リリなのinボクらの太陽サーガ
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同族
前書き
相変わらず執筆時間が取れませんが、ぼちぼちと書き進めていきます。
今回の話は原作キャラにはキツイ展開があります。読む際は注意してください。
模索の回
~~Side of フェイト~~
ユーノが目覚めた、という連絡と、ファーヴニルが地球に向かっているとの連絡が届いた。私達は母さんの家があったミッドチルダ南部から、なのはは任務失敗で入院したはやてを心配して聖王教会から駆け付けたヴォルケンリッターと一緒に病院から、クロノはユーノにこれまでの経緯を説明しているため医務室から、それぞれ通信でアースラのブリッジと繋いでいた。
ちなみにリーゼ姉妹が最初、なのはの通信画面に一緒にいて、リンディさんに「なのはの体調を厳しく見ておくように」と告げていた。それを聞いた時、なのはは疑問形を浮かべていたけど、彼女達が何の意図でこの事を言ってきたのか、リンディさんはすぐに察知していた。それを確認した後、リーゼロッテさんはもう一つ何かを言おうとしていたが、リーゼアリアさんに何故か止められていて、そのままグレアム提督に報告するために転移で帰って行った。
一体、彼女達は何を隠しているのだろう……? 理由はわからないけど、とてつもなく大事な事のような気がする……。でも知ってしまったら、タイセツな何かが壊れる程の衝撃を受けてしまいそうな……そんな気がした。……考えても答え合わせは出来ないし、今は目の前の事に集中しよう。
『なんか皆、バラバラな場所にいるなぁ。まぁ、しばらく自由行動って言ってたからそれは別にいいけどね』
エイミィの一言に、その通りだと思って苦笑してしまった。本当は笑っていられる状況じゃないんだけど。
「それよりエイミィ、ファーヴニルが地球に向かっているって本当?」
『うん、フェイトちゃん。魔力吸収の中心部が動き出したから、ファーヴニルが移動しているって事を確認出来たんだ。それで向かっている先にあった世界が、第97管理外世界、地球だったんだよ』
『そんな……こうしちゃいられない! すぐ駆け付けないと!!』
『……残念だけどそれは出来ないわ、なのはさん』
『え、どうしてですかリンディさん!? まさか……魔力吸収の影響!?』
『その通りよ。まず駆け付けようにも、次元空間の魔力が完全に枯渇している現在、管理局の全ての次元航行艦が次元空間を移動出来なくなっている。だから今、アースラは次元空間を通って地球に行く事が出来ないの。それに例え行く方法があったとしても、管理局が重要な戦力であるあなた達を行かせるつもりは無いと思うわ』
「えぇ~!? 無理やり連れて来ておいて、そんなのって無いよ! このまま私達に地球が襲われるのを黙って見てろって言うの!?」
「相変わらず管理局は身勝手ね。せっかく取り戻した幸せな家族生活を送れる住処、それを失うのはご免被るわ。大体、あの星は性根の良い人達が多くて、余生を送るにはあれ以上の環境は無い。何とか駆け付ける手段は無いのかしら?」
『残念ですがプレシアさん、現状では打つ手がありません。次元世界の開発技術は環境にもクリーンで膨大なエネルギーが生み出せる魔力を主な動力源としているので、魔力が消失してしまっては話にならないのです。一応、電力などは今も使えるのですが、予備で搭載されている従来の発電システムでは次元空間を移動できる程の動力が得られません』
『マズいな……これでは誰にもファーヴニルを止められない……! このままでは主はやての故郷が……!』
『むぅ……こんな時に何も出来ない自分がもどかしい』
『ちくしょう……どうにもならねぇのかよ! こんなんじゃあたしらは役立たずじゃねぇか!』
『サバタさんの行方も気がかりだけど……せめて私達に出来る事が何かないか見つけないと……!』
皆、現状では何も出来ない事にやるせない気持ちを抱いていた。それは私も同じ……たくさんの大切な出会いと思い出がある地球を見捨てるような真似は誰だってしたくない。なのに私達は今いる場所から動く事が出来ない。まるで底なし沼にはまったかのように、様々な事情が私に絡みついて、どこにも逃がさないと言っているみたいだ。
『……出来る事はあるよ、皆』
