ランス ~another story~
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第2章 反逆の少女たち
第22話 四魔女の一角:エレノア・ラン
~妖体迷宮 内臓エリア~
シィルとバードの2人は、通路が細かく分断されているエリアへと足を踏み入れていた。
何度も、行き止まりに当たっては引き返し、それを続けていく事で マッピングを繰り返し、探索範囲を広げていった。
そして、数分後。
「バードさん、誰かが、誰かいます」
「えっ、あっ……!!」
シィルが指差す方を確認すると、誰かが横たわっていた。慌ててバードとシィルが近づいて確認すると、そこで倒れていたのは。
「き、今日子……!!」
「今日子さん!?」
「あぁ……うぅ………」
そう、先ほど出会い、そしてあっという間に別れた(いろんな意味で)今日子の姿がそこにあった。ただ、倒れているだけじゃない。裸で、転がって 自分で自分を慰めていた。今日子の表情は普通とは程遠く、まるで何かに取り憑かれるかのようにも見える。虚ろな目でバードを確認すると、今日子は自分の秘部を見せ付けつつバードに手を伸ばした。
「抱いて……、ねぇ バード……あなたのをちょうだい……ぁん……!」
「くっ……、ランだ。間違いない、ランの幻覚魔法にやられたんだ! ちくしょう!! 今の今日子は動かせる状態じゃない。……今日子がここでこうしていると言う事はランもきっと近くにいるだろう! 早くランを倒さなくては!」
「は、はい! 今日子さん、待っててくださいね!」
バードの言葉にシィルも頷いた。
同じ女の子としても、ランの事は許せないと思っていたのだ。
……自分がランスにやられてる事を考えたら……とか、考えたら負けだ負け。兎も角、2人は動かせない今日子をそのままにし、先へと急いだ。だが、その後 この迷宮は歩いても歩いても堂々巡りになってしまっていた。
そして、また 今日子がいた場所へと戻ったのだが。そこには今日子の姿はもう無かった。
「あっ……! そんな、今日子がいなくなっている!」
「何処に行ったのかしら……、今日子さん、あんな状態では危ないです。この場所は折角モンスターがいなかったのに。もし、今襲われたりしたら……」
「くぅ…、一刻も早くランを倒さないと今日子まで……!! っこれは?」
バードは、今日子が倒れていた場所から少し先の場所に光るものがあるのに気がついた。
「これは、鏡……、今日子が持っていたやつだ」
「これ、何か魔力を感じます。普通の鏡では無いようですね」
「そうだ。これは、今日子が探していた生命の鏡だ。せっかく見つけた鏡も今の今日子には邪魔でしかなかったんだろう。……彼女から聞いたことがある。この鏡には正しい道を見つける力があるらしい。持って行こう」
「は、はい! 急いで今日子さんを」
鏡に映るのは、これまで通った事が映し出されたいた。その瞬間、壁だった場所に通路が生まれ、更に先へと進む事が出来た。どうやら、この迷宮全体にランの幻覚魔法の効果が及んでいるようだ。
生命の鏡のおかげで、迷わず進む事が出きる。
見えなかった道の先には、これまでとは雰囲気の違う広い部屋があった。生物の様にうねっているエリアから、人工的に作られた広い部屋。その場所の中央で立っていたのは髪の赤い少女。
「うふふ……よく此処まで来られたわね。ご褒美に私が直々に可愛がってあげるわ」
たどり着いた先に立っていた少女は、四魔女の一角 《エレノア・ラン》だった。
今回は幻覚ではなく本人だ。
エレノア・ランは、ゆっくりと視線を2人へと向けた。妖しい光を放つ瞳が彼らを捉える。
「っ! 駄目だシィルさん! 彼女の眼を見てはいけない!!」
嫌な気配を察したバードはシィルにそう指示をした。シィルも彼女には魔性の目がある事を思い出し急いで目を瞑って幻覚魔法を回避しようとしたのだが、それは最もやってはいけない悪手である。
「があぁぁぁっ!!!」
次に聞こえてきたのは、バードの悲鳴だった。
これまでのものとは桁が違うかのような悲鳴だった。シィルは慌てて目を開けた。
「ば、バードさん!! う、腕が……!!」
バードの左腕が肩先から斬り飛ばされていたのだ。既に無くなった腕は宙を舞い地面にぼとりと落ちる。そして、傷口から鮮血が……。ランは、自身の剣に着いた血を舐めとると、妖艶な表情のまま バードの姿を見ると嘲笑うかのように笑みを浮かべる。
