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俺と乞食とその他諸々の日常

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三十三話:お誘いと日常


「よォーし! 学年78位ッ! 二桁順位キープだオラァ~!」
「毎度毎度あんな発破のかけ方で良く頑張れるよな、こいつ」
「あ? なんか言ったか?」
「いや、何でもない」

 今日は成績開示日だ。
 結果に対してへこんでいたり、喜んでいたり、嬉しさからか悲しさからか笑う奴が湧く日だ。
 見ての通りハリーは喜ぶ奴だ。ルカとリンダは追試じゃなかったことにホッとしているのかグッタリとしている。

「でも、みんな追試にならなくてよかった」

 そう言って自分よりも他人を心配しているのはミアだ。
 因みにミアの順位は7位だった。そして俺の今回の成績は2位だった。
 ミカヤに勉強の邪魔をされたのが響いたか?

「お前が教えてくれたおかげだぜ」
「安心したよ~」
「お世話になってる~」
「あの、俺も教えたと思うんだが?」
『ミア~』

 ヒシッとミアに抱き着きながら感謝の言葉を告げる三人。
 どうやら、彼女達の頭の中からは俺も一緒になって勉強を教えたことは削除されているらしい。
 勉強中に削除削除言いまくったせいだろうか。
 まあ、抱き着かれてもジークが飛んできそうで困るけど。

『おい、またノーマンが女と居るぞ。爆ぜろ』
『なんであんな奴が……爆ぜればいいのに』
『この前なんか巨乳のお姉さんと食事してたんだぜ、あいつ。まじで爆発しろ』
『し、聞こえたらどうするの?』

 聞こえているよ。よーく聞こえているよ。
 クラスメイトの男子共の声を聞こえないふりをしながら溜息を吐く。
 何も俺が狙って女の子と居るわけじゃないんだがな。
 遊びにでも誘ってくれたらハリー達なんか置いて付き合うというのに。

「ん、メールが来ているな。……アインハルトちゃんからか」
「お前も来たのか、オレァはチビ達の方からだけどよ、多分『学院祭』の招待だろうよ」
「そう言えばもうそんな時期か」

 アインハルトちゃんは何をするのだろうかと考えながらメールを開く。


『お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん。もしかしてお兄様の方がいいでしょか? お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様。やっぱりお兄ちゃんの方がしっくり来ますね。お兄ちゃん、今度の私の通うSt.ヒルデ魔法学院で『学院祭』が開かれますのでお時間が合いましたら来てくれると嬉しいです』


 無言で端末を操作して勿論行くと送り返す。
 因みに後ろでメールの内容を見ていたハリー達も無言だ。
 というか言葉を発する勇気を奪われている。

「……そう言えば最近会ってなかったからな。寂しかったんだな、うん」
「寂しいって可愛らしい物じゃねーだろこれ!? 下手しなくても病んでるだろこれ!」
「大丈夫だ。ちゃんと会ってなでなでしてやれば元に戻る……はず」

 だよな? そうだよな、ちゃんと元の可愛い妹に戻るよな。
 まだヤンデレ一歩手前で踏みとどまってるよな。そうだと言ってよ、ハリー。

「本当だろうな?」
「待て、俺も突然過ぎて混乱しているんだ。余り話しかけないでくれ」
「いや、なんか悪い。良く分からねーけどホント悪い」

 何か真顔で混乱しているというとハリーから本気で謝られてしまった。
 やめろ、本気で謝られると妹が本当に取り返しのつかない領域に行ったように感じるんだ。
 お願いだからやめてください!

「と、とにかく学院祭楽しみだね」
「流血沙汰にならないことを今から祈っておくよ」
「それと、リヒターは一番に行ってあげること。それと一人で行くこと」
「ああ、うん。分かっているよ。俺もそのぐらいはさ、ははは」
「今から不安だ……」

 学院祭……始まる前から無事に終わることを祈っている俺はおかしいだろうか。




 学院祭当日。俺は一緒に行こうと駄々をこねるジークに用があると言ってエルスに押し付けて一足先に来ていた。
 恐らくはいつもは落ちついた雰囲気を漂わせる学校なのだろうが今日ばかりは祭りの空気か見た目も空気も華やかになっていた。

