ソードアート・オンライン〜Another story〜
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
現実世界
第153話 追憶のアインクラッド・レイナ編 《前編》
~エギルの店 ダイシー・カフェ~
場面は、再びエギルの店に戻る。
リズは自分で話しておいて『あ~、そんな事もあったっけなぁ~』と言う感じだ。まるで、他人の記憶のように話している様にも取れる。
「……キリトく~ん?」
「う、うぁい?」
アスナの微笑みがキリトを直撃した。その笑みには、とてつもない威力が潜んでいる様であり、最上級ソードスキルも真っ青だ。おまけに、突き刺さる視線は、精神に多大なるダメージを及ぼす追加攻撃。キリトが上手く返事が出来なかった最大の理由がそこにあった。
「へ~~……それって、確か私と一緒にレべリングに行こーって約束してた時のだよね~? 22層でくらしてた時は、攻略とか、レベル上げとか全く考えてなかったんだし」
「え、えっと……」
「なんでショージキに言ってくれなかったのかなぁ? そーいえば、キリト君 あの時なんて言ってたっけ?」
「えっと……な、わ、悪いんだが、記憶力の悪さには自信があって……」
「そーなの。ふ~~ん……」
アスナは、ジト目を止めない。その圧力に耐えかねたキリトは……。
「ご、ごめんなさい……。ついつい寝ちゃって……」
誤魔化すのを諦め、お代官様に頭を垂れた。お代官様~と言うより姫様だろうか。まだまだ、ご立腹のご様子だった。別にやましい事が無いなら嘘つく必要無いじゃない!と。
だが、アスナの重圧が半端なかったから、つい……と言えばアスナにも非はあると思えるが……、この時はキリトは何も言えず、ただただ謝っていた。
「キリトの奴、すっかり尻に敷かれてるな」
エギルは2人のやり取りを見てつくづくそう思う。あの世界でもそうだったけれど、現実に戻ってもやっぱり変わらないんだ。現実でも、仮想世界でも。
……どっちでも楽しそうだ。
「け~~っ」
「お前はそろそろ酒止めとけ。それに男の嫉妬は醜いぞ」
「エギルにゃわかんねーよ! 美人なかみさんがいるんだしよ! バーボン!! ロックだ!」
「へいへい。会社、どーなっても知らんぞ?」
「半休使う!! フレックスもだ!」
「はぁ、後で後悔しても知らねーからな」
エギルは半ば諦めた様で、クラインの注文どおりバーボンを手際よく準備した。そもそも、酔っ払いを論破する事自体不可能なんだから。……勿論、先ほどまで頼んでいた酒は、何をどういわれても出さないつもりだった。
所でレイナはと言うと。
「むっ、む~~! リズさんっ! キリト君との事だけじゃないじゃんっ!!」
「え~? あたし、キリトメイン~とは言ったけど、リュウキが出てこない~なんて言ってないわよ~? そ・れ・に! あの後……ふふふ」
「『ふ、ふふふ?』 ふふふ、って何っ! 一体何してたのっ!! もうっ リズさんっ!!」
これは、大分恒例になってきている。リズがレイナをからかっている事が。それを見たシリカは思わず。
「れ、レイナさん……、何だかとっても可愛いですっ」
そう言っていた。 この中では、間違いなく一番その言葉にふさわしい容姿であろう少女はシリカなのだが。そんなシリカでも 今のレイナは可愛く見えてしまうのだろう。
アスナと容姿が似ているのに、とても可愛らしくリズの胸元をぽかぽかっ と叩いているのだから。
そして、この場に揃った大半の女性プレイヤーはシリカと同じ気持ちだった。
微笑ましそうに見ているのが、最年長者であるユリエールだった。シンカーを助けに行く為に、協力してくれた時の彼女は自分なんかよりずっと凛々しく、しっかりしている、と言う印象を強く持っていた。
それは、アスナに対しても同様だ。