『ユーノ君?』
弱々しいながらも確固たる意志のこもった目で、ユーノはそう言ってきた。なのはを始めとした皆が疑問に思う中、彼は言葉を続ける。
『過去の文献から、ファーヴニルの封印方法を探すんだ。元々奴はニダヴェリールに封印されていたんだから、その方法が今も残っている事に賭けるしかない』
『なるほど……絶対存在は封印するしか対処法が無いんだったな。だが、もし見つからなければどうなる?』
『その時はしょうがない。潔く皆で次元世界の終わりを見届けよう』
『ま、前向きなのか後ろ向きなのかわからない結論だね……封印方法が無かったらどうしようもないってこと?』
『倒せる相手じゃないからね、文字通り。今頃ラジエルの防衛陣に集まった人達が、第95無人世界で引き寄せたファーヴニルと戦っていると思う。でも封印方法が見つかって無いから、せめて弱体化させるまでが関の山だって、エレンさんが言っていたよ』
『嘘でしょ……あのラジエルでも、弱体化までしか出来ないなんて……』
『ユーノ君、その弱体化ってどういう事なの?』
『えっと……ラジエルの観測部隊が、ファーヴニルの体内にあった強力な魔力反応……恐らく吸収した魔力が溜め込まれているコアを見つけているんだ。ラジエルはそのコアを破壊する事で、ファーヴニルが二度と魔力吸収できなくなるようにするつもりだよ』
『なるほど、魔力の詰まったコアを破壊か! それなら破壊した際に、もしかしたら吸収された魔力も少しは放出されるかもしれないな!』
「けど体内って事はつまり……その、誰かが口の中に入って……?」
『あぁ、それは違うよ、フェイト。コアはアルカンシェルにも耐えられる強度らしいから、彼女達はそれより威力の高いラジエルの主砲を使うつもりだよ。ちなみに動力源は魔力じゃないから、この状況でも問題なく使えるんだ』
「なぁんだ、お腹の中に入るわけじゃないんだね」
「体内に主砲を撃たれるファーヴニルに思う所はあるけど……生き残るためなら仕方ないわね」
『それにしても管理局が誇るアルカンシェルより威力が高いとか……そもそもラジエルの動力源って何なの?』
『わからない……時間も無いから、そこは教えてもらえなかった。結局、僕達が駆け付ける事が出来ない以上、地球はエレンさん達に任せるしかない。時間稼ぎも彼女達がやり遂げると信じて、僕達は封印方法を探す事に専念した方が良い』
『だけど過去の文献って星の数ほどあるのに、何の手掛かりも無く探すのは不可能だわ。せめてキーワードの一つでもないと……』
『キーワードはあるよ。……覇王、クラウス・G・S・イングヴァルト。彼がかつてファーヴニルを封印した張本人だ』
『は、覇王だと!?』
『まあ、クロノ達が驚くのも当然だよね、覇王クラウスの名前はそれなりに有名だし。とにかくそういう事だから覇王関連の資料を探して封印の術式が残っていないか、しらみつぶしに探さないといけない。そのためにも、本局にある無限書庫に行く必要があるんだ』
『無限書庫?』
『次元世界の全ての書物が内蔵されている、自動情報収集装置のような場所だ。旧世代のロストロギアだという話もあるが、詳しい事は僕達も分かっていない。ただ言えるのは、これまで無限書庫の中を整理できる人がおらず、無数の本が雑多に散らかって混沌としている事だ。それに少しでも奥に進めば未開拓区域も大量に残っているから、一種のダンジョンとなっている』
なら人海戦術で無限書庫を整理していけばいいのではないか。今、クロノ達が話している内容に、そういう話が出て来るのは当然の摂理だった。だけどここで大きな問題が発生してしまった。それは次元空間の魔力が枯渇している現在、地球に行けないように本局にすら行く事が出来ず、更に本局内部でもエナジー無しでは魔法が使えない。つまり無限書庫を使おうにも行く手段が無く、万が一たどり着けたとしても、私となのは以外の魔導師が魔法を使う事が出来ないのだ。
まぁ、資料の捜索は魔法無しで頑張ればいいんだけどね。別に魔法に頼らずとも、本を探す事ぐらいできるし。それに無限書庫以外でも、歴史書を溜め込んでいる人や本の収集家といった物好きがミッドチルダにもいるはずだから、その人達が持っている本を探ってみるという方法もある。その事を伝えると、冷静に見ればむしろそっちの方が現実的かもしれない、という意見が出て来た。