「さて、アインハルトちゃんは確か中等科の1年B組だったな」

 案内を見ながら進んで行くと体育館のような場所に出る。
 スポーツ系の出し物でするのか?
 そう思って電子看板を眺める。

「1年B組、スポーツバー?」
「はい、ようこそいらっしゃいました」
「と、君は司会でもやっているのかい?」

 突如現れた、というのは失礼だが青い目に黒い髪の女の子が現れる。
 マイクを持っているので恐らく司会をやっているのだろうとあたりをつけると嬉しそうに頷いた。

「すまないが、このクラスにアインハルトって子がいると思うんだが……」
「アインハルト選手ならあちらでアームレスリングを―――」
「お兄ちゃん、来てくれたんですね!」
「あ、ああ。頑張ってるみたいだな」
「え、さっきあっちに……あれ?」

 司会の子が指差した方を向いた瞬間に目の前にアインハルトちゃんが出現していた。
 何が起こったんだ? 転移でもしてきたのか。司会の子が混乱している。
 俺も混乱するが無理やり抑えて出来るだけ朗らかに返す。
 取りあえず尻尾があったらブンブン振っていそうなほどの喜び様なので来たかいはあった。

「えーと? アインハルトさんのお兄さんなんですか?」
「はい、私だけのお兄ちゃんです」
「まあ、そういうことになるのかな?」

 アインハルトちゃんの説明に一応の納得を示す司会の子。
 それと先生が遠くから俺に訝しげな視線を向けてくる。
 まあ、アインハルトちゃんが一人っ子だというのは知っているだろうから当然の反応だ。

「それにしても……その衣装どうしたんだ?」
「こ、これは皆さんに着させられて」

 そう言って恥ずかしがりながらフリフリの魔法少女のドレスを抱きしめるアインハルトちゃん。
 よかった。ヤンデレの余波で変な趣味に目覚めたわけじゃなくて。

「いや、良く似合ってる。可愛いぞ、アインハルトちゃん」
「お気に召したなら今夜はこれを着てお伺いしましょうか……」
「すいません、少し警備室でお話を聞かせて貰えませんでしょうか?」
「先生待ってください! この子時々天然発言するんです! だから警備員さんは呼ばないで下さい!」

 ほんのり頬を染めてそんなことを口走るアインハルトちゃん。
 確信をもって俺をロリコン扱いする先生。
 集まってくる警備員さん。やばい、この年でお縄は勘弁だ。
 取りあえず必死になって説明した結果誤解は解けたので胸を撫で下ろす。

「あ、危なかった。アインハルトちゃん、これから迂闊な発言はしないように」
「よく分かりませんが、分かりました」
「アインハルトさんってこんな一面もあるんだ……」

 何故ダメだったのか分からず首を傾げるアインハルトちゃん。
 そして普段はクールで通している我が妹の一面に驚いている司会の子。
 というか、そろそろ司会の子じゃ呼びづらくなってきたな。

「ところで、君の名前を教えて貰えないかな?」
「あ、ユミナ・アンクレイヴです。えーと、お兄さんは?」
「リヒター・ノーマンだ。うちの妹と仲良くしてくれているみたいで嬉しいよ」
「そ、そんな、私が勝手に話しかけているだけで……」
「そんなことはありません。ユミナさんとお話するのは楽しいです」
「アインハルトさん……」

 ユミナちゃんの手を取りニッコリと微笑みかけるアインハルトちゃん。
 ああ、こうして妹の交友関係が広がっていくのを見るのは嬉しい事だな。

「ところでお兄ちゃんは今日は一人ですか?」
「ん、今のところは一人だな。一番にお前のとこに来たからな。後でジークとエルスと合流する予定だ」
「ありがとうございます」

 一番初めに来たと言うと嬉しそうにはにかむアインハルトちゃん。
 ユミナちゃんは何やら俺の言葉に引っ掛かりを覚えたのか考え込んでいる。
 と、思ったらパッと顔を上げて尋ねてくる。

「どこかで見たことがあると思っていたんですけどもしかしてジークリンデ・エレミア選手のセコンドをやっていたりしませんか?」
「よく分かったな。ああ、あいつのセコンドをやっているよ」
「あ、あの、申し訳ないですけどサインを頼んだりとかは……」
「それ位なら構わないよ。あいつに書いて貰ったら渡してあげるよ」
「ありがとうございます!」

 めちゃくちゃ嬉しそうに笑うユミナちゃん。
 やっぱりこんな子に残酷な現実を見せるべきじゃないな。
 ジークが乞食なのは極秘にしておこう。
 チラリとアインハルトちゃんに目配せするとあちらも頷いてくれた。流石は我が妹だ。

