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Fate/Monster

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バーサーカー差し替え編
フランドール・D・A・B・H・ヴィクトリアの場合
  #01

 
 
 雁夜が目を覚ましたのは朝の午前八時。いつもよりか大分と遅くに目を覚ました彼は、目を擦りながら伸びをする。

 身体には僅かな疲労感と怠惰感こそ残るが、ココ最近例を見ないほどに身体の調子がよかった。その状態に若干の疑問を抱くが気にするほどでもないと判断。水でも飲もうかと身体を起こしたところで、彼は昨日の深夜、サーヴァントの召喚をしたのを思い出した。


「……ッッ!? バーサーカー? バーサーカーはいるのか!?」


 その声に応じるように彼の前に現れたのは、漆黒の髪の人物。艶やかな漆黒の髪を膝下まで伸ばし、薄手無地の黒い長袖Tシャツの上に白地の半袖カッターシャツを着てボタンを二つ程開き、その上から袖と背部の腕と腕の間の部分が無い部分が黒い黒いロングコートを着て、黒のベルボトムにブーツという、型月世界では比較的マトモであり、現実ではマイノリティだがコート脱げば一般的ではある服装に身を包む者が雁夜の呼び出したサーヴァントらしい。


「お前が……バーサーカーなのか?」
「ああ。確かに私はバーサーカーだ。最も、狂化のランクは(今の所)E-にすぎないがな。……それよりも気分はどうだい? 私を召喚した際は死にかけていたが」
「……問題ない。……いや待て、狂化がE-ってどう言うことだ?」


 疑問に対し、否定の言葉と共にさらりと告げられた言葉に、雁夜は更なる疑問を投げかける。そもそも、冷静に考えれば、狂気の塊とも言える狂戦士たるバーサーカーが日常会話している時点で異常事態なのだ。


「どう言うことかと問われても、言ったとおりだ。私の狂化ランクはE-。耐久と筋力が上昇して痛みを知らない状態になっただけだ。何のことはない、普通のサーヴァントだよ」
「……ステータス強化は?」
「あると思うかい?」


 その回答に、雁夜は目に見えて落ち込む。そもそもバーサーカーを呼び出した理由が狂化によるステータス強化だと言うのに、それが無ければ全く意味がない。燃費が良いのは嬉しいが、弱くてはプラスマイナスでマイナスである。
 だが、そんな雁夜にサーヴァントは平然とある一言を付け足した。


「まぁ、そう落ち込むな。狂化によるステータス強化が無くとも、私の能力は諸々含めて英雄基準でも化け物並だ。下手に狂化して上手く能力を使いこなせなければ元も子もないだろう?」
「……確かに、膂力の高い英霊なら下手に狂化しても不利になるだけか」
「そうとも。……あぁそう言えば、昨日蟲を灰にした際に何となく其処で寝てるサクラなる少女を治したンだが、マズかったか?」


 そう言ってサーヴァントが示した場所、雁夜が眠るベッドと隣り合うベッドに眠るのは、遠坂家から養女としてやってきた雁夜の義姪、間桐桜だった。
 サーヴァントが彼女を助けたのならば、雁夜にとって僥倖と言える。


「……いや、むしろ助かったよ。……って、ん? 臓硯のジジィをどうしたって?」
「灰にしたぞ」


 沈黙。

 サーヴァントの答えに対して、雁夜が行えたのはポカンと口を開けてその言葉を頭の中で反芻するのみ。


「……灰にした? あの吸血ジジィを?」
「ああ。覚えてないのも無理はない。私が眷獣を召喚して魔力をそれなりに使って、君は倒れ臥していたのだからな。私の眷獣達が蟲の本体を連れてきて、そのままその蟲にこの世のものとは思えない地獄を見せてから固有堆積時間(パーソナルヒストリー)を奪い尽くしたんだ」
「……固有堆積時間?」
「あぁ、やはり通じんか。〝存在が生み出されてから現在まで経験してきた時間の総和〟の事だ。まあ、簡単に言えばその存在の歴史そのもの――人で言うなれば、その人の人生その物だ。固有堆積時間を奪われると対象は奪われた時間の分だけ記憶と経験を失い、肉体も退行する。そうさなぁ、君がここ二ヶ月ほどの固有堆積時間を奪われれば、二ヶ月ほど前の状態に戻る。記憶も肉体も、な」


