【IS】例えばこんな生活は。
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例えばこんな未来もありえたかもしれない(完)
前書き
まともに戦ったらリューガに勝てないから最後の切り札をどうしようか迷った挙句……この有様だよ!
書かないまま終わっていいのかな……と前から気になってたので、書くことにしました。
10月20日(『例えばこんなものはもう訓練ではなくて決闘だろ』から続くパラレル)
オウカはいつも元気で、逞しくて、怖いもの知らずで……
「そうか。――オウカのパートナーは戦いたくないようだが?」
『……!!』
「っ!!」
……さっきからここで震えてる弱虫の俺とは大違いだよ。
ああ、正直に言うけど……怖いよ。今までだって皆から銃だの剣だの向けられて震えあがるほど怖かった。オウカが護ってくれるという安心があったから、顔に出さず訓練に付き合うことも出来てた。
でも今回は違うよ。攻撃が当たるし、痛いし、次にいつ衝撃が襲うか分からない。
実力で上回る相手だ。しかも、オウカにまかせっきりの俺は何をすることも出来やしない。
IS同士の戦いって、本当はこんなに怖くて辛いものだったんだ。
リューガさんが真剣なのは、どこかで戦いを甘く見積もっていた俺への警告なんだろう。
『……………ゴエモン』
「この戦いに負けたからと言ってオウカが弱くなるわけではないだろう。敗北から学ぶこともある。別にここで君がリタイアしても誰も責めはしないだろう……なにより、桜花幻影の花弁で今の俺達の戦いは殆ど外部から見えていないのだし」
そう言葉を投げかけるリューガさんの目には、「中途半端な覚悟で戦うな」という強い意志が込められていて、まるで今まで気楽に話していたリューガさんと別人みたいだった。突きつけられたディバインアームに反射する俺の引き攣った顔がさらに恐怖を加速させる。
怖いなぁ。手が、脚が震える。悲鳴が上がらないように我慢するのも、限界かもしれない。
逃げて良い……かぁ。逃げよっかなぁ。リューガさんもこう言っているし。
ああ、でも。俺が引いたらオウカの立場はどうなるんだよ。
俺の為にここまで頑張って戦ってたんだぞ。一緒に戦えない俺の為に。
そんなオウカの為に立ち上がれない俺も情けないけど……リューガさん、あなたはオウカの事をどれくらい知ってるって言うんだ。
オウカが本当は凄く脆い子なんだって。
今も激しく動揺して、自分がどこにいるか分からなくなってるんだ。
それを知っててそんなことを言うのか。
だったら俺も引けない。そして退けないよ。
負けられないんだ、この戦いは。
でも、俺だけの力が加わってもあの牙城を崩せるか分からない。
どうすれば……こんなの初めての事だ。オウカが強いから守られてたけど、オウカを守るなんて――
――いや。
いや、とても卑怯なことかもしれないぞこれは。
いいんだろうかこんなことをして。ぶっちゃけ手段を選ばないにも程がある。
でも――この状況をひっくり返してオウカを守ってくれるような、強くて、優しくて、いつだって俺の味方になってくれる上にこんな無茶を聞いてくれる人は………一人しか思いつかない。
俺は精一杯肺に空気を溜めこみ、一気に解放した。
「ジェェェェーーーーーンッ!!」
「な……何だゴエモンッ!!」
この騒がしい会場でも俺達の耳に届くほどのハイパーボイスが俺に届く。
「オウカを傷付けたくないんだ!でも俺じゃ力が足りない!だから――」
今まで、本当に困ってることなんて誰にも言えなかった。
でも、彼女なら。
俺の秘密を解き明かして尚、不器用に受け入れてくれた彼女だから。
俺は、この卑怯な一言を言えるよ。
「助けて、ジェーンッ!!反則負けになっていいから助けてッ!!」
「もっと早く私を頼ってろ、バカぁッ!!」
瞬間――アリーナ内にバリアを粉砕するほどの轟音を振りまきながら、美しくも恐ろしき白狼が飛び込んだ。
= =
赤、紅、朱。
力の赤、熱の赤、炎の赤、太陽の赤――情熱の赤。
白、純、潔。
正義の白。無罪の白。空白の白――純粋の白。
混ざる、混ざる。想いが混ざる。
ゴエモンの声を聞いた時、もうジェーンは観客席からISを展開して飛び立っていた。
ゴエモンが助けを求めた時、もうジェーンは『白狼』を躊躇いなく発動させた。
ゴエモンの期待に応えるため――ジェーンは何もかもの常識と立場をかなぐり捨ててバリアをぶち抜いた。
『す、すごい……すごいよママ!!エネルギー出力が400%を越えてるのに、完全に掌握してる!!こんなに激しいのに、気持ちいい……これがママの純情なんだ。パパへの想いなんだ!!』