「ふふふ、馬鹿みたいね。目の前に敵がいるのに、目を瞑るなんてね……まぁ 見ていたとしても結末は同じ。私には誰も勝てないのだから」
傷口を抑え、必至に出血を止めようとしているバードを、ランは蹴り、地面に這い蹲らせた。
「ふふふ、必要なのは少女だけなの。貴方は必要ないのよね」
「ぐぅっ……! お、お前だけは、お前だけはこの俺の手で必ず倒す!」
「あははは! 滑稽ね。手って言ったけど右手一本で? 剣も無いしどうやったら、今の状態で私を倒せるのか教えてもらいたいものよ」
ランは、剣を掲げた。
今にも振り下ろしかねない状況で、シィルは叫んだ。
「や、止めてぇぇぇ!! 炎の……っっ!!」
手に魔力を集め、炎の矢を飛ばそうとしたのだが、その行動はランに読まれていたようだ。シィルは、まともにランの瞳を見てしまい、魔法も中断させられてしまった。
「ふふ、シィルさん……でしたね?」
「え、あっ……」
シィルは全身から力が抜け、思うように言葉を喋る事も出来ない。ランは、バードには興味が失せたと言わんばかりだ。シィルの方を、その瞳だけを見つめていた。
「うふふ、もうあなたは私の下僕よ。さぁ、私の元へいらっしゃい……」
「あ……ぁ……」
シィルは言われるがまま、ランの元へと覚束無い足取りで近づいていった。
「そうよ、いい子ね。ふふ、このまま志津香の所へ送っていくのもいいけれど、その前に私が少し、可愛がってあげるわ。さぁ……そのまま足を開いて」
「ぅ……ゃ……! (だめ、止めて……! そんなの、私は、私はしたくない……!)」
シィルは頭では必至に抵抗をしているのだが、身体は自由がまるできかない。魔抵の数値はそれなりに高いシィルだが、それもまるで意味を成さなかった。言われるがまま、足を開いてランに身を委ねてしまった。
「ふふ」
ランは、舌舐めずりをして、シィルに手を伸ばした。
「(や、やぁ!だめ、触らないで……ランス様にしか触られた事がないのに…!)」
「うふふ、すました顔をしていても、身体は随分と淫乱なのね……この湿り具合は何かしら? うふふ、ほら 指に こーんなに絡み付いて……」
「ち、違います……ちがうっっ……!」
「何が違うのかしら? こんなに濡らしておいて……さぁ、生まれたままの姿を見せなさい」
「ぃ……ぃあ……!」
シィルは、言葉を発する事、否定するという抵抗は出来たのだが、命令を拒む事は出来なかった。いくら、頭で拒んでも、身体は反応してしまう。言われるがまま、シィルは服をすべて脱ぎさる。
「うふふ、次はそうね……自分でするのよ。出来る? 出来るわよね……」
「あ、ああん……!」
シィルは右手を伸ばし……そのまま自分を慰める行為をしてしまう。
「(ら、ランス様……ランス様……助けて、助けてくだ……さい。こんなの、い、いや……なのに、手が、手が、勝手に……)」
シィルは必至に声を上げまいと、口を噤んでいた。必至に抵抗しているが、最後に待っているのは堕ちると言う事。
「これで貴女もおしまいね。うふふ、早く狂ってしまいなさい。淫乱で狂っている方が志津香のエネルギーとして最適になるのよ」
「あっ……ひっ……、だめ、こんなの、本当に狂って……あ、あっ!」
「それでいいのよ。さぁ……自分を解放しなさい。快楽と言う名の地獄へ……」
「ぃゃぁ……、ら、ランスさ、ま……た、たすけ……!」
「助けは来ないわ……うふふ さぁ 幻覚の力、その真の快楽を教えてあげるわ……、それでも自我が保てるかしら? ふふ」
「や、やぁぁ!!」
「さぁ、狂ってしまいなさい!」
ランは目を見開きシィルの目を見ようとしたその時だ。
“ぽかっ!”
突然頭頂部に鈍い痛みが走った。何が起きたのか判らない。
「痛っ!! な、何!? 誰なの!?」
痛みと混乱のせいかシィルに掛けた幻覚魔法が解けてしまう。シィルは、顔を上げる。ランの後ろに立っている人は自分が何度も何度も助けを求めた人だった。
「ら、ランス……様ぁ……!」
「がはは! なーに楽しそう……じゃない! お前がエレノア・ランか? 俺の女に手を出すとはふてーヤツだな?」
「お、女って言ったか? 奴隷じゃなくやっぱそう思ってたんだな、ランス」
「違うわ! 言葉の綾というヤツだ馬鹿者! こいつは奴隷! それ以上でもそれ以下でもなーーい!!」
ランスは、ユーリの言葉に慌てて否定をしていた。
いつもいつも、ユーリはランスに言われ続けているから、今回はランスの弱点を付いたのだ。ユーリにとっては顔。ランスにとってはシィルと言う女性なのだ。だが、今は遊んではいられないと思うのだが……?