 蟲妖怪『マトーゾーケン』
 またの名を、吸血鬼擬き『マキリ・ゾォルケン』。五百有余年を生きる、吸血鬼よりも気色の悪い怪物にしては呆気のない死。

 それを鵜呑みには出来ないが、サーヴァントの言っていることが確かならば、生きているとしても記憶や経験を奪われたらしい。ならば、暫くは動けないだろう。朝から身体の調子がよいのも、体内の蟲が大人しいか既に死んでいるからだと仮定すれば、確かに臓硯は消え失せたか、瀕死かのどちらかなのだろう。
 そんな風に雁夜が情報を纏め、反芻していると、 バーサーカーが何か思い出したように口を開いた。


「吸血ジジィと聞いて思い出した。うっかり失念するところだったよ。マスター君、君は現在、血の従者――あー、この世界で言えば死徒か? それになっている」
「……はぁっ!?」


 しかしそれは三流通り越して五流――(いや)、七流や八流と言っても過小表現ではない程にヘッポコな魔術師の雁夜でさえ知っている人類とはまた違ったヒト型の化け物。

 死徒。
 不死身に近い耐久力と、化け物としか言えない怪力、人外の魔力を持ち、人の生き血を啜る吸血鬼。あの間桐臓硯すら死徒に比べれば弱い存在と言えるほど死徒というのはかなりの化け物なのだ。


「俺が死徒ってどう言うことだよ!?」
「まぁ、不可抗力と言うべきか……。世界の境界線をぶち抜く程に強い想いをもってしてサーヴァントを喚び、それを私が聞き届けて顕現したのだ。それ程の想いを持つ者を目の前で死なせるのもアレだったのでな、私と君の第七肋骨を交換したのさ」
「お前の肋骨……?」


 雁夜の疑問にバーサーカーは薄く微笑むと言葉を紡ぐ。


「私はフラン。フランドール・D・A・B・H・ヴィクトリア。狂戦士と化物の二つの匣に無理矢理詰め込まれ、此処とは違う別な世界より顕現した吸血鬼の真祖にして原典(オリジナル)の化物さ」








――――――――――――――――――――――――――――








 サーヴァントことフランが自己紹介をした後、軽く雁夜も自己紹介し、フランが雁夜に現状を掻い摘んで説明して――理解が追い付かずに雁夜の頭がパンクした。
 既に臓硯が死亡したのに加え、自身が死徒どころか半英霊(デミ・サーヴァント)になっているだとか、自身と桜から蟲を医療的手術によって摘出しただとか、大量の蟲に凌辱されてボロボロになっていた肉体が魔導的手術によって一年前の状態に戻っているだとか、自身も桜も人の枠から少々外れた存在になっているだとか、フランが聖杯戦争に於けるサーヴァンの(クラス)の括りから外れていて聖杯戦争とほぼ無関係な存在だとか、その他にも諸々だ。

 しかし、状況説明の為、マスターの状態は気にしていられないサーヴァント――フランは雁夜の頭がショート寸前なのを無視し、更に口を開いた


「あぁ、そう言えばマスター君。君とサクラ以外にこの屋敷にいたワカメ髪の男が、私が蟲を殺したと知ったらこの手紙を君に渡すように頼んできてな」
「手紙? 兄貴がか?」


