普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【東方Project】編
089―Ex.幻想閑話集
前書き
閑話です。
<とある半妖少女の道中録>
SIDE シホ
真人が〝月〟に行ってから100年と少し。私は大したアテも無く、退魔師の真似事をしつつ路銀を稼ぎながら各地──津々浦々を彷徨いていた。……この論調で、もう既に判るかもしれないが私は〝月〟には行かなかった。と言うのも真人が紫から〝月攻め〟の話を勧持ち掛けられた時の一幕の後の、真人からの言動が原因だった。
―シホは待っててくれ。〝月〟へは行くが、紫達〝大隊〟とは別行動を取るつもりだ。……シホに何かが有ったらあの世で大治さん──シホのじいさんにドヤされそうだ。……恨んでくれても構わない、だから…悪いな──“ラリホー”―
息が掛かりそうなほどの至近距離。真人の声を聞いていたら、急激な眠気に意識を保つ事が出来なかった。……その後、目が覚めたら全て終わっていた。
幽香の家で目を覚ました私に、紫は〝月攻め〟の顛末を詳らかに語ってくれた。……結果は惨敗。〝月の兵器〟とやらに、十把一絡()げ、鎧袖一触と、紫が率いていた大隊は殲滅されたらしい。
……問題は撤退時。殿は、なんと真人が務めたらしい。……真人を殿に、すごすごと妖怪達は地上に撤退してきたそうだ。
ちなみにこの時──真人が殿を務める事になった時のことを声を弾ませながら語る紫に苛ついたので、“鉄砕牙”の峰打ちで叩いた私は悪くない。……別に紫が真人にどんな感情を抱いていようが最終的に決めるのは真人なので、〝そんな事は〟どうでも良かったのである。
閑話休題。
紫から真人の顛末を聞いた時、全身から力が抜けた。……見れたものでは無かったとすらも思う。……立ち直れたのはミナ──真人の使い魔から、〝真人は健在であるのは間違いない〟と言われた時からだったか。
「あっ、村だ。……日も落ちそうだから、今日はあの村に厄介になろう」
先ほども軽く触れたが、私は〝人に仇為す〟──もとい〝話が通じない〟妖怪を狩っては、各地を転々としている。……早い話が真人の真似である。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「くぁ~~…。……んん?」
夜も更けた頃。虫の知らせみたいなので目が覚めてしまった。
因みに、寝ている場所は村の空き家。村長に〝袖の下〟を渡したら快く案内してくれた。真人が言っていたことではないのだが、〝金は天下の回りもの〟とはこういう事を云うのかもしれない。
閑話休題。
――「妖怪じゃぁぁぁあ!!」
虫の知らせの正体が発覚した。妖怪だった。寝ているところを起こされたので、言うまでも無く機嫌は急降下している。……もしも今の機嫌を数値化出来るならば、その数字は面白いくらいに目減りしていってるだろう。……それも、現在進行形で。
「嬢ちゃんも逃げなっ!」
気の良い人が態々私の借りていた家まで起こしに来てくれたので、機嫌の急降下は終わった。……多分この人が来なかったら、私を起こしてくれた下手人──妖怪は、問答無用で八つ当たりの如く惨殺していたかもしれない。
(それにしてもこの妖気…)
起こしに来てくれた人について行きながら、妖怪の妖気について思考を回す。……私との多寡を比較してみると、とある事が判明した。
「強い…」
僅かではあるが、彼の妖怪の妖気は私の妖気を上回っていた。急降下した機嫌で八つ当たりの如く出張っていたら返り討ちにあっていただろう。……起こしに来てくれた村人に、勝手に感謝しておいた。
――ヒュゥゥゥゥゥ
「直ぐにそこから離れてっ!」
「嬢ちゃん、どうしたんだ──」
――ピシャァァァァンッ!
