鬼山県
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第四章
「目指すは織田信長の首ぞ!」
「おおーーーーーーーっ!!」
兵達は山県の言葉に応えて彼に続く、その勢いはこの時も炎の様だった。
赤備えの軍勢の突進は織田軍からも見えていた、それを見てだった。
織田の兵達は流石に怖気付いた、だが。
信長は彼等にだ、確かな声で言った。
「案ずることはない」
「川と柵があるからですか」
「だからですか」
「そうじゃ、この二つが御主達を守ってくれる」
それ故にというのだ。
「御主達が恐れることはない」
「では柵の中から」
「殿のお考え通り」
「撃つのじゃ」
鉄砲、それをというのだ。
「よいな」
「畏まりました」
「では武田の軍勢が傍に来れば」
「その時に」
「手筈通り」
兵達は信長の言葉に頷いてだ、そしてだった。
鉄砲を構え山県の軍勢が傍まで来るのを待った。山県は川と柵の向こうの織田の軍勢の構えを見ていた、だが。
それでもだ、兵達と共に突っ込んだ。その彼等に。
織田の軍勢は鉄砲を放った、その弾の数は尋常なものではなく。
多くの兵が倒れた、山県自身傷を負った。だがそれでもだった。
山県は兵達にだ、こう命じた。
「進め!」
「鉄砲に怯まず!」
「このままですな!」
「そうじゃ!」
まさにというのだ、鉄砲傷から流れる血をものともせずだった。山県は敵陣を見据えてそして言うのだった。
「柵を壊せ!そして穴を開けるのじゃ!」
「鉄砲があろうとも」
「それでもですな」
「そうじゃ、鉄砲を撃てば弾を込める」
これは絶対のことだ、鉄砲は一度撃つと弾を込めなくてはならない。
それでだ、その間にというのだ。
「そこに切り込む、よいな」
「では」
「このまま」
「退くな」
決して、というのだ。
「わかったな」
「では我等火となり」
「赤備えの戦を見せてやります」
流石は山県の兵達だった、誰も目は死んでいなかった。
山県はその彼等を率い鉄砲を受けてもまだ来た、そして織田軍の柵に迫っていた。その赤備えの軍勢と見て。
織田の兵達は仰天した、特に先頭の馬に乗る小柄な男を見て。
「あれが山県か!」
「山県昌景が来たぞ!」
「傷を受けておるのに全く怯んでおらぬ!」
「鬼かあれは!」
「また来たか」
家康はその山県を見て蒼白になった。
「あの者が」
「はい、前田利家殿の方に向かっています」
家臣の一人が家康に答えた。
「あちらに」
「そうじゃな、又左殿の方にな」
「又左殿は武辺者ですが」
槍の又左という、織田家の中でも戦の強さで知られている。
だがその前田でもというのだ、山県が相手では。
「どうなるか」
「そうじゃな、しかし鉄砲がある」
家康もまた鉄砲を見ていた。
「それでな」
「戦えばですか」
「どうにかなるやも知れぬな」
家康は山県の恐ろしさを知っていた、それ故に彼が柵を倒すのではないかと危惧していた。山県の炎の様な突進は終わらない。
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