「ちょっと、2人とも! 今はそれどころじゃないでしょ! ランっ!!」
マリアが遅れて前に出てきた。彼女が、変な流れを断ち切ってくれた。
「お願い、私達の言う事を聞いて!! その指輪には恐ろしい悪の作用があるの。そう、あのラギシスそのものなのよ! お願いだから、それを外して優しかったランに戻ってっ!」
マリアは、目に涙を溜めながらそう訴える。だが、指輪の魔力の前では想い言葉は無力だった。これまででも同じだったのだが、マリアはそれでも言いたかったのだ。
友達……、親友だから。だが、その言葉をランは一蹴する。
「何を訳のわからない事を……。それに、マリア! あなた、そんな男達の軍門に下って恥ずかしくないの? ミルの漫画と同じ通りみたいね、アンタ!」
「え……? 漫画?」
マリアは思いもよらない単語が返ってきたせいか、少し疑問を浮かべていた。
「……ふん。こっちの話よ。さぁ、そこで見てなさい。私がその男たちを倒すわ!」
「がーーっはっはっは!! お前如き器用貧乏魔女がオレ様を倒すだと? 片腹痛いわ!」
「きよっ!! 殺すっ!! 絶対に殺すっ!!」
どうやら、何処か気にしていた様だった。殺意を漲らせながら、ランは、目を見開いた!!
「だ、だめっ! ランスさま、それを見たら……!!」
シィルが叫んだその瞬間。ユーリが、持っていたフードを広げつつ、視界を遮った。
「くっ 味な真似を!」
突然視界を遮られたのを見て、ランはすぐさま剣を振るった。
「成る程、ランの魔法は どうやら、目を媒介にして幻覚を生み出すみたいだな?」
ユーリは、そう分析した。シィルの言葉もあり、間違いないだろう。
「うふふ……、その通りよ。で、どうする? 目隠ししたまま、私と戦ってみる? あの情けない男みたいになるのが目に見えてるわ。何人いようと関係ないのよ」
ランは笑いをあげていた。
自分自身に酔ってしまっているかのように……、指輪に侵された者はこう言う傾向になるのだろうかと思えてしまう。
「むぅ、器用貧乏とは言え 幻覚はめんどいぞ。オレ様が操られてしまえば、全世界の危機と言っていいだろう」
「全世界、と言うより、全ての女の子の、でしょ!」
ランスは、ユーリのフードを切り裂きながら、マリアの小言をてきとーに流し、そして、ランの剣が来るのを避わしつつそう呟いていた。
「ランス、目を瞑れ」
「何? 貴様は馬鹿なのか? 剣持ってる敵。それも 目の前で敵から目を逸らすのはアホ中のアホがする事だぞ?」
「ぐむ……」
「……? 変な声が入った気がしたが。まぁ良い。大丈夫だ。それとも怖いのか? ランスは超英雄なんだろ?」
ボロボロになっていくフード。巧みに視界を見ないようにしつつ、切り裂いて出てくる刃もいなしつつ、……だが、そろそろそれも限界に近い。もう後数秒でランの目を見てしまうだろう。
「誰がだコラ! よーし、そこまで言うのなら目を瞑ってやる!! だが、オレ様にかすり傷一つつけたら、罰金・罰ゲームだからな!」
そう言うと、ランスは目を瞑った。
「あははは! 本当にお馬鹿な人たち。目を閉じたまま、どう戦うって言うの? さぁ、とっとと死になさい!」
ランは、フードを強引に剣ではらうと目を見開きつつ剣を構えた。
たとえ目を開いていても魔性の目で幻覚をかけ、目を瞑っているのならそのまま、一閃の元斬って捨てる為に。
「冒険者を侮らない事だ。……お嬢さん」
そこで見たのは、低く腰を落とし剣を構えている男の姿。顔を俯かせているから目は見る事が出来ないが構うことは無い。
「同じコトよ! 死ね!!」
ランは、目を大きく開き そして幻術を放とうとしたその瞬間だった。
「煉獄・天照」
「っっ!! きゃあああっ!! 目、目がっっ!!」
突然、目の前に強烈な光りが生まれ、部屋を照らした。至近距離でその強烈な閃光をまともに受けてしまった為、ラン自身が目を閉じてしまう。
「目を封じるのは超簡単だ。安い挑発に乗ったのが運のつきだな」
「な、何を!!」
「がははは、とーーー!!」
「きゃあ!!」
既に目を開けているランスにあっという間にランは捕まってしまった。目は眩んでしまい、暫くは使い物になりそうに無い。
「とんだ思いあがりだな!主人公とザコの違いを思い知るがいい!」