「ああ、そうだ。この馬鹿……助けを求めるのが遅すぎるんだよ!やっと、ようやく、ついに!私にお前を助けさせてくれるんだな!?」
力が漲る。湯水のように心の奥底から湧き出る感情、愛おしさと歓喜が全身を支配する。
身体を蝕むほどのバリアエネルギーの奔流が、四肢の隅々まで馴染み、体の一部になるよう。
そして、思いの源は自分でも呆れるほど単純で嬉しいこと。
ゴエモンが、頼ってくれた。
「………ゴエモン君がこんな手段を使ったのも驚きだけど、こんな滅茶苦茶な頼みに君がこんなに早く応えるとは俺も予想外だったよ、ジェーン」
『だが相手が一機だろうが二機だろうが、我等の優位は揺るがな――』
「黙れ小娘が。ピーチクパーチク黙って聞いてりゃさっきからオウカにあることないことグチャグチャくっちゃべりやがって!!」
『なっ――』
「いいか!耳をかっぽじってよく聞きやがれ!!」
人生でここまでハイになったのは、オウカとの喧嘩以来か。
でも、喧嘩した私だからこそ、分かることがある。
オウカの事は、私はゴエモン以上に知ってるつもりだから。
同じ男を好きになってるんだから。
「ゴエモンの為!!たったそれだけの事実があれば、オウカは千の空母でも万のミサイルでも、億のISだろうと喜んで敵に回すんだよ!!アイツのことがこの世界で誰よりも大好きだからだ!!……だがな!!だからこそ、本当はすげぇ弱い子なんだよ!!弱いけど、それでも守りたいから戦ってるんだろ!!それを天才だか盆栽だか知らんいけすかないクソガキにくっつかないと戦えない分際で……一人で戦えもしない奴が知った風に言うんじゃねええええええええええええッ!!」
外面もへったくれもなく、私は言いたいことを目一杯叩きつけてやった。
「そしてもう一つ!!私もなぁ、オウカに負けないくらいゴエモンの馬鹿が好きなんだよッ!!トボけてるところも、優しいところも、ふにゃっと笑ってるところも、本当は一杯苦しんでたのにそれでも御人好しだったところも!!ゴエモンが私のことを受け入れてくれたとき、私は決めたんだ……ゴエモンが求めるなら、私はあいつの障害になる相手を一人残らず叩き潰してゴエモンを守り通してやろうってなぁッ!!」
世界は狭くて暗かった。何年も何年も、私の心はずっと縛り付けられていた。あのクソッタレな実験室の隅っこで暗い場所に引きこもって、灰色の世界に怯えて震えていた。震えてる自分に気付きたくなくて、自分で自分の心を殴りつけながら。
そんな世界で、光が見えたんだ。
真田悟衛門っていうお人よしが、私にある筈のない『家族』をくれたんだ。
オウカがいた。ニヒロがいた。光子さんも、ラウラみたいなやつも……あいつの光を見たから、全部開けて行ったんだ。
「そうすると決めたから……あいつと歩むんだと決めたからッ!!!」
どくん、と心の奥底で激しい胎動が起きた。
『産まれる、唯一無二の意志が……!始まる、ジェーン・ネスキオと私が……!これが始まりだ!生命の叫びだ!!』
――唯一仕様特殊能力『海誓山盟』、覚醒。
効果は、ただ一つだけだ。
ただ、『ジェーンが心に誓った盟約が果たされる限り、ジェーンは無敵になる』。
無限の出力と、無限の回復。そして無限の防御力と無限の攻撃力。
そして、ジェーンが自ら心に誓うのは、ただ一つ。
「目の前に敵が現れて、ゴエモンが助けてって言ってるんだよ!だから――」
白き髪を振り乱す妖艶なる鬼神は、無限に増幅されたエネルギーを自らの剣に注ぎ込み――全てを、縦一閃に斬り裂いた。
「てめぇらはここで纏めて経津陀斬れちまいなぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
その瞬間、リューガは本能的に自分の敗北を悟った。
その瞬間、ルーシィは世界が自分の思っているほど狭くない事を知った。
その瞬間、ゴエモンとオウカは――
『IS学園が島ごと真っ二つになるのを目撃した』。
切り口が余りにも鮮やかすぎて逆に何も起きていないのではと思える時間の後、ぱらり、と剣の直線上に居た女子生徒の服が真っ二つになった。続いて背後の席にいたカメラマンのカメラと服が、壁にあったモニターからスパークと黒煙が。そして極めつけに、アリーナの外に見えていたIS学園名物『無駄に前衛的な造形だけど何の設備だかわからないタワー』が轟音を立てて崩壊を始めた。
『残存エネルギーゼロ……敗、北』
「え?……え、ちょっとヤダ!!何で私の服が……ぱ、パンツとブラまで切れてるし!?」
「ぼ、僕のカメラが!!20万した一眼レフがぁぁぁッ!?」
