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黒魔術師松本沙耶香  薔薇篇

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28部分:第二十八章


第二十八章

「これもわかりませんが九番目はさらに」
「解決するにはまず発想の転換を」
「どういうことなのかしら」
「どうやら犯人は女性のようですが」
 速水はここで今さっき一枚で占ったカードの結果を出してきた。
「だとすると余計に限られますが」
「この館の中にいる女性」
「生き残っている方や既に無実がわかっている方も含めて」
「確かにそれはかなり限られてきているわね」
「誰だと思われますか?」
「正直今でもまだわからないわ」
 沙耶香は首を少し横に振って述べた。
「ただ、引っ掛かるのは九番目のカードね」
「死神の逆ですか」
「そう、それが一番謎ね」
「ただ、これが最も重要ですね」
「ええ」
 沙耶香も速水もそれは感じていた。
「しかしこれがどういうことなのか」
「それがわからないのよ」
 カードを引いた速水自身ですらわかりかねていたのだ。それだけ意味不明なカードであったのだ。
「このカードがね。何が言いたいのか」
「それに五番目は」
「犯人と関係があるのかも、とも思うけれど」
「犯人とですか」
「あくまで勘よ」
 沙耶香は述べた。
「勘でしか感じないけれど」
「そうですか」
「とりあえず一番の問題はその九番目ね」
「はい」
「これが何なのか、それがわかれば事件は解決に向かうと思うわ」
「わかりました。ではまずは」
「いよいよ最後の一人よ」
「今度は青薔薇ですね」
「何をしてくるのかわからないけれど」
「次の事件を防がないと恐ろしいことになりかねないのはわかります」
「そうね。じゃあ」
「はい」
 沙耶香は部屋を出た。速水はまたカードを引きはじめた。それぞれ捜査を開始した。沙耶香は屋敷の中を歩きながら複数から光が当たるのをまずは利用してきた。
 複数の光が当たればその光の数だけ影が現われる。すると沙耶香はその影が現われる度に放っていったのだ。
「影は多い方がいいわね」
 そう呟きながら。その全ての影で捜査を行うのであった。
 だが本来の影は残した。それは歩きながら後ろに出した。影は次第に色を持ちはじめもう一人の沙耶香になったのであった。
「また私の出番なのね」
「そうよ」
 もう一人の自分に対して言う。後ろは振り向かずそのまま歩く。影が変化したもう一人の沙耶香はその後ろを音もなくついてきていたのである。
「事情はわかっているわね」
「ええ」
 影は答えた。
「ずっと見ていたし屋敷の中も歩いていたから」
「そうだったわね」
 前にも影を飛ばしている。そして今も。だから影もまた全てを知っていたのだ。
「言いたいことはわかってるわ」
「話が早いわね」
「捜査ね」
「そうよ」
 本体の沙耶香が影の沙耶香に対して言った。
「もう後がないわ。最後の薔薇を止めて」
「貴女はどうするの?」
「一つ考えがあるわ」
 そう言ってにやりと笑った。
「楽しみながらね」
「相変わらずね、それは」
 影は本体の言葉を聞くとうっすらと笑った。本体とは違う笑みであった。
「じゃあ私はこのまま」
「お願いするわ」
「そして貴女は」
「女の子から話を聞くには鞭はいらないのよ」
 これが返事であった。
「ただ、毒があればいいだけ」
「毒ね」
「そう。このうえなく甘美でとろけるような毒が。それが全てを導いてくれるわ」
「じゃあ期待しておくわ」
 影は最後にこう言った。
「吉報を」
「ええ、期待していて」
 沙耶香は影の本体とも別れた。そして影をなくした身である場所に向かった。そこは医務室の隣にある看護婦の待機室であった。二人いたが一人が犠牲になり今は一人だ。その一人がそこに待機していたのであった。

 
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