「……なんで格好良く言えるの? そんな言葉」
マリアは遠めで見ながらそう呟いていた。攻める事が出来たのも、近づく事が出来たのも、ユーリのおかげなのに。
「ま、それがランス、ってな。マリアもオレの言葉を信じてくれてありがとな」
「あはは……、ランスは兎も角 ユーリさんの言葉は信じれるってわかったからね」
「おいコラ! 聞こえてるぞ!! 後でお仕置きだ! マリア!」
「ぁ……ランス様……」
マリアはランスの言葉に呆れ、ユーリが諭す。
そして、シィルは助けに来てくれたことは嬉しいのだが、また別の女の人にエッチな事をしようとしてるランスを見て凄く複雑のようだった。
「がーっはっはっは! 今回最速攻略だな! 魔女の中で!」
「なっっ!!」
ランは、必至に目を擦りながら幻覚を使おうともがいていたのだが、ランスの言葉を聞いて、唖然とした。
「な、そんなわけ……だって、私、目と魔法が……それに剣も……」
「ばーか! それを器用貧乏と言うのだ。どれも満足に使えておらんでは無いか」
「うぅっ!」
そして、ランストドメの一言。
「間違いなく最弱だな! がはは。ミル、そしてマリア……更にしたのしたのしたの……∞! がランだ!」
「うわぁぁんっ!! そんな、そんなのってぇぇ!!」
ランは認めたくないようで、幻覚を使う事も忘れて泣き叫んでしまっていた。
「……いくら 今は指輪のせいで悪い子になってるけど、正直 見てられない」
「罰だ、って思えばいい。実際、四魔女の中で間違いなく最速で捕らえられた。紛れもなくな」
「何気にユーリさんもヒドイ……」
「情けをかけるのは、更にヒドイと思ってな、それよりシィルちゃんだ」
ユーリは、再び道具袋からフードを……、って何着もってるんだ?と、つっこみたくなるが、置いといて、ユーリはシィルにフードを渡した。彼女は裸であり、身体を隠させる為にだ。
「よかった。無事で」
「あ、ありがとうございます………」
シィルはとても複雑。表情を見るだけでよく判る。
「とりあえず、≪アレ≫をしないと救えないんだ。と言っても気休めにならないと思うが」
「良いんです……。ありがとうございますユーリさん。……あ」
シィルはユーリに聞きたい事があった。今はランスは絶賛 責め中であり、マリアはため息をしながら壁と話をしている。今なら話を聞きやすいようだ判断したようだ。
「ユーリさんは、高位の魔法使いなのですか?」
「ん? オレは戦士だよ。剣を使うから、剣士、だな」
「え……、でも 今のも、この前もランス様にスリープを……かけたので、そう思っちゃいまして」
「ああ~、そうだったな。詳しくはちょっと黙秘させてもらいたいな。ただ、魔法技能はオレには無いとだけ言っておくよ」
「あ、そうだったんですか、ごめんなさい。変なことを聞いて……」
「いや、良いさ。疑問に思うのは当然だし、シィルちゃんも魔法使いだから気になったんだって思うしな」
ユーリはそう言って笑っていた。シィルは、出来れば教えてもらいたいと思ったのだが、それは無理だと判断したようだ。魔法の技能が無いのに、それに似た力を使えると言う事は、別の技能。その人固有の技能と言う事になると思える。聞いたことが無いから、稀少な技能だろう。だからこそ、話したくないのだとシィルは判断した。
「がーっはっはっは!! これで、3人目御貫通だ~~!」
「いやぁぁぁ、いた、痛いーーー!!」
「ぁぁ……ラン。気持ち、凄く判る。でも……頑張ってとしか……」
マリアは後ろで破爪の痛みに悲鳴をあげているであろう彼女を思い、手を合わせていた。こうして、ランス達はランの処女を奪い、3つ目のフィールの指輪を手に入れたのだった。
その後。
「えっ えっ…… ひっく、ぐすん……」
涙を流し、ぺたりと地面に座り込んでいるのはランだ。さっきまでの姿とは思えない変貌ぶりである。理由は明確。指輪の魔の力が抜けた彼女は、マリアが言うように元の優しい女の子に戻ったのだ。だが、自分のしてきた事を忘れるわけじゃない。だからこそ、彼女は止まる事のない涙を流し続けていた。
自分のした事を、後悔しているんだ。
「ラン、元気を出して、みんなあの指輪が悪いのよ」
「で、でも……私は、町の人たちにあんなことを……お友達だったコたちに酷い事を……もう町に帰れない。合わせる顔なんて、無いわ……もう、死んでお詫びをするしか」
