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少年の知恵

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1部分:第一章


第一章

                       少年の知恵
 トンガにある古いお話です。
 ムオイはお父さんとお母さんの手伝いで漁師をしている男の子です。いつも真面目に働くいい子でとても明るい性格をしています。
 彼は泳ぐのも得意で海の中に飛び込んで銛で大きな魚を獲ったりもします。しかしです。
 その彼にです。いつも意地悪をする相手がいました。
 鮫のククです。彼は何かというとムオイのところに来てです。魚を取ったりぶつかってきたりして嫌がらせをしてくるのです。
 そのククに対してです。ムオイは怒って言うのでした。
「いつも何でそんなことするんだ」
「決まってるだろ、楽しいからだよ」
 こう言い返すククでした。その大きな身体を海の中で泳がせながら言うのでした。彼等は今海の中にいて言い争っています。ククがまたマオイが捕まえた魚を横から出て来て食べたからです。
「こうして御前をからかうのがな」
「性格悪いな、御前」
 思わずこう言い返すムオイでした。
「何時か思い知らせてやるからな」
「そんなことできるものか」
 ククはそのマオイに対して笑いながら返します。
「絶対に」
「いいや、やってやるからな」
 こう言うマオイでした。海の中で泳ぎながら地団駄を踏んでいます。
「もう怒ったからな」
「勝手に怒ってろ」
「本当に性格の悪い奴だな」
「人間が海の中で鮫に勝てるものか」
 ククの今度の言葉はこれでした。
「大きさだけじゃないからな」
「その牙か」
「それだけじゃないんだよ」
 その二つだけではないというのです。鮫は。
「泳ぎが違うんだよ、泳ぎが」
「何っ、泳ぎか」
「鮫はいつも泳いでるんだよ。寝てる間だってな」
 鮫はそうした魚なのです。とにかくいつも泳いでいないと駄目なのです。ククはマオイに対してこのことを言うのでした。
「人間はそうはいかないだろ」
「それはそうだけれどな」 
 マオイもそのことは認めるしかありませんでした。人間だからです。
 それでもだと。彼は言いました。
「人間だって負けるものか」
「この海の中でかい」
「そうだ、鮫に負けるもんか」
 こうククに言うのです。
「見てろよ、御前をぎゃふんと言わせてやるからな」
「言うねえ。それじゃあな」
「ああ、それじゃあ何だ」
「実際に俺をぎゃふんと言わせてみな」
 ククは笑いながらマオイに告げます。
「そんなことができるんだったらな」
「やってみせるさ。それでもしな」
「ああ、もしかい」
「御前をぎゃふんと言わせられたら」
 マオイはあくまで、です。ククに対して強気でした。
「その時はもう悪戯なんてするなよ」
「わかってるさ。それじゃあな」
「楽しみにしてるさ。精々頑張るんだな」
 ククはマオイを最後まで馬鹿にして今はその場を泳ぎ去るのでした。マオイはそのククが泳いでいくのを見てからです。まずは海から出てお家に上がりました。
 そしてそれから。彼はお父さんとお母さんに相談をしました。
「ねえ、いいかな」
「んっ、どうしたんだ?」
「何かあったのかい?」
「うん、鮫と喧嘩してるんだ」
 ククとのことをです。まずはそのことをありのまま話すのでした。
「あのククとね」
「そうかい、あいつとかい」
「また喧嘩してるんだね」
「そうだよ。それでね」
 このことを話してなのでした。
「あいつをぎゃふんと言わせたいんだ」
「それはまた物騒だな」
「そうね、ぎゃふんとなんて」
 お父さんとお母さんはです。マオイの何時になり強い言葉を聞いてこう言うのでした。そしてそのうえでまた二人に話すのでした。
「そんなことを言うなんてな」
「しかもいきなりって」
「あいつの悪戯にはもう頭に来ているんだよ」
 マオイはその小さな口を尖らせて言います。
 
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