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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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現実世界
  第155話 いつか届く、あの城に

 
前書き

 

 


~現代 エギルの店 ダイシー・カフェ~



 場面は、いつも通り 現代のダイシー・カフェに戻る。レイナは、話し終えると、頬を赤く染めた。お酒……、殆どジュースだけど、それによるもの+リュウキとの事、だろう。……抱きしめてくれたのは、アレが初めてだったんだ。

「ぁぅ~……///」

 勢いに任せた……と言えばそうだろう。だが、言わなくてよかった所まで言ったんじゃないか?とやや、後悔もしている。リミッターを外してしまっているのが、この雰囲気+ジュース?だ。

「良いですね……、レイナさん。りゅーきさんに……// (羨ましすぎです~……)」

 シリカは、羨ましそうにレイナの方を見ていた。頬をほんのりと赤く染めながら。

 リュウキから、と言う展開が羨ましい様だ。

 こちらから、と言うのはありそうだけれど、リュウキの方から……と言うのが稀少(レア)中の稀少(レア)だろう。それも、結婚してなかった事を考えたら。

「あー、はいはい。ご馳走様。美味しかったわよ? もーお腹いっぱい」

 リズは、ニヤニヤと笑っていた。アスナも、この時ばかりは、笑っていた。キリトの方を見て……、『キリトくんは、りゅーき君の様な事、してくれるのかなぁ~?』と、言ってる気がする。それは、他人には判るはずもなく、キリトとアスナにしか判らない。……キリトは、若干頬を赤く染め、頭を掻いていた。

「そ、それも良かったですが、どーやって、結婚まで持ち込んだんですかっ!?」
「え、ええっ!? ま、まだ、私の番なのっ??」
「シリカってば、攻めるわね~、よーし! あーたしも 便乗しちゃおうかなっ!」
「リーズー? お腹いっぱい! って言ってたのは、誰だったの??」
「デザートは別腹! ってヤツよ。……アスナとキリトのでも良いけど~?」
「っ!! え、ええっ! も、もういいじゃないっ!!!」

 そして、少し離れたところでは、話しを聞いていた女性陣。

「……こっちは、もう聴いてるだけで」
「リズさんじゃないですけど、ほんとにお腹いっぱい、ですね……」
「私も相手、見つけないとかなぁ……」

 ユリエール、サチ、ヨルコの3人組。
 本当に大盛り上がりの女性陣達を見ていてそう呟いていた。

 そして、一部のあまりの女性、女子パワーに男性陣は、若干影が薄くなってきている様にも見える。




「あー……、エギル。そろそろ時間的にマジやばくなってきたから、お冷くれ」
「お? 何だ。理性残ってたのか?」

 クラインのまさかの申し出に、エギルは驚いていた。さっきまで、リュウキやキリトの話しを聴いてるだけで、嫉妬オーラをびんびんに出していたのにだ。

「まぁ……、全てを忘れてぇぇ!!? って思ったのは事実だがよ? やっぱ、相手はあっちで見つけるべきだな~って思って。……こいつ等みたく、そんな簡単に見つかる様な相手じゃないとは思うけどよぉ………」

 クライン、次は目をうるうるとさせている。泣き上戸だろうか?

(……オレのかみさんとの出会いもゲームだった、って事は言わない方が吉だな)

 クラインに追い打ちをかける真似は、流石にちょっと可哀想だと思ったのか、エギルは自身の出会い話までは言わないでおこうと口にチャックをしていた。

「ってな訳でだ! ……ざんぎょーは、最悪だが。金になるっ!! ネトゲ代は稼がないとなっ!!」
「おいおい、ネトゲ代だけじゃないだろ? 家賃その他諸々、生活費の方が先だろ先」

 クラインの宣言に呆れながらつっこみを入れる。酒が入ってるのに、正気を取り戻しつつあるのが凄い。……皆のあの話を聞いてて、ちょっと覚めてしまったのかもしれない。

「ふぅ……」
「キリトもお疲れ。色々と大変だな? お前も」
「あ、ああ……。あんまり大きな声で言えないけど……」

 戻ってきたキリトにエギルは、労っていた。キリトは、アスナの方をチラチラと見ながらそう答える。

 アスナは、リズたちと楽しそうに絡んでいる。今は大丈夫だけれど、色々と大変だ、なんて言ったらアスナに逆襲に合いそうだ。色々と……。

「リュウキの方は、どうだ? クラインの相手ばっかしてたしな」
「……相手すんのがマスターだろ!」
「だから、相手してたんじゃないか。ほれ、おごりだおごり」

 エギルが、棚から取り出したのは、ウコンの力。飲むタイミングは一体いつなんだ?と色々と言われているが、実の所は飲む前だろうが、後だろうがあまり変わらない様だ。クラインは、それを受け取ると、一気に飲み干した。