ランがそう言ったと同時に、彼女の頬が弾かれた。ユーリが彼女の頬を叩いたからだ。
「今のセリフは簡単に言っていいものじゃない。……お前は、自分のしてきた事から目を逸らして逃げるつもりか? まだ、終わってないんだぞ?」
「っ……!!」
ランは、叩かれた頬を抑えながらユーリの顔を見た。
「いつまでも、そんな顔をするな。マリアの様に前を向けよ。……死ぬことは何にもならない。ただ、悲しみが生まれるだけだ」
「で、でも……私のせいで、皆が……悲しみなんて「少なくとも」っ……」
「……ここにいるマリアは勿論、ミルもそう。酒場のエレナ。君を信じて待ってる人達皆が悲しむことになる。当然、真実を知ってるオレやランスもな?」
「馬鹿者。誰が悲しむだ。……だが、迷惑を掛けたと言うのなら、町のために尽くせばいいのだ。マリアを見てみろ。役立たずだが、必至になって町と仲間の為に動いているんだぞ?」
「一言余計よ!」
マリアは、見てみろ~辺りまでは、聞き入っていたのだが、≪役立たず≫の単語を聞いた途端に反射的に声を出してしまっていた。
「兎も角だ。自殺なんかするんじゃないぞ? そんな事したら、オレ様が死体にいじわるするからな」
ランスはそう言うと、後ろを向いていた。どうやら、少しばかり恥ずかしいようだった。
「アイツなりの優しさだ。……初対面は誰でも最悪だと思うが、真に悪い男ではないだろ? ……ラン。わかったな?」
「う、うん……、私、私……」
ランは、ぐっと拳を握りこみ、顔を上げた。
「がんばります。……町のため、皆の為に少しでも償えるように」
そう言って、必至に笑顔を見せていた。彼らの言葉を胸に刻み、前を向いて生きていくんだと心に決めて。
「ラン……」
マリアはそんなランの肩に軽く手を置いて、肩を貸すように抱えあげた。
「でも、驚いたわ。ユーリさんは兎も角、ランスが優しい言葉言えるなんて」
「馬鹿者! オレ様は美人の女の子には優しいのだ! ユーリと比べるんじゃない! 心外だ」
「どっちが心外?」
「面倒だ。ノーコメント」
「火を見るより明らかって事ね」
「ケンカ売っとんのか貴様ら」
軽く言い合っていた3人。
シィルは、ランスの姿を何度も確認していた。ユーリと話をしていても、ランとえっちをしていても決して頭から離れる事が無かったランスの顔。
「ランス様……!」
「ん? シィルか」
ランスは今頃気づいた(と、見せている?)様にしながらシィルを見た。そのシィルの目から涙が流れている。
「ランス様ぁっ……、こ、こわかった、こわかったです」
抑えていたものがはじけ出た様に、シィルはランスの胸に飛び込んだ。ランスは、それを避けようとせずにそのまま抱きとめた。
「はは、良い所もあるな。やっぱり。……ちょっとばかり妬けるな」
「あはは……、あのコはランスにべったりだからね? でも、ユーリさんもそう思うんだ?」
「なに、言ってみただけさ。あの2人がお似合いなのは、違いないと思ってるからな」
ユーリは笑っている。
嫉妬だったり、そんな感じは全く無い。心から思っていると判るんだ。
「ああ言う関係も、良いってオレも思ったり、思わなかったり、だな」
「あれ? ユーリさんなら、想い人の1人や2人……いるって思うんだけど?」
「買いかぶりすぎ、だな。……ふん」
「あ~……そこまで気にしてるんですか」
「うるさいな」
ユーリはそっぽ向いてしまっていた。ランは、何のことか?とマリアの方を向いた。マリアは、苦笑いしつつわけをこっそりと、ランに告げる。確かにランもユーリの顔を見たがあの時の精神状態が最悪だったから、気にしていなかったのだ。
でも改めて聞いて、更に顔を思い返してみると……
「……えっっ!」
「………ふんっ!!」
「あ、ああっ、ち、違うんです。私は何も……」
「いーよいーよ。も、マジで慣れてきたもんだ」
口で何度言おうが、慣れてるように見えない。深くフードを被りなおす仕草なんか、もう恒例だと思える程にだ。
それを見たマリアは、再び笑ってしまい、ランも笑顔を見せた。
「思ってないんだったら笑うなよ……」
ユーリはそう苦言を呈していた。でも、良かったとも少しだけ、本当に少しだけ思える。死まで考えていた彼女が、立ち直った事、そして笑顔を上手く出来るようになった事をだ。
