骨斧式・コラボ達と、幕間達の放置場所
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交節・相対する狩人と魔刃・後
前書き
ひじょ~~~に、本当にお待たせしました!
……近々とか言って、なんで二カ月かかってんですかホント……。
村雲恭夜さん執筆、「狩人と黒の剣士」より、ライト君です!
―――尚、特別出演として、ミザールさんもいます。
小説を読み、スキルを使ってみれば、何とかなりそうではあったのです。
……が、ライト君が普通に戦っているその代わりに、
ネタばれしない程度に力を出した、ガトウの実力がとんでもない事に……。
もう滅茶苦茶です……村雲さん、ホントすいません……。
あと、長くなりそうなので、サワリである前編、バトル中心である後編に分ける事にしました。
では本編をどうぞ。
(何なの……? ……まるで対処、出来なかった……この人はいったい……?)
レイピアを落として膝をついたまま、ミザールはハッキリしない頭で先の戦闘を反芻する。
軽装と重装という正反対な装備を着ていた、大柄なバージェスと背の低いラグーンの第二試合が、数合の打ち合いの後バージェスの勝ちで終わり、次はミザールとガトウの試合に入ろうとしている……なのに、ガトウは全く起きようとしない。
「あのー? 次出番ですよ?」
「……Zz」
軽くゆすってみるも、樹木や地面に激突したって寝ている男だ、起きてくれる筈もない。
仕方なしに立ち上がり、主査者側に協力を得ようとして……彼女の装備品の端が、ガトウの鼻に振れた。
「……ん? ああ、アレか……出番か」
「へっ?」
なんとまあ、アレだけ衝撃を受けても、大音量を耳にしても、一切合財起きる気配の無かったガトウが、あろう事か単に鼻先を物が掠めた『だけ』で起きてしまい、ミザールは珍妙な恰好でストップしてしまう。
そんな彼女に構わず、ガトウはのっそり立ち上がって、舞台へと脚を進めて行った。
数秒フリーズしたミザールは、慌てて舞台へと走り上がり、既に向こう側で立っているガトウと対峙する。
彼女が現れた途端、観客席から大歓声と応援の声が上がった。男女問わず声が掛かっている事から、彼女の人気ぶりがうかがえる。
……一方で、仕方が無いと言うか当たり前なのだが、悲しいぐらいガトウは注目されていない。
当の本人は対して気にした風もなく、しかもまだ寝足りないのか呑気に欠伸をしていた。
『それでは……スタートです!』
デュエルの申請はミザールから行い、ガトウはそれでもちゃんと説明を聞いていたか、ちゃんと“初撃決着モード”を選び、お決まりのカウントダウンが始まる。
ミザールは愛用の美麗な両手槍を構え、突進の気配をにおわせる為前方に体重を傾け、油断の度欠片も見せないと、気迫を込めている。
……対するガトウは、鉄一本を削り出した様な粗作りの短剣を抜き、対して構えもせずクルクル回して遊んでいる。
その余りの温度差に、観客からは「なんだ諦めたのか?」や、「しょうがないよあの《戦姫》だもの」だの、「真面目にやれー!」といった、様々な文句や野次が飛んでいた。
対戦相手であるミザールも、観客のプレイヤー達ほどではないが、若干眉をしかめている。
幾ら各上が相手だとは言えど、そう簡単に勝負を投げだすなど、想定外が相次ぐアインクラッドでは、自殺行為に等しい。
また、催し物とは言え相手に対する最低限の礼儀もないのかと、怒りを抱いているのだろう。
これは決して彼女が血盟騎士団第二副団長という、地位の有る立ち位置に居るからではないのは、誰でもわかる筈だ。
『さあ! いよいよ開始が近づいてきましたっ!』
19……18……17……16と、カウントが段々進むにつれ、漸くガトウは短剣での手遊びを止めるが、やる気無く腕をブラブラ揺すっている。
それは構えていると言うよりも、普通に短剣を手に持っただけと言った方が良く、重心も落とさず棒立ちな所作からも、これから斬り合いをするとは到底思えない。
10……9……8の時点でミザールの表情が消え、今彼女の感覚では、周りの情報を全てシャットアウトしたかのような、閑散とした世界が広がっている。
倒すべき相手であるガトウの姿も、周囲の景色がぼやけた事により、より鮮明に見えている。
5秒前に差しかかり、やがて感じ方の違いからでは無く、本当に静寂が訪れ……………
“Duel Start!!”
