普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ソードアート・オンライン】編
093 彼らから見た主人公
SIDE 升田 真人
「えっほ、えっほ、えっほ」
両手足に、各5キロずつの錘をバンドで装着し、規則性を持たせた呼吸リズムで鍛練がてらお使いに奔走する齢13になった──つまりこの世界に転生して8年の歳月が経過したこの頃。
<(くくく、久々に精進しているではないか、相棒)>
「(……〝神器(セイクリッド・ギア)〟が使えれば、もっと効率的に鍛練出来るんだがな…)」
この世界に転生して以来、“赤龍皇帝の双籠手(ブーステッド・ディバイディング・ツインギア)”だけではなく、“絶霧(ディメンション・ロスト)”はうんともすんとも言わなくなっている。……スキル等の使用が出来るのは不幸中の幸いだった。
……だがしかし、“魔獣想像(アナイアレイション・メーカー)”──に似た〝ナニか〟は使えるのである。……それがまた俺の疑問に拍車を掛けていた。
(……〝神器(セイクリッド・ギア)〟に関するシステムに不調が有ったか? ……いや、そもそもここは【駒王町】なんて無いから【ハイスクールD×D】の世界ですらないか)
〝この世界〟では〝神器(セイクリッド・ギア)〟やら、天使や悪魔の話は文献程度でしか見ないし、少なくとも俺の〝探知範囲〟──半径1キロの範囲内には〝異常〟の[い]の字すら見受けられない。
もちろん、犯罪等は耳に入ってきていて生命の──あるいは被害者の貞操的な危機に見てみぬフリを決め込むのは寝覚めが悪いので、救助に入る事は屡々有ったりする。
閑話休題。
(いや、そもそも──なんでハルケギニアや〝幻想郷〟で〝神器(セイクリッド・ギア)〟が使えたんだ?)
「……あー、判らん。カットだカット」
こうして懊悩とした日々を過ごすのだった。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE ???
――「はっ! ……せいっ!」
黄昏時。研究に行き詰まり、人通りの少なくなっている堤防を歩いていると〝バシンッ! バシッ!〟と気持ちの良くすらある空を切る音が聞こえてきた。音の聞こえてくる方向には、某かと戦っている──様に見える中学生くらいの少年が居た。
(……ほぅ…)
私は〝そちら〟の方には明るく無いが、俗に云う〝中二病〟の様なものかと思って観察していたが、その少年の動きは明らかに違っていた。その少年は明らかに〝誰か〟と戦っていた。
……私は〝武道〟などには──多少の知識はあれど、そこまでは明るくはない。しかし、私には少年と戦っている〝誰か〟を──些か矛盾した表現だが、〝確りと幻視〟する事が出来た。
――「ふーっ…。……やっぱり〝自分〟には勝てないみたいだ。……ドライグの存在の有無は関係無かったみたいだな。……さて、そこで悠々自適とこっちを観察している〝お兄さん〟、そろそろ出て来てくれないかな」
「っ!? ……少々邪魔をしてしまったみたいだね」
黄昏時の河に反射した黄金色の光を、彼が飛び散らした汗がまたその光を反射させている風景は何とも云えず幻想的に見えて、そしてそれに魅入られてしまっていた。……そして彼にも気付かれてしまった様だ。
「邪魔…と云うかは、疑問に思っただけだけど──って不躾ながら単刀直入に訊くが、もしかして貴方は〝物理学者〟とかだったりしないか?」
「おや? 私を知っているのかね?」
彼は何かを思い出した様に訊いてきた。……確かに≪天才量子物理学者≫などと云われたこともある。メディアには顔を出しているが──自分で言っていて何だが、そこまで表立った話でも無かったはずである。
「ああ。……とは言っても、弟が貴方のファンでね。その流れでたまたま覚えていただけだよ。……ああ、気に障ったなら謝るが、別に貴方を貶しているわけでは無いので、悪しからず。……って今更ですけど言葉遣いとか直したほうが良いですかね? 先ほどから不躾の連続で誠に申し訳ありませんが」
「いや、今更取り繕われてもこちらが困ってしまう。……それに〝不躾〟と云うなら、君の〝アレ〟を覗き見した私が一番最初だよ。もし君が言葉遣いの件で気に病んでいるのなら、それで手打ちにしてもらいたい。……まぁ、私が気にしないだけで、気にする人は多い様だから気を付けた方がカドが立たないのは確かだがね」
「覚えておこう」
14、15歳で、大人を相手にここまでちゃんとしたコミュニケーションを取れるのは珍しいものである。……実際、私は彼との会話にストレスを懐く事は無く──寧ろ歳上を相手にしている感覚すら有った。
「それにしても、私だけが一方的に知られてるのも変な話だと思うだろう?」
「あー、自己紹介はまだだったか。俺は升田 真人。貴方のファンな弟を持つ、どこにでも居そうな中学生だよ。……取り敢えず〝茅場さん〟とでも呼ぼうか」
