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ウルキオラの転生物語 inゼロの使い魔

作者:銭亀
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第5部 トリスタニアの休日
  第5話 運命の密会

ウルキオラは、スカロンからあてがわれた宿屋の部屋の椅子に座っていた。

椅子の前にはテーブルがあり、程よい温度に下がった紅茶が良い香りを放っている。

その真横にあるベッドでは、昨日の芝居で疲れたのか、ルイズが寝息を吐きながら寝ている。

ウルキオラは不意に立ち上がると、小さな小窓の前に立った。

そこからトリスタニアの街道を見つめる。

なにやら騒がしい。

ウルキオラは、とくに何が起こっているかに興味はなかったが、することもないので、外に出ることにした。

ウルキオラは部屋の扉を開き、外に出て、扉を閉める。

階段を目指して歩きながら、両手を開いた。

シュッという音と共に、二つの剣が両手に現れる。

片方を腰に差し、もう片方を背中に差す。

すると、背中に差した刀がかちゃかちゃと音を立てた。

「ふう、まったく相棒。虚無空間……だっけか?あそこは居心地が悪いぜ」

それはデルフであった。

「我慢しろ。極力あそこには押し込まん」

階段を下りながら、デルフの苦情を受け流す。

「そうしてくれ、毎回あんなとこに入れられたもんじゃたまったもんじゃないぜ」




宿屋の扉を開け外に出ると、ウルキオラの目の前を5人の兵士が足早に通り過ぎる。

ウルキオラはそんな兵士を一瞥すると、すぐ横の路地に入った。

その瞬間、フードの被った女がこっちに向かって小走りに駆けてくるのが見えた。

どん!とウルキオラにぶつかった。

女は思いっきり後ろに倒れた。

ウルキオラはそんな女を見つめた。

「大丈夫か?」

女はフードで顔を隠したまま、慌てた声で尋ねてきた。

「……あの、この辺りに『魅惑の妖精』亭というお店はありますか?」

ウルキオラは、女の声に聞き覚えがあった。

「こんなところで何をしている?」

ウルキオラの声を聞いた瞬間、女も同じように聞き覚えがあったのか、そとフードの裾を上げて、ウルキオラの顔を盗み見る。

「ウルキオラさん」

しかし、運命の再開もつかの間、灰色のフードつきのローブに身を包んだアンリエッタはウルキオラの体を利用して、表通りから自分の姿を見られないように息を潜めた。

「あっちを探せ!」

「ブルドンネ街に向かったかもしれぬ!」

表通りの方から、息せききった兵士たちの声が聞こえてくる。

アンリエッタは再びフードを深くかぶった。

「……どこか隠れることの出来る場所はありますか?」

アンリエッタは小さく尋ねる。

「予備で取っておいた宿がある」

なんとも用意周到。

情報収集任務を行う際、ウルキオラはもしもの時のために、予備の宿をすでに予約していたのだ。

「そこに案内してください」




ウルキオラはアンリエッタを予備の宿の一室へと案内した。

アンリエッタはベッドの腰かけると、大きく息をついた。

「……とりあえず一安心ですわ」

「なにがあった?」

「ちょっと、抜け出してきたのだけど……、騒ぎになってしまったようね」

「誘拐されたばかりだからな。騒ぎにもなるだろう」

アンリエッタは黙ってしまった。

「お前は今は王だろう?随分と身勝手なものだな」

ウルキオラは皮肉に言った。

「しかたないの。大事な用事があったものだから……。ルイズがここにいることは報告で聞いておりましたけど……、直ぐにあなたに会えてよかった」

「ルイズに用があるのなら、今呼んできてやる」

「いけません」

アンリエッタは、ウルキオラを引きとめた。

「何故だ?」

「私が用事があるというのは、あなたのことです」

ウルキオラは目を見開いた。

「どういう意味だ」

「あなたのお力をお借りに参ったのです」

「俺の力だと?」

ウルキオラは低く唸った。

「あなたにしていただきたいことが二つあるのです。一つは私の護衛。もう一つはアニエスの援助」

「断る」

ウルキオラは一瞥した。

「何故です?」

「護衛なら王室にメイジがいるだろう。それに、知らん奴の援助などするつもりはない」

「確かに、無理なのは承知の上です。しかし、今日明日、わたくしは平民に交らねばなりませぬ。また、宮廷の誰にも知られてはなりません。そうなると……」

ウルキオラはゆっくりと目を閉じた。

「俺というわけか」

「ええ。あなたはご存じないかもしれませんが、わたくしはほとんど宮廷で独りぼっちなのです。若くして女王に即位したわたくしを好まぬものも大勢おりますし……」

それから言いにくそうに付け加えた。

「……裏切り者も、おりますゆえ」

ウルキオラはある人物を思い浮かべた。

「ワルドか?」

アンリエッタは軽く頷く。

どうしたものか。

俺に頼むということは、ルイズには頼めぬということ。

もしルイズならば、快く受けるだろう。

ちっ、と舌打ちをする。

どうやら、この世界に来てからというもの、俺はすっかり変わってしまったらしい。

グリムジョーあたりがみたら、なんというだろうな。

ウルキオラはそんなことを考えながら、アンリエッタを見つめた。

世界の残酷さの片鱗を知った目が、ウルキオラの目の中に飛び込んでくる。

「いいだろう。その任務、引き受けてやる」

「本当ですか?」

アンリエッタは軽く笑みを浮かべる。

「では、出発いたしましょう。いつまでもこの辺りにはいられませんわ」

「どこへ行く気だ?」

「街を出るわけではありません。とりあえず着替えたいのですが……」

アンリエッタはローブの下のドレスを見つめた。

白い、清楚で上品なつくりのドレスだが、ローブに隠れるとはいえいかにもめ目立つ。

高貴の者がそこにいると訴えているようなものだ。

「ルイズ用の服なら用意してあるが」

「それを貸してくださいな」

ウルキオラはベッドのそばの箱をあさり、ルイズのために用意しておいた予備の服を取り出した。

それをアンリエッタめがけて投げる。

華麗にキャッチしたアンリエッタは後ろを向くと、ウルキオラの目を気にせずに、がばっとドレスを脱ぎ捨てた。

ちらっと背中越しにアンリエッタの胸が見えた。

それをウルキオラは表情を変えずに見つめる。

そこである疑問が生まれる。

ルイズの服を着れるのだろうか?

