞ」

真田を引っ張って行き、なんとか脱出する。

警備しながら歩いて行った先は、人の気配があまり無くなった広場だった。

「真田。芽衣には言うなよ」

「分かってるよ。じゃあ、教えてくれたお礼に情報を一つ」

真田の笑顔は崩れない。

「長門の事が好きな人は、チーム3の女子でーす」

「なっ…」

今年一番の衝撃だった。

「なにぃぃぃぃぃ‼」

後から聞いた話では、この悲鳴はキャンプの方まで届いたらしい。

………………………………………

「真田ぁぁぁ‼ どうにかしろぉ‼」

自然体験学習三日目。朝からテントの撤収作業を全員で行う中。

「本当に面白いねぇ…」

SDFの面々も詰所や通信装置などを撤去している中、この二人だけは違った。

原因は昨日の言葉だった。

『長門の事が好きな人は、チーム3の女子でーす』

この言葉のせいで、今朝から芽衣の顔がまっすぐ見れなくなっている。それを気にした芽衣が近付いてきたりするから、もう阿鼻叫喚の事態となっている。

なんとか山小屋の物陰まで逃げれた。建物の壁に寄りかかり、腰を降ろす。

「落ち着け…落ち着くんだ…」

「長門君、本当にどうしたの?」

「うわぁぁぁ‼」

目の前に居たのは、識別帽を被り、心配そうな顔をした芽衣だった。

「な、なんでもないよ」

ははは、と乾いた笑いを残して立ち去ろうとしたが、芽衣が引き止めてきた。芽衣は悲しそうな顔をしていた。

「長門君。私の事、嫌いなの?」

「な、何故に?」

「だって…今日になってから、私の事を避けてるし…」

「いや、そんな事は無い」

とにかく冷静になれ。そう心の中で自己暗示する。

「じゃあ、私の事、どう思ってるの?」

「な、なななな何を言っているのかな?」

芽衣の顔はいつになく赤い。

なんだこの空気は? おかしいよ。

「言えないの? 私は…」

芽衣はなにかを小さい声でごにょごにょと呟いた。アルコールでも入れてるのか?

「芽衣、酔ってる?」

「酔ってない‼ 早く言ってよ‼」

胸のプレストークスイッチを入れ、通信をオンラインにする。

「真田ぁぁ‼ 今すぐこい‼」

相手の反応は早かった。

「なんで?楽しい時間を過ごしてるでしょ?」

「うるせぇ、芽衣が酔っ払った人みたいなテンションになってるから早くこい‼ 俺だけじゃ処理できん」

「ネガティブ。増援は出せない」

「真田ぁぁぁ‼」

反応は無し。通信を切られたのだろう。

振り向くと目の前にあった芽衣の顔は、相変わらず赤い。

敵前逃亡をするか、腹をくくって言うか。選択は後者だ。

「芽衣の事は…好きだと思ってるよ…」

「ふぇっ⁈」

腹をくくったつもりだが、言ってみると凄く恥ずかしい。

「そ、そうなんだ。良かった」

「何が良かったんだよ…」

「なんでもないよ」

「本当にこの空気をどうにかしてくれ…」

富士の麓の山小屋の裏で二人きり。服装は両方ともA-TACS迷彩服。腰には拳銃と、全くムードという物が欠けている。

腕時計を見ると、もう9時。ここを出発するのは10時30分。SDFの用具はもう片付いている筈だ。

「芽衣、もう戻るぞ」

「う、うん」

キャンプまで駆け足で戻ると、SDF全員が顔をにやにやと笑わせていた。道中では、大城や木下につつかれた。

「どうしたんだよ?」

真田が近寄ってくる。

「プレストークスイッチ、付けっ放しだよ。会話、丸聞こえ」

迷彩服の左胸に付いているプレストークシステムは、スイッチをONにして通信をオンラインにしている間は、喉に付いているスロートマイクが声を拾い、チームの全員が身につけている通信用イヤフォンに、声が流されるという仕組みだ。