 兄貴からの手紙? と、疑問を感じつつ、受け取った手紙を読み始めた雁夜。そこにはこう書かれていた。


 ―――なんかお前のサーヴァントがジジイをこれ以上無いくらいエゲツナイ方法でブチ殺したらしいしお前のサーヴァントが家出ること勧めるから俺もう間桐家から外の世界にフライアウェイしていいよね? というわけだから俺は生まれて初めての自由を満喫しに自分探しの旅に出るから絶対に探してくれるなよ。絶対だぞ? 絶対だからな? 気が向いたら慎二連れて戻ったり戻らなかったりするわァ。ンじゃまぁおまいさんもおげんこでな! あ、魔術刻印とか当主とかはお前にくれてやるわ。既に引き継ぎ手続きとか終わらせてるからな。
 P.S. 桜の事はよろピクミン^^
                                お前のオニータマのマトービャクヤ


「あのクソ兄貴!」


 ふざけた手紙をグシャグシャに丸めてボール(紙屑)相手(部屋角)ゴール(ゴミ箱)へシュゥゥゥーッ!! 超! エキサイティン!! する雁夜。

 適当にブン投げたせいで目標を逸れて床に落ちた手紙をゴミ箱に入れ直すフランを尻目に、盛大な肩透かしを食らった雁夜はがっくりと頭を抱えた。
 色々と言いたいこともあったが、すでにいない人間に言っても仕方がない。元より、先に間桐家から逃げ出したのは雁夜の方なのだから、鶴野を強く責める資格が自分にないことも重々承知していた。と、言うか、雁夜自身が逃げ出した際に荷物をまとめた鞄の中に万札十数枚突っ込んでくれてた兄貴に対してなんの文句が言えようか。

 大きくため息を付いて思考を切り替えると、「さて、これからどうするか」と雁夜は独りごちった。桜の救出という目的は果たしたし、目下の障害と思った兄も自分探しと称してとんずらこいた。遠坂時臣に桜にした仕打ちを思い知らせてやろうと心中で渦巻いていた執念も、無事な桜を見ていると小さくなってゆく。残す問題は――自らのサーヴァントと聖杯戦争だ。正直に言って、今の自分に聖杯に叶えてもらうような大それた願いなどない。そうなると、バーサーカーはお荷物以外の何者でもない。魔力を食いつぶす上に敵襲の危険も誘う厄介者だ。


「(悪い奴ではなさそうだし、心苦しくはあるが、自害でもさせて消えてもらった方が――)」

「あぁ、そうだ。マスター君。君とサクラには明日より魔術を体得してもらう。無論、拒否権はない」


 フランがそう言って数瞬後、雁夜は頭が一瞬でフットーし、フランに対して掴みかかった。


「巫山戯るな! 桜ちゃんをこんなクソみたいな世界に巻き込まない為に俺は臓硯のクソジジィの拷問に耐えてきたんだぞ!? 桜ちゃんに魔術なんて教えられるか! 桜ちゃんを魔術師の生きるクソみたいな世界に生かさせてたまるか!!」

「ではどうするのだ? サクラの実父のトオサカトキオミはそのクソみたいな魔術師の典型なのだろう? 貴様の戸籍上の父であった蟲が死んだと聞けば、サクラを連れ戻して別な魔術師の家に改めて養子に出すだろう。そうなれば、最早貴様の手には負えまい?
 あぁ、私の手を借りようなどと考えるなよ? 私は喚ばれたから来ただけだ。貴様を血の従者にしたのも殆ど気まぐれだ。言っておくが、令呪は私には通用せんぞ? 蟲の固有堆積時間を奪った際に令呪の仕組みは十全に理解した。これを無効化する呪具も作成済みだ。

 大体、貴様はこの世界に於ける魔道から逃げ出した落伍者らしいではないか。そんな奴が、自身以外を犠牲にする事を何とも思わず、超自然的能力を行使できる魔術師達から、この小娘を守れるとでも? ほぼ何も出来ない貴様が?