「本の収集家かぁ……確かお兄ちゃんが前に、地上本部にいる局員の……あ~えっと、名前が確か……め、めぇ……」
「めぇ~めぇ~?」
「羊の真似をするフェイト、マジ可愛い! 保存しとくわ!」
「プレシア……何となくわかってたけど、あんたって欲望に忠実なんだねぇ……」
「う~ん、でも発音のニュアンスはなんか似てるんだよねぇ……。もう一声、よろしくぅ」
「じゃ、じゃあ……め、で思い付くものというと……メガネ?」
「ちょっと惜しい! でもおかげで思い出せたよ、ありがとうフェイト!」
「え~……メガネで思い出す名前って何なのさ……」
「今度伊達メガネ発注しとこう。メガネっ娘フェイト、アリだわ!」
「……少し落ち着こうか、ママ。ともかくお兄ちゃんの知り合いらしいメガーヌさんって人が、自宅にたくさん歴史書を持ってるって話を聞いた事があるよ」
『そうか! それなら後でその人に協力を仰ごう。こんな状況だ、きっと力を貸してくれるはずだ!』
『だけど、いきなり大人数で人の家に押しかけるのもどうかと思うよ? それに無限書庫の方も調べておきたいし、ここは一つ、別行動を取ってみるのを提案するよ』
エイミィが提案したのは、メガーヌさんの協力を取り付けて本を探す組と、本局の無限書庫にたどり着く方法を探す組、無限書庫の内部を探す組の3つに分ける事だ。確かに封印方法がどこにあるかわからない以上、出来るだけ多くの本を調べる必要がある。そう考えればこの提案を否定する要素は無かった。
とりあえずメガーヌさんの所に行くのはクロノ達で、本局に行く方法を探すのが私達、無限書庫の内部を探すのがなのはとユーノに――――
『あ、無限書庫に行けたら私達も手伝うから。じゃ、そんだけ』
……あとリーゼ姉妹が増えた。ヴォルケンリッターは判断ミスの件もあってはやての傍を離れる気は無く、はやてが目を覚ますまでは頭数にカウントしない方が良いだろう。
『私はもう少しはやてちゃんと一緒にいるけど、後でユーノ君の所に行くね。本局に行く方法が見つかったらすぐ駆け付けるよ』
『僕達は早速地上本部に行ってみる。だが地上の局員は先程、都市部や沿岸部などの様々な場所に配置されたようだから、もしかしたらメガーヌさんを見つけるまで時間がかかるかもしれない』
「なんか皆と比べると、私達に一番厄介な問題を押し付けられた気がするけど……何か方法が無いか頑張って探ってみるね」
『ファーヴニル、ラタトスク、ニダヴェリールの事で何か知りたい情報があれば、僕に通信を送って欲しい。まだ身体がまともに言う事を聞いてくれないから、もうしばらくはベッドの上だけど、知っている事ならある程度話せるから』
『わかりました。それでは皆さん、お互いの健闘を祈りましょう』
リンディさんの締めの一言で通信を切断、クロノ達は早速行動を開始している事だろう。だけど次元空間を渡るには、基本的に魔力で動いている次元航行艦を使うのが常識だったから、いきなり他の方法で次元空間を渡る手段を見つけろと言われても難しかった。前に住んでた時の庭園は次元航行艦じゃなかったけど、次元空間を移動するプロセスは魔導炉から生成した魔力で航行していた点で同じだ。
「魔力以外で次元空間を移動……難しいなぁ……」
「私は太陽の使者の代弁者として精霊転移が出来るけど、次元空間を移動できる程強力な能力じゃないし……。む~、わっかんないよぉ~」
「そういえばラジエルって、魔力消失空間の中で動けているのかしら。流石、全時空万能航行艦と名乗るだけあるわ。でもああいうオーバーテクノロジーの戦艦が何隻もある訳が無いし、これは厳しい課題ね……」
「……あれ? オーバーテクノロジーと言えばラプラスもそうじゃなかったかい? 確か魔力の無い世紀末世界でも使えるって、前にエレンが言ってたような……」
「ラプラス……。お兄ちゃんがアレクトロ社に潜入して、脱出する時に手に入れた次元航行艦だよね。だけど今、お兄ちゃんがどこにいるのかわからないから、その船も……」
「ちょっと待って。……作られたのって、一隻だけなの?」
「……あ!」
姉さんの疑問を聞いた瞬間、私達の脳裏に天啓が走る。そうだよ、あれって一応アレクトロ社が作ったシャトルだから、もしかしたらロキが使う予定だったラプラスの他に、もう一隻ぐらい作られている可能性だってある。ラプラスがプロトタイプだったら、残念ながら機体が無いかもしれないけど……それでも機体を作った技術は少しでも残っているはずだ。
