英雄は誰がために立つ
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Life13 第一次グレモリー家本邸前防衛戦 収束
前書き
前回のと今回のと次回合わせたら2万字どころではありませんでした。
いやー、あそこで切ってよかった!
グレモリー家本邸前の防衛戦は苛烈を極めていた。
先のヴェネラナの危機を救った士郎から収められた盾は、防御するだけなら非常に強力だが全方位防御では無い為と力量不足により、今現在のリアス達は逆に足手まといになっていた。
ならば再び城内に戻ればいいのだが、ゼノヴィアを迎えに行くためには一刻もこの戦線を収束させねばならないのでその判断も微妙だった。
「クッ!?」
「如何した、銀髪の悪魔よ?動きが単調になっているぞ」
「余計なお世話です・・・!」
魔王級と名高い最強の『女王』と称されたグレイフィアは、敵セイバーに押されていた。
リアスやヴェネラナは勿論、執事達も当初はグレイフィアの力に圧倒される賊の光景を簡単に思い描けていたのに、現実には違う結果になっていた。
「我ら3人を前に、よそ見している暇があるのか?」
「舐められたものだっ!」
「っ!」
此方もセイバーが召喚した3人の猛攻に、ヴェネラナを主軸にしたリアス達が防戦一方になり、苦渋を強いられていた。
「お母様!って、きゃっ!?」
「リアス!」
「部長!」
ヴェネラナが押されているのを心配して、ついよそ見をしたところを敵の攻撃により転倒したリアスに更に追撃が来そうだった。
それに小猫と朱乃は反応して最悪の想像たる、リアスが惨殺されると言う白昼夢を見た気がした。
((此処で目を背けたいモノを使わないで何時使うっ!))
遂に小猫と朱乃は、大切な主または親友を守るために内側に隠していた自分たちの本質を曝け出す決意に至った。
しかし、そうして決意している処で犬飼健はリアスを切り殺す為に、刀を振り降ろそうとしていた。
「リアス!」
そんな犬飼健に向かって朱乃は、雷を纏った光の力を放つ。
「ぬっ!?」
危機を察知した犬飼健は、バックステップの要領で後方へ引く事で朱乃の攻撃を躱した。
「朱乃!?」
「引きなさい、リアス!」
自分を庇う為に力を開放した朱乃に対して、リアスは驚愕する。
「まだです!」
小猫は、後方に躱した犬飼健に向けて仙術を籠めた八極拳の基本の型の掌底をぶつける。
「ぐっ、ぉおおお!?」
それを慌てて刀の平で防ぐも、犬飼健はあまりの威力による衝撃で吹き飛んだ。
しかし、小猫の行動は悪手だった。
敵の隙を狙っていたのか、気配を消していた留玉臣がいきなり小猫の真横に現れながら刀を振り降ろそうとしていた。
それによりすぐ反応する小猫だが、宙に浮いている為躱せない。悪魔の羽もあるだろうが、羽ばたくだけの空間と時間も無いのでどちらにしても無理だ。
「小猫っ!」
「小猫さん!」
小猫の窮地に対して魔力弾と雷を放とうとするも手遅れだった。
ある一手以外はだが――――。
「うわぁあああああ!!?」
「!?」
『!?』
留玉臣は自分の眼前に迫って来るモノ、大剣を前に突き出しながら飛び込んで来る青い髪をした少女――――ゼノヴィアに驚愕した。
それに遅れてその他も驚く。
一番驚いているのは、何故かこの場に居て留玉臣目掛けて突っ込んでいるゼノヴィア本人だが。
詳細については、このグレモリー家本邸前に着いた数秒前のモードとゼノヴィアだった。
此処でも襲撃を受けていたのは理解していた所で、敵に斬られる寸前の小猫を眼にしたモードはすかさず剣を前に出せとゼノヴィアに指示をした。