「ふぅ、初々しいってもんだ。まーだ 顔を真っ赤にして、倒れてんよ」

 クラインは、指を指してそういった。リュウキは、キリトのすぐ傍の床で横になっていた。エギルが出した毛布にくるまりながら。

「それで、レイナは看病して無いのか? こんなリュウキ、滅多に無いのになー」

 エギルは、苦笑いをしながらそう言っていた。とりあえず、息はしてるし、状態も問題無い。

 ……問題があったら、即救急車を読んでこの店大打撃。

 馬鹿な事を考えつつ、あの世界の英雄でもあるこの男のこの姿を見て思わず笑ってしまう。顔を赤くさせて眠っているリュウキを見て、3人の男達は皆笑っていた。

 そして、その後。

 リュウキの傍で座る者の姿がいた。濡れタオルを用意して。

「……ドラゴ君にも、こんな一面があるんだ。本当に。……皆にはいろんな絆があるんだね。……他の誰も入っていけない。私には入っていけない」

 リュウキの傍で腰を下ろしていたのは直葉だった。表情を落としながら、そう言う。

 皆の話は本当に面白かった。

 面白かったけれど、本当に強い絆の存在を感じた。それは、この目の前で眠る少年と、あの輪の中で笑っている少女との絆だけじゃない。皆が其々繋がっている。目には見えないけれど、何よりも強く固い絆が。

 ……今は無い《あの世界》、浮遊城アインクラッドで共に戦い、共に泣き、共に笑い。そして、恋をした記憶。

 それが、現実世界に帰ってきてもなお、彼等のなかで強い光となって放っているのだ。直視できない程眩しいもの。

「眩しすぎるよ……ね」
「………そんな、こと……ない」
「っ!!」

 直葉は、思わず驚き、その声の元を目を見開いて凝視ししていた。確かに、眠っている彼の声だった。……誰かに聞いて欲しくて、でも 直接は言えなくて。だから、寝ている彼に一方的に聞いてもらっていた。

「どら……リュウキ……くん?」

 直葉は彼の顔を見ていた。

「……うぅん。かんけー……ない」
「え? ええ?」
「…………」
「ね、寝言……?」

 直葉は、驚いていたが……その言葉を聞いて、なんだか肩の力が抜けた。まだまだ、整理がつかないけれど、それでも。直葉は、これが最後だと思い、口にした。あの世界で共に戦った時の彼の名前を口にするのは。

「ありがとね。……ドラゴ君」

 直葉は、……リーファはドラゴの頭、おでこにタオルを添えた。彼のあの世界の名はリュウキ、だから……。でも、あの世界でキリトと自分とリタとで旅をした名はドラゴだ。

 これは、他の人たちにはない自分達だけの思い出だから。










 そして、更に1時間後。

「う……ん……」

 彼は目を覚ました。……非常に寝起きは最悪の様だ。身体を起こして……そして頭を抑えている。顔色が悪いのは見て取れる。

「い、た……いてて……」

 ぐわんぐわん……、と割れんばかりの頭痛。胸のむかつきもあって、吐き気も……。そして、ふらつきもする。こんな気分は生まれてはじめての出来事だった。

「あっ……」

 リュウキは、頭が揺れ 再び崩れ落ちそうになった。その後ろで。

「っとと、リュウキ君、大丈夫?」

 倒れそうになる自分の身体を受け止めてくれた。

「あ、ありが……いてて……」
「あはは、あの後ずっと眠ってたしね? リュウキ君は」
「……と言うか、なんでオレはこうなってるんだっけ……」

 リュウキは、頭の痛みが一体何から来るのか判らなかった様だ。レイナは、その理由をちゃんと説明。直接見ていた訳ではないけれど……、ちゃんと理由は聞いていた。リュウキはそれを聞いて納得すると同時に、初めて飲んだのだと理解した。

