知られない戦闘
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第四章
「それならわかるな」
「はい、これ以上の戦闘は意味がない」
「してはならない」
「そういうことですね」
「ではいいな、ドイツ軍に投降するぞ」
「白旗を掲げて」
こうしてだった、ダムも現実を受け入れてだった。
自分が指揮する兵達にだ、こう言った。
「聞いての通りだ」
「降伏ですか」
「俺達は負けた気がしないんですけれどね」
「国は負けましたか」
「ベルギーは」
「ああ、それなら仕方がない」
兵達に言うのだった。
「いいな」
「わかりましたって言うしかないですね」
「それじゃあ」
「俺達も武器は捨てます」
「それしかないですからね」
兵達は肩を落としてだ、やれやれという顔でだった。
ホフマンに応えてだ、投降という命令に従った。こうしてホフマンもダムも彼等の部隊も投降したのだった。
彼等の部隊は損害は少なくしかもドイツ軍の攻撃を寄せ付けなかった、このことは戦争が終わってからも賞賛された、だが。
学生達は居酒屋でその話を聞いてだ、目を丸くさせて言った。
「いや、そんなことがあったんですか」
「ベルギー軍にも」
「健闘した部隊もあったんですね」
「教授のお父さんの部隊みたいな部隊が」
「いやいや、父の部隊だけではないよ」
ダム教授は笑ってだ、学生達に話した。
「他にも、いやベルギー軍全体がですね」
「奮闘したんですか」
「そうなんですか」
「勇敢にかつ果敢に戦ったんだよ。国王陛下の下でね」
そうだったというのだ。98
「騎士、兵士としてね。誰もが」
「いや、以外ですね」
「そうだったんですね」
「すぐに負けたから弱いと思っていたら」
「違ったんですね」
「確かにすぐに負けたけれどね」
ダムもこのことは少しばかりの苦笑いと共に否定しなかった。
「けれどね」
「それでもですね」
「奮闘していたんですね、ベルギー軍も」
「そうだったんですね」
「そうだよ、このことは日本ではあまり知られていないけれど」
しかしというのだ。
「そうだったんだよ」
「そうですか、それで教授のお父さんは」
「その戦争では生き残られたんですよね」
「そうですよね」
「うん、父もホフマン大尉も生き残ったよ。けれどね」
ここでだ、ダムが言うことはというと。
「大尉は軍に残られたけれど父は軍を辞してね」
「他のお仕事にですか」
「就かれたんですね」
「警備会社をはじめてそれで成功して」
そしてというのだ。
「二十年前に死んだよ」
「そうですか」
「もうこの世には」
「うん、けれどわかってくれたかな」
あらためてだ、ダムは生徒達に尋ねた。
「我が国の軍の戦いは」
「はい、健闘していたんですね」
「大戦中のベルギー軍も」
「ドイツ軍相手に勇敢だったんですね」
「そうだよ、そのことを知っていてくれれば何よりだよ」
笑って言ってだ、ダムは焼き鳥を食べてからビールを楽しんだ。日本の味を楽しみつつ日本の生徒達に自国の過去の健闘を話せたことに満足していた。
知られない健闘 完
2015・4・25
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