だけど、ここの彼女達はとても可愛らしく、そして愛らしい。……彼女達にだって、重圧がかかっていた筈なんだ。大きな組織を纏める為に。自分達もその事は、正直申し訳ないとどうしても思ってしまう。本人達は、大丈夫だと言ってくれても、……適材適所だと言ってくれてたとしても。
「いや、そう思いつめてしまう事が、笑顔を絶やしてしまう方が 彼女達に悪い。……笑顔でいなければ」
「ん? どうかしたのかい?」
「いや……何でもないよ」
ニコリと笑みを見せるユリエール。
何でもない、と言っていたがシンカーには何処か判った気がした。彼女が何処を見て笑っていたかを見れば、一目瞭然だろう。そして、笑顔の理由も……。
だから、シンカーはユリエールの隣に座ると、そっと肩を抱いた。ユリエールも、シンカーに身を委ねる様に、そっと身体を預ける。
2人は、改めて助けてくれた人たちを。……あの世界の英雄達を、笑顔で見守っているのだった。
そして、まだ、話はまだ続く。
「りゅーきくんっ! 一体リズさんと、何したのっ!! もうっ、おきてよー!」
レイナは、まだ目を覚まさないリュウキの頬をぐに~んっと伸ばす。上手く呼吸が出来ないせいか、〝ふがっふがっ!〟と言っているがお構いなく。……正直、可愛い、と思ったりしておもちゃにしかけているのはご愛嬌だ。
「にっひひ~、はーい! じゃ、そろそろレイの番よ~?」
「えっ? ひゃ、ひゃっ!」
リズは、レイナの脇部分に腕を入れた。そのまま、羽交い絞めに?と思ったがそこまでは入れず、脇をこちょこちょ!っとこちょばす!
「わぁっ! あ、あは、あははっ、り、リズさっ! や、やめっ! わ、わたしそこ、弱っ! ひゃぁ~!」
「ほうほう、レイはここが弱いのか~、りゅーきは知ってるのかい??」
「だ、だめっ! や、ああんっ! や、やっ! やぁぁっ、あ、ん~~」
レイナの悶える姿は、何処と無く色っぽく見えてしまうのは仕方が無いだろう。ここには、キリトやクラインを始め、シンカー、風林火山のメンバーたちもいるし、男性達は思わず目が釘付けになる。レイナはアスナに似て美人だ。だが、普段の振る舞いから、可愛いという部類よりだろう。でも、今はリズの責めを受け続けているから、表情も赤く火照っている様にも見える為、それが更に彼女のお色気をかもしだしている。
今までの彼女には無かったものだ。
『ごくり』
生唾。誰が鳴らしたのかはわからないが、生唾を鳴らしながら飲み込んでしまうのだって、無理は無いことだろう。健全な男の子だったら尚更だ。でも、それを許さない女の子だって勿論いる。
ユリエールだったり、サチだったり……そして。
「いてっ!!」
アスナだったり。キリトが、ガン見していたもんだから、反射的にひっ叩いてしまった様だ。……所謂、体術スキルもしくは拳術スキルを。
そして、リズはお約束のお代官様ゴッコ。『良いではないか、良いではないか~』っと、レイナの身体の至る所を、モミしだきだした。同姓であっても、顔を赤くさせてしまう様な光景だ。そろそろ、色んな意味でアウトになりそうだった事と、妹の貞操?を守る為。“ひょいっ”っと、リズを摘み上げるように持ち上げると。
「リーズーー??」
アスナの有無言わさぬ迫力ある言霊が再び。流石に多少なりとも酔っているリズであっても、降参した様に頭を掻いていた。
「あーぅー///」
レイナは、ごそごそっと何やら服を調えていた。……どうやら、リズの魔の手は、女の子を象徴している場所、その2つの膨らみにまで及びつつあったようで……、僅かながらずれてしまった様だ。
『!!!』
そんな、姿を見せられたらまた、ガン見!凝視!してしまうのが男の性。勿論、女は強し!一撃で黙らせてしまったのだった。
「いやぁ……良いモン見れたなぁ……」
この時ばかりは、クラインは役得だった様だ。強烈な一撃を入れる相手がいないから。独り身と言うポジションが大いに役に立ったのだった。……最後、そう考えた時は嬉しそうじゃなかったが。
