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戦国異伝

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第二百二十話 戸次川の戦いその九

「これではです」
「容易に渡れませぬ」
「既に鉄砲や弓矢を構えています」
「これではです」
「うむ、進むことはな」 
 それは、というのだ。
「そうは出来ぬ」
「ではどうされますか」
「ここは」
「川を渡らずにじゃ」
 信忠は冷静なまま言った。
「仕掛ける」
「ではあれを使われますか」 
 明智が言ったのだった。
「ここは」
「うむ、用意は出来ているな」
「はい」
 その通りだと言った明智だった。
「既に」
「ではあれを使いじゃ」
「島津の軍勢を攻めますか」
「川を渡れぬのならな」
「それはそれで、ですな」
「やり方がある」
 信忠は実に落ち着いていた、島津のその充分な布陣を見てもだ。それで悩むこともなくこう言ったのである。
「それでいくとしよう」
「そして、ですな」
「川を渡る用意はしておくのじゃ」
 そちらはというのだ。
「わかっておるな」
「はい、そちらも」
 明智は信忠に確かな言葉で答えた。
「承知しています」
「ではな」
「まずはあれを使い」
「島津の軍勢を攻めてからじゃ」
「川を渡りますな」
「そうするとしよう」
 こう言ってだ、信忠はあるものを動かさせた。すると。 
 織田の軍勢の前にあるものが出された、それはというと、
「大筒か」
「ですな」
 義弘が義久に応えた。
「まさかあれまで持って来ておるとは」
「それも一つや二つではない」
「そうですな」
「うむ、多いのう」
「百はありますな」
「あそこまで大筒を揃えたとは」
「流石は織田家ですな」
 義弘も唸る様にして言った。
「それだけの富もありますか」
「そうなるな」
「して兄上」
 義弘はあらためてだ、兄に問うた。
「ここはどうされますか」
「決まっておる、例え大筒を撃ってきてもな」
「それでもですな」
「陣は崩さぬ」
 決して、という口調での返答だった。
「何があろうともな」
「では」
「この本陣に撃ち込んできてもな」
 砲弾、それをだ。
「それでもじゃ」
「動かれませぬな」
「このままじゃ」
 こう言ってだ、義久はその大筒を見ても動じていなかった、それは兵達も同じだった。その彼等を見てだ。
 蒲生は唸ってだ、高山に言った。
「いや、流石は島津」
「ですな」
 高山も唸っていた。 
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