『……安いもんさ』と格好良くは言えないが、『とりあえずは良い』と言う事だった。
「えぇい! いつまでも抱きついているんじゃない。こら!」
「きゃんっ! で、でも……」
その頃、のランス達。
ランスはシィルを振りほどこうとしていた。この時、3人がランス達を見ていなかったのは、ランスにとってはラッキーだったとしか言えないだろう。
そんな2人を見ていた者がいた。
「……君がランスか」
左肩口から先がバッサリと斬られている男がいた。傷を圧迫し、出血を抑えようとしているようだが、まだ 止まる事なく流れている。
「……重症じゃないか。意識ははっきりしてるな。不幸中の幸いだ、これを使え」
ユーリは、バードの姿を見て 血止め、世色癌を渡した。
「……すまない。僕はこの男ランスと話があるんだ。僕は大丈夫。頼む、この男と2人にしてもらえないか」
「なんなんだ? 貴様は。オレ様は男と2人になるような趣味は無い」
「バードさん……」
「……」
ユーリは何も言わず、シィルは、あぐねいていた。彼から告白をされた事はまだ覚えている。シィルははっきりと、断れなかったが 意志は示す事は出来た。
それを見れば、判る筈だが バードは諦めきれてなかったようだ。
そして、ランスは何だかんだと言いつつもバードと一緒に物陰に消えていた。
「……何かあったのか?」
「あ、……はい。その……」
シィルは、ユーリに妖体迷宮であった出来事を話していた。
彼に助けられて、そして告白をされた事。……ランスを選んだ事を。
正確に全てを話していた訳じゃないが、ユーリは、大体の事を理解した様だ。だが……。
「と言う事は、あの男は今日子さんの手前だったのに、シィルちゃんに求婚を?」
「あ……。はい」
シィルは少し困ったように頷いた。確かにランスも節操無しで 沢山の女に手を出す色魔だといえる。だが、バードのそれも 悪いだろうと思えた。
簡単に言えば惚れっぽい性格、そして 女垂らしの可能性も否定できない。
「はぁ、ランスとは違った意味で困った男だな だが、シィルちゃんを助けてくれたのも事実」
ユーリはそう言う。
シィルはもう仲間だ。
ユーリは一度でも仕事を共にした者、互いに力を合わせて戦った者は仲間だと思っている。マリアやミリも勿論そうだ。そして先の大仕事で一緒に戦ったランス達尚更だ。
「世色癌、血止めだけじゃ、安すぎるな。ランスは男相手には容赦ないから 情けをかけるように言っておくよ。シィルちゃんも助けてくれた相手が……だったら目覚めが悪いだろ?」
「は、はい。それは勿論です」
ユーリはそう言うと、ランス達が向かった方へと歩いていった。
ランスならば、即座にトドメをさしてもなんら不思議じゃない。……もう手遅れか?とも思ってしまったが、それは杞憂だった。
ランスは、こっちへ歩いてきており、バードも何やら立ち尽くしている様子で無事だった。
「なんだ? 貴様。さては、盗み聞きをしていたのか?」
「何、今来たばかりだ。何も聞いてない。……一応殺すな、といいに来たつもりだったけど、手間が省けた」
ユーリはバードの方を見ながらそう言っていた。出血自体は、血止めを当ててるようで止まりかけている。後は世色癌があれば、大丈夫だろう。
「ふん。あんな負け犬。剣の錆にもならんって事だ」
「……成程な」
ユーリは何か納得した様子でそう言っていた。
「がはは。兎も角、少々疲れたからな、一度町へ戻るぞ!シィルをヤって仕切りなおしだ!!」
「はいはい」
ユーリは苦笑いをしつつ、そう返事をする。ランスはそのまま大股で3人の元へと戻っていった。残ったのは少し離れた所でバードがまだ立ち尽くしていた。
「何故なんだ……、何故シィルさんはこんな男に……」
「好きになった、惚れたは本人の自由だろ? 今は拾った命を粗末にしない事だ」
「キミは……」
バードは漸くユーリが来ていた事に気づいたようだ。
「あんな男に惚れるなんて、間違えてるんだ。いつか、シィルさんを助け出す」
「……勘違いも程々にしないと痛いだけだぞ。それに、お前は助け出すと言っていたが、本当に危なかったのは、ランに襲われていた時の彼女だったんじゃないのか?」
「っ……!!」