試合開始の合図が、高らかに鳴り響いた。
ミザールは槍の穂先を傾け、ガトウは何故か左腕をダルそうに高く掲げる。
「えっ?」
それと同時に、何をするでもなく投げナイフが宙を舞い……ガトウが消えた。
否、ガトウは地を這うような姿勢で、ミザールへと接近している。
消えた様に見えた訳は、180cm中半から後半代の高身長と、投げナイフを放り投げる所作に意識を取られた故に、ミザールの視線が上を向いていたこと。
そして、筋力値や敏捷値パラメータの高さから来るモノだけでなく、プレイヤースキルたる体捌きを活かした、余りにも常軌を逸した “瞬発力” の所為だった。
つまりまずは下へ、次は前へと重心を移動させ、そこから地を蹴りダッシュした動作が、ものの1秒にも満たない時間で行われた事になる。
スキルでは無くただの“体術”だからこそ、単純に驚異的だ。
(速っ……!?)
試合開始前とはいっそ別人としか思えない、そのスピードと勢いに驚愕しながらも、槍の穂先は自然にガトウの方へと向けられている。
流石攻略組と言うべきか。
染みついた動きが、伊達に血盟騎士団副団長をやってはいない事を教えている。
浮かんだ焦りを飲みこみ、ミザールは慌てず二、三度槍を突き込む為腕を動かし―――しかし更なる驚愕に見舞われた。
一発目のフェイントを決めるべく槍を突き出した時、ガトウは行き成り地面に突っ伏し、低めの軌道で放たれた穂先が空を切る……直後、勢いよく半回転したかと思うと、ミザールへ向けて後ろ向きに伏せたまま蹴りを放ってきた。
槍の強みを十全に活かせる間合いより踏み入られてしまった事もあり、直撃こそしなかったものの、それでも左腕に蹴撃をくらってしまった。
(この人……槍でどうにかなる相手じゃない! でもっ……!)
ミザールとしては登録してある武器を瞬時に呼び出す “クイックチェンジ” で、彼女のメインウェポンである細剣へと切り替えたい所。
だが距離を取ろうにも、先の蹴りは重い割にミザールの位置を大して変えず、寧ろ蹴る為に体勢を少し起こし地に手をつくガトウが、猛攻撃を始めた所為でシステムウィンドウをいじれない。
少し隙を見せればそこを逃さず、強攻撃を叩き込んでくるだろう。
「スゥ……ハッ!」
「あっ!? うっ……く!」
「シッ!」
ガトウはピクリ、体を傾け一瞬止めてから、完璧に起き上がると同時に回転する。
回転を乗せて繰り出された裏拳は直前で引っ込められ、フェイクだと理解した時にはアッパーカットの様に刃が迫る。
距離を取ろうとすれば肘を使った突進で詰め寄られ、間に合わないと防御させられる。
“初撃決着モード” である以上、大きな攻撃を決めさえすればい良い。
とはいえ下手にソードスキルは使えないと、槍で杖の如く薙いだ……瞬間、鈍い音と共に槍が跳ね上がる。
恐らく膝を打ち込んだのであろうガトウは強く地を踏みしめ、短剣の切っ先をミザールの顔面へ躊躇なく迫らせる。
しかしそれは悪手。
跳ねあがっている槍の柄を利用し、急所へ迫るスラスト気味な斬撃を避けるべく、仮想の慣性に抗って腕を曲げ下ろす。
―――突き気味な斬撃すらフェイントだったと分かったのは、ガトウの手首が勢い良く上を向き、槍に絡みついてからだった。
「う、ごかなっ……!」
身長差もあり余りに容易に “バンザイ” の格好を強制的に取らされ、槍を手放す間もなく腹へと体術スキル正拳突き《閃打》が突き刺さる。
「うぶっ!?」
それでもギリギリ後ろへは飛べたか、HPこそ減っていれど決着はついていない。
同時に距離が開き、槍も手放した為に―――――なんという幸運か。
クイックチェンジを使う、最大の好機が生まれていた。
(これを逃したら負けるっ……! 間に合え!)
ガトウの短剣が腕へと届くのが速いか、ミザールのウィンドウ操作速度が勝るか?