「……絶対に、色々飛んだ。学校の課題や仕事関係……っぅ………」
「う~ん、学校のは別に良いと思うけどー……」

 レイナは、仕事関係はやばくない?と思ってしまった。リュウキの仕事の事、知っているから。でも、リュウキは別段その部分は問題視してないようだ。

 そして、辺りを見渡した。

「あれ……? ほかの皆は? レイナ……」
「え、うん。遠くから来てる人もいたからね。一次会は取り合えず終了ってことになったよ。二次会に来るには、家にいないと、だからね?」
「あ……ああ、そうだよな。……起こしてくれたらよかったのに」

 リュウキは、渋い顔をしながらそう言うけれど、正直、あの時の彼のことを起こせる様なものじゃない。

「あはは、無茶言わないでよ。それに、また向こうで会えるから大丈夫っ。……向こうで、って言葉ももらってるよ」
「ん……、ちゃんとコンディションは、整えないと……、できるくらいは。あ……言うの遅れたよ」
「ん?」

 リュウキは、レイナに身体を預けたまま……言う。皆はここにはいない。エギルも、どうやら奥に居るようで、この場にいる、この空間にいるのはレイナと自分だけだ。

「待っててくれて、ありがとう。……レイナ」
「ぁ……」

 リュウキの言葉を聞いて、レイナは微笑んだ。この場に残った事だけど、皆一応は気をきかせてくれたからだった。リズやシリカの2人も……あのジュースの効力も切れてきた、と言う事もあるだろう。

「うんっ。私がリュウキくんを置いていくわけないでしょっ!……だから、もうちょっとだけ、もうちょっとだけ……このままで」

 レイナは、リュウキの身体を後ろから抱きしめたまま、そう言っていた。確かに、リュウキは決して大きな背中じゃない。だけど、レイナにとっては、何よりも大きく感じる彼の背中。それは、安心感もあるからだ、と言う事もあるだろう。そして、大好きな人だからと言う事も絶対に。

「……よろしく。オレも、やっぱりまだ……しんどいから」
「うんっ」

 レイナは、ゆっくりとリュウキの頭を自身の膝へと持っていく。頭を抑えながら力なくもたれているリュウキ。優しく、包み込んだ。

「あは、エギルさんから、これ預かってる。また飲んでね?」
「うん。……はぁ、オレにまだ酒は早かったって事、なんだったな。ぅ……アタマイタイ……」
「そーだよー? 早いっていうか……私たち、未成年なんだからさ。それに、あはっ! リューキ君の『アタマイタイ』ってセリフ、久しぶりに聞いたなぁ……」
「……状況が違うけど。……どっちも嫌な痛みだよ。あまり経験したくない」

 そう言って、レイナとリュウキは笑い合っていた。




 そんな中、店の奥では。




「はぁ、ラブコメ真っ最中か?出るに出れんな」

 エギルが、控えていた。レイナに差し入れ、そして そろそろ、店内の後片付けを、と思っていたのだが、リュウキが目を覚ました事で、あの空間が生まれている。あの中を堂々と入っていって、壊す程野暮ではない。

「まぁ 一応、後10分。リュウキが起きなきゃ、抱えて送っていくって約束だったからな」

 勿論、抱えると言うのは比喩であり、ちゃんと車である。エギルは暖かく見守りつつ、店の奥での片付けを再開していた。















~新生・アルヴヘイム~


 もう時刻は現実でもこの場所でも夜。

 漆黒の夜空に星々が宝石を散りばめた様に広がっている。その漆黒の夜の闇を切り裂くように、飛翔し続けている妖精がいた。

 其々の妖精の象徴でもある独特の色を輝かせながら、加速する。決して、速度を緩めたりしない。飛びのをやめない。以前までなら、限られた中で、最大距離を稼ぐため、最も効率のいい巡航速度や加速と滑空を繰り返すグライド飛行法など、いろいろなことを考慮して飛ばなければならなかった。

 だが、それは以前までの話だ。

 妖精達の翅を縛るシステムの枷は存在しない。あの日の彼らの、いや 協力した皆の活躍もあり、空の上の世界樹の秘密は暴かれた。空中都市などは存在しない。
《光の妖精アルフ》も、そして 訪れた者を生まれ変わらせる妖精王も。いや、妖精王と名乗る者は確かにいた。……偽物の王が。