左胸を見てみると、付いていたランプはオンラインを示す「緑」だった。

自分でも顔が青ざめていくのが分かった。

「長門、面白かったぞ」

通りざまに新城が肩を叩いてくる。

後ろを振り向いてみると、芽衣の顔も青ざめていた。

「「う、嘘だぁぁぁぁ‼」」

この長門、芽衣共同で叫んだ言葉は、後に聞くと10km離れた演習場からでも聞こえた…らしい。

………………………………………

「ぐぁぁぁあ…疲れた…」

「お疲れ様です」

もときた道を今度は東海道線で辿り、学校に帰りついた。新幹線と在来線では早さが全く違うため、約一時間程、行きより時間が遅れた。キャンプを出発したのは10時30分、ここに着いたのは2時だった。

帰校式は先程終了し、生徒は解散となったが、長門達SDFは装備を返却するため、校舎の倉庫に向かっていた。

一年の長谷、土岐、柴田が装備の返却を手伝うため、学校に残ってくれていた。

相変わらず、長門と芽衣以外の2年はニヤニヤと笑っている。その事について、長谷達は不思議で仕方がないらしい。

「どうしたんですか、長門分隊長?」

長谷が聞いてくる。

在来線車内で厳重な箝口令を敷いたため、真田達は言わないと思うが、なってしまった本人に聞かれるのはちょっと言いにくい。

「まぁ、ちょっとあってね…」

「くくっ…知ってますよ?」

「はぁ?何を?」

「9時くらいに、たまたまイヤフォンを耳に付けたんですよ。そしたら通信がオンラインになってて、聞こえました。内容を言った方が良いですか?」

こいつにもバレてたか。通信範囲を富士に絞っておけば良かったと今更に後悔してしまう。

「…他に一年、三年で知ってる奴は?」

「いませんよ。だから安心してください。誰にも言ったりしませんから」

確かに、長谷なら安心できる気がする。

そう言ってる内に倉庫に辿り着いた。通信機、テント等を棚に置き、倉庫の扉を閉める。

ふぅ、と一息ついた瞬間、イヤフォンに警戒を促すアラートが鳴っ
た。その音を聴き、全員の目付きが変わる。

「総員、戦闘用意。室内戦闘だろう。真田は屋上で待機。他は2人組で行動。ペアは自由。行動開始‼」

矢継ぎ早に指示を出し、自身も倉庫のジュミルランケースからHK416Dを取り出す。ケースにマガジン単位で保管されている弾は亜音速で目標に飛ぶ35発入り5.56mmサブ・ソニック弾を選択。それを手に取り、銃下部のマガジンレシーバーに押し込む。完全に入ったのを確認し、側面にあるボルトを引き、弾を弾室に送り、手を離す。

左手は前部アンダーマウントに設置したグリップを握り、右手はセイフティを「SEMI」の部分に移動させたトリガーに指を掛ける。

(S-33へ。こちら職員室。南棟2階に銃器を所持した不審者2名が侵入した。速やかに排除してください)

「了解した」

イヤフォンから聞こえてきた指令を確認し、全員に伝える。

「了解。僕と土岐は1階から行きます」

「俺は木下先輩と一階から進みます」

「大城と一緒に2階の渡り廊下から行ってみる」

長谷と土岐、柴田と木下、新城と大城がペア。残っている二人は…

「じゃあ、長門と伊吹、屋上からリペリングして」

そう言ったのは、勿論の事、真田だった。

………………………………………

「絶対嵌められた…」

現在、中央棟3階から南棟3階へ繋がっている渡り廊下を走っている。勿論、後ろには芽衣がMP7を持って着いてきている。リペリング降下用のロープと、腰のベルトストラップに接続するカラビナを手に持ちながら走っているため、走る速度はやや遅い。

「長門君、持とうか?」

「大丈夫」

芽衣が心配そうに聞いてきたが、怪我をしている芽衣にこんな重い物を持たせる訳にはいかない。

(こちらチームS-34。S-42チームと合流し、現在待機中。見たところ、敵の武器はM16のコピーモデル、ノリンコCQだと思われます。二人の内のハゲは教室の中央で電話を、もう一人のノッポはタバコを吸っています。チャンスです。)

(こちらチームS-43、2階渡り廊下出口で待機中。指示を求む)

長谷と新城からの通信だ。聞くところによると、長谷・土岐チームは木下・柴田チームと合流し、待機しているらしい。新城・大城チームは2階渡り廊下出口で待機して、突入の時を伺っているらしい。