バードは、顔を俯かせていた。どうやら、ランスにも似た様な事を言われたらしいと察しが付いた。
「冒険者をやってたらわかると思うが、自分も守れないのに他人を守るなんて無理だろう。お前は仲間の冒険者達、今日子さん、そしてシィルちゃん。……今回だけで、いったい何人守れなかったんだ?」
「そ、それは……」
ユーリは目を細めてバードを見据えていた。今回の件は、間違いなく彼の判断ミスが招いた事だと確信をしていたのだ。
聞けば、彼のパーティでは戦士、レンジャーの構成。
今回の様な異常な力を持つ魔法使いを相手にするには実力が伴わない。相手の力量を計る。自分達の手に負えるかどうか。その決断力も、リーダーには必要不可欠なスキルだ。それが、足りてなかったからこそ、メンバーを半壊させてしまい、情報屋である今日子も巻き込み、シィルも守れなかったのだ。
「……今は傷を治せ。そして一から鍛えなおしてみろよ。強くなってからランスに挑めばいい。無事でいられるかどうかは保障しないがな」
「……はい。オレは、オレは強くなってみせる。皆を守れるくらいに。シィルさんを……」
好きになった、惚れたは本人次第だから、いくら強くなっても伴わないと思えるが、口にするのは野暮だとやめた。
「じゃあな。ほら、帰り木だ。鍛える前に無事に町へと帰れ」
「重ね重ね、ご好意痛み入ります。今度会える時には、きっと……強くなってきますので」
バードはそう言うと、血が止まった傷口から手を放し、そして握り締めてそう言っていた。ユーリは、その決意は立派だと、思いその姿を見送っていた。そして、遅れながら4人と合流を果す。ランスから文句が言われるかと思ったが、何も無かった。どうやら、バードとのやり取りをここで少しでも言われるのは嫌だから何も言わなかったのだろう。……もしくはシィルを弄っていたから、かもしれない。
現に、今グリグリ~と拳で頭を締めたり、胸を揉んだりしているのだから。
「……遅かったわね。さっきの人、大丈夫だった?」
「ああ、大丈夫だ。帰り木も渡したし ここから出てる姿も見た。今後、どうなるかだけは本人次第だがな」
「……本当に優しいんですね、ユーリさんは」
「何、ただの情けをかけただけだよ。結果的にはオレ達で助けたけど、それまでは彼が仲間を助けてくれたんだしな」
マリアとランの言葉に、ユーリはそう言って笑っていた。照れてもおかしくないと思っていたのだが、その表情は柔らかい。初心な感じが全くしなかった。だからこそ、彼は間違いなくこのメンバーの中で一番歳上なんだと、改めて理解できていた2人だった。
~カスタムの町~
一行は、一先ずカスタムの町へと戻っていた。
男性陣は、体力的にはまだまだ問題は無かったが、女性陣たちはそうはいかないだろうとした配慮である。……はっきりとそうは言わないと思えるが、ここでもランスなりの優しさが出ているのだ。
町長の屋敷にて
「……ラン君、良かった。無事に戻ってきてくれたのだな」
「本当に……本当にごめんなさい。私のせいで……」
ガイゼルは、泣き崩れている彼女を慰めていた。
娘がいない事で、かなりやつれている様子だったが、腐っても町長。町の仲間であるランがいつもの優しい彼女に、そして優しさゆえに涙を流しているのを見て、自分ばかり嘆いていられないのだ。
「……チサちゃんが気がかりだな。ランも知らないと言ってるし、手口も違うとなれば」
「そうよね……、私達は指輪に操られているも同然だったけど、つけてる間の記憶が無くなる程じゃないし」
一緒に付き添いで来ていたユーリとマリアがチサに付いて考えていた。2人は、寝室から外に出たところでいた。
チサが攫われたのは状況から見て間違いないだろう。
だが、その犯人像が判らなくなってしまったのだ。
消去法であれば、最後の1人である可能性は高いが、手口が違いすぎている為。その線は薄くなっている。だが、現に彼女はまだ行方不明のままなのだ。
「……ん、もう一度町を探してみる」
「あ、私も行く」
「いや、マリアは町の人たちの事を頼めないか?マリアの知識は町を元に戻す為には必須だろう?」
「あ……いやー照れちゃうけど、でも、チサちゃんが……」
「任せてくれ。信用できないか?」
「……な訳無いでしょ? ユーリさんだもん。ランスなら兎も角」