「ま、悪ふざけは置いといて……、聞きたいのは事実なのよね~。レイとリュウキの馴初め。だったり、それまでの段取りだったり?」
多分 しらふで聞いたら、ムカッ! と来てしまうから今しかないとも思えるのだ。……こう言うのは勢いも大事だと言う事。そして、彼女達であればムカ!よりも、面白っ!の方が多そうだと思うのも1つあった。
「う~……リズさん、なんだか失礼なこと、考えてない?」
「そーんなこと 無いですわよ~?」
「もうっ! 口調、変だよっ!!」
「あ、でも、私も気になります!」
「あの~、正直私も……」
「え、ええっ 直葉ちゃんも……?」
ここで、名乗りを上げたのがリーファ事、直葉だった。ドラゴとしてだが、彼とは胸の透くような冒険を共にした仲間でもある。色んな意味で破天荒なこの人が、滅茶苦茶鈍感そうな(マジです。)男の子が、どーやって、付き合う様になったのか。気になるのは仕方が無いだろう。
そして、直葉とシリカを皮切りに、大体皆聞いてみたい様だった。
「え、えっと……わ、判ったよー……、皆が言って、私だけ言わないのはフェアじゃないもんね」
レイナは観念した様だ。だが、一体何処から話せば良いだろうか?とも思ってしまう。リュウキとレイナの出会いは、第1層でのBOSS攻略会議の席だ。でも、そこからの話をしようとすれば……間違いなく長い。
今日一日だけじゃ収まらない。
800字原稿用紙1000枚くらいは……かかる。間違いなく。なら、初めに戻った方が(第10話!)効率が……と言うのは身も蓋もないので無い方向で。
「そう言えばさ? レイって、事ある事に何か理由を付けてリュウキ君の所に行ってたじゃん?」
「う、うえっ!? お、お姉ちゃん な、なんで知ってっ??」
「……判るよー、だってレイの事だしね?(と言うより、バレないってほんとに思ってたのかな??)」
姉のアスナも乗ってきた事よりも、バレてる事の方が驚きを隠せないレイナ。逆にアレでバレないと思った方が驚きだと思ってるアスナ。……お分かりだと思いますが、アスナもレイナもハッキリと顔に出ます。事、異性のことは。だから、レイナがアスナの立場だったら、アスナの事も即バレてる。案の定、何度か行く場所を見破った事だってあるからだ。
つまりは自分事となれば判らなくなってしまうのは仕方が無いと言うこと。
「いーからいーから! さ、奮ってどーぞ? リュウキ、ま~だ、眠ってるし。今のうちにどーぞ!」
「お願いしますっ!」
「お、お願いしまぁす」
「あ、あぅ……/// わ、わかったよっ! 言うからっ!!」
シリカは元気いっぱいに聞くが、直葉はやや恥ずかしそうだ。これが、酒によるリミッター解除の差である。……まだ、入り口にすら立っていないけれど。
それは兎も角、レイナは覚悟を決めて話し出した。彼との事を……。そう、あれは まだ……想いを伝え合う前の事。恥ずかしいけれど、大切な思い出。大変だったけど、とても大切な思い出。……少し後悔してしまった事もあったけれど、とても、とても大切な思い出。
~追憶のアインクラッド 第47層・フローリア レイナ Memories~
血盟騎士団副団長・補佐事、レイナは この別名:花の層《フラワーガーデン》と呼ばれている層へと足を運んでいた。
別にギルドの仕事があった訳でも、この場所で入手できる素材の為でもない。ただ、レイナは特に意味も無く、時折この場所には足を運んでいるのだ。
円形の広場の十字路を抜け、花で飾られたアーチを潜り、そして更に先へ。現実では、見た事が無い花だが、香りとちょっとした見た目は現実世界で言う紫雲英に似ている。花の色は紅紫と白。その辺りも同じだから、きっとモデルにしたんだろうと、思うのは彼女にとっては難しくなかった。
「すぅぅ……はぁー……」