 その偽物の王を打倒した事で、この世界が一度崩壊。新たな大地を得て転生したとき、この世界を運営するかれらは、世界の支配者としてではなく、世界の調整者としてシステムを構築し直した。その彼らが あらゆる妖精の民に永遠に飛べる翅を与えたのだ。

「………っ!」

 翅で本能のままに、空を飛び続ける緑色の光。その光はシルフを象徴する者。……リーファだった。

 もう20分以上も飛び続けている。

 この世界での加速のセオリーは、以前までの世界での感覚とは違う。以前までのは、滞空制限と言うものがあったから、考慮されていなかったのかもしれない。

 ここでのセオリーは、自動車の様なものだ。

 飛び立った直後は、翅を左右に広げ、振幅も大きく取る。《トルク重視》だと、キリトに言われた。
正直、意味は判らない。そこで、リュウキがトルクについての講義をしてくれたけど……、更にアタマがこんがらがってしまった。

『力学~だの、にゅーとんだの』と 理解するのには、時間が足りなかったから、感覚だけを覚えた。

 兎も角、その力、飛び方で力強く空気を蹴り飛ばした。そして、徐々に速度が乗ると、それに合わせて、今度は翅を鋭角に畳み、振幅も細かくしていく。最高速度(マックス・スピード)になれば、もう翅は殆ど畳んで、見えなくなるほどの高速で振動する。


 つい先週の《アルヴヘイム横断レース》では。


 あの初めて 自分についてきた男の子2人とリーファの3人で競い合った。勿論、参加者はその10倍以上はいる。……3人に最終的についてこられた者がいなかったから、3人だけ、と思えてしまったのだ。

 3人のそれは、正にデッドヒートと言える程のものであり、3本のラインが空に刻まれていく。それは、まるで流れ星の様、まさに彗星だ。僅差でリーファが勝ち、そのままキリト、リュウキの順番でゴールに飛び込んでいた。リュウキが悔しそうな顔をするのを見たのは初めてであり、兄のキリトはえもいわれぬ達成感に包まれている様も初めて見た。


――……あの時は楽しかった。


 いろんな初めてな体験をしたリーファは、くすりと笑っていた。

 ただただ、レース目的で走る様に飛ぶのも勿論良い。だけど、1番は頭の中を空っぽにして飛ぶこと。限界の先を目指して加速していく時が一番だ。

「って!! わぁっ!!」

 リーファは、本能のままに、速度を上げ最高速度にまで上げ、飛び続けている先に人影を見た。

 ……レースの事を思い出していた事もあり、頭の中を空っぽにしていた為、前方不注意になってしまった様だ。

 急いで、急ブレーキをしようか、もしくは、躱そうかとあれこれ考えていた時。その後もうほんの先に居たはずの人影が無くなっていた。

「……本当に気持ちがいいな。ずっと空の上を飛び続けられると言うのは」
「って、わぁぁっ!!!」

 気づいたら、いつの間にか並列飛行をしていたのだ。その相手は……。

「どら……リュウキ君!?」
「ああ、さっきぶり、だったな? リーファ」

 そう、リュウキだった。

 リーファは思う。この人は本当にいろんな意味で不思議な人だと。……今の一瞬で、視界から抜けたかと思いきや、いつの間にか隣にいる。そんな感じなのは、何度か経験しており、あの時勝ったのがマグレ、いや手を抜かれたのか?と思ってしまう程だ。

 だが、本人曰く、そんな事は毛頭無く、失礼に当たる事。全力でやった、らしい。

 そう言っても、見てしまえば説得力が無い。が、言葉には説得力はあったし、嘘を言っている様にも見えない、そして何よりもあの悔しそうな顔が演技だと思えない。

「どうしたの? まだ、集まるには早いんじゃない?」
「……現実(リアル)で、無茶苦茶だったから。ここで飛んでいれば、気分も晴れるんじゃないか? って思ってな」
「ふーん。まぁ、気持ちは判るけどね? なら、レイナさんと一緒の方がよかったんじゃない? ……一緒なら、もっと楽しいかもしれないよ」

 リーファは、この時……少しだけ、リュウキに嫉妬してしまった。大好きな人の所までいけない、とおもってるリーファ。寝言とは言え、否定してくれたんだけど、やっぱりまだ、無理だ。

「……否定はしないよ。だけど、それを比べる事は出来ないな。仲間だったら誰と飛んだってさ。……楽しいよ」
「……そっか」

 リーファはそれを聞いて、ニコリと笑った。確かに愛する人、そして信頼する友達、仲間。その人たちを比べる事なんて、したくないだろう。皆が大切。それが、彼の答えだという事が直ぐにわかったから。