「……ふ、ふっ、ふははははははっ!」
「いきなり爆笑? ……なんでさ…」
彼からしたらだが──いきなり笑いだした私に胡乱気な視線を向けてくる彼だが、〝あんな闘舞〟を見せたのに、彼は「貴方のファンな弟を持つ、どこにでも居そうな中学生だよ。」──と何とはなしに自分を語った。……それも自嘲や謙遜の意を見せずに。
これを〝笑うな〟と云うのは酷な話だろう。
「ふっ、気に障ったようなら謝罪しよう。……君は知っているかもしれないが、私の名は茅場 晶彦。君に倣って自分を語るならば〝しがない学者〟──と云ったところか」
(……こんなに笑ったのはいつ振りか…。……いや、これは〝使える〟かもしれないな…)
私が今デザインしている〝とあるゲーム〟に実装しようとしている体術系のデータ収集は、まだ芳しく無かったはずである。……そう意味では彼に出会えたのは僥倖だったかもしれない。
(さて、どう提案したものか…)
彼のどことなく取っ掛かり易い態度で忘れかけるが、彼はまだ中学生。……その〝頼み〟をするにしても彼は中学生。対価として賃金を渡すのは拙い。……彼を上手に雇う方法──そして彼への提案の仕方について思案するのだった。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE 升田 和人
「〝これ〟っ…、貴方のお兄さんに渡して下さい!」
(……今度〝は〟ヤスか…。……去らば、ヤスの初恋…)
中1の夏休み手前。1つ上の上級生に呼び出され校舎裏に付いていけば、いきなり俺に向かって頭を垂れるとの同時に差し出された両の手には何やらファンシーな装飾が施された──俗に云うラブレターらしき手紙。
……ちなみに〝ヤス〟とは小学校からの俺の趣味──〝機械弄り〟つながりの友達で、この目の前の上級生に一目惚れをしたと聞いている。実際、他の男子生徒からも、〝お高く〟止まってない感じ──所謂〝高嶺の花〟感が無いのか、隠れた人気が有る。……もちろん、俺の目から見ても〝可愛らしい〟と云える。
閑話休題。
彼女は「絶対にお兄さんに渡して下さいね?」と念を押すと、ぴゅー、と走っていってしまった。……今のやり取りを見ていたら判るかもしれないが、俺の兄──升田 真人はモテる。
容姿は父方のイギリスの血の先祖返りらしく、俺や従妹の直葉とは違った──見事な茶髪。切れ目にがっしりとした無駄の無い筋肉が付いた体躯──つまるところの〝THE・強面〟だが、充分に──身内贔屓無しで〝イケメン〟と表せる。
勉学は、真人兄ぃと同じクラスの兄弟を持つ知り合いの話では、テスト順位でこそ〝上位グループよりやや下〟らしいが、先生が授業で間違えたりすると、それ──間違いをそれと無く伝えるのは、真人兄ぃが一番最初らしい。……とどのつまり、恐らくだがテストでは手を抜いている。
運動は明らかに手を抜いている。これは確信している。なぜなら、〝あの〟──≪天才量子物理学者≫である茅場 晶彦を以てして〝現代に甦った武人〟と云われているのだ。……それが50メートル走が7~8秒台とは笑えない。
性格は、その容貌とは打って変わって、温和で気さく。〝本当に〟困っている時は手を差し伸べてくれるタイプである──かと云って、男子同士の下世話な話にも交ざる事が出来る。……それが所謂〝ギャップ萌え〟になるらしく、それがまたモテる理由の一因となっている。……俺も真人兄ぃには頭が上がらない。
財力はそもそも〝升田家〟が、うち──私立であり中学の順位を鑑みても、それなりの資産家であるらしく、そこらは無問題である。……真人兄ぃ自体は倹約家である──と云うよりかはムダな出費を好まないタイプであり、やはりそれもまた女子に好印象を与えてる模様。
……更にそもそもな話、うちの中学自体が政治家──ないしは大手企業の社長の子息令嬢が通っている様な〝名校〟なので、この中学に通えているという事自体が〝金持ち〟の代行証であるので〝財力云々〟の話はナンセンスである。
閑話休題。
そんな真人兄ぃだが、弱点がある。……その弱点とは〝イタズラ好き〟であるという事に尽きる。……俺の憧れの人物──〝茅場 晶彦〟を突然家に連れて来て、〝河原でナンパした〟と宣ったのだ。文字通り[仰天]した俺は悪くない。
……更に、その時の俺の様子を見てけらけら、と笑ってた真人兄ぃに殴り掛かった俺はやはり悪くない。……もやしと自覚している俺の拳なんて当たらなかったが。……それでも真人兄ぃには感謝している。〝アーガス〟──茅場 晶彦の勤めているゲーム会社を見学する事が出来たので、俺を笑った事は許してやった。
「どうするか…」
……今の俺の考えるべきことは教室に戻った後、間違い無く突撃してくるであろうヤスにどの様な言い訳をするかを考える事だった。
SIDE END
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