ゼノヴィアは訳も分からないままではあるが、この白銀の魔剣士ならぬ暴風が一応の味方であることは理解していたので、よく解らない指示ではあったが従った。
指示に従ったゼノヴィアに向けて『頑張れ』と、イマイチよく解らぬ励ましをしてから、小猫を斬りかからんとしている留玉臣目掛けてあろう事か投擲したのだった。
勿論、ゼノヴィアを。
そうして今に至ると言うわけだった。
留玉臣は鳥が空から地上に向かい急降下した上で獲物を狩る様に、地面から離れて跳躍してから切り伏せる型を好んでいる。
そして今現在もそれの為、宙に浮いている様なモノであり、防ごうとも踏ん張る事も出来ずに結果として文字通り吹き飛ぶ。
しかもゼノヴィアの質量+投擲された事による加速が合わさって、少なくともグレモリー家本邸の周りを取り囲んでいる魔獣の群れの外側まで吹っ飛んでいった。
「あぐっ!」
そして投擲されたゼノヴィアは、前のめりにだがなんとか着地した。
そんなゼノヴィアは振り返って自分を投擲した元凶を探して見つけた。
抗議をするために、睨み殺すような眼つきを叩き付けた。
ゼノヴィアの帰還に驚いた一同は彼女に質問したい処だったが、あまりの剣呑さに一旦諦めて彼女の視線を追った。
そこには白銀の魔剣士がいた。
「投げるなんて、酷いじゃないですか!下手したら死んでますよ、私!?」
「大丈夫だって、計算したんだから!それに結果として生きてるし、お仲間も助けられたんだ。寧ろ感謝してほしいぜ?」
「悪気の欠片も見せないどころか、礼の要求!?なんて人だ・・・!」
握り拳を作りながら歯ぎしりをするゼノヴィアの姿は、ぐぬぬと言う声を漏らしそうなくらいに憤りを見せていた。
周りと言えば、ゼノヴィアを投擲したであろう白銀の魔剣士の声音が意外にも女性だと分かった事と、立ち振る舞いから相当な手練れだと判断出来る位だった。
そしてグレイフィアと対峙している敵セイバーだけは、表情にこそ出さないが心中は焦りと憤りに満ちていた。
(何故、ゼノヴィア・クァルタが此処に居るのや!?いや、此処に居ると言う事はレヴェルとアサシンの奴らはしくじったか!?情けなし!)
これほどの大規模作戦を企画立案しておきながらこの様とはと、敵セイバーはレヴェル達を心中で罵倒し続けていた。
(こうなれば私自らで捕えた後に、ライダーに献上する以外に他になし)
「ハァアア!!」
「っ!」
心中で決意した敵セイバーは、グレイフィアの魔力弾を剣で捌きながら魔力放出のブーストにより強烈な蹴りを放った。
その蹴りを瞬時に防いだグレイフィアだったが、真後ろから来た楽々森彦からの奇襲を受けてさらに防戦する羽目になる。
別に口裏もアイコンタクトもした訳では無いが、絶対の信頼のある部下であり宝具の一部に後を任せて、自身はさらに魔力放出のブーストにより加速し長らゼノヴィアに迫る。
ギィッン!!
「何と!?」
「ハッ!」
しかしながら白銀の魔剣士にその行動が読まれていたようで、ゼノヴィアに向かっていた敵セイバーの突進に対して正面から剣をかち合わせてきたのだ。
しかも読んでいたのを隠そうともせずに、禍々しい兜の下から敵セイバーを嘲笑うような喜声を出した。
剣を切り結ぶも全て防ぎきられたので、一旦後ろに下がろうとすると、目の前の白銀の魔剣士が指先を地面に入れて何かを持ち上げる様に振り上げた。
「!」
モードが降り上げる様に持ち上げた上で敵セイバーに向けたのは、地中に埋まっていた岩だった。
それを眼前に突き付けられた敵セイバーは瞬時に岩を両断する。
その岩を両断した瞬間、岩の上から何かが飛び出して来た。
(見縊られたものだっ!)