マリアはチサを見つけた途端、ランスが彼女を襲っている姿が即座に浮かんだのか、頬を膨らませていた。随分と露骨なのである。
「やれやれ。オレはそろそろ行くよ。あと、ランの事も任せた」
「うん。任せといて!」
マリアはグッと拳を握ってそう示した。ユーリが安心して、ここを出ようとした時だ。
「どーもー、こんにちわー!神に仕える聖職者。ロゼさんが来たわよ~~!」
「んげ!!」
まるで、タイミングを計ったかのように、現れたのはカスタムの町の恐るべきシスター・ロゼだ。
「まぁ、ご挨拶ね、人の顔みるなり『んげっ』って。この聖職者を捕まえて」
「……誰がだよ。聖職者というより生殖者だろ。ロゼの場合。……相手は人間じゃなさそうだが?」
「いやー、まーね? 昨日もずっこんばっこん大変だったわよ」
「そんなん知らん」
引き攣った笑みを浮かべつつもスムーズに対応しているユーリを見て、凄いと感じているマリア。
「いや、でもね。彼女達を助けてくれた事は、一応感謝してるんだよ? 私も」
「一応ね。その言葉が付いてるから、本心だと思えたよ。逆に」
「いやー、私もこの町で食ってるからね~仲間は大切にーっヤツだよ」
ゲラゲラ笑っている彼女。本当に相変わらずなのである。
「ま、色々と聞いてるわ。マリアも無事で何よりってね」
わざとらしく祈るポーズを決めたロゼ。中身を知っていないと、読めないだろうけど。……否、格好を見たら大体は読めるだろう。
「あはは……、ロゼさんにもご迷惑をおかけしました」
「いーや、私 神魔法一応使えるし? 金も取れるから結構ウハウハだったんだけどね? 実は」
「それ、言わなくていいだろ……」
「あははは、ロゼさんとは、私達も付き合い長いからわかってるって、ユーリさん」
「ああ、そうだったな」
ユーリはそう言い笑っていた。
この町でシスターをやっている以上。自分よりはるかに付き合いが長いのだろうと思えるからだ。
「それより、ロゼは何しに来たんだ? 計ったように来たって事はオレ達に用事があるのか?」
「えぇ勿論勿論、よし! 聞いて驚けユーリ!」
「ゴクリ……」
ロゼが手を広げて何かを言おうとしたとき、マリアがわざとらしく生唾を飲み込む。ユーリはと言うと、かなりげんなりとしている様だ。
「私が筆下ろしをしてあげましょう! これで、童貞ならぬ、童顔卒業!」
「やかましいわ」
何処から取り出したのか、ユーリはハリセンで頭を叩いていた。このセリフを言われたのは2回目だ。
とは言え、ユーリ自身も扱いには手慣れたものだとマリアは思えていた。
だが、相手はロゼ。まだ、安心するには早いだろう……ユーリ君?
「そもそも、安心なんて出来ん。……ロゼ相手なら」
誰につっこんだのか……、ユーリは誰にも聞こえないくらい小さな声でそうボソリと呟いていた。
後書き
〜人物紹介〜
□ エレノア・ラン
Lv15/30
技能 魔法Lv1(幻覚系) 剣戦闘Lv1
カスタム四魔女の一角であり、その魔女の中で最年長者。
幻覚魔法の使い手にして、剣の腕も立つ。大陸でも数少ない実力のある魔法戦士。
……となっている模様。
妖体迷宮に立てこもって、リーダーの魔想志津香の為に拷問戦士を使って誘拐していた女の子達の調教をしていた。性格は淫蕩で残忍。バードとシィルのコンビを壊滅寸前にまで追い詰めたが、その後ランス達に倒される。
その性格は勿論指輪の影響であり、解放された時に自分自身を責め、自殺まで考えてしまったほどの優しい性格。ユーリやランスの励ましのおかげで前を向いて歩けそうだと、言えていた。
尚、予断だが 原作では戦闘描写すら無く一瞬で終わってしまったのだが、文字数アップで大幅に戦闘出番が増えた為、この世界では出世者。
……それでも、最速で負けたのは勿論仕様である
〜技紹介〜
□ 幻覚魔法
エレノア・ランが最も得意とする魔法。
目を媒介にし、相手を催眠状態に陥れ、意のままに操る魔法。操られてしまったら、本人の集中力を下げるしか、逃れる術は無い極めて厄介な魔法。目を見なければ大丈夫……と安易に思っちゃったら行き着く先は、バード君です。
……厄介なのにあっさりと負けてしまったのは勿論仕様である。
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