「よし、わずかだけど希望が見えてきたわね。ロキを浄化して、裁判を終えて、力をほとんど失って、もう関わる事は無いと思っていたあの会社へ……私達の全ての始まりであるアレクトロ社へ、再び行ってみましょう」
ミッドチルダ中央区、アレクトロ本社。私が足を踏み入れたのは今回が初めてだけど、母さんは昔に何度か来ていた経験から、入り口で過去を思い返して懐かしんでいた。やっぱり元々務めていた所だったから、敵対はしても思い出は残っていたみたい。
裁判の影響で悪いことをしていた人は捕まったものの、プロジェクトFATEやSEEDの件があまりに衝撃的だったのか、それなりの人数が辞めてしまったらしい。でもラジエルのフォローのおかげでその人達は転職先でいびられたりはしていないし、アレクトロ社に残った人も『自分達が会社を立て直すんだ』って張り切っていると以前聞いた事がある。てっきり落ち込んだりしているかと思ってたけど、そうでもなかったみたい。皆、結構たくましいんだね。
だけど今は避難していて誰もいない…………なんてことは無かった。驚いた事に彼らは何故か管理局の避難命令を聞かず、受付や警備、掃除などに必要最小限の人数を割き、他の社員は全員一体となって何かの開発を行っているようだった。それだけなら別に構わなかったのだが……しかし、私達が訪れた時、どういう訳か社内で異常が発生していた。
『WARNING! WARNING!』
『EMERGENCY! EMERGENCY! 社員、及び研究員は直ちに脱出せよ!』
『現状報告、敵性因子は中央ブロックに封鎖! 全員、中央ブロックを避けて地上へ退避!』
社内の放送とモニターに赤く表示される文字に、緊急事態が起きていると察する。ただ、明確な破壊跡や破砕音こそ無いものの、この異常な殺気と重苦しさは姉さんも感じており、ただならぬ事態だと全身が伝えて来ていた。
でもどういう事だろう? このタイミングでアレクトロ社が襲撃される理由が全くわからない。私と姉さんが動けなかった代わりに、母さんとアルフはエレベーターや非常階段から急いで逃げている人達から何とか事情を聞いてくれたけど、戻ってきた時の二人の表情はすぐれなかった。
「最悪だわ……いえ、むしろこの事態を思い付けなかったこっちのミスね」
「え? 母さん……一体何が起きてるの?」
「……アンデッドだよ、フェイト。本局にもアンデッドが送り込まれていたんだ……!」
「そ、それって……ニダヴェリールでラタトスクが使った手段と同じ!?」
姉さんも驚くほどの事態だが、私はアースラでラタトスクの話を聞いた時点で気づくべきだったかもしれないと後悔していた。ここからの話を要約すると……まずアレクトロ社は今回の事態に思う所があったらしく、会社の総力を挙げてラプラスに使われていた動力炉の劣化版をどうにか現在の技術で作り上げ、魔力を使わず本局内部に通じる転移装置を試作的に完成させた。これだけ聞けば私達の探していた物が見つかった訳で、喜ばしい出来事のはずであった。しかしここで問題が発生する。
実は本局に、暗黒物質を潜伏させられていたニダヴェリール支部の局員が何人か送り込まれていたのだ。そしてアンデッド局員は、脱出する次元航行艦に乗り込めなかったようで本局内部に取り残されてしまう。しかし転移装置が通じた結果、向こうからアンデッド局員が解き放たれてしまい、アレクトロ社が襲撃されてしまう事になった訳だ。
突然の事態で当然社員は驚きはしたが、こういった状況の対策は万全で研究員を逃がした直後、アンデッドの発生源を外界から隔離するようにシャッターを降ろしたらしい。だからアンデッド化した社員はいないようだけど、代わりに別の問題が起因する。
本局にアンデッドが紛れ込んでいたという事は、本局から脱出してきた局員の中にアンデッドに襲われた事を隠している者がいるかもしれない。もしそうだとしたらアンデッド化したその人が、避難所に集まった大勢の人や同じ部隊の仲間を襲い、アンデッドをネズミ算式に増やしてしまう事になる。そうなってしまえばミッドチルダは、ファーヴニルと戦う前にアンデッドによって全滅する……!