レイナは 無数の花達の香りを存分に楽しんだ。ディティール・フォーカシング・システムの事は勿論知っている。だけど、もうそんなシステムの事など、ここに来てしまえば、あっという間に消えうせ、本当の、本物の沢山の花に囲まれていると思ってしまう。
「うんっ。やっぱり此処……好きだなぁ」
レイナは、ニコリと笑いながらそうつぶやいた。そして、ちらっと見る場所を変える。 思い切り、深呼吸するのは、勿論周囲に人がいないことを確認してからする。……正直不本意だけれど、自分は、このアインクラッドでは結構有名だから。1人で行動をする時は、結構気にかけてるし もしも 沢山の人に囲まれる様な事があれば……、敏捷値に物を言わせて、即退散するのだ。それなりに鍛えてきた数値だから、自信もある。
それに……確かに慕ってくれるのはうれしいけれど、男性プレイヤーに言い寄られるのは好ましくない。だって……自分は。
「……好きなんだもん。好きな人、できたんだもん」
ぼそり、と呟くレイナ。確かに、以前よりは彼と一緒に話す機会も増えたし、今でもすごく幸せを感じられてしまう。だけど、どんどん欲が出てきてしまうんだ。
もっと話したい。
――……もっと、彼の事聞きたいし、自分の事を知ってもらいたい。
――……もっと、彼に触れたい、……触れられたい。
レイナは、欲張りなのかな?と正直思ってしまう。
でも、それでも。本気で好きになってしまった。……好きに、なってしまったんだ。我慢なんて、出来ないくらいに。
そんな時だった。
「珍しいな。こんな所で」
「っっ!!!!」
思わず、飛び上がりそうになった。口から、心臓が飛び出ちゃいそうな気分だ。動悸が中々収まらず、食べてもいないのに、喉に餅を詰まらせた様にむせてしまう。
「っと……、悪い。驚かせてしまったか?」
レイナの様子に気づいたその男は、二度、三度とレイナの背中を摩る。……血盟騎士団のユニフォーム着の上だったから、そんなにその手を感じる筈も無いのに、なぜか、触ってもらった場所が燃えているかの様に熱いのがよく判った。
レイナは、必死にその猛りを鎮めつつ、どうにか振り返る。そこには、……思い描いていた人がたっていた。
――……いつか、この場所で一緒に歩きたい。一緒に花の道を歩いて、そして、桜吹雪のように降り注ぐ美しいその下を歩きたい。……手を繋いで、腕を組んで、……恋人がそうする様に歩きたい。
そう、夢に思っていた人。その人が……目の前にいたのだ。
「りゅっ! りゅーき……くんっ!?」
「ああ、オレだ。驚かせてしまったのは悪かった。……大丈夫か?」
そう、目の前にいたのは、リュウキだった。
リュウキはレイナの顔を覗き込んでいたんだ。そして、レイナの頬が赤いのは、突然のことに驚いてしまった為、とリュウキは納得をしていた。
「なな、なんで、りゅーきくんがここに??」
「ん、ちょっと、アルゴからの依頼でな。ビーストテイマーが居なくても、《プネウマの花》が花を咲かせると言う情報を得たから、信憑性を確かめてほしいらしい。……この層はあまり視てないから、丁度良かった」
リュウキの話す内容を頭の中に流すのはどうやら、可能だった。その話は、血盟騎士団の中でも少しだけ、聞いている。だが、ビーストテイマーに分類するプレイヤーが、血盟騎士団の中に居ない事もあって、そこまで注目されてなかったのだ。
「ん。知り合いにもビーストテイマーのコがいるからな。もし、本当で入手できるなら、無駄にはならない」
「へ、へぇ……そーなんだ。(ん? コ??)」
レイナは一瞬だけ、頭にそのビーストテイマーのコと言う言葉が流れたが……直に感情の濁流に流されて消えてしまった。好きな人と、好きな場所で、好きな人と来たかった場所に今いるんだから。今の状況をかみ締めるのに、精一杯だったのだ。
……間違いなく。
「じゃあ、また、な? レイナ」
