真田十勇士
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巻ノ九 筧十蔵その九
「私もな」
「ですか、では」
「ことの流れ自体では、ですな」
「あの御仁徳川家とも」
「有り得る」
白虎はそのことを否定しなかった。
「この世の流れはわからぬからな」
「ですな、本能寺のことといい」
「この世は全くわかりませぬ」
「何につけても」
「だからですな」
「あの御仁も味方であってくれればいいが」
しかしというのだ。
「敵となった時は」
「これ以上はないまでにですな」
「厄介な敵になりますか」
「家臣も揃っていますし」
「それが為に」
「幸村殿は天下一の侍になるだろう」
これが白虎の見立てだった。
「智勇共にな」
「そのどちらでもですか」
「天下一の侍になられますか」
「そこまでの方ですか」
「そう思う、それ故に用心が必要やもな」
こうも言うのだった。
「敵になれば恐ろしい」
「ですか、そして無明殿」
漁師の一人がここで白虎にこう言って来た。
「西国のことですが」
「どうなっているか」
「道化殿と長老殿が向かわれていて」
「長老殿がか」
「はい、そうです」
「それは大きいな」
白虎はその二人の名を聞いて述べた。
「あの方がか」
「道化殿は都に向かわれています」
西国、いや天下の心臓であるそこにというのだ。
「そして長老は大坂に」
「あの地にか」
「赴かれています」
「羽柴家はあの地に城を築こうとしておるな」
「その城がかなりのものとか」
「安土よりもか」
「その様です」
天下にその威容と壮麗を見せたその城以上にというのだ。
「縄張りだけでもです」
「左様か」
「石山御坊の跡に築こうとしているとか」
「石山御坊か。確かに大きかったな」
白虎も石山御坊のことは知っている、本願寺の拠点でありその大きさは途方もないまでのものであった。
「あの跡に築くとなればな」
「相当なものになりますな」
「やはり天下は羽柴殿か」
「あの方の、ですか」
「やはり世はわからぬ、百姓の家に生まれ草履取りだったというのにな」
その羽柴秀吉がというのだ。
「天下人になるとはな」
「はい、確かに」
「誰もそうなるとは思いませぬな」
「それも到底」
「しかしそうなろうとしている」
秀吉が「天下人にというのだ。
「わからぬな、全く」
「まさに世は一寸先は闇ですな」
「どうなるかわからぬ」
「それで徳川と真田もですか」
「一体どうなるのか」
「わからぬ、しかしあの御仁が傑物なのは確か」
幸村、彼はというのだ。
「真田は確かに小さい、しかしじゃ」
「侮ってはなりませぬか、あの御仁は」
「到底」
「そして若し戦になれば」
「その時はですか」
「うむ、覚悟して挑まなければな」
ならないというのだ、徳川家も。
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