それを白銀の魔剣士であると判断した敵セイバーは、跳躍して斬りかかろうとした処で自身のミスに気付いた。
岩の上から飛び出して来たのは白銀の魔剣士たるモードでは無く、その魔剣士の振るっていた西洋剣だったからだ。
当の本人は、タイミングを見計らった所で宙に投げ出された岩を陰にして横合いから飛び出て来たのか、敵セイバーの真下に居た。
この魔剣士は、当然今は得物を持っていないので無力と言うのは一般的な剣士の模範的な考え方だが、修羅場の数々を踏んできた猛者や歴戦の戦士などはその枠には当てはまらない。
モードは敵セイバーの片足を掴んだその場で投げた。
「オォオオラアッ!!――――押し込め!」
投げ出された敵セイバーは見事着地したところで、自分の代わりにグレイフィアと対峙していたはずの楽々森彦が真横に着地して来た。
見れば、敵の膨大な魔弾の雨を捌き防ぐために此処まで押し切られたようだった。
先程の魔剣士の押し込めと言う言葉はこの事だったと、敵セイバーは瞬時に理解した。
しかし何故と言う疑問符が頭を過ぎると、楽々森彦とは逆側の真横から犬飼健が着地して来た。
「申し訳ありませぬ!拙と周りの獣たちを含めまして、姿を見えない弓兵の弓矢に苦戦させられておるのです」
犬飼健は、自分が忠を誓った相手に言いわけするなど恥さらしもいいトコだったが、自身の今の状況を報告しないワケにもいかなかった。
「弓矢?」
自身の部下であり宝具の一部たる犬飼健の言葉に周りを見回すと、この周辺を囲っていた魔獣たちが何所からか来る弓矢によって次々に屠られていくのが見て取れた。
「っ!」
しかし、狙撃手である弓兵の居所を探っている暇は敵セイバー達には無かった。
背後を振り向くや、自分を投げた魔剣士の構える西洋剣から歪なれど強大な魔力を感じられた。
その魔剣士はもう片方の手で兜を取り、何故か脱ぎ捨てた。
そこに現れたのは、ナチュラルゴールドの髪にシニヨン風に縫い付けた髪型で、最後は何故か雑に赤いバンドで纏めていた野性味あふれる少女だった。
「女・・・の子?」
「・・・・・・・・・」
ゼノヴィアとしても、魔剣士に素顔は声音から女性だと分かっていたが、自分と同じくらいの少女だとは思わなかった様で驚きつつモードにとっての禁句を吐いてしまった。
そんなゼノヴィアの言葉に対してモードは、今すぐ抗議したかったがそれは後にした。
彼女は両手で得物である燦然と輝く王剣を構えた。
モードは自身の最強宝具を開放するために、鎧型宝具である不貞隠しの兜の能力を解く。
『!?』
モード自身の最強宝具の解放の前兆として、彼女中心を一帯が血に染まっていく。
敵味方問わず、この事に大いに驚く周りの者達。
そしてモードの得物である燦然と輝く王剣の形状に変化が現れ、白金の剣は魔剣すらも可愛く思える程の歪極まりない位の禍々しい赤いオーラに刀身が覆われる邪剣へと変貌した。
その邪剣を目にしたゼノヴィア達は、あまりの歪なオーラに片足を無意識に一歩ほど後退させるほどだった。
それを少々距離が離れている地点で見せつけられていた敵セイバーは、直感を働かせなくとも不味いと悟らせられてその場から逃げようとするが、いつの間にかに周りを魔獣たちで埋め尽くされて逃げ場がない事に気付かされた。