「でもまだ……今ならアンデッドも数が少ない。被害がこれ以上増える前に倒しておこう!」
「そうだね、フェイト! パンデミックになる事だけは避けないと! ママとアルフはこの事態を管理局や皆に急いで伝えて!」
「わかったわ。だけどこういう時、あなた達に頼るしかないのが母親として悔しく思うわね……」
「気を付けてくれよ、二人とも。絶対無事に帰って来るんだよ!」
母さんとアルフの心配に答えるように、私と姉さんは大丈夫だと微笑む。二人とは別行動のために別れ、私と姉さんはアンデッドの閉じ込められている中央ブロックまで移動する。ちなみに私は飛行魔法で、姉さんは安全のために私の傍で姿を消しているため、階段でアキレス腱に負担が掛かったりはしていない。
やがて中央ブロックを封鎖するシャッターの前にたどり着いたのだが、この重厚な扉は空気すらも完全に遮断していて、流石に通れそうになかった。だけど音はしていて、向こうからバタバタと扉を叩く音が響き、アンデッドがこの先に集まっていると強引に理解させられる。
『フェイト、聞こえるかい?』
「アルフ?」
『ここのセキュリティの担当者との話がついた。これからそのシャッターを開けるけど、心の準備は大丈夫?』
「うん、全然問題ない。いつでもどうぞ!」
『わかった、それじゃあ開けるよ!』
アルフの合図で気を引き締め、中央ブロックのシャッターが開いた瞬間、
『!』
廊下に10体程はびこっていた人型のアンデッドが私達に気付く。瞬時に私はバルディッシュをザンバーモードにして突撃し、エンチャント・ソルを常時使用しながら斬りかかる。姿が見えなくとも姉さんは私にエナジーを送ってくれているので、屋内でもエナジー残量の心配はしなくて大丈夫である。
ホルルン液や噛み付き攻撃に当たらない様に高速で回避、回転切りで周囲のアンデッドをまとめて斬りつける。……元々彼らも人間だったと思うとすごく辛いが、やらなければもっと被害が出てしまう。だから私は、彼らを倒す事で苦しみから救う、その気持ちで戦っている。
このアンデッドはそこまで素早くないため、私なら背後を取る事は容易い。それに正面からの攻撃ではアンデッドはひるまないので、出来るだけ背後を取ってから攻撃するようにしている。そうやって私の得意な戦術を用い、待ち構えていたアンデッドを何とか全滅させる事が出来た。だけど……手には彼らを斬った感覚が鮮明に残っていた。そして、倒れて朽ちていく時の彼らの苦しそうな表情もまた、脳裏に強くこびりついていた。
「……ふぅ」
「フェイト、大丈夫?」
「うん……大丈夫だよ、姉さん」
「ロキの時はパイルドライバーだったけど、今回は初めて直接アンデッドを倒した訳だしね。辛いのもよくわかるよ……」
「でも……やるしかないから。誰かに任せる訳にはいかないから……」
「フェイト……強がらなくても、一人で背負い込まなくてもいいんだよ。戦いじゃあ私は力を貸す事ぐらいしか出来ないけど、それでも一緒に責任を背負う事は出来るよ」
「姉さん……ありがと」
感謝の言葉を聞いた姉さんは少し照れた表情で笑顔を向けてくれ、私もつられて少しだけ笑い、気が楽になった。もし一人でアンデッドと戦ってたら心が折れる限界まで背負い込んでいたかもしれない……だけど姉さんが一緒にいてくれると、それだけで心があったかくなる。一人じゃないんだって、彼女の存在が教えてくれる。
「あ……そういう事だったんだ……」
「ん? 何がそういう事なの?」
「いや……ジャンゴさんがどうしてアンデッドと戦っていけたのか、その理由がわかった気がしたんだ」
「ああ~、ジャンゴさんにはおてんこさまが、フェイトには私がいるからね。誰だって傍で支えてくれる存在はやっぱり大切なんだよ、きっと」
「うん。私も同じ考えだよ、姉さん」
でもそれだと、少し気になる事があるんだ。今、お兄ちゃんを傍で支えている人って、誰かいるの……? エレンさんはずっと支えてくれてるけど、今傍にいる訳じゃない。そして地球を出る時は一緒にいたらしいリインフォースも、ユーノの怪我の様子から考えたら……。