「それより、リーファに……、直葉に、気になってた事があった」
「気に……って?」
「あの時、あのパーティの時、表情が曇っていた。それが少なからず、な」
「っ……」

 リーファは、思わず口元に手を当てた。あのパーティの時。リュウキが倒れてしまう前まで、確かに一歩下がった所にいた事は意識していた。顔に出ないようにとしていたつもりだったんだけど。

「……バレちゃったか」
「まぁな。……リーファは向こうでもこっちでも、顔に出やすい」
「む、ちょっとそれは失礼だよっ! レイナさんに言っちゃうんだからね!」
「……そ、それは失言だった。ゴメン」
「ふふふ」

 随分と尻に敷かれているなぁ、とこの時思わずにはいられなかった。2人して、本当に可愛らしい。年上の人にそんな事を思うのは、それこそ失礼だけど、……思わない様にするのは無理だ。

「……それで、あの時はどうしたんだ? ……まぁ、オレが聞ける範囲じゃないのなら、無理にとは言わない。……人には色々あるからな」
「………」

 リーファは、顔を俯かせた。

「(……あたしじゃ、皆の所には行けない) いや、違うの。……あんな大勢だって、思わなくって……ちょっと」

 リーファは、そう言って笑った。その笑みの奥に、隠された懊悩が、確かにリュウキには視えた。だけど、安易に立ち入って良い領域じゃないだろう事も、判った。

「……そうか」

 リュウキは、頷くと。

「これから、どうするんだ? リーファは」
「……もうちょっと、あっちまで飛んでるつもり」
「そう、か。判った。オレはもう少しここにいるよ」
「うん。……その、それじゃあ、また後でね……?」

 リーファはそう答えると、翅を広げた。そして、身体を浮かせる。

「また、横断レース、しようね?」
「……そうだな。今度は負けないぞ」
「ふふ、受けて立つよー!」

 リーファは、笑いながらそう言うと、夜空の向こうへと飛んでいった。




 リュウキは、それを見届けた後、指を動かし……ウインドウを呼び出した。そして、メッセージを入れた。

 今、リーファの力になって上げられるのは、1人しかいないと思ったから。






 リーファは、リュウキと別れた後も、飛び続けた。自身の悩みは、まだ誰にも打ち明けていない。眠っているリュウキに聞いてもらったけれど。本当の意味ではまだ。

 和人に対する気持ちはまだ変わっていない。

 好きだという気持ちは変わってない。ドアの前でおやすみ、という時、朝、一緒に駅まで走る時。……いつもいつも、まるでふんわりと暖かい陽だまりのような気持ちを感じる。その分だけ、辛い涙を流すことだってある。本当の兄妹のままであれば、……そうでなければ、違う街に暮らす他人同士なら、と。

 だけど、それでも……、想いが通じなくても。一緒に暮らせることだけでも幸せだと思う。

 和人の心の全部でなくていい、その片隅、ほんの少し自分のための場所を作ってもらえればそれでいい。……そう、思える様になってきたのに。

 あのパーティで和人がいつかは遠い手の届かない所に行ってしまう、そんな予感がしたんだ。


――……そんな事無い、関係ない。


 と、偶然だけど、リュウキに言われて、心が少し軽くなった。でも、どうしても……。自分には、皆の記憶、《あの城》の記憶が無いのだから。

「っ!」

 リーファは、その想いを振り払う様に、飛び続けた。どこまでも、この翅なら行ける。そんな想いがあったから。
 しかし、そんなリーファの想いとは裏腹に……、とうとう世界の果てに、限界高度の壁がリーファの身体を捕らえた。加速が急激に鈍り、身体が重くなる。

 そう、この壁よりもずっとずっと厚い壁が、かれらと自分の間にある。

 それを否応なく思い知らされてしまった。手を伸ばしても、何も掴む事ができない。その先に行きたい、と強く思えば思うほど……悲しみが押し寄せてくる。

 上昇速度がゼロになり、そしてマイナスになる。リーファは手を大きく広げたまま、夜空を自由落下していく。

――……どんどん、遠ざかってしまう。


「………そう、だよね」

 リーファは、瞼を閉じた。

 この世界、アルヴヘイム・オンラインより大きなVRMMO連結体に参加する計画がある様だ。手始めに月面を舞台にしたゲームと相互接続するらしい。そうすれば、より遠くまで、あの月まで飛んでいけるようになる。それをかわきりに、やがては世界と世界をも繋ぐ橋もできるだろう。