かく言うリュウキもこの頃はそこまで心の機微など判っているものではなく、(今は?と言われても素直に頷けない。)レイナの事など判ってる筈が無い。だから、早々に依頼を済ませようと、思い出の丘に向かおうとした時だ。
「あっ! ま、まって!! まってまってっ!!」
レイナは、瞬時に気を入れなおし、気を整え、リュウキをとめた。以前の自分なら……、そのまま行ってしまわれてもおかしくなかったけど、今は違う。リュウキと言う人のことを知れた今は違った。彼女の中に勇気が芽生えだしているのだから。
「ん? どうした?」
「え、えっとね。あ、あの……」
何度も何度も、咽てしまうのを抑えながら、言葉にしようと必死に声を出す。だが、それはリュウキじゃなくたって、あからさまに体調が悪いのではないか?と思ってしまうだろう。それに、リュウキはレイナの事は信頼している。自分の過去を聞いてくれて、安心させてくれた相手のだから。だからこそ、彼女のことが心配になって。
「……ギルドの用事があるのかもしれないが、体調が、精神が悪い状態での探索は頂けないな。レイナの腕を疑う分けじゃないが。今日は帰って休んだほうがいいn「だ、大丈夫っ!!」っっ!?」
リュウキは、レイナの身を案じてそういっていた。
あの時の礼と言う意味もあるって思うけど、返しても返しきれない程のものなんだ。だから、そう言ったんだが、レイナは拒否をした。
それも力いっぱい。
「だ、大丈夫だからっ! それに、今日はギルドのお仕事とかじゃないし!」
「そう、なのか。なら良いが」
リュウキは、とりあえず安心をした。さっきまでの彼女とは違うから。所々、情緒不安定な気もするけれど、彼女の今の姿を見たら、大丈夫だって思える。
「じゃあ、俺はここでm「リュウキくんっ!」んん?? ……本当にどうしたんだ? 何だか、レイナじゃない気がするぞ?」
こんなキャラだったか?って思えるくらいに、大きな声を出して、会話の間に切り込んでくる。……大きな声を出すのはよくよく考えたらいつも通りだけれど、ここまでじゃなかった気はする。
「あ、あのっ……わ、私も手伝っちゃだめ……かな?」
レイナは、勇気を振り絞ってそう聞いた。さっきまでの彼女とはまるで違う雰囲気。折れてしまいそうな程に、華奢になってしまったようだ。
「っ……、て、手伝う程の事じゃないんだが……、レイナにもギルドのこと、あるんじゃないのか?」
リュウキは、レイナの表情を見て、少し動悸がした。この感情、以前もあった心が揺れる様な感情。誰にも相談できない判らない感情だ。だけど、判らないんだけれど、何故か不快じゃない。心地よささえ感じる。
リュウキはそう思いながらレイナの返答を待った。体感時間は、先ほどの倍以上に感じていた。
そして、レイナは、大きく頷くと。
「だ、大丈夫だよっ! 今日は……わたし、OFFの日だし。リュウキ君の力になりたいって気持ち、まだ沢山もってるし。……そ、その、リュウキ君とパーティをまた、組みたいから」
「………」
リュウキはその言葉を聴いて、精神を落ち着かせようと、軽く深呼吸をした。レイナにとって、その仕草と返答までの時間、それが凄く緊張して、緊張のしすぎで、怖いくらいだった。
時間にしてそれは、数秒の出来事だったけれど。
「ああ、判った」
「えっ、ほ、ほんとっ??」
「……だからオレは嘘は言わない」
「う、うんっ、そうだったよ。ありがとうっ! リュウキくんっ!」
レイナは花開く様な笑顔を見せながら笑った。極度の緊張感から、解放されたからか、薄っすらと涙さえ、見られる。……そこまでの事、だろうか?とリュウキはあの時同様思ってしまうが、また、心が和みつつあったから、良しとした。ひょっとしたら、この気持ちが理解できるかもしれない、とも思ったからだ。……本人に聞いたりは絶対に出来ないが。
