覇王と修羅王
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インターミドルに向けて
二十三話
前書き
お久しぶりぶり
お待ちいただいた方にはすみませぬ
「ご滞在、ありがとうございました~!」
とアルピーノ親子に見送られ、ミッドチルダに帰ってきたのは既に昨日。
今現在、ヴィヴィオはリオとコロナと共に、ノーヴェから指示された地点へ向かっていた。
「ここかな?」
「えっと……うん、そうみたい」
目的地はヴィヴィオ宅と学校との中間地点にあるアパートの一部屋。何度かメールに添えられた部屋番号を確認したが、間違いはない。
本日はインターミドルに向けた特訓のミーティング。その後に全員で軽い息合わせのトレーニング。七時間の時間差で生じる時差ボケを考慮したノーヴェからの通達だ。いつも通り外で待ち合わせかとヴィヴィオ達は思っていたが、流石にアパートだとは着くまで思いもしなかった。
いったい誰が部屋主なのだろう。もしやノーヴェがスバルに習って一人暮らしを始めたのだろうか。だとすれば、先に一言ありそうなものだが……
ともあれ、いつまでも立ち尽くしている訳にもいかない。ヴィヴィオ達は顔を見合わせ、一つ頷き合ってからインターホンを押した。
僅かに間の後、扉を開けた人物は、意外にも自分達のコーチだった。
「おう、来たな」
「ノーヴェ! ここノーヴェのお部屋? 一人暮らし始めたの?」
「いや違うけど……まぁ、詳しい話は中でするぞ。先ずは入れ」
「はぁい。じゃあ、お邪魔しま~す!」
『お邪魔しまーす!』
ヴィヴィオ達は靴を脱ぎ、ノーヴェに案内されるままに中扉を潜ると、見知った2人が居た。
1人は台所で紅茶の準備をしているアインハルト、もう1人はベッドでふてぶてしく寝っ転がるアレクだ。この部屋主は2人の内どちらかだろう、と会釈をしつつ考えた。
ぱっと見では、おそらく……
「此処ってアインハルトさんのお部屋ですか?」
「え?」
「……ぷっ」
カップを出し紅茶を注ぐ姿は、部屋の物を把握していると見て取れる。人様の部屋ではこうもテキパキとした動きはできないだろう。アレクの態度も、アインハルト相手ならありえそうだ
と思ったのだが、当のアインハルトは驚いていて、事情を知ってるだろうノーヴェは吹き出している。つまり……
「此処ってアレクさんのお部屋なんですか!?」
「たぶん、きっと、そうだと思われ……る」
「ご、ごめんなさ~い!!」
ヴィヴィオは慌てて駆け寄り謝まるが、アレクは死体の様に脱力し、枕に突っ伏した。
アレクからしても、此処は自分の部屋なのか自信が無い、無くなってしまっている。
手際よくカップを用意するアインハルトは食器類や調理器具の在り処を把握しているが、部屋主のアレクは使用方も含めて殆ど把握できていない。
部屋にしても、ティアナに鍵を複製され入りたい放題。今日とてノーヴェが勝手に開けて先に入り浸っていた。どうやら複製された鍵は複数あるらしい。
一応はアレクもインターミドルに出る事を了承し、その為の登録やら準備やらセコンドやらもお任せしたが、そのミーティング等でこの部屋が使われる事など一切聞いてない。
これで部屋主を言えるのだろうか? アレクは脳内で何度も問い直しても、肯定の答えを一向にしてくれなかった。
「アレク、話を始めたいんだが……」
「へ~い」
ノーヴェの若干咎めるような声にアレクは返事をし、気にしてないとヴィヴィオに伝えた。そうしとかないと後が怖い、ティアナまで伝わったら鉄拳の危険性があるのだ。不詳不詳と体現するようなのっそりとした動きでベッドから落ち、這いずりながらテーブルの空いた席へ近づいていく。
「ったくお前は……まぁいい、始めるぞ」
ノロノロと最後に席へ付いたアレクにノーヴェは溜息を吐きながら、これからの話を始める。
「これからインターミドルまでの二ヶ月、今までの基礎訓練に加え、其々に長所を伸ばす特訓を加えていく。基礎は合同で、個人技は各個でやっていく予定だ。そのメニューだが……」