『緊急事態発生!!緊急事態発生!!島の管理システムに致命的なダメージが発生しました!関係者各員は民間人の避難誘導の後、持ち場を放棄して脱出してください!!繰り返します――』
阿鼻叫喚の大惨事……なのに、怪我人の一つすらない。
それは、ジェーンが『ゴエモンは相手を傷付けるのが嫌だろう』と思っていたから。
ただ、それだけだった。
「………ふむ、普通にやりすぎた」
『や、刃が人やISの命を奪わない法則持っててよかった……!内包してなかったら普通にリューガとか観客の人とか真っ二つになってたよ……!!』
……やった本人たちは絶え間ないレベルで冷や汗をかいていたが。
= =
その日世界中の新聞の一面を飾ったのは、『IS学園、両断』という衝撃的な内容だった。
報道内容によると、試合で負けていた真田悟衛門の同級生であるジェーン・ネスキオが試合中にアリーナに乱入し、その場で対戦相手のリューガ・ゾルダークを剣で撃墜。その攻撃の余波がすっぱりと広大なIS学園という島そのものを両断してしまったというものだった。
凄まじい威力に反して死者・怪我人はゼロだったが、被害そのものは甚大。剣の直線状にあった全施設と地下ケーブルが両断されたことによってIS学園は一時的な機能不全に陥るという前代未聞の大惨事に見舞われた。
事件を引き起こした張本人は「元上司に頼まれてやったので詳細は知らない」と盛大な責任逃れをかまし、何食わぬ顔でゴエモンと一緒にいるという有様だった。
「で、ジェーンは何って言ってるの、トラッシュ?」
「うん……『やりたいことが出来たので仕事辞めます。ISは退職金代わりに貰っていきます。後始末はそっちで付けてください。追伸:ゴエモンに手を出してくるようなら全身全霊で鰐を殺す』、だそうです」
「あらぁ、もう完全にS.A.に戻ってくる気ゼロね……」
ヒポクリットは猛スピードで学園の修繕に為の書類を片づけながらため息をつく。
いや、元々彼女には人間らしさを学んでほしかったからこういう反抗的な態度に腹は立たないのだ。腹は立たないのだが……まさかこんな大胆な形で組織をバックレるとは全く想像していなかっただけに寝耳に水だ。
しかもアリス曰く、「勢いでやっちゃった面倒事を押し付けるだけ押し付けて逃げただけ」らしく、これは完全に計画性ゼロのバックレだと断定した。……説明するアリスは心底面白そうだったが。
しかしうまいやり方だ。隊員達はその大半がこの状況を面白がっており、ジェーンを取り戻しに行く気はゼロ。仮に戻そうにも唯一仕様特殊能力のせいで突破口が一切見つからない。その上ジェーンは組織の秘密を多く知っているため、下手に手を出せば盛大に組織の存在がバラされてしまう。
「まぁまぁヒポクリット!どうせ亡国機業は潰れたんだし、仕事そんなにないでしょ!」
「だーよねー?もうジェーンちゃん自由にしたってイイんじゃないのー?」
「そうそう。折角ジェーンが『女の子』になったのよ?私たちが背中を押してやらずにどうするの?」
「末永くばくは……アイタタタタ!?ちょちょちょアリス!踏んでる、足踏んでる!!冗談だって普通にお幸せ願ってますって!!」
……とまぁ、そんな訳で。
ジェーンはこの日を持ってS.A.を寿退職することとなったのであった。
= =
ジェーンは、待っていた。
現在、ゴエモンが部屋の中でオウカの全力慰めを決行している。ジェーンの超人的な聴力とISリンクを持ってすれば内容を確かめることなど容易いが、それでもジェーンは何もせずに待っていた。
今回、オウカの負った心の傷は大きい。
結局ジェーンに助けられることとなったオウカは、自力で勝つことのできない脅威があることを認知。そして、ゴエモンの期待に沿うことが出来なかったせいで自己の存在意義が崩壊しかけているのだ。
ジェーンも精一杯慰めたが、オウカを救えるのはゴエモンだけだ。
「くっつくかなぁ、あの二人」
ぽつりと漏れた呟きに、ニヒロが答えた。
『………ママを応援したいけど、やっぱりくっつくんじゃない?』
「だよなぁ……私より付き合い長いからなぁ」
二人の絆はジェーンとゴエモンの間にあるものとは別物だ。二人の繋がりは、きっと死が別つまで――いや、別った後も途切れることはないだろう。自分の一方的な物とは違って、確かに二人は通じ合ってきたのだ。
やがて、部屋のドアが開く。
やっと出て来たか、と壁にもたれかかっていたジェーンは体を伸ばした。
「遅かったなゴエモ…………んん?」
あれ、何故かゴエモンがオウカにグイグイ押されて出て来たぞ。
「どうしたんだお前……説得しに行ったんじゃないの?」