その後、レイナはリュウキと共に念願である、ここ花の層を一緒に歩くことが出来た。あ、書くのを忘れていたけれど、彼はしっかりとフードはかぶっているから、そこは若干不満もあったが、白銀の勇者情報として、出回るのも好ましくない。と言うより、レイナにとっても恥ずかしいから。
……ハードルが凄く高い。
だって、この層はデートスポットとしても有名だから。以前に第53層の《リストランテ》に行って食事をしたけれど、あの時とは比べ物にならない程の緊張感だった。
「思い出の丘、か。結構久しぶりだな」
レイナが ガチンガチンに緊張していた時、リュウキはそう呟いていた。
フローリアから、更に南のフィールドを抜け、赤レンガの街道を真っ直ぐに進んでいくと、その先には小川がかかった小さな橋がある。……以前は、この場所で例のギルドに待ち伏せされた場所だ。あまり良い思い出じゃないリュウキはそこで、考えをシャットした。
「……レイナ、本当に大丈夫か?」
リュウキは、先ほどから明らかに上の空なレイナを見ながらそう聞く。
戦闘になれば、何処かにスイッチがあるのか?と思える程に変わり、見事なソードスキルと連携で問題なくモンスターを葬る。それが、かつて、ビーストテイマーの彼女が心底嫌悪した、あの醜悪な歩く花やイソギンチャクの様な粘液まみれのモンスターも全てを見極めて行動をしていた。もう、60層以上の層をクリアしている最前線のプレイヤーだ、と思えば頷ける実力である。
……が、何故だかただの街道、湧出しない場所にいるとこんな感じになっているのだ。
「(りゅーき、りゅーきくんとでーと……でーと……///)っ! だ、だいじょうぶだよっ!わたし、大丈夫っ!」
レイナは、はっとしながらリュウキの方を見て、ぐっと力を入れる。……確かに、敵と遭遇したら、問題なくなるから。
「わかった。だが、無理だけはするなよ? ……何かあれば、ちゃんと事前に言ってくれ。何かあったら絶対にオレがなんとかする」
「っ/// う、うんっ! ありがとね。リュウキ君っ!」
リュウキは、きっと以前の事を考えて、感謝をしているから。程度にしか考えてないだろう。だけど、レイナはとても嬉しかった。守ってくれる事もそうだ。普段の自分は皆を指揮する位置にいるし、守られると言う事はあまりなくなっていたから。
……やっぱり、女の子だから、守ってもらいたい。甘えたい。と思ってしまうのだ。特に、好きな人には。
「あとは一直線、だな。……行くぞ?」
「うんっ」
リュウキは、小高い丘を指さしながらそう言う。道は、丘を巻いて頂上にまで続いている一本道だ。モンスターの量は多いが、後は変に道から外れる様な事をしなければ、良い。今日の目的は、プネウマの花の真実なのだから、道をそれる様な事はしないつもりだ。道中だけを視ればいい。
そして、2人は大量に押し寄せてくるモンスター達を一掃。瞬く間に頂上にまで上りつめた。
その場所は空中の花畑。と言っていい場所。
思い出の丘とはよく言ったもので、ここでの思い出は当然リュウキにもある。大切な仲間を助ける事が出来ると、涙を流した仲間。あの時の事は、多分ずっと忘れる事が無いだろう。それ程までに暖かい気持ちになったのだから。
――……誰かを助けたい。
リュウキのその気持ちは、受け入りだったりするが。
「はぁー、ここは滅多に来ないけど、やっぱりキレイだねぇ? リュウキ君」
「ん……。そう、だな。百花繚乱の花吹雪。……まだ 上の層はあるっていうのに、ここよりも綺麗な層は、無いんじゃないか、って思える程だ」
「……うんっ」
レイナは、そっと手を伸ばそうと伸ばそうとしたけれど、なかなか進むことが出来ない。リュウキは、目をつむって、心行くまで花の香りを楽しんでいる様だ。だから、握ろうと思ったらいける!!って思えるけど、それは不意打ちだ。ならば、『手……つないでもいいかな?』と言えばどうだろうか?