「何だこれは!?」
「何時の間に!」
敵セイバー同様に、魔剣士の邪剣に意識が集中し過ぎていたせいで、周りの変化に気付けなかった犬飼健と楽々森彦が今更になって慌てだす。
何故このような窮地に陥ったのかと、ふと空を仰ぐことで理解できた。
「あの矢かっ・・・!」
敵セイバーの視線の先には、自分たちの制空権を支配するかのような矢の雨が降り続いていた。
如何やら魔獣たちは、この矢による攻撃で威嚇されながら自分たちを囲むように誘導されたらしい。
「ずいぶんと余裕が有るじゃねぇか!」
『!?』
自分たちにそんな投げかけをしてきたのは、口を野性的な笑みを浮かばせて獰猛な瞳を滾らせている敵の魔剣士だった。
確かに、今は現状の原因究明に目を彼方此方に向けている場合では無かったと、反省した敵セイバーだったがもう手遅れだった。
魔剣士の邪剣のオーラは最大限まで増幅されており、爆発寸前の爆弾同然だった。
「だったらこの一撃、受け切って見せるんだなぁ!我が麗しき――――」
「クッ!」
「――――父への叛逆!!」
生前に、王に相応しき剣と言う理由から盗み出した王剣と、憎々しい父王への反逆心が合わさり宝具へと昇華したモードレッド自身中最強の力の結晶が、赤い暴虐へと変貌したまま敵セイバー達に襲い掛かった。
-Interlude-
時は少し遡る。
モード+ゼノヴィアの奇襲?攻撃により、かなりの距離まで吹き飛んでいった留玉臣は、勢いよくもなんとか着地してから直に戦線復帰しようと全速力で戻った時見た光景は、自身の主の窮地であった。
敵の魔剣士の邪悪な剣から、歪なれど強大なオーラが自身の主に放たれようとしていた処で留玉臣の行動は速かった。
モードが敵セイバー達に自身中の最強宝具を放った直後に、躊躇いなく両者の間に瞬時に入り敵セイバー達を庇う様に赤い叛逆を受ける。
「グッォオオオオオォオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
留玉臣は主の宝具となった時に感じた、自分の中の異物であった因子を開放させた。
その因子により変化は一瞬にして留玉臣を、雉を連想させる様な大きな鳥の幻想種へと変貌した。
セイバーの宝具である彼らは、自身の主の了承を取れば約7日間に一度だけ幻想種へと変貌して力を倍加させることが可能だった。
主であるセイバーの了承を取らなくても可能ではあるが、その場合7日程から1月位へと期間伸びると言うリスクが発生する。
しかし、今は後さき考えている場合では無かった。
『留玉!』
「臣っ!?」
自分達を覆う様に敵の赤い暴虐から庇う同胞に、セイバー達は思わず叫ぶ。
「オオオオォオオオオオオオァアアアアオオオオオオオ!!!」
(若、如何かお逃げ下さい。此度の戦況は覆しようがない程、我らにとって不利にございます!)
「臣・・・」
声にして語れぬ代わりに、頭に直接念話を送り自身の主へ戦略的撤退を奏上する。
「オオオオオオオオオォオオオオオ」
(死ななければ、何れ時も来ましょう。ですから如何か、如何か!)