 ――――思い上がるのも大概にしておけよ?」


 と、ドスの効いた声で雁夜に言い立てるフラン。まあ、それもそうだろう。只でさえ人の拳大の蟲を五百同時に行使出来れば上々な実力の雁夜が、炎を扱って中堅の中でも上位の実力を持つ遠坂時臣に勝とうなんて事自体が土台無理な話なのである。
 こと型月世界に於いて魔術の属性は、NARUTO世界の忍術の性質変化の優劣関係の様なモノは存在していない。魔術属性が水の者が炎属性の者に負ける等茶飯事である。相当の実力差や戦い方の問題があったとはいえ、原作に於ける雁夜VS時臣や切嗣VSケイネスの対戦がいい例だろう。


「この小娘の魔術属性は〝火〟〝水〟〝土〟〝風〟〝天〟の五つから成る五大属性の何れにも当てはまらない、第六元素〝虚〟。虚数とも言う、架空元素だそうだ。それに加えて、数が多く良質な魔術回路。魔道の家の庇護が無ければ封印指定を食らってホルマリン漬けになっていても可笑しくはないそうだ。そんな存在を、貴様如きが封印指定魔術師を狩ることに特化した執行者達から守ることが出来るのか?」


 そう言われ、押し黙る雁夜。フランの言う通り、雁夜には大した実力など無い。九百年(十六代)続く(魔術師的に)超由緒正しい家系の十六代目より(気持ち)優秀な雁夜であるが、魔術鍛錬を全くしていない雁夜の実力は限りなく最底辺であり、異世界のルーマニアでゴーレム作りまくっている哲学者や同世界のルーマニアで小説書きまくってる伊達男、前者2人とは異なる世界のスノーフィールドなる街で小説書いてる劇作家、下手すると月の聖杯戦争に喚ばれた本格的最弱サーヴァントである毒舌ショタの童話作家にすら劣る。真にヘッポコたる急造すぎる魔術師である。


「理解したか? 小僧。さて、今現在、貴様とこの小娘には幾らかの選択肢がある。一つは今一度間桐を捨てて冬木より去り、二度と魔術と関わらずに生きる。二つは遠坂時臣に間桐の魔術の全容を明かし、この小娘を信の置ける魔術師の家に預けさせる。三つは自衛に用いるのも不安が残る魔術で遠坂時臣に抵抗する。そして最後に、この世界の魔術とは一線どころか億線くらい画す、私が使うクリーンかつノーリスクハイリターンなこの世界の魔術師垂涎発狂憤死モノのトンデモ魔術を文字通り死にもの狂いで体得して敵対するモノ全てを薙ぎ倒すか。選べ」


 フランにそう問われ、少し思案する雁夜。そして十数秒後、不安げにフランに問を投げた。


「…………お前の使う魔術は、本当にノーリスクハイリターンなんていう巫山戯た代物なのか?」
「当たり前だ。と、言うより、私からすればこの世界の魔術がおかしいようにしか見えんのだがな。蟲の記憶を読んだが、この世界の魔術は欠陥品どころの騒ぎではないな。400円出せばコンビニで十パック買える使い捨てホッカイロの代用品を作るのに数十倍のコスト投げ捨てるとか正気か? 私の世界では業務用冷暖房十機分の効力を使い捨てホッカイロの4分の1のコストで賄える者や、ノーコストで十トン爆弾の爆発エネルギー量を1時間ぶっ続けで生産できる者や、大型ショッピングモールの消費電力を通常掛かるコストの半分で済ませる者も居るぞ。それにどれだけ力量が低くかろうが、最低限、平均的なスポーツ施設の照明二十機は通常掛かる半分以下のコストで賄えねばな」


 唖然。

 まあ、大まかな間桐の魔術を不本意ながら学んだTYPE-MOON(この世界)の魔術師たる雁夜からすれば魔術にはバカみたいに金や手間が掛かるという認識が既に当たり前になっていた。
 そこへ来て、異世界の魔術の便利さを聞き、唖然とするだけで済んだのは、一重に魔術の世界にドップリと浸かっていなかったからだ。コレを聞いたのが遠坂時臣やケイネス・エルメロイ・アーチボルト辺りなら卒倒するか一蹴するかのどちらかである。どっちがどの対応をするのかは想像に難くないが、ソレは扠置き、だ。