「あ、フェイト。通信が来てるよ」
姉さんの言う通り、通信のCALLが来たので出ると、画面にユーノの姿が写った。
『さっきプレシアさんから報告が入ったよ。それとアレクトロ社が迅速に発した緊急連絡で、すぐに避難所などでアンデッドが発生していないか、管理局が厳重に警戒している。二人は発生源に向かったと聞いたけど、そっちは大丈夫?』
「うん、何とか。アンデッドが発生した理由はそっちにも伝わってるよね、これから私達はその転移装置を取り戻す。そのまま本局内部のアンデッドも倒していくから、頃合いを見計らってユーノ達は無限書庫に向かって」
『わかった。くれぐれも油断しないようにね』
「了解。それで……ユーノ、少し尋ねたい事があるんだ」
『いいよ。話せる事ならだけど』
「じゃあ聞くけど……リインフォースは今どこにいるの? 彼女に聞けば、お兄ちゃんの行方もわかるんじゃ?」
『リインフォースは……彼女は今、ラジエルにいる。僕と同様に治療中だ』
「……え!?」
『ニダヴェリールを脱出する際、僕とリインフォースは怪我で気を失ってしまったんだ。それから色々あってラジエルに助けられたらしいんだけど、どういう経緯があったのかは知らない。だから僕もサバタさん達の行方はわからない……。ごめん、役に立てなくて』
「う、ううん、ユーノのせいじゃないよ。それにリインフォースが無事だってわかっただけでも十分だよ」
『……本当に……ごめん』
通信を切る最後まで、ユーノは何かを悔やんでいた。一体あの世界で何があったのか、それはニダヴェリールにいた人達にしかわからないのかもしれない。ファーヴニルの件では私達も当事者のはずなのに、なぜか蚊帳の外にいるような錯覚を覚える。
それも当然だ。私達は……真相を何も知らない。だからこの事態の中心から弾き出されている。お兄ちゃん達の立っている場所に、私達は手が届いていない……。ならばせめて指先だけでも届くように足掻くしかない。
「……よし。せめて外にアンデッドが出て来る事だけでも防がないと、格好がつかないよね」
それからしばらくの時間をかけて、中央ブロックの他の場所に分散していたアンデッドを探しては全て駆逐していく。やがて社内で暗黒物質の気配が無くなり、そのまま進行を続けて奥にある厳重な扉を開ける。
「うわ、広っ!?」
扉の先には姉さんが唖然とする程の光景が広がっていた。そこは上下合わせて10階以上のスペースをくり抜いて作られた空間があり、中央には時の庭園にあった魔導炉の何倍もの大きさの転移装置が鎮座していた。
「なんか……どこぞの未来から機械人間がやってきそう」
「アイルビーバック(グッ)」
姉さんがわざと筋肉質な低い声で、何かに沈むような動作をしながらグーサインを出した。そういえばジュエルシード事件の頃、はやての家でその映画も見たなぁ。液体金属で出来た機械人間の相手はごめんだけど。
「まぁとにかく、これで本局への移動手段を確保する事が出来た。念のために皆へ連絡を――――ッ!?」
連絡を取ろうと思ったら突然、凄まじい濃度の暗黒物質をまとった魔力弾が飛んできた。咄嗟にミッド式ゼロシフトで回避し、体勢を翻して攻撃してきた方に視線を向けた瞬間、私はあまりの衝撃でマヒしたように全身が硬直する。……いや、今の本局からやって来たものと言えばアンデッドしかないんだけど、そのアンデッドの姿を見た瞬間、頭の中が真っ白になってしまったのだ。
「え……う、嘘……こんな事って……!」
「そんな……き、君は……!」
わなわなと震える指で私が指し示したのは……、
“私”……だった。
……否、正確には顔が姉さんとほとんど同じ見た目のアンデッド。しかしその身体は異形そのものとなっており、狂気で血走った赤い目に、ナニカを食べたような血まみれの口、右腕と一体化している有機的でグロテクスな見た目の、刃はバルディッシュそっくりの大鎌。そして“A-7”と謎の文字が刻まれたチョーカーを首に巻き、7を除いた1から12までの数字が刻まれた11個のチョーカーを、何故か大事そうに左腕にはめ込んでいた。
ま、まさか……!