―――高らかな金属音が成り響き、観客達へその結果を知らせる。
そう……間に合ったのだと。
「やあああっ!」
これまで入れてきた気合いを超える、空気を震わせる裂帛の声が響き、次から次へと刺突を実行する。
だがガトウの実力は、ミザールの予想をはるかに超えていた。
剣閃のみしか目視させないスピードにもかかわらず、ガトウは短剣を軽くぶつけダメージ0で全てをかわし切っている。
引き戻そうとした瞬間に、短剣の刃や柄で別方向へ叩き戻され、すぐに構える事が出来ずバックステップを繰り返す羽目になっている。
かといって斬撃を決めようものなら、短剣で押されて軌道を変えられ、身長差を苦にしない瞬発力で安全地帯へ逃げられる。
劣勢だからと武器を買えたのに、これでは槍装備時と状況が変わらない。
対するガトウも…………一見すると決め手に欠けているように見えるが、直に相対して居るミザールからは、彼の白黒逆転した瞳から滲み出る底知れ無さを感じ、もしかしてまだギアを上げられるのではと懸念していた。
(向こうは殆どダメージ0なのに……私は少しだけど、HPが削れてる。このままだと不味い……っ!)
下手なソードスキルは状況打開策にならない、ならばとミザールは細かな刺突を繰り返す。
ここまでの実力を持つプレイヤーが、なぜ今の今まで代等してこなかったのか、ミザールの脳裏には不可思議だという一つの根強い思案が廻っていた。
血盟騎士団副団長を任されている彼女は、自他共に “トッププレイヤー” の一人であることは認めているのだ。
それを担う一端には、当然の事ながらモンスター型Mob戦や人型Mob戦の強さも感情に入る。
最近のモンスターのAIのアルゴリズムの不安定さに辟易としながらも、しかし戦い抜きまた成長しているという確かな実績と実力を持っているのだ。
……目の前の男は、そうして培ったものを根こそぎ否定している。言葉ではなく、行動で。
それは己のためだけなのだろうか? それとも、他に理由があるのだろうか?
「やああっ!」
「……」
脳裏の暗雲を払うかの如く、レイピアの剣尖が鋭く閃いた。ガトウはその恐るべき速度の一撃に顔色も変えず、一歩下がって軽くスウェーすることで易々回避。
「ふっ! はっ!」
「……」
右二発からの左三発を交えたフェイントで、ガトウの重心を連撃にて組み込んだ方向に動くよう仕向ける。
隙こそ出来るがこれだけでは到底足りず、次に打つ一発がスラストであろうがスラッシュであろうが、また避けられるのは分かり切っている。
なればとミザールがとった行動は―――――
「はああぁぁ……」
向きを変えられポストモーションも少ない、何よりずっと鍛え上げてきた…………古くからの剣技たる、細剣スキル単発突き【リニアー】であった。
此処は敢えて流れをつかむ。僅かな隙であろうとも生かし、一撃をどうにか叩き込む。威力などに構ってはいられない。
予想通りにガトウの体が揺らぎ、切っ先から回避方向を選択し始めている。
だが―――彼女の【リニアー】は、見切るがどうこうという問題ではない、“神速”。先までとは比にならない文字通りの必殺ならぬ『必中』技。
「やあああああっ!!」
左へ傾いたその動きを逆にミザールが利用し――――渾身の突きが解き放たれた。
刹那…………それは、幻だったのだろうか。
(えっ……?)