「いや、説得しにいったんだけど……オウカが元気になると同時に『ジェーンはどこ!?』って……」
「あ、いた!ジェーン!!」
オウカだ。目元がちょっと腫れているが、もう泣き止んだのか今の姿からは活気が満ち溢れている。だが、オウカにしては珍しくちょっと怒った表情が見えた。それも私を見たら一気に綻んだが。
「あのね、ジェーン!!」
「お、おう。どうした」
ひしっ!とジェーンに抱き着いてきたオウカは、えへへっと笑った。
「そのね……ゴエモンのこと助けてくれたのも嬉しかったけど、本当は私の為に怒ってくれたことが一番嬉しかったんだ。私、ゴエモンの事ばっかり考えてて、友達のこと忘れてた」
「………辛かったらいつでも頼ればいいんだよ。お前もゴエモンに似てぶきっちょだ」
「まぁ、あんなに大暴れするとは思わなかったけど……ありがと!」
「どういたしまして……お前にお礼言われたのって初めてな気がするな」
心に乱れや不安定なハレーションが感じられない。完全に立ち直ったらしい。
しかし、ならば何故怒りながらゴエモンを部屋の外に出したのだろう。もっと狂喜乱舞してもおかしくなさそうだが……何かやらかしたのか、あいつ?
「……っと、忘れるところだった。あのね、ジェーン。私、ゴエモンから好きって言われたの」
「そっか。おめでとう」
「でもね………でもね………!」
「でも、どうした?」
次の瞬間、チャージされていたオウカの謎の不満が爆発した!!
「………ゴエモンの為に本当に頑張ったのはジェーンでしょ!?なのに、何で一番頑張ってくれたジェーンじゃなくて私に先に告白するのッ!?嬉しいけど順番違うでしょっ!!……ってことよ!!という訳で………ゴエモン!!」
「はいっ!!」
「ん!!」
勢いよく敬礼で返事したゴエモンの下に、私の背中がグイグイ押される。
なんかよくわからんが凄い行動力だ。今までのオウカがこんなに強引な手段を取ったことがあっただろうか。告白以外でも何かが吹っ切れたらしい。
「……えっと、ジェーン」
「何だ、ゴエモン」
言葉を選ぶように視線をふらふらさせているゴエモンの背中をオウカが小突く。「あうっ」と悲鳴を漏らしたゴエモンは、今度はしっかりジェーンの眼を見据える。
「あのね、ジェーン。俺とオウカを助けてくれてありがとう!」
「そりゃピットに帰還した時も聞いたんだが……」
「そうじゃなくて!……俺、ジェーンさんを頼ってみて気付いたことがあるんだ」
静かにゴエモンは語り出した。
「俺、今までオウカに守られてるって思ってたんだ。でも、今日それがちょっと違ってることに気付かされた。俺……本当はオウカと支え合って生きてたんだ」
「知ってるさ。お前らがずっと一緒にいたことも、一緒に成長し合ってきたことも」
「うん………でも、だからこそ駄目なんだ。俺とオウカは一心同体だけど、それは二人で戦ってるんじゃない。二人が一つになって、どうにかこうにか戦ってるだけだった………俺もオウカも負けちゃうと、そのまま負けちゃうんだよ」
弱さ――ゴエモンに何所か似つかわしくて、そして戦いそのものから縁遠いゴエモンが発するにはどうにも似合わない言葉だ。けれど、その言葉を発する人間は、必ずその逆――つまり強さを求める。ゴエモンもオウカも、このままじゃ駄目だと思ったらしい。
「勝てない、負ける……って思った時、俺が真っ先に思いついたのがジェーンに助けを求めることだった。すげぇ情けないし、卑怯な事しちゃったってリューガさん達にも謝った。それでも俺………あの時、ジェーンなら絶対に助けてくれるって思っちゃったよ」
「当たり前だ。私はお前を護衛するのが趣味だぞ?」
『なにその趣味……』
(黙ってろ今いいところだから)
ニヒロの茶々を黙らせて、私は辛抱強くゴエモンの出した答えを待った。
オウカもまた、固唾をのんでゴエモンの様子を見守っている。
「俺さ………俺、母さんの事があって以来初めてなんだよね。全面的に人に頼り切っちゃったのって。いつも自分でどうにかしなきゃって悩んで、力を借りて一緒に挑むことはあってもまかせっきりって無かったんだ。それで、実際に頼り切っちゃって、あんなこと言われて………」
「言われて?」
「………ああもう!!――惚れちゃったんだよ!!オウカの『大好き』は心があったまるけど、ジェーンの『大好き』はこう、心を奪われるような力強さだったんだ!!」
ゴエモンの顔は、既に熟れたリンゴより真赤になっている。
でも今まででに見たどのゴエモンより、自分のために一生懸命になってる感じがする。
………あ、そっか。ゴエモンって今まで他人に求められて応えてたけど、今のゴエモンはひょっとして、私を求めてくれてるのか?