だが……レイナは首をぶんぶんっ!と振った。
慣れてきたとは言え、そこまでの勇気は持ち合わせてない様だった。
「え、えっと リュウキ君」
「ん?」
ついに!レイナは勇気を振り絞って行くのだろうか!?
「そ、その……」
何度か息継ぎをしつつ、心を落ち着かせて……。声に出す。
「アルゴさんの、じょーほーって、どーいうのなのかなー?」
…………。はい。まだ彼女には無理でした。
正直、別に知らなくても良い、彼と一緒にいられるだけでいい。と思ってしまっていたレイナ。だから、少なからず気になるとは言え、そんな今聴くような事ではない。本当に聞きたかった事、御願いしたかった事を言えなかった事に、少なからず落胆した様だ。
「ん。それがな、さっきは指定した時間、と言ったが色々と憶測がある様だ」
「……え? そうなの?」
「ああ、基本情報は、眉唾なものが多いからな。情報を元に、何人ものプレイヤーがここに確認にきたらしいが、手に入れられたプレイヤーはいなかったそうだ」
「ええー、それってガセ情報って事?」
「いや、そう言うわけでもなさそうなんだ」
思いのほか、リュウキとレイナの会話は続いていく。
「目的の違い、だな。ここにプネウマの花を求めて来たわけじゃないプレイヤー達が何人か、花を手に入れている。と言う話もあるらしい。……所謂、情報を確かめようと見に来た連中は、全て駄目だとのことだ」
「あっ、なる程……、なんだか重要なフラグの様なものを見落としてる感じだね?」
「ああ、その線が濃厚、だな。一応視てみて、何かはあるとは思う。少なくともガセじゃないだろう。アルゴの情報だ。そこは信頼はしていいだろう」
やや、アルゴに対してトゲがあるリュウキだった。
そして、その後リュウキは目を赤くさせながら周囲を視ていった。ただ、思う事は眼の事。……こうやって、周囲観察の時とかに、無意識に視ている事も多いし。使うつもりが無かった、とか言ってももう説得力がないだろうな、とリュウキは苦笑いしていた。ただ、使いすぎた時の消耗が半端ないのは事実な為、乱用は出来ないが。
「へー……(リュウキ君の《みる》って、やっぱりすごいなぁ)」
この時のレイナは彼の事をそこまで知らなかったのだった。
そして花畑の中央に白く輝く大きな岩が見えてくる。
通常であれば、ビーストテイマーが、恐らくはテイムしたモンスターが共にいるか、若しくは心のアイテムを持っているかが、キー、フラグになっていると思われる。そのフラグを解除すれば、花が開花するのだろう。今回は、条件を満たしてはいない。
「ん? リュウキ君、何か光ったよ?」
「何?」
リュウキが、周辺を再度確認していた時だ。レイナが気がついた。それは、白く輝く岩。プネウマの花が開花する場所だった。
そこを凝視した時だ。
〝ピコンっ!〟と言う音と共に、《!》アイコンが出現した。
「……出たな」
「……出たね」
特にコレといって何かをした訳ではない。だが、あっけなくそれは出現した。どうやら、クエスト開始フラグの様だ。
「じゃあ、やってみる?」
「そうだな」
レイナは、その《!》に手を触れた。
それが合図となり、突如、美しい女性の声が周囲に響き渡る。
『花を求めしもの達よ……、汝らは何故、花を求める? この花は、汝らには何ら必要の無い代物だ。人と魔物が種を超え、絆を深めた魔物使いのみが必要とする代物だ』
クエストの決まり文句、だろう。何かしらの条件が整えば、こちらのクエストが開始される。ある程度、先まで開通したから、この手のイベントが解放されたのだろうか、とリュウキは思いつつ話を聞いた。
『それとも、己が欲の為に欲する為か? ……この花は希少種故に、そう言った手合が絶えない。何時の世もそうだ』