「だ、だが・・・」
此処までの規模の作戦に、今もこうして我が身を賭して自分たちを庇う信頼すべき家臣を犠牲にした上で成果なしなどと、到底許容できる筈も無かった。
しかし上官は兎も角、同じ位の者達は留玉臣の決死の行動と必死の奏上に共感して決意した。
楽々森彦は、主の背後で一瞬にして巨大な猿型の幻想種へ変貌した。
「――――失礼いたします、若」
「森彦、何を!?」
主であるセイバーの驚愕を無視した上に、問答無用で片腕で身動きを取れなくしながら抱え込んだ。
それに続くように犬飼健は、犬・・・と言うよりは狼型の幻想種へと変貌して控えるように立つ。
(長くは持たぬっ!早く・・・)
「――――オオオオオオオオォオオオ!!!」
「降ろさぬか森彦!」
「任せておけ、若は必ずや無事に連れて帰る」
「・・・・・・」
そう最後に留玉臣へ一瞥してその場を飛び立つように去る一行。
(頼んだ・・・・・・ぞ・・・)
「――――オオオオオォォォォォォォ・・・・・・・・・」
役目を果たしたかのように力尽き、魔力の滓へと還って往った。
最後に彼の目に移った幻想は、懐かしき主との冒険の日々の情景であった。
-Interlude-
モードが、敵セイバー達に宝具である我が麗しき父への叛逆を解き放った光景を見て、戦闘慣れをしているヴェネラナとグレイフィア以外のメンツは皆、規模と威力に目を奪われていた。
そんな中の一人であるゼノヴィアの耳に、モードからの声が通った。
「おいっ!そこのパワー馬鹿」
「パワー馬鹿!?私の事か!」
確かにモードはゼノヴィアに向けてパワー馬鹿と言い放ったが、それで誰よりもいち早く反応すると言うのも考え物である。
「ハッ、自覚してんじゃねぇか。それよりさっき、オレの事を『女の子』とぬかしやがったな?」
「んん?それの何がいけないって言うんだ・・・」
「二度と言うなよ。次言われたら、自分を押さえられなくなる。いや、出来るがする気は無い」
「っ!」
モードからの殺気を受けたゼノヴィアは、顔を青ざめる。
士郎と親しげにしていたので、味方かと思いきやこれだった。
「ちょ、ちょっと待って!」
それをすかさず主であるリアスが間に割って入って来る。
「この子は私の大事な下僕なのよ。如何か、許してあげて!」
「二度と言わなきゃいいってだけだ。忠告・・・・・・いや、警告的な意味合いとしてな」
リアスの必死ぶりに当てられたかは判別できないが、あっさりと殺気を収めた。
「それ以前に結局、貴方は何所の誰なのかしら?助けてくれたことには感謝しますけど」
そこで根本的な質問をヴェネラナが投げかける。
モードの出現時は、非常時+強力な力で自分たちを援護してくれる存在と言う理由から問わなかったのだ。
「士郎さんの知り合い・・・だそうです」
「あら?士郎さんの?と言う事は、先程から周りの魔獣たちを殲滅している弓矢は、士郎さんのモノかしら?」
「はい、そうだと思います。援護に回ると言って、私とそこの・・・・・・人を送り出しましたから」
ゼノヴィアは一拍置いてからモードを指さした。
「含んだ言い方だな?」
「だったらせめて名前を教えて欲しいのだが・・・?」
「あー?そういやぁ、名乗って無かったな。――――モードだ・・・って、あっ!」
「な、何だ?」
ゼノヴィアは、名前を聞いただけなのにまた殺気を向けられると思い身構える。
「そういやぁ、弓矢による狙撃で援護するとか言ってただろ?ならあの時お前を投げる必要なかったなぁと、思ってな!」
モードの言葉をそのまま聞いたゼノヴィアは、相槌を打つようにそう言えばーと頷くが、そこであることを思い起こした。
「!?――――そうだ!だったらどうして私を投げたんだ!?まさか忘れてたのか!?」
「・・・・・・・・・・・・そういやぁ、中々晴れねぇな。魔力籠めすぎたか?」
「こらっ!誤魔化すな!忘れてたんだな!?忘れていたんだな!」
最早確信的に詰め寄るゼノヴィアに、モードは煩わしそうに横目で見る。
「そこの銀髪のお仲間を助けられたんだから、いいじゃねぇか?」
「又しても開き直るだと!?」
モードの応対と理不尽さに、またも怒りながら驚く。
そんなゼノヴィアが憤っている時に、モードの頭に響くモノが有った。
「ん?――――何?・・・・・・・・・ちっ」
「ど、如何したんだ?」
憤っているのは自分の筈なのに、何故か突然不機嫌さを露骨にしだしたモードに対して又も身構える。
「敵が逃げやがったんだと」
「何!?」
「貴方のあの一撃を受けて、無事だったと?」
ゼノヴィアの疑問を引き継ぐ形でグレイフィアが訝しむ。
「そこのパワー馬鹿が吹っ飛ばした奴が、オレが放ったモノとの間に入って庇ったんだと」
「私を投げたのはアンタだがな!」
「しつけぇなぁ、そんなんだから士郎の奴に構ってもらえねんだろ?」
「それとこれとは関係ないだろ!――――って、待て!?アンタは士郎さんと普通に念話が出来るのか?」
ゼノヴィアの記憶では、士郎は普通の念話も出来ずに自分の考えを相手に伝える位しか出来ないほど残念だったはずだ。
「あん?そりゃーまー、なんつうか・・・・・・・・・アイツにとってオレ(達)が特別だからな」
「・・・・・・・・・え?」
モードの特別と言う言葉をゼノヴィアは、頭の中で反芻させる。
――――特別ーーー、特別ーーー、特別ーーー・・・・・・・・・恋人・・・・・・・・・!?!?!?