戦慄せん勢いを持つ彼女のレイピアが、ガトウの頭を“すり抜け” たのだ。
否、呆けてしまったその視界には既にガトウの顔など無く、こちらに背を向け『短剣を光らせている』彼の姿が映るのみ。
「……シッ!」
声は発さずとも尚聞こえるほど鋭く息を吐き、若干低くした体を半回転させ威力を乗せた、短剣の二連撃スキルがミザールの腹に命中してグラグラと体を揺らす。
そして、頭上に現れる “『Winner:GATO』” の文字。
初撃決着モードだったが故に……そこで勝負は決定してしまった。
「「「……」」」
『しょ、勝者……ガトウ選手』
余りといえば余りの、予想外にも程がある決着に、観客達からも歓声がまるで上がらない。
そこで膝を折り手をつき、己の敗北を今一度脳裏に浮かべる、最初の状況と相成った―――――というわけである。
相手方であるガトウは、まだ寝足りないのか欠伸をしており、ステージから降りる瞬間に眠りこけて転げ落ちる始末。
何ともいえぬ空気のまま、ただ一つわかりきった事といえば、ミザールは初戦で敗退してしまったという事実だけだった。
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未だ最後の光景気頭から離れず、釈然としない表情をしながらテントを出たミザールを最初に迎えたのは、やはりというべきかライトであった。
各言う己自身が少し呆けてしまっているのだから、ライトの顔には信じられないと言った情がこれ以上ないほど濃く張り付いている。
「お、おい。本当に負けたのか? ミスしたとかじゃあ無くて?」
「負けた……それもさ、完膚なきまでに、って言った方がいかも」
今しがた戦闘した当事者から言われれば、ライトも納得せざるをえなくなる。
が―――次のセリフで凍りついた。
「思えば、手加減されてたなぁ……あの人に」
「えっ?」
動きが完ぺきに停止する傍ら、頭だけは何とか働かせて、ライトは思考を巡りに巡らせる。
あろうことか血盟騎士団第二副団長相手に手加減までして、完膚なきまでに勝利を収めるなど、並大抵の実力ではない。
いや……大袈裟に、そして攻略組の者たちの常識からいってしまえば、並大抵どころの話だろうか。
「手加減て言ってもね? こっちの舐めて掛って手を抜いていたというよりかは……どっちかというと私を相手取れる力量と、ペース配分のギリギリを考えた動きだったと思う。だから私相手じゃなかったら、もうちょっと実力に変動があるかも……」
「マジ……かよ……」
ミザール相手に全力で挑むのではなく、この後の試合を想定した立ち回りを自らに要求し、あまつさえ成功させた。
人間の技だろうか……もう、尋常ではない。
加えて言うなら “それ” をさせてしまえるぐらいに、ミザールとガトウには実力差があったともいえる。
次いで、メインウェポンのリーチの短さと、それによる猛攻撃でのクイックチェンジ阻止、長身からの思わぬ低姿勢や技巧の高さなどを伝え、ミザールはより一層真剣味を帯びた声音で閉めた。
「たぶん、決勝でライトと当たるのは、『ガトウ』だと思う。や……思うじゃない。まず間違いなく、確実に」
「……」
それじゃあ観覧席まで移動してるね、とミザールはライトとの会話を終えて歩き去って行った。
ライトはそんな彼女の背中を見ながら、信じられないというものがいまだ含まれる眼を伏せる。
彼はミザールとディエルを行った事があり、そして旧知の仲だからこそ彼女の実力のほどは、いやというほどわかっていた。
そんな彼女をあしらってしまい、一回戦敗退に追い込んだ、名前も洋紙も今まで話題にすら上がらなかったプレイヤー・ガトウ。
ふと見てみれば、相変わらずというべきかテントの外で胡坐をかき、なぜか上へと思い切り顔を傾けながら寝ている。
なぜこの大会におけるまで情報が一欠けらもなかったのか、それほどまでの実力を持ってしてなぜ攻略に赴かないのか、疑問は尽きる事がないが……今考えるべきがそれではないことなど、ライトも重々わかりきっていた。
「次のあいつの試合が見れたら見て……対策を練らないとな」
ライトの戦術はクイックチェンジによる術理の多様さ、そしてスキルによる技の多彩さにあり、クイックチェンジを封じられると攻め手がある程度露見して、試合中で不利になる可能性も否定出来ない。
相手は短剣一本なのだからとリーチ重視に絞ると、手痛い一撃をくらいそうなのはミザールの談で予想済み。
求められるのは、どうやってガトウをライト側の土俵へと引きずりこむか、これに尽きるだろう。
もともとデュエルにおいて基礎であるそれが、今回ばかりは重要な項目として首を擡げていた。
悩むライトをよそに、手早く五回戦までが終了。
そして観客が見守る中で抽選が再び行われ、ライトはシード権を獲得した。これで他プレイヤーの試合をジックリ見る事が得出来る。
一方のガトウはというと―――ライトの祈りが届いたか、普通に二回戦も戦う事となっていた。
内心ガッツポーズをしながら、ガトウが出るという第二試合を見るべく、此方側のBブロック・第一試合には目も向けず、半ば見逃す形で向こう側の舞台に目をやる。