やはりそうだったらしい。

「シャツが……、ちょっと小さいですわね」

「あたりまえだ。ルイズのために買ったんだからな」

アンリエッタの胸は収まらず、ボタンが飛んでしまいそうなほどに、ぴちぴちに張りつめている。

「無理があったな」

「まあ、いいですわ」

「お前がいいならそれでいい」

「行きましょう」

アンリエッタはウルキオラを促す。

「アホか」

ウルキオラは短く言った。

「髪型くらい変えろ」

「……そうですわね、さすがにこれではばれてしまうかもしれません」

そういってアンリエッタは後ろでポニーテイルのかたちにまとめあげた。

そうすると、ずいぶんと雰囲気が変わった。

「ふふ、これなら、街女に見えますわね」

胸の開いたシャツを着て、髪型を変えると、確かに陽気な街女に見えないこともない。

ウルキオラとアンリエッタは、何食わぬ顔で宿屋の正面から路地に回る。

辺りは女王の失踪でどうやら厳戒態勢が引かれているらしく……。チクトンネ街の出口には、衛兵が通りを行く人々を改めていた。

「お前を探しているようだな」

「私の肩に手を回して」

ウルキオラは言われたとおりにアンリエッタの肩を抱いた。

衛兵がいる場所に近づく。

アンリエッタは肩を抱いたウルキオラの手を握り、開いたシャツの隙間に導いた。

アンリエッタの滑らかでやわらかい丘の感触が、ウルキオラの指をつたう。

だが、それ以上の感情は芽生えなかった。

ちらっと衛兵は二人を見たが……、所詮、女王の顔など遠巻きにしか見たことのない下っ端である。

よもや女王が剣士の男と腕を組み、その手に肌を許すなどとは夢にも思わないようである。

すぐに目を逸らし、別の女を呼び止める。

大通りにでたアンリエッタは、くすっと笑った。

「どうした?」

「いえ……、すいません。ちょっとおかしかったものですから。でも、愉快なものですわね」

「自分に気づいてもらえないことがそんなにおかしいか?」

「ええ、それなりに」

アンリエッタは微笑した。

「だが、お前の顔を知っている奴に見られたら、アンリエッタだと気付かれるぞ」

「しっ!」

「なんだ?」

「一目のある場所ではアンリエッタと呼ばないでくださいまし」

「周りに聞こえるような声ではない」

「それでもです。そうね、短く縮めて『アン』とでも呼んでください」

「まあ、いいだろう」

「私もあなたのことを『ウル』と呼ぶことにいたしますわ」

また頓珍漢なあだ名ができたな、とウルキオラは思った。

「ウル、急ぎましょう」

「ああ」

微笑んで、アンリエッタはウルキオラの腕に自分の腕を絡ませた。




夜も遅かったので、二人はとりあえず宿をとった。

粗末な木賃宿である。

案内を去れた階の部屋は、スカロンが用意した宿が天国に見えるほどのボロい部屋だった。

ベッドの布団は何日も干されたことがないのか妙に湿り、部屋の隅には小さなキノコが生えている。

ランプは煤を払っていないのか、真っ黒であった。

「まさかこれで金をとれるとはな」

アンリエッタは気にした風もなく、ベッドに腰かけた。

「素敵な部屋じゃない」

「俺はそうは思わんがな」

「そんなことありませんわ。少なくともここには……、寝首をかこうとする毒蛇はいないでしょう」

「まあな」

アンリエッタは微笑んだ。

ウルキオラは部屋に置かれた椅子に腰かけた。

がたがたのその椅子は、ぎしっ!とヘンな音を立ててきしむ。

「本当にこんな部屋でいいのか?」

「ええ。ちょっとわくわくするわ。市民にとっては、これが普通の生活なのだから。不謹慎かもしれないけど」

そういって可愛らしい仕草で足をぶらぶらさせる。

なるほど、やはりルイズとあまり変わらない年齢なだけはある。

子供のような仕草が時折見られる。

とりあえず、部屋がどうにも暗いので、ウルキオラは霊力によりランプに火をつけた。

突然ランプに火がついたことに、一瞬驚いたアンリエッタだが、それがウルキオラだと理解するとすぐに落ち着きを取り戻した。

ランプの明かりを、アンリエッタはじっと見つめて頬杖をつく。

そんな風にくつろぐアンリエッタは、やはりウルキオラの目には女王として見えなかった。

しかし、現実として女王なのである。

しかし、女王というにはまだ若すぎる。

威厳より、清純が勝る。