「さてと、そろそろ催し物をさせてもらおうか」
「では、私とアームレスリングを」
「ああ……うん。お手柔らかに」
「では、楽しんでいってくださいねー」

 ユミナちゃんに見送られつつアインハルトちゃんの晴れ舞台に歩を進める。
 負けたらチャリティ品をお買い上げか……ふ、どうやらどこに行ってもサイフなのは変わらないらしいな。







おまけ~どこかの誰かの御先祖様の記憶~

「ふむ、若干失敗してしまったか。リンカーコアに微妙に影響が出ているな。まあ、命に別状はない。我の人格が覚醒すれば元に戻るだろう」

 彼女はどうとでもないように呟き我が子をそっとベッドの上に寝かす。
 これで彼女がこの国に残る理由は無くなった。乳母を呼び戻しそのまま部屋から出て行こうとしたところでふとある事を思いたつ。

「おい、乳母よ。貴様、姓は何という?」
「は、はい! 私の家系には性がありません」
「ふむ……よし。我が姓を与えよう。その代わり汝は我の子を子として迎い入れろ」
「え? え?」

 混乱する乳母をよそに彼女はこれがよいか、あれがよいかと考えをめぐらす。
 そしていい名前が思いついたのか手を打って言い渡す。

「ノーマン。そうだ、汝はこれからノーマンと名乗れ。そしてその子もまたノーマンだ」
「は、はい。ありがとうございます」
「これでもう用はないな。それでは達者でな」

 その言葉を最後に自国―――ノルマン王国から姿を消した。



 その後、ノルマン王国は聖王連合の降伏勧告を受け入れた。
 臣下達は彼女に反乱を起こし国を奪い。彼女は殺したと説明した。
 それ幸いとばかりに聖王連合は自国の王族を新たに王として据え吸収される形でノルマン王国は滅びた。
 それから数年が経ちベルカ平定間近となったとき、ゼーゲブレヒト家が納める本国に一人の女性が襲撃をかけた。

「どうした! どうした! 聖王連合の兵は数はあろうと腑抜けばかりか!」
「なんだ、あの女!? 一人で国を襲うなんて正気の沙汰じゃないぞッ!」

 まさか内側から襲われるとは思っていなかった兵士達だったがすぐに立て直しを図ろうとする。
 しかし、彼女はそれを嗜虐的な笑みを浮かべながら切り裂いていく。
 一振りすれば複数の首が宙を舞い、一突きすれば必ず心臓を貫かれる。
 まさに戦場の死神が如きその姿に兵士達は恐怖に駆られ足を止める。

「そちらが来ぬのならこちらから行かせてもらうぞ!」

 死刑宣告を下し踏み込む。
 しかし、その瞬間に高密度弾が襲い掛かって来る。

「ゲヴェイア・クーゲルファイアッ!」
「ぬ、これは中々。だが―――甘い!」

 高密度弾を器用に切り裂いて胡散させながら彼女は攻撃した本人へ斬りかかる。
 だが、その斬撃は黒い『鉄腕』により防がれてしまう。
 そのことに歓喜しながら彼女は一端距離を取る。

「これは行幸だ! 少しは骨がある奴が出てきた! 貴様名乗ってみよ」
「……ヴィルフリッド・エレミア。こちらは名乗ったんだ。今度はそっちの番だ」
「エクスヴェリナ・V(ヴォート)・ノルマン。中々成仏できずに死に場所を求めて彷徨い出てきたのよ」

 クツクツと笑いながら宣言する彼女に周りの兵士は動揺する。
 死んだと思っていた相手が現れればそれも当然だろう。
 しかし、リッドは欠片も動揺せずに落ち着いて言葉を返す。

「臣下に裏切られ、民に捨てられた『暴君』が今更哀れだね」
「くっくっく……そうよのう。だが、元々我は王というものは好かんかったのよ。自由に生きることができんのでな」
「……やっぱり、あなたは王足りえない。王というものは国に尽くす物だ」
「確かに我は王としては力不足だったのかもしれんな。しかし、国に踊らされ自由に生きられんなど本末転倒ではないか? 例えば―――聖王オリヴィエのようにな」

 彼女がそう言った瞬間、リッドが怒りの形相を浮かべ魔力弾を飛ばした。
 しかし、エクスヴェリナはそれを一閃することで防ぐ。
 そして不敵な笑みを浮かべながら話を続ける。