「ま、ママ! ママ!!」
『いきなり血相変えて、どうしたのアリシ……ッ! なっ…………そ、そのアンデッドは!?』
「か、あさん……もしかして、彼女は……私以外の……!」
『……ええ、その推測はおおよそ正しいわ、フェイト。その子はかつて、私がプロジェクトFATEで、あなたの前に生み出した試作型クローンの一人。全部で13人もの彼女達を生み出す過程で培ったノウハウを用い、あなたを五体満足の身体で生み出す事に成功した』
「五体満足……?」
『試作型は生成過程で身体や内臓の一部を作れず、どこか欠けた姿となってしまったの。そしてフェイトが生まれた時、失敗作だった彼女達は廃棄処分となり……』
「もうやめて! その先は聞きたくない……!!」
母さんの自白から思わず耳を塞いで、真実を前にして頭を抱える。つまり私は複数の意味で姉である彼女達の犠牲の下、この世に生まれた事になる。その事実を知った途端、私は自分の足元に彼女達の死体が無数に転がり、全身血まみれの姿で立っている光景が脳裏に浮かび上がってしまった。全身の体温が急に冷えていき、足に鎖が巻き付いたように鈍重になり、自分をまるで第三者が見ているような遠い感覚。私が培ってきた大切な何かが砕け散ったような……そんな気分だった。
『ごめんなさい。私はあの子達が全員死んだと思っていたから、あなた達にこの事を伝える必要は無いと思っていたけど、まさかアンデッドとして蘇っていたなんて思わなかったの……! ごめんなさい……ごめんなさい……!』
「…………」
「前に……お兄ちゃんが言ってた。人間が変異体になったら、他者を取り込むごとに異形の姿となり、掛け算式に強くなるって。だからこの7番の子は……多分、他の子を食べた事で身体を……」
そして……そんな彼女をニダヴェリールの局員を使って、ラタトスクが密かに送り込んだんだと思う。悔しいけど、ラタトスクの策は恐ろしく効果的に働いてしまった……。
確かにアンデッドとなった彼女の存在を目の当たりにしたのは、私にとてつもない精神的ショックを与えた。できれば背を向けて真実から逃げ出したい、だけど現実は私の気持ちなぞ一切気にせず、容赦なく牙をむく。
「グルルル……グォアアアアアアア!!!」
「う、うぅ……わぁあああああああぁぁぁあああぁぁぁあああ!!!!!!」
変異体となった彼女が襲い掛かってきて、私はバルディッシュを否が応でも構え、運命に立ち向かわざるを得なかった。私がこの世に生まれるために、その糧となって命を散らした“姉さん達の集合体”。闇に落とされたその存在を、この世から浄化するために……!
私は泣き叫ぶ子供のような声を上げながら、バルディッシュと彼女の大鎌を衝突させ、鍔迫り合いとなる。しかし何人もの“姉さん”を取り込んだ彼女の膂力はとっくに人間離れしており、防いだにも関わらず私の身体がまるで小石のように跳ね飛ばされる。
「くぁっ!」
際どい所で壁に衝突する前に静止できたが、彼女は地面を揺らす程の勢いで突撃してきた。あまりの速さで気づいた時には私の眼の数ミリ前まで迫っていた大鎌を、反射的にゼロシフトで回避、獲物を捉え損ねた大鎌は壁に凄まじい衝撃を与えて突き刺さり、建物全体が振動させられる。
「な、なんて超人的な強さ……! これが……人として生まれる事すら出来なかった、あなた達の怨み? だとしたら私には……」
いや……それは皆に対する裏切りだ。私は皆に支えられて、お兄ちゃんに光を与えてもらって、姉さんに命を分けてもらって、ここにいる。そして……“姉さん達”がいたから、私は生まれる事ができた。ならばあなた達によってこの身体を授かった私には、あなた達に安息の眠りを与える使命がある!
『サー! いきましょう!!』
「うん……とても辛いけど……行くよバルディッシュ!! これまで培ってきた私の全てを、彼女にぶつけるんだ!!」
カートリッジロード! 身体強化を強引に出力を上げて強化し、全身に大量の魔力がみなぎる。今のロードだけで身体にかなりの負担が掛かったが、ここまでやらないと彼女の速さに追い付けない。
そこからは秒単位の世界だ。大鎌を引き抜いた彼女が爆音を響かせてこちらに跳躍、私は雷のごとき速さで彼女の切り裂きをバルディッシュの峰でしのぎ、カウンターとしてすり抜けざまに切り返す。腹部を斬られて浄化の煙を吹き出すものの、ダメージなどお構いなしに彼女は立ち向かって来る。
だけどここでもう一度カートリッジロード! 凄まじい負荷が私の身体にかかるが、そのおかげで彼女の認識を上回るスピードを叩きだし、彼女の攻撃だけでなく音さえも置き去りにして連続一閃を放つ。
だが彼女もやられっぱなしではなかった。彼女も変質魔力を用い、元から超人的だった能力の上に更に身体強化魔法をかけてしまう。金色の閃光と赤黒色の閃光の衝突が、さっきまで金色が優勢だったものの、今の強化で一気に赤黒色の方へ優勢になっていく。対する私は逆転のため更にカートリッジロード、あまりの負荷で鼻血が出ても尚、彼女を倒す事に全ての意識と感覚を集中させる。だけど、まだ届かない……! ならば!!