ヴィヴィオはカウンターヒッタースタイルの技術向上。リオは春光拳と炎雷魔法の強化に加え、武器先頭も。コロナはゴーレム召喚から操作までの技術精度の向上。
だがその基礎内容以外は各自のデバイスに送るだけに留めた。試合はトーナメント形式なのでお互いがライバルでもあるのだ、試合でぶつかった時に手の内が分からない方がやり甲斐もあるだろう。特に、初等科組にとっては。
「そのうち各自に秘密特訓専用トレーナーも用意するから楽しみにしとけ」
『はい!』
「で、次はアインハルトとアレクなんだが……」
次に、とノーヴェは中等科の2人へ向き直る。
同じく向き直るアインハルトからは聞く気どころか十分にやる気も感じ取れる……が、もう1人のアレクは頬杖をついた状態で身を入れて聞く気が感じられない。一応、視線を此方に向けているので聞く気事態はあるのだろうが。
苦言をしてやりたい気持ちに駆られるノーヴェだが、それはグッと堪えた。これまでの付き合いで、武に関する事には意外にも真面目……な所があると知った。
内容も特訓の事なので一応聞きはするだろう。そう思い、話を続けた。
「……2人は個々に学んでいる流派がある。知らないあたしが口を挟んでも崩れるだけだ。だから合同以外は試合経験のある選手とのスパー。その相手の都合がつき次第組み込んでいくつもりだ。お前達は戦いの中で必要なものを掴み、試合に足りないものを補え。これがあたしが考える一番だが……どうだ?」
「……はい、是非お願いします!」
ノーヴェは自身が考える最適を伝えるも、頷くのはアインハルトのみ。アレクは頬杖をついたまま思惑中、といったところだった。
「アレクは気に入らないか?」
「ん~……気に入らないってんじゃないんすけど……」
「……けど、なんだ?」
「けど……やるとしたらどんなタイプのお相手で?」
「……相手の都合もあるから絶対じゃないけどスパー相手は武器を使う選手、クロスからロングまで幅広く戦える選手を考えてる」
アレクは勿論の事、ここに居る者は皆初参加である。インターミドルは実践に限りなく近い魔法戦競技と言われるがルールがあり、普段と勝手も幾らか違うだろう。特にライフポイントを使用して、制限時間内に、という部分が。
なのでその経験者がスパー相手ならば、1ラウンド内での試合運び、制限時間を体感できるなど、ルールを駆使した戦いで解消できる部分もあるだろう。
勿論戦闘技術の向上も含まれるが、インターミドルを意識させた戦いをさせる、というのがノーヴェの考えだ。ルール把握を怠りそうなアレクには、特に。
だが、当のアレクはいまいち納得がいかない様に見える。
「何か不満があるのか?」
「不満って訳じゃねーんすけど……絶対必要かな~? と」
「……言いたい事はハッキリ言え。怒らないから言ってみろ」
「うぃ。じゃ、お言葉に甘えて。……別途で超強い人知ってるんで俺は要らねーと思ってまする!」
「……」
「……ダメっすか?」
首を傾げるアレクに、ノーヴェは肯定も否定もできなかった。超強い人、というのがどの程度か分からないというのもある。
それとは別に、言い分にも一理ある……あってしまった。
他を毛にもかけぬ強さがあればルールなんぞそので勝てて行ってしまう、というケースも稀にあるのだ。実際に、14歳という若さで次元世界最強となった女子選手がいる。彼女は純粋に強く、距離を選ばず戦える――勿論ルールは把握している――のだ。もし、そのような人がスパー相手ならば、これ以上の相手はいないだろう。
いや、もしかすると、その人が本人かもしれない。人知れず八神はやてという大物とアレクは顔見知りだったのだ、今回もまさか……があるかもしれない。
ただ、本人だった場合、アレク以外は夢の希望もなくなってしまう。スパーで勝てず試合でも勝てず、なんてものは避けたいし、初参加なのだから夢くらいは持たせてあげたい。
ノーヴェは遠まわしに確認してみる事にした。
「……アレク、その人は、どのくらい強いんだ?」
「ん~……たぶん最強?」
――――大当たり、な気がした。
