黒魔術師松本沙耶香 魔鏡篇
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28部分:第二十八章
第二十八章
「魔と魔ね」
「ではどちらの魔が上なのか」
「確かなものになるわね」
「ええ、それではね」
死美人もその妖花達を繰り出してきた。その花びら達が沙耶香に向かう。
だが沙耶香の薔薇達もその花びらに向かっている。まさに花と花の闘いだ。
二人は動きはしない。だが花びら達が動く。
それはそれぞれの鏡の中でも同じだった。むしろだ。
鏡を通り抜けてそのうえでぶつかる。鏡の中においても闘いが行われている。
その闘いの中でだ。沙耶香はまた言ってみせた。
「こうした使い方にしてよかったわ」
「よかったのね」
「ええ、よかったわ」
こう言うのであった。
「本当にね」
「そう、よかったのね」
「とてもね。ただね」
「ただ?」
「貴女はこれだけではないわね」
死美人を見ての言葉だった。
「その花びら達を舞わすだけで。それで終わりではないわね」
「そうだと言えばどうなるのかしら」
不敵な死美人の返答だった。
「その場合は」
「私にもカードがあるわ」
そうだというのだ。
「まだね」
「カードはあるというのね」
「カードはできるだけ多く取っておく」
沙耶香の笑みは再び不敵なものになっていた。
「それが勝利の美酒を味わう秘訣よ」
「慣れているわね。それに知っているわね」
それを聞いても動じない死美人だった。
「闘いも駆け引きも」
「全て知っているわ。伊達にここまでこの世界て生きてこられた訳ではないわ」
「成程。そうなのね」
「それによ」
沙耶香の言葉はさらに続く。
「そうして楽しむのが闘いというものではないかしら」
「そうね。闘いは楽しむもの」
死美人もその言葉を受けて述べたのだった。
「そういうものだからね」
「わかったら話は早いわ。それじゃあね」
「ええ。それではね」
「貴女のカード見せてもらうわ」
死美人への言葉だ。楽しむ笑みはそのままであった。
「今度のカードをね」
「わかったわ。さて、それではね」
言いながら右手にあるものを出してきた。見ればそれは一輪の花であった。それをその右手に出してきてみせたのである。
そうしてだ。また言うのであった。
「これが私の今のカードを」
「同じ花だけれど違うというのね」
「そうよ。今は舞わせているだけだけれど」
花びら達はまだ舞い続けている。鏡の中でも外でも一面で舞いそのうえで打ち合い互いに消し合っている。花と花の攻防は続いていた。
だがその中でだ。死美人はまた花を出してきてだ。そうして言うのである。
「今度は舞いはしないわ」
「舞わないというのね」
「花は舞うだけではないわ」
また言うのだった。
「そう、咲くものでもあるわ」
「花は咲くもの」
「そうよ」
こう沙耶香に言うのである。
「そういうものなのよ」
「そうね。それは間違いないわね」
花は咲くということにはだ。沙耶香も賛成の言葉を返した。
しかし目は死美人を見据えたままだ。彼女から離れることはない。
その死美人が右手に持っている花をだ。沙耶香に対して投げてみせたのだ。
それは一輪だけではなかった。次から次に手に出してそうして投げる。投げ続けてきていた。
「投げて。そして私の胸に」
「美しい花を咲かせてあげるわ」
沙耶香のその豊かな胸を見ての言葉だ。
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