「こちらS-31。今屋上に着いた。5分待ってくれ。今からリペリングの用意する」

屋上に設置されているフックに降下用のロープを掛けて、外れないようにロックを掛ける。腰のベルトストラップにロープのカラビナを付け、縁にある滑車にロープを巻く。

「芽衣、降下準備」

屋上の縁に立って、ロープを地上に垂らし、地上に対して背を向ける。

「高いね…」

「何度もやっただろ。今更怖がるな」

ロープをグローブでよく握り、通信をオンラインにする。

「こちらS-31。降下準備完了。10秒後に作戦開始」

HK、防弾アーマー、腰のUSPと57、突入用のフラッシュ・バンを確認し、前を向く。

四秒を切った所で、芽衣に声をかける。

「降下開始‼」

白いコンクリートを蹴り、勢いよく空中に飛び出す。途端にマイナスGが身体に掛かり、ジェットコースターの様な落下感覚が襲ってくる。グローブとロープの摩擦で減速しながら、目標の二階に到達する。着地地点の窓は空いており、直ぐに校舎に入れるようになっている。

(S-34、エンゲージ‼)

(S-43、エンゲージ‼)

戦闘開始(エンゲージ)の声を聴きながら、校舎の中に侵入する。すぐさまHK416Dを構え、前方を警戒する。芽衣も無事に着地し、MP7を構えている。

「S-31、エンゲージ‼」

目標の教室はすぐ前、左右からは皆が突入してきている。

「芽衣、行くぞ‼」

「了解」

腰から取り出したフラッシュ・バンを目的の教室に投げ入れる。閃光により視界が遮られるので、目は閉じておく。三秒後、バン、という音と共に視界が白一面に染まった。それを合図に目を開き、目の前の教室に突入する。視界は多少ぼやけていたが、許容の範囲内だと割り切り、そのまま行く。

ドアはフラッシュ・バンを投擲した時に開けたので、今いる廊下と教室を隔てる物は無い。入口に近づくと、目を擦り、奇声を上げている2人の姿が見えた。

これはチャンス、と教室の外で銃を構え、セミオートで5発、ダットサイトを取り付けたノリンコを持っているノッポに撃つ。芽衣もフルオート射撃でノッポに弾丸を浴びせる。

木目のタイルに飴色の薬莢が次々と落下し、軽い金属音が響く。

亜音速の5.56mm弾はノッポの様々な部位に命中し、さらにはMP7から4.6mm弾全40発の洗礼を受けた。

ノッポが持っているノリンコはタイルに落ち、上部レールに取り付けられていたダットサイトは衝撃で取れ、ノリンコとは別の場所へ飛んで行った。

もう一方の入口からは、大城がMASADAを、木下がMP5A4を構えながら突撃を敢行。一方、ハゲの方は未だにフラッシュの衝撃が残っており、まともに動けなかった。難なく取り押さえられ、ノリンコの弾倉を外される。

ノッポの持っていたノリンコの弾倉も外し、銃内部にある一発もコッキングをして、排出する。

「6.8mmか。痛そう…」

ノリンコのマガジンからこぼれ落ちた6.8mm弾を見ての感想だ。自分達が使っている5.56mmの軟質プラスチック弾と、実銃のNATO 5.56mmとでは醸し出している雰囲気が全く違う。一度、重機関銃や対物ライフルに使用する12.7mm弾を見たが、その時は足が竦みそうになるほどの威圧感を放っていた。非殺傷目的の弾と殺傷目的の弾とではこれほどまでに違うのかといまさらながらに実感する。

二人組に手錠を掛け、無線で警察への連絡も済ませた。程なくして、赤いランプを点滅させたパトカーが校舎のすぐ隣にある駐車場に止まった。中から紺色の制服を着た若い警官2人が出て来て、二人組をパトカーに載せた。この時にノリンコとその弾薬も渡す。

「引き渡し完了。後は俺たちに任せてくれ」

若い警官の一人がそう言い、パトカーの助手席に乗る。スカイラインの綺麗なエンジン音が鳴り、パトカーが発車した。

「2学期に入ってからの1件目はあっさり終わったな」

「非常にあっさりだった…」

確かにあっさりだったが、長かった一日だった気がする。一番大きかったのは、芽衣の事だろう。隣を見ると、二日前の事件の鱗片も思い出させないような、そんな表情の芽衣がいた。

「強くなったな…」

芽衣に聞こえないよう、そっと呟いたその言葉は、秋風の吹くその空へ消えていった。


 
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