「この国も勝手なものよう。人質代わりに差し出したかと思えば、価値のある道具(・・)となればすぐに呼び戻す」
「……黙れ」
「惜しいことをしたものよ。あれ程の使い手もう二度と現れんだろうに。それをあんな物の動力とするとは。勿体ない」
「黙れ…ッ」
「国に縛られたが故に自由に生きることができず生贄となった。我とあの女、どちらがより哀れだと思う?」
「黙れぇぇえええッ!!」

 怒りの咆哮を上げ突進してくるリッドの拳を二本のサーベルで防ぎエクスヴェリナは獰猛な笑みを浮かべる。
 拳と剣が火花を散らしながらぶつかり合い幻想的な光が辺りを照らすがそこに込められたものはどちらも純粋な殺意だけだ。

「国も民も我は失った。しかし代わりに自由を得たぞ。されどあの女は何を得た?」
「黙れと言って…ッ、いるだろうッ! ヴィヴィ様はベルカの平和を得るために戦ってらっしゃる!」
「ふははは! 平和か、笑わせてくれる。大地を血で染めた上での青い空にどれ程の価値があるというのだ? やっていることは我もあの女も変わらん。我らは等しく―――大量殺人者だ」
「それ以上減らず口を叩くなッ!!」

 一撃一撃が必殺に等しいぶつかり合いを行いながら二人は言葉を交わしていく。
 兵士たちはその凄まじさと気迫に押されて誰一人として割って入ることは出来ない。
 そもそもリッドは幽閉されている身なのだがエクスヴェリナのテロ紛いの行動に乗じて抜け出て来たのだ。
 そして下手な兵より、それこそ覇王クラウスと渡り合える実力があるので襲撃者を撃退しようと出てきたのだ。
 だが、今のリッドに冷静な感情は無い。ただオリヴィエを侮辱された怒りで支配されている。

「いいぞ、その殺気! やはり戦いとはこうでなくとはな! 誰の為でもなくただ殺し合う。やっとたどり着いた!」

「お望み通りにしてあげるよ……。―――全力のエレミア相手に生きて帰れると思うなよッ!!」

「あはははは! 踊ろう! 死の舞踏を! さあ―――死ぬまで踊り狂おうではないかッ!!」

 鷹のように鋭い眼光で自身を射抜くリッドの視線に心地よさそうに体を震わせサーベルを振り上げるエクスヴェリナ。
 二人はどちらかが死ぬまで続けられる死の舞踏に興じるのだった。
 そして、これがかつて『戦場王』と呼ばれ、民に見捨てられたために『暴君』と呼ばれることとなったエクスヴェリナ・V(ヴォート)・ノルマンの最後の戦いとなった。






「これが、我の記憶だ。我が子孫よ。しかし、もう少しうまくやるべきだったな。寝ている間しか会話を交わせんとは。しかも我の記憶と人格が一体化して我が直接伝えるしか道がないというのは完全に誤算だ。面倒な手間が増えたものよ。まあ、暇だから構わんのだが」

 薄ら暗い空間に立つのはエクスヴェリナ。
 そして、もう一人は今よりも遥かに幼い子孫のリヒター・ノーマン。
 
「しかし、汝はその年でよく我の元まで来れたな。一生辿り着けん子孫もおったというのに」

 興味深げにまだ五歳程度のリヒターを眺めるエクスヴェリナ。
 そんな彼女の様子に首を傾げるリヒター。

「だが、まだ我の人格は完全には覚醒しておらん。こうして出会えるのは先ほども言った通り夢の中でだけだ。我の人格が覚醒すれば起きている間も会話を交わせるのだが……まあ、何か切っ掛けがあれば覚醒するだろう」

 ブツブツと呟くエクスヴェリナの話をボーっと聞いていたリヒターだったがここで初めて口を開く。

「ごせんぞさま?」
「ふむ、別にそれで構わん。してなんだ?」

 可愛らしい子供に少しばかり頬を緩めて尋ねるエクスヴェリナだったがこの時彼女はまだ知らなかった。
 リヒター・ノーマンは―――かなり変わっていることを。


「ごせんぞさまはひんにゅうなんだね」


「そこに直れ下郎が!」


 この日初めてリヒターは目覚まし時計を粉砕したのだった。




 
 

 
後書き
今までのシリアスは全て最後のリヒターの言葉の為(´・ω・`) 
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