私の可聴領域に何かが入って来ていて、更に〝嫌な予感〟がしたので、私を起こしに来てくれた村人に直ぐにここから離れる様に言ったが、時既に遅し。一条の稲光が、起こしに来てくれた人を貫いていた。
――「……〝ホネ〟が有りそうな妖気を辿ってみりゃあ、まさかこんな辺鄙な村に〝混じり〟が居ようとはなぁ…」
漸く止んだ目も眩む様な稲光から現れたのは、私より一回り──否、二回りは有りそうな巨体だった。……どうにも、稲妻と共に降ってきたらしい。……残念だが、私を起こしに来てくれた人はもう事切れている──いや、それだけならまだ良い方だったか。……その人は目も当てられない状態になっている。
「……なんでその人を殺したの…? 大切にしていた酒でも奪われた?」
「はんっ、そんな愉快痛快な訳など在りはせん。人間なぞ掃いて捨てられるほど居るのだ。……故に、ここらで──〝村1つ分程度〟なら間引いても罰は当たりはせんだろ」
「……ふぅん…?」
私の中で、ちりり、と何かが灯った気がした。……もしこれが〝食べる為に2~3人殺した〟──とかだったりしたら、私は大して目くじらを立てるつもりは無かった(これは妖怪側の目線だが)。……しかし、この妖怪がやっているのは無為なる虐殺。
(〝間引き〟? ……クソ喰らえだね)
本当に人間を間引きたいなら、京にでも行けば良い。……つまりこの妖怪は〝ごっこ遊び〟がしたかったが為にこの村を襲いに来たのだろう。
「……むっ、よくよく見れば、〝混じり〟とは云え中々の器量ではないか。……娘、俺の夜伽の相手になるなら生かしておいてやろう。……どうだ?」
「……私には心に決めた人が居る。それともう1つ…」
佩刀していた“鉄砕牙”を抜き放ち、更に妖気を与えて巨大化させる。
「……寝言は寝ているから許されているんだよね」
「だったら手足をもぎ取り〝達磨〟してから〝殺して下さい〟と言われるまでなぶるだけよ! 覇っ!!」
私の挑発に乗った妖怪は、〝常人〟の目には留まらないだろう速さで肉薄してきて、その凶腕を私の右足の付け根を目掛けて振るってきた。
「……確かに速い。……でも、それだけだね」
私は振り下ろされきた腕を難無く避ける。……もちろんの事ながら私は〝常人〟には能いしない。先にも眼前の妖怪が態々説明した通り、私は〝混じり〟である。そして、〝もっと速い生き物〟──〝升田 真人〟を私は知っているのだ。こんなただ単に振り下ろされた攻撃当たったら、〝真人〟の面汚しになってしまう。
「ふっ!」
「がっ…!」
振り下ろしを避けたその体で、がら空きになっていた脇腹をばっさり、と“鉄砕牙”で斬りつける。……苦悶の声をあげているのだから、私の攻撃は効いているらしい。
「ぐぅ…! が…っ!」
私は連撃を止めず、苦悶の声をあげた妖怪に1つ…2つ…3つと、傷を負わせていく。
「この小娘が──が…っ!?」
――ボグン!
妖怪が口から妖力波の様なものを放とうとしてきたので、妖怪の顎を左膝で無理矢理閉じさせ、妖怪が放とうしていた妖力を、妖怪の口の中で暴発させる。……すると、小気味の良い音と共に鼻から煙が出てきた。……敢えて言おう、滑稽であると。
「あ゛ぁぁぁ! 〝まひり(混じり)〟のぶんあい(分際)でぇぇぇ!」
舌が先ほどの自爆で灼けたらしく、呂律の回っていない罵倒を投げてくる。……その時、私の頭上に妖力の高まりを感知した。まだ何かをするつもりらしい。
(一体何を──っ!?)