 何処までも繋がっていく世界。何処までも行ける。


 ……でも。


 リーファは、瞼を閉じたまま、現実を受け入れる様に胸に手を当てた。

 落下していく中、冷たい風が頬を撫でていく。

 その時、突然 体が何かに受け止められ、落下が止まった。


「――!?」

 リーファは驚いて瞼を開けた。目の前に、キリトの顔があった。

「良かった。追いついたよ。……それにしても、どこまで登っていくのかと心配したぞ?」
「……ど、どうして此処に?」
「それは、匿名のメッセージを貰ってな?」
「……(リュウキ君)」

 リーファは、直に判った。兄に連絡を取ったのが、彼だと言う事を。

「それに、もうすぐ時間だ。だから迎えに来たよ」
「そう……、ありがと。  ………2人とも」

 リーファはにこりと笑った。最後には、この場にはいない彼にも。

 この世界は、アルヴヘイムだが、これまでとは違う。

 レクトプログレス社から移管された全ゲームデータ、その中には旧ソードアート・オンラインのキャラデータも含まれている。そこで、運営体は元SAOプレイヤーがこの新ALOにアカウントを作成する場合、外見も含めて、キャラクターを引き続かどうか選択もできるようにしたのだ。

 だけど、キリトは以前の外見を復活させることをせずに、このスプリガンの、当初の通りのランダム外見のままにしていたのだ。

 フェンリルと言う姿を纏っているリュウキに関してはまた、別だった。その種族と言うものこそ、イレギュラー。元々の運営が生み出した存在じゃなかった。どこからやってきたのか、誰にも判らない種族だった。 そう、彼ら以外には。

 だから、リュウキはステータスは初期化したものの、姿形はあの世界のモノになっていた。

「ねぇ、お兄ちゃ、……キリト君はなんで他の人たちみたいに、元の姿に戻らなかったの?」
「うーん。……そうだな」

 キリトは、腕を組み、そして何処か遠くを見るように瞳を煙らせた後、薄く微笑みながら答えた。

「あの世界のキリトの役目はもう終わったから、かな。それに、このスプリガンの姿も気に入ってるしな」
「……そっか」

 リーファは、微笑んでいた。《スプリガンの戦士 キリト》と最初に出会い、世界樹にまで旅をしたのは自分。そう思うと、少しだけ、嬉しかったんだ。

 そして、立ったまま、中を移動すると、リーファはキリトの右手を取った。

「ね、キリト君。踊ろう」
「へ?」

 目を丸くするキリトをリーファは引っ張る。最近開発した高等テクニック。……いつか、愛した人と一緒に踊りたいと思っていた。

 優雅な妖精の踊り(フェアリー・ダンス)を。









 そんな2人の事を、見ていた者達がいた。あの夜空の上で優雅に、華麗に空中で踊る姿を目にしていた者達が

「……大丈夫、だよ。リュウキ君。キリト君とリーファちゃんなら」
「そうだな」

 レイナとリュウキの2人だった。

 キリトにメッセージを送った後に、丁度レイナがログインしたのだ。
 少し早めにログインをすると言う事は既に伝えていたから、レイナも早めにログインをした。リュウキにメッセージを送り、そして位置情報をマップで確認してリュウキの元へと向かったのだ。

「綺麗……だね? すっごく」
「ああ、空に舞う妖精の踊り。フェアリー・ダンスと言ったものだな」

 リーファとキリトの周囲には、銀色の光の粒が溢れ出している。そして、何処からともなく住んだ弦楽の重曹が聴こえてくるのだ。音楽に合わせて、舞っている姿は、本物の妖精そのものだと思えた。

