戦国異伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二百二十一話 肥後の戦その十
闇にいる者達は歯噛みしてだ、話していた。
「肥後でも勝ち」
「日向にも入った」
「やはり織田は強いわ」
「数が違う」
「このままではな」
「島津も降るぞ」
「そうなればみちのくの大名達も降る」
織田家が島津家を降し九州を制したのを見てというのだ。
「天下は織田家のものになるな」
「完全にな」
「そうなるな」
「天下は統一されて」
「戦はなくなる」
「そうなればじゃ」
「我等はまた動けなくなる」
こう話して歯噛みするのだった。
「全く以てな」
「これではな」
「どうなるのか」
「これは何とかせねばならんが」
「織田家を乱そうにもな」
その織田家もというのだ。
「あ奴は何をしておる」
「そうじゃ、あ奴じゃ」
ここで闇の中の声が内に向けて苦々しいものになった。
「あ奴は何をしておる」
「まだ動かぬのか」
「この度も戦について行っておるというのに」
「動かぬのか」
「このままでは天下が定まるというのに」
「何をしておるのじゃ」
こう話してだ、口々に不平を言った。それを聞いてだった。
その中でだ、闇の中にいる者達はだ。
その中にいるある者にだ、こう問うたのだった。
「御前、それでは」
「どうされますか」
「このままでは織田家が天下を収めますが」
「日輪が天下を輝かせます」
「我等は闇はさらにその立場がまずくなります」
「危ういか」
「このままでは」
「まずはじゃ」
その声は周りの声にこう答えた。
「あ奴を今度ばかりはな」
「動かしますか」
「そうですか、あ奴を」
「あ奴をまずはですか」
「動かしてですな」
「そのうえで」
「そうじゃ、そしてじゃ」
ここでさらに言ったのだった。
「少し手を打つか、もう一つ」
「その手とは」
「一体」
「何でしょうか」
「それは」
「徳川じゃ」
ここでその声はこの名を出した。
「徳川家を乱すとしよう」
「徳川家ですか」
「あの家をですか」
「そうじゃ、織田家はこれまで何度か仕掛けたが」
それがというのだ。
「常に破られてきたしじゃ」
「織田信長は勘がいい」
「我等のこともですな」
「薄々にですが」
「気付いているので」
「織田家に直接仕掛けるのはまずい」
そう思ってからであった。
「だから徳川じゃ」
「今や天下第二の家となった、ですな」
「百六十万石のあの家にですか」
「仕掛けそのうえで」
「乱しますか」
「それも一番乱すやり方を仕掛ける」
こう言うのだった。
ページ上へ戻る