如何やらいつもの恋煩いが発生したようだ。
「――――な・・・んだ・・・・・と・・・!!!」
――――まさか、女呼ばわりを禁じたのは『私を女扱いしていいのは士郎だけだ!』とでも言いたいのか!?
妄想がふつふつと暴走しだしたゼノヴィアの脳内では、お互いに爽やかな笑顔で話を弾ませている士郎とモードのヴィジョンが現れた。
ヴィジョンは切り替わり、2人は腕を絡めながら様々なデートスポットで満喫しながらラブラブ空間を築いているのが浮かんできた。
さらにヴィジョンは切り替わり、2人ともベッドの上で両手を重ね合わせて士郎がモードに覆いかぶさるように、そのまま―――――。
「・・・・・・・・・はっ!?―――――クッ!!」
漸く現実世界に戻って来たゼノヴィアは、心底悔しそうにデュランダルを持っていない方の手を強烈に握る。
勝手な妄想による暴走で、モードを親の仇を睨み殺すような目線を送る。
奥歯を噛みしめるゼノヴィアの口からは、ギリィッッ!などと言う強い歯ぎしり音をさせる。
当のモードはよく解らないが、不興を買ったなどと理解した上でだから何だと考えて無視した。
モードからしてみればゼノヴィアは、漸く戦場のせの字を知ったばかり程度のルーキーぐらいにしか思っていなかった。
ゼノヴィアとしては相手にもされていないモードの態度に、ますます反感と妄想を募らせる。
そんな時、パスを通じてまたも士郎から念話が送られた。
「・・・・・・・・・・・・は?ああん?――――って、ちょっと待て!コラ!!お前だけで行く必要はないだろうがっっ!聞いてんのか!―――って、切りやがったな!?」
「如何したの?」
いきなり騒ぎ出すモードを見て、妄想からの暴走中のゼノヴィアの代わりにリアスが聞く。
「如何したもこうしたも!士郎の奴、弟分の・・・・・・一誠っつたか?あいつの下に救援に行くってよ。しかも1人で・・・」
「救援?何故かしら?」
「解んねえのか?――――っても、士郎も今気づいたらしいが、此処も含めて様々な場所で騒ぎになってるのに、如何して一誠と龍王は此処に駆けつけてこないんだ?」
『・・・・・・・・・・・・って、あっ!!?』
モードの言葉に皆が思い当った。
「そう言う事だな。何らかの罠か結界により来れなくされてるか、龍王の足止めが可能な敵の襲撃を受けているかのどちらかだろうよ。それに気づいた士郎の奴は1人で向かいやがった。しかもこのオレに此処の護衛してろだとよ・・・!」
最後はまるで、吐き捨てるように説明を終える。
モードの説明に直に救援を送ろうとか、だがここの警備や魔獣の残党狩りは如何するんだとか、様々に意見が分かれる。
そんなやり取りを無視してモードは、士郎が向かった山へ視線を送る。
「士郎の奴・・・・・・アレを使う気か?」
モードはため息をつきながら、視線を山へと向け続けた。
因みに、ゼノヴィアは絶賛妄想爆走中で、モードの説明も聞かずに睨み続けるか妄想を続けるかのどちらかに浸り続けていた。
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