真田十勇士
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巻ノ八 三好伊佐入道その一
巻ノ八 三好伊佐入道
一行は清海の案内を受けて彼の弟である三好伊佐入道が修行しているという寺がある山の前に来た。
その山の入口に来てだ、望月が清海に顔を向けて言った。
「この山のことはわしも聞いていたが」
「うむ、大層な山でな」
「並の険しさではないぞ」
「しかも獣に蝮も多いのう」
「とんでもない山ぞ」
「山伏も修行に入りにくいまでにな」
「相当な山じゃ」
その険しさがというのだ。
「御主の弟はこの山で修行を積んでおるのか」
「修行は厄介な場所でこそすべきと言ってな」
「それでか」
「この山にある寺でな」
「修行を積んでおるのか」
「そうじゃ、日々な」
「本当に御主の弟か」
望月はここまで聞いて首を傾げさせた。
「自らこの様な難しい場所に入るとは」
「それはどういう意味じゃ」
「言ったままじゃ、御主は修行は好きか」
「力を使う修行は好きじゃ」
「自ら好んで難しい場所に入るか」
「そこに美味いものがあればな」
「なければどうじゃ」
「入る筈がない」
きっぱりとだ、清海は言い切った。
「美味いものが食えぬ場所には行かぬわ」
「そうじゃな、だからじゃ」
「わしがこの山に入るかどうか」
「そうしたものがなければ入らぬ」
その美味いものがというのだ。
「絶対にな」
「そうじゃな、しかし御主の弟は違うな」
「あ奴は変わり者でのう」
それでとだ、清海は望月に答えた。
「美味いものも嫌いではない」
「進んで食おうとはか」
「せぬ」
「ほれ、そこがな」
「違うというのじゃな」
「御主と違う」
まさにというのだ。
「そもそも御主生臭ものも酒も気にせぬな」
「そんなものにこだわらぬ」
「見よ、見事な破戒僧ではないか」
「だから弟とは違うというのじゃな」
「まことに同じ親から産まれておるのか」
「父も母も同じじゃ」
「兄弟で違う様じゃな、しかしな」
それでもとだ、また言った望月だった。
「腕は相当にたつのじゃな」
「わしは花和尚の錫杖を使うが弟は金棒じゃ」
「それを使うのか」
「そうじゃ」
その通りだというのだ。
「そして法力も相当なものじゃ」
「御主も法力はあるじゃろ」
「あるがわしはやはり力技に土の術、それにじゃ」
「忍術じゃな」
「そうじゃ」
そういったものの方が得意だというのだ。
「わしはな」
「坊主なのにか」
「しかし弟は違っておってな」
「しっかりと僧侶らしくか」
「相当な法力の持ち主じゃ」
「ならよいがな、とにかくこれからじゃな」
「山に入ろう」
幸村もここで言った。
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