言うまでもなく “初撃決着モード” は勝敗決定も早いので、すぐさま第二試合が始まろうとしていた。
第二試合Aブロック・ガトウ VS スサノオ は、聞きなれたブザーと共に開始した。
第一試合を勝ち抜いただけはあり、スサノオの刀による剣線は、実に滑らかな軌跡を描く。
対してガトウ……武器を最低限構えただけで、しかし切っ先や鎬部分を的確に狙い、刀の攻撃をはじいていく。
そして緩やかな打ち合いが続いた―――瞬間、ガトウがの動きがより一層遅くなったかと錯覚した時には、まるで『一歩半手前』に瞬間移動したかのようにガトウが体勢を変えて踏み込み、スサノオ頭部に一撃。
クリティカルを示す派手なサウンドエフェクトが響き渡る。
……結果は、ガトウの勝利に終わった。
見慣れなくとも二度目だからか、流石に歓声が其処彼処から上がる。
「クソ……結局ほとんど、短剣さばきは見られないままか……」
おまけに最低限動いて最後の一回だけ躍動させたのみで、他に有益な情報をすべて封じられてしまっている。
顔をあげてみてみれば、ガトウが数瞬ライトの方へ視線を動かしたのが見て取れた。
恐らく、見られていたのを感じ取り、だからこそ手札を成る丈明かさず勝つ方法を選んだのだろう。
(……のんびりしてるかと思えば……抜け目ねぇ奴)
速攻で終わる試合でもしかとその目で見届けてから、己の出番へ向けて剣を握り、精神を集中させる。
この後に控える、ライトとガトウのそれぞれのブロックでの勝敗など、言うまでもないだろう。
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『さあ! 突発的デュエルトーナメントもいよいよ大詰め!! A、Bそれぞれのブロックを勝ち抜いた、二人の猛者が今この場で激突する!! 大興奮の一幕です!』
「「「「「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」
天幕外より響き耳へとどく歓声を聞きながら、ライトは【エウリュアレの宝剣】を宛ら神への供物を捧げるかのように両手で持ち、静かなままに目を閉じている。
何せ、相手はミザールを容易に打ち破った猛者なのだ。
化け物といっても差支えない。
そこまでの強者を相手取るのに、またかつてない大舞台での戦いに、緊張しない者が何処にいようか。
『では登場してもらいましょう―――――
まずはAブロック代表! 無名からのし上がりし鉄色の刃! ガトウ選手だーーーっ!!』
爆発が起きた。
人々の声によるサウンドエフェクトが、そう誤認すらさせる大音量をたたきつけて来る。
『そしてBブロック代表! 攻略組に名を連ねしトッププレイヤー! ライト選手ーーーっ!!』
「「「わああああああああっ!!」」」
数多の声に迎えられ、ライトは部隊への足取りを、一歩一歩確実に進めていく。
部隊へ上がりきった時まず目に入ったのは、真正面にいる人物……ガトウだった。
彼はこの大声援を受けながらも気だるげにしており、緊張などまるで感じられない。凝っているのか首に手を当て、本来ならば霧となりそうな所作まで行っている。
目は若干細められていて、感情や真意はうかがえない。
次に目に入ったのは、周りの群衆に交じって少し離れた位置に立つ、ミザールの姿。強い意志のこもる瞳と敢えての微笑で激を送る姿は、ある意味では彼女らしいとも言えるだろうか。
やがてどうやら解説していたらしい司会者の説明も終わり、ガトウから “半減決着モード” でのデュエルが申し込まれ、迷わずOKをライトはクリックする。
「ふぅ~……」
息を大きく吐きながら【エウリュアレの宝剣】を抜き放つライトだが、ガトウはミザールから聞いていた通りナイフを握ったまま手をダラリと揺らしている。
一見すればやる気の無い、相手を完全に舐め切った所作。
しかし一太刀打ち合えば、彼のその動作は恐らく彼なりの『構え』である事を、否応にも理解させられるだろう。
それになによりも、構えから戦法が分からないのが痛い。
実直であろうとフェイントであろうと、まずは構えを見てから対策を立てるのであり、その点でいえばガトウは中々に厄介な存在だと言える。
“11……10……9……8……7”
既にカウントは十秒を切り、極限まで集中されたライトの意思は、視界にガトウのみを映し他の者等を置き去りにした。
十秒を切ってもいまだ己の空気を崩さないガトウが、中心に確りと固定される。
「……―――はあっ!!」
そしてカウントが0となるかならないかのウチに―――ライトは舞台をけった。
初手としてライトが選んだのは、片手直剣スキル単発重攻撃『ヴォーパルストライク』。
通常の“初撃決着モード”ならいざ知らず、すぐには終わらない“半減決着モード”だからこそ選択したソードスキル。
それをただでは当てず、二、三度ステップを踏んで間合いをごまかし、手慣れた動作でプレモーションへと移行。
ジェットエンジンめいたサウンドを轟かせる。
リーチの長いこの攻撃に、ガトウが行った対処は―――
「……シッ!」
(なに……? 突っ、込んできて……っ!?)