「さて、どうする? 私としては、最後を推奨するぞ?」


 間桐雁夜は思案する。魔術は嫌いだ。相手の意思を無視して蟲を大量に用いて凌辱し、魔術特性を強引に改造する。そんな、魔術師の中でも嫌厭される手法を用いる魔術しか知らず、また魔術師も、外道という言葉すら生温い間桐の家に娘を養子に出した遠坂時臣と、戸籍上の父であり下衆の極みたる間桐臓硯と、十数時間前に家出した兄の間桐鶴野だけである。

 それを踏まえ、雁夜は数分考えた。そして考えた後、絞り出した声でフランに告げた。


「…………頼む、オレに、お前の世界の魔術を教えてくれ。桜ちゃんを他の魔術師や封印指定の執行者とかから守り抜けるくらいになるんだッ。だから、頼むッ」


 そう言って深々と頭を下げる雁夜。それを見たフランは、口元に薄らと笑みを浮かべた。


「いいぞ。貴様は見知った少数を救う為に見知らぬ多数を斬り捨てる事の出来る人種の様だ。見知らぬ多数を救う為に見知った少数を捨てる偽善者なんぞより余程良い。
 先ほど、私の手を借りようなどと考えるなと言ったが、アレは忘れろ。貴様の敵は私の敵だ。手を貸すがいい無名の魔術師。これより先は、私がお前の剣となろう! 先ずは私の世界の魔術のイロハから教えてやる。貴様は自身を凡俗と思い込んでいるみたいだが、そんな貴様にコレよりの指針を一つ教唆してやる。凡俗であるなら数をこなせ。才能がないなら自信をつけよ。吸血鬼になったところで、所詮君は生まれたて。ならばコレよりは先の指針を掲げ、魔術の体得に全霊を注げ。聖杯戦争や魔術師関連の事象は、君が私基準で一人前になる迄は私がなんとかしてやる。
 さて、無名の魔術師よ。最後に一つ、様式美の確認事をこなすとしよう。我が名はフラン、フランドール・D(ドラクレア)A(アーミティッジ)B(ブリュンスタッド)H(ハートアンダーブレード)・ヴィクトリア。モンスターの(クラス)を得て現界し、受肉してほぼ完全に独立したサーヴァントだ。魔術師、貴様が私を喚び出したマスターか? 是であるならば、私に名を教えよ」


 沈黙、唖然
 先程とは540°違う、穏やかな表情、そして厳かな雰囲気を醸し出していた。

 フリーズした雁夜だが、暫くして復活し、震える声でフランに告げた。


「……お、俺の名は間桐雁夜。サーヴァントを召喚したマスターだ。逆に問うが、お前が俺のサーヴァントか?」


 雁夜はそう言い、左手の甲に浮かぶ三画の令呪をフランに見せた。


「ククククク。確かに確認した。サーヴァント、モンスター。これより貴様をマスターとし、貴様を一人前まで育てよう。あぁ、あと私は真名を知られてもさしたる問題は無いから、フランと呼べ」


 そう言ってフランは右手を雁夜に差し出した。


「? フラン?」
「握手だ。よろしく頼むぞ。
 マスター君。喜べ、どうやらこの戦、たった今をもってして私が本気になるべき価値となったようだ」


 雁夜は、フランの言った事の真意を測りかねたが、握手の為に出されている手を無視するのもアレだった為、雁夜は取り敢えず出されている右手を自身の右手で握った。


 ココに、優勝候補足り得る半英霊(デミ・サーヴァント)化け物(吸血王)のコンビが誕生した。

 遠坂邸庭園に於ける、アーチャーVSアサシンの第四次聖杯戦争開幕戦より一週間前の出来事である。


































「あ、そう言えば、ジジィには具体的に何したんだ?」
「蟲の望みだった不老不死を与えた後に泣き喚きながら『もういっそのこと殺してくれ』って言い出すくらいに殺して殺して殺しまくった後に摩耗して腐敗した魂を再生させてまだ人間だった頃の望みを思い出させてそれを認識させた後にその事指摘しながら重箱の隅を啄く勢いでNDKして絶望の底の底のドン底まで叩き落として、精神的にぶち殺した後に固有堆積時間を奪い尽くして灰にした。人間、彼処まで行くともう嘲笑ってやるしかないよな」