ルイズと似た雰囲気が感じられるが、跳ねるようなルイズの勘気が彼女を子どもっぽく見せてしまうのに比べ、アンリエッタには落ち着きが見られる。

しかし、ウルキオラにはそれ以外はルイズと何ら変わりなく見えている。

「どうかなさったの?」

無邪気な声で、ウルキオラに問う。

ウルキオラは「別に」とそっけなく返した。

「ルイズは元気?」

ランプの明かりの向こう、アンリエッタがウルキオラに尋ねる。

「ああ」

「そう」

アンリエッタはそう呟くと、ウルキオラに言わなければならないことを思い出した。

「毎日伝書フクロウでの報告、ありがとうございます」

「気にするな」

なんと、ウルキオラはルイズが眠った後、アンリエッタに報告をしていたのだ。

「報告した以上の情報はない。まあ、お前にとっては辛い内容だろうがな」

「ええ」

アンリエッタは俯いた。

確かにそうであった。

報告書には、平民からの手厳しい言葉ばかりであった。

アルビオンをただ下から眺めるだけの無能な若輩者。

遠征軍を編成するために軍備を強行しようとしていること、また、それを指揮できるのか。

ゲルマニアの操り人形なのでは?

などといった、知りたくはない真実を聞くことになった。

「女王になるんじゃなかったわ」

「選択肢があったのか?」

アンリエッタは少し考えた。

「ありませんでしたわ」

「だろうな」

ウルキオラはふっと花を鳴らした。

「あなたの世界も、人は争うのですか?」

「それは、俺の種族の世界のことか?それとも、俺の世界の人間の世界のことか?」

「どちらも」

「あまり変わらん」

「どこも同じなのね」

何故かほっとしたようにアンリエッタは呟いた。

「まだ戦争中なのだろう?」

「ええ」

アンリエッタはまっすぐにウルキオラを見つめた。

「アルビオンに攻める気か?」

「そうしないと、この戦争は終わらないもの」

暫し沈黙が流れる。

口を開いたのはアンリエッタだった。

「戦争はお嫌い?」

「好きに見えるか?」

「いえ……でも、あなたはタルブの村で王軍を救ってくれたわ」

「勘違いするな。自分の利益のためだ」

「それから、あの夜、このわたくしも……」

アンリエッタは、顔を伏せて言いにくそうに呟いた。

ウルキオラはあの夜のことを思い出した。

死んだはずのウェールズが何者かの手により蘇り、アンリエッタを攫おうとした夜。

そして、アンリエッタとウェールズのペンタゴン・スペルで腕を飛ばされたこと。

「申し訳ありません」

アンリエッタは、小さな声で言った。

「気にするな」




しばらくして……。

ぽつり、ぽつりと雨が降り始めた。

小さな雨粒が窓を叩く。通りゆく人々が「ち!雨だ!」「降ってきやがった」などの悪態が聞こえる。

アンリエッタは震えだした。

「どうした?」

小さな声でアンリエッタは呟いた。

消えてどこかへ行ってしまいそうな、そんな声だ。

「……お願いがあります」

「なんだ?」

「肩を抱いてくださいまし」

震えるアンリエッタの手から、握った杖が落ちる。

杖は床に当たって、乾いた音を立てた。

「どうした」

「雨が怖いのです」

その言葉で…・・、あの夜も、雨が降り出したことを思い出した。

アンリエッタはその雨を利用し、蘇ったウェールズと巨大な水の竜巻を作りだし……、それでウルキオラを斃そうとしたのだ。

ウルキオラは黙ってアンリエッタの隣に腰かけ、肩を抱いてやった。

アンリエッタはがたがたと震え続けている。

「お前……」

「私のために……、何人も死にました。……私が殺したようなもの。わからない。私にはわかりませんわ。一体どうすれば赦しが請えるのか」

「誰も赦さないだろうな」

「そうですわね。私は……、自分と、私にそうさせた人たちが、そうにも赦せないのです……。雨音をきくと、そんなことばかり考えてしまいます」

アンリエッタは目を瞑ると、ウルキオラの胸に頬をよせた。

ウルキオラの手をしっかりと握りしめる。

雨音につれ、震えが一段と激しくなる。

そこには、王女でも女王でもない、ただの一人のか弱き少女がいた。

誰かがそばにいないと、立つことも出来ないような。

だが、冠を被らされている。

戦争を指揮する杖を握らされている。

哀れなものだと思った。 
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