何とまさかの『接近』。
しかもそれは【ヴォーパルストライク】の射線上から離れるのではなく、己から刃へ向かおうとしている。
その驚愕的な行動が、ライトの思考を一瞬間ばかり鈍らせた。
ガトウが姿勢を起こしたかと思うと…………右腕を上げその下を通るように避けられてから、すぐさま思考がはっきりするが時すでに遅し。
「……」
「うがあっ!!」
無言なままに縦構えの肘打ちが顔面に命中し、ライトは後方へと転がった。
されど倒れては居られないと、自ら回転を利用して勢いよく立ち上がり、
「……シッ!」
「うおおおっ!?」
頭上から降り注ぐ短剣の刃を、間一髪でまたも転げて回避した。しかし回避しきれず、浅いダメージエフェクトがライトの頬に刻まれる。
そこで何とか立ち上がる事が出来たライトが、ガトウめがけて反撃へと移った。
「おおおぉぉっ!」
「……」
スラスト気味の斬撃を二発―――ピンポイントを柄で撃たれて届かない。
水平切り―――切っ先を添えられ、長身からは考えられないほどの低姿勢で回避。
切り返しからの二連袈裟切り―――一発目を立ち上がりながら叩き落され、二発目が無効に。
蹴りを躱してからの横薙ぎ―――紙一重で当らない。
そこから繰り出される二連水平切り【ホリゾンタル・アーク】―――一発目の後に峰をぶっ叩かれ、ついでに頭も手首のみの裏拳で殴られた。
「うあぁっ!? ……ぐっ!」
見ればHPは二割近くも喰われている。
対してガトウは0。いくら数値的には近くとも、実際の感覚的には余りにも遠い。
何よりガトウの剣から伝わる感触は、今までのどのプレイヤーよりも “重い” と、ライトは感じていた。
このまま片手直剣で行くのは、余りにも分が悪いと言えよう。
(しょうがねぇ……覚悟の上だ!)
「む……」
ミザールのそれより無駄がなく速いクイックチェンジを目の当たりにし、ガトウから初めて一音ながらも声が発せられる。
何かに持ち替えたらしいライトは、いっそ行きすぎなほど距離をとって狙いを定める。
そう―――それは何と遠距離武器・弓であった。
近接武器など比べる間でもない、最長のリーチを誇る武器。
「いけっ!!」
スキル【ホーミングアロー】で放たれた幾本もの矢が、ガトウへと狙いを定めて飛び交い、襲い来る。
勿論これで決まるとは思っていない―――この後、叩き落としたその隙を狙うのだ。
「ハ……」
またもガトウはたった一文字だけ発声すると、何を思ったか短剣を構えてライトめがけ猛進。
一本目の矢を紙一重で避けて、間、髪を入れずに二本目の軌道を僅かに反らす。
襲い来る三本目に対しては瞬きすらせず目の横を掠め通らせ、四本目を殴り折る。
最後の五本目は、屈みこんで超低姿勢からの前方跳躍でかわす。
叩き落とすことはおろか、歩みを―――否、走行を止めるすらしない。
「ウソだろ……っ!?」
もう既に弓の適正射程距離としては怪しい範囲まで踏み込まれ、ライトは腰を入れると上空描けて矢を三本撃つ。
それぞれ時間差を持って矢の雨が降り注ぐのだが、絶えず進んでいるガトウにはジグザグ走行をとられて当たらない。
正面から飛来した空気を穿って突き進む矢を、横一回転からステップして回避すると、ガトウは己の武器の最適なリーチまで肉薄した。
「それを、待ってたあっ!」
「……!」
そこで待ち構えるは両手槌。その鉄塊から電撃がほとばしり、本来は敵専用であるはずの、そしてライトはスキルのおかげで使用可能な【ナミング・インパクト】が振り下ろされた。
威力から防ぐことはできず、避けてもスタンさせられる。
これを起点に流れを変えるのだ。勿論、【ナミング・インパクト】を撃たれれば防ぐすべなど存在しない。
そして大道芸のごとき身のこなしを見せたが故に、ガトウはライトへ突っ込むしかなくなっている。
降り注げし稲妻の塊に、ガトウはただ眼を見開いてその様を凝視している。止める術などない……。
「うぎっ……?」
―――はずなのに、突如としてハンマーが遥か後方めがけて弧を描き、ものの見事に吹っ飛んでいく。
あり得ない光景が広がったせいで、振り下ろしかけた体勢そのままに固まったライトの目に…………再びあり得ない光景が飛び込んできた。
「……」
僅かに煙を上げ青緑色の粒子が噴き出している、『左拳』を突き出したガトウの姿が。
つまり先の光景は……
(ふざけんじゃねぇ……っ!? こ、こいつまさか―――
―――『左拳』の “一発” で重量武器のハンマーをぶっ飛ばしたってのか!?)