 間桐雁夜 は 考える事を 放棄した。














――――――――――――――――――――――――――――――――――――














 間桐邸で雁夜とフランの2人が楽しいやり取り(?)をしている頃。此度の争い――第四次聖杯戦争は、幾つもの異常事態が勃発していた。要因は幾つかあるが、一つはフランがサーヴァントとして召喚されたのではないのが原因である。
 他でも無い、モンスターの他にバーサーカーのクラスを以て召喚された事で、極々一部の能力に制限が掛かっているとは言え、ステータスを始めとする能力値、スキル、魔力、能力、武器、眷獣等々、ほぼ全てが十全の状態で召喚されている事。

 更に、第一次の時より使われぬまま放置されたサーヴァント四十二騎分の魔力に、二百年蓄積され続けた魔力が加わり、既に世界一つ分にも達していた。それだけの魔力を少しでも減らす為、通常のサーヴァント七騎の他に更に七騎のサーヴァントが数日後に顕現し、加えて全てのサーヴァントが降臨に近い形で召喚されている事。
 そして、かの英雄王が降臨状態で慢心を捨て、本気となった。


 この事が何を意味するか。

 答えは簡単―――


















                      ―――抑止力が、動き出す。














――――――――――――――――――――――――――――――――














「…………………………ハァ」


 ここは世界の何処にも存在しない場所。英霊の座と呼ばれる次元の一つである、広大な荒れた大地と、その大地に墓標のように突き刺さる剣の群れ。
 赤い空には錬鉄場の歯車が廻る哀しき世界に一人在る男が何かを感じ取り、顔を上げて呟いた。


 ――またか。


 と。

 男は、長い年月を経て生前の記憶が擦り切れて思い出せなくなる程に磨耗しきった筈の心が凍りつく。
 死して英霊の座についてより、数えるのも馬鹿らしいほどの回数繰り返した、生前に望んだモノとは掛け離れた地獄を他でも無い自分が作り出す前兆と知りながら。そして、それに慣れ始めている自分をこれ以上無く嫌悪して。

 霊長の守護者として世界の抑止力(奴隷)となった、紅い外套(赤原礼装)を纏った男は、硝子の心で体を顕す。


 ――I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている)


 男は願う。此度の地獄は犠牲者を最小限に、早期に終結するように、と。男は胸に思い、目を閉じた。






 ――――その願いは、意外と早く叶えられる事となる。










――――――――――――――――――――――――










 そして聖杯の中に留まる意思も自己保存の為、ソレ以前に聖杯戦争をマトモに行わせるため行動する。
 その為に、彼女を送り出す。



 ――――検索開始(サーチ・スタート)

 ――――該当(ヒット)件数一。体格(サイズ)霊格(スピリット)血統(ぺディグリー)人格(パーソナリティ)魔力(ウィッチクラフト)全適合(オールフィット)

 ――――元人格の同意獲得。

 ――――素体の別領域保存及び、憑依先人格の一時封印及び英霊の霊格挿入開始。

 ――――霊格挿入完了。体格と霊格の適合作業開始。

 ――――クラス別能力、全英霊の情報及び現代までの必要情報挿入付与開始。

 ――――別領域保存、クラス別能力、必要情報の挿入付与終了。スキル『聖人』――聖骸布の作製を選択。

 ――――対象の肉体を一時的に霊体化可能体への組み換え開始。

 ――――全工程完了(オールシステムクリア)
 


 ――――『裁定者(ルーラー)』のサーヴァント、ジャンヌ・ダルク。現界完了。





 画して聖女が送り込まれた。しかし、聖杯の内に在る彼は考える。『彼女だけで足りるだろうか?』と。
 そして少々思案した後、浮かんだ案を実行に移す。


 ―――聖杯に魔力は潤沢過ぎる程にある。一騎でダメなら、複数でだ。


 そう考えた聖杯の内に在る彼は、更にルーラーを追加召喚する事にした。




 ――――英霊検索(サーヴァント・サーチ)開始(スタート)