険悪な雰囲気を出しているNPCだった。所謂、人間を嫌っていると言う設定なのだろう。自然の精霊と言えば定番と言えばそうだ、とリュウキは思っていた。
「そ、そんな事しないよっ! リュウキ君は、そんな人じゃないっ!」
レイナは、ついつい そう言い返していた。イベントクエストだと言う事を、忘れてしまっているのだろう。
「…‥レイナ、相手はNPCだ。そんなにムキになること無い」
「あっ……その……つい」
レイナは思わず反論してしまった。だが、相手はNPC。そんな相手に反論しても、彼女は決まったセリフを言っているだけだから、不毛なだけだ。レイナは、少し恥ずかしくなりながら一歩引いた。
「でも、ありがとな。そう言ってくれて」
「っ!! い、いやっ わ、わたしはそう思っただけだから……。思った事を言っただけだから」
レイナは頭の中で不毛と考えていたのを撤回した。リュウキに礼を言ってもらえただけでも満足だから。
『……ほう、我は長くこの場所で、彼奴等の絆を見てきたが。汝らにも深い絆がある様だな?』
「え、ええっ!!!??」
「………」
レイナはまさかの言葉に大慌て。リュウキは逆に、更に集中していた。自分達を見て、このNPCは言葉を選んだんだと直感した。
恐らく、2名以上でこの場に来る事が第一条件。
アルゴによれば、探索にきたのは、今の最前線に比べたら層が比較的低いから1人で大丈夫だと言って向かった為、殆どがソロ。それと2~3名が何組か。
だが、それでは、何故、自分達の様に他のプレイヤー達がこのイベントを起こせなかったのだろうか。
それがもう一つの条件。恐らく、このNPCは人数以外にも見ている所がある。それが、レイナと自分、つまり《Male》と《Female》
結論は、異性同士の2人が此処に来ればこのイベントは開始されると言う可能性が濃厚だ。
この場所は、男女ペアのプレイヤーが多く、それならば 入手したと言う理由も判りやすい。
『面白い。……花が欲しくば絆を我にみせてみよ。我を納得させられたら、特別に花はくれてやろう』
そう言うと同時に。
□ □ □
クエストを受注しますか?
YES NO
□ □ □
クエスト受注するか否かのメッセージが現れた。
「なるほど。……大体発生条件はわかったな。なかなか見つけられない訳だ」
リュウキはそう言っていた。ここ、アインクラッドにおいて、女性のユーザーは男性に比べて圧倒的に少ない。確かに、この層では多々見られるが、全体的に考えたら女性の数の方が圧倒的に少ないのだ。そんな中で、プネウマの花を求め、且つ男女でこの場所に……となれば確立は決して高くはないだろう。この場所にまで、となれば それなりの戦線を潜り抜けなければならないのだから。
……自分の周りには随分と女性プレイヤーが多いな?と一瞬思ったリュウキだったが、偶然か、と一瞬で片付けてしまった。
「どうする? レイナ。このイベントは初めてだ。どれくらいかかるか判らない。ここでy「やるっ!!」っ!?」
レイナは、リュウキが最後まで言い終える前に 続行を提案していた。その拳はぎゅっと握られており、かなり気合が入っている様だ。
「……わかった」
「うんっ♪」
レイナは、にこっと笑ってYESである《○》を人差し指でぽんっ! っと、クリックした。絆~ 等の話を聞いていたから、とても嬉しくて、そしてやり遂げたいと強く思ったから、と言う動機は彼女の心の奥に仕舞っている。
『ふふふ……そうか。ならば汝らの絆を我に見せてみよ』
それが、開始の合図だった。
だが、レイナはこの時は知る由もなかった。
この、47層と言う比較的低い層で、大変な事になってしまうと言う事を……。
ページ上へ戻る