――ピシャァァァァン…
私の頭上に妖力の高まりが最高潮に──〝それ〟が弾けた瞬間に後ろに跳躍して避ける。……〝それ〟は先ほど村人を殺したのと同じ稲妻だった。……否、〝同じ〟と云うのは語弊があった。……違いがあるとするならば、勢いと威力が段違いに低くなっている事か。
「……さて、もう言う事も無いよね。……あ、〝もう人間を殺さないから生かしてくれ〟──とか、出来もしない事は言わないでね。……そう云うヤツは私が背中を見せた瞬間に襲ってくるのが判りきってるから」
「ぐぅ…」
……もちろん、私が今もこうして生きているから判るかもしれないが、そんな輩は悉く“鉄砕牙”の錆にしてきた。……畳み掛けるような一方的な通告に、妖怪から出たのは〝ぐうの音〟だけだった。
(“風の傷”は村に損害が出るか…)
〝それなら〟と、私は“鉄砕牙”を両手に持ちながら妖怪を見る。妖怪の、そのぎょろり、としていた目は既に久しいみたいで、その双眸には〝怯え〟の色がありありと見てとれた。
「怖いの…? ……でもそれが今まで無為に殺されてきた人間が貴方に抱いていた感情だよ。……“金剛槍破”」
もしも今が昼間だったら、煌々と、光を乱反射させて綺麗な槍になるのだが、生憎と今は丑三つ時とも云って良い時間帯。何も面白みも無く、私の放った槍は妖怪を貫くだけだった。
「さて…」
――ドクンッ!
村人達への説明文を考えながら黄昏ようと、“鉄砕牙”を納刀しようとした時、“鉄砕牙”大きく脈動した。……“鉄砕牙”には〝倒した妖怪の能力──または妖気を奪える能力〟が有って、“鉄砕牙”的には今回の妖怪の妖気は、〝奪うに価する〟らしい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「はぁ…」
結局あの後は村人達にもみくちゃにされた。〝嫁に来ないか〟とかも言われたが、最終的に私が〝混じり〟であると明かしたら村人達は手の平を返す様な態度になった。……いつもの事である。
〝妖怪〟と〝人間〟の間の溝は深い。……ならば、〝妖怪〟と〝人間〟──両方の気持ちが判ってしまう〝混じり〟はどうすればいいのだろうか…。……この悩みの解答例──〝妖怪と人間が共存出来る世界〟の事を紫から聞いたのは十数年後の事だった。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
<【幻想郷縁起】>
SIDE 升田 真人
「本日はお越しいただき誠に有り難く思います。……あ、まだご紹介がまだでしたね。私9代目≪阿礼乙女≫、稗田 阿求と申します」
【白玉楼】で見た卓とはまた違った趣の有る卓を挟んでの向こうで、霊夢や魔理沙よりもいくらか年下の少女が慇懃な──それがまた〝嫌味〟にならない程度には似合っている態度で礼をする。
……何で俺が稗田 阿求と対面しているのかと云うと──早い話が、〝幻想郷〟に来て漸く腰を落ち着けた頃、稗田家にお呼ばれされたのだ。……どうにも、俺と話してみたかったらしい。
「……で、貴方は一体何が出来るのですか?」
「……は?」
〝もっと気軽にしてくれ〟みたいな流れになった後、卓の上に巻物を開きながら彼女はいきなりそう宣った。……いきなりな──主題の抜けた設問に、アホ面をさらしてしまっている俺は悪くないと思いたい。
「……あ、私、著名な人間や妖怪について纏めた書──【幻想郷縁起】と云うの書物を認めてましてね。……そしてその書物には人間や妖怪の〝能力〟について纏めている項目ありまして…」
「で、それで先ほどの質問ね」
……困った質問だった。寧ろ〝なにがしたくない〟かと訊かれた方が気楽だった。……なんなら、限定的な条件は有るが〝死者の蘇生〟すら可能であり──それくらいには、俺の出来る事は多岐に亘る。
……さすがに事細かに説明していたら日が暮れるどころの話ではないののあって、いくらか抜粋して俺の出来る事について阿求に説明する事にした。……説明していたら良い時間になっていたので、その日はお開きとなった。
SIDE END
――――――――――――――
升田 真人
Masuda Makoto
職業:英雄兼【満足亭】店主
能力:“ある程度の事は何でも出来る程度の能力”
住んでいる場所:【人間の里】
本来なら〝英雄伝〟に載せるのは【人間の里】に住んでいる以外の人間だが、特例としてこの人間(※01)も〝英雄伝〟に載せる事とした。
外の世界からやって来たと云われている(※02)人間で、〝現人神〟である。運が良かったのか、妖怪に襲われずに【博麗神社】までたどり着けた。そして〝外来人〟にしては非常に珍しい事(※03)に、〝幻想郷〟に定住していて融和している様である。
※01――人間?