なんだ、その、悪くない。非常に悪くない。とてもとても悪くないというか、心臓の鼓動がビックリするぐらいドキドキしてるというか、そわそわしすぎて髪の毛が白く輝きだしたというか、喉の奥で心地よい何かが蠢いているというか。
ともかく、なんだ。私は多分この感覚をずっと求めてたんだろう。
この『嬉しい』を。
「………一緒に居たいなって、思ったんだ。時々ちょっとドジで可愛いけど、戦いだと格好いいヒーローになるジェーンに……いつも隣にいてほしいんだっ……!!」
「い……いてやるさ!いつだっていてやる!頼まれなくたって助けてやるんだからな!!そうだ、私は強くて格好いいゴエモンの家族だ!!」
私はゴエモンの肩に手をかけて顔を近づけた。
びっくりした様子のゴエモンは一瞬どうしようかとしどろもどろになったが、私の顔が近づくとちょっと涙目になりながらも覚悟を決めたように目をつぶった。……いや、そういうつもりで掴んだんじゃないんだが。
なんか、女の子みたいな反応だな――と愛おしくなってしまう。
愛おしいゴエモン。その反応は、私を受け入れたと考えて良いのか。
「いいのか、お前に求めてしまうんだぞ?」
「……お、俺だって求めてるよ!」
「オウカ、お前は私がゴエモンと一緒に居てもいいのか?」
「うん……一人じゃ守りきれる自信ないし、愛も負担もはんぶんこで手を打つよ!……後でちゃんと返してよね?」
そういえば告白は済ませたんだったか。その上で私もゴエモンを愛していいと決めたのか。
どこで男をはんぶんこなんて覚えたんだか、と苦笑いするが、案外それもオウカらしい。
改めて向かい合うと、相変わらずゴエモンは真赤なままだった。悪戯心が湧いて、耳元でささやく。
「私はワガママだぞ。家族は家族でも、お前の隣にいないと気が済まないんだ。オウカも纏めて守ってやるから………私がお前の花嫁ってやつになってもいいか?」
「あ……俺が頼もうと思ってたのにぃ……」
「ぷっ……なんだそれ」
あんまりにも情けない返事がまた可笑しくて――でも、本当の意味で家族になるという、叶わないと思っていた「夢」が叶って――
「んっ……」
私は、静かにゴエモンと唇を重ねた。
甘酸っぱい味はしなかったが、何だか癖になりそうな暖かさだった。
あの日の私よ。暗い実験室の隅で、いもしない家族を求めて地を這っていた私よ。
未来の私はこんなにも頼りなくて暖かい家族を手に入れたぞ。
だからお前も、いつか絶対幸せな世界に行ける。
早く現在へ昇って来い、昔の私。
後書き
『海誓山盟』は精神に左右されますが、それでも零落白夜でさえ突破不可能な防御と零落白夜以上のパワーで、ガス欠無しという絶対能力です。攻撃に概念付加まで可能。余りにも強すぎてその後公式試合では世界初の使用禁止になりました。
なお、この後の顛末はおおむね本編EDと一緒です。ただ、オウカはプレイベートパートナーからちょっとずつ独立の道に成長し、ジェーンはゴエモンと程よく甘い新婚生活を送ります。
この話、書く気はなかったんですが感想で「ジェーン来ると思ってた」と言われてからずっと引っかかりがあったので、この際だからと他の話ごと書上げました。
今度こそ……完結です。ありがとうございました!
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