『駄目です、サー!! これ以上の使用は命に関わります!!』
「まだだ! まだ終わってない!! カートリッジ……ロォォォォオオオオオドッッ!!!!!」
『サー!!!』
もはやフルドライブどころか暴走に近い力を引き出し、私の身体では耐え切れない程の出力を以って彼女と幾度も幾度も、一瞬の交差だけで数十撃の攻撃が飛び交う衝突を繰り返す。雷が落ちるかの如き爆音が室内に無限に響き、並の人間であれば私達の姿どころか影も見る事すら出来ない。光の速さで繰り広げられる超々高速戦闘、その戦いは片方が地面に落ちる事で一旦収まる。
そして落ちたのは……私だった。
『サー!!?』
「う……がふっ。ケホッ……あと……いっぽ……とど、かない…!」
鼻からだけでなく、眼や口からも血を吹き出して、身体は必死に限界を私に伝えてきている。だけどここで負ける訳にはいかないんだ……だから!
「フェイト!? そんな……こんなに大怪我して……!」
「ねえ、さん……あのちからを……つかわせて……! じゃないと……生き残れない!!」
「でもッ!!」
「早くッ!!」
震える足で立ち上がりながら私が発した必死の気迫を受けて、姉さんは難しい顔で悩んだものの、目の前にアンデッドがゆっくり降り立った事で、悩んでいる暇は無いと判断してくれた。
「なら……約束して。必ず、勝つって!」
「わかった……! 行くよ、トランス・ソル!!」
『太陽ォォォォオオオオオ!!!』
姉さんと合身し、全身が太陽のように光り輝く姿となる。ソル属性のエナジーが身体に充満し、先程のダメージをほんの僅かだが緩和してくれる。だが全てのダメージが消えた訳では無いため、残っているのは一撃だけ撃ち込む分の体力しかなかった。しかしそれでいい……さっきの戦い方では結局ジリ貧だ。それなら全てを一つにして、ぶつけるしかない。
「最後の勝負だ、“姉さん達”……これが私の……私と姉さんの全てッ!!!」
『奥義、ライジング・ソルフレア!!』
太陽の欠片をバルディッシュに集約した、魔力とエナジーの融合攻撃。対する彼女は暗黒の力を集約させた大鎌を衝突、太陽と暗黒のせめぎあいが周囲にも拡散する。そうして永劫にも感じられた戦いの決着は……、
「私達の……勝ち、だよ……!」
全身から浄化の煙を立てながら崩れ落ち、消滅していく“姉さん達”に、合身を解除した私は静かに告げる。アンデッドから解放された彼女達の魂が、今度こそ永遠の安らぎを得られる事を、私は祈るよ……。
「……ごめんなさい。あなた達の嘆きを受けるべきなのは、本当なら私なのに……ごめんなさい……」
「姉さん…………うっ……!」
これまで意思の力で限界を超えて戦ってきた身体が、今になって一気に悲鳴を上げる。全身がマグマに入ったようなとてつもない痛みが襲い掛かり、昔の母さんのしつけで痛みに耐性があった私でも許容限界を振り切ってしまい、脳が本能的に私の精神保護のために意識を飛ばした。
そして私の体は冷たい床に横たわり、あっという間に意識が遠くなる。ぼやけていく視界の中、私は浄化された彼女がいた場所に、彼女の首にあったのと左腕のチョーカーが残されているのを最後に見つける。そして思った、なぜ彼女はそれを手放さなかったのか。左腕を塞ぐような真似を何故していたのか、今更ながら気を失う前に思い付いた。あれは彼女が唯一残していた、同族を想う感情だったのだろう……。
アンデッドとなっても同族を想い続けた彼女を葬ったのは、同族の私とオリジナルである姉さん。皮肉でもあり、残酷でもある戦いは、今ここで一つの終焉を迎えた……。
後書き
13-12=1 この意味は続編にて。
なんかファーヴニルと戦う前から原作3人娘の2人が倒れている状況、これ色々ハードにし過ぎな気がしてきました。たまにはコメディチックな気楽に読める話を書きたい……。
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