この腐敗した都市の中で
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職場
前書き
ボリューム満天。異能やアンドロイド技術が発達した『街』で起こる犯罪。
今日もがんばれみんなのHearts!
ポイントE3にて迎えをよこす。待ちわびたメッセージが僕に届いた二日後。
「……すごいなぁ」
まるで子供のような声を出しながら僕はそんな言葉を漏らした。
何せここは世界で最も発展し、人々が暮らしている場所。通称『街』と言われる場所。
僕の故郷である場所から遠く離れ、いつも光で溢れるこの場所で僕は働くのだ。
僕が生まれた時、僕の両親は驚いた。当時、異能と呼ばれるものは既に存在してはいたものの、やはり珍しいモノには変わらなかったという。
僕には生まれた時から、この世に生をうけたときから異能が発言していた。
両親はこれに驚いたが、異能を恐れずしっかりと僕を育ててくれた。
両親には感謝してもしきれないほどだ。
だから僕は必死で勉強し、異能の能力をコントロールできるようになった。とても大変だったけれど、両親のためなら耐えられたし、妹を守るためでもあった。
光り輝く『街』をぐるりと見渡す。溢れんばかりの人、人、人。誰もが笑っていたりして幸せそうに見える。本当にこんなところで犯罪が起こるのかと思っていたその時だった。
「ひったくりーーーーーーーーーっ!!」
甲高い女性の声。まさかの感慨にふけっている最中にいきなり犯罪に遭遇するとは。悲鳴の上がった方を向くと、赤毛の女性がこちらへ向けて指を差している。
ん?待て、こっち?
後ろを振り返ってみる。何とか目でとらえたが、とてつもない速さの何かが通り過ぎて行った。
(……異能か!)
あのとてつもない速さ。あれは異能に違いない。追いつくかなぁと思い、足に力を込めて走り出そうとする。しかしそれは背後からの声で遮られた。
「少年、君が『清田鉄平』であってるか?」
背後にいたのは長身のスーツを着た男性。にっこりと笑ったその顔にはどこか威圧感があったが、急いではいと答えた。
「それはよかった。私は君の働くHeartsの隊長、アーロン・アヴルヘルムだ。皆からはアルと呼ばれている。まぁ、一人例外はいるがな。よろしく頼むよ少年」
この人が僕の働く職場、Heartsの隊長?いきなり会ったことでかなり驚いたが、今はそれどころではない。隊長さんには悪いがすぐに行かなければ。
「あの、た、たっ隊長殿!!今ひったくり犯が出まして……その……」
口ごもる僕を見た隊長さんはこちらを見て再びニッコリ笑った。
「わかっているよ。もう追ってる」
「へ?」
間抜けな声を出した瞬間、後ろから再び影が迫った。
「あいつうううううううう!!!あれ高かったのにぃ、今日OFFだったのにいいいいいいい!!!」
あの赤毛の女性だ。ワンピースにカーディガンという、いたってシンプルな格好だが一歩目からここへ『着いた』かと思うと、隊長さんにカーディガンを渡し、そのまま消えた。
「隊長殿、まさか彼女も!?」
「あー、うん。おっと、迎えが来たようだ」
かなりのスリップ音をかき鳴らしながら、それは降臨した。
「おーい、旦那。あと新入り。迎えに来たぜ」
「頼むよ、行くぞ少年」
隊長さんに手を引かれ、僕は車に乗らされた。
「シンラ、ポイントB2へ飛ばせ」
「あいあい、了解しましたっ……と」
レバーを操作した瞬間だった。シンラと呼ばれたその人は、犬の様な笑みを浮かべた。そして。
とてつもない速度で車が走り出した。
「ちょっ、こんなに飛ばしていいんですか!?エンジンとか……!?」
「大丈夫だ新入り。俺の異能で燃料切れなんざねぇ」
ちらりと隊長さんを横目で見る。その顔は僕の視線に気付くと、またにっこりと笑い、そういう事だと言った。
そしてどこからか通信機を取出し、誰かに連絡し始めた。
「ああ、頼むよ。相手は高速ならぬ『光速』の異能の様だ。手加減はいらない」
「捻り潰せ!」
「ちょ、旦那!?アイツまで使う必要ないんじゃ……」
「手加減なしだよ」
ポイントB1
まったく一切合切どういった状況なのか知ったことではないが、どうやら光の速さを持つひったくり犯が現れたようだ。
「何、あの赤毛……カオルの休みが削れた?私の知ったことではないだろう。そもそも私も今日は非番だ。手助けする必要などあるか?非番以外の奴らでも『光速』程度の能力ならイーグルに任せればいいだろう?……なに、新入り?……はぁ了解した」
通信機を切る。横にいる女性に話しかける。
「すまないな婆さん。どうやら時間だ。買い物した袋は……あイタ!」
「なめんじゃないよ無銘。こちとらまだ120年しか生きてないんだ。婆さんではないよ」
「では物の怪……妖怪か?クロウリー」
卑屈な笑みを浮かべてみる。横にいる銀髪の女性、クロウリーは舌打ちしてクリーニングしたスーツを投げる。
「いい加減その舐めた口閉じな、無銘。武術の師匠として言うが、アンタは生徒として武術の腕は天才的だがアンタの口に関して直せなかったのは8年の修行での私の失点の一つだ。じゃ、生きて帰ってきな。その減らず口の代金はうまい酒帰りに買って来ることで許してやる」
「ああ、はいはい。了解した」
そう言って私はクロウリーの部屋から出た。そして再び携帯に通信機から連絡が入った。
「ポイントB2?此処から近いな。ああ、そうだ」
「お前、うまい酒ある場所を知っているか?」
ポイントC1
