黒魔術師松本沙耶香 客船篇
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8部分:第八章
第八章
「だからね。舐め方もね」
「わかっておられるのですか」
「そういうことよ」
彼女に対してまた告げる。彼女は話の間にベッドから身体を起こしてである。そのうえで下着からストッキング、そして服を身に着けていく。そうして元のメイドに戻るのであった。
「そしてメイドはね」
「メイドは?」
「好きよ」
メイドに対する言葉はこれであった。
「それはね」
「お好きなのですか」
「制服の女性はどれも好きだけれど」
ふと出て来た沙耶香の嗜好であった。同性に対してもかなりの漁色家である彼女だがその嗜好として制服の女を愛する傾向があるようである。
「メイドもその中にあるわ」
「そうだったんですか」
「けれど貴女がメイドでなかったとしても」
「なかったとしても」
「貴女はこうして抱かせてもらっていたわ」
そうするというのだ。述べながら煙草を出してだ。指から火を出してその上で火を吐ける。彼女に背を向けていたので指から火を出したのは見られなかった。
「そういうことよ」
「そうですか。それではまた」
「ええ、またね」
「御夕食はどうしましょうか」
「それは食堂で貰うわ」
そうするというのである。
「楽しみにしているから」
「はい、それでは」
「それまではね」
ここで右手を見る。そこからはテーブルのある部屋が見える。そのテーブルの上に二本のトカイが入ったボックスがある。それとチーズにソーセージもだ。
「ワインを楽しませてもらうわ」
「はい、それではその時に御呼びしますので」
「それでは」
こうして彼女は礼儀正しく一礼しそのうえで部屋を後にした。一人になった沙耶香は煙草を吸い終わるとテーブルに戻り酒を楽しんだ。
ワインを二本飲み終えそれから暫くは風呂で身体を休めさせた。そうしてすっきりとしたところでベルが鳴った。すると先程とは違ってボーイが来た。黒髪を綺麗に後ろに撫で付けた端正な青年である。丁寧な黒い制服を着ている。
「御夕食です」
「わかったわ」
その彼の言葉にこう応えるのだった。
「それでは」
「はい、御案内致しますので」
「有り難う。それでだけれど」
「何でしょうか」
「後でいいからワインはなおしておいて」
それを下げるように頼むだった。
「もう飲ませてもらったから」
「左様ですか」
「やはりトカイはいいわね」
トカイのその感想も話すのだった。トカイは西欧でもかなり高名なワインである。かつては王侯貴族が愛した美酒なのである。
「それを置いてくれているとはね」
「堪能されましたか」
「ええ、それじゃあ夕食のワインも」
そのことについても述べる沙耶香だった。
「トカイにさせてもらおうかしら」
「それにされるのですか」
「メニューを聞いてから決めるわ」
しかし最終的な決断はここではしなかった。トカイは第一の候補に置いただけである。メニューを聞いてから決めるというのである。
「そうするわ」
「はい、それでは」
沙耶香はその食堂に案内された。黄金に輝く巨大なシャンデリラが幾つもあるその食堂にはオーケストラがモーツァルトの音楽を奏でており着飾った人々が優雅に夕食を採っている。沙耶香はその彼等を見てふと言うのであった。
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