◆ ◇ ◆
「なぁ~んでダメなんだ?」
クールダウンのジョギング中、解せぬ、とアレクは首を傾げていた。
続く質問に、殴られて空飛んだ、地面にめり込んで死にかけた、とかちょっとお茶目に体験談を添えて答えただけである。それくらいで却下されてしまった。
「別に普通じゃね?」
「……どこが普通なんですか」
「そうか?」
「そうです」
隣を走るアインハルトは、呆れたように答えた。
アインハルトはアレクと対峙し、実力の欠片は知っている、つもりである。
だが、そのなアレクを軽くあしらう実力者、それも手加減という言葉が見当たらないような者。対峙し、怪我をして大会不参加……どころか日常生活に支障をきたす事態になったらどうするのか。
ぶっちゃけ、そんな相手に誰が頼むか! という話である。
アインハルトも強い相手は望むところの姿勢ではあるが、限度を超す相手は遠慮したい。今のところは。
「や、でもなして俺まで対決禁止なん?」
「危ないからです。大怪我して出場停止になりたいのですか?」
「んな大げさな……」
死にかけが大げさなものか、とアインハルトは呟くが、アレクは気づかない。戦えば怪我するのは当然と思っている故に。
殴られれば当然の事、殴る方にしても、拳の握りが甘ければ指や手首を負傷する。蹴りにしても同じだ。
また、怪我をする事により失敗を知れる。
攻撃をする際に、受ける際に、捌く際に、躱す際に負ったのならば、それは間違いであったということ。怪我をし、間違いを体感して知れる。怪我の大小は、間違いの大小でもある。
アレクからすれば怪我は戦う際に必ず負うものであり、判断材料でもあった。なので対決禁止はその判断材料を奪われる事になるので納得できようもない。
そしてもう一つ、無視できない懸念がある。
アレクはアインハルトとの対決以来、身体を酷使するにつれ、強い衝動に犯されるようになっていた。受け継いだ戦闘経験だ。その戦闘経験がアレクの身体を十全に使わせようとするのである。
余力があるうちはまだいいが、疲労が溜まってくると度々意識を持って行かれそうになる。もし意識を持って行かれたら、また“大事”が起きてしまうかもしれない。
だから本当の強者でなければ、アレクは全力を出せない。下手に強い者ならば……戦わない方がいいだろう。
だが、もし其処に圧えられる程の強者が居れば……
チラリとアインハルトを盗み見みる。
(……駄目だな)
アインハルトでは無理だろう。ヴィヴィオ達でも無理だろう。ノーヴェは……恐らく無理だ。
どうしたものか、とアレクがうんうん唸っていると、アインハルトから声がかかった。
「……あまり現を抜かしているとおいていかれますよ」
「へ?」
アインハルトの視線に倣い前を見ると、ヴィヴィオとリオが競い、コロナが2人の後を追う形で速度を上げていた。
先を見ると、ノーヴェの姿も見える。どうやらラストスパートをかけたらしい。
そして程なく、リオ、ほぼ同着でヴィヴィオ、最後にコロナ、の順でゴールを切っていた。
「これってクールダウンじゃなかったか?」
「ヴィヴィオさん達ですから……負けん気が出たのでしょう」
「それでヒートアップしてちゃ意味ねぇーだろ」
ゴールになっていたノーヴェが、アレクの気持ちを表すように溜息を吐いていた。
おそらく何度も繰り返されてきたのだろう。勝敗で騒いでいるヴィヴィオ達に呆れた視線を送るだけだった。
「……純粋なんでしょう、ヴィヴィオさん達は」
アインハルトが答えると、ヴィヴィオ達の一悶着は終わり、待ちきれないのか此方を促すように手を振っていた。
それも応えたくなるような笑顔だった為、アインハルトの足も自然と早まっていた。
だがアレクはペースを変えず、そのままで、アインハルトがゴールしたあたりでポツリと呟く。
「ほんと……純粋過ぎて眩しーわ」
後書き
ちょいと久しぶり過ぎてリハビリ必須な感じがビンビンしてます鉄屋です。
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