「こちらイーグル……ああ、隊長殿。今ポイントC1のビルにいる。なに、装備……?ああ、使用しているのはAMP DSR-1。かなりチューンしてある。EXACTOとか搭載してるが……なに、光の速度?ああ、じゃあ大丈夫だ。俺の目と計算能力はそちらも知ってるだろう?おっと……もう来たようだ。まぁ……」
「もう撃ったがな」
光速で移動していたそれは動きを止めた。イーグルは背後を振り向く。
しかし―――――――――
「……隊長殿」
『何だ?なんか異常なのでもいたか?』
「いる。そもそも考えて見ろ。光の速さで移動し続けて無事なのはちと可笑しい」
異能を使う者は異能が発現するのと同時に体も異能に合ったものへ変異するため、身体能力も上がる。しかし一度発動したままずっと使える、つまり冷却時間を挟まずして使える異能は極めて稀だ。
ほぼ全ての異能は冷却時間を挟むこと前提で体を作りかえる。故におかしい。
光の速度で動く。それは極めて便利な能力だ。身体にかかる負担は大きいが、利点は非常に大きい。それこそ瞬間移動レベルだ。しかもすぐに切れるため、冷却時間は極めて短く済む。戦闘に使用すれば光の速さで移動し、光の速さで拳が叩き込まれる。だがそれを永続的に発動するとなると話は別である。
負担が大きすぎるのだ。光の速さを纏った拳は確かに強力だ。しかし叩き込んだ瞬間に相手にも自分にもダメージがある。ただ走るだけにも冷却時間が必要なのだ。戦闘しないにしても永続的に光の速さで移動したら冷却時間も必然的に伸びるし体の負担も増える。
それをポイントE3からポイントC1まで連続して移動してきた。それはつまり、もはや人間ではないこともあり得る。
「これはNTW-20くらいのを持ってこないと斃せないぞ」
イーグルの目の先にいたのは四つん這いで六角形の多面体光学シールドを展開し、人工筋肉を流動させ、いくつもの目を持つ恐竜のような獣だった。
『イーグル、製造コードは何か分かるか?』
「あるにはあるが介護用アンドロイドのコードだ。だが……機体名がおかしい。L……o?Lon……Longinus?ロンギヌス、神殺しの槍の名だな……まずい、隊長殿!やつめ、B1に移動し始め……あ、好都合?……なに、あいつがいるって!?待て、あいつにやらせたら犯人の手掛かりがぶっ壊れるぞ!?」
ポイントB1
「む、また通信……いまB2地区?いや私は今貴様が言っていた美味い酒を買っているからB1だ。……何、ここに来る?それは好都合。貴様に非番を邪魔されたストレスをぶつけることが出来るようだ」
『臨時のボーナスは出す。それで頼むよ』
無銘は酒を買って店内を出る。スーツのネクタイを締め直し、それが来るのを待つ。待つまでが少し長いので口にシガレットを突っ込む。
「来たか」
光の速さで移動する獣。聞けば神殺しの名を冠するらしい。
「ほう、速いな。だが」
右掌を開いて後ろへ下げる。そしてそれが眼前に迫ったとき――――――――
「私の師匠の方が速いようだ」
それの頭を掴み、捻り上げるように地面へ叩きつけた。
無銘はため息をついてシガレットをかみ砕く。それと同じタイミングでアル達が乗った車がやって来た。
「いやー、助かった。これからもよろしく頼むよ無銘」
「ふざけるな。貴様、先週もそう言っていただろう」
毒づく二人の余所に駆け付けたイーグルという人とシンラさんは破壊されたロンギヌスと呼ばれたアンドロイドを見ていた。
「あー、完璧に壊されてんなこりゃ」
「そうだな……だがしっかり製造コードの部分や動力炉の部分は残ってるな……しかしなぁ、肝心のメイン回路部分を破壊するとは……」
「やーーーーーーーーっと追いついたぁ!ねぇ、私のバッグは!?あれ高かったの、頑張って奮発したの、どこ!?どーこー!?」
赤毛の人が僕の傍に着地するなりそう叫んだ。そして無銘と呼ばれた人が赤毛の人に近づくと言った。
「すまん、私のミスだ。光速なもので逃げられたら面倒だったものだからから思い切り力を込めてしまった。アンドロイドと一緒にバックも木っ端みじんにしてしまったようだ。バッグはこちらで弁償させてもらう。それと、金はこちらで持つから皆で食事に行くといい。新人も来たのだろう?歓迎会でも開くがいいさ」
「やったーーーー!無銘ちゃんありがとー!!無銘ちゃんは来ないの?」
「私は約束があるからね。辞退させていただく。さてイーグル、酔いつぶれた時のカレンのことは任せる。シンラ、君はそこの少年君にいろいろ教えてやれ」
「うぃーっす」
「了解した」
「ではな。事後処理は他の連中に任せればいいだろう。 あとアル、貴様の分の金は払わんので用意しておけ」
「えええええ!!?それぐらいはいいんじゃないかなぁ?」
「誰が貴様に金などはらうか…………おい、少年」
無銘と呼ばれたその人はこちらを見て微笑した。その人は瞳を黒い帯で隠していたけれど、優しい感じが溢れていた。
「君の活躍を期待している。では、な」
その人は僕の肩に手を置いて再び微笑し、去って行った。
これが僕がペアを組むことになる無銘という人との出会い。そして、僕が生涯働くこととなるHeartsの入隊日だった。
後書き
いかがだったでしょうか。作者初の一次創作。未熟な部分が多いですが、よろしくお願いします!!
誤文の指摘などありましたらよろしくお願いします!!
お気に入り、評価、感想もぜひぜひ下さい!それではhackでした!
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