「ね、リュウキ君」
「ん?」

 レイナは、ニコリと笑うとリュウキに手を差し出した。

「私たちも、踊らない?」
「……そうだな」

 リュウキは、レイナの誘いに乗った。あの姿を見て、自分も同じようにと思ったのだろう。

「ふふっ、エスコートしてね??」
「……ん。だけど、オレも初めてなんだけど?」
「もーっ、そこは『判ったよ』とか、『任せとけっ』くらい言ってよー」

 レイナは、ぷーと頬を膨らませる。リュウキはその顔を見て、ニコリと笑い返すと。

「ご所望とあらば。……頑張らない訳にはいかない、な」

 何処か、芝居がかかったセリフを言いながらレイナの手を取った。

「……うんっ!」

 月光に照らされたこの世界の上空で、2組の妖精達がこの空を舞っている。当初こそ、悪戦苦闘していた感が否めないが、徐々に慣れてきたのか、あの2人の見本を見たからか、見事にホバリングし、時にはステップを刻み、時には円舞を行い。アドリブで合わせていく。

「……リュウキ君」
「ん?」

 踊りながら、レイナは口を開いた。
 これまでの経緯から、そして同じ妹と言う立場からも、レイナはリーファと、直葉と話す機会は多かった。

 間違いなく、キリトの次には多かった。

 だから、レイナは判っていたのだ。リーファが何に悩んでいるのか、……誰を愛したのかを。

 だが、どう言えば良いかは判らなかった。

 無闇矢鱈に他人の悩みを言いふらすものじゃない事くらいはレイナも判っている。そして、簡単に解決できるような事でもない事を、判っている。

 この件に関しては、姉のアスナには、こんな事相談出来なかった。……相談、できる筈もなかった。レイナは知ってしまったこの事を、生涯姉に言うつもりはなかった。

「……大丈夫だ」
「っ」

 リュウキは、レイナの頭を撫でた。驚いて、レイナはリュウキの顔を見た。

「キリトなら、大丈夫だ。……アイツの優しさはオレはよく知ってる。……そして、時に優しさで相手を苦しめる事があると言う事も、オレは知っているつもりだ。……相手を想うあまり、相手を傷つけてしまったことはオレにもあるから」
「ぁ……」
「リーファの想い、オレも何となくだけど……判った気がした。……他人に疎かった自分がここまで変わる事ができたのは、キリト達、そしてレイナのおかげ、かな」

 そう言いながら笑うと。

「今は、見守ろう。……そして、これから、皆と思い出をもっと作っていけばいい。……楽しい思い出。……時には辛い事だって、あるだろう。だけど、色んな想いを胸に、歩いていこう」
「………」

 レイナは、そんなリュウキの笑顔を見て、思わずその胸に飛び込んだ。空中で抱き合いながら、緩やかに下降していく2人。

「……リュウキ君も、優しいよ? すっごく優しい。キリト君にも負けてないっ」
「そうか?」
「そうだよっ。……そんなリュウキ君だから、皆は……、私は、好きになったんだから」

 その言葉は、安心させてくれるんだ。お互いがお互いを。そして、きっとリーファも。

 これからもずっと、一緒に翔べると信じてくれる。

 今は、壁を感じてしまっているかもしれない。

 だけど、その壁を笑いながら乗り越えて、皆と手を取り合って。

 ……あの空へ。


「……そろそろ時間だ」
「そう、だね」

 リュウキとレイナは、空を見上げた。キリト達も、どうやら行く場所は同じであり、猛烈なスピードで、イグドラシル・シティの方……、世界樹へと向かっていっている。

「オレ達も行こう」
「うんっ!」

 リュウキとレイナも手を取り合い、飛んだ。この先にある、世界樹に向かって。





 そして。丁度キリト達とリュウキ達が着いたその時にそれはやってきた。

 巨大な満月が、青く光っているその先に。


「……心残りは、あったんだ。中途半端に終わってしまったからな」
「うんっ」

 その巨大な満月の光に影が写る。まるで、月蝕を彷彿させる様に、徐々に欠けていく月明かり。だが、月蝕の時のような影の形ではない。円形ではなく、三角形の楔が食い込んでいくような感覚だ。