※02――その割りには八雲 紫(前述)や風見 幽香(前述)等との、以前からの交流は有った模様。
※03――大抵の〝外来人〟は「元の場所に戻せ」などと喚き散らして、元の世界に帰されて行く事が多い。
<現人神>
人の身で在りながら、〝神〟の域に至ってしまった者を〝現人神〟と呼ぶ。彼の場合は〝月面戦争(※04)で殿を務めて生還した〟という偉業が切っ掛けで信仰される様になったらしい(※05)。
※04――【八雲 紫】の項を参照。
※05――なので、信仰されるのは専ら妖怪からである。
<能力>
文字通り[ある程度の事は何でも出来る](06)。本人曰く「〝何がしたくないか〟を聞いてくれた方が早い」との事。なので、私がいくつか彼から〝出来る事〟を聞いたのでそれらを載せておく。
・“想像した魔獣を創造出来る程度の能力”:ある意味で〝生命の創造〟。文字通り[神の御業]である。
・“雷になる程度の能力”:雷を自在に生み出し、それを自在に操る事が出来る。〝人型の雷〟にもなれるらしい。
・“好きな時好きな場所に居られる程度の能力”:能力の名前そのままで、好きな時好きな場所に居られる能力らしい。曰く「どこにでも居るし、どこにでも居られる」との事。
・“魔法や魔術や呪文が使える程度の能力”:本人が知っている魔法や魔術、そして呪文が使える能力。霧雨 魔理沙(※07)の上位互換とも云える能力。
・“異空間に物をしまえる程度の能力”:異空間にある倉庫に物を仕舞ったり取り出したり出来る。「〝本来〟は伝説級の武具とかが入っていたはずなんだが…」とは、能力の自己申告(※08)の際にぽろりと溢した彼の言。
・“物体を複製出来る程度の能力”:〝複製〟というよりかは〝保険〟をとっている様である。どちらにしろ複製されているのは間違いない。
・“言葉を実現させる程度の能力”:詳細不明。どうにも、〝有言実行〟を体現した能力らしいが…。
※06――〝死者の蘇生〟から〝留守番〟まで何でもござれらしい。
※07――≪普通の魔法使い≫。前述。
※08――能力については自己申告である。
<【満足亭】>
彼が【人間の里】で開いている定食屋。主に妖怪がごった返している。味は〝可もなく不可もなく〟と云った塩梅らしい。〝不定日開店〟と、真面目に商いをするつもりが有るかは微妙ではある。(※09)
※09――店主本人が「趣味の延長だから儲けは要らないかな」といっていたので商売する気は無いかもしれない。
<対策>
人間なので肩肘を張って対策を練る必要は無い。寧ろ本人はそこらの妖怪なら片手間で追い払えるらしいので、妖怪に追われている時に彼の元に駆け込めば助かるかもしれない。……尤も、【人間の里】で妖怪に追われる様な事は早々無いが…。
――――――――――――――
後書き
【東方】編はこれからもちょくちょくと、各〝編〟が終わった時に閑話を入れるかもしれません。
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