 ――――該当(ヒット)件数二。魔力による肉体の構築開始。

 ――――肉体構築完了。英霊の座に在る本体より人格(パーソナリティ)複製(コピー)を開始。

 ――――複製完了。複製した人格、クラス別能力、全英霊の情報及び現代までの必要情報の挿入開始。

 ――――複製した人格、クラス別能力、必要情報の挿入付与終了。スキル『聖人』――片方には体力自動回復及びカリスマをワンランクアップ、もう片方には魔力自動回復及び秘蹟の効果上昇を付与。

 ――――全行程終了。


 ――――『第二の裁定者(セカンド・ルーラー)』、ゲオルギウス。『第三の裁定者(サード・ルーラー)』聖マルタ。降臨完了。












――――――――――――――――――――――――












 斯くして、十八騎ものサーヴァントが召喚され、その全てが生前に近いステータスで世に降り立った。この時点で既に聖杯戦争的に問題しかないが、一番の問題が残っていた。














「右手親指にメラガイアー、右手人差し指にギラグレイド、右手中指にイオナズン、右手薬指にマヒャドデス、右手小指にバギムーチョ、左手親指にミナデイン、左手人差し指にドルマドン、左手中指にジバルンバ、左手薬指にミナダンテ、左手小指にザラキーマ。固定(スタグネット)
 ――――射出(フォイア)!」
「……きれい」
「おいィ!? 何超一級魔術を十個も発動してるんですかねぇ!?」
「あ、世界の境界に穴ぶち開けて根源の渦に通じちまった。引きずり込まれるぞー!(棒)」
「きゃー(棒)」
「フランは別としても桜ちゃん余裕綽々過ぎない!? ってうわああああ!!」


 ――――――――バーサーカーとそのマスター、そしてマスターの義姪が根源の渦に吸い込まれてヒッソリと世界から退場した事か。




「死ぬかと思ったな」
「……危なかった」
「…………お、オレが可笑しいとでも言いたいのか2人は……」


 ――――まあ、十秒もしない内に根源の渦への穴が開いてその中から引きずり込まれた3人は無事飛び出してきて何事も無かったかの様に(一人除く)魔術の修行を再開していたのだが。

 
 

 
後書き
  
・袖と背部の腕と腕の間の部分が無い黒いロングコート
 恋姫†無双の華佗が着てるコートを黒くしたものを想像してもらえばOK


 未だ嘗てこんな根源到達が有っただろうか。作者()が知る限り無い。


 時系列的にピクミンまだ出てねぇよとか鶴野のキャラおかしいとか主人公がゲス過ぎるとか、こまけぇこたぁいーんだよ!

 そして始まる、めくるめく旦那狂乱の聖杯戦争。勢いで十八騎も鯖出したけど、ホントこれからの展開どうしようか。まあどうにかなるか。


 聖杯内の魔力についてですが

 TYPE-MOONwikiで聖杯の項目を見る→設置は第四次から二百年前→大聖杯は通常七騎分に加えて追加で七騎召喚する予備システムがある。霊脈から魔力吸い上げる→なら鯖が消えたら魔力どこいくの?→Ω<大聖杯に還元してるって事にすればいいんじゃね?→それだ!

 的な思い付きで、二百年霊脈から吸い取り続けた魔力+サーヴァント四十二騎の魔力=多分、根源に6回位到れる≒世界一つ分の魔力?

 的な感じ。ユスティーツァのキャパ軽くオーバーするとかのツッコミは無しで。


 それはそうと、9/27の日曜日にぐだ始めたんですよ。Fate/grand order。で、鯖達の再臨素材が集まらぬ……っ!? アサ次郎と右腕長い人と嘘つき焼き殺すガール最終させたいのにッ! 
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