 ごーん……ごーん……。と言う低く重々しく響く音。

 遥か遠くからこの空全体を震わせるように降り注いでくる。

 見覚えはある代物。

 だけど、こうやって全体図を外から見た事は……実際に見た事は無いかもしれない。

 あの世界に入る前のパッケージでしか、見た事が無いかもしれない。何故なら、そこで暮らしていたんだから。


 あの場所で、出会い……、絆を深めて……、想いが1つになって……、彼女と結婚したんだから。



「……ね? リュウキ君」
「……ああ」

レイナが何を言うのか、リュウキには判った気がした。

「……また、あのお家に還りたいよね? ……私達の」
「勿論だ。……必ず帰れるよ」

 リュウキはそう言うと、拳をつきだした。

「そして、今度こそ、あの城の全てを制覇してやるさ。その時は、あのアインクラッドの全てが家になるかもな」
「ふふ、リュウキ君なら、しそうだよね?……私も頑張るっ」

 笑顔をみせるレイナ。

 そして、その時だ。

「漸く出てきたな? アップデートする時間、もーちょっと早けりゃ良かったのによう!」

 聞き覚えのある声が空に響く。

「クラインさん! それに皆もっ!」

 クラインだけじゃなく、その後ろには皆がもう入っていたのだ。

「よぉー、レイナちゃん! ……んで、リュウの字は大丈夫なのか? フラフラするなよ?」
「……もう、大丈夫だ」

 見苦しい所を見られてしまった以上、あまり強くは言えないリュウキだった。それを見て、ニカリと笑うクラインは、翅を強く振らせた。

「さぁて、先に行ってるぞ!」

 クラインが飛び上がり。そして。

「よーぉ! 店の延長代金、ちゃ~んと請求するからなっ!」

 続いて、大きなバトルアックスを背負った巨漢、エギルも続く。

「ほらほら、キリト達が、先に入っちゃうわよ~?」
「行きましょうっ!」
「きゅるるるっ!!」

 リズとシリカ、そしてシリカのペットであり、パートナーである子竜ピナも。

「ぜーったい、リーファ、あれ見て面食らってるわね。ふふん、面白そうだから、顔見てやろっと」
「無粋だぞ? 兄と一緒に楽しんでいる所を」
「そーそー。リタッちは、わたしと楽しもうヨ!」
「あー、もう! 暑っ苦しいわねっ!」

 シルフとケットシーのトップであるサクヤ、アリシャ、そして 魔法使いリタも、空へと向かっていく。


「行こうっレイ。リュウキ君」
「お兄さんっ! お姉さんっ!」

 そして、姉のアスナ。その肩のユイも。

「……だな。行こう。レイナ」
「うんっ!」

 この空の向こうに浮かぶ城を目にして、止まっている理由は何処にもないだろう。

「お姉ちゃん! キリト君達のトコが先だよ!」
「勿論っ!」

 レイナは、片方の手で指をさし、片方の手でアスナの手を握った。

「お兄さんっ」

 アスナの肩に乗っていたユイは、そこからしゃらんっと言う音を奏でながら、リュウキの肩に止まった。

「……行こう」

 リュウキは改めてそういった。この空の上では、キリト達も皆の事が気づいたのか、こちらの方を見下ろしていた。リュウキは、ただ無言で、指をさした。あの城に向かって。

 そして微笑む。

 ……それが何を意味するのか、キリトには判った。

 キリトは、ニヤリと笑うと、翅を広げる

「行こうと思えば何処へだって行ける。……だろう? スグ」
「う、うんっ――行くよ、どこまでも、一緒にっ……!」

 リーファは頬に伝った涙を拭う。

 様々な妖精達が目指している空の向こう。


 あの《浮遊城アインクラッド》


 自分には決して行けない、と思っていた城が目の前にある。


「遅かったな? リュウキ」
「ああ。色々と合ってな」

 アスナやレイナ、そしてリュウキと合流したキリト。リーファは、リュウキの姿を見て。


――……リュウキ君。……ありがとう。


 リーファの礼の言葉を心で呟いた。本当に世話になりっぱなしだ。

「頑張るから。きっと」
「その粋だよ」
「うんっ」

 リーファは、アスナとレイナの傍にまで飛んだ。皆と初めて同じ場所に立てた。リーファは、そう想っていた。


 少し遅れたキリトとリュウキ。


「さて、改めて城を目の前にした心境はどうだ? キリト」
「決まってるだろ? ……今度こそ、完全制覇をしてやるさ」
「……そうだな。なら勝負と行くか」
「負けないぜ、リュウキ!」

 2人は、互いに翅を羽ばたかせ飛んだ。

 そもそも、競い合う様なゲームじゃないぞー!と言っていた周囲も2人の姿を見て何処か懐かしい物を見た、と感じていた。


 そして、あの城はもう目の前だ。


「さぁ……」
「行こう!」


 そう、何処へでも行ける。今は、行けなくても、いつか 必ず届く。



 ……あの城にも、そしてその先にも。

 
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