ガトウの手による、常軌を逸脱した光景に他ならない。
たかが一プレイヤーの身でそんな事が可能など、ゲームバランスがぼろぼろに崩壊しているとしか言えないだろう。
しかしながらライトも大したもので、驚愕に呻きながらもメニューを操作し、クイックチェンジで太刀を装備して構えなおしていた。
染み付いた動きが、ここで役に立ったのだ。
(どんな技でもいい……起点を作らなければ負ける……っ!)
刀を構えて数歩踏み出し、スキルではない自身の磨いた剣術を閃かせる。
「天城流・太刀剣技一ノ太刀、【霞・古狼】!!」
「……」
ガトウは難なくその一撃を受けて止めようとし、短剣を迷い無く縦に構えた。
「はあああっ!!」
「……む」
ライトの眼が鋭くなったと同時。ナイフに届く寸前、太刀の刃は朧のか何かとかすみ消え、胴体へと迫る。
ガトウからも思わず声が漏れ、不意を突かれたことは疑いようもない。
そして、ガチッと止められた。
「は?」
余りにもあっさりし過ぎており、それが包帯の巻かれた左手で『握り止められて』いるのだと気がつく頃には……短剣の乱打と握撃の二重奏で、音を上げて圧し折られ耐久力を全損させられた。
ポリゴンとなって消えていく己の武器を見やりもせず、ライトは瞬時の新たな武器を構える。
両手に一つずつ―――二本一対の武器・双剣だ。
だがその前にもう目と鼻の先にいるガトウに対処しなくてはならない。
体術スキルなしでも十分に驚異的な拳が迫るが、ライトは慌てず左足を地面に固定する。
「天城流体術、三ノ型【雷閃・閃撃】!」
上半身は双剣でガードし、他の攻撃は秘奥義で捌く。理にかなった防御であり、ガトウの拳もライトの蹴撃によって止められる。
続いて繰り出されるガトウの剣は、上段から絶え間なく袈裟切りを繰り返してくるという技だった。しかも剣線と剣線の間は数センチしか無い、あまりに濃密な斬撃。
間を縫って拳に蹴りまで飛んでくるそれを、ライトは剣に脚にと自由に操っていなし続ける。
最後の一撃でガトウの剣が切り払われ、高々と掲げられてストップする。
連撃は終わったのだ。
「よし……っ?」
多少の間をとって攻撃しようとしていた最中、ライトは己の足が動かない事に気が付く。
「な、ちょ……掴んでっ……?」
それがガトウに左腕につかまれて、身じろぎできないのだと知るも遅い。
「うおおおおおぉぉぁぁぁああああぁぁぁぁ!?」
「……シッ!」
何とまあ一体どれだけ驚かせればいいのか―――ガトウはライトの足をつかんだまま豪快に振り回し、身長差を活かして舞台へ叩きつけた。
またも暗い青緑色が軌跡を引き、ライトと別軌道で中空へ消える。
「うぐはっ……ってうわああっ!?」
間も置かせないと投擲ナイフの乱れ投げ。
衝撃に気を取られて転がるのが遅れ、二本ほど直撃してしまった。されど、そんな者に気を取られる暇などない。
武器の殆どが通じず、未だ本気を隠しているような所作で追い詰められ、純粋な剣術でも今一歩劣る。
何より、もうガトウは目の前にいるのだから。
「なら、腹括って、いくぞおおぉっ!!」
「……!」
言うが早いかライトは突貫。
同時に得物である双剣を引き絞るように構え、雷が両の剣から迸り、ガトウは三度驚きの色を浮かべた。
ライトの奥の手の一つ、《狩人》スキル上位剣技十六連撃【雷鳴・鬼人乱舞】が、今―――電光の迸りと共に撃ちされる…………!
「はあああああぁぁぁぁぁっ!!!」
一撃二撃、三撃四撃五撃、六、七、八、九、十―――重くも速く、永久の輝きを一瞬で消え去らせる。
傍から見ている者には、まるで意志を持った雷撃がガトウへ幾重も襲い来るかのように見え、その中心に立つライトはまさしく雷神といえた。
「うらああああああっ!!」
より輝く十一撃、より速さを増す十二、十三、まだ続くと思えてしまう十四―――十五。
「うあぁっ……! おらああああぁぁぁ!!!」
そして、より一層稲妻をたたえた、終いの十六撃目。
さんさんと光の降り注ぐ晴天の広場に、嵐天の雷鳴を轟々と響き渡らせた。
「はぁ、はぁ……はぁ」
濛々上がる煙が晴れ、雷神の鉄槌を受け続けたガトウの姿をさらけ出した。
「……ふぅ~……」
焦げ目すらなく『無事』そのものな、ガトウの姿を。
実は彼には、ライトにはわかっていた。手に伝わる感触で、目の前で繰り広げられる “青緑の刀身” の軌跡で、何が起こっていたのか……。
ガトウが、ほぼすべて今までと似通ったやり方で、パリィ “ならぬ” パリィを行っていた事を。
「ふざ、けんなっ……!?」
技後硬直で動けないライトに出来るのは、もう悪態をつく事のみ。
そしてガトウの手が後ろに引かれ、無言で繰り出される短剣スキル連続技【ファッドエッジ】が、ライトのHPを敗北の値まで食い尽くした。
―――ライトもまた、ミザール同様敗北してしまった。
確固たる事実を、近くにいる筈なのに何故か遠くに聞こえる観客の声が、辛うじて教えてくれていた。
その後。
「……負けたな、俺」
「うん」
「完膚なきまでに」
「だね……感想は?」
「化け物だな、あいつ」
「私と同じ意見をどうも」
突発的デュエルトーナメントの、優勝者であるガトウを称えるべくと、表彰式の準備を住み中に進めている様子を眺めながら、ライトとミザールは会話を交わしていた。
何故に出番は終わったのに此処にいるのかというと、それは余所で待機している記者気取りなプレイヤー達と同じ―――即ち、ガトウを捕まえて直接話を聞こうとしているのだ。
戦っているだけで山ほど疑問を生産してくれたのだし、一つぐらい解消せねばスッキリしないと、二人とも残っているという訳である。
『表彰台ステージも整いましたので―――では! 俺より優勝者の表彰を行いたいと思います!』
化け物ぶりも度を越せば驚けなくなるのか、司会者プレイヤーはノリノリでマイクのようなアイテムを手に取っている。
そしてやたら大袈裟な動作で手を出し、天幕の方を指した。
『では表彰台に上がってもらいましょう……優勝者! ガトウ選手だーーーーっ!!』
歓声と拍手で場は一斉に盛り上がり、今か今かと天幕奥の暗闇を除く。
……だが、何時まで経ってもガトウの髪の毛すら出てこない。
思い切り盛り上がりに水を差され、ざわめきすら起こらず、まるで冷蔵庫の動作音が何時もより響きそうなぐらいに静まり返る。
『あれ? おかしいな……ちょっと、だれか見てきて! あの人寝るのが趣味みたいだから、また寝てるかも!』
その発言で会場内が笑いの渦に包まれ、再び喧騒が戻った。
すぐさまこのデュエル大会を開いた、司会者と同ギルドメンバーであろう者らだ天幕内に入っていく。
すると、俄かに焦って出てきた。
「いない! もぬけの殻だよ!!」
『い、いないだってぇっ!?』
「「「はああああっ!?」」」
会場内のプレイヤーの声が異口同音で重なり、ライトとミザールも思わず口をあけてしまう。
あの僅かな時間で、あの長身とそれなりに目立つ容姿で、誰にも見られずこの場を去ったのだから、大口を開けてもいたしかたない。
結局謎は謎のまま、ガトウは闇に消えてしまったのだった。
後書き
という訳で、ガトウの二連勝でした。
……村雲さん。せっかく送ってくれたライト君が活躍させられず、何だか本当に申し訳ない……。
どうかこれからもこの小説を観覧いただければ幸いです。
では、またの機会に。
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